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アイリーン・ルスティック

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アイリーン・ルスティック
アイリーン・ルスティック
人物情報
生誕 1974年(49 - 50歳)
イギリスの旗 イギリス
国籍 イングランド系アメリカ人
学問
研究機関 カリフォルニア大学サンタクルーズ校
公式サイト
film.ucsc.edu/faculty/irene_lusztig/
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アイリーン・ルスティック(Irene Lusztig、1974年 - ) は、イングランド系アメリカ人ドキュメンタリー映画作家、芸術家である。ルスティックは、作品を通じて、歴史的な記憶やアーカイブ共産主義ポスト共産主義、そしてフェミニスト歴史学についての探求を行っている[1]

ルスティックは、1974年にイギリスで生まれ、アメリカ合衆国ボストンで育った。現在は、サンタクルーズ_(カリフォルニア州)に在住している。

彼女は、ハーバード大学映画製作と中国研究で学士号を取得したのち、バード大学ミルトン・エイブリー芸術学大学院で映画と映像の修士号を取得した[1]。 現在は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校デジタルメディア学科で教鞭をとっている[1]

ルスティックの映画は、数多くの映画祭で上映されてきた。彼女の作品が上映された映画祭としては、ベルリン国際映画祭リンカーン・センター映画協会ロンドン映画祭アメリカン・フィルム・インスティチュートAFIドキュメンタリー映画祭アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭ホットドックス・カナダ国際ドキュメンタリ―映画祭ドクリスボアポルトガルリスボンで開催されるドキュメンタリー映画祭)などがある。

また、ルスティックの映像作品は、ボストン美術館ニューヨーク近代美術館などの美術館や、アンソロジー・フィルム・アーカイヴズパシフィック・フィルム・アーカイヴといった、フィルム・アーカイヴ施設においても、展示・上映が行われてきた[2]


経歴

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ルスティックの長編映画デビュー作は、2001年に公開された リコンストラクション(Reconstruction)』である。この映画は、ルスティックの祖母に起きた出来事に基づいている。ルーマニア系ユダヤ人であったルスティックの母方の祖母、 モニカ・セヴィアヌは、1959年ヨアニド・ギャングによる銀行強盗に関わった罪で終身刑を宣告された。『リコンストラクション』ではこのエピソードに基づいている。家族の歴史という、ルスティック個人のレンズを通して、ルーマニア共産主義の歴史と、その繰り返し、権威主義的な政治の問題を照射した作品である[3][4][5]

この映画は、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭の初出場プログラムにおいて国際プレミア上映がなされた他[6]、ニューヨーク現代美術館におけるドキュメンタリ―映画祭「ドック・フォートナイト(Doc Forgnight)」にて上映された。その後、ARTEでの放映も行われた。

この映画について、『ボストン・フェニックス』誌は「野心的であり、かつ広大な見通しをもった映画」と称賛し、『バラエティ』誌は「最高級の私的ドキュメンタリーの一例」と絶賛した[7] and hailed as "an example of personal documentary at its best" by Variety.[8]

2003年、『フィルムメイカー』誌は、ルスティックを「インディーズ映画のニューフェイス25人」のひとりに選出している[9]


ルスティックが2013年に発表した長編映画『母性のアーカイヴズ(The Motherhood Archives)』は、100本以上の教育映画アーカイブの映像を組み合わせ、イデオロギーに媒介された、20世紀出産の歴史が探求されている[10][11][12][13]


2018年に公開された長編映画『ユアーズ・イン・シスターフッド(Yours in Sisterhood)』では、1970年代に、フェミニズム誌『Ms.』に送られた、未発表の手紙に焦点を当てている[14] 。この映画は、近年のフェミニズム政治学の文脈のなかで、1970年代の歴史と第二波フェミニズムを検証しようとしたものである。 この映画は、2018年のベルリン国際映画祭のフォーラムでプレミア上映され[15]テディ賞のドキュメンタリー/エッセイ部門にノミネートされた[16]2015年から2017年にかけて撮影された『ユアーズ・イン・シスターフッド』では、身体的傾聴(embodied listening)の手法が用いられていて、、アメリカ全土のそれぞれの場所に生きる現代の女性たちに『Ms.』の編集者に送られた手紙を読み上げるとともに、それについて省察することを促す。1972年から1980年にかけて『Ms.』編集長に宛てて書かれた手紙が、現代の女性たちによって読みあげられ、省察されるのである[17][18][19]

この作品は、『ハフポスト[20]、『 ワシントン・ポスト[21] 、『ロサンゼルス・レビュー・オブ・ブックス』[22]、『ハイパーアレルジック』[23]によって、大きな称賛を受けた。


