ユミル
ユミル[1](古ノルド語: Ymir)とは北欧神話『スノッリのエッダ』に出てくる原初の巨人。彼はまたアウルゲルミル(古ノルド語: Aurgelmir、「耳障りにわめき叫ぶ者」)とも呼ばれる[2]。なお「Ymir」の日本語表記には、他に、ユーミル[3]、ユミール[4]、イミル[5]などがある。
『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』の語るところでは[6]、ユミルはギンヌンガガプの、ムスペルヘイムの熱で溶かされたニヴルヘイムの霜から、原初の牝牛アウズンブラとともに生まれ、この牝牛の乳を飲んで多くの子孫を産み、これが霜の巨人族となった[7]。
あるとき、最初に生まれた神ブーリの息子ボル(ブル)が、ユミルの一族である霜の巨人ボルソルンの娘ベストラと結婚し、オーディン、ヴィリ、ヴェーの三神が生まれた。巨人達は非常に乱暴で神々と常に対立していたが、巨人の王となっていたユミルはこの三神に倒された。この時、ユミルから流れ出た血により、ベルゲルミルとその妻以外の巨人は死んでしまった。
三神はユミルを解体し、血から海や川を、身体から大地を、骨から山を、歯と骨から岩石を、髪の毛から草花を、まつ毛からミズガルズを囲う防壁を、頭蓋骨から天を造り、ノルズリ、スズリ、アウストリ、ヴェストリに支えさせ、脳髄から雲を造り、残りの腐った体に湧いた蛆に人型と知性を与えて妖精に変えた[要出典]。
「ユミル」の名は、インド神話に登場するヤマ(閻魔大王)と同語源である[8]。H.R.エリス・ディヴィッドソンはその上で、彼の名を「混成物」「両性具有」と理解することができ、1人で男性と女性を生み出し得る存在と考えることができ、さらには人間と巨人の始祖ともみることができるとしている[9]。
脚注
[編集]- ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』、『北欧神話』(デイヴィッドソン)などにみられる表記。
- ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』228頁。
- ^ 『アスガルドの秘密 北欧神話冒険紀行』(ヴァルター・ハンゼン著、東海大学出版会、2004年、ISBN 978-4-486-01640-3)などにみられる表記。
- ^ 『北欧神話と伝説』(ヴィルヘルム・グレンベック著、山室静訳、新潮社、1971年、ISBN 978-4-10-502501-4)などにみられる表記。
- ^ 『北欧の神話伝説(I)』(松村武雄編、名著普及会〈世界神話伝説大系29〉、1980年改訂版、ISBN 978-4-89551-279-4)などにみられる表記。
- ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』228-230頁。
- ^ 蔵持不三也『神話で訪ねる世界遺産』ナツメ社、2015年、68頁。ISBN 978-4-8163-5870-8。
- ^ Julius Pokorny. Indogermanischer etymologisches Wörterbuch p.505.
- ^ 『北欧神話』(デイヴィッドソン)236頁。
参考文献
[編集]- H.R.エリス・デイヴィッドソン(en)『北欧神話』米原まり子、一井知子訳、青土社、1992年、ISBN 978-4-7917-5191-4。
- V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。