FLIR
前方監視型赤外線装置(forward looking infra-red, FLIR[注 1])は、熱線映像装置の一種[2]。
遠赤外線(熱赤外線)を検知して、画像上のピクセルの輝度によって、観測領域の温度分布を表示できる[2]。特性はサーモグラフィーと近いが、モノクロ表示で周囲と温度差のある部分を白(または黒)で強調して表示する。
基本原理
[編集]常温範囲内の目標は、主として遠赤外線(波長6 - 15マイクロメートル)の領域で熱放射する。FLIRはこの領域の光を検知することで、光源の有無に関わらず使用できるという点で、可視光TV装置や微光暗視装置より優れている。また温度や赤外線放射率によって物体を精査することも可能であることから、植生や偽装による隠蔽への対抗策としても期待できる[2]。
最初期に用いられていた直列処理(serial processing)型のシステムでは、小さな赤外線センサで2次元視野の全域を走査するため、俯仰角方向および方位角方向それぞれ1枚ずつの走査鏡を用いてラスタースキャンを行っていた[3]。このシステムでは、画面解像度は走査線内のサンプル数と平行線の間隔によって決定された。その後、微細加工技術の進歩に伴って赤外線センサが1次元の直線型アレイになると、センサアレイの各素子が1つの角度セグメントを担当し、一連の測定値を取り込むことから、鏡が1枚で済むようになった[3]。このシステムを並列処理(parallel processing)型と称する。更に集積回路化が進み、赤外線センサが焦点面検知素子2次元アレイ(focal plane array, FPA)となると、装置自体の走査機構は省かれ、視野全体を瞬時に取り込めるようになっている[2][3]。
なお、熱線映像装置には、FLIRのほかに下方監視型赤外線装置(down looking infrared, DLIR)と呼ばれる方式もある。これは航空機などプラットフォームに一次元赤外線ラインスキャナ(IRLS)を設置し、その進行によって画像を構成するものである[2][4]。また、赤外線捜索追尾システム(IRST)は、目標を画像としてではなく点として認識し、これを追尾する機能に重点を置いている[5]という点で、FLIRとは原則的に異なるものであるが[2]、例えばAN/AAQ-40 EOTSのように、FLIRとIRSTを適宜に切り替えて使用できるシステムも登場している[6]。
FLIRの用途
[編集]- 捜索、救難活動[7][8]
- 消防活動において煙や壁を透過して生存者を探す
- エンハンスト・ビジョン・システム
- 流域の温度や野生動物の生息地のモニタリング[9]
- エネルギー損失の検出や省エネルギーのための断熱性の検証
- 軍用機における標的捕捉と追尾[10][8]
- 計器飛行 (IFR) における航空機の先導[11]
- 道路上での鹿や他の獣を運転者に警告
- 天然ガスや他のガスの漏れの検出[12]
- 火山活動の監視[13][8]
- 配電盤などの機器内部における過熱部位の検出
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “商標照会(固定アドレス)”. J-PlatPat. 2020年3月4日閲覧。
- ^ a b c d e f アダミー 2014.
- ^ a b c 増谷 2000.
- ^ 寺薗, 日高 & 中辻 1979, pp. 191.
- ^ 増谷 2000, p. 5.
- ^ ロッキード・マーティン (2014年). “F-35 LIGHTNING II EOTS - Superior Targeting Capability” (PDF) (英語). 2016年1月2日閲覧。
- ^ 水野, 貴秀、川原, 康介、山田, 和彦「ビーコンを使った帰還カプセルの捜索システムとその運用(<特集>小惑星探査機「はやぶさ」の帰還と回収)」『日本航空宇宙学会誌』第60巻第7号、2012年、doi:10.14822/kjsass.60.7_250。
- ^ a b c 寺薗, 日高 & 中辻 1979, pp. 188–189.
- ^ 堀野, 眞一、大井, 徹、三浦, 慎悟「赤外線によるニホンジカ空中センサス法の開発」『哺乳類科学』第33巻第2号、1994年、doi:10.11238/mammalianscience.33.99。
- ^ クランシー 1997, p. 83, 186.
- ^ クランシー 1997, p. 83, 183.
- ^ Gert van Meijeren「石油タンクからの炭化水素蒸気放出の赤外線による測定」『圧力技術』第52巻第5号、2014年、doi:10.11181/hpi.52.266。
- ^ 横尾, 亮彦、宮縁, 育夫「2014年11月から始まった阿蘇火山中岳第一火口の噴火活動」『火山』第60巻第2号、2015年、doi:10.18940/kazan.60.2_275。
参考文献
[編集]- 増谷, 光正「赤外イメージング技術の現状と展望」『映像情報メディア学会技術報告』第24.17巻、2000年、1-11頁、doi:10.11485/itetr.24.17.0_1、ISSN 2424-1970、NAID 110003687590。
- アダミー, デビッド『電子戦の技術 拡充編』東京電機大学出版局、2014年。ISBN 978-4501330309。
- クランシー, トム 著、平賀秀明 訳『トム・クランシーの戦闘航空団解剖』新潮社〈新潮文庫〉、1997年(原著1995年)。ISBN 4102472061。
- 寺薗, 方晴、日高, 博士、中辻, 俊一「赤外線によるリモートセンシング」『日本航空宇宙学会誌』第27巻第303号、1979年、doi:10.2322/jjsass1969.27.187。