コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

電子殻

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
L殻から転送)

電子殻でんしかく: electron shell)は、ボーアの原子模型において、原子核を取り巻く電子軌道の集まりをいう。言わば電子の収容所のことで、それにいかに電子が入っているかを示すのが電子配置である。実際の電子軌道は必ずしも球状ではなく、このモデルも厳密には正確ではない。しかし、原子に束縛された電子の状態を理解する上で重要なモデルである。

概要

[編集]

電子殻は主量子数 ごとに複数の層を構成しているとみなされ、エネルギー準位の低い方からK殻・L殻・M殻・N殻・O殻・P殻…と呼ばれている。電子殻それぞれに入ることのできる電子の数は 個に等しい。ここで示す電子収容数はあくまで計算値であり、各電子殻上で32個より多く電子をもつ原子は発見されていない。

電子殻は一つ以上の「小軌道[1]」(electron subshell) より構成され、各小軌道での電子収容数の和がその電子殻での収容数となる。次節参照。

電子は、量子数の小さい電子殻から順に入ることになっている。このため電子殻の数は、元素によってそれぞれ異なり、元素の周期を決定する要素となる。それぞれの原子の最も外側の電子殻の電子を最外殻電子ともいい、希ガスを除きしばしば価電子の役割をする。

  • 電子殻のアルファベットがKから始まるのは、発見当初はまだこれより小さい殻があると考えられていたため、10個分の予約を確保し、11個目のKがあてられた。しかし、K殻よりも小さい殻は発見されなかった。
  • 英版(英語圏)では電子殻を数字で表示し、ローマ字表示もされると記述されている。("1 shell"(K殻)、 "2 shell"(L殻)、 "3 shell"(M殻)、・・・。)
計算上で電子殻に収納可能な電子数
主量子数 n 電子数 2n2 小軌道
K殻 1 2 1s
(2)
L殻 2 8 2s+2p
(2+6)
M殻 3 18 3s+3p+3d
(2+6+10)
N殻 4 32 4s+4p+4d+4f
(2+6+10+14)
O殻 5 50 5s+5p+5d+5f+5g
(2+6+10+14+18)
P殻 6 72 6s+6p+6d+6f+6g+6h
(2+6+10+14+18+22)
Q殻 7 98 7s+7p+7d+7f+7g+7h+7i
(2+6+10+14+18+22+26)

しかし、実際に周期表としてまとめられている元素電子配置においては、電子殻内の電子数は、以下のような形でしか確認されていない。

太字d軌道f軌道)は、余剰部分として、電子の充填が後の周期へと後回しにされる軌道。d軌道は1周期後、f軌道は2周期後に充填される。d軌道は主に1周期後のDブロック元素遷移元素)の部分を、f軌道は主に2周期後のFブロック元素ランタノイドアクチノイド)の部分を担う。)

実際上の電子殻に収納可能な電子数
周期 電子数 小軌道
第1周期 K殻 2 1s
(2)
第2周期 L殻 8 2s+2p
(2+6)
第3周期 M殻 18 3s+3p+3d
(2+6+10)
第4周期 N殻 32 4s+4p+4d+4f
(2+6+10+14)
第5周期 O殻 32 5s+5p+5d+5f
(2+6+10+14)
第6周期 P殻 18 6s+6p+6d
(2+6+10)
第7周期 Q殻 8 7s+7p
(2+6)

小軌道

[編集]

英語でelectron subshellといい、「小軌道」、「副電子殻[2]、「亜殻」と言われる。ここでは本項目である「電子殻」と区別しやすくするため「小軌道」と表記する。小軌道は電子殻を構成する電子軌道の集まりで、エネルギー準位の低い内側のs軌道から始まり、p、d、f、g軌道と続く。各小軌道の電子容量の和がその電子殻の電子容量となる。K殻ではs軌道の2個のみ、L殻ではs軌道の2個とp軌道の6個の計8個、M殻ではs軌道の2個、p軌道の6個、d軌道の10個の合計の18個となる。

小軌道に収納可能な電子数
小軌道 方位量子数 電子数 名前の由来
s軌道 0 2  sharp
p軌道 1 6  principal
d軌道 2 10  diffuse
f軌道 3 14  fundamental
g軌道 4 18 fの次[3]
h軌道 5 22 gの次
i軌道 6 26 hの次

電子の収容順

[編集]
増成原理(Aufbau principle)電子の各電子殻の各軌道への収容順。上からK(=1)、L(=2)、M(=3)、N(=4)、O(=5)、P(=6)殻

高位の「電子殻」の低位の「小軌道」のエネルギー準位は、低位の「電子殻」の高位の「小軌道」より低くなっており、そちらへ先に電子が収容される。これを構造原理という。右図の3行目のM殻ではp軌道(3p)に電子が入ると、次はd軌道(3d)では無くN殻のs軌道(4s)へ電子が入る。その後でM殻のd軌道(3d)へ戻る。以降 3d - 4p - 5s - 4d - 5p - 6sと続いていく。ただし第4周期以降では例外もある。詳細は電子配置を参照。

例えるなら、近くの建物の3階へ引っ越すより、遠い建物の1階へ入居するほうが簡単という事である。これがO殻、P殻に32個より多くの電子を持つ元素が見つかっていない理由でもある。

2012年の時点で発見が報告されている(未公認を含む)元素は、右図の小軌道6dおよび7s[注釈 1]を満たし、7pに電子を収容している元素である。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 7sは6pの後に既に満たされている。

出典

[編集]
  1. ^ 楽しい高校化学「電子殻の構造」”. 2012年10月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年9月23日閲覧。
  2. ^ weblio sub-electron shell
  3. ^ Jue, T. (2009). “Quantum Mechanic Basic to Biophysical Methods”. Fundamental Concepts in Biophysics. Berlin: Springer. p. 33. ISBN 1-58829-973-2. https://books.google.co.jp/books?id=-W1bL7s--igC&pg=PA33&redir_esc=y&hl=ja 

関連項目

[編集]