「アカエゾマツ」の版間の差分
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|名称 = アカエゾマツ |
|名称 = アカエゾマツ |
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|画像キャプション = アカエゾマツ(ロシア・サハリン) |
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|和名 = アカエゾマツ(赤蝦夷松) |
|和名 = アカエゾマツ(赤蝦夷松) |
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|下位分類名 = 品種 |
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|下位分類 = f. {{Snamei|chlorocarpa}} {{Taxonomist|Miyabe}} et {{Taxonomist|Kudô}} |
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[[ファイル:Picea glehnii1.JPG|240px|thumb|アカエゾマツの葉]] |
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[[File:Picea glehnii 01.jpg|240px|thumb|アカエゾマツの樹皮]] |
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'''アカエゾマツ'''(赤蝦夷松、[[学名]]:{{Snamei||Picea glehnii}})は、[[マツ科]][[トウヒ属]]の常緑[[針葉樹]]。 |
'''アカエゾマツ'''(赤蝦夷松、[[学名]]:{{Snamei||Picea glehnii}})は、[[マツ科]][[トウヒ属]]の常緑[[針葉樹]]。 |
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== 形態 == |
== 形態 == |
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最大樹高30m-40m、直径1.5m程度になるが、湿地のものなどは非常に小型である。樹形は環境にも左右されるが、樹冠部は通常整った円錐型になる。成木では梢端部と各枝先の付近を除き枝は垂れ下がるのはエゾマツと同じで、ドイツトウヒなどトウヒ属にはしばしばみられる特徴である。樹皮は鱗片状に薄く剥がれる。色は黒褐色だが、エゾマツに比べるとやや赤みを帯びる。 |
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樹高は通常は30mから40m以上だが、湿原では非常に小型になる<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。樹形は自然に円錐形となり、美しい<ref name="基地-アカエゾマツ"/>。若い枝には赤褐色の毛がびっしりと生え、幹は赤褐色から黒赤褐色で太さ1mから1.5mとなり、樹皮はウロコ状に剥がれる<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/><ref name="基地-アカエゾマツ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。 |
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枝先の若い一年生枝に赤褐色の毛を密生させる。枝は長枝のみを持ち、葉は長枝に散生する。葉の付け根に葉枕がよく発達するのもトウヒ属の特徴である。葉の長さは5-12mmでエゾマツと比べるとやや短く、また枝にはより密につく。葉の先端は尖る。葉の断面の形状は菱形であるのに対し、エゾマツは扁平型。 |
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葉は幅1mm、長さ5-12mm程度で、横断面は菱形をしており、4面に気孔帯がある<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。エゾマツの葉は長く、横断面は扁平なので、この点からも両者は区別できる<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。 |
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[[雌雄同体#植物の場合|雌雄同株]]で、帯紅色で1.5cmほどの雄花と、紫紅色で3cmほどの雌花が枝に直立して咲く |
[[雌雄同体#植物の場合|雌雄同株]]で、帯紅色で1.5cmほどの雄花と、紫紅色で3cmほどの雌花が枝に直立して咲く。花は樹上の高い部分の枝先にしかできないので、地表から見ることは難しい。北海道では5月から6月が開花期である。 |
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雌花は熟すると、球果となってぶら下がる |
雌花は熟すると、球果となってぶら下がる。円柱形で長さ4.5-8.5cm程度、太さ2.5cm程度。北海道では9月から10月に暗紫色に熟する。 |
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Picea glehnii2.JPG|樹形。梢端部を除き主枝と小枝と葉の何れも垂れ下がる |
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Picea glehnii1.JPG|葉。枝に密につく。 |
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Abies sachalinensis, Gora Lopatina, Sakhalin.jpg|参考:トドマツの樹形。小枝も含めて斜め上に出る。 |
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Picea jezoensis 02.jpg|参考:エゾマツの葉。アカエゾマツより葉の間隔が疎 |
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== 生態 == |
== 生態 == |
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蛇紋岩土壌におけるトドマツとの比較試験ではアカエゾマツの根も大きく影響を受けるが、地上部を伸長成長させる力を持っている。一説にはアカエゾマツの浅根性が高マグネシウムの悪影響を軽減しているのではないかという説が提唱されている<ref>山田健四, 大野泰之 (1999) 蛇紋岩土壌での天然更新(III) : 蛇紋岩土壌による実生の根系成長阻害(会員研究発表論文). 日本林学会北海道支部論文集 47, p.108-110. {{doi|10.24494/jfshb.47.0_108}}</ref> |
