コスプレダンスパーティー
コスプレダンスパーティーとは、参加者が主にアニメやゲームに関するコスプレをしてクラブ(ディスコ)あるいはレンタルホールや公民館等の会場でアニメソングやゲームソング、ユーロビートやハイパーテクノをはじめとするダンスミュージックなど、さまざまなジャンルの楽曲で踊るイベントのことである。コスパ、コスプレダンパ、また単にダンパ等と省略して呼ばれている。現在もコスプレイベントの一要素として定着しており、ダンスパーティー単独での開催は全盛期からは減ったものの、コスプレイベント開催時にダンスパーティーのスペースを用意している場合もある。
有名な会場としては関東の晴海客船ターミナルホールや、ムーブ町屋、東京ドームシティアトラクションズ(ジオポリス)等。他地方でも様々な場所で行っている。
歴史と変遷
[編集]1990年代以前
[編集]誰がいつコスプレダンパを始めたかには諸説あるが一般に言われているのが、同人誌即売会の一角、もしくは終了後にラジカセを持ち込んで皆で歌ったり踊ったりしていたのが発祥と言われている。超時空要塞マクロスの登場人物でアイドル歌手という設定のリン・ミンメイのコスプレをした女性達によるカラオケ大会をアニメ雑誌『マイアニメ』が取り上げて発展した物だとも言われる。「コスプレダンスパーティ」という形態でイベントを始めたのは名古屋もしくは大阪が最初という説もあるが定かではない。
1990年代
[編集]企業主アマチュア主催の2系統のイベント形態が活発に行われた。
- 企業主催のコスプレダンスパーティー
俗にコスプレダンスパーティー自体を「コスパ」として略して呼ばれることもあるが、このコスパの狭義の意味としては株式会社ブロッコリーが主催していたコスプレダンスパーティーイベントの名称のことを指す。コスパは1994年10月に東京・芝浦のディスコ「Gold」にて第1回が開催され、593人を動員した[1]。以後同人誌即売会「コミックキャッスル」と並んで創業当初のブロッコリーの営業の主力を担ったとともに、各種メディアに取り上げられるなどして当時勃興し始めたコスプレブームの一翼を担った。但し、初期には1995年5月「GOLD」で約1200人、同年9月「ヴェルファーレ」で約1200人と1000人規模の動員もあったものの、1997年9月の「ツインスター」で約500人と動員数は減少傾向にあり、これは企画のマンネリ化やブームに乗っていただけのコスプレイヤーが居なくなったためとされる。また、開催者側にとっては収益の出ない事業であり、メセナや他業の宣伝と割り切って続けられていた[1]。
会場は主に神楽坂「ツインスター」(現在は閉店)、六本木「ヴェルファーレ」(2006年末閉店)が使われており、それ以外にも全国主要都市で開催、最盛期には年間10〜20回のペースで催され、年間約10万人の動員を記録した。またブロッコリーが初めて横浜アリーナを借り切って開催したイベントも、このコスプレダンスパーティーイベントであった。
その後、ブロッコリーの業態がキャラクターコンテンツビジネスに主眼を置くようになり、また他のイベント主催者がコスプレダンスパーティーを始めとするコスプレイベントを多数開催するようになったため、2001年5月をもってブロッコリー主催のコスパは終了することとなった。このコスパのイベント開催経験をもとに、ブロッコリーは様々なイベントを開催していくようになる。一方で1995年には、コスパの主要スタッフが独立し「株式会社コスチュームパラダイス(その後株式会社コスパに社名変更)」を創業、コスプレ衣装の制作・販売や各種イベントの開催・運営を行っている。
- アマチュア団体主催のコスプレダンスパーティー
同人誌即売会終了後、机と椅子の撤去後の2〜3時間程度公民館など公共施設のホールなどを借りての開催が行われたが、やがてコスプレダンスパーティー単独で開催されるようになり50〜300人程度の動員があった。
主催者側のスタッフが曲をかけることでアマチュアDJとして活躍し始め、のちにはプロになる者もいた。
水分補給の為にフリードリンク制の水場(みずば)と呼ばれる薄い麦茶をスタッフ側が用意していた。
この頃、多くのアマチュア団体ができ始めたが会場は公共施設であり、同じ施設に対しての開催頻度が高くなるとその地区の利用者が借りることができないなどの問題が生じ始め、他にも会場近くでの騒音・たむろ等のトラブルにより借りられなくなる施設が出た。
イベントでの略称は、どの団体が開催しても「ダンパ」である。
2000年代
[編集]2000年代のコスプレダンスパーティーは、コスパなどの企業が撤退していたが、アマチュアの団体によるイベントの開催がさらに盛んとなる。
