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チュアベトナム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
チュアベトナム
所在地 神奈川県愛甲郡愛川町半原4889−1
位置 北緯35度32分31.93秒 東経139度15分46.06秒 / 北緯35.5422028度 東経139.2627944度 / 35.5422028; 139.2627944座標: 北緯35度32分31.93秒 東経139度15分46.06秒 / 北緯35.5422028度 東経139.2627944度 / 35.5422028; 139.2627944
宗旨 ベトナム仏教
創建年 2006年
開山 ティク・ミン・トゥエン
公式サイト Chùa Việt Nam tại Nhật Bản
チュアベトナムの位置(神奈川県内)
チュアベトナム
チュアベトナム
チュアベトナム (神奈川県)
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チュアベトナム(ベトナム語Chùa Việt Nam / 𫴶越南)は、神奈川県愛甲郡愛川町にあるベトナムの仏教の寺院。2006年に寺院として設立され、2017年に現在の建物が完成した。

概要

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チュアベトナム(Chùa Việt Nam)のChùaはベトナム語で「」を意味し[1]、「チュアベトナム」は日本語で「ベトナム寺」を意味する[2]

2023年現在、日本においては数山のベトナム寺院が存在するが[3][4]、愛川町のチュアベトナムはその中でも最大級の規模があるとされる[5]

チュアベトナムはベトナム人僧侶であるティク・ミン・トゥエン(Thích Minh Tuyền,1938~2017)に主導されて建立された[6]ベトナム南東部のビントゥアン省に出生したトゥエンは仏教学校を卒業したのち、ホーチミン市の寺院で住職を務めていたが、1971年に訪日団に同行した後、留学するために滞在を申し出た[6]。数十年にわたる日本滞在中、トゥエンはしばしば日本にいる多くのベトナム難民の家族を支援した[6]。さらに、亡命中のベトナム仏教徒の要望に応えて、ベトナム人の伝統的な祭りだけでなく、仏教の主要な祝日に多くの仏教活動を企画した[6]。トゥエンは日本のベトナム仏教界のために、ベトナム仏教寺院を建立したいという願いを持っていたという[6]

2006年にトゥエンは愛川町にある一般住宅を購入し、改装して装飾を施し、寺院とした[6]。のちに同地は現在のチュアベトナムの用地として使われるようになった[7]。2010年に現在の建物の起工式が行われ、2017年に完工した[6]。建設費の捻出にあたっては、トゥエンがアメリカ、フランスやドイツ、オーストラリアなど様々な国々を訪れ、ベトナム人コミュニティで出資などの協力を求める活動を行った[6][2]

愛川町が建立地として選ばれた理由としては、愛川町は土地が安く、川や山などの自然が豊富であったため[8]。ベトナムでは川や山に囲まれた場所が寺院用地として好まれる[9][10]。トゥエンは愛川町の山や川などの自然を見て、修行には快適な環境だと考えたという[11]。また、愛川町には先行して多くの外国人コミュニティーがあり、住民としてのマナーや日本の習慣の話を同じ立場の外国人住民に聞けることも心強いという[8]

現在のチュアベトナムは、在日ベトナム人コミュニティの共通の心の拠り所となっている[12]。チュアベトナムにベトナム人が集まる理由としては、自分の先祖の供養や、子息へのベトナム文化の継承、悩み事の相談などが目的とされる[5]

沿革

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下記の沿革は同寺院の公式ホームページによるもの[12]

  • 1970年、トゥエンが日本に留学し、仏教の勉強と活動をした。しばしば日本の寺院を借りて、在日ベトナム仏教界のために祭事を企画した。
  • 1997年、トゥエンが寺院建立のための土地購入を思い立つ。
  • 2006年、愛川町の日本人住居を購入し、装飾した。これが現在のチュアベトナムの原型であるという。
  • 2010年、日本にベトナム寺院を建立するための起工式が、各国から集まった僧の立ち合いと共に行われた。
  • 2012年、継続的な資金提供の呼びかけのため第一の完工式が行われた。
  • 2017年、寺院の建設工事が完了した。
  • 2018年、トゥエンが死去。ヌアン・アンとジオイ・バオがチュアベトナムの管理と運営を続けた。

