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Wikipedia‐ノート:チェックユーザーの方針/通信の秘密について

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通信の秘密について

基本的な問題設定

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通信の秘密とプロバイダの義務について少し調べてみると、通信の秘密を守るために警察の任意捜査は拒否するとか、場合によっては文書の提出命令なども拒否することがあるという話が出てきます。通信の秘密を侵害した場合には刑事罰がありうる、という話もぽつぽつ見かけます。ここにはどういう事情があるのか、またウィキペディアのCheckUser係の行動にも法的に制約がかかるのかどうか、ということを調べたり考えたりしてみました。

根拠となる法令

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通信の秘密を侵害してはならない、という義務は、一般に電気通信事業法4条、憲法21条などによって定められているとされるようです。他に類似の概念・密接に関連する概念として、言論の自由(特に匿名での言論の自由)、プライバシー、個人情報、他人の秘密の保護、信書の秘密などがあるようです。

また、電気通信事業法の他にも、他に有線通信事業法などでも同様の規定があるようです。

電気通信事業法について

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電気通信事業法の分類体系

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電気通信事業法の規定に服さなければならないのはどういう立場にある人や団体か、ということを考えてみたのですが、まず、同法が次のような分類をしていることを念頭におくとわかりやすいのではないかと思いました。

  • 「電気通信事業者」と呼ばれる、届出や登録を必要とする事業者
  • 届出や登録を必要としないけれども、電気通信事業を行っている者
  • 電気通信事業以外の電気通信役務を行っている者
  • いずれにも該当しない者

この分類では、基本的に上にあるものほど多くの条件を満たす、狭い範囲の活動になっていると言えると思います。そして、そのような活動についてはより多くの義務や制約が課せられています。ウィキペディアの運営のような活動がこの分類のどの部分に該当するのか、ということを考えることが、ウィキペディアの運営主体がどのような義務や制約を考慮しなければならないのか、ということを考える上で助けになると思います。そこでまずはその点について考えて見ます。

ただ、ウィキペディアが海外に拠点をおいている、という事情や、ウィキペディアの公式な管理・運営主体であるウィキメディア財団は、多くの運営・管理をユーザの自治にゆだねている、という事情をどう考えたらよいのかが僕にはわかりづらいので、その事情を一旦無視して国内の事業者が直接サイトを運営しているケースであるかのように扱って考てみます。

電気通信役務

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まず、電気通信役務に該当するのか、それとも電気通信役務にすら該当しないものなのかを考えてみます。電気通信役務は、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供する」ことだそうです。(同法2条1項三号)

ここで電気通信設備とは「電気通信を行うための機械、器具、線路、その他の電気的設備」(2条1項二号)であり、電気通信とは「有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響、又は影像を送り、伝え、又は受けること」(2条1項一号)だとされています。

「他人の用に供する」というのは、条文内で定義が与えられていませんが、例えば法人内で内線電話を使ってやりとりする場合には法人という人の内部で電気通信が完結していますが、法人外の顧客や取引先などとの通信のためにその設備が使われる場合には、「他人の用に供する」ということになるようです。(総務省電気通信事業部データ通信課 『電気通信事業参入マニュアル[追補版] ― 届出等の要否に関する考え方及び事例 ― 』 p.5の説明より)「他人の通信を媒介する」ことは他人の用に供することの一種と位置づけられているので(同マニュアルp.6)、とりあえず議論は省きます。

ウィキペディアは、財団の管理下にあるサーバ群が電磁的な方式による符号を送ったり受け取ったりして成り立っていますから、そうしたサーバ群を電気通信設備とした電気通信であるということになるようです。また、理事会内でのやりとりのように財団内部の電気通信に使っている部分もありますが大半は外部(投稿者、読者)との通信になっていると言っていいと思います。

以上から、少なくとも電気通信役務には該当しそうだ、という風にまずは思いました。

電気通信事業

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次に、ではウィキペディアは電気通信事業に該当するのかどうか、ということを考えてみます。電気通信事業は、電気通信役務の中でも特に「他人の需要に応ずるために提供する事業」が電気通信事業に該当するとされています(電気通信事業法2条1項4号)。ここで、「他人の需要に応ずる」とは、単に自分の発信したい情報を発することや、自社の業務上の必要から、自社と他人との通信のために電気通信設備を使うことではなく、他人に求められている情報を提供するとか、他人間の通信を媒介するといったことを指すようです。(上掲マニュアル p.7)また、「事業」というのは、継続的に営まれる活動で、何か別に本業があってその行きがかり上やっていることなどではなく明確な目的・意思があってやっている活動を意味するようです。これは特に営利活動である必要はないそうです。(同マニュアル p.7)

