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ティモレベスティア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ティモレベスティア
生息年代: 518 Ma[1]
ティモレベスティアの復元図
地質時代
古生代カンブリア紀第三期(約5億1,800万年前)[1]
分類
: 動物界 Animalia
階級なし : 前口動物 Protostomia
階級なし : 螺旋卵割動物 Spiralia
階級なし : Chaetognathifera [注釈 1]
: ステムグループ
毛顎動物門 Chaetognatha
: ティモレベスティア属 Timorebestia
学名
Timorebestia
Park et al. 2024[2]
タイプ種
Timorebestia koprii
Park et al. 2024[2]

ティモレベスティアTimorebestia)は、約5億年前のカンブリア紀に生息した古生物の一グリーンランドシリウス・パセット動物群で見つかった Timorebestia koprii という一のみ知られている。20cmの平たい体に長い触角と縁を囲んだをもつ。基盤的毛顎動物(ヤムシ)と考えられる[2]

名称

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学名Timorebestia」はラテン語「timor」(恐怖をもたらす)と「bestia」(獣)の合成語。模式種(タイプ種)の種小名koprii」は、本種が産するシリウス・パセットの調査に参加する韓国の極域研究所 Korea Polar Research Institute の略称「KOPRI」に由来する[2]

化石

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ティモレベスティアの化石標本は、グリーンランド北部の堆積シリウス・パセットSirius Passet古生代カンブリア紀第三期、約5億1,800万年前[1])のみから発見される。原記載の2024年時点では13点の標本が記載され、正基準標本(ホロタイプ)MGUH 34286 含めて全てがデンマーク自然史博物館(Natural History Museum of Denmark)に所蔵される。化石はほとんどが上下に保存され、外部形態だけでなく、口器・消化管・筋肉・神経系などの内部構造も保存されており、本属の生理学生態学分類学上の位置付けに重要な情報を与えていた(後述)[2]

形態

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体長は2.2cmから20cm(触角まで含むと30cm)、全身は丸みを帯びて上下に平たい[2]

先頭はやや小さな頭部で、正面から体長の半分ほど細長い触角が1対突き出す。の有無は不明。部は縦長い楕円形で、縁辺部はに囲まれる。鰭は左右1対の側鰭と末端1本の尾鰭に分化するが、その間のくびれも鰭条が連続して途切れていない[2]

は頭部の腹面に開き、胴部前端までの奥には状の口器 (jaw apparatus) が内蔵される。口器は後ろから順に1対の連合した三角形の構造体・1対の鈍い構造体・1枚の(おそらく腹面の)板状の構造体からなる。消化管は口から尾鰭基部腹面の肛門まで伸びる。胴部の外周には数多くの筋肉(縦筋と環状筋)が並ぶ。腹面には毛顎動物として特徴的な1対の神経節 (ventral ganglion) をもつが、他の毛顎動物より体に対して大きく発達している[2]

全体的にアミスクウィアとよく似ているが、そっちは3cm程度の小型で体型はより縦長く、鰭の構造も異なる(現生のヤムシと似て、側鰭と尾鰭は連続せず間が空く)[3][2]

生態

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海を泳ぐ2匹のティモレベスティアの生態復元図

ティモレベスティアは遊泳性捕食者であったと考えられる。縁の鰭をコウイカ類のように波打つして俊敏に外洋を泳ぎ、大きな神経節は遊泳の際に発達した鰭を操作するのに役立つとされる。一部の化石の消化管から同じ生息地で優勢する小型遊泳性動物イソキシスの残骸が複数見つかり、それを主食にしたことが示唆される[2]

また、カンブリア紀前期のシリウス・パセットに生息したティモレベスティアは、その生物群としても毛顎動物としても飛び抜けて大きく、系統分類上も基盤的な毛顎動物(後述)とされ、カンブリア紀における毛顎動物自体の多様化(約5億3,800万 - 約5億3,500万年前)も節足動物(5億2,900万 - 5億2,100万年前)のを先行している。これらの情報を基に、まず初期の毛顎動物は現生のヤムシ(最大でも10cmのプランクトンで、他の動物プランクトンを捕食する二次消費者)とは異なり、ティモレベスティアのような大型遊泳性頂点捕食者であったことが示される。そしてこの海洋生態系のニッチはより派生的な毛顎動物に受け継いでおらず、代わりに直後に繁栄したラディオドンタ類などの大型節足動物に、そして現世まで大型魚類海獣などの脊椎動物に占められたと考えられる[2]

