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ケイルハウイア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ケイルハウイア
生息年代: 前期白亜紀ベリアシアン期, Berriasian
模式標本のダイアグラム
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
前期白亜紀ベリアシアン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : ?広弓亜綱 Euryapsida
?双弓亜綱 Diapsida
: 魚竜目 Ichthyosauria
: オフタルモサウルス科
Ophthalmosauridae
: ケイルハウイア
Keilhauia

ケイルハウイア学名:Keilhauia)は、ノルウェースヴァールバル諸島に位置する下部白亜系の浅海の堆積物から発見された、オフタルモサウルス科魚竜の属。この属には K. nui ただ1種のみが含まれており、この種は2010年に発見され2017年にデルセットらにより記載された標本1つに基づいている。

巨大な目を有し、姿はイルカに類似する。全長は4メートルと推定され、腸骨の幅広い上端部や、大腿骨と比較して短い座骨恥骨(座骨恥骨が癒合した骨)により、他のオフタルモサウルス科の魚竜と区別できる。系統解析によりオフタルモサウルス科の基盤的な位置に置かれているが、これは化石の断片性から誤りである可能性がある。

発見と命名

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ケイルハウイアが発見された場所を示すスピッツベルゲン島の地図

2004年から2012年にかけてスピッツベルゲン中生代調査グループが行った発掘の結果、ノルウェースヴァールバル諸島スピッツベルゲン島に位置する Agardhfjellet 層 Slottsmøya Member 部層のラーガーシュテッテの露頭から多数の魚竜の標本が回収された。この露頭はアンモナイトの層序からジュラ紀後期チトニアン期から白亜紀前期ベリアシアン期に該当する可能性が高い。以前にはこの場所からクリオプテリギウス、パルベンニア[1]、ヤヌサウルス[2]が発見・記載されている[3]

オスロ大学で魚竜の標本が4つ制作され、後に2016年に記載された。このうちベリアシアン期にあたる Slottsmøya 部層から2010年に発見された PMO 222.655 は、ケイルハウイアの模式標本となっている。この繋がった部分的な骨格は左側を下にして横たわっており、吻部の一部、脊椎及び前方の尾椎、右前肢および胸帯、腰帯の大部分、両大腿骨から構成される。頚椎の全てと脊椎の一部が失われているため、発見されている椎骨に正確な番号を割り当てることは難しい。記載された他の3つの標本は2011年に発見されたPMO 222.670 と PMO 227.932、および2007年に発見された PMO 222.662 である[3]

ケイルハウイアの属名は1827年にスピッツベルゲン島へ調査のため赴いたノルウェーの地質学者 Baltazar Mathias Keilhau を称えたものである。一方で種小名のヌイは環境組織 Natur og Ungdom の頭文字からとったもので、ケイルハウイアが記載された2017年に50周年を迎えた[3]

形態

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部分的に保存された模式標本から判断して、関連するオフタルモサウルス科の魚竜クリオプテリギウスとの比較に基づき、ケイルハウイアは全長3.8 - 4.3メートルと推定されている[3][1]上腕骨の凸状となった上端部や滑らかな側面から、死亡時にはこの標本となった個体は成体ないし成体にごく近い段階であったとみられている[3][4]

頭骨と体軸の骨格

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ケイルハウイアの吻部断片(A-B)と椎骨(C-L)

吻部のごく一部しか発見されていないものの、アエギロサウルスのものよりも長く[5]、クリオプテリギウス[1]カイプリサウルス[6]のものにより類似すると考えられている。血管が存在する浅い溝(栄養管)が顎の側面で確認できる。10本の歯が保存されており、円錐形で先端が細く、わずかに湾曲していた[3]