蛇紋岩土壌におけるトドマツとの比較試験ではアカエゾマツの根も大きく影響を受けるが、地上部を伸長成長させる力を持っている。一説にはアカエゾマツの浅根性が高マグネシウムの悪影響を軽減しているのではないかという説が提唱されている<ref>山田健四, 大野泰之 (1999) 蛇紋岩土壌での天然更新(III) : 蛇紋岩土壌による実生の根系成長阻害(会員研究発表論文). 日本林学会北海道支部論文集 47, p.108-110. {{doi|10.24494/jfshb.47.0_108}}</ref> |
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北海道の天然林の観察ではアカエゾマツは稀に純林を作ることもあるが、トドマツやエゾマツを主体に少数の広葉樹が混じるような場所に少数が混生するような生え方が多いという。岩手県の分布地では下層には多数の倒木とヒバを伴うとされている<ref>松田彊, 春木雅寛, 長谷川栄, 矢島崇, 関根誠, 真山良 (1978) アカエゾマツ天然林の研究 : (V)南限地早池峯山における生育と更新について. 日本生態学会誌 28(4), p.347-366. {{doi|10.18960/seitai.28.4_347}}</ref>。 |
北海道の天然林の観察ではアカエゾマツは稀に純林を作ることもあるが、トドマツやエゾマツを主体に少数の広葉樹が混じるような場所に少数が混生するような生え方が多いという。岩手県の分布地では下層には多数の倒木とヒバを伴うとされている<ref>松田彊, 春木雅寛, 長谷川栄, 矢島崇, 関根誠, 真山良 (1978) アカエゾマツ天然林の研究 : (V)南限地早池峯山における生育と更新について. 日本生態学会誌 28(4), p.347-366. {{doi|10.18960/seitai.28.4_347}}</ref>。1960年の発見当初、岩手県のアカエゾマツは96本で、しかも群落の辺縁部から枯損が進行し、消滅が危惧された。しかし1970年代には枯損がとまり、土石流跡地に新たなアカエゾマツが育っており、2000年代には総数<ref group="注">[[胸高直径]](地表から約1.2mの高さにおける直径)5cm以上のもの</ref>は143本にまで増え、太いものでは直径20cmを超えるものも60本以上確認されている。小木も含めた総個体数は3500本となって、短期的には消滅の危機は脱したと考えられている。本来、自然に[[コメツガ]]や[[ヒバ]]などに遷移するはずのものが、定期的に発生する土石流によってコメツガやヒバが倒されてアカエゾマツが生えることで群落が維持されてきたと推測されている。 |
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== 分布 == |
== 分布 == |
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== 人間との関係 == |
== 人間との関係 == |
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本種は日本産のトウヒ属樹木としては経済的に最も重要なものであり、トドマツ(モミ属)と共に北海道の針葉樹を代表する有用樹種である。アカエゾマツはエゾマツよりも病気に強いので珍重される。 |
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気乾比重は0.4程度と軽い木材で耐朽性は低く腐りやすい。辺材と心材の色の差が殆どなく、特に乾燥状態では両者を見分けることが困難である。このような材を無職心材、もしくは熟材と言いトウヒ属やモミ属ではよく見られる。 |
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トウヒ類は楽器用材として評価が高く、本種もバイオリンやピアノなどの表面に用いられる。 |
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== 分布と生育環境 == |
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北海道に分布の中心があり、特に北海道東部から北部の山間部や日高山脈に多く<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/><ref name="川湯エコ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>、北海道南部([[渡島半島]])には分布しない<ref name="基地-アカエゾマツ"/>。その他には千島列島の南部([[国後島]])、[[色丹島]]・[[樺太|サハリン]]最南端・[[岩手県]]の[[早池峰山]]に分布する<ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/><ref name="森林総合研究所-早池峰"/>。北海道ではエゾマツ、[[トドマツ]]、[[ダケカンバ]]、[[イタヤカエデ]]などと分布域が重なるが、[[湿地]]や[[蛇紋岩]]地、土壌の薄い溶岩上や火山灰や火山礫の土壌、痩せた湿地や海岸砂丘など、養分の乏しく条件の厳しい場所で優先する<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/><ref name="川湯エコ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/><ref name="森林総合研究所-早池峰"/>。このような場所ではエゾマツ・[[トドマツ]]の生育は困難なため、しばしば純林を形成する<ref name="森林総合研究所-早池峰"/>。[[根室市]][[風蓮湖]]の[[春国岱]]は、[[砂洲]]上のアカエゾマツ純林として著名である。 |
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スギやヒノキなどの温帯性針葉樹に富む日本では、トウヒ類は建材としてはあまり用いられてこなかったが、人工乾燥や防腐処理、[[集成材]]加工などを行うことで耐久性や強度面での弱点を改善した製材品が見直されつつある。この分野で先行しているのは北欧のドイツトウヒ(''Picea abies'')である。寒冷および氷河の浸食によって貧栄養で雑草が生えにくく平坦な地形という特徴があり、地拵えと植え付けから収穫まで非常に低コストで可能である。このために輸送と加工に手間をかけても、建材用のスギ・ヒノキの強力な競争相手となっているという<ref>遠藤日雄(2002)スギの行くべき道 林業改良普及双書 No.141. 全国林業改良普及協会, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000003682716}} </ref>。日本でもトウヒ林業の先進地である北欧とは育種や施業方法の情報交換を行っている<ref>田村明 (2013) フィンランドとの共同研究について. 森林遺伝育種 2(2), p.67-68. {{doi|10.32135/fgtb.2.2_67}}</ref>。 |
