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オベチェ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アフリカスオウから転送)
オベチェ
ガーナで採取されたオベチェの標本。
保全状況評価[1]
LOWER RISK - Least Concern
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ上類 superrosids
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : アオイ類 Malvidae
: アオイ目 Malvales
: アオイ科 Malvaceae
亜科 : Helicteroideae
: オベチェ属 Triplochiton
: オベチェ T. scleroxylon
学名
Triplochiton scleroxylon K.Schum.
シノニム
  • Samba scleroxylon (K.Schum.) Roberty[2]
英名
African whitewood, African maple

オベチェ[3][4][5][6][7][8]あるいはオベチュ[9](obeche; 学名: Triplochiton scleroxylon)とは、アオイ科(旧アオギリ科)の落葉高木の一種である。西アフリカの主にギニアからカメルーンにかけて自生し(参照: #分布)、西アフリカで産出する材木の半分を占める[9]。特徴の一つはカエデのような形状の葉であり(参照: #特徴#オベチェ属)、また材木は白っぽい色合いで加工が容易であり、内装家具彫刻などの用途がある(参照: #利用)。ガーナでは伝統的な紋様(アディンクラ・シンボル)の一つに本種の種子にちなむものが見られるが、この紋様はガーナ以外の場所でも使用されている(あるいはそう推定される)例が複数見られる(参照: #民俗・ポップカルチャー)。

オベチェというのはナイジェリアエド語に由来する呼称である[10]が、本来のエド語の発音では [óʋɛxɛ̀] といい、「オヴェヘ」に近い発音である(参照: #諸言語における呼称)。カメルーン周辺での呼称からアユース(ayous)[7][11][注 1]コートジボワール等での呼称からサンバ(samba)[12][5]とも呼ぶ(参照: #諸言語における呼称)。日本においてはアユースの名で取引されていることが多い[8]アフリカスオウと訳された例も存在する[10]

木材としては軟らかい部類であるが、それにもかかわらずギリシア語で〈硬い材〉を意味する種小名 scleroxylon がつけられている[13]

分布

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ギニアシエラレオネリベリアコートジボワールガーナトーゴベナンナイジェリアカメルーン赤道ギニアガボン中央アフリカ共和国コンゴ共和国コンゴ民主共和国に分布する[2]

生態

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サバンナや古い二次林に見られ、半落葉林の第一級高木である[12]。ガーナでは落葉林で極めてよく見られる一方、湿潤地域では極めてまれであり、二次林で急速に生長する[14]

特徴

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胸高直径1-1.5メートル[6]の大径木で、樹冠は小さく密である[12]。落葉性、樹幹はまっすぐで高さ65メートル以下、老木になると縦溝が見られるようになる[9]。樹皮は灰色から橙褐色、鱗状になる[9]。樹皮と材との間から明褐色でゼラチン状の樹液がしみ出し、青く変わる[12]板根は高い[12]

葉は掌状裂の単葉[12]互生、広卵形から3角形、葉の1/3程度まで切れ込みがあり、裂片は5-7[9]葉柄は長い[12]

花は短い円錐花序(落葉期に集散花序[12])で多少とも皿状で白色、花弁の基部は赤紫色である[9]。芳香がある[12]

果実は1つづつの水平翼のある5分果である[12]

利用

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オベチェ材
オベチェ材

オベチェからは木材が得られる。外観は辺材心材もほぼ区別がなく淡黄白色から淡黄色で[6]木肌は非常に粗く、直通な材であるが柾目で軽い交錯木理をなし、細かい斑が出て光沢を見せる[11]

ベルリンで見世物にされたナイジェリア産オベチェ材(1932年1月)

