エネルギー・運動量テンソル(エネルギー・うんどうりょうテンソル、英語: energy-momentum tensor、stress-energy tensor、stress-energy-momentum tensor)とは、質量密度、エネルギー密度、エネルギー流、運動量密度、応力を相対性理論に基づいた形式で記述した物理量である。
一般相対性理論において、アインシュタイン方程式の物質分布を示す項として登場し、重力を生じさせる源(source term)としての意味を持つ。
エネルギー・運動量テンソルは二階のテンソルであり、記号は で表されることが多い。アインシュタイン方程式で、真空の状況を考える時は、 とすればよい。
エネルギー・運動量テンソル は、定義から明らかに対称テンソルである。
以下では、時間座標を0成分とし、空間座標を1,2,3成分とする添字を使い、計量(metric)の符号はとする。また、アインシュタインの縮約記法を用いる。
共変微分をもちいて
とすれば、これは、共変形式のエネルギー・運動量保存則を表すことになる。
エネルギー・運動量テンソルはネーターの定理により、時空の並進対称性のネーター・カレントとして定められる。
作用積分が
と書かれているとき、時空の微小な併進 x → x' = x + ξ に対して、φ'(x')=φ(x) が成り立つ。
従って、場は
と変換される。
エネルギー・運動量テンソルは
となる。この定義には任意性があり、 により
で置き換えることができる。この任意性によりエネルギー・運動量テンソルは対称テンソルとして定義される。
別の定義の仕方として、時空の計量による汎関数微分として定義する方法がある。この方法では対称であることが定義により明確となる。
一般相対性理論においては時空の計量 g が力学変数となる。作用汎関数が
で書かれているとき、計量 g による作用の汎関数微分は
である。従って、エネルギー運動量テンソルは
で与えられる。
- 時間-時間成分、即ち は、エネルギー密度である。
- 時間-空間成分、即ち は、の方向へのエネルギーの流れである。
- 空間-時間成分、即ち は、i-成分の運動量密度である。
- 空間成分、即ち は、の方向への i-成分の運動量の流れである。
相対論的粒子の系を記述する作用汎関数は
であり、ここからエネルギー・運動量テンソルが
と導かれる。補助変数 γi から導かれる拘束条件 を用いれば
となる。
物質の平均自由行程が全体のスケールに比べて短いとき、流体近似が可能である。さらに、流体の静止系に乗ったときに、圧力が等方的であり(応力テンソルが対角的であり)、粘性のない場合、完全流体として考えることができる。このとき、一般に次のように仮定することができる。
は、静止系で観測したときの質量エネルギー密度と圧力であり、
は、計量テンソル・流体の4元速度ベクトル(共動座標系ならば、、流体速度を と観測する場合には)である。この仮定は、宇宙モデルを論じるときに通常用いられる。
非相対論的な場合、となるから、行列形式で成分を書くと
となる。この空間成分は、古典的流体力学の応力テンソル
と一致する。
電磁場を記述する系の力学変数は電磁ポテンシャル A であり、一般化速度に相当する力学変数の微分は電磁場強度 F である。時空の計量 g を露わに書いた電磁場のラグランジュ関数は
である。このラグランジュ関数から得られる電磁場のエネルギー・運動量テンソルは
となる。
T00 は電磁場のエネルギー密度、T0j はポインティング・ベクトル、Tij はマクスウェルの応力テンソルである。