コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ボーンベッド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
骨層から転送)

ボーンベッド英語: bone bed)とは、古生物や骨の破片を多量に含む特定の地層または堆積物である。糞石、あるいは有機物の屑を含み、リンに富むことが多い。ベッドは単層の意味である。骨層(こつそう)とも[1][2][3][4][5][6]

正式な用いられ方ではないが、ラーゲルシュテッテンといった化石を多産する地層(化石層)を記載するために使用される傾向がある。また、洞窟の底に生成され、古生物の骨の残滓を多分に含む角礫状で石筍質の炭酸塩堆積物[注 1]にも用いられる。

南西ドイツ、バーデン=ヴュルテンベルク州テュービンゲン三畳紀ジュラ紀の境界(T-J境界)(「ボーンベッド境界」)の骨層。
アメリカ合衆国ネブラスカ州のハドソン=メング・ボーンベッド[7]中にみられる約1万年前に絶滅したバイソンの骨の密集層。この化石群は、原因不明で死んだ約600体のバイソンの遺骸からなる。
イギリスルドフォード英語版、ルドフォード・コーナーの上部シルル系の露頭[8][9][10]。ルドフォード・コーナー・ボーンベッドは約4億年前の原始的な魚類の断片化した骨の化石からなる[11]

概説

[編集]

bone bed(ボーンベッド)を直訳すると「骨の寝床」という意味になる[12]。狭義にはこの術語は、層序学的に明確に定義された地層中にみられ、骨の破片からなる特定の薄層を記載する場合に用いられてきた[13]。この意味の用い方において、骨層の中で最もよく知られているものに、シルル系上部ラドロウ統英語版[14]のダウントン砂岩基底部に分布するラドロウ骨層[15]がある[1]イングランドラドロウ英語版の町では、このラドロウ骨層は、実際、約4.3 m隔てられた2つの薄層として観察され、本当に層厚のない薄い層でありながら、ラドロウの町からグロスターシャーへ72kmに渡りその分布を追うことができる。この骨層は、硬鱗魚類[16][17][注 2]、およびの断片のみからほとんど構成されている[18][19][13]

他によく知られた骨層として、かつてブリストルあるいはライアス・ボーンベッドと呼ばれた骨層があり、この骨層は、イングランド南西部のコイパー泥灰岩英語版の上位に分布する上部三畳系英語版レート階[14]のブラック・ペーパー頁岩中に産出し、雲母質砂岩: micaceous sandstone[20]の幾つかの薄層からなり、魚類と絶滅した爬虫類(: saurian[21]の遺物を伴う。特筆すべき事はよく似た骨層が、ドイツハノーファーブラウンシュヴァイクフランケン地方、およびテュービンゲンの同層準に追跡できるということである。 また、イングランド南西部の特定の地域では、石炭紀石灰岩統[注 3]の基底部にも骨層を観察することができる。

骨層は、北米南米モンゴル中国でも記録されている。陸成層の例としては次のものがあげられる。すなわち、ポルトガル三畳紀メトポサウルスの骨層、アルゼンチンのカニャドン・デル・ガト[注 4]マプサウルスの骨層、アメリカ合衆国ユタ州クリーブランド - ロイド恐竜採掘場英語版アロサウルスの骨のみで占められた密集層[22]、ユタ州とコロラド州の境界にあるダイナソー国定公園のもの、カナダアルバータ州アルバートサウルスの骨層、同じくアルバータ州グランドプレーリーパキリノサウルスの骨層、アメリカ合衆国のモンタナ州ダスプレトサウルスの骨層、オレゴン州新生代のジョンデイ化石層[注 5]モンゴル国ゴビ砂漠ネメグト盆地英語版のもの[23]が挙げられる。

日本では2018年8月時点で10箇所のボーンベッドが認められており、多くは兵庫県丹波市福井県勝山市および石川県白山市をはじめ日本海側に集中している。これら日本海側の恐竜化石含有層は当時の内陸部で、徳島県勝浦町のような太平洋側のボーンベッドは沿岸部で形成されたと考えられている[24][25]

分類

[編集]

ボーンベッドは、1種類の生物の骨化石で構成されているか、複数種の生物の骨化石で構成されているか、という観点で2つに分類することができる。

前者はモノタクシック・ボーンベッドや単一型ボーンベッドと呼ばれ、産出する生物の行動を読み解く手がかりとなる[26]。上記の例ではアロサウルスやマプサウルスやアルバートサウルスといった具体的な属名が挙げられているボーンベッドが該当する。また、植物食恐竜ではイグアノドンドリオサウルスマイアサウラヒパクロサウルスもこのタイプのボーンベッドが知られている[27]

