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ニトロベンゼン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ニトロベンゼン
nitrobenzene
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識別情報
CAS登録番号 98-95-3
RTECS番号 QJ0525000
特性
化学式 C6H5NO2
モル質量 123.06 g/mol
示性式 C6H5NO2
外観 淡黄色液体
密度 1.199 g/cm3
融点

5.85 °C

沸点

210.9 °C

への溶解度 0.19 g/100 ml at 20 °C
危険性
EU分類 有毒 (T)
Carc. Cat. 3
Repr. Cat. 3
環境への危険性  (N)
Rフレーズ R23/24/25 R40 R48/23/24 R51/53 R62
Sフレーズ S1/2 S28 S36/37 S45 S61
引火点 88 °C
発火点 525 °C
関連する物質
関連物質 アニリン
ベンゼンジアゾニウム
ニトロソベンゼン
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ニトロベンゼン (nitrobenzene) は、有機化合物で、ベンゼン環にニトロ基が置換した構造を持つ。ニトロベンゾール (nitrobenzol)、ミルバン油 (oil of mirbane) とも呼ばれる。黄色油状で甘い味覚がある。有毒で水に溶けにくい。杏仁豆腐のような、あるいは桃を腐らせたような芳香を持つ。日本法における劇物。

反応

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濃硝酸濃硫酸を混合した混酸ベンゼン (C6H6) に反応させて作る。このような反応はニトロ化と呼ばれ、芳香族求電子置換反応の代表例である。混酸中では反応活性種としてニトロニウムイオン (NO2+) が発生している。

ニトロベンゼンをスズまたは塩酸と共に反応させるとアニリン塩酸塩を生じ、これに水酸化ナトリウムを加えることでアニリンが生成する。

他の多くのニトロ化合物とは異なり爆発性はなく、消防法上は第4類危険物(第3石油類)に指定されている。

用途

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主にアニリンおよびその誘導体、例えばメチレンジフェニルイソシアネート (methylene diphenyl diisocyanate, MDI) などをはじめとして、ゴム、殺虫剤、農薬の製造に用いられる。靴や床の研磨剤、革製品の仕上げ剤、塗料の溶剤、不快臭を隠すための製品にも利用される。ニトロベンゼンの置換反応は m-誘導体を得るのに使われる (Mannsville 1991; Sittig 1991[要文献特定詳細情報])。蒸留精製することにより、ミルバン油として石鹸用の安価な香料として用いられる。鎮痛薬のひとつ、アセトアミノフェン(別名パラセタモール)の製造原料としての市場価値も高い (Mannsville 1991[要文献特定詳細情報])。また、非常に大きいカー定数を持つためカーセルに使われる。

生体への影響

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急性症状としてニトロベンゼンの蒸気を吸引したり、皮膚より吸収することで、メトヘモグロビン血症を引き起こし疲労感、めまい、頭痛、吐き気を催す。慢性症状として肝障害を引き起こす。発癌性はIARCリスク評価では動物実験では発癌性が疑われるものの、ヒトでの疫学調査では発癌性が証明できない「ヒトに対して発癌性があるかもしれない」Group 2Bに分類される。

毒性を引き起こさない限界量 (NOAEL) は、1.2 mg/m3(吸引)、0.36 mg/kg/day(経口)と推定されている。

毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている[1]

事故

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2005年11月13日、中国吉林省吉林市で石油化学工場爆発事故が発生し、大量のニトロベンゼンをはじめとする有毒物質が現地を流れる松花江へ流入し、さらに下流であるアムール川に越境流入した。

同24日、ハルビン市にて高濃度のニトロベンゼンが検出され、水道用の取水口に達したことに伴い、水道水供給が停止されたため、数百万人の生活に深刻な影響が出た。また、アムール川下流域のハバロフスクでも警戒が高まり、ロシア政府は24日、アムール川での数年間の魚釣禁止を検討していると発表した。このため中国・ロシア政府間での問題に発展した。 さらに日本でも、北海道オホーツク海地域における水産業や観光業への影響が懸念された。これは流氷が汚染物質を含むアムール川河口でできて流れてくるためだとされた[2]。 その後北海道大学大学院の研究により、松花江の魚の体内におけるニトロベンゼンの含有量は2006年から徐々に減り、2007年に採取した試料ではほぼ影響は見られなくなったとしている。一方で、化学工場近くの排水溝などでは高濃度のニトロベンゼンが堆積していることが確認されている[3]

出典

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  1. ^ 毒物及び劇物取締法 昭和二十五年十二月二十八日 法律三百三号 第二条 別表第二
  2. ^ 平原 かや子「アムール川汚染報道に関する一考察」『環東アジア研究センター年報』5号、111-132頁。
  3. ^ 田中恵理子(2007年、北海道大学大学院環境科学院、修士論文)「化学工場爆発事故後に採取した松花江の環境試料中のニトロベンゼンの量

関連項目

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外部リンク

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  • 田中恵理子、代英杰、林永波 ほか「化学工場爆発事故後に採取した松花江の魚試料中のニトロベンゼンの定量」『分析化学』第58巻第9号、2009年9月5日、807-813頁、doi:10.2116/bunsekikagaku.58.807NAID 10025980217 
  • ニトロベンゼン (試薬) JISK8723:2019