ボーンベッド
ボーンベッド (英語: bone bed)とは、古生物の骨や骨の破片を多量に含む特定の地層または堆積物である。鱗、歯、糞石、あるいは有機物の屑を含み、リンに富むことが多い。ベッドは単層の意味である。骨層(こつそう)とも[1][2][3][4][5][6]。
正式な用いられ方ではないが、ラーゲルシュテッテンといった化石を多産する地層(化石層)を記載するために使用される傾向がある。また、洞窟の底に生成され、古生物の骨の残滓を多分に含む角礫状で石筍質の炭酸塩堆積物[注 1]にも用いられる。
概説
[編集]bone bed(ボーンベッド)を直訳すると「骨の寝床」という意味になる[12]。狭義にはこの術語は、層序学的に明確に定義された地層中にみられ、骨の破片からなる特定の薄層を記載する場合に用いられてきた[13]。この意味の用い方において、骨層の中で最もよく知られているものに、シルル系上部ラドロウ統[14]のダウントン砂岩基底部に分布するラドロウ骨層[15]がある[1]。イングランドのラドロウの町では、このラドロウ骨層は、実際、約4.3 m隔てられた2つの薄層として観察され、本当に層厚のない薄い層でありながら、ラドロウの町からグロスターシャーへ72kmに渡りその分布を追うことができる。この骨層は、硬鱗魚類[16][17][注 2]の棘、歯、および鱗の断片のみからほとんど構成されている[18][19][13]。
他によく知られた骨層として、かつてブリストルあるいはライアス・ボーンベッドと呼ばれた骨層があり、この骨層は、イングランド南西部のコイパー泥灰岩の上位に分布する上部三畳系レート階[14]のブラック・ペーパー頁岩中に産出し、雲母質砂岩(英: micaceous sandstone)[20]の幾つかの薄層からなり、魚類と絶滅した爬虫類(英: saurian)[21]の遺物を伴う。特筆すべき事はよく似た骨層が、ドイツのハノーファーのブラウンシュヴァイク、フランケン地方、およびテュービンゲンの同層準に追跡できるということである。 また、イングランド南西部の特定の地域では、石炭紀石灰岩統[注 3]の基底部にも骨層を観察することができる。
骨層は、北米、南米、モンゴル、中国でも記録されている。陸成層の例としては次のものがあげられる。すなわち、ポルトガルの三畳紀のメトポサウルスの骨層、アルゼンチンのカニャドン・デル・ガト[注 4]のマプサウルスの骨層、アメリカ合衆国のユタ州クリーブランド - ロイド恐竜採掘場のアロサウルスの骨のみで占められた密集層[22]、ユタ州とコロラド州の境界にあるダイナソー国定公園のもの、カナダのアルバータ州のアルバートサウルスの骨層、同じくアルバータ州グランドプレーリーのパキリノサウルスの骨層、アメリカ合衆国のモンタナ州のダスプレトサウルスの骨層、オレゴン州の新生代のジョンデイ化石層[注 5]、モンゴル国のゴビ砂漠のネメグト盆地のもの[23]が挙げられる。
日本では2018年8月時点で10箇所のボーンベッドが認められており、多くは兵庫県丹波市や福井県勝山市および石川県白山市をはじめ日本海側に集中している。これら日本海側の恐竜化石含有層は当時の内陸部で、徳島県勝浦町のような太平洋側のボーンベッドは沿岸部で形成されたと考えられている[24][25]。
分類
[編集]ボーンベッドは、1種類の生物の骨化石で構成されているか、複数種の生物の骨化石で構成されているか、という観点で2つに分類することができる。
前者はモノタクシック・ボーンベッドや単一型ボーンベッドと呼ばれ、産出する生物の行動を読み解く手がかりとなる[26]。上記の例ではアロサウルスやマプサウルスやアルバートサウルスといった具体的な属名が挙げられているボーンベッドが該当する。また、植物食恐竜ではイグアノドンやドリオサウルス、マイアサウラ、ヒパクロサウルスもこのタイプのボーンベッドが知られている[27]。
後者はマルチタクシック・ボーンベッドと呼ばれ、複数の分類群の骨化石が混在して密集している層である。このタイプのボーンベッドからは同じ時代と地域にどのような生物が生息していたかという情報が得られる[26]。
成因
[編集]集団で行動する生物が大量死する状況でボーンベッドは形成されやすい。例を挙げると、火災や病気の蔓延、洪水や鉄砲水[28]、干ばつが大量死の要因として挙げられる。これらの要因は必ずしも独立であるとは限らず、複合的に影響する場合がある。例えば、洪水による陸上生物の大量死や干ばつによる水生生物の大量死が起こると、水辺の腐敗死体はボツリヌス菌の温床になりうるため、遺骸を漁る動物食性動物の間でボツリヌス症が蔓延することがある。また、シアノバクテリアが枯死すると細胞壁中の毒素が水中に放出され、これも中毒による大量死を引き起こしうる[注 6]。アメリカ合衆国モンタナ州の Two Medicine 累層のボーンベッドは干ばつとこれらの中毒症状に起因すると推測されている[29]。