仙骨よりも前方に存在した椎骨の正確な数を推定することは難しいが、少なくとも43個以上存在したことが示唆されている。これはアサバスカサウルスの42個[7]ナノプテリギウスの41個、プラティプテリギウス・アメリカヌスの37個[8]を上回る一方で、プラティプテリギウス・アウストラリスの46個[9]を下回っており、アエギロサウルス[5]やクリオプテリギウス[1]プラティプテリギウス・プラティダクティルスに至っては50個の椎骨が存在していた。後方の脊椎は前方に近い脊椎よりも広く長くなっており、前面と後面は丸みを帯びている。第1尾椎は椎骨の中で最も長く広い[10]が、その後方の尾椎は急速に短くなる[3]

それぞれの神経棘はその下にある脊椎と同等の長さであり、これはクリオプテリギウスに近い[1]オフタルモサウルスとは異なる(オフタルモサウルスの場合は頚椎後方において神経棘が長い)。ジェンガサウルスと同様に[11]、前方に位置する神経棘は対応する椎骨よりも長いが、徐々にその長さを失っていく。神経棘の先端は骨の最も薄い部分であり、クリオプテリギウス[1]やプラティプテリギウス・アウストラリス[9]とは違って切れ込みは入っておらず真っすぐである。肋骨は頂端においては8の字型の断面を持つが、底部においては明瞭でなく、これはアカンプトネクテス[12]モレサウルス[13]以外のオフタルモサウルス科に共通する典型的な特徴である。背側の肋骨の長さは約75 - 81センチメートルに達する一方、最前部に近い腹肋骨は2 - 5センチメートルにすぎない[3]

前肢と胸帯

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ケイルハウイアの肩甲骨(A-B)、鎖骨 (C-D)、烏口骨(E)、上腕骨(F-H)

ケイルハウイアの肩甲骨は前端部で扇状の肩峰突起に向かって広がった比較的真っすぐなブレード状の構造を持つ。クリオプテリギウス[1]システロニア[14]およびプラティプテリギウス・ヘルキニクスに共通した特徴であるが、アカンプトネクテス[12]スヴェルトネクテス[15]ほど発達してはいない。肩甲骨には寛骨臼というよりむしろ関節窩が形成されており、関節窩は肩甲骨の底の表面に達していない。これはスヴェルトネクテス[15]と共通し、クリオプテリギウス[1]とは異なる特徴である。広く広がった肩甲骨の部位は中央付近で最も広くなっており、わずかに下を向いていた。肩甲骨の厚さは比較的均一であり、これはアカンプトネクテス[12]以外のオフタルモサウルス科の魚竜と特徴を異にする[3]

鎖骨胸帯の他の骨とは繋がっておらず、胴体の正中線に向かって突出した正面下縁上で厚く発達している。この構造は短く、正面から見ると正方形である。他のオフタルモサウルス科魚竜の大半においては同様の構造は指のような形をしているが、オフタルモサウルスの標本にはケイルハウイアと同様の構造を持つものが数点存在する。肩甲骨の背部は湾曲した点に向かって徐々に細くなっており、これはオフタルモサウルスやバプタノドンおよびヤヌサウルスと共通する[2][3]

烏口骨腎臓のような形状をした骨で、幅と長さが同程度である。クリオプテリギウス[1]やナノプテリギウスおよびスヴェルトネクテス[15]ではケイルハウイアほどの幅はない。オフタルモサウルスやアースロプテリギウス[16]と同様に、鳥口骨の前縁部には窪みが発達している。また正中線の正面に隆起が存在するが、これはオフタルモサウルスとアカンプトネクテス[12]に共通し、カイプリサウルス[6] やプラティプテリギウス・アウストラリス[9]と異なる形質である。肩甲骨との関節面と関節窩は明確に分かれており、これはスヴェルトネクテス[15]と共通しアカンプトネクテス[12]と異なる。肩甲骨との関節面の長さは関節窩の45%程度しかなく、クリオプテリギウス[1]では50%である。また、2つの関節面の長さはヤヌサウルスのものと一致する[2][3]

