衛星航法補強システム
衛星航法補強システム(えいせいこうほうほきょうシステム 英語:Satellite-based augmentation systems, SBAS)は、既存の衛星測位システム(GNSS)に対し、静止衛星の補正信号を追加することにより、その精度や信頼性を向上させることを目的としたシステム。略称はエスバス。航空機で利用される電波航法の精度向上を目的に導入された。それまで利用された地上の送信アンテナから補正信号を中波帯で送信する広域ディファレンシャルGPS(WADGPS)や、ディファレンシャルGPS(DGPS)と同義とされることもある[1]。
SBASは相互運用性を確保するために国際民間航空機関(ICAO)によって定義されている。[2]また、SBASを受信可能な受信機の規格はRTCA DO-229[3] で定義されている。SBASの信号はGPS L1 と同じ1575.42 MHz で送信される。また、PRN番号と識別コードは ICAOによって定められている。[4]
日本では国土交通省の運輸多目的衛星である「MTSAT」から配信が行われていたが、2020年4月から準天頂衛星システムである「みちびき」を利用した補正情報の送信に切り替った[5]。SBASを利用した測位誤差は1メートル程度である[6]。
以下がSBASの一覧である(開発中も含む)。
SBAS | 提供地域 | 運用主体 | 運用開始時期 | 補強対象 GNSS | 衛星名 | PRN番号 | 位置(経度) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
WAAS[7] | 北米 | FAA (アメリカ連邦航空局) | 2003年 | GPS | Eutelsat 117 West B | 131 | 117°W |
SES-15 | 133 | 129°W | |||||
Galaxy 30 | 135 | 125°W | |||||
EGNOS[8] | 欧州 | EUSPA (欧州連合宇宙計画局), ESA(欧州宇宙機関) | 2011年 | GPS | SES-5 | 136 | 5.0°E |
Astra 5B | 123 | 31.5°E | |||||
MSAS[9][10] | 日本 | 国土交通省 | 2007年 | GPS | QZS-3 (みちびき3号機) | 137 | 127.0°E |
GAGAN[11][12][13] | インド | AAI (インド空港局) | 2013年 | GPS | GSAT-8 | 127 | 55°E |
GSAT-10 | 128 | 83°E | |||||
GSAT-15 | 132 | 93.5°E | |||||
BDSBAS[14][15][16][17] | 中国 | 中国国家航天局 | 2020年 | BDS, GPS | BDS-3 GEO-01 | 130 | 140°E |
BDS-3 GEO-02 | 144 | 80°E | |||||
BDS-3 GEO-03 | 143 | 110.5°E | |||||
KASS[18][19][20] | 韓国 | KARI (韓国航空宇宙研究院) | 2022年 | GPS | MEASAT-3D | 134 | 91.5°E |
SDCM[21] | ロシア | Roscosmos (ロシア国営宇宙公社) | GLONASS, GPS | Luch-5A | 141 | 167°E | |
Luch-5B | 125 | 16°W | |||||
Luch-5V | 140 | 95°E | |||||
SouthPAN[22][23] | オーストラリア、ニュージーランド | Geoscience Australia and Toitū Te Whenua Land Information New Zealand | 2022年 | GPS, Galileo | Inmarsat 4-F1 | 122 | 143.5°E |
ANGA[24] | アフリカ、インド洋地域 | ASECNA (アフリカとマダガスカルの航空航法安全機関) | 2024年 (予定) | GPS, Galileo | Nigcomsat 1-R | 147 | 不明 |
その他の衛星航法増強システム
[編集]- アメリカ国防総省によって運用される軍事用SBASとなる広域GPS強化(WAGE)。
- ディア・アンド・カンパニーとオセアニアリング・インターナショナルによって運用される民間向け商用ナビゲーションシステム、スターファイア
- ヘミスフィアGNSSによって運用される商用アトラスGNSSグローバル・Lバンド・コレクションサービス。
- カナダ天然資源省によって運用されていたGPS·C。(廃止済)
- フグロによって運用されるオムニスターとスターフィックスDGPSシステム。
- ナイジェリアのナイジェリア通信衛星が運用する「NigComSat-1R」を使用したA-SBASが試験運用中[16]。
GBAS
[編集]地上型衛星航法補強システム(Ground-Based Augmentation System, GBAS)は、ディファレンシャルGPS(DGPS)データを利用し、計器着陸装置(ILS)が設置されていない空港に侵入する航空機に対し、補正された正確な位置情報の提供を行い誘導するシステムとなる[25]。
脚注
[編集]- ^ Kee, C., Parkinson, B. W., and Axelrad, P. (1991), "Wide area differential GPS"[リンク切れ], Journal of the Institute of Navigation, 38, 2 (Summer 1991).