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[[阿寒湖]]周辺では、[[雌阿寒岳]]・[[雄阿寒岳]]、[[摩周岳]]や[[アトサヌプリ]]といった火山群によってできた火山灰地で純林を形成しており、[[次郎湖]]畔のアカエゾマツ樹林や[[川湯温泉 (北海道)|川湯温泉]]付近の純林(「川湯アカエゾマツの森」)などが知られている<ref name="川湯エコ"/><ref name="阿寒"/><ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。 |
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建材より低級の土木用材、パルプ用材としても利用できる |
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また、[[焼尻島]]の「鶯谷の姥松」が名木として知られている<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。 |
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=== 精油 === |
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⚫ | アカエゾマツの間伐材や下枝葉などを水蒸気蒸留することで得られる油分(精油)は森林の代表的な芳香成分の一つであるボルニルアセテートを多く含み、アロマ原料や香料として利用されている<ref>{{Cite journal|和書|url=https://doi.org/10.1241/sangakukanjournal.18.7_10 |title=樹木成分研究による森林資源の獣医学的活用 |access-date=2023-04-17 |publisher=科学技術振興機構 |doi=10.1241/sangakukanjournal.18.7_10 |author=横田愽 |year=2022 |pages=10-12 |journal=産学官連携ジャーナル}}{{要購読}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=土居拓務, 本田知之, 安井由美子, 前田尚之, 酒巻美子, 萩原寛暢, 横田博 |year=2020 |url=https://hdl.handle.net/10659/00006896 |title=木育活動およびアカエゾマツ精油芳香曝露による唾液中ストレスホルモン(コルチゾール)の低減 |journal=AROMA RESEARCH |ISSN=13454722 |publisher=フレグランスジャーナル社 |volume=21 |issue=4 |pages=28-34 |hdl=10659/00006896 |naid=120007089701}}</ref>。アカエゾマツの精油には多種多様な病原菌や真菌に対して強い抗菌性を有していることが証明され<ref>{{Cite journal|和書|author=山口昭弘, 趙希英, 佐藤彩音, 亀田くるみ, 前野奈緒子, 家子貴裕, 前田尚之, 横田博 |year=2021 |url=https://hdl.handle.net/10659/00007495 |title=アカエゾマツ精油のアクネ菌に対する抗菌性 |journal=Aroma research= アロマリサーチ |ISSN=13454722 |publisher=フレグランスジャーナル社 |volume=22 |issue=4 |pages=361-367 |hdl=10659/00007495}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=醍醐由香里, 村田亮, 鈴木一由, 横田愽, 内田郁夫, 菊池直哉 |year=2018 |url=https://hdl.handle.net/10659/00006359 |title=乳房炎原因菌に対するアカエゾマツ(Picea glehnii)精油の抗菌活性 |journal=北海道獣医師会雑誌 |publisher=北海道獣医師会 |volume=62 |issue=5 |pages=135-139 |hdl=10659/00006359 |naid=120006798183}}</ref>、近年、これら特性を生かした製品化(皮膚病を予防する牛用クリームなど)や廃棄される枝葉の再利用、地方創生の取組みが推進されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://pinegrace2017.wixsite.com/akaezo |title=一般社団法人Pine Grace |access-date=2023年1月1日 |publisher=一般社団法人Pine Grace |editor= |website=アカエゾマツ、森林、獣医学 {{!}} PineGrace {{!}} 北海道}}</ref>。 |
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もともと、アカエゾマツは北海道の道南以北だけにみられ、本州以南には分布していないと考えられていた。ところが1960(昭和35)年に[[岩手県]][[宮古市]]の[[早池峰山]]の蛇紋岩地帯で96本<ref group="注">[[胸高直径]](地表から約1.2mの高さにおける直径)5cm以上のもの</ref>のアカエゾマツからなる群落が発見された<ref name="森林総合研究所-早池峰"/>。 |
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== 庭園樹・盆栽 == |
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この[[蛇紋岩]]地帯は約2万年前の[[最終氷期]]に形成された蛇紋岩が斜面上に取り残されたもので、しばしば土石流の原因になっていた。1960年のアカエゾマツ発見も、[[アイオン台風]](1948年)による土石流被害の調査の過程で見つかったものである。この群落は標高980mから1180m付近にかけての「アイオン沢」と呼ばれる東西200m、南北600mの斜面地に限定されていて、これはたまたまそこだけ土石流の被害を免れたことで残存していたものだった<ref name="森林総合研究所-早池峰"/><ref name="天然記念物"/>。 |
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かつての最終氷期の[[東北地方]]では、アカエゾマツは最も繁栄している植物種の一つであり、早池峰山のアカエゾマツはその稀少な生き残りと考えられている<ref name="森林総合研究所-早池峰"/>。その学術的稀少価値が認められ、1975年に「早池峰山のアカエゾマツ自生南限地」として国の[[天然記念物]]に指定された<ref name="森林総合研究所-早池峰"/><ref name="天然記念物"/>。 |
