アスティカカウリス属
アスティカカウリス属 | ||||||||||||||||||
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stalked cell形態を示す細菌。
左:カウロバクター・クレセンタス Caulobacter crescentus 中:アスティカカウリス・エクスセントリカス Asticcacaulis excentricus 右:アスティカカウリス・ビプロスセシウム Asticcacaulis biprosthecius | ||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Asticcacaulis Poindexter 1964[1] (IJSEMリストに掲載 1980)[2] | ||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||
アスティカカウリス・エクスセントリカス Asticcacaulis excentricus Poindexter 1964[1] (IJSEMリストに掲載 1980)[2] | ||||||||||||||||||
下位分類(種)(2024年9月現在)[16] | ||||||||||||||||||
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アスティカカウリス属(ーぞく、Asticcacaulis)は真正細菌のPseudomonadota門アルファプロテオバクテリア綱カウロバクター目カウロバクター科の属の一つである。細胞分裂において2つの異なる特徴的な形態の細胞を呈するDimorphic Prosthecate Bacteria(DPB)であることで知られている[5]。
概要
[編集]アスティカカウリス属の英名については、古代ギリシア語における否定の接頭辞”a”、新ラテン語で棒を意味する名詞”sticca”、ラテン語で茎を意味する男性名詞”caulis”で構成されており、全て合わせて「棒ではない茎」を意味するラテン語男性名詞となる[16]。これは、同じカウロバクター科であり、細胞分裂の際に特徴的な棒状の細胞"stalked cell"を形成するカウロバクター属と関連付けられた時、アスティカカウリス属細菌は細胞分裂でstalked cellを形成しないことに因む[17]。
桿状無色の単細胞のプロステーカ細菌である[1]。プロステーカは細胞極ではない部位から生じ、接着物質は伴わない。増殖は、プロステーカを持つ細胞の分裂によって発生し、分裂後は、プロステーカを継承した有柄細胞(stalked cell)と、それよりも小さく、細胞極の中心に単一の鞭毛を持ち運動性を示すがプロステーカは持たない遊泳細胞(nonstalked cell)が生まれる。遊泳細胞は成長すると、プロステーカを発生させて運動性を示さなくなる栄養期に入る。接着物質は、茎の発生部位とは異なる細胞極又はその付近の部位から、遊泳期と栄養期の両方において分泌される。この接着物質により、細胞は環境中の物体表面に接着したり、他の細胞と結合してロゼットを形成したりできる。
下位分類(種)
[編集]アスティカカウリス・エクスセントリカス(Asticcacaulis excentricus、タイプ種)
[編集]本属のタイプ種である。 "excentricus"は、ラテン語で「(物体)の内部から」を意味する前置詞"ex"と、「(円の)中心点」を意味する中性名詞"centrum"と、「~に関係する」を意味する"-icus"を組み合わせた造語であり、「中心から外へ」を意味する。DNAのGC含量は59.5%であり、ゲノムサイズは4.31Mbpである[18]。タイプ株はATCC 15261T(=CIP 107064T、=DSM 4724T、=VKM B-1370T)である[18]。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAB016610である。
アスティカカウリス・ビプロスセシウム(Asticcacaulis biprosthecius)
[編集]タイプ株はATCC 27554T(=CIP 107000T、=DSM 4723T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAJ247193である[19]。
アスティカカウリス・タイヒュエンシス(Asticcacaulis taihuensis)
[編集]"taihuensis"は、新ラテン語で「太湖に関連する」を意味する女性形容詞であり、この細菌が太湖の湖底堆積物から発見されたことに由来する。グラム陰性、好気性、非胞子形成性の桿菌である[12]。単一の極鞭毛で運動する。細胞極の近くで単一の典型的なプロステーカを形成し、それには接着剤は存在しない。DNAのGC含量は59mol%である。タイプ株はT3-B7T(=AS 1.3431T、=JCM 12463T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAY500141である。
Asticcacaulis benevestitus
