シャーロック・ホームズの宇宙戦争
『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』(シャーロック・ホームズのうちゅうせんそう、英:Sherlock Holmes's War of the Worlds)は、マンリー・W・ウェルマンとウェイド・ウェルマン親子の共作によるアメリカのSF小説。題名の通り、「シャーロック・ホームズが(H・G・ウェルズの)『宇宙戦争』に遭遇していたら?」という内容になっている。
概要
[編集]前述の通り、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズと、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』を題材としたSF小説であるが、他にも両者の作品から人物や事象が採用されている。とはいえ、ウェルズの方はSF短編「水晶の卵」を前日談として組み込まれているに留まっている(これ自体は特筆すべきことではなく、本来の解釈通りであるが、当事者にホームズを採用している)。
ドイルの作品からは、ホームズ・シリーズからはジョン・H・ワトスン、ハドスン夫人といったおなじみの面々などが登場する。一方、『失われた世界』などの主役であるチャレンジャー教授も登場して活躍しており、本作の主人公は彼とホームズの2人である。また、出番は少ないながら、同作のジョン・ロクストン卿も登場する。
なお、本作は全5部で構成されているが、前半の3編の記録者はエドワード・ダン・マローン、後半の2編の記録者はワトスン、と設定されている。ハドスン夫人に関する記述は、マローンとワトスンでは大きく食い違っている(マローンは、チャレンジャー教授の友人かつ新聞記者)。
目次、初出誌
[編集]以下は目次[1]、「著者まえがき」[2]、「序文」[3]より作成。
番号等 | タイトル | 著者(設定) | 初出年、誌名 |
---|---|---|---|
序文 | 編者 | 1975年(本書) | |
1 | 水晶の卵 | エドワード・ダン・マローン | 1975年(本書) |
2 | シャーロック・ホームズ 火星とたたかう | 同上 | 雑誌(年月日、誌名不明) 「金星~」より遅い[4][5]。 |
3 | ジョージ・E・チャレンジャー 火星とたたかう | 同上 | 1975年(本書) |
4 | 火星の依頼人 | 医学博士ジョン・H・ワトスン | ファンタジー・アンド ・サイエンス・フィクション 1969年12月号 |
5 | 金星、火星、そしてベイカー街 | 同上 | 同誌1972年3月号 |
付録 | ワトスン博士の手紙 | 同上 | 2に併録[6] |
ワトスンは通常通り一人称、一方のマローンは三人称で描写している。
日本語訳は、創元推理文庫SF(東京創元社)より1980年に刊行された。翻訳者は深町眞理子。
あらすじ
[編集]- 水晶の卵
- ホームズは、フェアデール・ホッブズから依頼された事件を追い、グレート・ポートランド街の古物商に辿り着いた。偶然目にした水晶を購入するが、それはただの水晶ではなく、異星との映像の送受信機だった。ホームズは既知のチャレンジャーに協力を要請、以後は彼が水晶を所持し、中心になって研究していく。
- 彼らは異星が火星であることをつきとめ、異星人が地球を偵察していることを察する。やがて火星での爆発が地球から観測された。ホームズとチャレンジャーは、火星からの侵略を懸念する。そして、最初のシリンダーのひとつがサリー州のウォキングに着地した。彼らは、それぞれに現地に向かう。
- ウェルズのSF短編「水晶の卵」の後日談となっている(この短編は『宇宙戦争』の前日談に当たる)。
- 短編では、古物商のC・ケーヴが水晶を所有していたが、彼の死後、グレート・ポートランド街の同業者に一切の商品が売却され、それに水晶も含まれていた。ケーヴと協力して水晶を研究していたジェーコビ・ウェース[7]が行方を追ったが、グレート・ポートランド街の業者は既に水晶を売り払った後であった[8]。水晶の行方は、以後不明となっている。
- 本作ではホームズが購入したことになっている。なお、ウェースは本作「水晶の卵」にも登場する[9]。また、短編「水晶の卵」をホームズが読むシーンもある(H・G・ウェルズがウェースらに取材し、小説化した、という設定)[10]。
- シャーロック・ホームズ 火星とたたかう
- ジョージ・E・チャレンジャー 火星とたたかう
- 火星の依頼人
- 金星、火星、そしてベイカー街
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登場人物