ウィキペディアは百科事典の項目への投稿を受けとってデータベースに保存し、それを読者に送る、ということをしていますし、編集方針などをめぐる参加者間の議論の場も提供していますから、他人の需要に応じることにはなっていそうです。また、非営利事業ですが、明確な目的を掲げて積極的、継続的にやっていることにも異論の余地はなさそうに思います。

そこで、ウィキペディアは電気通信事業にあたるということになりそうです。

登録や届出を必要とする電気通信事業

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では、ウィキペディアは届出なり登録が必要な電気通信事業なのか、それともそうした義務を負わない電気通信事業なのか、ということを考えてみます。届出や登録が必要な電気事業を行う者については、特に「電気事業者」という呼び方がされ、それ以外の者と法律上かなり扱いに違いがあります。この電気事業者の定義である「電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項の規定による届出をした者をいう。」という電気通信事業法2条1項5号が届出・登録を考える上での出発点です。届出や登録を必要とされるかどうかの判断基準は9条、164条、165条など複数箇所に渡って定められているのですが、全部紹介する必要もなさそうなので、関係がありそうだと思った2点に絞って考えてみます。

ひとつは、電気通信事業法164条1項3号で、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業」は同法の適用除外になる、と定められています。ここで、電気通信回線設備の設置というのは、伝送路や交換機の設備などを指すようです。また他人の通信を媒介する、というのはある送り手が発したメッセージをそのまま別の受け手に届けるような行為、またはそのようなコミュニケーションの一部を担う行為とされるようです(同マニュアルp.6)

ウィキペディアは回線は設置していません。他人の通信の媒介はウィキメール、メーリングリストなどがあるのでそれを含めて考えるならやっているということになるし、ウィキペディアだけを取り出して考えるならやっていないということになる、という微妙なところではないかと思います。

ちなみに、「投稿者から読者へ、情報をそのまま媒介している」という風に考えることもできるように思うのですが、どうやら通信というのは受け手が特定されている行為を指すようなので、ウィキペディアのように不特定の受け手が読めるような形で投稿を行う場合にはそれを通信と見なさないようです。その代わり、「投稿者から財団への通信」「財団から読者への通信」というそれぞれ送り手と受け手が特定されているような部分に分けてそれぞれを通信と扱うようです。この考え方によれば、「媒介」はないということになりそうです。

このような形のコミュニケーションが多く見られる例として掲示板が考えられると思います。掲示板では、しばしばハンドル名を持った人どうしのやりとりになるわけですが、総務省のガイドラインによると、掲示板への投稿は受け手が特定されていないとみなされて、従って通信の媒介にはあたらないとされるようです。(同マニュアルp.28 概念図4.、p.20-21の各種例示)

また、ソーシャルネットワーキングサービスなどでは掲示板、ウェブホスティング、メール仲介などいくつかの機能を組み合わせて提供しているケースがありますが、その場合にはそれぞれのサービスについて個別に検討することになるそうです。(同ガイドラインp.25)ウィキペディアについても、ウィキメールについての部分と、メーリングリストに関する部分と、ウィキを用いたいわば本体部分とを分けて考え、ウィキを用いている部分だけを考えれば他人の通信の媒介はないと言えそうです。

もうひとつ、2条1項5号の電気通信事業者の定義から、電気通信事業を「営む」者であるかどうかという基準があります (同マニュアル p.10)。これは対価などを得て事業を営んでいるか、あるいは他に何かの形で利益を上げているかどうかという基準だということです。

こちらの基準で考えると、ウィキペディアは電気通信事業を営んでいることにはならないことは明らかだろうと思われますので、登録や届出はいらないということになります。

登録や届出が必要な電気通信事業者は、これらの2つの基準のどちらにもあてはまる必要があり、他の基準に照らしても必要があると判断されなければならないので、少なくともウィキペディアは「営む」ということがあてはまらないという理由によって、もしかすると「他人の通信を媒介しないし回線設備も設置しない」という理由によっても、届出や登録は必要ないということになります。

通信の秘密についての電気通信事業法の規定

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以上をまとめると、とりあえずサーバーやその管理・運営主体が海外に存在しているということをひとまず度外視して考えた場合には、ウィキペディアは登録や届出は必要としないけれども電気通信事業に該当するし、ウィキメディア財団は電気通信事業を行う者ということになりそうです。

