誤り検出訂正
誤り検出訂正(あやまりけんしゅつていせい)またはエラー検出訂正 (error detection and correction/error check and correct) とは、データに符号誤り(エラー)が発生した場合にそれを検出、あるいは検出し訂正(前方誤り訂正)することである。検出だけをする誤り検出またはエラー検出と、検出し訂正する誤り訂正またはエラー訂正を区別することもある。また改竄検出を含める場合も含めない場合もある。誤り検出訂正により、記憶装置やデジタル通信・信号処理の信頼性が確保されている。
誤り検出と誤り訂正
[編集]一般に誤り検出訂正では、k 単位長(k ビット、k バイト など)の符号を、n = m + k 単位長の符号語に変換する。これを (n, k) 符号、あるいは、符号形式を添えて (n, k) ××符号などと呼ぶ(誤り訂正符号"Error Correction Code"を特にECCと略す)。符号語は、最小ハミング距離が d > 1、つまり、互いに少なくとも d 単位が異なっていて、この冗長性を利用して前方誤り訂正が可能となる。dを添えて、(n, k, d) 符号ともいう。
適切な (n, k, d) 符号は、符号語あたり d - 1 単位の誤りを検出でき、[(d - 1) / 2] 単位([ ] は床関数)の誤りを訂正できる。d ≦ 2 ならば、誤り訂正能力は [(d - 1) / 2] = 0 となり、単なる誤り検出となる。ただし、データの消失に対しては、つまり誤り位置がわかっているときは、d 単位の消失を訂正できる。これを特に消失訂正と呼ぶ。単なる誤り訂正も、最低 1 単位の消失訂正能力を持つ。
たとえば、(2, 1, 2) 符号であるミラーリングは、
- どちらかに誤りが起これば検出できるが、両方に起これば検出できない。(誤り検出能力1)
- どちらか(どちらかはわからない)に誤りが起これば訂正できない。(誤り訂正能力0)
- どちらかが消失すれば訂正できるが、両方に起これば訂正できない。(消失訂正能力1)
となる。(3, 1, 3) 符号である三重ミラーリングでは、誤り検出能力と消失訂正能力が2となり、誤り訂正能力1も得る。
双方向の通信では、前方誤り訂正ができなくても誤り検出さえできれば、送信者に再送を要求することで実質的に誤りを訂正できる。これを自動的におこなう仕組みを、自動再送要求 (ARQ, Automatic Repeat reQuest) と呼ぶ。
バースト誤りとランダム誤り
[編集]誤りには、
- 短い区間に多数の誤りが集中するバースト誤り
- 散発的に単独で誤りが発生するランダム誤り
の2種類がある。
多くの誤り検出・訂正は、全体の誤り率が許容範囲でも、バースト誤りに対しては、1つのブロックに多くの誤りが集中するため、対応できない。そこで、符号の順序を入れ替え、同じブロックのデータを分散させ、バースト誤りが1つのブロックに集中しないようにする。この技術をインターリーブという。
バースト誤り
[編集]切り替え動作、フェージングなどが原因。%SESを評価尺度に用いるのに適している。
ランダム誤り
[編集]誤り補正
[編集]特に音声や映像など、人間の感覚に訴える信号のディジタル化されたデータで真の値から多少の誤差が許容される場合、誤り検出は可能でも誤り訂正が不可能(訂正能力を超えている)かまたは誤り訂正が実装されていないとき、元のデータ自身に含まれる冗長性を利用して欠落データを予測して置き換えることがある。これを特に誤り補正 (error compensation) と呼んで区別する。補正されたデータは真の値と一致するとは限らないが、真の値から許容される誤差内にあると期待される。CDなどでは、誤り補正がデータ読み取り誤りに対する「最後の手段」として使われている。
誤り補正では、一般には、近傍の標本に重み付けをした和、すなわちフィルタを畳み込んだ値を予測値(補正値)とする。特に、直前・直後の標本を使うものを、以下のように呼ぶ。
- - 平均値補間
- - 前値ホールド
- - 後値ホールド
誤り補正は原信号自身に含まれる冗長性を使うため、データ圧縮、特に非可逆圧縮と同種の原理に基づいている。
誤り検出・訂正の例
[編集]誤り検出
[編集]ハッシュ(参考)
[編集]- 暗号学的ハッシュ関数 - 誤り検出の代用にしたり、改竄防止と誤り検出を兼ねることがある。(改竄や盗聴ではなく)ノイズの影響のみを考慮する場合、脆弱性があっても問題ない。