- ^ , https://www.faa.gov/sites/faa.gov/files/2022-03/SBAS_Worldwide_QFact_2021_final_01272022.pdf+2024年12月24日閲覧。
- ^ Minimum Operational Performance Standards (MOPS) for Global Positioning System/Satellite-Based Augmentation System Airborne Equipment, RTCA, 11 June 2020
- ^ ICAO Standards and Recommended Practices (SARPs) Annex 10
- ^ “SBAS配信サービス”. 内閣府. 2022年8月18日閲覧。
- ^ “ディファレンシャルGPSの廃止について” (PDF). 海上保安庁 (2017年6月30日). 2022年8月18日閲覧。
- ^ ["https://www.faa.gov/about/office_org/headquarters_offices/ato/service_units/techops/navservices/gnss/waas" "Satellite Navigation - Wide Area Augmentation System (WAAS)"] 2024年12月24日閲覧。
- ^ , "https://www.euspa.europa.eu/eu-space-programme/egnos" 2024年12月24日閲覧。
- ^ , "https://qzss.go.jp/" 2024年12月24日閲覧。
- ^ “準天頂衛星を利用したSBAS整備” (PDF). 国土交通省航空局. 2022年8月18日閲覧。
- ^ , "https://gssc.esa.int/navipedia/index.php?title=GAGAN" 2024年12月24日閲覧。
- ^ "GAGAN System Certified for RNP0.1 Operations" (Press release) (英語). インド宇宙研究機関. 3 January 2014. 2014年1月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。
- ^ Radhakrishnan, S. Anil (January 11, 2014). “GAGAN system ready for operations” (英語). The Hindu
- ^ , "https://navi.ion.org/content/navi/68/2/405.full.pdf" 2024年12月24日閲覧。
- ^ , http://en.beidou.gov.cn/SYSTEMS/Officialdocument/202008/P020200803544809266816.pdf
- ^ a b “2周波SBASの最新動向” (PDF). 電子航法研究所 (2021年2月4日). 2022年8月19日閲覧。
- ^ “Advances in BeiDou Navigation Satellite System (BDS) and satellite navigation augmentation technologies” (英語) (March 16, 2020). 2022年8月18日閲覧。
- ^ , https://www.kari.re.kr/eng/sub03_08_02.do+2024年12月24日閲覧。
- ^ “航空衛星1号機の打ち上げに成功 測位誤差1メートル以下に”. KBS (2022年6月23日). 2022年8月19日閲覧。
- ^ “「GPS誤差補正」韓国航空衛星1号機、23日午前6時3分に南米で打ち上げ”. 中央日報 (2022年6月22日). 2022年8月19日閲覧。
- ^ GNSS GLONASS Augmentation SystemSDCM. Status and development 2024年12月24日閲覧。
- ^ , https://www.ga.gov.au/scientific-topics/positioning-navigation/positioning-australia/about-the-program/southpan+2024年12月24日閲覧。
- ^ “Trial of accurate positioning” (英語). Geoscience Australia (2019年10月5日). 2020年4月25日閲覧。
- ^ , https://www.anga-africa.org/en/library/sbas-in-the-world/+2024年12月24日閲覧。
- ^ “GBASの概要” (PDF). 総務省. 2022年8月18日閲覧。