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p進周期環

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
P 進周期環から転送)

数学(ピーしんしゅうきかん、: p-adic period rings)とは、p 進数体に関係するある一群のの総称である。p 進ホッジ理論pガロア表現の理論、岩澤理論の研究に使われる[1][2][3]ジャン=マルク・フォンテーヌ英語版によって導入された[4]

性質

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p素数K標数0の完備な離散付値体でその剰余体 k完全体かつ標数が p であるものとする[5][4][6]。例えば p 進数体 Qp有限次拡大などがこのような体の例である[5]。剰余体が有限体であることは必ずしも仮定しない。これは剰余体が代数閉体である場合を扱えるようにしておくためである[6]

K から p 進周期環[7]と呼ばれる環 BdR, Bcrys [注 1], Bst が構成される(#構成参照)。BdRp 進周期の体[9][10]Bcryscrystalline period ring直訳: クリスタリン周期環[11] と呼ばれることもある。これらの環は次に述べる性質を持っている。

記号[注 2] 整数環が定義できる F に対してその整数環を 𝒪F で表す。また体 F に対してその代数的閉包F絶対ガロア群GF で表す。CKK の完備化とする[注 3]Wk に係数を持つヴィット・ベクトル英語版の環 W(k) とし、その商体を K0 とする。KK0 上の有限次完全分岐拡大になる。P0k に係数を持つヴィット・ベクトルの環 W(k)商体とする。N を0以上の整数の集合とする。整数 n に対して Qp(n)GK円分指標n 乗で作用する Qp 上の1次元ベクトル空間を表す[12]CK(n) も同様。

BdR

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  • BdR は完備離散付値体である[13]。その剰余体は自然に CK と同型である。BdR の離散付値を v、離散付値環 を B+
    dR
    で表す。
  • 整数 i に対して付値が i 以上の元からなる BdR部分集合Fili BdR で表す。これは BdR の減少フィルトレーションを定める。
  • BdR には絶対ガロア群 GK が作用する。剰余体への射影 Fil0 BdRCK はこのガロア群の作用と可換である。
  • GK の作用と可換な Qp 線型な自然な単射 Qp(1) ↪ Fil1 BdR が存在する。この写像による0ではない元の像は BdR素元になる。この自然な単射から任意の整数 i に対し自然な単射 Qp(i) ↪ Fili BdR が定まる。gri
    Fil
    BdR
    CK(i)GK の作用も込みで同型である。
  • BGK
    dR
    = K
  • BdRK をその有限次拡大に置き換えても変わらない。
  • B+
    dR
    K を含む[14]。これは自明なことではない[15]
  • B+
    dR
    は離散付値から定義される位相を持つ[16]。これとは別に、定義 B+
    dR
    lim KWW(R)/Ker(θK)m
    に現れる W(R) の位相の逆極限から得られる位相もある。Fontaine & Ouyang (2008, p. 93) はこの位相を natural topology(直訳: 自然位相)と呼んでいる。
  • 環準同型 s: CKB+
    dR
    であって θs が恒等写像となるものが存在する。ここで θB+
    dR
    からその剰余体 CK への自然な準同型である。しかし一意には定まらず GK の作用と可換にもならない。

Bcrys

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  • BcrysGK 作用に関して閉じている BdR部分環である[13]。体の部分環なので整域である[17]
  • BcrysP0Qp(i) を含む(i は任意の整数)[13]
  • BcrysBdR の減少フィルトレーションから誘導される減少フィルトレーションを持つ。このフィルトレーションに関して gri
    Fil
    Bcrys = gri
    Fil
    BdR
    が任意の整数 i に対して成り立つ。これは形式的ローラン級数環 CX⟧[X−1] と係数の絶対値が急減少するべき級数からなるその部分環との関係に似ている。
  • Bcrysフロベニウスと呼ばれる単射自己準同型 φ: BcrysBcrys を持つ。これは次の性質を持つ。
    • P0 のフロベニウスに関して半線型。
    • GK の作用と可換。
    • tQp(1) ⊂ Bcrys に対して φ(t) = pt が成り立つ。
    • Fil0 BdRBφ=1
      crys
      = Qp
  • BGK
    crys
    = K0
  • BcrysK をその有限次拡大に置き換えても変わらない。

