「いろは歌」の版間の差分
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院政期以来、いろは歌は弘法大師[[空海]]作とされてきたが<ref>[[卜部兼方]] 『[[釈日本紀]]』など数々の文献で弘法大師御作との指摘がされている。</ref>、その可能性はほとんどない。空海の活躍していた時代に[[今様]]形式の歌謡が存在しなかったということもあるが、何より最大の理由は、空海の時代には存在したと考えられている[[上代特殊仮名遣]]の「こ」の甲乙の区別はもとより、「あ行のえ(e)」と「や行のえ(je)」の区別もなされていないことである<ref>[[大矢透]] 『音図及手習詞歌考』 [[大日本図書]]、1918年。</ref>。ただし、破格となっている2行目に「あ行のえ」があった可能性(わがよたれそえ つねならむ)を指摘する説も出されている<ref>[[亀井孝]] 「いろはうた」『言語』、1978年12月。</ref>。 |
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『いろはうた』の著者、[[小松英雄]]はなぜ空海が創作者とされたかについて、書の[[三筆]]のひとりである、用字上の制約のもとにこれほどすぐれた仏教的な内容をよみこめるのは空海のような天才にちがいない、さらに、いろは歌は[[真言宗]]系統で学問的用途に使われていて、それが世間に流布したため、真言宗の高僧といえば空海であることから、といった理由を挙げている。 |
『いろはうた』の著者、[[小松英雄]]はなぜ空海が創作者とされたかについて、書の[[三筆]]のひとりである、用字上の制約のもとにこれほどすぐれた仏教的な内容をよみこめるのは空海のような天才にちがいない、さらに、いろは歌は[[真言宗]]系統で学問的用途に使われていて、それが世間に流布したため、真言宗の高僧といえば空海であることから、といった理由を挙げている。 |
2008年9月4日 (木) 14:40時点における版
いろは歌(いろはうた)は、全ての仮名を使って作られている歌で、手習い歌の一つ。七五調四句の今様(いまよう)形式になっている。手習い歌として最も著名なものであり、近代に至るまで長く使われた。そのため、全ての仮名を使って作る歌の総称として使われる場合もある。また、そのかなの配列順は「いろは順」として中世~近世の辞書類等に広く利用された。
外形
- ひらがなでの表記
- いろはにほへと ちりぬるを
- わかよたれそ つねならむ
- うゐのおくやま けふこえて
- あさきゆめみし ゑひもせす
- 歌謡の読み方
- 色は匂へど 散りぬるを
- 我が世誰ぞ 常ならむ
- 有為の奥山 今日越えて
- 浅き夢見じ 酔ひもせず
古くから「いろは仮名47文字」として知られており、「ゑひもせす」の末尾に「ん」は付けないのが正式である。しかし、現代には「ん」という仮名があるため「すべての仮名を使って」という要請を満たさなくなっており、便宜上つける場合がある。
末尾に「京」を加える場合もある。これをいろは順という。いろはかるたの最後の諺が「京の夢大坂の夢」となっていることからもわかるように、むしろそちらの方が伝統的である。1287年成立の了尊『悉曇輪略図抄』がその最古の例とされる。
歌謡の読み方は、17世紀の僧、観応(1650年 - 1710年)の『補忘記』によると、本来は最後の「ず」以外すべて清音で読まれる。「ず」は新濁で、本来は清音で読まれるものだが習慣的に濁って読まれる。
歴史
文献上に最初に見出されるのは1079年成立の『金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうぎょうおんぎ)』であり、大為爾の歌で知られる970年成立の源為憲『口遊(くちずさみ)』には同じ手習い歌としてあめつちの歌については言及していても、いろは歌のことはまったく触れられていないことから、10世紀末~11世紀中葉に成ったものと思われる。
金光明最勝王経音義のいろは歌
文献上の初出である『金光明最勝王経音義』は金光明最勝王経についての音義である。音義とは経典での字義や発音を解説するもので、いろは歌は音訓の読みとして使われる仮名の一覧として使われている。ここでの仮名は万葉仮名であり、7字区切りで、大きく書かれた1字に小さく書かれた同音の文字1つか2つが添えられている。
- 以呂波耳本へ止
- 千利奴流乎和加
- 餘多連曽津祢那
- 良牟有為能於久
- 耶万計不己衣天
- 阿佐伎喩女美之
- 恵比毛勢須
それぞれの文字には声点が朱で記されており、それぞれの字のアクセントが分かるようになっている。
小松英雄は各文字のアクセントの高低の配置を分析して、漢語の声調を暗記するための目的に使われたのではないかと考察している。
作者