この頃には主催団体のスタッフが学生から社会人になり始めており、一部ではあるがそのままオタクコンテンツとしてのイベント主催企業を立ち上げる者も現れた。その企業や社会人スタッフが会場が手狭になり大きな箱を求めて今までの公共施設ではなく専用のクラブなどに移行し始めた。関東のコスプレダンスパーティーでは、アニメソング、特撮ソング以外にユーロビート、テクノ(テクパラ)を中心とする踊るための曲が取り入れ始めた。しかし、イベントの種類によっては、アニメソング限定であったり(これは特に懐古系、いわゆるじじい系と呼ばれる古いアニメソング中心のイベントに多い)、さらにはコスプレをしながらでのクラブ系ダンスミュージック(トランス、ハウス、ヒップホップ、R&B)等を中心としてクラブテイストを全面に押し出したイベントがこのころから増加してきた。
公共施設でのイベント開催も一部主催団体が会場を移行したのを機に他の団体が年に数度ほど一定数行われていた。
2010年代
[編集]2007年頃から、曲を踊ることを中心としたダンパという形態とは異なり、クラブスタイルのイベント(アニソンクラブイベント、通称:アニクラ)が登場し、2010年代からの主流となった。
振り付けを踊ったり、曲を次々と変えて踊ることに重点を置いたコスプレダンパに対し、アニソンクラブイベントでは、音楽そのものをDJのプレイとともに楽しむことを目的とし、踊りもフリースタイルやヲタ芸が中心である。一方、コスプレダンパでは、関東地方以外では大きく縮小していった。その背景には、2000年代のコスプレダンパにおいて、配布されたDVDなどの映像をもとにイベントの外であらかじめ踊りを覚えてくるようなスタイルが主流となり、初心者が入りづらくなったこと、ならびに個人団体によるイベントの減少などの理由から昼間に開催するイベントが減少し未成年者が参加しづらくなったことがあげられる。
また、2018年6月30日を以てディファ有明が営業を終了するなど、会場施設の老朽化による建て替えに伴い以降開催を縮小せざるをえない状況もある。
2020年代
[編集]2019年に発生した新型コロナウイルス感染症が日本国内において蔓延し始めたのを受け、コスプレ系のイベントも会場施設の運営上の制限や主催者による自主的なイベントの自粛・中止が起こった。
2021年になると、政府や自治体からの要請により、事実上ともいえる深夜営業の制限が科され、コスプレダンパは一気に衰退した。
音楽(ジャンル)
[編集]関東地方のスタンダードなコスプレダンパでは以下のジャンルが中心に流れる。
- アニメソング(アニソン)・特撮ソング・ゲームソング(主題歌や挿入歌等)
- J-POP(ジャニーズ系・ハロー!プロジェクト系・ヴィジュアル系など)
- ユーロビート
- ハイパーテクノ
また、他ジャンルとしては以下のものがあげられる。
踊り方
[編集]1997年頃の「コスパ」ではユーロビートに合わせてパラパラが踊られることがあったが、パラパラもユーロビートも当時はコスパ以外では「ブームの過ぎた過去の遺物」とされていた[1]。
コスプレダンパが他のクラブ系イベントと異なるのは多様性である。
コスプレダンパでは踊り方は振りにあわせるのもあるが自由であることが原則であるのに対し、クラブのイベントでは振り付けが禁止されていたり、ユーロビート・テクノを中心とするディスコ系のイベントではパラパラを踊ることが事実上の強制となっている。
振り
[編集]決まった振り付けを踊ることである。コスプレダンパではアニメソングや邦楽を振り付けで踊ることに対して使用される言葉である。コスプレダンパでは、主に以下を総称して「振り」と呼んでいる。
- 音楽制作者ならびにタイアップ対象作品の制作者が公式として発表した振付(例:AKB48「恋するフォーチュンクッキー」、HHH×MM×ST「Follow Tomorrow」)
- ニコニコ動画「踊ってみた」で発表されている振付(例:「ハッピーシンセサイザ」「サイバーサンダーサイダー」)
- ユーロビート・テクノなどの特定のジャンルに付けられているパラパラ(例:NIGHT OF FIRE)
- コスプレダンパ参加者が独自に制作した振付(例:『ONE PIECE』主題歌「ウィーアー!」)
公式振付ならびにニコニコ動画での振付はアニソンクラブイベントで、パラパラはユーロビート・テクノを中心とするクラブ・ディスコイベントでも踊られている。コスプレダンパの特徴でもあるのは参加者が独自に作成した振付である。それらの多くは、パラパラを基本とした振りに、主題歌となっているアニメのキャラクターが各所でとる固有のポーズを付加したものが現在では主流となっている。
フリー
[編集]本来、決まった振付を付けずに自由に踊るという意味であるが、コスプレダンパにおいては「振り」に対照的な概念として用いられる。そのため、フリーダンス以外に、本質的には振り付けであっても、下記のようなものはフリーに分類される。
- ヲタ芸(ヲタ芸で踊ることが主流となっている曲を除く)
- コスプレダンパで付けられた振りで踊ることが主流である楽曲における公式の振り付け
- 手拍子、掛け声、ステップ、ポーズ(1990年代前半、1980年代のアニメソングはほとんどがこのスタイルである)
地域性
[編集]コスプレダンパは有志により開催されていることが多く、そのため団体により各イベントの特徴は異なるが、地域ごとにおおまかな傾向を持つ。ここでは関東・東海・関西のそれぞれの地方における特色を述べる。
