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トロンボテスト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

トロンボテスト(英:thrombotest)とは、血液の凝固機能検査であるプロトロンビン時間(PT)の一種。ワルファリンに代表されるビタミンK拮抗薬による抗凝固療法のコントロールに必要な適した検査法として知られている。1959年にオーレンが考案した[1][2][3]

概要

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プロトロンビン時間(PT)は、細胞が障害された際に放出される組織因子による刺激に対して生じる凝固反応の程度を検出するものである。プロトロンビン時間には、クイック法[4][5][6]とオーレン法があり、一般にプロトロンビン時間といえばクイック法を指す。オーレン法は、その測定方法から別名「prothrombin and proconvertin[注釈 1]」法、略して「p and p」法と呼ばれるが、日本では特にトロンボテスト(TT)と呼ばれている。

本邦においてトロンボテストは、ワルファリンと同時期に導入された経緯があり[7]、近年まで広く用いられてきた。しかし、クイック法PTおよびPT-INR(国際標準化比率)が普及し、トロンボテストとの差異が減少してきたことに伴い、日本国内の臨床検査会社においてトロンボテストの受託中止が相次いでいる[8][9][10]

血液凝固の機序

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細胞が障害されると、組織因子が放出され、凝固因子である第VII因子を介して、第IX因子および第X因子を活性化する。活性化第X因子によりプロトロンビン(第II因子)が活性化し、トロンビンへと変化する。トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンへと変換し、これが血栓形成の骨子となる[11]

トロンビンの前段階の連続的な反応(凝固カスケード)に登場する第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子および第X因子はいずれもビタミンK依存性のタンパク質であるため、ビタミンKの作用を阻害すればこの経路での血液凝固を抑制することができることとなる。これを利用した薬剤がワルファリンに代表される抗凝固薬であるが、ときに効果が強く出ることがあるため、効果判定のための血液検査が存在する。その代表的なものがプロトロンビン時間であり、世界中で広く行われている。

プロトロンビン時間とトロンボテストの差異

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トロンボテストでは、検体のプロトロンビン、第VII因子、第X因子活性をより特異的に測定できる利点がある[12][13]。また、トロンボテストの感度係数(International Sensitivity Index、ISI)はばらつきが少ないとする報告がある[14]

検査方法

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プロトロンビン時間の測定には、血液をクエン酸ナトリウム入りの試験管で採取し、遠心分離して得た血漿を検体として用いる。これにカルシウムを加えることでクエン酸塩の効果を逆転させて凝固可能状態としたのち、組織因子(組織トロンボプラスチン)を添加し、フィブリンが析出するまでの時間を光学的に測定する[15][16]

トロンボテストではさらに、硫酸バリウム吸着によりプロトロンビン、第VII因子、第IX因子、第X因子が欠損したウシ血漿を検査試薬として用いる[17]。これにより、第V因子、フィブリノゲンが補充された形となるため、検体のプロトロンビン、第VII因子、第X因子活性をより特異的に測定できる利点がある(測定時間が短いため第IX因子の影響は反映されない)[12][13]

オーレンは、使用する組織トロンボプラスチンとして、ヒト由来でなく入手の容易なウシ由来の組織トロンボプラスチンを用いた。さらに凍結乾燥した試験薬として開発されたことから、トロンボテストは北欧を中心に広がることとなった[13]

プロトロンビン時間比

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プロトロンビン時間比(PT比)は、被験者の測定したプロトロンビン時間(秒)と通常の検査室の基準PTとの比である。PT比は使用する特定の試薬によって異なるため、国際標準化比率(INR)に置き換わっている[18]

国際標準化比率(INR)

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プロトロンビン時間(PT)の凝固検査に用いられる組織因子(あるいは組織トロンボプラスチン)は、原料となる動物が異なると、凝固時間にばらつきが生じる。このため1983年、WHOはPTを試薬の感度(ISI)により補正する国際標準化比率(INR)を設定し、以後このプロトロンビン国際標準比(PT-INR)が用いられている[19][20][21]

INRは、PT比をISIの数値でべき乗して算出されるため、ISI値の高い試薬では誤差が大きくなる。このためWHOはISI値が0.9–1.7の範囲の試薬を使用するよう勧告している[22]。トロンボテストにおいてもINR表記法は適用される。トロンボテストのISI値はばらつきが少ないとする報告がある[14]

なお、INRはワーファリンのモニタリングだけに適用された凝固検査の単位であり、これを肝機能異常や外因系凝固異常症の検査の単位として用いることはWHOガイドラインでも明記されていない。

基準値

トロンボテストの検査値としては凝固活性(%)あるいはINRが用いられる。

基準値、いわゆる健常者の値は70%以上であるが、臨床的にはワルファリン治療域として10-25%を用いる[23]

クイック法でのPTは、検査法としての特異性に乏しく検査結果のばらつきが多いことが問題となっていたが、臨床エビデンスが蓄積され改善し、幅広く普及した[24]

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ^ 「proconvertin」とは第VII因子のことである