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=== 著名な個体 === |
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1960年の発見当初、土石流を免れたアカエゾマツは96本で、しかも群落の辺縁部から枯損が進行し、消滅が危惧された。しかし1970年代には枯損がとまり、土石流跡地に新たなアカエゾマツが育っており、2000年代には総数<ref group="注">[[胸高直径]](地表から約1.2mの高さにおける直径)5cm以上のもの</ref>は143本にまで増え、太いものでは直径20cmを超えるものも60本以上確認されている。小木も含めた総個体数は3500本となって、短期的には消滅の危機は脱したと考えられている。本来、自然に[[コメツガ]]や[[ヒバ]]などに遷移するはずのものが、定期的に発生する土石流によってコメツガやヒバが倒されてアカエゾマツが生えることで群落が維持されてきたと推測されている<ref name="森林総合研究所-早池峰"/>。 |
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* 鶯谷の姥松(北海道[[羽幌町]][[焼尻島]]) |
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* 早池峰山のアカエゾマツ自生南限地(国の[[天然記念物]] 1975年指定) |
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==呼称== |
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外観が[[エゾマツ]]に似ていて、幹の色が赤みがかっていることからアカエゾマツと呼称されるようになったと考えられている<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。エゾマツやアカエゾマツは、分類学上は[[マツ属]]ではなく[[トウヒ属]]だが、一般に常緑針葉樹は「マツ」と呼称されている<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。 |
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== 名前 == |
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[[アイヌ]]は「チカㇷ゚・スンク<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>」(鳥のエゾマツ)と呼んで「スンク」(エゾマツ)と区別して<ref name="阿寒"/>いたほか、北海道での主な異称として「テシオマツ<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>」([[天塩郡|天塩]]の松)、「シコタンマツ<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>」([[色丹島]]の松)、「ヤチシンコ<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>」(谷地=湿地のエゾマツ。シンコは、[[アイヌ語]]スンクの訛り)などがある。 |
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標準和名アカエゾマツはエゾマツに比べて赤いところから来ている。赤い部分は樹皮について言われることが多いが、本種は形態節の通り一年生枝に赤褐色の毛を密生させ、この点も無毛のことが多いエゾマツとの違いの一つである。エゾマツ自体は「蝦夷地に生える松(=針葉樹)」という意味であるが、[[アカマツ]]、[[クロマツ]]などのいわゆる[[マツ属]]とは属単位で異なり、ドイツトウヒなどに近い。同じような事例はカラマツ、グイマツ、トドマツなどでも知られておりこれらもマツ属ではない。 |
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種小名''glenhnii''は極東地域を探検し植物を収集した[[バルト・ドイツ人]]植物学者 Пётр Петрович Глен(ローマ字転写 Peter von Glehn, 1835-1876)への献名である。 |
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北海道では、本種との区別のためにエゾマツを「クロエゾマツ」と俗称するほか、本種のことを「アカマツ」と俗称する場合もある<ref name="基地-アカエゾマツ"/>。 |
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主たる分布地となる北海道への本格的な和人入植が明治時代以後と比較的新しく、入植者は各地から集まったこともあってか、方言名は殆ど知られていない<ref name="樹種名方言集(1932)">農林省山林局 編 (1932) 樹種名方言集. 農林省山林局, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000000904043}} (デジタルコレクション有)</ref><ref name="倉田悟(1963)">[[倉田悟]] (1963) 日本主要樹木名方言集. 地球出版, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000001050277}} (デジタルコレクション有)</ref>のが特徴で、僅かに「シンコマツ」(北海道根室地方)程度である<ref name="日本樹木名方言集(1916)">農商務省山林局 編 (1916) 日本樹木名方言集. 大日本山林会, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000000904366}} (デジタルコレクション有)</ref>。聞き取り調査の結果、北海道では本種に限らず樹木の現存する方言名が極めて少ないことが指摘されている<ref>内海泰弘, 古賀信也 (2024) 北海道足寄町における伝統的な樹木の名前と利用法およびその知識の消失. 九州大学農学部附属演習林報告 105, p.1-4. {{doi|10.15017/7172205}}</ref>。 |
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英名は「Sakhalin Spruce」(「[[樺太|サハリン]]の[[トウヒ]]」の意)、中国名は「鱼鳞云杉」(「魚鱗」は樹皮が鱗のようになっていることから。「云杉」はトウヒのこと。)<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/>。 |
