チョーク
チョーク(英: chalk, chalk stick)は、対象物に粉状の筆跡を付けて筆記する文房具の一種。黒板に字を書き込んだり、絵を描く事、物品への記入などに用いられる。漢語では白墨[1](はくぼく)、堊筆(あくひつ)と呼ぶ。
概要
[編集]学校教材などで用いられるチョークは、炭酸カルシウムや石膏(硫酸カルシウム)を水で練り成型した工業製品である[2]。ホタテ貝殻[3]やカキ殻、卵殻[4]、陶磁器業者から排出される廃型もリサイクル原料として用いられている。
基本は白色だが、赤、青、黄などに着色されたチョークも黒板に使われる。色覚異常者でも色の違いを判別しやすいチョークも販売されている。
チョークは、四角形や三角形、楕円形などさまざまな形が発売されている。日本でも販売されてきたが、今では円形が主流である。さらに、丸石石膏が六角形のチョークを国内で初めて発売しヒットした。現在、国内メーカーで唯一六角形チョークを発売している[5]。
チョークで手指や被服を汚さない、また手荒れ、チョークの折損を防ぐ、短いチョークを有効活用するなどのためにチョークを保持する「チョークホルダー」が用いられることもある。なおチョークの寸法は日本産業規格で長さと最小径が定められているが、製品や時代によっても異なる[6][7]。
黒板への筆記のほか、舗装路などへの筆記・描画にも用いられ、この用途のチョークは英語では特にサイドウォークチョーク(英: sidewalk chalk)と呼ぶ。かつて日本の警察でも駐車違反監視のマーキング用にチョークが用いられていたが、2006年の道路交通法改正に伴いマーキング自体がおこなわれなくなった[8]。
歴史
[編集]「チョーク」とは本来、原料である白亜を指す。古くはこれは単に顔料として用いられたが、ヨーロッパでは15世紀ごろから棒状あるいは砲弾状に削って画家が用いるようになった[2]。また白亜のほか、赤褐色、黒色、灰色の天然の鉱物が用いられ、これらも画材としてはチョークと総称される。やがて削って用いるのに適した良質な鉱物塊の産出が稀になり、19世紀初頭にかけて画材としてのチョークは、粉末化した白亜に顔料を加えて練り固めるなどして人造されるものが主となった(パステル、コンテ類)[2][9][10]。
現代的な筆記用チョークの始まりとしては、19世紀初頭、イギリスで建築材料に使われる石灰岩で硬いものに線が引けることを発見。また、同時期にフランスで石灰の粉末を焼いてから水に溶いて棒状に固めたものが元祖とされている[7]。これ以外にも、イギリスでは建築材料の石灰岩で硬い物に対して線が書けることが知られていた[7]。
日本では大阪の雑貨商の杉本富一郎が1873年(明治6年)に初めて輸入し、さらに1875年(明治8年)には初の国産白墨を完成させた[7]。さらに、1893年(明治26年)に東京の菊地一貫堂(現在廃業)が学校用チョークの製造販売に乗り出し、文具ルートにチョークを流通させた[11]。学校の授業でチョークが本格的に使用されるようになったのは大正時代といわれている[7]。
種類
[編集]- 炭酸カルシウムタイプ
- 炭酸カルシウム()でできているチョーク。粒子が細かく比重が重い[7]。細かい文字を書くのに適している[7]。
- 炭酸カルシウムとノリ、水を混合し、粘土状に練り上げ、これを「圧力押し出し型加工」で製造される。
- 炭酸カルシウム製のチョークを称してダストレスタイプと言われることがある。また、蛍光チョークや太軸・細軸チョーク、耐水性チョーク、マーブルチョークなど機能のバリエーションも豊富である。
- カキやホタテの貝殻、卵の殻などを混ぜていることもある
- 硫酸カルシウム(焼き石膏)タイプ
- 硫酸カルシウム()でできているチョーク。粒子密度は粗く比重は軽い[7]。太い文字を書くのに適している[7]。
- 明治から昭和 5 年ごろまでは「割型加工方式」が採用されていた。ただし、発色性や生産性が悪かったため、現在では「流し込み一括抜き取り方式」が主流。また、色つきチョークでは、日本白墨工業株式会社の創業者である宮本長慶が今までの「着色方式」から「練りこみ方式」を考案し今では主流となった。
安全性
[編集]チョークには基本的に毒性があるとは考えられていないが、大量に経口摂取すると腹痛や便秘などの症状を引き起こす場合がある[12]。2003年には有毒な鉛を含んだチョークが大手玩具店や百貨店で販売されていた事例もある[13]。
日本産業規格JIS S 6009「白墨」や、欧州指令EN71(CEマーク)、日本玩具協会のSTマークでは有害物質の規制基準を設けている[14]。
また一般にチョーク粉のような難溶性粉塵の吸入は異物反応の原因となる[15]。長期の吸入摂取による肺疾患が疑われる症例報告もあるが、報告数が少なく因果関係は明らかでない[16]。チョークは10マイクロメートル以下の浮遊粉塵(浮遊粒子状物質)を発生させるが、炭酸カルシウム製は硫酸カルシウム製に比べて粒子の比重が大きく飛散が少ない[17]。日本では学校保健安全法に基づく学校環境衛生基準でこうした浮遊粉塵の環境基準を設けている。
