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ステノプテリギウス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ステノプテリギウス
Stenopterygius
生息年代: 前期ジュラ紀,183–179 Ma
Stenopterygius quadriscissus
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
階級なし : 魚鰭類 Ichthyopterygia
: 魚竜目 Ichthyosauria
階級なし : パルヴィペルヴィア類 Parvipelvia
階級なし : トゥンノサウルス類 Thunnosauria
: ステノプテリギウス科 Stenopterygiidae
: ステノプテリギウス Stenopterygius
学名
Stenopterygius
Jaekel,1904

ステノプテリギウス学名:Stenopterygius)は、ヨーロッパイングランドフランスドイツルクセンブルクスイス)から知られる絶滅した魚竜の属である[1][2]。最大で4メートルに達した。

形態

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ステノプテリギウスと人間

より知られているイクチオサウルスに形態は類似しているが、イクチオサウルスよりも頭部が小さくヒレも細かった。保存状態の良好な化石がドイツで発見されており[3]、その標本の頭骨はクチバシのように広がり、大量の歯が備わっていた。四肢はヒレ状に変化していた。尾は皮が張った大きな半円形の垂直な尾びれを形成しており、背中には三角形の背びれも存在した。

2018年12月5日に科学雑誌ネイチャーで発表された論文によると、ドイツホルツマーデンハウフ博物館のステノプテリギウスの標本から皮膚色素細胞皮下脂肪の痕跡が確認された。色素細胞の研究より判明したメラニンの比率から、ステノプテリギウスは現生のイルカと同様に背中側の体色が濃かったことが分かり、カウンターシェーディング保護色の1つ)の成立が示唆されている。皮下脂肪はイルカやオサガメと似た脂肪層であり、体温維持が可能であった可能性が浮上している。また、タンパク質の痕跡までもが発見されており、肝臓からヘモグロビンが、皮膚からコラーゲンケラチンが発見された。ただし、この研究では対照実験も行われているが、コンタミネーション(異なる物質が観察資料に混入すること)の可能性も否定しきれない状況である[4]

生態

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出産中の標本。ロンドン自然史博物館の展示

ステノプテリギウスの生態は現代のイルカに近く、生涯の大部分を沖合で過ごていた。魚類頭足類および他の動物を捕食しており、ステノプテリギウスの骨格の腹部内腔からはそのような食糧の残骸が含まれていることがある[5][6]

出産時に死亡した母親と幼体の化石が有名であり、ステノプテリギウスが胎生であったことを示している。同時に、産道を通り抜ける前に窒息しないよう、魚竜の幼体がクジラ類と同様に尾の側から生まれることが証明されている[7]

分類

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模式種S. quadriscissus

ステノプテリギウスの標本の大半は Michael W. Maisch により再記載されたものであり、その数は100を超える。彼は模式種である S. quadriscissus には、以前 S. hauffianusS. megacephalus として記載された標本のみならず、S. eosS. incessus および S. macrophasma が統合されるとした。Maisch は1932年にウッドワードが執筆した論文に従い、Ichthyosaurus triscissus はステノプテリギウスに属すると考えた。S. triscissusS. longifronsS. megacephalus および S. megalorhinus のシニアシノニムにあたり、優先権を持つ。以前 S. megalorhinus として記載された標本や S. cuneiceps の模式標本は、S. uniter に再分類された。S. uniter の模式標本は第二次世界大戦で破壊され、Maisch は新基準標本を提案した。Maisch はまた、S. promegacephalus が若い個体に基づいているため疑問名であるとし、S. hauffianus の選定基準標本は Stenopterygius cf. quadriscissus(「おそらくS.quadriscissus」という意)とされた。このため S. hauffianus は疑問名とみなされるべきである。

さらに彼は、以前 S. hauffianus として記載された標本の大半が模式種 S. quadriscissus に再分類可能であり、不可能なものはステノプテリギウス属の有効な種に再分類することができない非常に特異的な新たな分類群に属することを発見した。この種はハウフィオプテリクス属として独立した[2]

