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ササクレヒトヨタケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ササクレヒトヨタケ
かさ・ひだの液化が始まりかけた子実体
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : 菌蕈亜門 Hymenomycotina
: 真正担子菌綱 Agaricomycetes
: ハラタケ目 Agaricales
: ハラタケ科 Agaricaceae
: ササクレヒトヨタケ属 Coprinus
: ササクレヒトヨタケ C. comatus
学名
Coprinus comatus
(O. F. Muell.) Pers.

ササクレヒトヨタケ(ささくれ一夜茸、学名: Coprinus comatus)は、ハラタケ科ササクレヒトヨタケ属に属する小型のキノコの一種。イタリア名で「コプリーヌ」ともよばれる[1]。幼菌は食用することができる。成菌は胞子が成熟すると傘の縁から黒く液化して、一夜にして溶けてしまう。

生態

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春から晩秋にかけて、人里近くの草地・庭園・畑地、あるいは道端などの身近なところに見られ[2]、特に有機質に富んだ地上に束生ないし群生する[3]。ときに、ウマウシなどの糞上にも見出されることがある。代表的な腐生菌[3](腐生性[2])の一つである。胞子が成熟すると、傘の縁から溶け始め、胞子を含む墨汁のような黒い液が滴り落ちて、胞子が拡散される[3][2]。この液化は腐敗によるものではなく、ササクレヒトヨタケ自身が産生する酵素の働きによる自家消化である。一夜にして溶けてしまう儚いキノコである[2]

最近の研究によれば、本種は線虫を捕捉し、窒素源として資化する線虫捕食菌のひとつでもあるという[4]

分布

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極地を除いてほぼ全世界に広く分布する[3]。日本国内でも、各地で普通に見出される。

形態

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全体の高さ3 - 12センチメートル (cm) ほどになる中形ないしやや大形のキノコで、

傘ははじめ長楕円形で柄を被い、その後は先端に丸みを帯びた鐘形に開くが平らに開くことはなく[3]、全長1.5 - 7 cm、最も太い部分の径は3 - 5 cm程度である[3]。傘の表面は白色で、繊維状で粘性を欠き、淡褐色のささくれ状の鱗片が散在する[3][2]。のちに平滑になり条線が現れる[3]。傘の縁は裂けやすい。肉はきわめて薄く、もろくて柔らかく、変色性を欠き、ほとんど無味無臭である[3]

ヒダはごく密で、柄に離生しており、薄くて比較的幅が広く、幼時は白色であるが、成熟に伴って傘の縁から次第にピンク色を経て灰紫色となり、さらに黒変し、かさの肉とともに最後には黒インク状に液化・溶解して消え去る[3]。最後には傘はほとんどなくなり、柄だけが残る[3][2]

柄は基部が紡錘状に膨らみ、白色で光沢があり、脱落しやすく薄い膜質の小さなツバを備え[2]、内部は管状に中空である[3]

胞子は楕円形で一端に明瞭な発芽孔を備え、表面は平滑、黒褐色ないしほとんど黒色を呈する。ひだの側面にも縁にも多数のシスチジア(無色・薄壁で嚢状またはこん棒状、あるいは逆フラスコ状など)を備えている。菌糸にはかすがい連結を有する。

食用

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傘が開く前の白い棒状の幼菌に限り、食べることができる[2]。外観上でまぎらわしい有毒キノコは知られておらず、味もよい。しっかりした歯ごたえがあり、旨味が強く、抗酸化作用も期待できる[1]。海外では、「キノコ狩りの超初心者が、まず覚えるべきキノコの一つ」として扱われている。ただし、液化が始まる前の子実体は、猛毒のオオシロカラカサタケの幼菌と似ているので注意が必要。

ひだが純白で黒ずんでいない「つぼみ」を主に利用するが、かさやひだが液化してしまったものであっても、柄は食用にできる。ソテーフライシチューなどによく使われ[1]、さっと茹でて温野菜サラダに加えられることもある。炒め物スープに入れてもおいしい[2]。日本ではあまり一般的ではないが、栽培品も市場に流通し、よく食べられている[3][2]

なお、本種と同様にかさやひだに液化性を持つヒトヨタケは、アルコールとともに食べると一種の中毒症状を起こすが、ササクレヒトヨタケにはその危険はない。[5]

松本零士の作品「男おいどん」に登場するキノコ『サルマタケ』のモデルはササクレヒトヨタケであるという。[6]

類似種

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主にウマの糞上に発生するマグソヒトヨタケは、外観が多少ササクレヒトヨタケに似るが、全体にやや小形で、かさの表面をおおう鱗片がより繊細で消失しやすいことと、胞子がはるかに大きいことで区別される。前者も無毒で、ササクレヒトヨタケと混同して食用にしても差し支えはない。

その他

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従来はヒトヨタケ科に所属し、ヒトヨタケ科およびヒトヨタケ属タイプ種であったが、DNA塩基配列に基づく分子系統学的解析の結果、ハラタケ科に移された。

含硫アミノ酸のエルゴチオネインを豊富に含む。

最近では人工栽培も試みられ、「コプリーヌ(フランス語名に由来)」あるいは「コケシタケ(食用適期のつぼみの外観に由来)」などの商品名が与えられて市販されつつある。

出典

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  1. ^ a b c 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、161頁。ISBN 978-4-415-30997-2
  2. ^ a b c d e f g h i j 牛島秀爾 2021, p. 68.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 吹春俊光 2010, p. 43.
  4. ^ Hong Luo, Minghe Mo, Xiaowei Huang, Xuan Li & Keqin Zhang. (2004) Coprinus comatus: A basidiomycete fungus forms novel spiny structures and infects nematode Mycologia 96: 1218-1224. online
  5. ^ Benjamin, Denis R. (1995). Mushrooms: poisons and panaceas — a handbook for naturalists, mycologists and physicians. New York: WH Freeman and Company. p. 285. ISBN 0-7167-2600-9 
  6. ^ https://ameblo.jp/magicalplants/entry-10991989971.html

参考文献

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  • 本郷次雄監修 幼菌の会編 『カラー版 きのこ図鑑』 家の光協会、2001年 ISBN 4259539671
  • 前川二太郎監修 トマス・レソェ著 『世界きのこ図鑑』 新樹社、2005年 ISBN 4787585401
  • 今関六也ほか編 『日本のきのこ』 山と渓谷社、1988年 ISBN 4635090205
  • 財)日本きのこセンター編 『図解 よくわかるきのこ栽培』 家の光協会、2004年 ISBN 978-4259517922

関連項目

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