チョークが出てくる作品
[編集]- グリム童話『狼と七匹の子山羊』 - オオカミが声を変えようしてチョークを食べる場面がある。なお、現在の日本で販売されているチョークにはそのような性質はない。
- 安部公房『魔法のチョーク』(月曜書房。1950年)
- 筒井康隆『虚航船団』(新潮社、1984年) - 宇宙船の乗組員。
日本の主なメーカーと製品
[編集]現在販売中の主なメーカー
- 日本理化学工業 - ダストレスチョーク,ホケンチョーク
- 日本白墨工業 - 天神印チョーク,SCHOOL72
- 馬印 - スクールチョーク,ccチョーク
- 橘高白墨 - キッタカチョーク,ゴールデンチョーク
- 不二白墨製造所 - 不二チョーク,ダートレスチョーク
- 丸石石膏 - 天空馬チョーク,六角形チョーク
- ナニワ理化学工業 - ナニワチョーク,ノンダストチョーク
- クラウングループ - クラウンチョーク
- 墨運堂 - ソフトチョーク,ハードチョーク
- デビカ - コンパクトチョーク
過去に販売していたことがある主なメーカー
- 羽衣文具 フルタッチ,ニューポリ
- 伊藤白墨製造所 - イトウカルシウムチョーク,PATENTチョーク
- 合資会社で、「名古屋市瑞穂区浮島町16-5」に存在した。
- 日本教学工業株式会社 - 教学タンカルチョーク
- 「東京都豊島区南大塚3-55-1」に存在した。日本学校保健会推奨チョークだった[18]。
- 株式会社ペリカン - サニーペリカンチョーク(旧アサヒペリカンチョーク,アサヒペンギンチョーク),皮膜付きベリカンチョーク
- 1932年に創立し、(株)靑木商店→(株)青木萬次郎商店→(株)ペリカンと変更。「名古屋市千種区内山町1-10」に存在した。
- 丸善 - オリオンチョーク
- 製造元はオリオンチョーク製造所であった。
脚注
[編集]- ^ 大槻文彦「チョウク」『大言海』(新編)冨山房、1982年、1333頁。
- ^ a b c 金子 亨、速水 敬一郎、西川 正恒、村辺 奈々恵、佐藤 みちる「素描に関する一考察─ リアリズム絵画を中心に ─」『東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系』第64巻、東京学芸大学学術情報委員会、2012年10月31日、11-35頁。
- ^ ホタテ貝殻配合チョーク(日本理化学工業)
- ^ 卵殻リサイクルチョーク(日本白墨工業)
- ^ “丸石石膏について|あらゆる石膏の御用命は丸石石膏株式会社”. www.maruishi-gypsum.co.jp. 2024年1月11日閲覧。
- ^ JIS S 6009:2013「白墨」(日本産業標準調査会、経済産業省)
- ^ a b c d e f g h i “黒板のお話”. 関東黒板工業会. 2020年5月27日閲覧。
- ^ “道路のチョークの印、昔は駐禁いまは…?”. 乗りものニュース. メディア・ヴァーグ (2017年9月24日). 2022年10月25日閲覧。
- ^ 「素描」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2023年3月10日閲覧。
- ^ Thomas Buser. “Drawing Materials”. History of Drawing. 2023年3月10日閲覧。
- ^ “白棒の歴史”. 日本白棒工業株式会社. 2023年12月17日閲覧。
- ^ “Swallowing chalk”. MedlinePlus. U.S. National Library of Medicine. 2019年12月15日閲覧。
- ^ Playing With Poison: Lead Poisoning Hazards of Children’s Product Recalls 1990 - 2004. Kids In Danger. (2004-8)
- ^ “子供用おもちゃに関連する法規制等”. 身の回りの製品に含まれる化学物質. 製品評価技術基盤機構 (2019年10月2日). 2019年12月15日閲覧。
- ^ 森忠繁、竹岡清、明石信爾、大羽和子「講義室内のチョーク粉塵」『日本衛生学雑誌』第31巻第5号、日本衛生学会、1976年、589-594頁、doi:10.1265/jjh.31.589。
- ^ “資料4 ILO職業病一覧表記載疾病文献レビュー: 10 慢性閉塞性肺疾患(COPD)”. 労働基準法施行規則第35条専門検討会 資料. 2019年12月15日閲覧。
- ^ 『学校環境衛生管理マニュアル』(平成30年度改訂版)文部科学省 。
- ^ “学校保健 No.109”. 日本学校保健会. 2024年7月14日閲覧。