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イベントホライズンテレスコープ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
いて座A*(中央)と最近起きた爆発現象の光エコーの軟X線画像

イベントホライズンテレスコープ[1]EHT/Event Horizon Telescope)は、地球上にある電波望遠鏡をVLBI(超長基線電波干渉法)を用いて結合させ、銀河の中心にある巨大ブラックホールの姿を捉えるプロジェクトである。直訳で事象の地平線望遠鏡とも表記される[2]。観測対象は、地球を含む天の川銀河の中心にある「いて座A*」と巨大楕円銀河M87の中心にある超巨大ブラックホールであり、これを撮影可能な解像度を有している[3][4][5][6][7]

現在、米国マサチューセッツ工科大学のシェパード・ドールマン(Sheperd Doeleman)がプロジェクトディレクター[8]アリゾナ大学のディミトリス・サルティス(Dimitrios Psaltis)がプロジェクトサイエンティスト、オランダライデン大学のレモ・ティラヌス(Remo Tilanus)がプロジェクトマネージャーを務めている[9]

概要

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EHTは、世界中の複数の電波望遠鏡を結合させることで非常に高い感度と解像度を実現している。VLBI(超長基線電波干渉法)を用いることで、何千キロ・メートルも離れたところにある電波望遠鏡を結び付けて、地球と同じサイズの口径を持つ仮想的な電波望遠鏡を構成することができる[10]。EHTの実現のためには、サブミリ波での両偏波観測可能な受信機、230-450GHzの周波数帯でVLBIを実現できる高安定な基準周波数信号、広帯域なVLBIバックエンドとデータ保存装置の開発と、サブミリ波VLBI観測が可能な天文台での試験観測が必要であった[11]

2006年に最初のデータを取得して以来、EHTは徐々に参加する望遠鏡の数を増加させていった。天の川銀河中心にあるいて座A*の画像を取得するための初めての観測は2017年4月に実施されたが[12][13]、EHTに参加する南極点望遠鏡の冬季閉鎖により、データの輸送と処理が2017年12月にずれ込んだ[14]。超巨大ブラックホールの画像が撮影されれば、アルバート・アインシュタインが提唱した一般相対性理論の検証が可能である[10][13]

EHTの観測で取得されたデータは、ハードディスクドライブに保存され、飛行機(いわゆるスニーカーネット)で各望遠鏡からマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所/天文台と、ドイツマックス・プランク電波天文学研究所に運ばれ、40Gbit/sのネットワークで結合された800個のCPUを擁するグリッド・コンピューターで処理される[15]

研究成果

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EHTが世界で初めて撮影に成功したブラックホールの事象の地平線

研究成果は2019年4月10日13時 (UTC)から 、アメリカ合衆国ワシントンD.C.)の他、日本東京)、ベルギーブリュッセル)、チリサンティアゴ)、中国上海)、台湾台北)で同時に記者会見が開かれ[16]、人類史上初[17]のブラックホールの直接撮影であるM87中心の巨大ブラックホールの撮像が公開された[18]。この観測により、超大質量ブラックホールの事象の地平面の周囲に存在する光子球[19](photon sphere[19]) の存在とそれが作るブラックホールシャドウ[18][19]が直接確認された[18]。ブラックホールシャドウのサイズは1000億km、事象の地平面の直径は400億kmと見積もられている[18]。この撮影には、ALMAを中核とする南北アメリカ大陸スペインハワイにある望遠鏡7台が使われた[20]。2019年の発表後、EHTチームの公開したデータを世界各国の研究チームが再解析し、EHTチームと同様にリング状の画像を得ている[21]。2022年6月には、EHTチームに参加していない三好真助教(国立天文台)らの研究グループによる「リング構造であるとする解析結果は誤りである」とする研究結果がアストロフィジカルジャーナル誌に掲載されたが[22]、EHTチームは誤った理解に基づくものとして否定している[21]

2020年、『史上初のブラックホールの撮影』により、日本のSFファンが選ぶ第51回星雲賞の自由部門を受賞。

2022年5月12日に開かれた世界同時記者会見にて、M87に次いで観測史上2例目となる、いて座A*にある超大質量ブラックホールのブラックホールシャドウの直接観測に成功したと発表した[23]

参加機関

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EHTとグローバルミリ波VLBIアレイ[24]
EHTのVLBI装置図。遠く離れたアンテナには、それぞれ非常に精密な原子時計が搭載されている。アンテナで集められたアナログ信号はデジタル信号に変換され、原子時計から供給された精密な時刻信号とともにハードディスクドライブに保存される。ハードディスクドライブはその後、相関器のある所まで輸送され、同期処理される。各地から持ち寄られたデータをもとに天文画像が合成される。

2019年現在、EHT評議会に代表者を出している機関は以下の13機関[8]。その他、EHTコラボレーションに個人として参加している研究者を含めると、76機関、206名が参加している[8]

EHTに貢献している機関・望遠鏡は以下の通りである[25]

