マジックナンバー (野球)
マジックナンバー(日本では一般にマジックと呼ばれる)はプロ野球の用語で、あるチームの優勝があと何勝すれば確定するのかを表す値。日本では他の全チームに自力優勝(後述)の可能性がなくなった状況でのみこの値を用い、この条件を満たすことをマジックナンバーが「点灯」したという。 野球チームは優勝までに、マジック点灯⇒マジックナンバーを減らす⇒優勝という経過をたどる為、マジックナンバーはチームが優勝するまでの道筋として用いられる。 米国では自力優勝の条件が満たされない場合でもマジックナンバーを用いる為、「点灯」の概念はない。また米国では野球以外のスポーツでもマジックナンバーを用いる[1]。
定義
プロ野球のリーグ戦は総当たり戦(×複数回)の勝率により順位が決まる為、チームBがチームCに勝って勝率を上げたかどうかがそれらとは別のチームAの順位に影響する。
リーグ戦の途中段階において、
- チームAが自力優勝可能であるとは、Aが残りの試合に全勝すれば、それ以外の試合(A以外のチームB、C間の試合)がどのような結果になろうともAが優勝できる事を意味する。
- Aの優勝が確定するとは、今後行われる試合がどのような結果になろうとも、リーグの最後にはAが優勝する事を指す。(すなわち任意のチームB≠Aに対し、Bが全ての残り試合に勝ったとしても、Bの勝率がAの勝率を超える事ができない事を指す。)
- Aのマジックナンバーがn であるとは、あとn 勝すればAの優勝が確定する事を指す。よって特にマジックナンバーが0であれば、Aの優勝が確定した事になる。
以上の定義から分かるように、Aのマジックナンバーを計算するには、「今後n 勝したときのAの勝率」を、「全ての残り試合に勝った場合の勝率」が最も高いチーム((マジック)対象チーム)と比較すればよい。
引き分けが無い場合では勝率の大小は勝ち数の大小に一致するので、チームAのマジックナンバーは
の式で求めることができる。ここでBはマジック対象チーム、、 はそれぞれ現時点でのA、Bの勝ち数、 はBの残り試合数(最後のプラス1はAの勝ち数Bの勝ち数を保障する為に必要)。 引き分けがある場合、日本プロ野球ではリーグでの順位は勝ち数でなく勝率で決まる事と勝率の分母に引き分けを入れない事の影響で、より複雑な計算(後述)が必要になる。
日本では「A以外のチームが自力優勝可能ではなくなった」という条件を場合のみマジックナンバーを用い、Aがこの条件を満たした場合にAのマジックが点灯したという。またAのマジックが一旦点灯した後にA以外のチームの自力優勝の可能性が復活した場合には、Aの マジックが消滅したという。 上述したことからわかるように、自力優勝の条件を満たしていなくても原理的にはマジックナンバーを定義できる。 マジックが点灯していない状態におけるマジックナンバーを隠れマジックという事があり[2]、マジック消滅後再点灯しそうな状況などで用いられる。
一般にマジックナンバーは点灯したチームが勝利した場合と、対象チームが敗北した場合にその数が減少する。引き分けの場合には、減少する場合としない場合があり、その際の勝敗表で判断可能である。[3]
自力優勝の可能性
自力優勝の可能性とは、下位チームが残り試合に全勝し、上位チームがその下位チームとの直接対決以外の試合に全勝した場合に、勝率での逆転が可能か否かということである。逆転が可能であれば自力優勝の可能性があり、不可能であればない。平たく言えば、あるチームが残り試合に全勝した場合に、他のチームの勝敗に関係なく自力で優勝できるか否かということである。
