ケージ (グラフ理論)
グラフ理論において、ケージとは与えられた与えられた内周を満たす正則グラフのうち、頂点数が最小のものである。
厳密に述べると次のようになる。(r,g)-グラフとは任意の頂点が相異なるr個の頂点と隣接し、かつグラフに含まれる最小のサイクルの長さがgに一致するものを指す。任意のr ≥ 2、g ≥ 3に対して(r,g)-グラフは存在することが知られている。(r,g)-ケージとは(r,g)-グラフのうちもっとも頂点数が少ないグラフのことである。
次数r、内周gのムーアグラフは存在すれば、ケージとなる。ムーアグラフの頂点数を表す式はケージに対して一般化することができる。すなわち奇内周gをもつグラフの頂点数は
以上となる。任意の(r,g)-グラフが上述の式を満たすと、定義からムーアグラフとなり、またケージとなる。同様に偶内周の場合は頂点数は
以上となる。またrとgの組み合わせによっては複数の同型でないケージが存在しうる。例えば、頂点数70となる(3,10)-ケージはバラバン10-ケージ、Harries graphとHarries-Wong graphの同型でない三つが存在する。一方で (3,11)-ケージは頂点数が112となるバラバン11-ケージのみである。
具体例
[編集]次数1のグラフはサイクルを持たない。次数2のグラフはサイクルそのもので内周は頂点数に一致する。そのためr ≥ 3の場合についてケージを考える。(r,3)-ケージは頂点数r+1の完全グラフKr+1となる。また(r,4)-ケージは頂点数2rの完全二部グラフKr,rとなる。
他の特筆すべきケージ(ムーアグラフを含む。):
- (3,5)-ケージ: ピーターセングラフ、頂点数10
- (3,6)-ケージ: ヒーウッドグラフ、頂点数14
- (3,7)-ケージ: マギーグラフ、頂点数24
- (3,8)-ケージ: Tutte–Coxeter graph、頂点数30
- (3,10)-ケージ: バラバン10-ケージ、頂点数70
- (4,5)-ケージ: ロバートソングラフ、頂点数19
- (7,5)-ケージ: ホフマン-シングルトングラフ、頂点数50
- r-1が素数のべき乗のとき、(r,6)-ケージは射影平面のインシデント・グラフとなる。
- r-1が素数のべき乗のとき、(r,8)-ケージと(r,12)-ケージは一般化多角形となる。
r > 2かつg > 2の場合に知られている(r,g)-ケージの頂点数を次表にまとめる。ただし射影平面と一般化多角形によるものは除く。
g: | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
r = 3: | 4 | 6 | 10 | 14 | 24 | 30 | 58 | 70 | 112 | 126 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
r = 4: | 5 | 8 | 19 | 26 | 67 | 80 | 728 | |||
r = 5: | 6 | 10 | 30 | 42 | 170 | 2730 | ||||
r = 6: | 7 | 12 | 40 | 62 | 312 | 7812 | ||||
r = 7: | 8 | 14 | 50 | 90 |
漸近的振る舞い
[編集]ムーアバウンドの議論から、大きいgに対して頂点数はgの指数関数的に増大する項で下から抑えられる。言い換えると、gはnの対数に比例する項で上から抑えられる。すなわち次式を得る。
実際この上限に近づくと予想されている(Bollobás & Szemerédi 2002)。知られている中でもっともよいgの下限は比較的小さな定数係数の対数で書けている。とくにラマヌジャングラフ(Lubotzky, Phillips & Sarnak 1988) は次式を満たす。
これらのグラフがケージとなることはおそらくないが、これらのグラフの存在によって上限のグラフはケージとなる必要がある。
参考文献
[編集]- Biggs, Norman (1993), Algebraic Graph Theory (2nd ed.), Cambridge Mathematical Library, pp. 180–190, ISBN 0-521-45897-8.
- Bollobás, Béla; Szemerédi, Endre (2002), “Girth of sparse graphs”, Journal of Graph Theory 39 (3): 194–200, doi:10.1002/jgt.10023, MR1883596.
- Exoo, G; Jajcay, R (2008), “Dynamic Cage Survey”, Electronic Journal of Combinatorics (Dynamic Survey) DS16.
- Erdős, Paul; Rényi, Alfréd; Sós, Vera T. (1966), “On a problem of graph theory”, Studia Sci. Math. Hungar. 1: 215–235.
- Hartsfield, Nora; Ringel, Gerhard (1990), Pearls in Graph Theory: A Comprehensive Introduction, Academic Press, pp. 77–81, ISBN 0-12-328552-6.
- Holton, D. A.; Sheehan, J. (1993), The Petersen Graph, Cambridge University Press, pp. 183–213, ISBN 0-521-43594-3.
- Lubotzky, A.; Phillips, R.; Sarnak, P. (1988), “Ramanujan graphs”, Combinatorica 8 (3): 261–277, doi:10.1007/BF02126799, MR963118.
- Tutte, W. T. (1947), “A family of cubical graphs”, Proc. Cambridge Philos. Soc. 43 (4): 459–474, doi:10.1017/S0305004100023720.
外部リンク
[編集]- Brouwer, Andries E. Cages
- Royle, Gordon. Cubic Cages and Higher valency cages
- Weisstein, Eric W. "Cage Graph". mathworld.wolfram.com (英語).