脚注

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  1. ^ 天文学辞典 » イベントホライズンテレスコープ”. 天文学辞典. 日本天文学会. 2019年4月11日閲覧。
  2. ^ デジタル大辞泉『事象の地平線望遠鏡』 - コトバンク
  3. ^ Falcke, Heino; Melia, Fulvio; Agol, Eric (2000). “Viewing the Shadow of the Black Hole at the Galactic Center”. The Astrophysical Journal 528 (1): L13-L16. arXiv:astro-ph/9912263. Bibcode2000ApJ...528L..13F. doi:10.1086/312423. ISSN 0004637X. 
  4. ^ Bromley, Benjamin C.; Melia, Fulvio; Liu, Siming (2001). “Polarimetric Imaging of the Massive Black Hole at the Galactic Center”. The Astrophysical Journal 555 (2): L83-L86. arXiv:astro-ph/0106180. Bibcode2001ApJ...555L..83B. doi:10.1086/322862. ISSN 0004637X. 
  5. ^ Event Horizon Telescope”. Event Horizon Telescope. 2019年4月7日閲覧。
  6. ^ Overbye, Dennis (2015年6月8日). “Black Hole Hunters”. NASA. https://www.nytimes.com/2015/06/09/science/black-hole-event-horizon-telescope.html 2019年4月7日閲覧。 
  7. ^ Overbye, Dennis; Corum, Jonathan; Drakeford, Jason (2015年6月8日). “Video: Peering Into a Black Hole”. New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/video/science/100000003725182/peering-into-a-black-hole.html 2019年4月7日閲覧。 
  8. ^ a b c イベント・ホライズン・テレスコープ ファクトシート』(プレスリリース)国立天文台https://www.nao.ac.jp/news/sp/20190410-eht/factsheet.pdf2019年4月11日閲覧 
  9. ^ Organization”. Event Horizon Telescope. 2019年4月7日閲覧。
  10. ^ a b O'Neill, Ian (2015年7月2日). “Event Horizon Telescope Will Probe Spacetime's Mysteries”. Discovery News. http://news.discovery.com/space/astronomy/event-horizon-telescope-will-probe-spacetimes-mysteries-150702.htm 2019年4月7日閲覧。 
  11. ^ Event Horizon Telescope”. MIT Haystack observatory. 2019年4月7日閲覧。
  12. ^ Webb, Jonathan (2016年1月8日). “Event horizon snapshot due in 2017”. BBC News. https://www.bbc.com/news/science-environment-35258378 2019年4月11日閲覧。 
  13. ^ a b Davide Castelvecchi (2017-3-23). “How to hunt for a black hole with a telescope the size of Earth”. Nature 543 (7646): 478-480. Bibcode2017Natur.543..478C. doi:10.1038/543478a. PMID 28332538. http://www.nature.com/news/how-to-hunt-for-a-black-hole-with-a-telescope-the-size-of-earth-1.21693. 
  14. ^ EHT Status Update, December 15 2017” (英語). eventhorizontelescope.org. 2018年2月9日閲覧。
  15. ^ Mearian, Lucas (2015年8月18日). “Massive telescope array aims for black hole, gets gusher of data”. Computer World. http://www.computerworld.com/article/2972251/space-technology/massive-telescope-array-aims-for-black-hole-gets-gusher-of-data.html 2019年4月7日閲覧。 
  16. ^ これがブラックホールの姿! 史上初、撮影に成功”. AFPBB (2019年4月10日). 2019年4月11日閲覧。
  17. ^ ““ブラックホールはこれだ”人類史上初の撮影に成功 九大研究者も興奮「次の段階に進める」 福岡市”. FNN. (2019年4月11日). https://www.fnn.jp/posts/2019041100000008TNC/201904111916_TNC_TNC 2019年4月11日閲覧。 
  18. ^ a b c d 史上初、ブラックホールの撮影に成功 - 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る』(プレスリリース)国立天文台、2019年4月10日https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190410-eht.html2019年4月10日閲覧 
  19. ^ a b c 秋山和徳; 本間希樹 (2018-06). “Event Horizon Telescopeによる超大質量ブラックホールの事象の地平面スケールの観測”. 天文月報 (日本天文学会) 111 (6): 358-367. ISSN 03742466. 
  20. ^ ブラックホール画像 鮮明に/世界の望遠鏡「一つ」に『日経産業新聞』2019年7月5日(先端技術面)。
  21. ^ a b “世界初のブラックホール画像に異論 国立天文台、別チームが再解析”. 産経新聞. (2022年6月30日). オリジナルの2022年6月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220630124725/https://www.sankei.com/article/20220630-HH55XDPUBBOLFHRL6DI2LUXNIA/ 2022年7月1日閲覧。 
  22. ^ Miyoshi, Makoto; Kato, Yoshiaki; Makino, Junichiro (2022-06-30). “The Jet and Resolved Features of the Central Supermassive Black Hole of M87 Observed with the Event Horizon Telescope (EHT)”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 933 (1): 36. arXiv:2205.04623. Bibcode2022arXiv220504623M. doi:10.3847/1538-4357/ac6ddb. ISSN 0004-637X. 
  23. ^ “天の川銀河中心のブラックホール撮影に成功”. 共同通信. (2022年5月12日). https://web.archive.org/web/20220512130753/https://nordot.app/897470545440784384?c=39550187727945729 
  24. ^ The Event Horizon Telescope and Global mm-VLBI Array on the Earth”. www.eso.org. 2019年4月11日閲覧。
  25. ^ Affiliated Institutes”. Event Horizon Telescope. 2019年4月7日閲覧。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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