以上のような分類を前提として、今度は、通信の秘密についての規定を見てみます。通信の秘密については電気通信事業法の3箇所で特に重要な定めがあります。

  • 「第四条  電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
    • 2  電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」
  • 「第百六十四条  この法律の規定は、次に掲げる電気通信事業については、適用しない。
    • (一、二を省略)
    • 三  電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業
    • 2  前項の規定にかかわらず、第三条及び第四条の規定は、同項各号に掲げる電気通信事業を営む者の取扱中に係る通信についても適用する。」
  • 「第百七十九条  電気通信事業者の取扱中に係る通信(第百六十四条第二項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
    • 2  電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
    • 3  前二項の未遂罪は、罰する。」

以上を整理すると次のようになると思います。

  • 4-1「電気通信事業者の取り扱い中に係る通信」の秘密を侵してはならない。
  • 179-1 侵した者は2年以下の懲役か、100万円以下の罰金になる。
  • 179-2 「電気通信事業に従事する者」がそのような行為をした場合には、より重い罰がありうる。
  • 179-3 未遂でも罰せられる。
  • 4-2 「電気通信事業に従事する者」はそのような通信について知りえた他人の秘密を守らなければならない
  • 164-2 164条1項三号の基準によって「電気通信事業者」ではない、とされた者の取り扱い中に係る通信も、4-1、4-2にあるのと同じように守られなければならない。

ここで、「電気通信事業者の取り扱い中に係る通信」というのが何か、「電気通信事業に従事する者」というのはどういう立場の者を指しているのか、「164 条1項三号の基準によって電気通信事業者ではないとされた者」とはどういう立場を指しているのか、という辺りが特に考えどころなのではないかと思いました。

電気通信事業者の取り扱い中に係る通信

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具体的にウィキペディアにあてはめてみます。 まず、CheckUser係が入手できる情報、つまり、

  • ウィキペディアの特定の投稿がどのIPから行われたか、という情報
  • 特定のアカウントがどのIPから行われたか、という情報
  • 一定の範囲のアカウント数件が同じプロバイダを利用しているかどうか、という情報

などは、「電気通信事業者の取り扱い中に係る通信」の秘密に該当するでしょうか?

ウィキペディアは電気通信事業者ではないので、該当しないように思います。

また、「取り扱い中に係る通信」というのが、例えば現にデータの転送・処理が行われている最中の通信、ということなのであれば、CheckUser係が入手できる情報の大半は、そういう通信には該当せず、過去に取り扱われたが現在は取り扱い中ではない通信についての情報だ、ということになりそうです。また、通信の秘密というのが、いわゆるメッセージの内容だけではなく発信者のIPアドレスにも及ぶものなのかどうかについても、異論の余地のないところなのかどうかが気になりました。IPアドレスには及ばない、ということなら CheckUser係の作業は問題ないということになります。

この点について、関連の資料などを読んでみた限りでは、専門家の間でも解釈が分かれている点で、そのような解釈を採用することは安全とは言えないようです。

通信の秘密がどこまでの範囲を指すのかについては、異論もあるものの、発信者についての情報も含むと考える論が多いようです。 情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書 (1999年)4章のように、個々の通信の様態に即して個別に判断するのが適切、という意見もありますが、 いわゆるプロバイダ責任制限法について、総務省が作成した[http: //www.soumu.go.jp/joho_tsusin/chikujyokaisetu.pdf 逐条解説]では、IPを含む発信者情報をプライバシー情報とし、(匿名での)表現の自由にも関わるもので、場合によっては通信の秘密にもあたる、としています。(p.23-24) 高橋郁夫、吉田一雄(2005年)『ネットワーク管理・調査等の活動と「通信の秘密」』などを見ると、発信者についての情報も含むと考える論が多いと紹介されています。

また、過去の通信の記録についても「取り扱い中に係る通信」とされるのかどうかについては、この論文で議論されていますが、賛否両論あるものの議論が豊富ではない状況のようです。

ただ、ISPなどは基本的に発信者のIPも通信の秘密の一部として扱ってきているという慣行はどうやらあるようです。業界慣行があることはそれが法の正しい解釈だということにはならないように思いますが、法律の専門家を交えて作成しているであろう各種のガイドラインでもそのような記述が見られます。