具体例を挙げて解説する。とあるリーグ戦において暫定1位のAチーム(60勝20敗)と暫定2位のBチーム(40勝40敗)があり、いずれも残り60試合、直接対決は19試合と仮定する。BチームがAチームとの直接対決19試合を含めた残り60試合に全勝した場合、Bチームは100勝40敗となるが、AチームがBチーム以外との試合に全勝、すなわち60-19=41勝すればAチームは101勝39敗となる。従ってBチームは、AチームがBチーム以外の他のチームに1試合以上負けない限り、幾ら勝っても自力では優勝できない。よってこの場合、Bチームには自力優勝の可能性がないと言うことになる。しかし、直接対決が21試合以上残っていた場合は、Bチームが残り試合に全勝すれば、最終的にAチームの勝率を上回ることができることから、Bチームに自力優勝の可能性があると言うことになる。また、直接対決が残り20試合の場合、両チームの最終勝敗数が同じ(100勝40敗)になる可能性があることから、プレーオフなどの優勝決定戦を行う場合、Aチームにマジックナンバーは点灯しない(追加試合などを行わずにAの上位が確定する場合はマジックナンバーが点灯する)。ここで、3位以下のチームの自力優勝の可能性が全て消滅していると仮定すると、1位のチームはマジックナンバーが点灯する条件を満たしている(他の全てのチームの自力優勝の可能性が消滅している)にも関わらず、マジックナンバーが点灯していないという矛盾が生じることになる。
マジックナンバー点灯チーム・マジック対象チームの順位について
多くの場合は1位のチームに対して、2位のチームの自力優勝の可能性がなくなった時点でマジックナンバーは点灯する。しかし、仮に2位のチームに自力優勝の可能性がなくなったとしても、3位以下のチームのいずれかに自力優勝の可能性が残っていれば、1位のチームにマジックナンバーは点灯しない。野球は雨天中止が比較的多いため、各チームの残り試合にばらつきが生じやすい。そのため、残り試合の多い下位チームの方が、「残り試合全勝時の勝率」が高くなったり、1位チームとの直接対決が多く残っている事もあるためである。
同様に、マジックナンバーは多くの場合その時点の1位チームに点灯するが、2位以下のチームに点灯する事もある。これは日程消化が進み、1位のチームよりも2位以下のチームの残り試合数が多くなってしまうという現象があるため。簡単な例として、「1位チームが全試合終了」で「2位チームに残り試合が相当あり、それを全勝すれば優勝できる」というケースである[4]。
しかしこのような形でマジックナンバーが点灯した場合、1位である対象チームの勝率が下がらないため、2位の点灯チームがそれまでの勝率で残り試合を勝っても、当然ながら優勝出来ない。この場合のマジックナンバーは残り試合数とほぼ同数と厳しい条件を示す数字になってしまい、終盤で大きく盛り返したチームでなければ「優勝へのカウントダウン」とは言いがたく、「あと何試合負けたら終り」の方が実感のある数字となる。また、混戦状態で上位チーム同士の直接対決が無くなれば、「残り試合全勝の仮定の下で勝率が一番になるチーム」に必ず点灯するので、順位とあまり関係なくどこかのチームにマジックナンバーが点灯し、日ごとに点灯チームが変わることもある。この場合も「点灯チーム優勝へのカウントダウン」の役目はあまりない。
計算方法
リーグの総試合数をT 、チームXの現時点での勝ち数、負け数、勝ち越し数、引き分け数、残り試合数をそれぞれ、、、、とする。 チームAが今後n 試合勝ってリーグが終了した場合のAの勝率 は
である。チームBをマジック対象チームとするとき、チームBが全ての残り試合に勝った場合のBの勝率 は
である。
Aの勝率がBの勝率を上回るには である必要がある。これに上式を代入して整理すると、
マジックナンバーは上の式を満たす最小の整数nなので、チームAのBに対するマジックナンバーは
となる。ここで は床関数。
引き分け数が同じ(又は引き分けが無い)場合、すなわち の場合、 でしかも は整数なので、マジックナンバーは前述した式
- …①式
に一致する。 両チームの引き分け数の差が小さければ、マジックナンバーを上式で近似できるが、引き分け数の差があまり大きくなくても近似が成り立たなくなるので、実際には仮定勝率の一覧を計算し比較して確かめる事が多い。
他の計算方法
(引き分けのある無しに関わらず)マジックナンバーは以下の方法でも求める事ができる事が簡単な計算で確かめられる:
また上述の①式を変形することにより導かれる
- …②式
