香港に栄光あれ
願榮光歸香港 | |
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Glory to Hong Kong | |
和訳例:香港に栄光あれ | |
沙田のショッピングモールに集まった1000人の市民による合唱風景 | |
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作曲 | Thomas dgx yhl(仮名)(2019年6月~8月) |
言語 | 広東語 |
『香港に栄光あれ』(ホンコンにえいこうあれ、広東語: 願榮光歸香港、英語: Glory to Hong Kong)は、2019年に発表された広東語の楽曲。同年の香港での逃亡犯条例改正案に巡るデモをきっかけに、香港のネット掲示板LIHKG(広東語では『連登討論區』『連登』とも呼ばれている)のメンバーであるThomas dgx yhl(仮名)により書き下ろされた。
この曲はデモ参加者にテーマソング、あるいは非公式な国歌に相当するものとして扱われ、2019年9月以降頻繁に歌われるようになったが、 香港特別行政区全国人民代表大会代表 は「香港に栄光あれ」を「香港独立」思想を広める曲だと主張し、いくつかの論争を引き起こした[1]。
概要
[編集]2019年8月31日に動画サイトYouTubeにアップロードされたこの曲は、地元のミュージシャンであるThomas dgx yhlが作詞・作曲し、デモ曲ができた段階でLIHKG上ボーカリストを募集し、録音を行った。但し、その募集スレッドでは、ボーカリストの募集だけではなく、歌詞に対する意見もThomas dgx yhlが求めており、正式に採用された歌詞はLIHKGのメンバーも作詞に参加している[2]。なお、この曲のレコーディング・ミキシングには同スレッドに議論しているメンバーも参加している。Thomas dgx yhlによれば、参加しているボーカリストは20人以上だという[3]。 メロディは国王陛下万歳やロシア連邦国歌などを参考にしており、作詞にあたっては李白の詩や魯迅の作品を参考にしたともいう[4]。 2019年9月10日に行われたサッカー香港代表とイラン代表とのFIFAワールドカップ予選では、1万4千人を超える観客の多くが中国の国歌(「香港の国歌」として演奏される)に対してブーイングする一方、演奏後にはこの曲の大合唱が起こった[5]。また、香港の十数以上のショッピングモールでもデモの一環として参加者による合唱が行われた[6]。
Thomas dgx yhlの意向により、彼の手掛けた編曲バージョンのスコアが公開され、ストリーミングサイトKKBOXにも同曲を配信している。
2020年6月30日に成立し、同日午後11時に施行した香港国家安全維持法により当曲を公衆の面前で歌う行為は、「香港独立」を煽る行為と見做され刑事罰の対象となる可能性があるとして、歌われる機会が減少している。同年7月8日には、香港教育局が教育機関で当曲の歌唱を禁止した。
2023年6月5日、香港政府は「国家の安全と国歌の尊厳を守るため」として演奏などを全面的に禁じる命令を出すよう高等法院に申請したが[7]、同年7月28日、高等法院は表現の自由に考慮して政府の申請を認めない判断を示した[8][9]。政府は上訴し、2024年5月8日、高等法院上訴法廷は、高等法院の判断を覆し、当曲の演奏やインターネット配信を禁じる命令を出した[10]。
評価
[編集]公表以来、ドイチェ・ヴェレは、この曲を香港の抗議運動の「主題歌」と表現している[11]。アメリカ政府系メディアであるボイス・オブ・アメリカは、「香港に栄光あれ」の曲はデモ参加者の声を表現していると述べた[12]。タイム誌はこの曲を香港の新しい「国歌」として詳細に取り上げた[13]。台湾の自由時報はこの曲を「抗争者の軍歌」と表現し、香港の状況に対する不安と後退しないという革命的な精神を歌った曲だと評価した[14]。また、香港立法会の元議長ジャスパー・ツァンは、この歌の高い技量とクオリティを称え、「デモ隊の宣伝レベルが非常に高く、香港政府が宣伝の面ではるかに遅れていることを十分に反映している」と述べた[15] 。
一方批判的な意見として、香港中文大学の音楽講師、ブライアン・トンプソンは音楽理論の観点から、高い音程と広い音域が含まれるこの曲を「アマチュアが上手に歌うことが困難な曲」と指摘した[16] 。