[編集]"benevestitus"は、ラテン語で「よく」を意味する副詞"bene"と、「包まれた」を意味する形容詞"vestitus"を組み合わせた造語であり、「よく包まれた」を意味する。グラム陰性の桿菌(幅0.5~0.7×長さ1.4~2.0μm)である[5]。二分裂で増殖する。二形性の生活環において、細胞亜極にプロステーカを持つ固着細胞が分裂して、細胞極に単一の鞭毛を持つ運動細胞が生じる。この運動細胞はやがて直径0.10~0.15μmの単一の非接着性プロステーカを細胞亜極から生じさせる。10℃未満の温度では、ほとんどのプロステーカ細胞は円錐形のベル型の鞘に包まれており、この鞘はプロステーカと細胞の接合点で細胞と連結している。PYG培地で20℃で7日間インキュベートしたコロニーは不透明白色、平滑、直径1~2.5mmの円形で、縁全体が凸状でである。好気性の化学有機栄養生物であり、炭素源としてグルコース、スクロース、キシロース、マルトース、ガラクトース、アラビノース、ラクトース、フルクトース、エタノール、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、ラフィノース、ラムノース、及びトレハロースを利用できる。培養には酵母エキスが必要である。生育条件は温度4~28℃(最適15~20℃)且つpH 4.5~8.3(最適pH 5.6~6.0)である。NaClは生育に必要ではなく、2.0%(w/v)濃度までの耐性がある。原核生物のタンパク質合成を阻害する抗生物質に感受性を示す。主要な脂肪酸は18:1ω7cであり、主要なリン脂質はホスファチジルグリセロールである。DNAのGC含量は58.4mol%で、ゲノムサイズは4.99Mbpである[18]。タイプ株はZ-0023T(=DSM 16100T、=ATCC BAA-896T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAM087199である。
Asticcacaulis solisilvae
[編集]"solisilvae"は、ラテン語で「土」を意味する名詞"solum"と、「森林」を意味する名詞"silva"を組み合わせた造語であり、「森林土壌の/に由来する」を意味する。単一の鞭毛を持ち運動性を有する、グラム陰性且つ偏性好気性の桿菌 (幅0.30~0.75μm、長さ1.3~ 2.4μm)である[10]。コロニーは象牙色でクリーミーな質感の円形である。生育条件は温度10~37℃(最適25~30℃)且つpH 4.5~9.5(最適5.0~7.0)である。DNAのGC含量は63.7mol%である。タイプ株はCGM1-3ENT(= AIM0088T、= KCTC 32102T、= JCM 18544T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はJX144961である。
アスティカカウリス・エンドフィティカス(Asticcacaulis endophyticus)
[編集]"endophyticus"は、ギリシャ語で「内部へ」を意味する前置詞"endo"、「植物」を意味する名詞"phyton"を組み合わせた造語であり、「植物内部に存在する」を意味する男性形容詞となる。この命名は、この細菌が植物組織から単離されたことに由来する。R2A寒天培地で2日間インキュベートしたコロニーは薄黄色の平滑な円形凸状であり、直径1~2mmであり、縁は規則的である[8]。R2A寒天培地、NA寒天培地及びTSA寒天培地では良好に培養できる。マッコンキー寒天培地又は麦芽エキス寒天培地では培養できない。カタラーゼ及びオキシダーゼ陽性である。DNAのGC含量は57.8mol%である。タイプ株はZFGT-14T(= CCTCC AB 2013012T、= KCTC 32296T、= LMG 27605T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はKF551184である。
Asticcacaulis tiandongensis
[編集]"tiandongensis"は、新ラテン語で「Tiandongに関連する」を意味する男性形容詞である。グラム陰性、好気性、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陽性、運動性で、単一の極鞭毛を持つ桿菌(幅0.3~0.5µm、長さ0.7~1.2µm)である[14]。プロステーカは形成しない。コロニーは黄色がかった滑らかな円形且つ凸状であり、直径は1.0~4.0mmである。生育条件は温度10~40℃且つpH 5.0~8.0であり、最適条件は30℃且つpH 7.0である。最大1%(w/v)のNaCl濃度に耐えることがRA2培地での培養で確認されている。DNAのGC含量は56.0mol%である。タイプ株は3.1105T(=KCTC 62978T、=CCTCC AB 2018268T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列及びゲノム配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はそれぞれMH605318及びSSBC00000000である。
その他の種
[編集]- Asticcacaulis aquaticus
- aquaticusはラテン語で「水生の」を意味する男性形容詞であり、この菌株が最初に発見された場所に由来する。タイプ株はBYS171WT(=GDMCC 1.3226T、=KCTC 92612T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はOQ130452である。
