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クォデネンツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ドブリーニャ・ニキティチ
ヴィクトル・ヴァスネツォフ作《3人の勇士》の1人

クォデネンツ剣またはクラデニェッツ剣меч-кладенец [mʲet͡ɕ kɫədʲɪˈnʲet͡s])は、ロシアの伝承に登場する魔法の剣。「魔法剣」、「隠された剣」、「鋼鉄の剣」などと意訳される。

サモセクまたはサモショーク「自ずと振るわれる剣、自動剣」( самосёк [səmɐˈsʲɵk] )と同一視する参考書もある一方、これとは明確に区別する解説もみられる。

定義・語源

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特定の剣を指す言葉でなく、魔剣のような定義の言葉である。マックス・ファスマー『ロシア語源辞典』(1967年)では、「ロシア民話における魔法剣」と定義しており[注 1][1]、これに準じて「魔法剣」とも訳されている[2]

スラブ語で「宝、埋蔵物」等を意味する「クラド」[注 2]に語源を求める意見もあるが、これには懐疑的な言語学者の数々がいるとされる[3]。またこれに関連した「置く」という意味の「クラースチ」[注 3]が語源という説明もされる[1]

クラデニェッツは「宝」であるため、《「隠された」宝が勇士によって発見される》というモチーフがしばしば関係し、その剣の隠し場所は壁の内、岩の下、聖樹の下などであるが[4][3]ジョージ・ヴェルナドスキー英語版の解説では、ここから展開してクラデニェッツ剣を「隠された剣」と意訳している[5]

一方、歴代ロシア科学アカデミーによるロシア語辞典やロシア民話辞書系統では、クラデニェッツは「鋼鉄」を意味する「ウクラド(ニー)」という語[注 4]が語源だとされてきた[6][7][8]。これにならい「鋼鉄の剣」と意訳する英訳書もある[6]

また、アレクサンドル・ヴェセロフスキー英語版(1888年)が提唱した説によれば、ボヴァ・コロレヴィッチロシア語版の物語に登場する剣名グラレンツィヤまたはグラデンツィヤ(кгляренция, кгляденция [注 5])、特に後者の転訛だとしている[10]ロシア語のボヴァの物語は、ハンプトンのベヴィス英語版のイタリア語版ブオーヴォ・ダントーナから翻案されたもので、元となったイタリア語の剣名はクラレンツァ(Clarença[10]キアレンツァChiarenza)などと綴る[6][11]ファスマー『ロシア語源辞典』(1967年)でもこの説を記載している[6]

転訛としてコルニェッツ剣 (меч-колуне́ц mech-kolunets)の表記が、ペチョリブィリーナにみられる[7]

用例

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エルスラン・ラザレーヴィッチ英語版」の昔話(スカズカ英語版)にもクラデニェッツ剣は触れられている。主人公は、巨大な頭に遭遇し、燃える盾と炎の槍の帝王[注 6]を倒すことができる剣は、その頭の下にあると教えられる。とともに名が挙げられている[12][13]

サモセク

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サモセク(サモショーク)「自ずと振るわれる剣、自動剣」について、ジョージ・ヴェルナドスキー英語版は、クラデニェッツ剣と同じくロシア民話にたびたび登場する器具ではあるとしているが、クラデニェッツ剣の場合は勇士(ボガティル英語版)が振るわなければならないものとしており、自動剣であるサモショークとは区別している[14]

一方、クラデニェッツ剣をサモショークと同一視する参考書として、ロシアの民話学者エレアザール・メレチンスキー英語版が監修する神話辞典が挙げられる[4]。その根拠は詳らかにされていないが、クラデニェッツ剣とはしばしば壁の中などに隠された剣であると解説しており、その用例に挙げている「バビロンの都の昔話」(Skazanie o Vaviloné grade Сказании о Вавилоне-граде)では[注 7][4]、剣の持ち主ネブカドネザルは、必勝の剣サモショークを壁の内(中)に封じ込めよと命令している[15]。作中、サモショーク剣は「アスピド=ズメイ」(Аспид-змей。「アスプ蛇英語版」と「竜」の意)の異名を持つが、蛇に変身することもあり、「狼男的な剣」だと解説されている[4]

別の文献では、サモショーク剣が聖ゲオルギオスに命じられて、タタールの帝王の首を掻く[3]