院政期以来、いろは歌は弘法大師空海作とされてきたが[1]、その可能性はほとんどない。空海の活躍していた時代に今様形式の歌謡が存在しなかったということもあるが、何より最大の理由は、空海の時代には存在したと考えられている上代特殊仮名遣の「こ」の甲乙の区別はもとより、「あ行のえ(e)」と「や行のえ(je)」の区別もなされていないことである[2]。ただし、破格となっている2行目に「あ行のえ」があった可能性(わがよたれそえ つねならむ)を指摘する説も出されている[3]。
『いろはうた』の著者、小松英雄はなぜ空海が創作者とされたかについて、書の三筆のひとりである、用字上の制約のもとにこれほどすぐれた仏教的な内容をよみこめるのは空海のような天才にちがいない、さらに、いろは歌は真言宗系統で学問的用途に使われていて、それが世間に流布したため、真言宗の高僧といえば空海であることから、といった理由を挙げている。
また、通俗書では後述の暗号説を根拠に柿本人麻呂がいろは歌の作者だとするものもあるが[4] 、柿本人麻呂は空海よりもさらに100年ほど前の時代の人であり、空海と同様の理由でやはり同様の疑問を呈することができる。
解釈
表面的に読む限り、無常観を歌った歌と読むこともでき、多くの人々がそういう歌なのだと受け止めてきた。
主として仏教の知識を持つ者は仏教的な内容の歌だと解釈した。例えば、新義真言宗の祖である覚鑁(かくばん、1095年7月21日 - 1144年1月18日)は『密厳諸秘釈(みつごんしょひしゃく)』の中でいろは歌の注釈を記し、いろは歌は世に無常偈(むじょうげ)として知られる『涅槃経』の偈「諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽」の意であると説明した。
ただし、下で説明するように暗号が埋め込まれている可能性が指摘されるにつれ、表面上の文意にも異なった意味が込められている可能性や、暗号とからめて二重三重の意味なども指摘されるようになってきている(ただし主に通俗書でのものが多い)。
暗号説
古い文献では、歌の内容に添った七五調の句切り方ではなく、七文字ごとに区切って書かれていることもある(七文字×六行+五文字)。前述の『金光明最勝王経音義』ですでにこの区切り方だった。この書き方で区切りの最後の文字を続けて読むと「とか(が)なくてしす(咎なくて死す)」となる。これをもっていろは歌の作者が埋め込んだ暗号だとする説がある。
- いろはにほへと
- ちりぬるをわか
- よたれそつねな
- らむうゐのおく
- やまけふこえて
- あさきゆめみし
- ゑひもせす
人形浄瑠璃の仮名手本忠臣蔵は、本来いろは(仮名)47文字が赤穂浪士四十七士にかけられ、「忠臣蔵」は蔵いっぱいの(沢山の)忠臣の意味、または忠臣=内蔵助の意味とされているが、それは、この暗号が広く知られていることを前提として書かれている、とする説をとなえる者がいる[5]。
また、同じく五文字目を続けて読むと「ほをつのこめ(本を津の小女)」となる(本を津の己女、大津の小女といった読み方もある)。つまり、「私は無実の罪で殺される。この本を津の妻へ届けてくれ」といった解釈もできる。
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鳥啼歌(とりなくうた)
また、明治36年に万朝報という新聞で、新しいいろは歌(国音の歌)が募集された。通常のいろはに、「ん」を含んだ48文字という条件で作成されたものである。一位には、坂本百次郎の以下の歌が選ばれ、「とりな順」として、戦前には「いろは順」とともに広く使用されていた。
- とりなくこゑす ゆめさませ
- みよあけわたる ひんかしを
- そらいろはえて おきつへに
- ほふねむれゐぬ もやのうち
- 鳥啼く声す 夢覚ませ
- 見よ明け渡る 東を
- 空色栄えて 沖つ辺に
- 帆船群れゐぬ 靄の中
関連記事
地名でのイロハの例
- 千葉県(地名にイロハ順を採用している地域が多く見られる。いろは順の記事を参照)
- 愛知県海部郡飛島村(日本最長の地名とされる「愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割」の「ヨタレ」は「イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレ」から)
脚注
- ^ 卜部兼方 『釈日本紀』など数々の文献で弘法大師御作との指摘がされている。
- ^ 大矢透 『音図及手習詞歌考』 大日本図書、1918年。
- ^ 亀井孝 「いろはうた」『言語』、1978年12月。
- ^ 篠原央憲 『柿本人麻呂いろは歌の謎』 三笠書房、1986年
- ^ 小松英雄 『いろはうた』、1979年、38頁
参考文献
- 小松英雄 『いろはうた』 (中公新書、1979年) ISBN 4-12-100558-9
外部リンク
- パーフェクト・パングラム・デスク 現代仮名遣いによるいろは歌(パングラム)の専門サイト。丁寧に解説した入門書もあり。
- いろは歌 - 様々ないろは歌がある