Bst

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  • BstGK 作用に関して閉じている Bcrys を含む BdR の部分環である[18]。体の部分環なので整域である[17]
  • Bstus と書かれる一つの元で Bcrys 上生成される。usBcrys超越的なので[19]BstBcrys 上の一変数多項式環と同型な環である[18]usK の素元 π の取り方によるので、Bst はこの素元の取り方に依存する環である。
  • Bstフロベニウスと呼ばれる単射自己準同型 φ: BstBst を持つ。フロベニウスの作用は Bcrys 上では Bcrys のフロベニウスと同じ。us には φ(us) = pus で作用する。フロベニウスは GK の作用と可換である。
  • Bstモノドロミー作用素と呼ばれる Bcrys 上の導分英語版 N を持つ。NN(us) = 1 で定義され、GK の作用と可換である。
  • フロベニウスとモノドロミー作用素は関係式 = pφN を満たす。
  • BGK
    st
    = K0
  • BN=0
    st
    = Bcrys
  • Fil0 BdRBN=0, φ=1
    st
    = Qp
  • BstBdR への埋め込みを忘れれば K をその有限次拡大に置き換えても変わらず(モノドロミー作用素は分岐指数に応じて変わる)、K の素元 π の取り方にも依らない。

構成

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p 進周期環は次のように構成される。

BdR

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R射影系

逆極限 R = lim 𝒪K / p𝒪K として定義する[20]。つまり、R は集合としては 𝒪K / p𝒪K の元の無限列 (a0, a1, a2, ...) であって an = ap
n+1
を満たすもの全体である。また、環の加法や乗法は成分ごとに定義されたものである。

W(R)R を係数とするヴィット・ベクトルのなす環とする。W(R) から K完備化 CK の整数環 𝒪CK への写像 θ

で定義する。ここで、~an, m𝒪K は、W(R) の元 (a0, a1, a2, ...) に対しその第 n 成分 an = (an, 0, an, 1, an, 2, ...) の第 m 成分 an, m𝒪K / p𝒪K 𝒪K に持ち上げたものである。θ全射環準同型である。また、その単項イデアルである。

R は自然に k 代数になる[21]ので W(R) は自然に WW(k) 代数になる。θK 線型に延長した写像 KWW(R) → CKθK とし、B+
dR

で定義する。その商体を BdR とする。

Bcrys

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記号は前節と同じとする[14]ξp を準同型 θ: W(R) → 𝒪CK の核の生成元とし、QpZp W(R) の部分環 WPD(R)

で定義する。WPD(R)p 進完備化を Acrys とし、B+
crys

で定義する[22]B+
crys
BdR に埋め込める。t を自然な単射 Qp(1) ↪ Fil1 BdR による0ではない元の像とする[23]Bcrys

で定義する。

Bst

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記号は前節と同じとする[19]πK素元として、s = (sn)nNπ𝒪K における p べき乗根の系、つまり s0 = π, sp
n+1
= sn
を満たすような 𝒪K の元の列とする。s ≔ (sn mod p)nNと置くと、これは R の元を定める。W(R) の元 [s]sタイヒミュラー代表元英語版とし、B+
dR
の元 us

で定義する。右辺の級数は θ([s]) = π であることにより θ(π−1 ⊗ [s]) = 1 が成り立つので B+
dR
で収束する。

BstBcrysus で生成される環として定義する。

脚注

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注釈

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  1. ^ 文献によっては crys ではなく cris と書いている。Fontaine & Ouyang (2008) など。英語の crystal はフランス語では cristal である[8]
  2. ^ CK を除き Tsuji (1999, p. 1) に従っている。
  3. ^ この記号は Brinon & Conrad (2009, p. 10) に合わせた。

出典

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参考文献

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