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本種についてアイヌは「チカブシユング」、樺太アイヌは「アラコイニ」と呼んでいた。エゾマツは「シユング」と呼ぶという<ref name="日本樹木名方言集(1916)"/> |
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北海道では人工造林の代表種で、2008年現在でおよそ16万[[ヘクタール|ha]]の人工樹林がある<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。苗木の育成が容易で、病気に強いうえ、春の芽出しが遅いので高緯度の酷寒地・多雪地での造林に適している<ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。 |
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一般に成長はゆっくりなため、年輪が均一で詰まっている。材は白褐色から淡黄白色で、心部と辺部の性質に大きな差がないのが特徴<ref name="基地-アカエゾマツ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。針葉樹材のなかでは強度が高いが、耐朽性は劣る<ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。 |
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天然のアカエゾマツ材は、他のトウヒ属一般と同様に、建築材や土木用材、パルプ材としても使用可能<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>だが、近年は資源が枯渇しており、北海道の針葉樹全体の4%から5%程度しかない<ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。そのため高価な用途に限定されるようになっており、バイオリンやピアノなど[[弦楽器]]の表面板などに用いられている<ref name="基地-アカエゾマツ"/><ref name="林産試験場-アカエゾマツ"/>。 |
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人工造林のアカエゾマツ材、とくに間伐材は、天然材やトドマツと比較すると強度でやや劣るとみられており、建材として用いるには採算性が劣るとされている。そのため強度の必要のない集成材や梱包材の用途に用いられている<ref name="人工林"/>。 |
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⚫ | アカエゾマツの間伐材や下枝葉などを水蒸気蒸留することで得られる油分(精油)は森林の代表的な芳香成分の一つであるボルニルアセテートを多く含み、アロマ原料や香料として利用されている<ref>{{Cite journal|和書|url=https://doi.org/10.1241/sangakukanjournal.18.7_10 |title=樹木成分研究による森林資源の獣医学的活用 |access-date=2023-04-17 |publisher=科学技術振興機構 |doi=10.1241/sangakukanjournal.18.7_10 |author=横田愽 |year=2022 |pages=10-12 |journal=産学官連携ジャーナル}}{{要購読}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=土居拓務, 本田知之, 安井由美子, 前田尚之, 酒巻美子, 萩原寛暢, 横田博 |year=2020 |url=https://hdl.handle.net/10659/00006896 |title=木育活動およびアカエゾマツ精油芳香曝露による唾液中ストレスホルモン(コルチゾール)の低減 |journal=AROMA RESEARCH |ISSN=13454722 |publisher=フレグランスジャーナル社 |volume=21 |issue=4 |pages=28-34 |hdl=10659/00006896 |naid=120007089701}}</ref>。アカエゾマツの精油には多種多様な病原菌や真菌に対して強い抗菌性を有していることが証明され<ref>{{Cite journal|和書|author=山口昭弘, 趙希英, 佐藤彩音, 亀田くるみ, 前野奈緒子, 家子貴裕, 前田尚之, 横田博 |year=2021 |url=https://hdl.handle.net/10659/00007495 |title=アカエゾマツ精油のアクネ菌に対する抗菌性 |journal=Aroma research= アロマリサーチ |ISSN=13454722 |publisher=フレグランスジャーナル社 |volume=22 |issue=4 |pages=361-367 |hdl=10659/00007495}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=醍醐由香里, 村田亮, 鈴木一由, 横田愽, 内田郁夫, 菊池直哉 |year=2018 |url=https://hdl.handle.net/10659/00006359 |title=乳房炎原因菌に対するアカエゾマツ(Picea glehnii)精油の抗菌活性 |journal=北海道獣医師会雑誌 |publisher=北海道獣医師会 |volume=62 |issue=5 |pages=135-139 |hdl=10659/00006359 |naid=120006798183}}</ref>、近年、これら特性を生かした製品化(皮膚病を予防する牛用クリームなど)や廃棄される枝葉の再利用、地方創生の取組みが推進されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://pinegrace2017.wixsite.com/akaezo |title=一般社団法人Pine Grace |access-date=2023年1月1日 |publisher=一般社団法人Pine Grace |editor= |website=アカエゾマツ、森林、獣医学 {{!}} PineGrace {{!}} 北海道}}</ref>。 |
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==脚注== |
==脚注== |
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<references group="注"/> |
<references group="注"/> |
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===出典=== |
===出典=== |
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{{reflist}} |
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{{Reflist|colwidth=30em |refs= |