また一般に、化石は陸上で長く風雨に晒されるよりも海や河川の堆積物に素早く埋没した方が骨や殻といった硬組織の保存される可能性が高まるため、水の働きは生物体を死に至らしめる過程だけでなく、遺骸の保存の過程も促進する[30]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 『地学英和用語辞典』(1998年)によると、このような石灰岩の洞穴にみられる、骨やその破片が炭酸カルシウムで膠結されたものは、骨成角礫岩(英: bone breccia)と呼ばれる。
- ^ 「魚類用語#鱗」および「鱗#硬鱗」も参照。
- ^ 地学団体研究会編『新版地学事典』(1996年、平凡社。ISBN 4582115063)、および坂幸恭監訳『オックスフォード地球科学辞典』(2004年、朝倉書店。ISBN 4254160437)によれば、石炭紀石灰岩は、西ヨーロッパでの下部石炭系ディナンチアン(石炭紀の前期の地層)にみられる岩相層序単元。石炭紀石灰岩統は、イングランドにおける対応する地質系統で"Carboniferous Limestone Series"の漢語表現例。「石炭系石灰岩統」の表現も可能。
- ^ Phil R. Bell; Rodolfo A. Coria (2013). “Palaeopathological Survey of a Population of Mapusaurus (Theropoda: Carcharodontosauridae) from the Late Cretaceous Huincul Formation, Argentina” (英語). PLOS ONE (PLOS) 8 (5). doi:10.1371/journal.pone.0063409.によると、カニャドン・デル・ガトは、ネウケン州プラサ・ウインクルの町から南西へ約20kmの小地名。
- ^ ジョンデイ化石層国定公園も参照。
- ^ これらの中毒での大量死は現生の動物でも確認されている。
出典
[編集]- ^ a b 岩石学辞典『骨層』 - コトバンク、鈴木淑夫、2005年。
- ^ 木村敏雄ほか『新版地学辞典(3):地質学・古生物学・地形学・土壌学』古今書院、1973年。
- ^ 猪郷久義監修、宮野敬・宮野素美子編著『地学英和用語辞典』(愛智出版、1998年。ISBN 4872564030)
- ^ 日本地質学会編『地質学用語集:和英・英和』共立出版、2004年。ISBN 4320046439
- ^ bone bedの意味 - goo辞書 英和和英(『小学館ランダムハウス英和大辞典』第2版、1993年。)
- ^ bone bedの意味・用例|英辞郎 on the WEB:アルク
- ^ ハドソン=メング・バイソン・キルも参照。
- ^ Ludford Lane and Ludford Corner (Silurian - Devonian Chordata) - Home > UK > UK Geoconservation > Geological Conservation Review > GCR Database > GCR Site Details(イギリスの自然保護合同委員会のサイト)
- ^ 「en:Ludford,_Shropshire#Geology」も参照。
- ^ D.L. Dineley; S.J. Metcalf (1999) (英語), Fossil Fishes of Great Britain (Chapter 3: Late Silurian fossil fishes sites of the Welsh Borders, Site: LUDFORD LANE AND LUDFORD CORNER), Geological conservation Review, 16, Joint Nature Conservation Committee
- ^ Ludford Corner (C) Eirian Evans :: ジオグラフ・ブリテン・アンド・アイルランド
- ^ “恐竜王国・徳島!?いま『徳島の恐竜』がアツい!!”. NHK. 2023年12月8日閲覧。
- ^ a b この記述にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Bone Bed". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 4 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 203.
