コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

スムート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
スムート (smoot)

ハーバード橋に書かれた"364.4 Smoots ± 1 Ear"の文字
非SI単位
長さ
SI 170.18 cm
定義 オリバー・R・スムートの身長、5フィート7インチ
テンプレートを表示
ハーバード橋。ボストンを臨む。

スムート(smoot、[ˈsmt])は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生グループが、同校のいたずら (ハック英語版) の一つとして作った長さの単位である。

MITの学生グループ(フラタニティ)「ラムダ・カイ・アルファ英語版」が、ボストン市内にあるチャールズ川にかかるハーバード橋英語版の長さを測るために作った[1]。その際、同会のメンバーの一人であるオリバー・R・スムートが橋の上に寝そべり、体を定規のように使って長さを測ったため、彼の身長が1スムートとなっている[2]

定義

[編集]

1スムートは、1958年10月にこのいたずらをしたときのスムートの身長、5フィート7インチ(約1.7メートル)に等しい。これにより、ハーバード橋の長さは「364.4スムート± 1εar」と測定された。「1εar」はスムートの耳(ear)1つ分の長さで、±は誤差を示す。1文字目をεにしたのは、誤差をεで表すからである[3][4]

長年にわたり、スムートに関する言及では"±"の位置と"ε"の綴りが誤って書かれていたが、この単位が生まれて50年となることを記念して2008年にハーバード橋のたもとに設置された銘板では、"±"については正しく記載されている[5]

歴史

[編集]
ハーバード橋に設置された銘板

ラムダ・カイ・アルファの当時のプレッジマスター(会長)の弁によれば、プレッジマスターはハーバード橋を渡って大学へ通っていたが、その週は2回も遅刻をしてしまった。そこで、会員の誰かの体を使って橋の長さを測るといういたずらを思いついた[6]。その対象にスムートが選ばれたのは、彼が会員の中で最も身長が低かったため、測定に最も手間がかかるからと、「名前が最も科学的だから」だった[3][7]。スムートが橋の上に横たわり、仲間がチョークやペンキで目印をつけ、スムートは立ち上がって目印の位置に横たわり直した。これを繰り返して橋の長さを測定したのだが、最後にはスムートは疲れてしまい、仲間たちに担がれて移動した[8][9]。また、このいたずらは夜に行われたが、この最中に警官の見回りがあり、学生たちは警官が立ち去るまで大学のキャンパスの中で隠れていたという[10]

スムートは1962年にMITを卒業し、ジョージタウン大学ロー・センターに入学して法務博士号を取得した。スムートは2001年から2002年まで米国国家規格協会(ANSI)議長、2003年から2004年まで国際標準化機構(ISO)会長を務めた[11][12][13]。ノーベル物理学賞を受賞したジョージ・スムートは縁戚にあたる[14][15]

このいたずらをしたときの跡について『ホリデー英語版』誌が調査を行い、スムートへのインタビューをしたことから、この単位が世間に知られるようになった[7]。2008年10月4日、この単位が生まれて50年となることを記念する式典がMITで開かれ、スムートも招かれた[9]。2011年に発刊されたアメリカ・ヘリテッジ英語辞典英語版第5版で、"smoot"が新語として追加された[16][17]

スムートには息子が2人おり、2人ともMITに入学した。スムートは息子たちに、自分と同じことをしてスムートという単位を更新するように言ったが、2人とも断ったという[6]

実際の使用

[編集]
ハーバード橋に書かれた100スムートのマーキング

ハーバード橋には、端から10スムートごとにマーキングがなされている[18]。このマーキングは、ラムダ・カイ・アルファの新入生によって毎学期塗り直されている[19]

このマーキングは、この橋の中での位置を特定するマイルストーンのように使われている。地元の警察がこのマーキングを報告書の中で日常的に使っており、1980年代にこの橋の改修工事が行われたとき、警察はマーキングの復元を要請した。マサチューセッツ州道路局の改修担当者は、本来6フィートごとに設置する歩道のマーキングを、ハーバード橋だけは1スムート(5フィート7インチ)ごとに設置している[20]

2011年から、Google Earthにおいてスムート単位で距離が測れるようになった[21]

MITの学生が運営するラジオ局WMBRの放送周波数は88.1MHzで、この波長はちょうど2スムート(3.4メートル)である[22]