誤り訂正
[編集]- ブロック符号
- 多重化
- 反復符号 (repetition code)
- 縦横パリティ
- ハミング符号 - RAM、RAID-2
- 巡回符号
- 巡回ハミング符号
- ゴレイ符号
- BCH符号 - 自動車無線(43,31)、衛星ラジオ(63,56)
- リード・ソロモン符号(RS符号、RSC)
- CIRC(Cross-Interleaved Reed-Solomon Code)- CD
- リードソロモン積符号 (RSP符号) - DAT
- リード・ソロモン符号(RS符号、RSC)
- 差集合巡回符号
- 短縮化差集合巡回符号 - 文字放送(272,190)
- ファイア符号 - ハードディスク
- 疎グラフ符号
- ターボ符号 (turbo code)
- 低密度パリティ検査符号 (LDPC) - 10GBASE-T (IEEE 802.3an)、Mobile WiMAX (IEEE 802.16e)
- 多重化
- 畳み込み符号(convolutional code)
参考図書
[編集]- 宮川 洋、岩垂 好裕、今井 秀樹:「コンピュータ基礎講座 18 符号理論」、昭晃堂、ISBN 978-4785630065(1973年)。
- 嵩 忠雄:「符号理論」、コロナ社 (1975年)。
- 嵩 忠雄:「情報と符号の理論入門」、昭晃堂、ISBN 978-4785620264(1989年12月)。
- 今井 秀樹:「符号理論」、電子情報通信学会、ISBN 978-4885520907 (1990年3月)。
- 汐崎 陽:「情報・符号理論の基礎」、国民科学社、ISBN 978-4875535041 (1991年4月)。
- 藤原 良、神保 雅一:「符号と暗号の数理」、共立出版、ISBN 978-4320026612 (1993年10月)。
- 江藤 良純、金子 敏信 (監修):「誤り訂正符号とその応用」、オーム社、ISBN 978-4274034862(1996年12月)。
- 平沢 茂一、西島 利尚:「符号理論入門」、培風館、ISBN 978-4563014834 (1999年11月)。
- 福村晃夫、後藤宗弘:「算術符号理論」、 コロナ社、ISBN 978-4339003314 (2000年)。
- 内田 興二:「有限体と符号理論」 (臨時別冊・数理科学、SGCライブラリ-5)、サイエンス社 (2000年)。
- 情報理論とその応用学会 (編) :「符号理論とその応用」、培風館、ISBN 978-4563014537 (2003年7月)。
- J.ユステセン、T.ホーホルト:「誤り訂正符号入門」、森北出版、ISBN 978-4627817111 (2005年9月30日)。
- 濱田 昇:「情報理論と符号理論」、共立出版、ISBN 978-4320121645 (2006年10月)。
- 坂庭 好一、渋谷 智治:「代数系と符号理論入門」、コロナ社、ISBN 978-4339024463 (2010年4月)。
- 植松 友彦:「代数系と符号理論」、オーム社、ISBN 978-4274502743 (2010年4月9日)。
- 西村 芳一:「データの符号化技術と誤り訂正の基礎」、CQ出版; 改訂新版、ISBN 978-4789846400 (2010年7月1日)。
- 和田山 正:「誤り訂正技術の基礎」、森北出版、ISBN 978-4627817319 (2010年7月6日)。
- 汐崎 陽:「情報・符号理論の基礎」、オーム社、ISBN 978-4274210075(2011年3月1日)。
- 先名 健一:「例題で学ぶ符号理論入門」、森北出版、ISBN 978-4627817418 (2011年7月15日)。
- 神谷 幸宏、川島 幸之助: 「情報・符号理論 ―ディジタル通信の基礎を学ぶ―」、オーム社、ISBN 978-4274503870 (2012年3月24日)。
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- Henning Stichtenoth、新妻 弘 (訳):「代数関数体と符号理論」、共立出版、ISBN 978-4320110458 (2013年8月24日)。
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- 萩原 学:「進化する符号理論」、日本評論社、ISBN 978-4535787971 (2016年9月9日)。