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ザイヌル・アービディーン (カシュミール・スルターン朝)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ザイヌル・アービディーン(Zain-ul Abidin, 生年不詳 - 1470年)は、北インドカシュミール・スルターン朝の君主(在位:1420年 - 1470年)。

その治世はカシュミール・スルターン朝の最盛期であり[1]、宗教的融和が保たれ、経済は発展し、領土は拡大したため、ザイヌル・アービディーンは「ブッド・シャー」(Bud Shah, 偉大な王)として語り継がれている[2][3]

生涯

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1413年、父シカンダルが死亡すると、兄のアリー・シャーが即位した[4]

1420年にアリー・シャーはメッカへの巡礼に旅立ち、弟のザイヌル・アービディーンが王位を継いだ[4]。その治世はカシュミール・スルターン朝の黄金期ともいえる治世であった[2]

ザイヌル・アービディーンは宗教的に寛容であった。彼は父の代に弾圧されたヒンドゥー教徒ら非ムスリムと和解し、カシュミールに帰国させた[5]。ヒンドゥー教に改宗したい者には改宗の自由が与えられた[5]

ザイヌル・アービディーンは新たなヒンドゥー寺院の建設を認めたばかりか、ヒンドゥー教の図書館も修復し、ヒンドゥー教徒の免税地も返還した[2][5]。異教徒への人頭税(ジズヤ)を廃止し、牛の屠殺も禁止したばかりか、サティーの禁止を解くなどさまざまな政策を行った[2][5]

また、ザイヌル・アービディーンの治世、ヒンドゥー教徒は政権で高位の職に就くことが出来、ヒンドゥー教徒のスーリヤ・バットが司法大臣・宮廷医の職を得た[5]。ザイヌル・アービディーンの妃2人はジャンムーラージャの娘であり、彼女らは4人の息子を生んだ[5]

ザイヌル・アービディーンは学者としても知られ、カシュミール語チベット語ペルシア語サンスクリット語をよく理解していた[6]。その宮廷ではムスリムとヒンドゥーの文人らで賑わい、彼はマハーバーラタといったサンスクリット語作品のみならず、カルハナの著した王朝の歴史書ラージャタランギニーをペルシア語に翻訳させた[1][6]。彼は音楽にも興味を持ち、グワーリヤル王国の君主はこのことを聞くと、2つの珍しいサンスクリット語の音楽論を送った[6]

また、ザイヌル・アービディーンは王国の経済発展を試みた[6]。彼は中央アジアサマルカンドに人を派遣し、製紙法や製本術を学ばせたり、他にも多くの石切り、艶出し、ビン製造、金箔作り、肩掛け布といった技術を育成した。銃や火薬製造技術も彼の治世で発達した[6]。多くのダム、水路、橋が建設され、農業も発展した。

対外的には、ザイヌル・アービディーンはラダックに侵入したモンゴル人を打ち破り、バールティスターン、ジャンムー、ラージャウリーを支配下に入れ、その領土は大きく広がった[7]

これらの偉業からザイヌル・アービディーンの名声は遠方の地域にまで広がった[7]。彼はインドのほかの地域の指導者のみならず、アジアのほかの指導者たちとも交流をもった[7]

1470年、ザイヌル・アービディーンは死亡し、50年に渡る治世を終えた。王位は息子ハイダル・シャーが継承したが[4]、その死を以て王朝は衰退に向かった[2]。以後、政権内部の抗争に加え、パンジャーブ地方から度重なる侵攻により、王朝内は混乱が続いた[1][2]

脚注

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  1. ^ a b c 小谷『世界歴史大系 南アジア史2―中世・近世―』、p.134
  2. ^ a b c d e f ロビンソン『ムガル皇帝歴代誌』、p.160
  3. ^ Hasan, Mohibbul (2005) [1959]. Kashmir Under the Sultans (Reprinted ed.). Delhi: Aakar Books. p. 78. ISBN 978-81-87879-49-7. https://books.google.co.jp/books?id=EUlwmXjE9DQC&redir_esc=y&hl=ja 2011年8月3日閲覧。 
  4. ^ a b c Kashmir
  5. ^ a b c d e f チャンドラ『中世インドの歴史』、p.183
  6. ^ a b c d e チャンドラ『中世インドの歴史』、p.184
  7. ^ a b c チャンドラ『中世インドの歴史』、p.185

参考文献

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  • フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌 インド、イラン、中央アジアのイスラーム諸王国の興亡(1206年 - 1925年)』創元社、2009年。 
  • 小谷汪之『世界歴史大系 南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。 
  • サティーシュ・チャンドラ 著、小名康之、長島弘 訳『中世インドの歴史』山川出版社、2001年。 

関連項目

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