2023年に公開された長編映画『リッチランド(Richland)』 [24]は、アメリカワシントン州にある郊外の街、リッチランドに暮らす人々に焦点を当てたドキュメンタリー映画である[25][26][27]。リッチランドは、マンハッタン計画の下で設営された核燃料生産拠点ハンフォード・サイトで働く人々のために人工的に創られた街である[28]。ルスティックはこの映画のなかで、この街の現在を生きる人々との対話を繰り返しCITEREFひとシネマ2024、そのなかで見出された人々の姿とその声を映し出している。 この映画はその後、2024年7月に日本でも公開され、ミニシアターを中心に全国約30カ所で上映が行われている[29]


ルスティックの映画においては、歴史的な資料や素材が、現代における対話に持ち込まれる。それによって、鑑賞者は、個人的・集合的・国家的な記憶の生成といった問題や、政治やイデオロギーに関する問題など、より大きな問題を理解し考えていくための方法として、歴史的な空間を探索するよう促されるのだ[30]

ルスティックの映画は、リンカーン・センター映画協会[31] 、アンソロジー・フィルム・アーカイヴズ[32]、パシフィック・フィルム・アーカイヴ[33] 、ロンドン映画祭、ホットドックス・カナダ国際ドキュメンタリ―映画祭[34] 、AFIドキュメンタリー映画祭[35] 、メルボルン国際映画祭[36]、モントリオール国際映画祭など[37]、世界中で上映されている。

ルスティックは、映画制作以外にも、プロデューサーとしても活躍している。『コンテンツインベントリー(Contents inventory)』(2021)、『視界の外(Out of Sight)』(2015)、『母性テスト(Maternity Test)』(2014)、『イグジット426: ワトソンビル(Exit426: Watsonville)』(2012)、『サマンサ・スミス・プロジェクト(The Samantha Smith Project)』(2005)、『リコンストラクション(Reconstruction)』(2002)などの映画では、プロデューサーを務めている。


映画

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Year[30][38] 映画タイトル 上映時間 形式 備考
2023 リッチランド(Richland) [29] 93分 デジタルシネマパッケージ, 5.1ch 配給 KOMSOMOL FILMS LLC(2023年アメリカ)[38]

配給ノンデライコ(2024年日本)

2018 Yours in Sisterhood 101分 高精細度ビデオ 配給 Women Make Movies
2016 Forty Years 12分 高精細度ビデオ
2014 Maternity Test 14分 高精細度ビデオ
2013 The Motherhood Archives 90分 16ミリ, 高精細度ビデオ, アーカイブ資料 配給 Women Make Movies
2005 The Samantha Smith Project 51分 デジタルビデオ, スーパー8フィルム, アーカイブ資料
2001 Reconstruction 90分 デジタルビデオ, スーパー8フィルム, アーカイブ資料 配給 Women Make Movies
1997 For Beijing with Love and Squalor 58分 Hi8