上腕骨には発達した突起が2つ存在する。背側には長く尾根状の比較的控えめな突起が存在し、他のオフタルモサウルス科の魚竜と比較して非常に短く、上腕骨の半分の長さにも満たず、ウンドロサウルスアエギロサウルスに共通する[5]。オフタルモサウルス、ブラキプテリギウスパラオフタルモサウルス、クリオプテリギウス[1]においては上腕骨の半分の長さにまで達し、アースロプテリギウス[16]やプラティプテリギウス各種[8][9][17]はさらにそれを上回る長さを誇る。もう1つの突起は胸三角筋が附随する突起であり、これも上腕骨の長さの半分未満というオフタルモサウルス科の中では小さな部類で、アースロプテリギウス[16]やヤヌサウルス[2]およびプラティプテリギウス・ヘルキニクス[17]に共通する。オフタルモサウルスでは上腕骨の半分の長さと等しく、システロニア[14]やアカンプトネクテス[12]およびプラティプテリギウス・アメリカヌス[8]では上腕骨全体の長さと等しい[3]

上腕骨の中央は最大幅の20%ほど細くなっており、下端は上端よりも大きい。下端には3つの関節面が存在し、前体軸方向の部位との関節面(最小)、橈骨との関節面(最大)、尺骨との関節面(橈骨との面に対し120°の角度をなす)である[3]。スヴェルトネクテス[15]、ナノプテリギウス、プラティプテリギウス・ハウタリ[18]、プラティプテリギウス・プラティダクティルスは2つの関節面しか持たず、マイアスポンディルス[19]、アエギロサウルス[5]、ブラキプテリギウス、プラティプテリギウス・アメリカヌス[8]は3つの関節面を持つものの第2の面は別の骨と繋がっている。クリオプテリギウス[1]は左上腕骨に2つ、右上腕骨に3つの関節面を有する。また、プラティプテリギウス・アウストラリス[9]とプラティプテリギウス・ヘルキニクス[17]は4つの関節面を持つ。

後肢と腰帯

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ケイルハウイアの腸骨(A-D)、座骨恥骨(E)、大腿骨(F-H)

ケイルハウイアの腸骨はオフタルモサウルス科の他の魚竜と比較して非常に短く、この点ではアエギロサウルスのみが近い形質を持つ[5]。体の後方を向いた腸骨の側面は凹状になっており、オフタルモサウルスとアサバスカサウルス[7]およびヤヌサウルス[2]と共通する。ただしアサバスカサウルスとヤヌサウルスの凹状構造はより卓越している。腸骨の下端に位置する寛骨臼は腸骨の他の部位と比較して厚くなり、明確な関節面を持たない。腸骨の上端は寛骨臼の端の1.5倍の幅を誇る[3]

座骨恥骨は癒合して台形の骨を形成しており、もう一方の縁の1.4倍の幅を持つ広い縁を正中線上に有する。ただしアエギロサウルス[5]、ヤヌサウルス[2]、オフタルモサウルス、アサバスカサウルス[7]と比較すると小さい。この骨の完全な癒合はヤヌサウルス[2]、スヴェルトネクテス[15]、アサバスカサウルス[7]、アエギロサウルス[5]、カイプリサウルス[6]そしておそらくプラティプテリギウス・アウストラリス[9]にも見られる形質である。一方でオフタルモサウルス、クリオプテリギウス[1]、ウンドロサウルス、パラオフタルモサウルスでは骨に小さな穴が残っており完全には癒合していない。本来恥骨であったとみられる部位は同じ骨の他の部位よりも厚い。またオフタルモサウルス科の中では唯一、この癒合した骨が大腿骨よりも短い[3]

上腕骨と違ってケイルハウイアの大腿骨は上端下端ともに同じ幅であり、中央部は上腕骨と同じくわずかに細い。上端は前縁部に沿ってかすかに厚い。アースロプテリギウス[16]と同様に大腿骨の背側腹側の突起は大きく縮小しているが、これはオフタルモサウルスと反する特徴である。下端には脛骨と繋がる関節面と腓骨に繋がる関節面の2つが存在し、これはプラティプテリギウス・ヘルキニクス[17]、プラティプテリギウス・アメリカヌス[8]、プラティプテリギウス・アウストラリス[9]およびパラオフタルモサウルス以外のオフタルモサウルス科に典型的な特徴である。なお、例に挙げたものは関節面を3つ有している。ケイルハウイアが持つ2つの関節面の大きさは等しく、腓骨との関節面はわずかに後方を向き120°の角度をなしていた[3]