ベトナムの宗教

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ベトナムは多宗教の国であり、他の宗教に卓越した『国教』的存在の宗教が無いとされる[13]宗教社会学者三木英はベトナムの宗教について、「ベトナム国民の8割は特定宗教を持たず、祖先崇拝シャーマニズムが生活の一部として国民に浸透し、ベトナム国民は日本国民と同様に、宗教意識は持ち、冠婚葬祭等において宗教的な行動をとるが、実際には特定宗教への帰属意識がない」 としている[14]

ベトナムにおける仏教は、紀元前3世紀か2世紀にインド亜大陸から、あるいは1世紀か2世紀に中国からベトナムに初めて伝わったと考えられている[15]。現在のベトナムの仏教は、道教、中国の民間信仰、ベトナムの民間信仰の特定の要素と混合関係を持っている[16]

現在のベトナム社会主義共和国の社会主義体制下では、宗教は厳格な統制と管理のもとにおかれている[17]。ベトナムにおける各宗教の信仰者の比率は資料によって極めて幅が大きいが、2002年の外務省の資料によると、国民の80%が仏教徒であるという[18]。2016年に公開された米国政府の統計では、「人口の半数を超える人々が仏教徒と見られている」としている[17]

在日ベトナム寺院及びチュアベトナムの役割

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現在、日本には数山のベトナム仏教寺院と数堂のベトナムキリスト教会があり、在日ベトナム人のコミュニティを形成している[19][20][21]

ジャーナリズムを専門とする早稲田大学瀬川至朗ゼミによるチュアベトナムへの取材によると、チュアベトナムは主に三つの役割を担っているという。

本来の仏教寺院として
チュアベトナムの役割には、ベトナムにおける仏教寺院の役割と同様のものが含まれる。ベトナムと同様、夫婦や祈りを捧げにくるベトナム人が訪れることも多いという[2]
在日ベトナム寺院として
日本に在所するベトナム寺院ならではの参拝客も存在する。祖国や祖国の家族に思いをはせるために訪れる在日ベトナム人や、日本人と国際結婚をしたベトナム人の夫婦、観光や研究などの文化交流を目的とした日本人が訪れるという[2]
参拝者同士のハブとして
チュアベトナムは在日ベトナム人たちの情報交換コミュニティのハブとしての役目も担っている。チュアベトナムではお祭りや瞑想会などのイベントが開かれ、多くのベトナム人参拝客が集まるが、その際に彼らはこの寺院で求人情報などのさまざまな情報を交換するという[2]

建築

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チュアベトナムの建物は日本の寺院とは異なり、屋根や階段に龍の装飾が施されていたり、壁面が黄色く塗られていたりする。ジオイ・バオによると、チュアベトナムの建物は、在日ベトナム人が故郷のことを思い出すことができる場所なのだという[2]

タムクァン
チュアベトナムの入り口には、タムクァン(ベトナム語:tam quan/三關)という門がある。タムクァンはベトナム仏教を象徴する伝統的な門の様式であり、3つの通路がある(伝統的には、真ん中の通路が最も大きく、両脇の通路は小さい)[10]。ベトナムにおいては仏教建築だけでなく、儒教、道教、ベトナムの民間宗教、キリスト教など、他の宗教建築にも多用される。また、学校や人民委員会の建物など、非宗教的な近代建築物にも利用される。

参拝・見学

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チュアベトナムは日曜日や各種行事の日に開院している。週末ごとに相模原厚木海老名伊勢原秦野など近隣の市町村をはじめ[8]、東京、埼玉、遠くは名古屋からも在日ベトナム人が集う[5]。お正月には1,000人集まることもあり、その際は道路にまで人が溢れる[2]

信者以外の人も見学は自由で、しきたりや作法を教わることができる[9]

地域との関係

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ベトナム紙によるヌアン・アン住職へのインタビューによると、参拝客が増えたため、騒音や駐車スペースによる周辺住民の不安を軽減できるよう、地元コミュニティと積極的に関係を築こうとしているという[22]。僧らは日本の文化と日本語を学んでおり、徐々に周囲に住んでいる日本人が訪れて、在日ベトナム人のことをもっと理解し、お互いの距離が近くなることを願っているという[22]