出典

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  1. ^ Owren PA : Thrombotest a new method for controlling anticoagulant therapy. Lancet 1959; 7: 754-758
  2. ^ トロンボテスト(TT)(2021年3月31日ご依頼分をもって受託中止) | SRL総合検査案内”. test-guide.srl.info. 2022年5月23日閲覧。
  3. ^ Owren, P. A.; Aas, K. (1951-01-01). “The Control of Dicumarol Therapy and the Quantitative Determination of Prothrombin and Proconvertin”. Scandinavian Journal of Clinical and Laboratory Investigation 3 (3): 201–208. doi:10.3109/00365515109060600. ISSN 0036-5513. https://doi.org/10.3109/00365515109060600. 
  4. ^ Quick AJ, Stanley-Brown M, Bancroft FW (1935). "A study of the coagulation defect in hemophilia and in jaundice". Am J Med Sci. 190 (4): 501–510.
  5. ^ Quick, Armand J; Stanley-Brown, Margaret; Bancroft, Frederic W (1980). “A Study of the Coagulation Defect in Hemophilia and in Jaundice” (英語). Thrombosis and Haemostasis 44 (01): 002–005. doi:10.1055/s-0038-1650068. ISSN 0340-6245. http://www.thieme-connect.de/DOI/DOI?10.1055/s-0038-1650068. 
  6. ^ Pisciotta, A. V. (1980-08-29). “Concepts of haemostasis and thrombosis: A study of the coagulation defect in hemophilia and in jaundice (Quick, Stanley-Brown and Bancroft 1935). Armand J. Quick (1894-1978)--a short biography”. Thrombosis and Haemostasis 44 (1): 1–5. ISSN 0340-6245. PMID 6999657. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6999657. 
  7. ^ 巽典之, 中恵一, 田窪孝行 (2002). “臨床検査測定値の標準化 凝固検査標準化の現状”. 臨床検査 46 (8): 883–886. 
  8. ^ 検査受託中止のお知らせ”. 株式会社エスアールエル. 2022年5月25日閲覧。
  9. ^ 検査受託中止のお知らせ”. 株式会社日本医学臨床検査研究所. 2022年5月25日閲覧。
  10. ^ 検査内容変更のお知らせ”. 株式会社ビー・エム・エル. 2022年5月25日閲覧。
  11. ^ 一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明)”. www.jsth.org. 2022年5月24日閲覧。
  12. ^ a b 一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明)”. www.jsth.org. 2022年5月24日閲覧。
  13. ^ a b c ヘパプラスチンテスト(HPT)のメカニズムは?【ヒト組織由来に近いトロンボプラスチンを用いることで正常血漿との解離を小さくする】|Web医事新報|日本医事新報社”. www.jmedj.co.jp. 2022年5月24日閲覧。
  14. ^ a b Horsti, J. (2002-10). “Has the Quick or the Owren prothrombin time method the advantage in harmonization for the International Normalized Ratio system?”. Blood Coagulation & Fibrinolysis: An International Journal in Haemostasis and Thrombosis 13 (7): 641–646. doi:10.1097/00001721-200210000-00010. ISSN 0957-5235. PMID 12439151. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12439151. 
  15. ^ 一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明)”. www.jsth.org. 2022年5月25日閲覧。
  16. ^ PT(プロトロンビン時間)―APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)(佐守友博) | 2011年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院”. www.igaku-shoin.co.jp. 2022年5月25日閲覧。
  17. ^ 一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明)”. www.jsth.org. 2022年5月25日閲覧。
  18. ^ Bussey, H. I.; Force, R. W.; Bianco, T. M.; Leonard, A. D. (1992-02). “Reliance on prothrombin time ratios causes significant errors in anticoagulation therapy”. Archives of Internal Medicine 152 (2): 278–282. ISSN 0003-9926. PMID 1739354. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1739354. 
  19. ^ “WHO Expert Committee on Biological Standardization. Thirty-third report”. World Health Organization Technical Report Series 687: 1–184. (1983). ISSN 0512-3054. PMID 6195831. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6195831. 
  20. ^ “ICSH/ICTH Recommendation for reporting prothrombin time in oral anticoagulant control”. Thromb Haemost 53: 155–156. (1985). 
  21. ^ 小松 親義, 井関治和, 佐藤浩充 (2010). “トロンボプラスチン試薬の感度(ISI)による PT-INR値の変動およびCoaguChek-XS法 との比較検討”. J Cardiol Jpn Ed 5 (2): 93 – 101. 
  22. ^ “WHO Expert Committee on Biological Standardization”. World Health Organization Technical Report Series 889: i–vi, 1–111. (1999). ISSN 0512-3054. PMID 10853384. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10853384. 
  23. ^ 一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明)”. www.jsth.org. 2022年5月25日閲覧。
  24. ^ Poller, Leon; Keown, Michelle; Chauhan, Nikhil; Van Den Besselaar, Anton M. H. P.; Tripodi, Armando; Shiach, Caroline; Jespersen, Jorgen (2003-09). “European Concerted Action on Anticoagulation. Correction of displayed international normalized ratio on two point-of-care test whole-blood prothrombin time monitors (CoaguChek Mini and TAS PT-NC) by independent international sensitivity index calibration: Correction of Displayed INR of CoaguChek Mini and TAS PT-NC” (英語). British Journal of Haematology 122 (6): 944–949. doi:10.1046/j.1365-2141.2003.04521.x. http://doi.wiley.com/10.1046/j.1365-2141.2003.04521.x.