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*<ref name="jucnredlist-picea_glehnii">[http://www.iucnredlist.org/apps/redlist/details/42324/0 Conifer Specialist Group 1998. ''Picea glehnii''. In: IUCN 2010. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4.]</ref> |
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*<ref name="和名−学名インデックス">[http://ylist.info/ylist_detail_display.php?pass=25620 アオミノアカエゾマツ] [[米倉浩司]]・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)2018年6月3日閲覧</ref> |
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*<ref name="北海道の木100-アカエゾマツ">『知りたい北海道の木100』p26-27「アカエゾマツ」</ref> |
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*<ref name="阿寒">[[環境省]] 釧路自然環境事務所 {{PDFlink|[https://hokkaido.env.go.jp/kushiro/nature/data/akan_j.pdf 阿寒国立公園]}} 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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*<ref name="川湯エコ">川湯エコミュージアムセンター [http://www6.marimo.or.jp/k_emc/akaezo.html アカエゾマツの森] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20160629092912/http://www6.marimo.or.jp/k_emc/akaezo.html |date=2016年6月29日 }} 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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*<ref name="基地-アカエゾマツ">中川木材産業 木の情報発信基地 [http://www.wood.co.jp/wood/m721.htm アカエゾマツ] 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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*<ref name="林産試験場-アカエゾマツ">地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場 道産木材データベース [http://www.fpri.hro.or.jp/gijutsujoho/doumoku-db/doumoku/N4%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%82%BE%E3%83%9E%E3%83%84/akaezo.htm アカエゾマツ] 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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*<ref name="人工林">[[林野庁]] 北海道森林管理局 上川南部森林管理署,田島瑠美,「{{PDFlink|[https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/kikaku/pdf/19happyou_04.pdf アカエゾマツ人工林の間伐材利用実態と今後の課題]}}」 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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*<ref name="森林総合研究所-早池峰">国立研究開発法人 森林総合研究所 [https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/raretree/2_PGindex.html 早池峰のアカエゾマツ隔離小集団] 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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*<ref name="天然記念物">[[文化庁]] 文化遺産オンライン [https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/204663 早池峰山のアカエゾマツ自生南限地] 2016年8月13日閲覧。</ref> |
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===参考文献=== |
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*『知りたい北海道の木100』,佐藤孝夫/著,亜璃西社,2014,ISBN 9784906740109 |
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== 関連項目 == |
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== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
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* [https://db.kahaku.go.jp/webmuseum 標本・資料統合データベース > 植物研究部 > 維管束植物(標本)] [[国立科学博物館]]。押葉・押花標本等を公開。 |
* [https://db.kahaku.go.jp/webmuseum 標本・資料統合データベース > 植物研究部 > 維管束植物(標本)] [[国立科学博物館]]。押葉・押花標本等を公開。 |