参考文献

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出典

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  1. ^ a b c ルスティックHP 2022.
  2. ^ ルスティックHP2 2022.
  3. ^ Nichols, Bill (2008-09-01). “Documentary Reenactment and the Fantasmatic Subject”. Critical Inquiry 35 (1): 72–89. doi:10.1086/595629. ISSN 0093-1896. 
  4. ^ Mihăilescu, Călin-Andrei (2010). “Re-Ro: Re-enacted scripts in and around Alexandru Solomon's "The Great Communist Bank Robbery"”. Film Criticism 34 (2/3): 96–105. ISSN 0163-5069. JSTOR 44019240. 
  5. ^ Brădeanu, Adina (2002年4月1日). “Exploring dark family secret” (英語). Modern Times Review. 2021年1月26日閲覧。
  6. ^ www.oberon.nl, Oberon Amsterdam, Reconstruction | IDFA, https://www.idfa.nl/en/film/848eacb6-314a-4772-bdc7-541369e574e0/reconstruction 2019年6月14日閲覧。 
  7. ^ Gerald Peary - film reviews - Reconstruction”. www.geraldpeary.com. 2019年6月17日閲覧。
  8. ^ Eisner, Ken (2002年10月31日). “Reconstruction” (英語). Variety. 2019年6月14日閲覧。
  9. ^ 25 NEW FACES OF INDIE FILM 2003 - Filmmaker Magazine - Summer 2003”. filmmakermagazine.com. 2019年6月14日閲覧。
  10. ^ The Motherhood Archives” (英語). www.wmm.com. 2019年6月14日閲覧。
  11. ^ Schultz-Figueroa, Benjamin (2015年6月3日). “IRENE LUSZTIG with Benjamin Schultz-Figueroa” (英語). The Brooklyn Rail. 2019年6月14日閲覧。
  12. ^ Gonzalez, Maya (2013年7月10日). “The Birth of Motherhood” (英語). The New Inquiry. 2019年6月14日閲覧。
  13. ^ Altman, Anna (2014年8月3日). “Why Our Expectations of Childbirth Are Changing” (英語). Op-Talk. 2019年6月14日閲覧。
  14. ^ "Yours in Sisterhood" Doc Brings '70s Era Ms. Magazine Letters to Life” (英語). womenandhollywood.com. 2019年6月17日閲覧。
  15. ^ Arsenal: Yours in Sisterhood” (英語). Arsenal – Institut für Film und Videokunst e.V.. 2019年6月14日閲覧。
  16. ^ Programme Guide TEDDY AWARD 2018” (英語). Issuu (6 February 2018). 2019年6月14日閲覧。
  17. ^ D. Andy Rice (2018年12月20日). “The Sense of Feminism Then and Now: Yours in Sisterhood (2018) and Embodied Listening in the Cinema Praxis of Irene Lusztig” (英語). Senses of Cinema. 2019年6月14日閲覧。
  18. ^ A Movie Uncovers Unpublished Letters Written to Ms. Magazine in the 1970s” (英語). Hyperallergic (2018年9月14日). 2019年6月14日閲覧。
  19. ^ Yours in Sisterhood: The Film Connecting Feminists Through Vintage Letters to Ms. – Ms. Magazine”. msmagazine.com (18 January 2018). 2019年6月14日閲覧。
  20. ^ Fang, Marina (2018年6月18日). “Modern Women Bring Voice To '70s Letters In An Inventive Documentary, Fusing Past With Present” (英語). HuffPost. 2019年6月14日閲覧。
  21. ^ Hornaday, Ann (June 14, 2018). “At this year's AFI Docs, torches and pitchforks give way to consensus and reconciliation”. The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/lifestyle/style/at-this-years-afi-docs-torches-and-pitchforks-give-way-to-consensus-and-reconciliation/2018/06/14/26f9f5ee-6fdd-11e8-bd50-b80389a4e569_story.html June 16, 2019閲覧。 
  22. ^ Lusztig, Megan Moodie interviews Irene (11 May 2018). “Handmade Feminism: Irene Lusztig's "Yours in Sisterhood"”. Los Angeles Review of Books. 2019年6月14日閲覧。
  23. ^ A Movie Uncovers Unpublished Letters Written to Ms. Magazine in the 1970s” (英語). Hyperallergic (2018年9月14日). 2019年6月14日閲覧。
  24. ^ 『リッチランド』公式ホームページ”. ノンデライコ. 2024年8月17日閲覧。
  25. ^ “原爆の街”をなぜ映画に? 『リッチランド』監督に聞く、アメリカ社会が抱える矛盾”. リアルサウンド (2024年7月11日). 2024年8月17日閲覧。
  26. ^ 「リッチランド」〝原爆の町〟の多様な声「他者と対話する場を作りたい」 アイリーン・ルスティック監督”. ひとシネマ (2024年7月21日). 2024年8月17日閲覧。
  27. ^ 映画『リッチランド』公開 原爆がつくられたある秘密都市のこと ▶Interviewアイリーン・ルスティック監督”. 有限会社euphoria factory (2024年7月8日). 2024年8月17日閲覧。
  28. ^ リアルサウンド 2024.
  29. ^ a b リッチランド公式 2024.
  30. ^ a b ルスティックHP3 2022.
  31. ^ Yours in Sisterhood” (英語). Film Society of Lincoln Center. 2019年6月17日閲覧。
  32. ^ Closing Night: THE MOTHERHOOD ARCHIVES” (英語). Flaherty (2014年12月19日). 2019年6月17日閲覧。
  33. ^ Yours in Sisterhood | BAMPFA”. bampfa.org (February 2019). 2019年6月17日閲覧。
  34. ^ Yours in Sisterhood” (英語). Hot Docs. 2019年6月17日閲覧。
  35. ^ Reviews From the 2018 AFI DOCS Film Festival” (英語). Washington City Paper (7 June 2018). 2019年6月17日閲覧。
  36. ^ MIFF 2019 | Festival Archive 1952-2017” (英語). MIFF 2019. 2019年6月17日閲覧。
  37. ^ Yours in Sisterhood” (英語). RIDM. 2019年6月17日閲覧。
  38. ^ a b KOSMOL 2019.


外部リンク

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