の式を用いてもマジックナンバーを計算する事もできる。
マジックナンバーの増減
定義より、マジックナンバーが増加する事はありえないが、リーグ戦が進むとマジックナンバーが減る事がある。 マジック点灯チームA、およびマジック対象チームBの勝敗により、Aのマジックナンバーは以下の挙動を示す(定義から明らか):
- マジック点灯チームAが1勝すると、マジックナンバーは1つ減る。
- マジック点灯チームAが1敗した場合、マジックナンバーは変化しない。
- マジック点灯チームAの引き分けが1つ増えると、マジックナンバーは だけ減る。
- マジック対象チームBが1勝した場合、マジックナンバーは変化しない。
- マジック対象チームBが1敗すると、マジックナンバーは だけ減る。
- マジック対象チームBの引き分けが1つ増えると、マジックナンバーは だけ減る。
ここで 、 、 、 は、
で表わされる整数とする。
以上をまとめると次のようになる。
マジックナンバー の変化 |
Bの勝敗 | ||||
---|---|---|---|---|---|
試合なし | 勝ち | 負け | 分け | ||
Aの勝敗 | 試合なし | ||||
勝ち | |||||
負け | |||||
分け |
ただし、マジック対象チームが交代する場合には上記のような挙動には必ずしも当てはまらない。
引き分けの場合は1つ減るかどうかは勝率により左右されるが、引き分け再試合制でない場合、点灯チームと対象チームの双方が引き分ければ通常は1つ減るが、引き分け数にばらつきがある場合に変則的な減り方をする事が稀にある[5]。
いったん消滅した後に再点灯した場合も、消滅した時の数字より小さくなる(マジックナンバーが点灯したチームが変われば数字上は増えることはありうる)。それは各チームがそれぞれに個別にマジックナンバーがあり、はじめは直接対決などの考慮に入れないいわゆる隠れマジック(後述)となっており、隠れマジックの状態でも試合に勝利したり対戦相手が敗れれば数字が減少するからである。
マジック点灯のスピード記録
※パ・リーグの前後期優勝及びプレーオフ進出マジックは含まない
- M62 7月6日 南海ホークス (1965年) - プロ野球史上最速のマジック点灯
- M49 7月8日 阪神タイガース (2003年) - セリーグ史上最速のマジック点灯
- M46 7月22日 阪神タイガース (2008年) - 非優勝チームにおけるマジック最速点灯記録
米国の「Magic Number」
米国の場合は、他チームの自力優勝の可能性を考慮しない。よって、「点灯」という概念がない(点灯がないため、当然消滅もない)。例えば以下のケースで考える。
順位 | チーム | 成績 | 勝率 | 残り試合 | ゲーム差 |
---|---|---|---|---|---|
1位 | Aチーム | 89勝46敗1分 | .659 | 4 | - |
2位 | Bチーム | 86勝50敗0分 | .632 | 4 | 3.5 |
(注)メジャーリーグにおいて通常引き分けは存在しないが、ここでは分かりやすさを重視するため、あえて付けておくことにする。
残り試合はすべてA、B両チームの直接対決とする。この場合、Bチームが4戦全勝した場合は90勝50敗0分(勝率.643)でAチームの89勝50敗1分(勝率.640)を逆転する可能性(自力優勝の可能性)が残っているため、マジックナンバーは点灯していない。しかし米国では単に「自チームがあと何勝すれば優勝できるか」だけを考え、他チームの状況(自力優勝)は考慮しない。したがって、Aチームは4試合のうち1勝でもできれば、残り3試合に負けたとしても90勝49敗1分(勝率.647)となり、89勝51敗0分(勝率.636)のBチームを上回るため、Aチームのマジックナンバーは「1」ということになる。(計算方法は、「(1位チームの残り試合数)+1-(2位チームとのゲーム差)」)
日本のプロ野球における類似例として次のケースが挙げられる。