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* [https://www.hro.or.jp/forest/research/fpri/koho/default/doumoku-index/akaezo.html ホーム > 広報 > 刊行物・データベース > 道産木材データベース > アカエゾマツ] 北海道立総合研究機構林産試験場。アカエゾマツの産地北海道の研究機関で形態・生態等の解説。ここの職員が出す論文は多い。 |
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* [https://www.forestry.jp 日本森林学会] 論文誌「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjfs/-char/ja 日本森林学会誌]」を発行しており、前身の「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjfs1953/-char/ja 日本林学会誌]」などと共に本項で多数参考にしている。他に一般向けの総説誌として「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjsk/-char/ja 森林科学]」、英文誌の「Journal of Forest Research」がある。和文誌は[[J-STAGE]]で無料公開されている([[オープンアクセス]])。 |
* [https://www.forestry.jp 日本森林学会] 論文誌「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjfs/-char/ja 日本森林学会誌]」を発行しており、前身の「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjfs1953/-char/ja 日本林学会誌]」などと共に本項で多数参考にしている。他に一般向けの総説誌として「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjsk/-char/ja 森林科学]」、英文誌の「Journal of Forest Research」がある。和文誌は[[J-STAGE]]で無料公開されている([[オープンアクセス]])。 |
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* [https://www.jwrs.org 日本木材学会] 論文誌「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwrs/-char/ja 木材学会誌]」を発行している。論文はJ-STAGEで無料公開されている。 |
* [https://www.jwrs.org 日本木材学会] 論文誌「[https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jwrs/-char/ja 木材学会誌]」を発行している。論文はJ-STAGEで無料公開されている。 |
2024年11月3日 (日) 15:08時点における版
アカエゾマツ | |||||||||||||||||||||
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アカエゾマツ(ロシア・サハリン)
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保全状況評価 | |||||||||||||||||||||
LOWER RISK - Least Concern (IUCN Red List Ver.2.3 (1994)) | |||||||||||||||||||||
分類(新エングラー体系) | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Picea glehnii (F.Schmidt) Mast. | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
アカエゾマツ(赤蝦夷松) | |||||||||||||||||||||
品種 | |||||||||||||||||||||
アカエゾマツ(赤蝦夷松、学名:Picea glehnii)は、マツ科トウヒ属の常緑針葉樹。
形態
最大樹高30m-40m、直径1.5m程度になるが、湿地のものなどは非常に小型である。樹形は環境にも左右されるが、樹冠部は通常整った円錐型になる。成木では梢端部と各枝先の付近を除き枝は垂れ下がるのはエゾマツと同じで、ドイツトウヒなどトウヒ属にはしばしばみられる特徴である。樹皮は鱗片状に薄く剥がれる。色は黒褐色だが、エゾマツに比べるとやや赤みを帯びる。
枝先の若い一年生枝に赤褐色の毛を密生させる。枝は長枝のみを持ち、葉は長枝に散生する。葉の付け根に葉枕がよく発達するのもトウヒ属の特徴である。葉の長さは5-12mmでエゾマツと比べるとやや短く、また枝にはより密につく。葉の先端は尖る。葉の断面の形状は菱形であるのに対し、エゾマツは扁平型。
雌雄同株で、帯紅色で1.5cmほどの雄花と、紫紅色で3cmほどの雌花が枝に直立して咲く。花は樹上の高い部分の枝先にしかできないので、地表から見ることは難しい。北海道では5月から6月が開花期である。
雌花は熟すると、球果となってぶら下がる。円柱形で長さ4.5-8.5cm程度、太さ2.5cm程度。北海道では9月から10月に暗紫色に熟する。
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樹形。梢端部を除き主枝と小枝と葉の何れも垂れ下がる
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葉。枝に密につく。
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参考:トドマツの樹形。小枝も含めて斜め上に出る。
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参考:エゾマツの葉。アカエゾマツより葉の間隔が疎
生態
北海道を代表する針葉樹であるトドマツやエゾマツに比べるとアカエゾマツはより劣悪な土壌に適応する。マグネシウム濃度が高い蛇紋岩地帯、乾燥しやすい岩石地や砂丘、逆に土石流跡地のような強度の攪乱と地下水位が高い場所、湿原周辺などの過湿な場所など、他の植物が嫌う劣悪な条件に適応し、そのような場所ではしばしば優勢になる。
蛇紋岩土壌におけるトドマツとの比較試験ではアカエゾマツの根も大きく影響を受けるが、地上部を伸長成長させる力を持っている。一説にはアカエゾマツの浅根性が高マグネシウムの悪影響を軽減しているのではないかという説が提唱されている[1]
北海道の天然林の観察ではアカエゾマツは稀に純林を作ることもあるが、トドマツやエゾマツを主体に少数の広葉樹が混じるような場所に少数が混生するような生え方が多いという。岩手県の分布地では下層には多数の倒木とヒバを伴うとされている[2]。1960年の発見当初、岩手県のアカエゾマツは96本で、しかも群落の辺縁部から枯損が進行し、消滅が危惧された。しかし1970年代には枯損がとまり、土石流跡地に新たなアカエゾマツが育っており、2000年代には総数[注 1]は143本にまで増え、太いものでは直径20cmを超えるものも60本以上確認されている。小木も含めた総個体数は3500本となって、短期的には消滅の危機は脱したと考えられている。本来、自然にコメツガやヒバなどに遷移するはずのものが、定期的に発生する土石流によってコメツガやヒバが倒されてアカエゾマツが生えることで群落が維持されてきたと推測されている。