材質は軽軟で収縮も小さく、湿度変化にも変動が少ない[11]気乾比重は0.32-0.49[7]、乾燥は非常に早く容易で、裂けや既存のひびの拡大もないが若干ねじれが生じることがあり、また湿度の高い環境下で鉄化合物と接触すると青色染色を起こしてしまう[6]。柔らかいが目が詰まっているために繊維が壊れにくく、木口がボロボロにならない[7]曲げ強さ[注 2]圧縮強さ[注 3]は低く、剛性[注 4]耐衝撃性[注 5]も極めて低い[6]が、軽軟な材のわりにはしなやかな方である[11]蒸し曲げに対する適性は中庸から低度である[6]。加工時に細かい木粉が舞い上がって喘息症状を起こす恐れがあるためマスクを着用するなどして作業に臨むことが強く推奨される[11]。しかし加工はしやすく個体差も感じられないため建築材に向いている[7]。手道具でも機械でも加工は容易であり[6]ロクロを使用する場合はサクサク削れる[7]。刃先を鈍磨させる性質もわずかしかなく、切削の際には刃先を鋭く研摩したものを浅い角度で用いることが推奨される[6]。接着も塗装も良好で[11]、釘打ちも容易であるが釘着性は低い[6]。辺材はヒラタキクイムシ[注 6]の害を受けやすいが透水性があり、保存薬剤を吸収してくれる[6]。一方、心材は腐朽しやすく保存薬剤による処理も困難である[6]

耐久性も強度も重要でない場所で、白木家具造作、内装横木引き出し桟木や裏板、キャビネットの骨組み、内装建具、モールディングオルガン用スライダーレス共鳴板、模型製作に用いられ、さらに青色染色を起こしてしまったオベチェ材も象嵌職人に愛好されている[6]彫刻にも適しており、長尺ものなど大きな板材を得ることが可能である[7]ロータリーカットされて積層材の芯材や合板の裏板に、また縞模様の美しいものはスライスカットされて化粧単板にされる[6]。ほかに箱材や額縁にも用いられる[11]ポプラ材の代用となる[12]

民俗・ポップカルチャー

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ことわざ

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ナイジェリアヨルバ語でオベチェは arère と呼ばれ、以下のようなオベチェが登場することわざが存在する。

  • Àràbà tún ara mú, odò ńgbé Arère.

これは文字通りには「川がオベチェを流してしまったらカポック(別名: パンヤノキ)は帯を締めるはずだ」と訳されるが、この西アフリカ産の立派な2種の木が用いられたことわざの含意は、用心するために状況の変化を評価し直し続けることの必要性を説いたものである[17]。つまり、自分の仲間に起こった良いことあるいは悪いことは自分自身にもそのうち起こり得るので身構えておくべきということである[17]

ワワ・アバ

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アディンクラ・シンボルの一つ、ワワ・アバ
アフリカネイションズカップ2008公式試合球「ワワ・アバ」

ガーナの現地語の一つであるアカン語でオベチェはワワ(wawa)と呼ばれる[18]が、喪服などに用いられる布アディンクラ(adinkra)の柄(アディンクラ・シンボル)の一つにワワ・アバ(アカン語: wawa aba)というものがある。ワワ・アバとは文字通りには〈ワワの種〉を意味するが本種の種子は非常に硬く[18]、このシンボルは〈頑丈さ〉、〈忍耐〉を表す(Willis (1998:196–7))[19]。このシンボルはジャマイカの首都キングストンエマンシペーション・パーク: Emancipation Park、〈解放公園〉)の一角にも装飾として用いられている[20][注 7]。また、マーベルシリーズにおいて架空のアフリカの国・ワカンダ王国の王女という設定のキャラクターシュリが、映画『ブラックパンサー』においてワワ・アバと見られる紋様入りのシャツを着用して登場するシーンが存在するが、この紋様について衣裳デザイナールース・カーターは、「このアディンクラ・シンボルは〈目的〉を意味し」、「シュリは確かにワカンダ王国においてある目的を持っています」と説明している[22]

なお、ワワ・アバの名称はガーナで開催されたサッカー大会・アフリカネイションズカップ2008の公式試合球の名にも用いられている (de:wawa aba

諸言語における呼称

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アフリカの現地語には複数の言語名を持つものもある。Lewis et al. (2015) も参照。

ガーナ:

ガーナおよびコートジボワール:

カメルーン:

コートジボワール:

コートジボワールおよびギニア、リベリア:

コンゴ民主共和国(旧ザイール):

  • 言語名不明: ayous[5]

中央アフリカ:

  • 言語名不明: bado, ayus[5]

ナイジェリア:

リベリアおよびギニア:

リベリアおよびコートジボワール:

オベチェ属

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オベチェ属Triplochiton)は World Flora Online[31] や Hassler (2019) によれば2種が認められているが、よく知られているものはオベチェのみである[5]。もう一方の種は Triplochiton zambesiacus Milne-Redh. というもので、ザンビア南部およびジンバブエに分布する[2]

葉の形はヨーロッパ北アメリカカエデシカモアのものに似て掌状に裂け、果実には翼が見られる[28]

