マネジメントシステム
マネジメントシステムは、組織がその目標を達成するため、必要な課題を確実に解決することを目的とし、用いられる方針、プロセスや手続きの一連の要素である[1]。これらの目標には、組織の運用における多くの局面 (経済的成功、安全な運営、製品品質、クライアントとの関係、法規制への適合性、労働者の管理など) が含まれる。たとえば、環境マネジメントシステムを利用することで、組織は環境のパフォーマンス向上が可能となり、また、労働安全衛生マネジメントシステム (OHSAS) を利用すると、組織は労働安全衛生のリスク制御が可能となる。
マネジメントシステムは、その利用される目的にかかわらず、多くの共通した部分があるが、共通していない他の部分については、より具体的な対応を求める場合がある。
概要
[編集]国際規格であるISO 9000:2015 (品質マネジメントシステム) では、3.5.3章でマネジメントシステムを以下のように定義している[2]。
方針(3.5.8)及び目標(3.7.1),並びにその目標を達成するためのプロセス(3.4.1)を確立するための,相互に関連する又は相互に作用する,組織(3.2.1)の一連の要素[注釈 1]。—JIS Q 9000:2015、箇条3.5.3より引用[注釈 2]
マネジメントシステムの主要な点を単純化したものは、「計画 (Plan)、実行 (Do)、チェック (Check)、改善 (Act)」の4要素のアプローチ (PDCAサイクル) である。完全なマネジメントシステムは、目的を達成するため、管理のあらゆる側面をカバーし、パフォーマンス管理を支持することに重点をおいている。また、マネジメントシステムは、組織の習得状況に応じた、継続的な改善の対象となる。
要素には次のものが含まれる。
- リーダーシップの関与と責任
- 法律および業界標準の識別と遵守
- 従業員の選択、配置、能力保証
- 労働力の関与
- 利害関係者 (運用により局所的に影響を受けるもの) とのコミュニケーション
- 潜在的な障害、その他の危険の特定と評価
- 文書、記録、知識管理
- 文書化された手順
- プロジェクトの監視、ステータスとハンドオーバー
- インターフェース管理
- 規格と実践
- 変更管理と計画管理
- 運用準備とスタートアップ
- 危機対策
- 施設の点検、維持、管理
- 重要なシステム (クリティカルシステム) の管理
- 作業管理、作業とタスクのリスク管理の許可
- 請負業者 / 納入業者の選択と管理
- 事故 (インシデント) の報告と調査
- 監査、保証および管理システムの見直しと介入
マネジメントシステムの例
[編集]マネジメントシステムの例は次のとおり。
- ISO 9000 : 品質マネジメントシステム規格 (QMS)
- ISO 14000 : 環境マネジメントシステム規格 (EMS)
- ISO/IEC 20000 : ITサービスマネジメントシステム規格 (ITSMS)
- FitSM : 軽量化されたITサービスマネジメント基準
- ISO 22000 : 食品安全マネジメントシステム
- ISO 22301 : 事業継続マネジメントシステム (BCMS)
- ISO/IEC 27000 : 情報セキュリティマネジメントシステム (ISMS)
- ISO 28000 : サプライチェーンセキュリティマネジメントシステム
- ISO 30000 : 船舶リサイクルマネジメントシステム
- ISO 41001 : ファシリティマネジメントシステム
- ISO 45001 : 労働安全衛生マネジメントシステム規格
- ILO-OSH : 労働安全衛生マネジメントシステム
- ISO/DIS 50001 : エネルギーマネジメントシステム規格 (EnMS)
- ISO 55000 : アセットマネジメントシステム規格
- ISO 56002 : 国際標準化機構 (ISO) のTC 279委員会のイノベーションマネジメントシステム
- SA 8000 : 社会的説明責任 (ソーシャルアカウンタビリティ)
- IAEAマネジメントシステム安全基準
- 組織的プロジェクトマネジメント成熟度モデル (OPM3)
- JIS Q 15001 : 個人情報保護マネジメントシステム規格 (PMS)
マネジメントシステムの調和
[編集]様々なマネジメントシステム規格(英: management system standards; MSS)[5]を統一して記述するために、ISOは規格間の調和方法を提示している。これは「ISO/IEC 専門業務用指針第1部及び統合版ISO補足指針[6]-2021年版(ISO/IEC Directives, Part 1, Consolidated ISO Supplement, 2021)附属書SL」にて定義される[7][8]。
この指針はマネジメントシステムを「『方針』『目的』『目的達成のためのプロセス』確立を目的として相互に関連・作用する一連の組織要素」と定義している[9]。方針(英: policy)は「組織全体の意図と方向付け」[10]、目的(英: objective)は「各階層で達成すべき結果」[11]を意味する。すなわちマネジメントシステムの目標は「組織全体の指針が明確で、各階層の目的が正しく設定され、実行プロセスが確立した状態」を作り出すことである。そしてこれを作り出す管理システム(=マネジメントシステム)は一連の組織要素からなっている。一連の要素には組織構造・役割・責任 (responsibilities)・計画策定・運用などが含まれる[12]。
例えば曖昧な品質方針を持ち、品質目的が明示されず、低品質な製品を組み立てるプロセスがあるとする。ここに総責任者・現場主任・検査担当からなるチーム、適切な権限、品質安定化計画といった組織要素を導入し運用する。すなわち品質マネジメントシステムを導入し運用する。その場合、まず総責任者により品質方針が明確化され、指針に沿ってチームが品質目的を設定し[13]、新組立プロセスと検査プロセスが整備され、品質目的をクリアした製品が作られると期待できる。
関連項目
[編集]- 環境マネジメントシステム (EMS)
- リーンインテグレーション
- 総合的品質マネジメント (TQM)
- 福祉マネジメントシステム (WMS)
- 品質マネジメントシステム (QMS)
- プロセス安全マネジメントシステム (PSMS)
- 倉庫管理システム (WMS)
注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “FitSM Part 0: Overview and vocabulary” (PDF) (英語). Itemo (2015年4月1日). 2015年8月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年4月2日閲覧。
- ^ 国際標準化機構 (ISO). “ISO 9000:2015 Quality management systems — Fundamentals and vocabulary” (英語). iso.org. 2021年4月2日閲覧。