脚注

[編集]
  1. ^ 白鳥敬 (2013). 単位と記号. 学研プラス. p. 50. ISBN 9784059153061. https://books.google.co.jp/books?id=XcVLDAAAQBAJ&pg=PA50#v=onepage&q&f=false 
  2. ^ Spotlight: A salute to Smoot”. Massachusetts Institute of Technology. June 20, 2015時点のオリジナルよりアーカイブ。August 13, 2015閲覧。
  3. ^ a b Durant, Elizabeth (June 23, 2008). “Smoot's Legacy”. MIT Technology Review. Massachusetts Institute of Technology. 2023年8月7日閲覧。 “... so they added the plus or minus, and wrote the e in ear as an epsilon. 'The epsilon referred in a cutesy way to this error measurement,' [Smoot] says. And therein lies another detail that has evolved over time: the epsilon has been lost from written accounts of the story, Smoot says, and the minus sign is often omitted as well.”
  4. ^ Tavernor, Robert (2007). “Preface”. Smoot's Ear: The Measure of Humanity. Yale University Press. pp. xi–xvi. ISBN 978-0-300-12492-7. https://archive.org/details/smootsearmeasure0000tave 
  5. ^ Smoot in Stone”. MIT News. Cambridge, Massachusetts: Massachusetts Institute of Technology (June 4, 2009). July 20, 2010閲覧。 “Specifically noting the bridge's length of 364.4 Smoots (+/− 1 ear), the plaque, a gift of the MIT Class of 1962, honors the prank's 50th anniversary.”
  6. ^ a b Someone San Diego show know”. San Diego Tribune (2020年10月9日). 2023年8月3日閲覧。
  7. ^ a b Gillooly, Patrick (September 24, 2008), Smoot reflects on his measurement feat as 50th anniversary nears, Massachusetts Institute of Technology News Office, https://news.mit.edu/2008/smoot-tt0924 July 10, 2020閲覧。 
  8. ^ Kostoulas, Andy (October 12, 1999). “This Month In MIT History”. The Tech. April 18, 2009閲覧。
  9. ^ a b MIT Celebrates 50th Smoot-aversary with Party, Volunteerism, & Plaque. Oct. 4, 2008
  10. ^ Smoot, Namesake of a Unit of Length, Retires”. NPR (2005年12月7日). 2023年8月7日閲覧。
  11. ^ Speakers Bureau: Oliver R. Smoot”. American National Standards Institute. January 13, 2016閲覧。
  12. ^ In Honor of an Outstanding American and His Work as President of the International Standards Organization: Oliver R. Smoot”. GovInfo. Government Publishing Office. 25 November 2020閲覧。
  13. ^ "Oliver Smoot" at Geni.com
  14. ^ At MIT, future Nobelist not above a prank or two - the Boston Globe”. 2023年8月7日閲覧。
  15. ^ The SMOOT as unit of Length”. Smoot Group Astrophysics and Cosmology. Laurence Berkeley Labs. 27 September 2022閲覧。
  16. ^ Cornish, Audie (November 13, 2011). “Looking Up Words in a Book Not So Strange Yet”. National Public Radio. https://www.npr.org/2011/11/13/142284657/looking-up-words-in-a-book-not-so-strange-yet December 10, 2012閲覧。 
  17. ^ American Heritage Dictionary entry”. American Heritage Dictionary. Houghton Mifflin Harcourt Publishing Company. December 10, 2012閲覧。
  18. ^ MIT Trivia: Harvard Bridge, MIT Museum, オリジナルのAugust 6, 1997時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/19970806205154/http://web.mit.edu/museum/fun/smoots.html July 10, 2020閲覧。 
  19. ^ Historic American Engineering Record (HAER) (1987). Harvard Bridge, Spanning Charles River at Massachusetts Avenue, Boston, Suffolk County, MA. Philadelphia: Department of the Interior. p. 5. https://loc.gov/pictures/item/ma1293/ May 12, 2009閲覧。 
  20. ^ Fahrenthold, David A.. “The Measure of This Man Is in the Smoot”. The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/12/07/AR2005120702328_pf.html May 23, 2010閲覧。 
  21. ^ Google Earth backs Smoots as measurement standard | Blue Mass Group” (英語). bluemassgroup.com. 2022年4月16日閲覧。
  22. ^ Wolfram|Alpha Can't [@wacnt] (2017年6月13日). "W|A can: WMBR frequency * smoot / speed of light". X(旧Twitter)より2023年8月7日閲覧

外部リンク

[編集]