後者はマルチタクシック・ボーンベッドと呼ばれ、複数の分類群の骨化石が混在して密集している層である。このタイプのボーンベッドからは同じ時代と地域にどのような生物が生息していたかという情報が得られる[26]

成因

[編集]

集団で行動する生物が大量死する状況でボーンベッドは形成されやすい。例を挙げると、火災や病気の蔓延、洪水鉄砲水[28]、干ばつが大量死の要因として挙げられる。これらの要因は必ずしも独立であるとは限らず、複合的に影響する場合がある。例えば、洪水による陸上生物の大量死や干ばつによる水生生物の大量死が起こると、水辺の腐敗死体はボツリヌス菌の温床になりうるため、遺骸を漁る動物食性動物の間でボツリヌス症が蔓延することがある。また、シアノバクテリアが枯死すると細胞壁中の毒素が水中に放出され、これも中毒による大量死を引き起こしうる[注 6]アメリカ合衆国モンタナ州の Two Medicine 累層のボーンベッドは干ばつとこれらの中毒症状に起因すると推測されている[29]

また一般に、化石は陸上で長く風雨に晒されるよりも海や河川の堆積物に素早く埋没した方が骨や殻といった硬組織の保存される可能性が高まるため、水の働きは生物体を死に至らしめる過程だけでなく、遺骸の保存の過程も促進する[30]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 『地学英和用語辞典』(1998年)によると、このような石灰岩の洞穴にみられる、骨やその破片が炭酸カルシウムで膠結されたものは、骨成角礫岩: bone breccia)と呼ばれる。
  2. ^ 魚類用語#鱗」および「鱗#硬鱗」も参照。
  3. ^ 地学団体研究会編『新版地学事典』(1996年、平凡社ISBN 4582115063)、および坂幸恭監訳『オックスフォード地球科学辞典』(2004年、朝倉書店ISBN 4254160437)によれば、石炭紀石灰岩英語版は、西ヨーロッパでの下部石炭系英語版ディナンチアン英語版石炭紀の前期の地層)にみられる岩相層序単元。石炭紀石灰岩統は、イングランドにおける対応する地質系統"Carboniferous Limestone Series"の漢語表現例。「石炭系石灰岩統」の表現も可能。
  4. ^ Phil R. Bell; Rodolfo A. Coria (2013). “Palaeopathological Survey of a Population of Mapusaurus (Theropoda: Carcharodontosauridae) from the Late Cretaceous Huincul Formation, Argentina” (英語). PLOS ONE (PLOS) 8 (5). doi:10.1371/journal.pone.0063409. によると、カニャドン・デル・ガトは、ネウケン州プラサ・ウインクルスペイン語版英語版の町から南西へ約20kmの小地名。
  5. ^ ジョンデイ化石層国定公園英語版も参照。
  6. ^ これらの中毒での大量死は現生の動物でも確認されている。