- 1973年のセントラル・リーグで、10月19日の段階で1位の阪神は残り2試合の段階で1勝でもすれば優勝という状況であり、この時点では「マジック1」が点灯していた。しかし、20日の中日戦で星野仙一投手の前に敗戦を喫し、最終戦で直接対決する2位の巨人に自力優勝の可能性が復活したため、マジックは消滅した。
- 1996年のセントラル・リーグで、9月28日の段階で1位の巨人にはマジック3が点灯していた。この時点でのマジック対象チームは2位の広島と3位の中日で、広島は既に巨人戦を終えていたが中日は巨人戦を2試合残していた。29日に巨人が負けたため、この日試合がなかった中日に自力優勝の可能性が復活し、巨人のマジックは消滅(ちなみに広島は勝利)。その後、中日は10月1日・2日の広島との直接対決に連勝し、巨人もこの2日間は連勝したため広島は脱落。巨人は2日の時点であと1勝すれば優勝であったが、残り試合がすべて中日戦だったため「マジック1」は点灯しなかった(中日が巨人戦2試合を含む残り試合に全勝すると、巨人と中日が勝率で並びプレーオフになる)。
米国では他チームの自力優勝の可能性を考慮しないため、点灯も消滅もない。単にリーグ戦1位確定のための必要な勝利数にすぎない。換言すると、開幕時点は全チームに全試合数より1つ多い数のマジックナンバーが点灯していることになる[6]。そもそも自力優勝の概念がないため、「マジック点灯」に気付かない。2001年にアメリカン・リーグ西地区のシアトル・マリナーズが独走した時、シーズン前半にして早くも地区優勝マジック97が点灯していたが、話題にしていたのは日本のメディアのみであった。[7]
語源について
ビンゴゲームにおいて、日本でいう「リーチ」状態の時に、ビンゴ完成のために必要な番号をマジックナンバーと呼ぶのが語源とされている[8]。「この数字が出て頂戴」と呪文(magic word)のようにお祈りする数字である。それが転用されて「実現を願う数字」を意味する語として使われるようになり、特にリーグ戦方式のスポーツでは「そのチームの優勝までに必要な最小勝利数」の意味に使われるようになった。野球では1947年には使われていたとされる。
日本には語源まで伝わらなかったため(ビンゴでは独自に「リーチ」という言葉が定着している)、いくつかの俗説が流布している。「点いたり消えたりするから」という説が有名だが、上述の通り米国では他チームの自力優勝の可能性と関係なく数える。また「(カレンダーのように)マジックで数字を消していくから」という説もあるが、日本のマジックインキ、米国のマジックマーカー共に1950年代の発売であり、「マジックナンバー」の語が使われ始めた1940年代よりも後である。
特異例
2006年のパシフィック・リーグでは、9月22日に1位の北海道日本ハムファイターズ以外のチームに自力シーズン1位の可能性がなくなったにもかかわらず、日本ハムにマジックナンバー(レギュラーシーズン1位決定マジック)が付かないという異例のケースが起こった。
9月22日時点でのパ・リーグの1位から3位までの順位を下に示す。
順位 | チーム | 成績 | 勝率 | 残り試合 |
---|---|---|---|---|
1位 | 日本ハム | 80勝52敗0分 | .606 | 4(ソフトバンク2・ロッテ2) |
2位 | 西武 | 78勝52敗2分 | .600 | 4(ロッテ2・楽天2) |
3位 | ソフトバンク | 75勝51敗5分 | .595 | 5(日本ハム2・オリックス2・楽天1) |
※4位以下(ロッテ・オリックス・楽天)はすでにBクラスが確定
一方、上位3チームが残り試合を全勝した場合の勝率は以下のとおりである。
チーム | 成績 | 勝率 |
---|---|---|
日本ハム | 84勝52敗0分け | .618 |
西武 | 82勝52敗2分け | .612 |
ソフトバンク | 80勝51敗5分け | .611 |
