カムバックサーモン運動
カムバックサーモン運動(カムバックサーモンうんどう)とは、戦後の高度成長期の自然破壊により途絶えたサケの回帰を復活させる活動である[注釈 1]。
各河川での活動
[編集]栗山川
[編集]九十九里浜に注ぐ栗山川では、戦後の高度成長期に回帰が途絶える以前の1957年(昭和32年)[1][注釈 2]までは自然産卵と自然遡上によるサイクルが維持され、上流[2]では平安時代に起源をもつ山倉大神の鮭祭りが長年にわたり営々と続けられていた[3]。その後、用水事業などによる自然破壊のため一時回帰が途絶えた後、1976年(昭和51年)より行われた千葉県内水面水産試験場の増殖事業により稚魚が放流され回帰は復活した。しかし回帰数が少ないことと遡上したサケはブナ化し食味に劣り[4]、商品価値が低いことから商業化は見送られた[5]。
商業化は見送られたものの、事業そのものはボランティア活動として続けられ、横芝堰の手前で栗山川漁業協同組合が捕獲して採卵し受精させた後、横芝町と光町の小学校で育てて放流するサケの里親制度として定着、さらに上流の多古町と香取市も参加し、小学校だけでなく域内域外を問わず一般家庭の参加も加わった活動となった[1][5][6]。
なお、遡上を妨げていた横芝堰には2007年(平成19年)に竣工した改修により魚道が設けられ、上流への遡上も復活した[7]。
豊平川
[編集]昭和の初めまで札幌市の中心を流れる豊平川には多くのサケが遡上しており、1937年(昭和12年)から増殖事業も行われた。しかし戦後、人口の急増に下水道整備が追いつかない状態になり生活排水が豊平川に流れ込んだため水質が悪化し、1953年(昭和28年)には増殖事業は中止され豊平川に遡上するサケはいなくなった。
その後、下水道の整備が進み1970年代には水質が回復し、豊平川の水はきれいになったにもかかわらずサケの遡上は回復しなかった。この状況を憂いた市民有志は1978年(昭和53年)に『さっぽろサケの会』を結成、翌1979年(昭和54年)にサケの稚魚を放流し2年後の1981年(昭和56年)には成長したサケが遡上した。この成功を受けて1984年(昭和59年)に札幌市豊平川さけ科学館が作られ放流事業を引き継いだ。1985年(昭和60年)からは自然産卵も確認されている[8]。
宝酒造との関係
[編集]宝酒造は1979年(昭和54年)4月に『さっぽろサケの会』への支援を発表し、「カムバック・サーモン・キャンペーン」を開始した[9]。これに併せて宝焼酎「純」の協賛記念ボトルを北海道限定で発売し、1,000万円(※4年間の売上を合計した額の一部)を同団体へ寄付している[9]。
同社は支援活動の宣伝CMとして『サケと共に自然よ帰れ COME BACK SALMON』[注釈 3](出演:石原良純[注釈 4])を放映し、同社の提供番組の1つ、『西部警察 PART-II』(テレビ朝日系列)では当運動を基にしたドラマ作品、「-北都の叫び-カムバック・サーモン」が製作され[注釈 5]、1982年12月12日に放送された。
その他の河川
[編集]- その他、日本では由良川(京都府)や千曲川(長野県)などでも同様の活動が行われた[9]。
- 多摩川(東京都)でも馬場錬成らにより「多摩川にサケを呼ぶ会」が結成され多摩川とほぼ同緯度の栗山川でのサケの回帰が実現したことから多摩川でも回帰するはずとして稚魚放流を続けたが、元々自然遡上していたわけではない多摩川での回帰は実現していない。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 人手によって途絶えた自然による回帰を復活することは可能であるが、人手により回帰を実現させるのは容易なことではない。
- ^ 翌年の1958年には昭和33年塩害が発生している。
- ^ ※宝焼酎「純」のテレビCMに冠したタイトル。
- ^ ※『COME BACK SALMON 豊平川にサケを呼び戻そう』という北海道ローカルCMもあったが、同CMには石原は出演していない。
- ^ 札幌市での地方ロケ(全国縦断ロケ)作品。水質研究所の所長として働く父親と、それに反抗して大門軍団が追う事件に関与した息子の葛藤を描いた内容。劇中には「カムバック・サーモン・フェスティバル」(劇中での主催者名は『札幌にサケを戻す会』。宝酒造は同イベントの協賛)のシーンもある。
- ^ 同エピソードにはドラえもんが「サイラン液」を使い、サケをふ化して稚魚を川に放すことをのび太に話すシーンがある。(※サケのふ化に関する詳細は「サケのふ化放流事業 - さけます・内水面水産試験場(地方独立行政法人北海道立総合研究機構)」を参照)
- ^ 1984年(11月30日放送)は「サイラン液でサケをもどそう」、2012年(11月23日放送)は「パパとのび太と酒の泳ぐ川」という題で放送(※放送日はテレビ朝日で放送した日を記載)。
出典
[編集]- ^ a b “無病息災を願う山倉大神の鮭祭り” (PDF). 21世紀に伝えたいちばの魅力 Vol.26. 京葉銀行. 2023年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ “栗山川(くりやまがわ/千葉県)”. 川の地図. 2023年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ “山倉の鮭祭り”. 香取を旅する. 香取市 (2020年2月18日). 2023年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ ぼうずコンニャク(藤原昌高): “サケの成長段階での呼び名”. ぼうずコンニャク株式会社. 2023年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ a b “日本財団図書館(電子図書館) 「海と川の企画展」図録:房総の漁?海と川?”. 日本財団. 2023年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ 「「必ず帰って来て」 栗山川にサケの稚魚 横芝光の小学生ら」『千葉日報』2014年3月14日。オリジナルの2023年1月20日時点におけるアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ “ちばの魚道「栗山川」”. 千葉県. 2023年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ “昭和55年頃-暮らし・社会1”. 【札幌開発建設部】治水100年. 国土交通省北海道開発局 札幌開発建設部. 2023年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ a b c d e “カムバック・サーモン・キャンペーン”. 宝酒造. 2021年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月25日閲覧。
- ^ “11月23日(金曜日)「パパとのび太と酒の泳ぐ川」「しかえしミサイルが飛んできた」”. ドラえもん 過去のお話いちらん. テレビ朝日. 2018年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月22日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 栗山川におけるシロザケの種苗放流事業30年の歴史 - 千葉県水産総合研究センター研究報告
- 札幌市豊平川のカムバックサーモン運動 - マルハニチロ