- ^ a b J. G. オッグほか著、鈴木寿志訳 『要説地質年代』(2012年、京都大学学術出版会。ISBN 4876985995)参照。
- ^ “Why Shropshire's geology is important” (english). 2018年1月7日閲覧。
- ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)『硬鱗魚類』 - コトバンク
- ^ 大辞林 第三版『硬鱗魚』 - コトバンク
- ^ Johannes Baier: Das Tübinger "Rhätolias-Grenzbonebed" . - Fossilien 31(1), 26-30, 2014.
- ^ Johannes Baier: Der Geologische Lehrpfad am Kirnberg (Keuper; SW-Deutschland). - Jber. Mitt. oberrhein. geol. Ver, N. F. 93, 9-26, 2011.
- ^ ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『岩石と宝石の大図鑑』誠光堂新光社、2007年。ISBN 4416807007
- ^ 『ジーニアス英和大辞典』大修館書店、2001年。ISBN 978-4-469-04131-6
- ^ “New data for old bones: How the famous Cleveland-Lloyd dinosaur bone bed came to be: Scientists have debated for decades the origin of the densest collection of Jurassic dinosaur bones; X-ray and chemical analyses by paleontologists begin to unravel the mystery” (english). ScienceDaily (2017年6月6日). 2018年1月6日閲覧。
- ^ Strganac, C., Jacobs L., Polcyn M., Mateus O., Myers T., Araújo R., Fergunson K. M., Gonçalves A. O., Morais M. L., Schulp A. S., da Tavares T. S., & Salminen J. (2014). Geological Setting and Paleoecology of the Upper Cretaceous Bench 19 Marine Vertebrate Bonebed at Bentiaba, Angola. Netherlands Journal of Geosciences. 1-16.
- ^ 『徳島県勝浦町における「国内最古級の恐竜化石含有層(ボーン・ベッド)」と「新たな恐竜化石等」の発見について』(レポート)徳島県立博物館、2018年8月9日 。2020年11月26日閲覧。
- ^ 「恐竜化石地層、徳島県勝浦町で確認 国内最古級」『徳島新聞』2018年8月10日。2020年11月26日閲覧。
- ^ a b 小林快次. “第6回 2015年の調査がスタート! from カナダ”. ナショナルジオグラフィック協会. pp. 2-3. 2020年11月26日閲覧。
- ^ デイヴィッド・E・ファストヴスキー、デイヴィッド・B・ウェイシャンペル 著、藤原慎一・松本涼子 訳『恐竜学入門 ─かたち・生態・絶滅─』真鍋真監訳、東京化学同人、東京都文京区千石3丁目36-7、2015年1月30日、p. 136,190頁。ASIN 4807908561。ISBN 978-4-8079-0856-1。 NCID BB17901360。OCLC 904989280。全国書誌番号:22535495。
- ^ 『福井県立恐竜博物館ニュース第3号』福井県立恐竜博物館、2001年7月7日、4頁 。2020年11月26日閲覧。
- ^ David J.Varricchio (1995). “Taphonomy of Jack's Birthday Site, a diverse dinosaur bonebed from the Upper Cretaceous Two Medicine Formation of Montana”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 114 (2-4): 297-323. doi:10.1016/0031-0182(94)00084-L .
- ^ 芝原暁彦『化石観察入門』誠文堂新光社、2014年7月22日、8頁。ISBN 978-4-416-11456-8。
関連項目
[編集]- 州立恐竜公園
- ダイナソーパーク累層
- ランス累層
- セントロサウルス・アペルトゥス・ボーンベッド
- メルボルン・ボーンベッド
- アッシュフォール化石層群
- 遺骸群集
- 大量絶滅
- 炭酸塩岩 - 石灰岩
- ビーチロック
- コキナ
- ノジュール
- 洞窟生成物
- "The Bone Bed"
外部リンク
[編集]- bone bed (1 record) - TERMIUM Plus® — Search - TERMIUM Plus®
- カナダ政府が運営する英語、フランス語の術語データベースによる定義。
- 06.08.2009 - Bone bed tells of life along California's ancient coastline - Press Release, UC BerkeleyNews (カルフォルニア州ベーカーズフィールドの近くでよく知られているシャークトゥースヒル骨層についてのカルフォルニア大学バークレー校の研究に関するプレスリリース)
- 恐竜の世界を探検 | カナダ・アルバータ州
- Mixson’s Bone Bed :: フロリダ自然史博物館
- Ludford Corner (C) N Chadwick :: ジオグラフ・ブリテン・アンド・アイルランド
- 天神のページ : ボーンベッド