- Asticcacaulis currens
- currensはラテン語で「動く」を意味する男性形容詞である。タイプ株はDXS10WT(=GDMCC 1.3224T、=KCTC 92543T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はOQ130453である。
- Asticcacaulis machinosus
- machinosusはラテン語で「巧みに構築された」を意味する男性形容詞である。タイプ株はLKC15WT(=GDMCC 1.3225T、=KCTC 92544T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はOQ130454である。
これら3種の主要な細胞脂肪酸は、summed feature 3(C16:1 ω7c及び/又はC16:1 ω6c)、summed feature 8(C18:1 ω7c及び/又はC18:1 ω6c)、C16:0並びに11-メチルC18:1 ω7cである[3]。それらの極性脂質は主にホスファチジルグリセロール、糖脂質及び窒素含有リン酸化糖脂質で構成されている。
歴史
[編集]- 1964年に米カリフォルニア大学のJeanne Stove Poindexterはアスティカカウリス・エクスセントリカス(Asticcacaulis excentricus)の発見を報告し、現在と同様カウロバクター科の細菌としてアスティカカウリス属を提案した[1]。
- 1973年にアスティカカウリス・ビプロスセシウム(Asticcacaulis biprosthecius)が発見された[7]。
- 1999年にアスティカカウリス属とその近縁属と考えられていた属との系統学的関係について16S rRNA遺伝子配列解析によって調査が行われた。当時はその特徴的な細胞分裂形態からカウロバクター属(Caulobacter)やブレブンディモナス属(Brevundimonas)と同じグループであることは認識されていたが、その系統学的近縁が裏付けられた。2001年に16S rRNA遺伝子配列のほか、脂質分析を含んだ複合的な遺伝学的生理学的解析がなされ、これら3つの近縁属は細胞膜の極性脂質によっても区別できることが示され、カウロバクター属は1,2-ジアシル-3-O-[6'-ホスファチジル-α-D-グルコピラノシル]グリセロールを欠如している点で他2属と異なった[20]。
- 2005年に中国科学院のLiuらは、中国江蘇省の淡水湖の太湖湖底の堆積物からアスティカカウリス・タイヒュエンシス(Asticcacaulis taihuensis)を発見したことを報告した[12]。
- 2006年にロシア科学アカデミーのVasilyevaらは、極地ウラルのヴォルクタのツンドラ湿地の泥炭からAsticcacaulis benevestitusを発見したことを報告した[5]。
- 2013年に韓国科学技術研究院のKimらは、韓国清渓山の森林土壌からAsticcacaulis solisilvaeを発見したことを報告した[10]。
- 2014年に西北農林科技大学のZhuらは、中国陝西省にある太白山のオオダイコンソウ(Geum aleppicum Jacq.)の根を表面滅菌したものから植物内生菌としてアスティカカウリス・エンドフィティカス(Asticcacaulis endophyticus)を発見したことを報告した[8]。
- 2020年に雲南大学のZhouらは、中国貴州省のTiandong洞窟のカルスト土壌からAsticcacaulis tiandongensisを発見したことを報告した[14]。
- 2023年に雲南師範大学のLuらは、中国の河川からAsticcacaulis aquaticus、Asticcacaulis currens及びAsticcacaulis machinosusを発見したことを報告した[3]。
系統樹
[編集]アスティカカウリス属の代表菌株の進化的関係を表す系統樹を下記に示す[14]。
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ヒフォモナス・ポリモルファ(Hyphomonas polymorpha) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
[編集]- ^ a b c d e Jeanne Stove Poindexter (Department of Bacteriology, University of California, Berkeley, California Hopkins Marine Station, Stanford University, Pacific Grove, California) (1 September 1964). “BIOLOGICAL PROPERTIES AND CLASSIFICATION OF THE CAULOBACTER GROUP”. Bacteriological Reviews 28 (3). doi:10.1128/br.28.3.231-295.1964. PMC 441226. PMID 14220656 .
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