既に日本ハムとの直接対決を終えていた西武の自力シーズン1位は消滅していた。しかし、ソフトバンクは日本ハムとの直接対決を2試合残していた。ソフトバンクが残り試合に全勝した場合、日本ハムは最高でも2勝しかできない。この場合、日本ハムの最高勝率は.603(82勝54敗0分け)となり、ソフトバンクが日本ハムを上回ることになる。しかし、そのソフトバンクも直接対決がもうない西武の勝率を自力で上回ることはできないため、自力シーズン1位はやはり消滅していた。
以上をまとめると、「自力で1位になれるのは日本ハムだけだが、3位のソフトバンクは1位である日本ハムの勝率を自力で上回ることができる。しかし、ソフトバンクは2位である西武の勝率を自力で上回ることができない」という三つ巴の状況であった。1位チームの勝率を自力で上回れるチームがあれば、そのチームが2位チームでなくとも、また自力優勝(1位)の可能性がなくともマジックは付かないので、日本ハムのマジックは点灯しなかった。
ちなみに22日は3チームの中で西武だけが試合があり、西武が負けたためこのような状況になったが、21日の段階では西武が2位ながら日本ハムに対しても自力で勝率を上回ることができたので、西武に「逆マジック5」が点灯していた。「逆マジック」も数年に1度程度しか出ないものであり、いかにこの年の1位争いが熾烈だったかが分かる。
実際の経過
- 9月19日 2位の西武にマジック5が再点灯。
- 9月22日 西武● で上記の状況。新聞各社「マジック消滅」と報じる。
- 9月23日 日本ハム● 西武○ ソフトバンク● ※西武が首位に立ち、1位通過マジック3が再点灯。
- 9月24日 3チームとも● ※西武の1位通過マジックは2。
- 9月26日 西武● 日本ハム○ ソフトバンク● ※西武の1位通過マジックが消滅。日本ハムが首位に立ちマジック1が点灯。ソフトバンクの1位は消滅。
- 9月27日 日本ハムが勝ったため、日本ハムのシーズン1位が決定。
派生用法・関連語
マジックナンバーは、リーグ戦において、他チームの自力優勝を加味した上で、リーグ優勝の確定に必要な勝利数のことであるが、単に「目標まであといくつ」という意味で用いられることもある。(自力優勝に関係なく「優勝まであとn勝」など、トーナメント戦でも決勝進出のことを「マジック1」など、「2000本安打までマジック9」などのような使われ方をする場合もある[9]。これらはすべて派生的な用法である。
逆マジック
マジックナンバー点灯チームが、必ずしもその時点での首位のチームとは限らない。これは、ある日付に残り試合数が異なっていると、残り試合の多い方が最終勝率・勝利数を高められる場合があるためである。マジックナンバー点灯チームよりマジックナンバー対象チームが上位にいる場合「逆マジック」ともいう。
なお「逆マジック」は、あと何敗すると最下位が決定するか、もしくは優勝やポストシーズン進出が消滅するかといった、敗北状態へのカウントダウンのために用いられる場合もある。特に前者の意味では「裏マジック」・「最下位マジック」という言葉もある。
プレーオフマジック(クライマックスマジック)
2004年からパシフィック・リーグがプレーオフを導入。また、2007年から両リーグでクライマックスシリーズ(以下「CS」という。)がスタートした。これに進出できるまでのマジックを、それぞれ「プレーオフ進出マジック」「クライマックスシリーズ進出マジック(略してCSマジック、あるいはCMと表記される)」。自力で今いる順位に入る可能性がなくなったチームが3チーム以上になった場合にそのチームに点灯する。
対象となるチームは4位以下(Bクラス)の全チームであることが多いが、残り試合数に差があれば、優勝マジックと同様にBクラスのチームに点灯する可能性もある。主な概要は優勝マジックと同じである。また、下位のチームの勝率が5割以下になることが確定した場合、マジックが3減ることもある[10]。
最速点灯記録は7月8日の阪神(2008年・M55)。CSへは、各リーグ6チーム中上位3チームが出場できるため、自チームが残り試合全敗で、他チームのうち、残り試合全勝でも自チームより勝率が上回れないチームが3チーム以上あれば、自チームのCS進出が決まる(CSマジックがゼロになる)。CSマジックの場合、マジック点灯チーム、マジック対象チームのいずれも複数のため、その計算はリーグ優勝マジックよりも複雑であり、メディアが見落とすこともまれにある[11]