2023年のジオイ・バオ副住職への取材によると、副住職は日本語での瞑想教室を開催することを考えているとしている[2]

年間行事

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下記の年間行事一覧は同寺院の公式ホームページによるもの[23]

地理

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愛川町の日本籍/外国籍比率(2023.4.1)[24]

  日本籍:36,350人 (91.87%)
  外国籍:3,220人 (8.13%)

愛川町在住外国人の国・地域別比率(2023.1.1)[25]

  ペルー:700人 (22.24%)
  ブラジル:463人 (14.71%)
  ベトナム:441人 (14.01%)
  フィリピン:416人 (13.21%)
  スリランカ:229人 (7.27%)
  タイ:152人 (4.82%)
  中国:118人 (3.74%)
  インドネシア:102人 (3.24%)
  韓国:28人 (0.88%)
  ネパール:28人 (0.88%)
  インド:9人 (0.28%)
  台湾:5人 (0.15%)
  米国:3人 (0.09%)
  その他:453人 (14.39%)

チュアベトナムの所在する愛川町は人口4万人弱と、神奈川県内の市町村では相対的に規模が小さいが、外国籍住民の比率は高い[26][27]。全人口に対して約7.5%という外国籍住民の比率は、国際都市である横浜市などを抑えて神奈川県ではもっとも高い[8]。南米やアジアのほかにも、欧州、アフリカの国々、48の国と地域からの人々が愛川町に移住している[8]

愛川町にこれほど外国籍住民が多い理由としては、1966年に完成した、神奈川県最大級の工業団地である愛川町の内陸工業団地で労働力が求められたことが一因であると考えられている。また、愛川町の企画政策課では1990年の入管法改正を外国籍町民の増加の転機であるとしている[8]。愛川町では2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災、そして2020年の新型コロナウイルスの蔓延にもかかわらず、外国籍住民は増加の一途を辿っている[8]

2019年には愛川町へ移住した在日ベトナム人は100人を超えた[8]。愛川町にはベトナム料理の店もいくつかある[28][29]

愛川町内にはチュアベトナムの他、在日カンボジア人向けの上座部仏教寺院兼文化センターとして計画された「在日カンボジア文化センター[11][30]在日ラオス人に向けた日本で唯一のラオス仏教寺院とされる「在日本ラオス文化センター[31][32][33]在日タイ人に向けたタイでは鐘の寺として知られるワットラカンの別院、「ワットラカンジャパン[34][35]」などがある[36]

住所等

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  • 住所:神奈川県愛甲郡愛川町半原4889-1
  • 開院時間:毎週日曜、その他祭事日

