ノート:セツブンソウ属
覚え書き
[編集]素人目で見ると、シベリア以東産のものとそれより西のものとが同属であるというのがどうにも腑に落ちない。ここでいう「シベリア以東産のもの」はセツブンソウ(Eranthis pinnatifida Maxim. (1876))、E. sibirica DC. (1817)、チョウセンセツブンソウ(E. stellata Maxim. (1859))、「それより西のもの」はキバナセツブンソウ(E. hyemalis (L.) Salisb. (1807); 主にヨーロッパ南部産)や E. longistipitata Regel (1870)(西アジア産)の事を指す。
シベリア以東産のものは Erst et al., PhytoKeys 140: 75–100 (2020) に図6として複数種の写真が掲載されているが、一見して花弁に見える萼片は白色で、本当の花は白く二叉となり、先端に黄色い膨らみが見られる。
一方、それより西のキバナセツブンソウはこの画像の様に全体が黄色であり、花本体もこの様に先端が僅かに二叉となっている……と共に、ウツボカズラ類の補虫袋の様な穴が見られる。シベリア以東産のものにも一応見られるが、生物の分類においては色味ではなく形態が重要であるという事を踏まえてもなお分かりにくいので、可能であれば2つのグループの種の花部分を強調したスケッチ画像を比較のために用意したいところである。
この属はリチャード・アンソニー・ソールズベリーにより設けられたもので[1]、タイプ種はキバナセツブンソウである。つまり、歴史的にはシベリア以東産の方が後から同属として置かれたという事である。IPNIで確認できる限り、シベリア以東産のもので最も早くこの属の種とされたのは E. sibirica で、上記の Erst et al. (2020: fig. 6) に写真が掲載されている。ここで、その記載者であるオーギュスタン・ピラム・ド・カンドルが原記載文献 Syst. Nat. 1: 315 (1817) で何を思って同属としたのか、可能であればそれが分かるようにしたいものである。なおマキシモヴィッチにより記載されたチョウセンセツブンソウ[2]やセツブンソウ[3]は記載時の比較対象が E. sibirica やそのシノニム E. uncinata であった事が判明している。
さて、Erst et al. (2020) はシベリア以東産のものを sect. Shibateranthis として括っている。この大元となったのは中井猛之進による属区分Shibateranthis[4]で、Eranthis属から複数種がそちらへと組み替えられたが、その中には E. longistipitata も含まれていた。結局Shibateranthisは独立属としては認められなくなったものの、1987年田村道夫(TAMURA Michio)によりセツブンソウ属下の一節とされている[5]。この際に田村は E. longistipitata は同節ではなく別節 Eranthis に属すのではとし、Erst et al. (2020) もこれに倣っている。Erst et al. は節の定義は田村が1995年に改めて行った[6]としており、その内容は私が上記2-3段落目で大雑把に述べた内容と部分的に一致している模様である。加筆を行うのであれば、まず Tamura (1995) の内容を(可能であれば孫引きではなく直接参照して)起点とする形となりそうである。
脚注
- ^ Salisbury, Richard Anthony (1807). “Observations on the Genera of Trollius, Eranthis, Helleborus, Coptis, and Isopyrum”. Transactions of the Linnean Society of London 8: 303 .
- ^ Prim. Fl. Amur.: 22–23 (1859)
- ^ Bull. Acad. Imp. Sci. Saint-Pétersbourg 22: 225 (1877)
- ^ 中井, 猛之進 (1937). “柴田博士ヲ記念スル植物”. 植物学雑誌 51 (605): 364. doi:10.15281/jplantres1887.51.362.
- ^ 田村, 道夫 (1987). “エランチスとシバテランチス”. 植物分類, 地理 38: 96. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00002992239.
- ^ Tamura, M. (1995). “Eranthis”. In Hiepko, P.. Die Natürlichen Pflanzenfamilien. 17(4). Berlin: Duncker und Humblot. pp. 253–255. NCID BA29424738