S. triscissusの標本
スペインテネリフェ島に所蔵されている化石

ステノプテリギウスは非常に大きな胎児を保存している全身がつながった完全骨格の選定基準標本 GPIT 43/0219-1 で知られている。標本の長さは約3.15メートルであり、約1億8200万年前のジュラ紀前期トアルシアン期にあたるドイツホルツマーデンのポシドニア頁岩の Harpoceras elegantulum-exaratum ammonoid subzones (さらに厳密には Lias ε II3-4)というハルポケラスアンモナイト)が豊富な場から収集された。Maischは30個に及ぶ追加の標本を本種とした。これらの標本はドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州やホルツマーデン、ルクセンブルクのDudelangeに由来している。標本はポシドニア頁岩の Harpoceras palum から H. falciferum ammonoid subzones (Lias ε I2-II11, トアルシアン期前期)にかけて収集された。

S. triscissusはほぼ完全な骨格である模式標本 GPIT 12/0224-2 から知られ、全長2.1メートルの若い成体である。ジュラ紀前期トアルシアン期前期半ばにあたるドイツのオームデンに位置するポシドニア頁岩の Harpoceras exaratum-elegans ammonoid subzones (厳密には Lias ε II6)から収集された。Maischは13個に及ぶ追加の標本を本種とし、それらはイギリス、ドイツ、フランス、ルクセンブルク、スイスといった様々な地域に由来した。いずれも Lias ε II1-III から収集され、トアルシアン期前期の半ばから終盤の時期に該当する。

S. uniter は第二次世界大戦において破壊された完全骨格の模式標本 SMNS 14216 で知られ、約3.35メートルに達する成体の標本であった。この標本の破壊を受けて選ばれた新基準標本は GPIT 1491/10 であり、こちらもほぼ完全な骨格で、全長約2.34メートルに達する若い成体である。ホルツマーデンの Harpoceras falcifer ammonoid subzones (厳密には Lias ε II10)から収集された。Maischは10個の追加の標本を本種に加え、そのどれもがホルツマーデンから出土したものであった。標本はポシドニア頁岩の Harpoceras exaratum から H. falciferum ammonoid subzones (Lias ε II6-II11, トアルシアン期前期半ば)にかけて収集された[2]

S. aaleniensisの模式標本

さらなる標本は2011年にハンナ・カインとミッチェル・J・ベントンにより、イングランドのイルミンスターに位置するストロベリー・バンクから記載された。時代はトアルシアン期前期に該当する。標本は全てほぼ完全な骨格と複数の頭骨という形でほぼ完全に保存された幼体である。標本 BRLSI M1405, BRLSI M1407, BRLSI M1408, BRLSI M1409 が含まれ、カインとベントンはこれらを S. triscissus に分類した[8]

2012年にはドイツの南西部からジュラ紀中期の新種 S. aaleniensis が記載された[9]

2000年の Maisch と Matzke の論文および2010年の Maisch の論文では、チャカイコサウルスハウフィオプテリクスはステノプテリギウス科とみなされた[1][10]が、この主張の根拠となる分析は不足していた。Fischer らによる2011年の論文では、チャカイコサウルスがステノプテリギウス科とオフタルモサウルス科の両方の外に配置されている原始的な魚竜であることが分岐学的解析により明らかとなった[11]。Maischによる2008年の論文およびカインとベントンによる2011年の論文での分岐学解析では、ハウフィオプテリクスはユーリノサウルスに近縁あるいは魚竜の原始的な属であるとされている[2][8]。すなわち、ステノプテリギウス科がステノプテリギウス属ただ1属のみを含むことを意味する[11]

成体と胎児の骨格復元
チャールズ・R・ナイトによる1921年の復元図

下のクラドグラムは Fischer らの2013年の論文に基づく[12]

トゥンノサウルス類 

イクチオサウルス

ステノプテリギウス

チャカイコサウルス

 オフタルモサウルス科 

アースロプテリギウス

*
 オフタルモサウルス亜科 

レニニア

モレサウルス

オフタルモサウルス

バプタノドン ("O." natans)

アカンプトネクテス

 プラティプテリギウス亜科 

ブラキプテリギウス

マイアスポンディルス

アエギロサウルス

スヴェルトネクテス

プラティプテリギウス・ヘルキニクス

カイプリサウルス

アサバスカサウルス

プラティプテリギウス・アウストラリス(=Longirostria[13])