例えば、テレコムサービス協会(2003年)『〔新版〕インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン』5章を見ても、発信者情報は通信の秘密にあたる、任意捜査の協力などはしない、というような規定があります。

また、電気通信事業者協会、テレコムサービス協会、日本インターネットプロバイダー協会、日本ケーブルテレビ連盟が2005年に共同で作成した 『インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン』の12ページから13ページにかけての記述でも、ほぼ同じように述べて非常に慎重な取り扱いを求めています。

電気通信事業に従事する者

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次に、「電気通信事業に従事する者」は、「電気通信事業者の取り扱い中に係る通信」について知りえた他人の秘密を守らなければならないそうですが、CheckUser係は、「電気通信事業に従事する者」に該当するでしょうか? これはちょっとわかりづらい点です。「従事する者」を広く捉えて、電気通信事業者、電気通信事業を行う者(=届出や登録が必要ないので電気通信事業者とは呼ばれない)、そうした事業が会社で行われている場合の会社の従業員、非営利事業で行われている場合のボランティア、なども一切合財含む用語だ、という風に考えるならば、CheckUser係が該当する可能性ももしかするとあるかも知れません。(ボランティアをどの程度まで含むのか、またウィキペディアが海外に拠点を置いているプロジェクトであることをどう考えるのか、ということはとりあえず脇へおいておくとして、です。これらについては少し後で考察を加えます。)

そうではなくて、「電気通信事業に従事する者」=「電気通信事業者やその従業員」ぐらいの位置づけなのであればウィキペディアは電気通信事業者に該当しないのでCheckUser係が従事する者に該当することもありえない、という風に言えそうです。

これについては確かな手がかりはないのですが、やや傍証的な手がかりとして、『電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説』2ページの(2)にある記述が参考になるように思いました。

ここでは、電気通信事業を営んでいるわけではない(=営利事業としてやっているわけではない)者は、電気通信事業法 4条の通信の秘密などの規定の適用を受ける対象ではない、ということが間接的に述べられています。ということは、「電気通信事業に従事する者」というのは電気通信事業者も、それ以外の電気通信事業を行う者も、それらに従事する者も全て含めているわけではなく、「電気通信事業者の従業員など」ぐらいの位置づけだということになります。

164条1項三号の基準によって電気通信事業者ではないとされた者

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最後に、ウィキペディア(あるいはウィキメディア財団)は、「164条1項三号の基準によって電気通信事業者ではないとされた者」にあてはまるでしょうか? 上に論じたように、ウィキメールやメーリングリストといった部分を切り離して考えれば、確かに164条1項三号にあてはまるように思います。ですが、ウィキペディアが電気事業者ではないとされる理由はそれが営利事業ではない点にもあります。これは2条1項5号にあてはまらないが故に電気通信事業者ではない、ということです。この場合はどちらを重視する・優先する・採用するべきなのでしょうか?

その答えを考える上では、この法律の全体的な構成として、次のような形になっていることを考えるとよいのではないかと思いました。

  • まず2条で電気通信事業者、電気通信事業者ではないが電気通信事業を行う者、電気通信事業ではないが電気通信役務を提供する者、などついて定めている
  • その上で、164条で幾つかの例外(適用除外)を導入し、「2条だけ読むと電気通信事業者に該当する者の一部については、届出や登録はいらないし、だから電気通信事業者とは呼ばない」という風にしている

ウィキペディアの運営主体は、2条の定義の一部である「営む」こと(営利事業であること)に該当しないので、164条で適用除外の扱いを受ける以前の段階で、既に電気通信事業者ではないことになっています。

そこで、164条1項三号の適用除外にあてはまる者が負う義務は、ウィキペディアの運営主体は恐らく追わないのではないか、という風に考えました。

小まとめ

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以上の推論が全て正しいとすると、

  • ウィキペディアのCheckUser係が取得する情報というのは電気通信事業法で特に「こういう通信の秘密を侵してはならない」と定めているものには該当しない
  • ウィキペディアのCheckUser係は、同法で、特に「こういう立場にある者は」「こういう通信の秘密を侵してはならない」と定めている「立場」にも該当しない可能性もありそう。
    • 仮に該当するとしても、そのような立場にある者は「こういう通信の秘密を侵してはならない」と定めているところの「こういう通信」にはウィキペディアは該当しない。

