ノーストリリア (小説)
『ノーストリリア』(原題:Norstrilia)は、コードウェイナー・スミスによる長編小説。1975年発表。「人類補完機構」シリーズの1編である。
日本のSFファンによる星雲賞の1988年(第19回)海外長編賞受賞作品。
概要
[編集]作者唯一の長編小説。1960年に執筆され、1964年に抜粋の形で雑誌に掲載。その後『惑星買収者』(1964年)と『下級民』(1968年)の二冊に分冊され加筆修正されたものが出版されたことがあった。1975年に元来の原稿をもとにしたものが出版された[1]。
2019年に池澤春菜は本作を「平成最後に読むべき本」の1冊に挙げると共に「地球を丸ごと買った少年と魅力的な猫と人両方の特性を持ったヒロインのSF小説」と紹介している[2]。
あらすじ
[編集]冒頭の一文に「1人の少年が地球を買い取って、地球で冒険を重ね、欲しいものを手に入れ、自分の星へ帰りました」とあらすじが紹介されている。
遠い未来、不老不死の薬・ストルーンの産地として知られる辺境の惑星ノーストリリアで一番の資産を持つ「没落農場」の地主の倅で相続人のロッド・マクバン少年(ロッド・マクバン151世、正式にはロデリック・フレドリック・ロナルド・アーノルド・ウィリアム・マッカーサー・マクバン)は他の多くの住民のようにテレパシーを使うことができず、不具者の烙印を押されかけていた。ノーストリリアの決まりで不具者は安楽死させられる制度があった。ロッドは旧式のコンピューターの助けを借りて、安楽死を逃れる方法を模索する。旧式コンピューターの導き出した答えは、ノーストリリアを一時的に破産させて地球を買い取り、地球の人間からロッド・マクバンの欲するものを手に入れることだった。ロッド・マクバンは全財産を先物取引につぎ込み、それで得た利益を元手に地球そのものを購入することに成功した。人類そのものを支配する組織である補完機構との取引でロッドは故郷を逃れ地球へ向かうがそこには彼の資産を狙う者たちと、彼が来ることを待ち望んでいた虐げられし下級民たちが待っていた。
用語
[編集]- ノーストリリア
- 正式名称は「オールド・ノース・オーストラリア(Old North Australia)」[3]。「人類補完機構」シリーズの宇宙で最も裕福な惑星である[3]。2000万%の贅沢税が課せられる。
- ストルーン(stroon)
- サンタクララ薬を精製し結晶化させたもの。人類に不老不死をもたらす。
- サンタクララ薬は、ノーストリリアで飼育されている病気にかかって自重数千トンに巨大化した羊の体内に棲むウィルスから精製されるが、その材料と製法は極秘となっている。
- 下級民
- 動物に人間の姿と知能を与えた存在。市民権は与えられていない。
- 名前の先頭文字が元になった動物を表す。例えばク・メル(C'Mell)は猫(cat)である。
日本語訳
[編集]- 『ノーストリリア』(浅倉久志訳、ハヤカワ文庫、1987.3)
作中で惑星ノーストリリアを紹介する文章は歌のリズムの乗せたように表現されており、大森望は翻訳の名文として自著で紹介している[3]。また、日本語へ翻訳されたSF小説の中でコードウェイナー・スミス作品が「神話的な輝き」を持つのは浅倉による名訳によるものとしている[3]。
出典
[編集]関連項目
[編集]- ケープ植民地の切手と郵便の歴史 - ロッド・マクバンが購入を欲した地球の切手。