オルンシュタイン・ゼルニケ方程式
オルンシュタイン・ゼルニケ方程式(オルンシュタイン・ゼルニケほうていしき、英: Ornstein–Zernike equation, OZ方程式)とは、統計力学において、直接相関関数を定める積分方程式の一つである。基本的には、2分子間の相関がどのように計算されるかを記述する。主に液体理論の分野に応用されている。この名称は2人の物理学者レオナルド・オルンシュタインとフリッツ・ゼルニケの名に由来する。
導出
[編集]以下の導出は、実際には発見的手法である。厳密な導出には膨大なグラフ解析または関数的技巧が要求される。全導出については文献[1]を参照のこと。
次のように全相関関数を定義すると便利である。
これは分子1が、距離離れた分子2に対し、動径分布関数をもって及ぼす「影響」の度合いである。1914年にオルンシュタインとゼルニケは[2]、この影響を2つの寄与、すなわち直接的な部分と間接的な部分とに分けることを提案した。直接的な寄与は直接相関関数によって与えられると定められ、で示される。間接的な部分は分子1から新たな分子(分子3)への影響によるものであり、そして分子3は分子2に直接的および間接的な影響を与える。間接的な効果は密度によって重み付けされ、分子3がとりうるすべての位置について平均される。この分解は数学的には次のように記述される。
これがオルンシュタイン・ゼルニケ方程式と呼ばれている。興味深いのは、間接的影響の除去によって、がよりも短距離的になっており、より簡単に記述することが可能となっている点である。OZ方程式は次のような興味深い性質を持っている。すなわち、方程式全体にであるを掛け、とで積分することによって、次の式を得る。
, のフーリエ変換をそれぞれ, と表せば、先の式は次のように書き直すことができる。
この式を整理して、次の表式を得る。
と(あるいは、等価であるが、各々のフーリエ変換)の両方を同時に解くためには、もう一つ別の方程式を必要とする。そのような方程式は閉包関係と呼ばれている。OZ方程式は、形式的には、全相関関数による直接相関関数の定義、とみることもできる。研究対象の系の詳細(特に相互作用ポテンシャルの形状)は閉包関係の選択において考慮される。一般的に用いられる閉包関係はパーカス・イェヴィク近似である。これは侵入できない中心部を持つ粒子によく適合している。もう一つよく用いられる閉包関係に超網目状鎖方程式があり、「より柔らかい」ポテンシャルに広く用いられる。さらなる情報については文献[3]を参照のこと。
関連項目
[編集]- パーカス・イェヴィック近似 - OZ方程式を解くための閉包関係の一つ
- 超網目状鎖方程式 - OZ方程式を解くための閉包関係の一つ
参考文献
[編集]- ^ Frisch, H. & Lebowitz J.L. The Equilibrium Theory of Classical Fluids (New York: Benjamin, 1964)
- ^ Ornstein, L. S. and Zernike, F. Accidental deviations of density and opalescence at the critical point of a single substance. Proc. Acad. Sci. Amsterdam 1914, 17, 793-806
- ^ D.A. McQuarrie, Statistical Mechanics (Harper Collins Publishers) 1976
- 荒川泓『水・水溶液系の構造と物性』北海道大学図書刊行会、1989年。ISBN 9784832992610。
- ピーター・イーゲルスタッフ (Peter A. Egelstaff)『液体論入門』広池和夫・守田徹訳、吉岡書店、1971年。ISBN 9784842701547。
- 遠藤裕久、八尾誠 著「液体の構造と物性」、大槻義彦 編『物理学最前線』 31巻、共立出版、1993年。ISBN 9784320032934。
- ノーマン・キューサック (Norman E. Cusack)『構造不規則系の物理(上)』遠藤裕久・八尾誠訳、吉岡書店、1994年。ISBN 9784842702469。
- 戸田盛和、松田博嗣、樋渡保秋、和達三樹『液体の構造と性質』岩波書店、1976年。ISBN 9784000050920。
- リンダ・ライシェル (Linda E. Reichl)『現代統計物理(下)』鈴木増雄監訳、丸善、1984年。ISBN 9784621028230。
- 長倉三郎他 編「オルンシュタイン・ゼルニケの式」『岩波 理化学辞典 第5版』岩波書店、1998年。ISBN 9784000800907。
外部リンク
[編集]- The Ornstein–Zernike equation and integral equations
- Multilevel wavelet solver for the Ornstein–Zernike equation Abstract
- Analytical solution of the Ornstein–Zernike equation for a multicomponent fluid
- The Ornstein–Zernike equation in the canonical ensemble
- Ornstein–Zernike Theory for Finite-Range Ising Models Above Tc
- OzOS(レオナルド・オルンシュタインとフリッツ・ゼルニケの名に由来するLinuxディストリビューション)