注釈

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  1. ^ ファスマーの原文引用:"волшебный меч в русск. сказках (ロシア民話〔スカズカ〕における魔法の剣)"。
  2. ^ клад.
  3. ^ класть.
  4. ^ укладъ, укладный, uklad[ny]
  5. ^ ドイツ表記だとkgl'arencyja, kgl'adencyja[9]
  6. ^ ([царь] Огненный Щит Пламенные Копья
  7. ^ 英訳題名:"Tale of the City of Babylon"。

出典

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  1. ^ a b Vasmer (1967), "kladenets [кладенец]," Etimologicheskiy slovar' russkogo yazyka (ファスマー編『ロシア語源辞典』) p. 243
  2. ^ Haney, Jack V. (2015). #136. Storm-Bogatyr, Ivan the Cow's Son. 1. Univ. Press of Mississippi. https://books.google.com/books?id=IQQbBwAAQBAJ&pg=PT401 .
  3. ^ a b c Vernadsky, George (1959), The Origins of Russia, Clarendon Press, p. 137, https://books.google.com/books?id=cPHTAAAAMAAJ 
  4. ^ a b c d А. Ч. (1998). "Mech-kladenets" Меч-кладенёц. In Meletinsky, Yeleazar M. [in 英語] (ed.). Myfologiya Мифология (ロシア語). Большая российская энциклопедия. p. 364.
  5. ^ Vernadsky (1959), p. 137: "..'the hidden sword' (mech-kladenets).. this sword is usually represented as hidden under a rock, or under a sacred tree".
  6. ^ a b c d Levchin, Sergei (2014). Blast Bogatyr Ivan the Cow's Son. Mineola, New York: Dover. https://books.google.com/books?id=7XhpAwAAQBAJ&pg=PA153 , p. 157, note 36.
  7. ^ a b Pushkinsky Dom (2001), Slovar folklora 2: Byliny Pechory (国立ロシア文学研究所プーシキン・ドーム編〈民話辞典〉第2巻『ペチョリのブィリーナ』)p. 602
  8. ^ 2nd Sect. Imp. Acad. Sci. (1907)(帝国科学アカデミー第2課編『ロシア語辞典』第4巻、K–Kampilyt)、p. 917より、以下引用: "по Слов. Акад. и Д. (Словарь Академіи Наук) означающий булатный, укладный или стальной (科学アカデミー辞典によればブラート鋼英語版, ウクラドニー鋼、鉄鋼を意味する)"。
  9. ^ Greve, Rita (1956) (ドイツ語), Studien über den Roman Buovo d'Antona in Russland, In Kommission bei O. Harrassowitz, Wiesbaden, p. 44, https://books.google.com/books?id=chgcAAAAIAAJ&q=%22kgl'adencyja 。 Vasmer (1967), p. 243に指定。
  10. ^ a b Wesselofsky, A (1888), "Zum russichen Bovo d'Antona", Archiv für slavische Philologie (ドイツ語), 9: 310Vasmer 1967, p. 243で典拠に挙げている。
  11. ^ Branca, Daniela Delcorno, ed. (2008) (イタリア語), Buovo d'Antona: cantari in ottava rima (1480), Carocci, pp. 82, 85, https://books.google.com/books?id=TJMLAQAAMAAJ&q=Chiarenza 
  12. ^ Korolkova, Anna Nikolaevna; Pomerantseva, Erna Vasilyevna, eds. (1969), “Yeruslan Lazarevich”, Русские народные сказки (Nauka): p. 57 (47–64), https://books.google.com/books?id=MFImAAAAMAAJ&q=%D0%9E%D0%B3%D0%BD%D0%B5%D0%BD%D0%BD%D1%8B%D0%B9 , repritned Aegitas (2014).
  13. ^ アー・エヌ・カラリコーヴァ (述)田中泰子 訳「エルスラン・ラザレーヴィッチ」『ロシアの昔話』、(世界民間文芸叢書) 第4巻、1976年。 
  14. ^ Vernadsky (1959), p. 137: "In Russian folk-lore, 'the self-swung sword' (mech-samosek), as well as 'the hidden sword' (mech-kladenets), is often mentioned."
  15. ^ Melencamp, Noble Merrill (1956), Foreign and Domestic Policies of Ivan III, 1462-1505, 9, p. 206, https://books.google.com/books?id=U1xIAQAAMAAJ&q=Nebuchadnezzar+sword, "According to the narrative, Nebuchadnezzar had been invincible in war owing to his possession of a self-acting sword, which at his death Nebuchadnezzar had ordered immurred in the city walls" .

参考文献

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