行政委員会
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行政委員会(ぎょうせいいいんかい)とは、国や地方公共団体の一般行政部門に属する合議制の形態をとる行政庁の一つ。
法律や条例によって定められた行政機関の一つであり、職権行使の上では監督官庁等から独立した形で特定の行政権を行使する地位が認められている。また、行政的機能のほかに、規則制定等の準立法的機能、争訴の判断等の準司法的機能を有する委員会も存在する。
設置の目的
[編集]- 政治的中立性の確保(政治部門が短期的政策手法を選好しがちであることに鑑みて長期的公益の確保、政治的濫用の防止)
- 行政事務の専門技術への対応(高度な専門技術的判断の必要性)
- 行政運営の合理化・能率化
- 準司法的手続の必要性
- 行政の民主化
国に設置される行政委員会
[編集]会計検査院との比較
[編集]会計検査院は内閣から完全に独立した地位を認められている「憲法機関」であり、合議制の行政庁ではあるが内閣を頂点とする一般行政部門には属さず、従って組織法学上の行政委員会の範疇には含まれない[1](ただし、行政委員会を「一般行政部門」に属するかは問わず、単に「合議制の形態をとる行政庁」と解する見解もあり、これによれば、行政委員会の範疇に含まれることになる)。
会計検査院の行う会計検査は、国の機関、すなわち内閣の下にある各省庁だけでなく、内閣本体や内閣と権力分立の関係にある国会(衆参の各議院およびその機関だけでなく、裁判官弾劾裁判所や裁判官訴追委員会など両院が共同して設置する機関も含む)・裁判所(最高裁判所を含むすべての裁判所)といった国家の根幹をなす機関が本来的な対象であり、内閣外の国の機関に対しても会計検査の権限を持つ会計検査院を内閣の下の行政機関として置くことは三権分立の原則に照らして不適切であることが、憲法90条2項の規定を受けた会計検査院法1条が「会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する」と定めることの根拠である。
なお、帝国憲法下においても会計検査院は憲法機関(第72条)であるとともに天皇に直隷する「特立ノ地位」を有する機関としての位置づけをされ、院長は親任官である(大正5年法律第36号による改正後の旧会計検査院法により親任官待遇から親任官に昇格)など、従前から特別な地位と権能を有していた。
行政委員会制度は、政治の影響力を最小限に抑える必要性が認められるような行政権の行使が求められる場合において、それを担うにふさわしい形態の(合議により意思決定をする)行政機関を設けるための組織法理論であることから、会計検査院の内閣からの強固の独立性は、そのような場合に、主管行政庁がその付与された権限を内閣の影響を受けずに行使することを保障しうべき制度を考える場合の最良の手本となると思われる。
その一方で、日本国憲法(90条2項)により直接「組織及び権限は法律でこれを定める」とされた会計検査院のような機関であれば格別、そのような規定を憲法上に持たない場合にまで法律で内閣の所管から外し得ると考えるならば、憲法によって内閣に直接付与された権限を国会の判断によっていかようにでも制限ないしは剥奪する余地が生じ、違憲性の問題を回避し得ない(今日では、内閣所轄下の合議制行政機関の設置を否定する見解ほとんど主張されないが、実際に、日本国憲法の施行後しばらくは、そのような議論が頻繁に行われていた。)。そのため、内閣等の所轄下にありながらも相当程度に強固な独立性を持たせた「人事院」等の行政委員会制度は、会計検査院を理想モデルにしつつ憲法65条・73条との抵触を避けた、組織法学的な「力作」であるともいえよう。
ただし、行政委員会の制度は憲法上内閣が有する行政権のうちの特定の内容について、それを分掌する合議制の機関を創設することが望ましいと考えられる場合にそれを可能とするための法理論であるにとどまることから、個々の行政委員会の廃止・審議会化・権限の縮小などは、会計検査院の場合(廃止には憲法改正が不可欠であり、名称の変更や権限の縮小についても憲法改正を必要とする場合がある)とは異なり、国会の政治的裁量権が格段に広く働くことには注意が必要である。
行政委員会を合憲とする根拠
[編集]- 行政委員会は、内閣の下にある。
- 行政委員会の独立性を認め、憲法は、内閣がすべての行政について指揮監督権を持つことを要求してはいない。