ということになり、電気通信事業法の規定についてはどうやら心配しなくてもよい、ということになるのではないかと思いました。特に、ウィキペディアは非営利事業なので、「電気通信事業を営む」ことには該当しない、という点は、比較的異論が出にくい点のように思いますし、その点が間違っていなければ、ウィキペディアへの投稿のIPを調査することは同法が扱っている範囲での通信の秘密の侵害や通信について知りえた他人の秘密の保守などには関係がない、ということになりそうです。

その他の考察

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ですが、ここまでに記した内容は専門家や規制当局に意見を聴いてまとめたものなどではありませんから、どこかに間違いがあるかも知れません。また、そもそもウィキペディアが海外にあることなどを無視して考察を進めて来ました。結果として、ウィキペディアが国内にあったとしても、 CheckUser権限の行使は電気通信事業法の適用を受けないのではないかという結論ですが、そもそもそれ以前の問題として海外のプロジェクトであるウィキペディアは同法の適用を受けないのではないか、という疑問があります。また、ウィキペディア(またはウィキメディア財団)とCheckUser係とをあまり区別せずに考えてきましたが、そもそも両者は別々の存在で、CheckUser係だけを考えてみれば、それが電気通信事業などには相当しない、という考え方もあるかも知れません。

そこで、リスクを見積もる意味なども含めてそうした点についても考えてみました。

ただし、以下に挙げる点は、かなり重要ではあるものの、参考にできる資料が多く見つかるわけでもないので、どれだけ役に立つものなのかはかなり不確かです。

海外に拠点のあるプロジェクトであるために法の適用を受けない可能性

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まず、ウィキペディアはそもそも日本の法律である電気通信事業法の適用を受けるのでしょうか? ここから先は大半は、ほぼ何のガイドライン、法令、判例などの手引きもないままに憶測を重ねているだけなのですが、次のような判断材料があるかも知れないと思いました。

サーバの所在地が問題にならない理由

  • サーバが海外にあることについては、上掲のマニュアルに例示があり、国外のサーバを用いてメールサービスを営んでいる場合には、国内に事業の拠点があるという理由で、同法の適用を受けることになるとあります。(上掲マニュアルp.25)
  • 事業の拠点というのが何を意味しているのかと更に記述を読むと、そのサーバの管理・運営をしている主体が日本にいるということを理由としているようです。(同マニュアルp.25)

管理・運営主体は誰で、拠点はどこにあるのか?

  • では、ウィキペディアの場合、サーバの管理・運営主体は誰で、どこを拠点としているのでしょうか?
  • まず思いつくのはウィキメディア財団です。財団がサーバの管理・運営主体だという点についてはあまり異論の余地はなさそうに思います。財団の事務所はアメリカのフロリダ州にあります。そこで、拠点は少なくともフロリダにはあるように思います。ですが、財団としての活動はフロリダの事務所に大きく依存しているというわけではなく、ネット上での活動も多いようなので、事業の拠点がアメリカだけにあるということは言えないかも知れません。理事はアメリカ、フランス、イギリスに居住しています。こういう判断は法的にはどのような基準を用いて行うものなのか、僕はわかりませんが、この範囲で見る限り、日本には拠点はないと言って間違いなさそうです。(将来的に日本に住む人が理事に就任した場合にどうなるのかについてはわかりません。)
  • 財団には理事のほかに財団によって雇用されていたり、報酬のない役職に就いている者もいますが、同じく必ずしもフロリダに居住しているわけではありません。理事以外にも財務責任者のように財団の指名を受けて特定の責務を担っている人は構成メンバーにあたるのかも知れないと思うのですが、いずれにせよ日本に拠点がないことには変わりはありません。(日本に住む人がこのような責務を担った場合にどうなるかについてはわかりません。暫定的な役職として日本語版のユーザでもあるAphaiaさんが選挙管理委員を努めたことがありましたが、それが何かの意味を持つのかどうかもよくわかりません。)
  • 全プロジェクトに共通の立場であるサーバ管理者や開発者などは、財団の指名を受けているわけではなく、活動方針などを財団の指示や方針に拘束されている面もほとんどなさそうに思いますので、構成メンバーにはあたらないような気がします。似たような立場に、スチュワードがありますが、これは今回の選挙で指名を受けることがあるのだった気がします(Foundation-lの告知から)。いずれにせよ、日本に住んでいる人はこのような立場を担っていないと言えそうです。
  • 各言語版の管理者やビューロクラットは、開発者と同様財団の関与していない領域のように思います。管理者の場合には、(1)任免の決定をコミュニティが行っている、(2)任免の手続きや基準についてもコミュニティが決めている、(3)管理者の権利や義務についてもコミュニティが決めている、というようなことになっており、財団側はそれらについて報告も受けないし、承認を与えたりもしていません。
  • CheckUser係は、財団が選出規則をある程度定めていますし、部分的に財団の指名によるようです。CheckUser権限の使い方についても、理事会が承認したプライバシーの方針によって定めていますし、CheckUserの方針の作成には理事の一人であるAnthereさんが関与しています。(関与しているのは「理事として」の関与であるとは言えない気もするので解釈が難しいですが。)
  • そこで気になるのが、日本語版のCheckUser係が日本に住んでいるせいで、それが「財団の拠点が日本にもある」ということになるのかどうか、という点です。(潜在的には、理事、その他の役職、スチュワードについても同じ問題が考えられます。)
  • もし拠点が日本にもあるということになれば、それを理由として、電気通信事業法の適用をウィキペディア日本語版のCheckUser係やウィキメディア財団も受けるということになるのでしょうか? 