- ^ 公益財団法人日本適合性認定協会 (JAB). “ISO規格とJISはどのような関係ですか”. jab.or.jp. 2021年4月8日閲覧。
- ^ “JSA GROUP Webdesk 規格・書籍・物品 JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム―基本及び用語”. jsa.or.jp. 2021年4月8日閲覧。
- ^ "SL.2.2 management system standard MSS standard for a management system (SL.2.1)" ISO/IEC Directives, Part 1, Consolidated ISO Supplement, 2021. p.118.
- ^ "ISO/IEC専門業務用指針(ISO/IEC Directives)では … ISO、IEC及びJTC1において共通化されていない手順については、それぞれ独自の補足指針(Supplement)を発行しております。" 日本産業標準調査会. ISO/IEC 関連リンク・参考資料集. 2022-01-27閲覧.
- ^ "Annex SL (normative) Harmonized approach for management system standards" ISO/IEC Directives, Part 1, Consolidated ISO Supplement, 2021. p.118.
- ^ 日本規格協会グループ. マネジメントシステム規格の整合化動向.
- ^ "SL.2.1 management system set of interrelated or interacting elements of an organization to establish policies and objectives, as well as processes to achieve those objectives" ISO/IEC Directives, Part 1, Consolidated ISO Supplement, 2021. p.118.
- ^ "intentions and direction of an organization ... as formally expressed by its top management" ISO/IEC Directives, Annex SL. p.6.
- ^ "3.6 objective result to be achieved ... They can be, for example, organization-wide or specific to a project, product or process" ISO/IEC Directives, Annex SL. p.6.
- ^ The management system elements include the organization's structure, roles and responsibilities, planning and operation.
- ^ "In the context of XXX management systems ..., XXX objectives are set by the organization ..., consistent with the XXX policy ... , to achieve specific results. "
参考文献
[編集]- 国際標準化機構 (ISO) (2001) Guidelines for the justification and development of management system standards. International Standard ISO Guide 72, Geneva, Switzerland.
- 国際標準化機構 (ISO) (2004) Environmental Management Systems-Specifications with Guidance for Use. International Standard ISO 14001, Geneva, Switzerland.
- 環境協力委員会 (CEC) (2000): “Improving Environmental Performance and Compliance: 10 Elements of Effective Environmental Management Systems.” Report.
- Occupational Health and Safety Assessment Series Project Group (OHSASPG) (1999): Occupational health & safety management systems - Specification; OHSAS 18001:1999. 389 Chiswick High Road, London, W4 4AL, United Kingdom.
- 国際標準化機構 (ISO) (2000) Quality Systems - Model for Quality Assurance in Design, Development, Production, Installation and Servicing. International Standard ISO 9001:2000(E), Geneva, Switzerland.
- アメリカ合衆国労働省, Occupational Health and Safety Administration (1989); "Safety and Health Program Management Guidelines." Federal Register, January 26, 1989.
- アメリカ合衆国環境保護庁 (2001): “Integrated Environmental Management Systems: Implementation Guide.” Report written by Abt Associates for the USEPA’s Office of Pollution Prevention and Toxics, Design for the Environment Program; Economics, Exposure, and Technology Division. Washington, DC.
- 一般財団法人日本規格協会 (JSA) (2015)、JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム―基本及び用語 Quality management systems -- Fundamentals and vocabulary