- 関東地方
- アニソン・ユーロビート・ハイパーテクノの3ジャンルをメインとし、振り付けにより踊るイベントが主流である。
- 東海地方
- 関東地方の3ジャンルにダンスポップ・ロック等のクラブ系(ディスコ系)サウンドを全面に押しだしたものが加わる。アニソンは名古屋地区ではフリーが、静岡地区では振り付けが主流である。ディスコサウンドの中でも、80年代ユーロビートを星の子・風の子と呼ばれる名古屋地区独自の振り付けで踊るという特徴を持っている。
- 近畿地方
- 主にアニソン中心のイベントであり、フリーで踊ることが多い。一時期は東海地方の影響を受け、ユーロビートやテクノ等のパラパラ系サウンドも普及したが、近年はアニメソングやアイドルソングに合わせてオタ芸を打つスタイルが中心となってきている。
地域毎の特色は、DJや主催者、参加者同士の交流によって他地域に影響を及ぼすことも多々ある。また近年では、アニソンクラブイベントの台頭によるものか、関東地方のようなスタイルのコスプレダンスパーティーは他地域では少数派となってきている。このため、なんらかの事情により関東地方から他地域に引っ越した場合、楽しめるイベントがない(雰囲気が自分に合わない,開催日程が限られるなど)という問題も生じている。
コスプレダンパでの論点
[編集]コスプレダンパはそのあり方自体が多種多様である。またコスプレイベントでありつつもクラブ・ディスコ等のいわゆるオタク文化とは対極にある要素を持つものでもある。そのようなことからコスプレダンパのあり方についての議論はたえない。今日のコスプレダンパ界では、主に次のようなことが議論される。
マナー
[編集]他の同人・コスプレイベントと同様に、コスプレダンスパーティーでもマナー・ルール違反が目立つようになっており、主催者・参加者ともに現在ではマナーの向上を図っている。何がルール違反となるかは団体やダンパのスタイルにも大きく異なるが、一般的に以下のようなことがマナーとされる。
- ステージではその曲のコスプレイヤーを優先する
- 走らない
- ダンスフロアに座り込まない
振り付けの複雑化
[編集]主にアニソンを中心にして起きる問題である。アニソンのジャンルにおいて、1990年代のコスプレダンパではユーロビートと異なり振りをせず、自由にリズムをとったり仲間同士の掛け声で盛り上がったり等「フリー」と呼ばれるスタイルでの「踊り方」や、あるいは振り付けがあっても簡易なものであった。しかし、2000年代以降、振りつけの複雑化が進んだ。簡単な振りはパラパラや他ジャンルのダンスをベースにした複雑な振りになり、これによって、ダンパの会場で踊れる人の振り見てその場で真似して覚えるというスタイルから、ダンパ以外の場所で事前に振り付けを覚えるという準備をして、覚えたものをダンパ会場で踊るという流れが主流になった。この変遷はダンパのスタイルにも大きな影響を及ぼした。
コスプレイヤー以外の流入によって生じる問題
[編集]この問題はユーロビートやハイパーテクノ等のパラパラ系ジャンルを主体とするイベントにてしばしば見られる。コスプレダンパ参加者、特に上記2ジャンルを中心に踊る参加者の中には、コスプレ系ではない一般のクラブイベントに参加する者も多く、コスプレイヤー以外との繋がりを持つことがある。このようなことから、最近ではクラブイベントの参加者がコスプレダンパに参加をしたり、クラブイベントの主催者と合同でイベントをするということもしばしば見受けられる。しかし、コスプレダンパと一般のクラブイベントでの文化や慣習の違いから、次のようなことが問題となっている。
- ステージの利用方法における、慣習の違いによる問題
- コスプレダンパという異なる場所において、クラブでの人間関係、特に上下関係をそのまま持ち込むことによるトラブルの発生
- マナーの許容度の違いによる問題
- コスプレダンパであるにもかかわらず、コスプレイヤーに対する偏見を持って参加する一般参加者の問題
このような問題を未然に防ぐため、一般の参加者が多く来場することが想定されるコスプレダンパでは、価格設定に差を設けたり、ステージに上がることをコスプレイヤー優先あるいは限定にする等の措置が設けられている場合が多い。
最近は声掛け等の盛り上げも薄れて来て、楽しく面白くみんなで踊るよりもどれだけ美しく上手く完璧かに変わりつつある。楽しむために有るはずの物が楽しさを二の次に完璧さばかり求め、ダンパ好きと嫌いの溝も広がりつつある。
脚注
[編集]参考資料
[編集]- 「コスプレ・マニアックワールド……「コスパ」「コスプレ誌」を取り巻くビジネス事情 - いざ!コスプレパーティへ」 増田晶文、別冊宝島358『私をコミケにつれてって! 巨大コミック同人誌マーケットのすべて』 ISBN 4-7966-9358-0、宝島社、1998年1月16日、pp. 175–181
- 主に1994年から1997年頃のコスプレパーティについて記載。インタビューに「絵夢」(歌舞伎町、2002年頃閉店)、「コスチュームパラダイス」。