念のために先に小まとめに書いたことを繰り返すと、仮に同法の適用を受けるとしても、ウィキペディアは届出や登録が必要な電気通信事業などにはあたらないと思われるため、同法が特に禁じている通信の秘密や他人の秘密などについての義務は必ずしもCheckUser係に適用されるわけではない、という風に僕には思えます。ただ、そのような小まとめの結論に確信が持てるわけでもないので、念のため他の点についても考えてみると、財団が海外に拠点を置いていることについては、同法との関係でどのような意味を持ってくるのか、いまいちよくわからない、ということを思いました。

CheckUser係が財団にとって部外者であるために法の適用を受けない可能性

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上の考察と若干重複しますが、CheckUser係と財団の関係についても少し考えて見ます。CheckUser係が財団の一部だとみなされるのだとしたら、ウィキメディア財団は海外にのみ拠点を置く事業主体であるとは言い切れないかも知れない、そのため、電気通信事業法がそもそも適用され得ないような事業だとは言い切れないのかも知れない、というのが前項で考えたことでしたが、そもそもCheckUser係が財団の一部だとみなされるべきなのでしょうか? これについても、法的にはどういう基準を用いて判断することになるのかについて僕はほとんど知識を持ち合わせていないため、わからない点の方が多いのですが、考えられるだけのことを考えてみました。

  • CheckUser係が日本に住んでいるとしても、CheckUser係は財団の構成員には相当しない、ということになると、CheckUser係はウィキペディアのサーバの管理・運営主体などではないし、電気通信役務に従事する者には該当しないということになるのではないかと思います。従って、 CheckUser係が電気通信事業法に影響されるということはないような気がします。
  • ただ、本題とは少しずれる話になりますが、CheckUser係が財団にとって部外者であることがよいことなのかどうか、僕にはちょっと疑問を感じるところもあります。財団が公式に承認したプライバシーポリシーの現在の文面では、第三者への情報の提供は非常に限られた場合にだけ行われるとされていますが、ここにはCheckUser係を第三者とみなしての提供は含まれていないように思います。自らの事業の一環として第三者に顧客の個人情報を提供し、その取り扱いを発注するというようなことはもちろんありふれていますし、それが即違法な行為にあたるという風には考えにくいように思うのですが、同時に、日本の個人情報保護法などを参考に考えてみると、外注する際に個人情報の扱いについて一定の契約を取り結ぶ必要がある、監督責任のようなものを負う場合がある、などの事情があってもおかしくないような気がします。財団側がそうした義務について十分承知しているのかどうか、プライバシーポリシーや CheckUserの方針を読んだ限りではいろいろ不安材料があるように思いました。ですが、これはつまるところ財団の問題であって、CheckUser 係がどのような法令の適用を受けるのか、どのような法的責任を負うのか、という話とは関係ないのでとりあえず財団に連絡しておくことにして、本題に戻ります。

運営・管理主体が複数存在している可能性について

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もうひとつ、財団とCheckUser係がそれぞれ別個の主体だとしたら、例えばCheckUser係が日本語版で管理者であるために、あるいはスチュワードであるために、財団とは別個の主体でありつつ、同時にウィキペディアの管理・運営主体である、ということがありうるかどうかも考えてみました。