中央政府駐香港連絡弁公室傘下の新聞といわれている文匯報は9月12日、「洗脳と独立の扇動」と題する記事で「香港に栄光あれ」を「香港独立の歌」とし、「暴力を美化する」歌詞が含まれていると批判した[17]、パン・リチョンは9月13日に明報に「香港独立を擁護する洗脳の歌」と題する記事を寄稿し、この曲は「暴力と憎しみの種」であり、「若者を洗脳している」、「エレガントな歌詞で憎悪を扇動している」とコメントし、「洗脳の歌で満たされた人々が邪悪な行為を犯している」と主張した [18] 。
また、香港警察はこの曲を激しく嫌っており、2019年のクリスマスに行われたミュージシャンのストライキでは、100人以上のミュージシャンがチャーター・ガーデンで平和的なコンサートを開催しようとしたところ、機動隊が会場近くに現れ、「香港に栄光あれ」がレパートリーに含まれていることを理由に担当者に対しレパートリーの変更を要求した[19]。また、この曲を校門の外で演奏した中学生が逮捕される事件も起きた[20] 。
なお、Googleの2019年香港トップ検索ワードランキングによると、「香港に栄光あれ」は6位にランクインした[21]。一方、Googleで「香港国歌」「香港の国歌」と検索した結果、「香港に栄光あれ」が上位に表示される事態が続いており、実際にスポーツ大会において、誤って「香港に栄光あれ」が香港国歌として演奏された事例が度々あったことから、香港政府はこの検索結果に問題があるとしてGoogleに抗議したが、Googleはアルゴリズムで検索結果が決まるという理由から拒否したことを2022年12月に発表した[22][23][24]。
派生バージョン
[編集]YouTubeでは、オーケストラ&フルコーラス版・ロック版・アコースティック版・中国伝統楽器版・カントリー版・ボーカロイド版などの派生バージョンが存在している。
多言語版
[編集]同曲の英語版[25]・日本語版・韓国語版も、Thomas dgx yhlの呼び掛けで各有志メンバーにより発表されている[26]。
ドイツ在住の香港人によって、同曲のドイツ語訳も行われた。台湾人によって、同曲の歌詞は台湾語(台湾閩南語)にも翻訳されている。また、普通中国語版、上海語版、ウイグル語版、ベトナム語版、フィンランド語版、テノール歌手ロドラ・ステファノによるイタリア語版、フランス語版、カタルーニャ語版、オランダ語版、エスペラント語版の歌詞も発表されているほか、香港手話版も発表されている。
脚注
[編集]- ^ “香港「反送中」歌曲《願榮光歸香港》被封「國歌」引發爭議” (中国語). BBC中文. (2019年9月12日). オリジナルの2019年10月8日時点におけるアーカイブ。 2019年9月14日閲覧。
- ^ “作左首軍歌幫大家回血《願榮光歸香港》 招virtual合唱”. LIHKG. (2019年8月26日). オリジナルの2019年9月24日時点におけるアーカイブ。 2019年9月24日閲覧。
- ^ “【專訪】「香港之歌」誕生? 《願榮光歸香港》創作人:音樂是凝聚人心最強武器”. Stand News. (2019年9月11日). オリジナルの2019年9月12日時点におけるアーカイブ。 2019年9月24日閲覧。
- ^ Smith, Ken (12 October 2019). “‘Glory to Hong Kong’: anthem born of turmoil turns into music of hope”. Nikkei Asian Review. 12 October 2019時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月12日閲覧。 アーカイブ 2019年10月12日 - ウェイバックマシン
- ^ “Hong Kong: Demonstrators boo Chinese anthem at football qualifier”. (2019年9月11日). オリジナルの2019年9月10日時点におけるアーカイブ。 2019年9月24日閲覧。
- ^ “【社區大合唱】大埔、沙田、油塘多區居民晚上接力大合唱” (2019年9月13日). 2019年9月12日閲覧。 アーカイブ 2019年11月18日 - ウェイバックマシン
- ^ “香港民主派テーマ曲禁止へ 表現の自由さらに狭まる”. 産経新聞. (2023年6月7日) 2024年5月9日閲覧。
- ^ “香港高裁、民主派の曲の禁止令認めず、政府申請を拒否”. 産経新聞. (2023年7月28日) 2024年5月9日閲覧。
- ^ “香港裁判所、民主派曲の禁止求める政府の申請を拒否”. ロイター. (2023年7月28日) 2024年5月9日閲覧。
- ^ “香港の大規模デモで歌われた「香港に栄光あれ」 演奏や配信禁止に”. 朝日新聞. (2024年5月9日) 2024年5月9日閲覧。