こうした経緯もあり、共同通信社では2010年シーズンはCS進出決定となるまでの勝利数の指標として「CSクリンチナンバー」を配信することとした[12]。
詳細はクライマックスシリーズ#クリンチナンバーも併せて参照。
不具合の事例
共同通信社の「マジックナンバー計算プログラム」の不具合として、以下の事例が挙げられる。
2009年9月12日に、CMが1であった巨人のクライマックスシリーズ進出決定が報じられた。9月11日終了時、セ・リーグにおいて、巨人は75勝39敗9分で勝率.658。CM「1」と報じられていた。巨人は残り21試合全敗した場合の最終勝率.556(75勝60敗9分)となる。6位の横浜(43勝78敗0分)は残り23試合に全勝しても最終勝率は.458、5位の広島(55勝63敗4分)も残り22試合に全勝しても最終勝率.550であり、この2チームはいずれも巨人を上回れない。一方、3位の東京ヤクルトは56勝61敗1分で、残り26試合全勝すると最終勝率は.573、4位の阪神は56勝62敗4分で、残り22試合に全勝すると最終勝率は.557となり、いずれも巨人が残り試合全敗した場合の最終勝率を上回る。このため、共同通信社の配信記事は、巨人のCMを「1」としていた。
しかし、この時点で阪神は残り試合に全勝しないと巨人の勝率を上回ることはできない状態にあり、一方の東京ヤクルトは2敗以内であれば巨人を上回る可能性はあったものの、東京ヤクルトと阪神の直接対決が6試合残っていたために両チームが揃って巨人を上回る可能性はなく、同時に巨人が4位以下になる可能性もなくなっていたため、CS進出が既に確定していたことが発覚した。
この事例では、阪神と東京ヤクルトが「巨人を上回れる最低成績での敗戦数の合計」が「阪神・東京ヤクルトの直接対決の数(6)」未満となれば、いずれか一方はその他の試合を全勝しても巨人の成績を上回れなくなるため、その時点で巨人の3位以上は確定する。そのため、実際には9月11日の前日の9月10日の時点で、巨人のCS進出は決定していたことになる。
- 9月9日
- 巨人 敗戦(73勝39敗9分 .652)残り23試合 全敗時73勝62敗9分 .541
- ヤクルト 敗戦(55勝60敗1分 .478)残り28試合
- 阪神 勝利(55勝61敗4分 .474)残り24試合
- 阪神は残り21勝3敗であれば.542となり巨人を上回る。東京ヤクルトも残り23勝5敗であれば.543で巨人を上回るため、この日の時点では確定していない。
- 9月10日
- 巨人 勝利(74勝39敗9分 .655)残り22試合 全敗時74勝61敗9分 .548
- ヤクルト 敗戦(55勝61敗1分 .474)残り27試合
- 阪神 敗戦(55勝62敗4分 .470)残り23試合
- 阪神は残り22勝1敗で.550となるが、この場合の東京ヤクルトの最高勝率は22勝5敗(阪神との直接対決で最低5敗を要するため)で.538となる。逆に東京ヤクルトが24勝3敗とした場合は.552となるものの、阪神の最高勝率は20勝3敗時の.536となるため、両チームが同時に巨人を上回れる可能性が消滅した。
(9月11日時点での成績から、それ以前の試合結果を元に成績及び最低・最高勝率を算出)
脚注
- ^ 英語版より
- ^ 「最短28日V」中日新聞 2010年9月24日記事。中日を隠れマジック4と報じた事例。
- ^ マジック1で引き分けにより優勝した例として1985年の阪神タイガースがあり、マジック1で引き分けにより優勝を逃した例として1988年の近鉄バファローズがある)