  • まず、サーバを管理・運営しているのは財団のみで、他の者が同時に同じサーバの管理・運営主体であるということはありえないか、という風に考えてみると、そうとも言えない気がします。例えば、レンタルサーバ業者のサーバを借りてウェブメールサービスを展開する、というようなことを考えてみるとわかりやすいでしょうか。この場合には、レンタルサーバ業者と、ウェブメールサービス業者は、ともに電気通信設備を他人の需要に応じて提供しているので、電気通信事業者になるかも知れません。このように、同一のサーバの管理・運営主体が複数存在している場合があり、管理運営主体は常に一者だけ、とは限らないようです。そして、管理者がそのような意味での管理・運営主体にあたるのであれば、管理者がCheckUser係を兼ねる場合には通信の秘密の保護義務を果たさなければならなくなりそうです。
  • では、ウィキペディアの管理者は、管理・運営の主体と言えるか、と考えてみると、次のような点から考えにくいのではないかと僕は思いました。
  • ウィキペディアのサーバや、そこにインストールされているソフトウェア、データなどに関して財産上の権利を有しているわけではなく、その他のユーザ一般と同じく利用者の立場にあること
  • サイト運営について独占的に有している裁量権が少ないこと
  • 運営方針などの決定が主に合議と投票によっており、議論でも投票にでも特に他のユーザより多くの権限を与えられているわけではないこと
  • 実際の権限行使について見ても「主体」的な運営をしているというよりはコミュニティが主体となって管理者はボタン押し役を務めているに過ぎないこと

以上から、管理者の位置づけが変わって、いろいろな役目を任されるようになったり、優先権や裁量権を与えられたり、あるいは与えられていないはずの裁量権を積極的に行使して、コミュニティがそれを受け入れてしまい既成事実的なものが出来上がった場合、などを考えてみるとどういうことになるのかよくわかりませんが、今のような管理者のあり方であれば、管理運営主体とは到底言えないのではないか、と思いました。

ビューロクラットやスチュワードについても、ほぼ同じことがあてはまるように思います。

そこで、電気通信のための設備であるウィキペディアのサーバについて、複数の管理・運営主体があるという可能性を考えた場合であっても、管理者やスチュワードがそのような主体に相当する可能性というのは少なく、従ってそうした主体が電気通信事業法の適用を受けることになる可能性は少ないのではないか、という風に思いました。

再まとめ

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電気通信事業法について考えたことを改めてまとめます。

  • ウィキペディアは、そもそも電気通信事業法の適用を受けない可能性が考えられます。
    • 同法は、サーバが海外にあっても国内に運営・管理の拠点がある場合には適用されることがあるようですが、財団の本部はアメリカにあり、理事も日本に住んでいるわけではなく、その他の役職に就いている人も同様です。管理者、ビューロクラットなどは多く日本に住んでいますが、これは財団との結びつきが非常に薄いので問題にならない可能性が高いのではないかと思いました。ただ、それらに比べるとスチュワード、CheckUser係などは財団との結びつきは多少あるので、問題わからない点が残ります。
    • 財団とCheckUser係が別個の存在だと考えた場合は、財団も、CheckUser係も、電気通信事業法の適用を受けそうにないと思いました。別個の存在であれば、CheckUser係が日本に住んでいることから、CheckUser係がサーバなどの電気通信設備の運営・管理者にあたるかということが問題になるように思いましたが、それはなさそうです。管理者と兼任であった場合、スチュワードであった場合などについても考えてみましたが、財団と別個の存在であれば適用を受けないような気がしました。
  • ウィキペディアは、仮に同法の適用範囲内だとしたら、電気通信事業に相当するようです。ただし、営利事業ではないので、届出・登録を必要とする電気通信事業ではないようです。そこで、運営主体である財団は同法の用語でいうところの「電気通信事業者」には該当しないことになります。
  • そこで、「電気通信事業者が取り扱い中に係る通信」の秘密を侵害してはならないと定めている同法の規定(4条、179条)は、CheckUser権限の行使には適用されないと思いました。
  • 電気通信事業者に該当しない者の取り扱い中に係る通信であっても、それが164条1項のいずれかによって電気通信事業者に該当しないとされた者であれば、その取り扱い中に係る通信について同じように秘密の侵害を禁じています。ウィキペディアは164条1項三号にあてはまりそうですが、それ以前に2条1 項五号の定義にあてはまっていない(営利事業ではない)ため、ウィキペディアの取り扱い中に係る通信をCheckUser係が見たとしても、同法の規定が適用されることはなさそうに思いました。
  • 「取り扱い中に係る通信」の解釈次第では、そもそも過去の通信記録であって通信中の情報ではないものを扱うCheckUser係は同法の適用を受けることはありえないと解釈することもできそうに思いました。ただし、これは専門家の間でも見解が分かれているところで、その解釈を採用することが安全とは言えないような印象を持ちました。