分類

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脱皮動物節足動物鰓曳動物など)

螺旋卵割動物

狭義の冠輪動物軟体動物環形動物など)

腹毛動物

Chaetognathifera
担顎動物

顎口動物

微顎動物

Inquicus

輪形動物(ワムシ)

[注釈 1]
毛顎動物

ティモレベスティア

アミスクウィア

シリウス・パセット産未命名新種

他の毛顎動物

(ヤムシ)
[注釈 1]
Park et al. 2024 に基づいた前口動物におけるティモレベスティアの系統位置。青枠は amiskwiiform を示す[2]
Chaetognathifera の口器(左から順に現生毛顎動物アミスクウィア輪形動物微顎動物顎口動物

などの上位分類群は設けられていないが、ティモレベスティアは似た姿のアミスクウィアと共に「amiskwiiform」と総称される。この類の身体構造、とりわけ鰭や神経節は毛顎動物(ヤムシ)的であるが、現生のヤムシにない性質(数対の歯に分かれていない内蔵式の口器・口器中央1枚の板状構造・発達した筋肉など)も多く兼ね備えている。本属の原記載である Park et al. 2024 の系統解析では、amiskwiiform は側系統群基盤的ステムグループ)な毛顎動物とされ、そのうちアミスクウィアはティモレベスティアより他の毛顎動物に近い。この結果は、現生のヤムシには見られない amiskwiiform の共通点(頭部の触角など)は毛顎動物の祖先形質であることを示唆している。また、ティモレベスティアとアミスクウィアの一部の特徴は毛顎動物よりも担顎動物[注釈 1][4][5]に似ており(例えば前述した口器の構造や数多くの環状筋は顎口動物に似る)、これらは毛顎動物と担顎動物を含む Chaetognathifera[5] の祖先形質である可能性も示唆される[2]

脚注

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注釈

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  1. ^ a b c d 毛顎動物担顎動物に含めるとする見解もあるが(Marlétaz et al. 2019)、本項では毛顎動物を担顎動物に含まれず、毛顎動物と従来の担顎動物(顎口動物微顎動物輪形動物)からなる分類群を Chaetognathifera としてまとめる見解に基づく(Bekkouche & Gąsiorowski 2022)。

出典

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  1. ^ a b c Boudec, Ange Le; Ineson, Jon; Rosing, Minik; Døssing, Lasse; Martineau, François; Lécuyer, Christophe; Albarède, Francis (2014). “Geochemistry of the Cambrian Sirius Passet Lagerstätte, Northern Greenland” (英語). Geochemistry, Geophysics, Geosystems 15 (4): 886–904. doi:10.1002/2013GC005068. ISSN 1525-2027. https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/2013GC005068. 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Park, Tae-Yoon S.; Nielsen, Morten Lunde; Parry, Luke A.; Sørensen, Martin Vinther; Lee, Mirinae; Kihm, Ji-Hoon; Ahn, Inhye; Park, Changkun et al. (2024-01-05). “A giant stem-group chaetognath” (英語). Science Advances 10 (1). doi:10.1126/sciadv.adi6678. ISSN 2375-2548. https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adi6678. 
  3. ^ Caron, Jean-Bernard; Cheung, Brittany (2019-05-03). Amiskwia is a large Cambrian gnathiferan with complex gnathostomulid-like jaws” (英語). Communications Biology 2 (1): 1–9. doi:10.1038/s42003-019-0388-4. ISSN 2399-3642. PMC 6499802. PMID 31069273. https://www.nature.com/articles/s42003-019-0388-4. 
  4. ^ Marlétaz, Ferdinand; Peijnenburg, Katja T.C.A.; Goto, Taichiro; Satoh, Noriyuki; Rokhsar, Daniel S. (2019-01). “A New Spiralian Phylogeny Places the Enigmatic Arrow Worms among Gnathiferans”. Current Biology 29 (2): 312–318.e3. doi:10.1016/j.cub.2018.11.042. ISSN 0960-9822. https://doi.org/10.1016/j.cub.2018.11.042. 
  5. ^ a b Bekkouche, Nicolas; Gąsiorowski, Ludwik (2022-12-31). “Careful amendment of morphological data sets improves phylogenetic frameworks: re-evaluating placement of the fossil Amiskwia sagittiformis (英語). Journal of Systematic Palaeontology 20 (1): 1–14. doi:10.1080/14772019.2022.2109217. ISSN 1477-2019. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14772019.2022.2109217. 

関連項目

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外部リンク

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