[編集]- シャーロック・ホームズ
- ロンドンのベーカー街221Bに住む私立探偵。手に入れた水晶から、異星人の存在を察知する。48歳。
- ジョン・H・ワトスン
- ホームズの友人で記録係、そして医師。第4部、第5部の記録者。
- マーサ・ハドスン
- ホームズ(とワトスン)の住む下宿の大家で、中年女性。原典では「ハドスン夫人」とのみ記述される。
- マローンの担当したパートでは、魅力的な女性として描写されており、ホームズが「マーサ」と呼びかけている(マーサという年配の女性は、原典の「最後の挨拶」に短いながら登場する)。ホームズより少し若い。
- なお、本作の切っ掛けとなった水晶は、彼女へのクリスマス・プレゼントとして購入した物である[11]。
- ジョージ・エドワード・チャレンジャー
- 『失われた世界』等で主役を務める科学者。通称は「チャレンジャー教授」。
- 頭部は大きく、また威厳のある態度が威圧感をかもし出しているが、実は小柄な方である。また、愛妻家でもある。
- エドワード・ダン・マローン
- 『失われた世界』以来のチャレンジャー教授の友人で、新聞記者。第1部~第3部の記録者。
- ジョン・ロクストン
- 『失われた世界』以来の教授の友人で、貴族(通称は「ロクストン卿」)。不屈の闘士でもある。
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備考
[編集]本作の着想は、息子のウェイド・ウェルマンが、1968年に映画『恐怖の研究』を見て得たものである。これはシャーロック・ホームズが切り裂きジャック事件を扱うもので、それを応用し、父親の協力を受けて執筆された。なお、チャレンジャー教授の登場を提案したのは父のマンリーである[12]。
またウェイドは、「『宇宙戦争』は、ギ・ド・モーパッサンの『ル・オルラ』の影響を受けている」と述べている。彼は、その映画化作品『狂人日記』を見ており、本作のヒントにしたという[4]。なお、『ル・オルラ』をホームズが読み、モーパッサンについて語るシーンもある[13]
独自設定・解釈など
[編集]- 時代設定
- 本作の時代設定は1902年6月となっているが、これは天文学上の考証からである[14]。『宇宙戦争』では「20世紀の初め」[15]と語られており、具体的な発生年は不明。
- 翻訳の深町眞理子は、「解説」において原典「三人ガリデブ」(1902年6月末の事件)の記述を引用し、1902年6月説を支持している[16]。
- 火星人説の否定
- 火星人ではなく、「外宇宙から来た異星人」と設定されている。これは、異星人の行動を観察したホームズ、チャレンジャーの結論である。あくまで「火星人」とするウェルズに対し、ワトスンが抗議文を送っている[17](「付録」に収録)。
- この設定に関しては、後に『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』やアニメ版『ジャスティス・リーグ』第1エピソード(第1話~第3話)が踏襲している(ただし、両作品とも別に火星人が登場する)。なお、前者はホームズは登場しないがジェームズ・モリアーティが登場している。
- ヒロインとしてのハドスン夫人
- 美人で魅力的、と設定されており、ホームズとの恋仲が描かれている。別れた夫のモース・ハドスンも登場する。
- これにワトスンは全く気がついておらず、チャレンジャー教授はこの観察眼に関し、「金星、火星、そしてベーカー街」で辛い評価を与えている。
- ホームズとチャレンジャーが旧知
- 初登場の段階で、両者に面識がある[18]。
- 語られざる事件
- シャーロック・ホームズの扱った事件で、タイトルや事件の一部しか披露されてないものがあるが、それらの一部に本作で触れている。
- 中にはチャレンジャーの助力で解決したものもある(「マティルダ・ブリグズ号とスマトラの大ネズミの絡んだ事件」[19])。
出典・書籍情報
[編集]- マンリー・W・ウェルマン、ウェイド・ウェルマン 『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』 深町眞理子訳、東京創元社〈創元推理文庫SF〉、1980年
- H・G・ウェルズ 『宇宙戦争』 井上勇訳、東京創元社〈創元SF文庫〉、1969年
- H・G・ウェルズ 『ウェルズSF傑作集1 タイム・マシン』 阿部知二訳、東京創元社〈創元SF文庫〉、1965年 - 短編「水晶の卵」を収録している。
以上に関しては、順に、本書、『宇宙戦争』、『タイムマシン』と省略する。