以上から、電気通信事業法に定められているところの通信の秘密の規定や、他人の秘密の扱いについての規定は、CheckUser係にとってはとりあえず関係ないと考えてよさそうに思いました。

憲法

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これまでの話を言い換えると、「電気通信事業者」やその他特定の範囲の「電気通信事業を行う者」の取り扱い中に係る通信でなければ、電気通信の秘密を侵しても罰されるようなことはなさそうだ、というのがひとつの帰結になります。(電波法など関連法にある規定にかかわる部分はまた別でしょうが)

そういう理解でいいのかどうかということを考えてみるとひとつ残る疑問は、憲法の定める通信の秘密をどう扱うか、という点です。

すぐに思い当たるいくつかの疑問があります。

  • 通信の秘密はどのように定義されているのか?
  • 電気通信事業法の定める通信の秘密とどのような関係にあるのか?
  • 通信の秘密は、そもそも国家による通信傍受などを想定してのものであって、民間人や業者の行動を規制するものではないのではないか?
  • 海外のプロジェクトであるウィキペディアにも日本国憲法が適用されることがありうるのか?
  • 仮に憲法に反する場合があるとして、それが何らかの罰、訴訟リスクなどにつながるものなののか?

今のところ、電気通信事業法関連に比べて調べ方がかなり雑なのですが、次のようなことを考えました。電気通信事業法のようなマイナーな法律と違って、憲法であれば僕よりもずっと信頼できる考察を加えてくださる方がいるのではないかという気もしますし、時間の都合もあるので、概要だけ書いてみます。

  • 通信の秘密はどのように定義されているのか?
  • 電気通信事業法の定める通信の秘密とどのような関係にあるのか?
    • 電気通信事業法は、憲法の通信の秘密を具体化したもの。
  • 通信の秘密は、そもそも国家による通信傍受などを想定してのものであって、民間人や業者の行動を規制するものではないのではないか?
    • 専門家の間でも見解が分かれている。一部の条文を除いて、憲法については私人間の関係には効力が及ばないとする説、他の(民法などの)解釈に際して憲法が参照されるという説、直接効力が及ぶとする説などがある。(一般に「私人間効力」の問題と呼ばれている。例えば、森稔樹「日本国憲法」講義ノート〔第4版〕第07回 基本的人権序論(2)
    • 通信の秘密については、電気通信事業法の規定を通じて国家だけでなく民間人がある種の通信の秘密を侵した場合についても罰を加えることが定められているとする解釈もある。
  • 海外のプロジェクトであるウィキペディアにも日本国憲法が適用されることがありうるのか?
    • 不明。
    • もしも他の法律の解釈に際して参照されるということであれば、例えばプライバシー侵害の訴訟を日本法に基づいて起こすことができれば、通信の秘密を著しく侵害するような行為を免責する合意があっても、「公序良俗違反」であるから無効とされて、ひいてはCheckUser係の権限濫用がプライバシーの侵害である、というような判決が下される可能性なども想像することはできる。(僕が勝手に想像しただけです。ただ、日本法に基づく訴訟自体は、当事者双方が日本に住んでいて、日本語版におけるやりとりであり、日本人の間で被害者側のプライバシー情報が流通する、というような事態なら可能ではないかと思いました。また、上記の間接適用説では、公序良俗についての民法90条が特に頻繁に出てくるようなので、その部分も発想としてはそれほど突飛ではないかも知れません。)
  • 仮に憲法に反する場合があるとして、それが何らかの罰、訴訟リスクなどにつながるものなののか?
    • 同上。

以上のような事情があるとすると、CheckUser係が通信の秘密を侵害すると、電気通信事業法ではなく憲法に違反しているということになって、あらかじめ導入しておいた免責規定などが無効にされるのかも知れないので、掲示板サイトやISPなど類似の事業者がとっている方針を参考にしつつ方針を決めたり、個々の事例に適用する、という形でやっていけば、それが公序良俗に反するということにはならないのではないか、ということを思いました。

他に民法1条

参考資料など

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法の条文と、政府による関連ガイドライン

その他