属名 Triplochitonギリシア語で〈3つの覆い〉を意味し、花の形にちなむものである[28]

日本を含む中新世の北半球に広く分布していた葉化石ウリノキモドキ Byttneriophyllum tiliifolium との類縁が示唆されている[32][33]

脚注

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注釈

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  1. ^ 小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 (1994) によれば、カメルーンの材木市場の名に由来する。
  2. ^ 板材の両端に力を加えて割れる時の力を測定したもの[15]
  3. ^ 木口に加えられる荷重に耐えられる能力のことで、短柱や支柱などに用いられる木材にとっては重要な要素となる[15]
  4. ^ 木材の弾力性を表す尺度で、曲げ強さとの関連で考慮される[15]
  5. ^ 木材の靭性の尺度のことで、急に加えられる衝撃荷重に対する抵抗力を表す[15]
  6. ^ Lyctus brunneus をはじめとするLyctus属の甲虫類などを指す[16]
  7. ^ ジャマイカへは1509年にはスペイン人たちにより、1655年以降はイギリスによりアフリカからの奴隷が連行されたが、記録からはアカン人英語版がその大部分を占めていたことが窺われる[21]

出典

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  1. ^ African Regional Workshop (1998).
  2. ^ a b c Hassler (2019).
  3. ^ 須藤, 彰司「我が国の市場における輸入材(IV)完」『木材工業』第24巻第9号、1969年、12頁。  (国立国会図書館デジタルコレクション)
  4. ^ 堀田・緒方 (1989).
  5. ^ a b c d e f g h 平井 (2001).
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m ウォーカー (2006:183).
  7. ^ a b c d e f g 河村・西川 (2014).
  8. ^ a b 坂本・西川 (2016:44).
  9. ^ a b c d e f リズデイルら (2007).
  10. ^ a b 小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 (1994).
  11. ^ a b c d e f g 村山 (2013).
  12. ^ a b c d e f g h i j k l 熱帯植物研究会 (1996).
  13. ^ 緒方 (1994:63).
  14. ^ a b c d e f g h i j k Irvine (1961:184).
  15. ^ a b c d ウォーカー (2006:182-3).
  16. ^ ホルガー (2000:181).
  17. ^ a b Faleti (2011).
  18. ^ a b c Azindow (1999).
  19. ^ Jackson (2000:1)
  20. ^ Désir (2014).
  21. ^ Osei-Mensah Aborampah (2005:129).
  22. ^ Kim Renfro (2018年5月9日). “This simple detail in Shuri's 'Black Panther' costume was a hidden message to the audience”. INSIDER. 2019年4月26日閲覧。
  23. ^ 现代科学技术词典 (1980).
  24. ^ Kröger (2001:386).
  25. ^ a b c d e f g h i j Schnell (1950).
  26. ^ a b c d e f g h i j k l m n Kerharo & Bouquet (1950).
  27. ^ 安岡 (2004:57).
  28. ^ a b c d e f g h i Keay (1989:120).
  29. ^ Agheyisi (1986).
  30. ^ Abraham (1958).
  31. ^ World Flora Online, http://www.worldfloraonline.org/, 28 Apr 2019.
  32. ^ 山田敏弘 (4 July 2023). "1900万年前の温暖期の地層から"オベチェの森"を発見 ~地球環境変化と植生変化との関係解明に期待~" (PDF) (Press release). 北海道大学. pp. 1–5. 2023年8月31日閲覧
  33. ^ Nishino, Megumi; Terada, Kazuo; Uemura, Kazuhiko; Ito, Yuki; Yamada, Toshihiro. “An exceptionally well-preserved monodominant fossil forest of Wataria from the lower Miocene of Japan”. Scientific Reports (Nature) 13. doi:10.1038/s41598-023-37211-z. 

参考文献

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英語:

ドイツ語:

フランス語:

日本語:

中国語:

関連文献

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ドイツ語・ラテン語:

英語:

  • Willis, W. Bruce (1998). The Adinkra Dictionary: A Visual Primer on the Language of Adinkra. Washington, DC: The Pyramid Complex 

関連項目

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  • Milicia excelsa - ガーナやナイジェリアなど主に西アフリカ諸国に生育しイロコという材木が得られるクワ科の高木で、地域を跨いで様々な伝承が見られる。

外部リンク

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