分類

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2017年にケイルハウイアはオフタルモサウルス科に位置付けられた。これは、前肢の前縁に切れ込みが存在しないことや上腕骨の前方に付属する骨(魚竜が特殊化して得た骨)との関節面が存在することが根拠である[12]。系統発生解析においてもケイルハウイアはオフタルモサウルス科に分類されている。

しかしながら、頭部の骨が欠けているために、オフタルモサウルス科の中での関係性を解明することは困難である。ケイルハウイアはオフタルモサウルス科の基盤的な位置に配置されているが、これに対し懐疑的な意見もある。なお同様の問題はウンドロサウルスについても言うことができ、前肢がクリオプテリギウスに類似しているにもかかわらず基盤的な位置に配置されている[3]

オフタルモサウルス科

ケイルハウイア

アースロプテリギウス

ウンドロサウルス

プラティプテリギウス亜科

プラティプテリギウス・ヘルキニクス

プラティプテリギウス・アウストラリス

カイプリサウルス

ブラキプテリギウス

マイアスポンディルス

スヴェルトネクテス

アエギロサウルス

オフタルモサウルス亜科

アカンプトネクテス

レニニア

オフタルモサウルス

モレサウルス

アサバスカサウルス

クリオプテリギウス

パルベンニア

ケイルハウイアは様々な特徴により同時期の生物と区別できる。クリオプテリギウスと異なって上腕骨と尺骨の関節面は後方を向き、座骨と恥骨は完全に癒合し開口を持たない[1]。上腕骨の強度はヤヌサウルスに劣り、同時に大腿骨の背側・腹側の突起も発達していなかった[2]。これらの特徴および固有派生形質が、ケイルハウイアが独立していたことの証拠となっている[3]

古生態

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ケイルハウイアの記載論文において行われた魚竜の体型比率に関する統計分析により、魚竜の進化史において彼らは腸骨を相対的に著しく縮小させる進化はしなかったものの、大腿骨は上腕骨と比較して巨大化する進化をしていたことが示されている。ケイルハウイアの腰帯・大腿骨・上腕骨は小さいが、パルヴィペルヴィア類に属する魚竜としての正常な範囲内に収まっている[3]

古環境

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Agardhfjellet 層 Slottsmøya 部層はケイルハウイアが発見された層であり、シルト岩頁岩の混合物から形成されており、深海堆積物に近い浅海環境に堆積した[20]。海底は水面の150メートル下に存在し、砕屑性堆積物により定期的に酸化されていたものの、酸素は比較的に欠乏していたみられている[21]。しかし部層の最上部では冷水湧出帯に関与する多様な群の無脊椎動物が発見されており、アンモナイト舌殻綱腕足動物二枚貝嘴殻綱の腕足動物、チューブワームベレムナイト掘足綱(ツノガイ類)、海綿動物ウミユリ綱ウニオニヒトデヒトデ腹足綱腹足綱など54の分類群を含む[22]。冷水湧出帯の外側ではこのような無脊椎動物が多様に生息していたということである[21]

2017年の時点でケイルハウイアの4つの標本のほかに Slottsmøya 部層では魚竜標本が多数発見されており、クリオプテリギウス[1]、パルベンニア、ヤヌサウルス[2]の模式標本もこの中に含まれている。また、2018年にはパルベンニアの第2の標本も発見された[23]。さらに同地域から首長竜の標本が21個知られており、巨大なプリオサウルス・フンケイが2体、Colymbosaurus svalbardensis が3体、Spitrasaurus wensaasi および S. larseni がそれぞれ1体発見されている。これらの標本の大半は立体を保った状態で保存されており、部分的に繋がっている。このことから、これらの標本が埋没した堆積物に有機物が豊富に存在したことと、局所的に無脊椎動物が存在していなかったことが示唆されている[21]

出典

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