デーン平面
幾何学において、デーン平面(英: Dehn plane)とは、デーンが導入した2つの非ユークリッド幾何の例をいう。マックス・デーンは2つの平面の例、半ユークリッド幾何と非ルジャンドル幾何とを導入した。これらは、所与の点と直線に対し、その点を通る無限本の平行線を持つようなものでありながら、三角形の内角の和が少なくとも となるようなものである。同様な現象は双曲幾何でも見られるが、そこでは三角形の内角の和は 未満である。デーンの例は非アルキメデス的順序体を利用して構成されるが、それゆえアルキメデスの公理が破れる。これらはMax Dehn (1900)で導入され、Hilbert (1902, p.127–130, or p. 42-43 in some later editions)で論じられている。
デーンの非アルキメデス的順序体 Ω(t)
[編集]デーンは自らの幾何を構成する為に非アルキメデス的に順序付けられたピタゴラス的体 を用いた。これは実係数1変数有理式(関数)の成す体 のピタゴラス閉包、すなわち実定数関数と不定元 t を意味する恒等関数(実数をそれ自身に写す関数)を含み、演算 で閉じた最小の関数体である。この は次のように順序付けられる: であるのは、十分大きな任意の実数 に対して が成り立つときである。 の元 が有限と呼ばれるのは、ある整数 に対して となるときである。有限でない元は無限大と呼ばれる。
デーンの半ユークリッド幾何
[編集]いま、 の元 と によって と表される全ての元からなる集合に、次のような通常の計量
を入れたものを考える。ここで は に値を取ることに注意。この空間はユークリッド幾何のモデルを与える。平行線公準はこのモデルに於いて真である。すなわち、1つの直線に2本の直線が交わり、同じ側にある内角の和が2直角よりも小さいならば、2本の直線はその側で交わる。他方、もしその内角和と2直角との誤差が無限小(どんな正の有理数よりも小さいことを意味する)ならば、その2つの直線の交点は、平面の有限でない点で交わる。すなわち、もしこのモデルを平面の有限部分(つまり で がともに有限である点)に制限したならば、平行線公準を破りつつ、三角形の内角の和が であるような幾何学が得られる。これがデーンの半ユークリッド幾何である。これはRucker (1982, page 98)で論じられている。
デーンの非ルジャンドル幾何
[編集]同じ論文に於いて、デーンは非ルジャンドル幾何の例も構成している。これは、ある点を通り別の直線と交わらない無限本の直線が存在する(平行線公準が破れている)が、三角形の内角和が を超えるようなものである。 上のリーマンの楕円幾何は 上の射影平面から構成され、これは の形の点に"無限遠にある直線"を付け加えたアファイン平面と同一視できる。これはいかなる三角形の内角の和も を超えるという性質を持つ。非ルジャンドル幾何は、このアファイン部分空間の点 で と がともに有限であるものからなる。(ここで は恒等関数によって表現される の元である。)ルジャンドルの定理は三角形の内角和が高々 であることを述べるが、これはアルキメデスの公理を仮定するものである。デーンの例は、ルジャンドルの定理がアルキメデスの公理を除くと成立しない可能性があることを示している。
参考文献
[編集]- Dehn, Max (1900), “Die Legendre'schen Sätze über die Winkelsumme im Dreieck”, Mathematische Annalen 53 (3): 404–439, doi:10.1007/BF01448980, ISSN 0025-5831, JFM 31.0471.01
- Hilbert, David (1902), The foundations of geometry, The Open Court Publishing Co., La Salle, Ill., MR0116216
- Rucker, Rudy (1982), Infinity and the mind. The science and philosophy of the infinite, Boston, Mass.: Birkhäuser, ISBN 3-7643-3034-1, MR0658492