アクセス

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出典

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  1. ^ ベトナム語翻訳辞書 chùa”. 株式会社国際語学社/ GRAS Group, Inc. 2023年11月5日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 日本におけるベトナム寺院 求められる役割とは”. Wasegg(ワセッグ)/早稲田大学政治経済学部 瀬川至朗ゼミ. 2023年11月2日閲覧。
  3. ^ 仏教徒ベトナム人技能実習生の心の拠り所 : 地域日本語教室でのPAC分析の調査をもとに”. 九州大学. 2023年11月5日閲覧。
  4. ^ ベトナム人ゆかりの寺院(東日本)”. 2023年11月5日閲覧。
  5. ^ a b c ベトナム寺(愛川町)”. 横浜エフエム放送株式会社. 2023年11月2日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h Tiểu Sử Sư Tổ(導入>創始者の略歴)”. Chuavietnam. 2023年11月11日閲覧。
  7. ^ Hình Ảnh Chùa Xưa(画像>仏事>古代寺院の写真)”. chuavietnam. 2023年11月12日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h コロナ禍でも右肩上がりの外国籍町民。約50カ国から人が集まる神奈川県央部の「異国」愛川町”. Yahoo!ニュース. 2023年11月2日閲覧。
  9. ^ a b 国際色豊かな神奈川県愛川町の魅力は?グルメに異国文化体験 地球の歩き方コラボシリーズ(2)”. 日本放送協会. 2023年11月2日閲覧。
  10. ^ a b THE ARCHITECTURE OF VIETNAMESE TEMPLES – A STUDY FROM AN ARTISTIC PERSPECTIVE”. European Journal Of Social Sciences Studies. 2023年11月19日閲覧。
  11. ^ a b 猫のひたいほどワイド #1192 リポート大賞・牧田習「煩悩からの脱却!牧田の瞑想ツアー」(愛川町)”. テレビ神奈川. 2023年11月9日閲覧。
  12. ^ a b Chùa Việt Nam Tại Nhật Bản(導入>日本のチュアベトナム)”. Chùa Việt Nam. 2023年11月4日閲覧。
  13. ^ 『現代ベトナムを知るための60章【第2版】(エリアスタディーズ39)』明石書店、2012年10月30日。 
  14. ^ 『異教のニューカマーたち: 日本における移民と宗教』森話社、2017年1月5日、142頁。 
  15. ^ Cuong Tu Nguyen. Zen in Medieval Vietnam: A Study of the Thiền Uyển Tập Anh. University of Hawaii Press. (1997). p. 9 
  16. ^ Cuong Tu Nguyen & A.W. Barber (1998). The Faces of Buddhism in America. University of California press. p. 132 
  17. ^ a b ベトナム 2016年 国際宗教自由報告書”. 法務省. 2023年11月5日閲覧。
  18. ^ 最近のベトナム経済情勢と日・ベトナム経済関係”. 外務省. 2023年11月11日閲覧。
  19. ^ 移民の孤立と宗教的ネットワーク ―長崎の事例を中心に―”. 公益財団国際宗教研究所. 2023年11月7日閲覧。
  20. ^ 在日ベトナム人宗教施設が持つ社会的意味に関する一考察 : カトリック教会と仏教寺院における活動の比較”. 2023年11月7日閲覧。
  21. ^ 在日ベトナム系移民に関する予備的考察”. cinii. 2023年11月7日閲覧。
  22. ^ a b Nơi nương tựa tâm linh cho người Việt tại Nhật(日本にいるベトナム人の心の拠り所)”. Enlightenment Online. 2023年11月2日閲覧。
  23. ^ Tăng Thân(導入>サンガ)”. chuavietnam. 2023年11月5日閲覧。
  24. ^ 愛川町の人口と世帯(令和5年4月1日現在)”. 愛川町. 2023年11月5日閲覧。
  25. ^ 市(区)町村別主要国・地域別外国人数(2023(令和5)年1月1日現在)”. 神奈川県. 2023年11月5日閲覧。
  26. ^ 福島智子・藤代将人 (2005). “神奈川県愛川町における「多文化共生」への予備的考察 (<特集> 茨城県大洗町のインドネシア人労働者コミュニティ)”. 異文化コミュニケーション研究 (神田外語大学グローバル・コミュニケーション研究所) 17: 145. 
  27. ^ 6月24日:愛川町”. あっぱれ!KANAGAWA大行進/株式会社テレビ神奈川. 2023年11月2日閲覧。
  28. ^ フォーMQS”. Instagram/Meta. 2023年11月4日閲覧。
  29. ^ 愛川町/ベトナム料理 Cho Viet Aikogun”. ホットペッパーグルメ/リクルート. 2023年11月4日閲覧。
  30. ^ 在日カンボジア系住民の現在 : 神奈川県上座仏教寺院兼文化センター建設計画をめぐって”. cinii. 2023年11月5日閲覧。
  31. ^ 在日本ラオス協会(在日ラオス文化センター)”. 公益財団法人 かながわ国際交流財団. 2023年11月2日閲覧。
  32. ^ 第23回 ラオス料理は幸福のおすそ分け”. 株式会社 日経ナショナル ジオグラフィック. 2023年11月2日閲覧。
  33. ^ Interviews & Report”. 株式会社佛教タイムス社. 2023年11月2日閲覧。
  34. ^ ワットラカン ジャパン”. ワットラカン ジャパン. 2023年11月2日閲覧。
  35. ^ 【動画】ワットラカン ジャパン”. WAIWAITHAILAND INC. 2023年11月2日閲覧。
  36. ^ ブラジル、パキスタン、ラオス…各国の店や寺院が集う神奈川県愛川町で外国旅行”. デイリーポータルZ/東急メディア・コミュニケーションズ株式会社. 2023年11月2日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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