- 日本国憲法第65条は、「すべての行政権は」というように帰属を限定していない。
国に設置される行政委員会の一覧
[編集]独立行政委員会とも呼ばれる。人事院は国家公務員法3条、内閣府に設置される委員会は内閣府設置法49条・64条(および各設置根拠法令)、その他の省庁に設置される委員会は国家行政組織法3条(および別表第1)に、それぞれ基づいて設置される。
- 国家公務員法3条に基づき内閣に設置されるもの
- 内閣府設置法49条・64条に基づき設置される内閣府の外局(三条委員会に準じるもの)
- 国家行政組織法3条に基づき他の法律の定めるところにより設置される省の外局(三条委員会)
※かつては、以下の委員会なども設置されていた。
- 統計委員会 - 1946-1952年。行政管理庁に統合され廃止。
- 電波監理委員会 - 1950-1952年。郵政省に統合され廃止(現在の電波監理審議会では準司法的機能により行政審判を行なっている)。
- 公益事業委員会 - 1950-1952年。通商産業省に統合され廃止。
- 金融再生委員会 - 1998-2001年。中央省庁再編に際して消滅し、その庁内庁だった金融庁が内閣府の外局に改組。
- 司法試験管理委員会 - 2004年に、国家行政組織法8条に基づいて司法試験委員会が新たに設置され廃止。
- 船員労働委員会 - 2008年に、中央労働委員会等に分割・移管され廃止。
普通地方公共団体に置く委員会又は委員
[編集]- この節では、地方自治法は条数のみ記載する。
権限
[編集]委員会及び委員は、政治的中立性を確保する観点から、普通地方公共団体の長の指揮監督を受けない。また、委員は、議会の同意等を経た上で選任される。すなわち、執行機関が一の機関に集中して行政の公正さが損なわれることを防ぐため、日本の地方自治制度は、委員会及び委員制度を設けることにより執行機関の多元主義を採っているのである(なお、日本国憲法は第92条において「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」としているのみであり、地方公共団体の長の権限について、内閣の場合のような厳格な規定は置いていない)。
普通地方公共団体の委員会及び委員は、法律の定めるところにより、法令又は普通地方公共団体の条例若しくは規則に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則その他の規程を定めることができる(第138条の4第2項)。
委員会及び委員は、その権限に属する事務の一部を、長と協議して、長の補助機関等に委任又は補助執行させることができる(180条の7)。
権限に属しない事項
[編集]権限に属しない事項[2]は、以下の通りである。
- 普通地方公共団体の予算を調製し、及びこれを執行すること。
- 普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。
- 地方税を賦課徴収し、分担金若しくは加入金を徴収し、又は過料を科すること。
- 普通地方公共団体の決算を議会の認定に付すること。
委員
[編集]委員は非常勤の特別職地方公務員であり、委員長は委員の中から選ばれる。ただし、教育委員会の代表者である教育長は、委員ではない常勤の特別職地方公務員である。委員会及び委員及び長が協議し職員を融通する方法としては、兼職・事務従事・充て職がある。特に事務量が多く、専任職員を必要とする委員会及び委員では普通地方公共団体の長の直近下位の内部組織からの出向の形を取る。
普通地方公共団体に置かなければならない委員会及び委員
[編集]都道府県に置かなければならない委員会
[編集]市町村に置かなければならない委員会
[編集]- 農業委員会[10]
- 固定資産評価審査委員会[11] (特別区の区域にあっては都に置く。)
出典
[編集]- ^ 日本国憲法第90条第2項・会計検査院法第1条。会計検査院の地位(会計検査院HP)
- ^ 地方自治法第180条の6
- ^ 地方教育行政の組織及び運営に関する法律第2条
- ^ 地方自治法第181条
- ^ 地方公務員法第7条から第12条まで
- ^ 警察法第38条
- ^ 労働組合法第19条の12
- ^ 土地収用法第51条
- ^ a b 漁業法
- ^ 農業委員会等に関する法律
- ^ 地方税法第423条