出典

[編集]
  1. ^ a b 岩石学辞典『骨層』 - コトバンク鈴木淑夫、2005年。
  2. ^ 木村敏雄ほか『新版地学辞典(3):地質学・古生物学・地形学・土壌学』古今書院、1973年。
  3. ^ 猪郷久義監修、宮野敬宮野素美子編著『地学英和用語辞典』(愛智出版、1998年。ISBN 4872564030
  4. ^ 日本地質学会編『地質学用語集:和英・英和』共立出版、2004年。ISBN 4320046439
  5. ^ bone bedの意味 - goo辞書 英和和英(『小学館ランダムハウス英和大辞典』第2版、1993年。)
  6. ^ bone bedの意味・用例英辞郎 on the WEB:アルク
  7. ^ ハドソン=メング・バイソン・キル英語版も参照。
  8. ^ Ludford Lane and Ludford Corner (Silurian - Devonian Chordata) - Home > UK > UK Geoconservation > Geological Conservation Review > GCR Database > GCR Site Details(イギリスの自然保護合同委員会英語版のサイト)
  9. ^ en:Ludford,_Shropshire#Geology」も参照。
  10. ^ D.L. Dineley; S.J. Metcalf (1999) (英語), Fossil Fishes of Great Britain (Chapter 3: Late Silurian fossil fishes sites of the Welsh Borders, Site: LUDFORD LANE AND LUDFORD CORNER), Geological conservation Review, 16, Joint Nature Conservation Committee, http://jncc.defra.gov.uk/pdf/gcrdb/GCRsiteaccount1642.pdf 
  11. ^ Ludford Corner (C) Eirian Evans :: ジオグラフ・ブリテン・アンド・アイルランド英語版
  12. ^ 恐竜王国・徳島!?いま『徳島の恐竜』がアツい!!”. NHK. 2023年12月8日閲覧。
  13. ^ a b  この記述にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Bone Bed". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 4 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 203.
  14. ^ a b J. G. オッグほか著、鈴木寿志訳 『要説地質年代』(2012年、京都大学学術出版会ISBN 4876985995)参照。
  15. ^ Why Shropshire's geology is important” (english). 2018年1月7日閲覧。
  16. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)『硬鱗魚類』 - コトバンク
  17. ^ 大辞林 第三版『硬鱗魚』 - コトバンク
  18. ^ Johannes Baier: Das Tübinger "Rhätolias-Grenzbonebed" . - Fossilien 31(1), 26-30, 2014.
  19. ^ Johannes Baier: Der Geologische Lehrpfad am Kirnberg (Keuper; SW-Deutschland). - Jber. Mitt. oberrhein. geol. Ver, N. F. 93, 9-26, 2011.
  20. ^ ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『岩石と宝石の大図鑑』誠光堂新光社、2007年。ISBN 4416807007
  21. ^ ジーニアス英和大辞典大修館書店、2001年。ISBN 978-4-469-04131-6
  22. ^ New data for old bones: How the famous Cleveland-Lloyd dinosaur bone bed came to be: Scientists have debated for decades the origin of the densest collection of Jurassic dinosaur bones; X-ray and chemical analyses by paleontologists begin to unravel the mystery” (english). ScienceDaily (2017年6月6日). 2018年1月6日閲覧。
  23. ^ Strganac, C., Jacobs L., Polcyn M., Mateus O., Myers T., Araújo R., Fergunson K. M., Gonçalves A. O., Morais M. L., Schulp A. S., da Tavares T. S., & Salminen J. (2014). Geological Setting and Paleoecology of the Upper Cretaceous Bench 19 Marine Vertebrate Bonebed at Bentiaba, Angola. Netherlands Journal of Geosciences. 1-16.
  24. ^ 徳島県勝浦町における「国内最古級の恐竜化石含有層(ボーン・ベッド)」と「新たな恐竜化石等」の発見について』(レポート)徳島県立博物館、2018年8月9日https://museum.bunmori.tokushima.jp/katsuura_dinosaur2018/katsuura_dinosaur.pdf2020年11月26日閲覧 
  25. ^ 恐竜化石地層、徳島県勝浦町で確認 国内最古級」『徳島新聞』2018年8月10日。2020年11月26日閲覧。
  26. ^ a b 小林快次. “第6回 2015年の調査がスタート! from カナダ”. ナショナルジオグラフィック協会. pp. 2-3. 2020年11月26日閲覧。
  27. ^ デイヴィッド・E・ファストヴスキーデイヴィッド・B・ウェイシャンペル 著、藤原慎一・松本涼子 訳『恐竜学入門 ─かたち・生態・絶滅─』真鍋真監訳、東京化学同人東京都文京区千石3丁目36-7、2015年1月30日、p. 136,190頁。ASIN 4807908561ISBN 978-4-8079-0856-1NCID BB17901360OCLC 904989280全国書誌番号:22535495 
  28. ^ 福井県立恐竜博物館ニュース第3号福井県立恐竜博物館、2001年7月7日、4頁https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3532949_po_Dinosaurs003.pdf?contentNo=12020年11月26日閲覧 
  29. ^ David J.Varricchio (1995). “Taphonomy of Jack's Birthday Site, a diverse dinosaur bonebed from the Upper Cretaceous Two Medicine Formation of Montana”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 114 (2-4): 297-323. doi:10.1016/0031-0182(94)00084-L. https://doi.org/10.1016/0031-0182(94)00084-L. 
  30. ^ 芝原暁彦『化石観察入門』誠文堂新光社、2014年7月22日、8頁。ISBN 978-4-416-11456-8 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]
カナダ政府が運営する英語、フランス語の術語データベースによる定義。