- ^ 過去の例として1988年のパシフィック・リーグ。1位ながら試合消化が進み優勝の決まらない状態で130試合を終えた西武ライオンズを対象として、2位の近鉄バファローズに優勝マジックが灯ったが、10・19(対ロッテオリオンズ戦ダブルヘッダー)に1勝1引き分けし優勝を逃している。また2010年のセントラル・リーグでも1位・中日ドラゴンズの試合消化が進んでいる影響で、9月26日には阪神タイガースに2位ながらも自力優勝マジックが点灯した(更に9月28日には3位に転落したが、マジックは変わっていない)ほか、リーグ優勝ではないものの2006年パ・リーグでのレギュラーシーズン1位マジックが灯る状況でありながら直接対決の結果によっては順位変動のためなかなか灯らないというケースもあった
- ^ 2009年9月20日、セ・リーグの読売ジャイアンツ(以下、巨人)には、試合前に優勝マジック6が点灯していた。この日の試合は、巨人が勝ち、マジック対象チームの中日ドラゴンズ(以下、中日)は敗れたが、巨人の優勝マジックは1つしか減らず「5」となった。巨人は残り14試合で4勝10敗の場合、勝率が6割2分2厘2毛。一方、中日が残り12試合に全勝すると6割2分2厘3毛となり、巨人を上回る。このため、巨人が優勝するには、自力での5勝が必要な計算となる。当該シーズンは、巨人の引き分けが突出して多かった(巨人が9、中日が1)ためこうした影響が出た。2009年9月21日付け読売新聞
- ^ 2009年現在の日本のプロ野球のルール(144試合制)の場合、開幕時点では133試合(前年優勝チームに限り132試合)勝てば優勝できるはずだが、米国式で計算すると、全チームにマジック145が点灯していることになる。米国式では、「複数チームにマジックナンバーが点灯する」「開幕時には試合数より多い数字となる」という矛盾が生じる。
- ^ 現地時間の2001年5月31日の試合を終えた時点で、アメリカン・リーグ西地区の成績は で、この時点でのマリナーズとアスレチックスとの残り直接対決数は13試合であった。アスレチックスが残り110試合に全勝すれば136勝26敗(勝率.840)になるが、マリナーズがアスレチックス戦を除いた97試合に全部勝つと137勝25敗(勝率.846)となるため、アスレチックスの自力優勝は消滅した(エンゼルス・レンジャーズも自力優勝は消滅していた)。
- ^ 現代用語の基礎知識1986年版(自由国民社)
- ^ International Sports & Marketing (2009年8月3日). “松井稼が2ラン、2000本安打までM9”. 読売新聞 2009年8月4日閲覧。
- ^ 例として、点灯チームが70勝70敗1分、対象チームが68勝70敗3分で残り試合がともに3試合の場合、対象チームは全勝すると71勝70敗3分、勝率.50354で、点灯チームがこれを上回るには3勝する必要があるため(3勝すると73勝70敗1分で勝率.5105だが、2勝1敗だと72勝71敗1分で勝率.50350となる)CM3となるが、点灯チームが勝利して対象チームが敗北した場合、残り2試合を点灯チームが全敗すると71勝72敗1分で勝率.49650、対象チームは全勝しても70勝71敗3分で.49645となり、点灯チームを上回れなくなる。このケースではCSマジックが一気に3減って0になったことを意味する。対象チームの負け越しが決まったときにこの状況が起こり得るが、優勝マジックでは、対象チームと勝率が並んだ場合に上位となることが確定した場合を除き、通常起こらない。
- ^ メディアの多くは、共同通信社が配信する順位表に依存している。2009年9月19日付け以降、共同通信社の配信記事を転載している新聞において、プロ野球のセ・パ両リーグの順位表には、CS進出決定の☆マークのみの掲載となった。これは、配信元である共同通信社の「マジックナンバー計算プログラム」の一部に不具合が生じたためである。ただし、リーグ優勝へのマジックナンバーは掲載されているため、同プログラムの不具合はCSマジックのみだと思われる。なお、記事本文にはCSマジックの状況は記載されているほか、残る1枠(3位)に対しての進出マジックについても、優勝マジックの条件と大差ないため数値が記載されることもあった。
- ^ 共同通信がCSクリンチ配信へ 統数研との共同研究 - 2010年7月29日付 47NEWS