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飛行機雲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
航跡雲から転送)
飛行機雲を発生させるジェット機A380
飛行機の飛行機雲

飛行機雲(ひこうきぐも)は、飛行機の航跡に生成される細長い線状のジェット機などのエンジンから出る排気ガス中の水分、あるいはの近傍の低圧部が原因となって発生する、排煙ではなく雲である。別名航跡雲(こうせきうん)、英語ではコントレイル(contrail、condensation trail(「結露の足跡」の意)の略)、あるいはヴェイパートレイル(: vapour trail: vapor trail、「蒸気の足跡」の意)。

生成過程

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ジェット機(C-141)による飛行機雲

発生原因

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飛行機雲は、主に次の2つの原因によって生ずる。

  1. エンジン排気中の水蒸気が主因であるもの
  2. 付近の低圧部に起因するもの

2.よりも1.によって生成された雲の方が長く安定して残る傾向にある。これは、1.では大気中の水蒸気量そのものが増加するためである。

また、飛行機雲は地上からでも自機が発見される目印となるため、軍用機(特に機動力の劣る輸送機爆撃機など)にとっては(レーダー対抗技術が発達したとはいえども)脅威といえる存在である。

このため、いかに飛行機雲を少なくするかについては発生原因とともに研究が続けられている。

アメリカ空軍B-2の初期の設計では、塩化フッ化スルフリルをジェットエンジンの排気に混ぜ、飛行機雲の発生を抑える機能が試されたが、フッ化水素が生成するためその物質自体が猛毒であるほか[1]、生成物質が猛毒のフッ化水素だけでなく強酸の塩化水素および硫酸であることから装備を取りやめ、飛行機雲ができにくい空域を飛ぶよう変更された[2]

エンジン排気によるもの

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第二次世界大戦中に撮影された飛行機雲(レシプロエンジンからの排気によるもの)

エンジンの排気により空気中の水分が増加し、飽和水蒸気量にまで達する場合があり、それが凝縮し水滴、になりとなる。

航空機の燃料として、レシプロエンジンの場合はガソリンジェットエンジンの場合は灯油をベースとしたケロシンが使われる。いずれも主な成分は炭化水素であり、炭素は燃えて二酸化炭素になり、水素となり、水蒸気として放出される。

元々、大気中に存在する水分と合わさり、大気中の微粒子等を核として水滴が成長、さらに高々度の低温の下で氷結して飛行機雲となる。このため、中緯度地域では5,000m〜13,000mの高度に存在していることが多い。

エンジンが4つある飛行機(ボーイング747エアバスA340など)からは4本の雲が出るが、左右2本ずつがまとまって2本しか出ていないように見えることがある。

翼周りの低圧部によるもの

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揚力が生じている飛行機の翼上面では気圧が低くなっている。このとき大気は断熱膨張によって温度が下がっているため大気中の水蒸気が凝縮して水滴となり、飛行機雲として観察される。

特に翼端付近では翼下面と上面の気圧差から翼端渦と呼ばれるが生じており、中心付近の低圧部で雲が生じやすい。

ドッグトゥース(翼の切り欠き部)や、LEX(胴体と接する辺りの翼前縁部が延長されたもの)といったところに生ずる渦によっても生成されることがある。

ただし、いずれも大きな揚力が必要な引き起こしや旋回といった高G(重力加速度)機動時に生じやすく(大きな揚力が生じているときにはより低圧になっているため)、水平飛行時には普通この種の雲は見られない。

しかしながら、高揚力装置の一種であるフラップを完全に展張し揚力を大きく増す着陸時には、高G機動ではないものの、フラップ端や翼端に渦による雲が生ずることがある。

消滅飛行機雲

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消滅飛行機雲

空中に雲を描く飛行機雲とは逆に、雲が薄く広がる中を飛行機が通ると、雲が筋状になくなっていく。これは消滅飛行機雲(しょうめつひこうきぐも)または反対飛行機雲(はんたいひこうきぐも)と呼ばれる。

発生原因

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発生原因は、飛行機の排出ガスの熱により大気中の水分が蒸発すること、乱気流により周囲の乾いた大気と混ざること、エンジン排気の粒子により水分が凍結し落下することの3つが挙げられる[3]

気象との関係

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観天望気

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観天望気では「飛行機雲は天気の変わる兆し」といわれており、飛行機雲がはっきりと表れるときは上空の空気が水蒸気を多く含んでいるため天気が悪くなることを示している[4]。「飛行機雲がすぐに消えると晴れ」ともといわれており、このようなときは上空の湿度が少ないため天候は悪化しないことを示している [5]

気象への影響の観測

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アメリカのような航空交通の需要が大きな地域では、飛行機雲が気象にも影響しているとの仮説が以前からあった。すなわち日中は太陽光を、夜は地表からの熱放射を遮るというものである。この仮説を検証する機会が2001年9月11日に訪れた。アメリカ同時多発テロ事件後、3日間にわたりアメリカ全土における航空機の飛行が禁止されたことで、飛行機雲がない状態では昼夜の温度差が約1℃増加したとの観測結果が得られた。飛行機雲が地球薄暮化における大きな要因であるとの説が唱えられている。

スモーク

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エンジン後部からオイルを噴出しスモークにしている

航空ショーなどで、アクロバット機の航跡を見せているのは、油を霧状に噴射して作られたスモークであり、飛行機雲ではない。

脚注

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  1. ^ なお類薬の塩化スルフリルは常温では液体、フッ化スルフリルは気体であり、ともに水と反応して塩化水素およびフッ化水素を発生させる。
  2. ^ Why contrails hang around.” (英語). Air & Space magazine. Flight Lines. スミソニアン学術協会. 2008年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年10月5日閲覧。
  3. ^ 村井昭夫, 鵜山義晃『雲のカタログ 空がわかる全種分類図鑑』草思社、2011年、112頁。ISBN 978-4-7942-1823-0 
  4. ^ 5.雲と天気の変化”. 啓林館. 2019年10月26日閲覧。
  5. ^ マリンレジャー安全リポート 第63号”. 第七管区海上保安本部. 2019年10月26日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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