- ^ “香港抗议运动的“主题曲”” (中国語). ドイチェ・ヴェレ. (2019年9月1日). オリジナルの2019年9月13日時点におけるアーカイブ。 2019年9月12日閲覧。
- ^ “《愿荣光归香港》词曲道出示威者心声” (中国語). ボイス・オブ・アメリカ. (2019年9月1日). オリジナルの2019年9月13日時点におけるアーカイブ。 2019年9月12日閲覧。
- ^ “The Story Behind Hong Kong's New 'National Anthem'” (英語). Times (2019年9月12日). 2019年11月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月6日閲覧。 アーカイブ 2022年1月24日 - ウェイバックマシン
- ^ “反送中》港人原創抗爭者軍歌 《願榮光歸香港》MV曝光” (中国語). 自由時報. (2019年8月31日). オリジナルの2019年9月5日時点におけるアーカイブ。 2019年9月12日閲覧。
- ^ “曾鈺成讚《願榮光歸香港》高質 反映文宣水平相當高” (中国語). RTHK. (2019年9月14日). オリジナルの2019年9月16日時点におけるアーカイブ。 2019年9月14日閲覧。
- ^ Lee, Jasmine (2019年9月20日). “Glory to Hong Kong’s bilingual significance, musicality, and more”. Harbour Times. オリジナルの2019年10月27日時点におけるアーカイブ。 2019年12月17日閲覧。
- ^ “香港「反送中」歌曲《願榮光歸香港》被封「國歌」引發爭議” (中国語). BBC中文. (2019年9月12日). オリジナルの2019年10月8日時点におけるアーカイブ。 2019年9月14日閲覧。
- ^ “鼓吹港獨的洗腦歌” (中国語). 明報. (2019年9月13日). オリジナルの2019年9月13日時点におけるアーカイブ。 2019年9月17日閲覧。
- ^ “音樂人發起罷工五日 獨立音樂人:音樂會計劃唱《榮光》 防暴到場被迫刪歌 | 立場報道 | 立場新聞” (中国語). 立場新聞 Stand News. 2019年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年12月24日閲覧。 アーカイブ 2019年12月24日 - ウェイバックマシン
- ^ “校門外播《願榮光》 英華中二生被捕 | 明報 | 明報” (中国語). 明報 MingPao. 2019年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月12日閲覧。 アーカイブ 2019年11月12日 - ウェイバックマシン
- ^ “Google 香港 2019 年度搜尋榜 連登成熱爆關鍵字 何君堯本地話題人物首位” (中国語). 立場新聞. (2019年12月11日). オリジナルの2019年12月12日時点におけるアーカイブ。 2019年12月17日閲覧。
- ^ “香港「国歌」取り違え相次ぐ 政府、Google表示に抗議”. 日本経済新聞. 日本経済新聞社 (2022年12月10日). 2022年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年12月10日閲覧。 アーカイブ 2023年6月1日 - ウェイバックマシン
- ^ Nikki Main (2022年12月12日). “香港のデモ応援歌を「国歌」と取り違えて流す事態が相次ぐ→政府は「Googleのせい」”. GIZMODO. 2022年12月14日閲覧。 アーカイブ 2023年2月2日 - ウェイバックマシン
- ^ “グーグルに抗議、「国歌」検索で香港政府”. NNA.ASIA (2022年12月14日). 2022年12月14日閲覧。 アーカイブ 2022年12月21日 - ウェイバックマシン
- ^ "Protesters' latest theme song, 'Glory to Hong Kong', rings out in malls" (英語). 11 September 2019. 2019年9月10日閲覧。
- ^ "【睇片】原創團隊發佈《願榮光歸香港》正式版:唱歌凝聚人心,之後有好多實事要做" (中国語). Stand News. 13 September 2019. 2019年9月24日閲覧。