語源

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ステノプテリギウスは本来1856年にクウェンステッドによりイクチオサウルスの一種である I. quadriscissus として命名されたが、1904年にオットー・イェーケルが独自の属であるステノプテリギウス属に再分類したため、模式種は S. quadriscissus である[2]。属名はギリシャ語で「狭い」を意味する「stenos」と「翼」を意味する「pteryx」から命名された。

出典

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  1. ^ a b Michael W. Maisch and Andreas T. Matzke (2000). “The Ichthyosauria”. Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde: Serie B 298: 1–159. オリジナルの2011-07-18時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110718120150/http://www.naturkundemuseum-bw.de/stuttgart/pdf/b_pdf/B298.pdf. 
  2. ^ a b c d e Michael W. Maisch (2008). “Revision der Gattung Stenopterygius Jaekel, 1904 emend. von Huene, 1922 (Reptilia: Ichthyosauria) aus dem unteren Jura Westeuropas”. Palaeodiversity 1: 227–271. http://www.palaeodiversity.org/pdf/01/Palaeodiversity_1_14_227-272.pdf. 
  3. ^ Martill D.M. (1993). “Soupy Substrates: A Medium for the Exceptional Preservation of Ichthyosaurs of the Posidonia Shale (Lower Jurassic) of Germany”. Kaupia 2: 77–97. 
  4. ^ 魚竜は中身も模様もイルカに似ていた、新たに判明”. ナショナルジオグラフィック (2018年12月7日). 2018年12月9日閲覧。
  5. ^ Böttcher R (1989). “Über die Nahrung eines Leptopterygius (Ichthyosauria, Reptilia) aus dem süddeutschen Posidonienschiefer (Unterer Jura) mit Bemerkungen über den Magen der Ichthyosaurier”. Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde Serie B (Geologie und Paläontologie) 155: 1–19. 
  6. ^ Bürgin T (2000). “Euthynotus cf. incognitus (Actinopterygii, Pachycormidae) als Mageninhalt eines Fischsauriers aus dem Posidonienschiefer Süddeutschlands (Unterer Jura, Lias epsilon)”. Eclogae geologicae Helvetiae 93: 491–496. 
  7. ^ Böttcher R (1990). “Neue Erkenntnisse über die Fortpflanzungsbiologie der Ichthyosaurier”. Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde Serie B (Geologie und Paläontologie) 164: 1–51. 
  8. ^ a b Hannah Caine and Michael J. Benton (2011). “Ichthyosauria from the Upper Lias of Strawberry Bank, England”. Palaeontology 54 (5): 1069–1093. doi:10.1111/j.1475-4983.2011.01093.x. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1475-4983.2011.01093.x/abstract. 
  9. ^ Maxwell, E. E.; Fernández, M. S.; Schoch, R. R. (2012). Farke, Andrew A. ed. “First Diagnostic Marine Reptile Remains from the Aalenian (Middle Jurassic): A New Ichthyosaur from Southwestern Germany”. PLoS ONE 7 (8): e41692. Bibcode2012PLoSO...741692M. doi:10.1371/journal.pone.0041692. PMC 3411580. PMID 22870244. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3411580/. 
  10. ^ Michael W. Maisch (2010). “Phylogeny, systematics, and origin of the Ichthyosauria – the state of the art”. Palaeodiversity 3: 151–214. http://www.palaeodiversity.org/pdf/03/Palaeodiversity_Bd3_Maisch.pdf. 
  11. ^ a b Fischer, V.; Masure, E.; Arkhangelsky, M.S.; Godefroit, P. (2011). “A new Barremian (Early Cretaceous) ichthyosaur from western Russia”. Journal of Vertebrate Paleontology 31 (5): 1010–1025. doi:10.1080/02724634.2011.595464. http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02724634.2011.595464. 
  12. ^ Fischer, V.; Arkhangelsky, M. S.; Uspensky, G. N.; Stenshin, I. M.; Godefroit, P. (2013). “A new Lower Cretaceous ichthyosaur from Russia reveals skull shape conservatism within Ophthalmosaurinae”. Geological Magazine 151: 1. doi:10.1017/S0016756812000994. 
  13. ^ Arkhangel’sky, M. S., 1998, On the Ichthyosaurian Genus Platypterygius: Palaeontological Journal, v. 32, n. 6, p. 611-615.