分布
北海道を中心に樺太(サハリン)南部に分布する。また、本州では岩手県中東部の早池峰山北麓の蛇紋岩地帯の沢の中州に少数が隔離分布していることで知られる。
人間との関係
本種は日本産のトウヒ属樹木としては経済的に最も重要なものであり、トドマツ(モミ属)と共に北海道の針葉樹を代表する有用樹種である。アカエゾマツはエゾマツよりも病気に強いので珍重される。
木材
気乾比重は0.4程度と軽い木材で耐朽性は低く腐りやすい。辺材と心材の色の差が殆どなく、特に乾燥状態では両者を見分けることが困難である。このような材を無職心材、もしくは熟材と言いトウヒ属やモミ属ではよく見られる。
トウヒ類は楽器用材として評価が高く、本種もバイオリンやピアノなどの表面に用いられる。
スギやヒノキなどの温帯性針葉樹に富む日本では、トウヒ類は建材としてはあまり用いられてこなかったが、人工乾燥や防腐処理、集成材加工などを行うことで耐久性や強度面での弱点を改善した製材品が見直されつつある。この分野で先行しているのは北欧のドイツトウヒ(Picea abies)である。寒冷および氷河の浸食によって貧栄養で雑草が生えにくく平坦な地形という特徴があり、地拵えと植え付けから収穫まで非常に低コストで可能である。このために輸送と加工に手間をかけても、建材用のスギ・ヒノキの強力な競争相手となっているという[3]。日本でもトウヒ林業の先進地である北欧とは育種や施業方法の情報交換を行っている[4]。
建材より低級の土木用材、パルプ用材としても利用できる
精油
アカエゾマツの間伐材や下枝葉などを水蒸気蒸留することで得られる油分(精油)は森林の代表的な芳香成分の一つであるボルニルアセテートを多く含み、アロマ原料や香料として利用されている[5][6]。アカエゾマツの精油には多種多様な病原菌や真菌に対して強い抗菌性を有していることが証明され[7][8]、近年、これら特性を生かした製品化(皮膚病を予防する牛用クリームなど)や廃棄される枝葉の再利用、地方創生の取組みが推進されている[9]。
庭園樹・盆栽
近年は公園や街路樹、生け垣など緑化にも用いられるようになった。樹形が自然のままでも整っており、針葉樹としては成長が遅いので、特に庭木に適している。なかでも草花と組み合わせてイギリス風の洋風庭園を作るのに適し、門まわりや庭木として用いられている
湿原で小型化した個体は盆栽用に愛好されてきたが、盗掘によって稀少化している。盆栽では「エゾマツ」と称するものが実際にはアカエゾマツである例が多い。
著名な個体
アカエゾマツをシンボルとする地方自治体
名前
標準和名アカエゾマツはエゾマツに比べて赤いところから来ている。赤い部分は樹皮について言われることが多いが、本種は形態節の通り一年生枝に赤褐色の毛を密生させ、この点も無毛のことが多いエゾマツとの違いの一つである。エゾマツ自体は「蝦夷地に生える松(=針葉樹)」という意味であるが、アカマツ、クロマツなどのいわゆるマツ属とは属単位で異なり、ドイツトウヒなどに近い。同じような事例はカラマツ、グイマツ、トドマツなどでも知られておりこれらもマツ属ではない。
種小名glenhniiは極東地域を探検し植物を収集したバルト・ドイツ人植物学者 Пётр Петрович Глен(ローマ字転写 Peter von Glehn, 1835-1876)への献名である。
主たる分布地となる北海道への本格的な和人入植が明治時代以後と比較的新しく、入植者は各地から集まったこともあってか、方言名は殆ど知られていない[10][11]のが特徴で、僅かに「シンコマツ」(北海道根室地方)程度である[12]。聞き取り調査の結果、北海道では本種に限らず樹木の現存する方言名が極めて少ないことが指摘されている[13]。
本種についてアイヌは「チカブシユング」、樺太アイヌは「アラコイニ」と呼んでいた。エゾマツは「シユング」と呼ぶという[12]
脚注
注釈
出典
- ^ 山田健四, 大野泰之 (1999) 蛇紋岩土壌での天然更新(III) : 蛇紋岩土壌による実生の根系成長阻害(会員研究発表論文). 日本林学会北海道支部論文集 47, p.108-110. doi:10.24494/jfshb.47.0_108
- ^ 松田彊, 春木雅寛, 長谷川栄, 矢島崇, 関根誠, 真山良 (1978) アカエゾマツ天然林の研究 : (V)南限地早池峯山における生育と更新について. 日本生態学会誌 28(4), p.347-366. doi:10.18960/seitai.28.4_347
- ^ 遠藤日雄(2002)スギの行くべき道 林業改良普及双書 No.141. 全国林業改良普及協会, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000003682716
- ^ 田村明 (2013) フィンランドとの共同研究について. 森林遺伝育種 2(2), p.67-68. doi:10.32135/fgtb.2.2_67
- ^ 横田愽「樹木成分研究による森林資源の獣医学的活用」『産学官連携ジャーナル』、科学技術振興機構、2022年、10-12頁、doi:10.1241/sangakukanjournal.18.7_10、2023年4月17日閲覧。(要購読契約)
- ^ 土居拓務, 本田知之, 安井由美子, 前田尚之, 酒巻美子, 萩原寛暢, 横田博「木育活動およびアカエゾマツ精油芳香曝露による唾液中ストレスホルモン(コルチゾール)の低減」『AROMA RESEARCH』第21巻第4号、フレグランスジャーナル社、2020年、28-34頁、hdl:10659/00006896、ISSN 13454722、NAID 120007089701。
- ^ 山口昭弘, 趙希英, 佐藤彩音, 亀田くるみ, 前野奈緒子, 家子貴裕, 前田尚之, 横田博「アカエゾマツ精油のアクネ菌に対する抗菌性」『Aroma research= アロマリサーチ』第22巻第4号、フレグランスジャーナル社、2021年、361-367頁、hdl:10659/00007495、ISSN 13454722。
- ^ 醍醐由香里, 村田亮, 鈴木一由, 横田愽, 内田郁夫, 菊池直哉「乳房炎原因菌に対するアカエゾマツ(Picea glehnii)精油の抗菌活性」『北海道獣医師会雑誌』第62巻第5号、北海道獣医師会、2018年、135-139頁、hdl:10659/00006359、NAID 120006798183。
- ^ “一般社団法人Pine Grace”. アカエゾマツ、森林、獣医学 | PineGrace | 北海道. 一般社団法人Pine Grace. 2023年1月1日閲覧。
- ^ 農林省山林局 編 (1932) 樹種名方言集. 農林省山林局, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000000904043 (デジタルコレクション有)
- ^ 倉田悟 (1963) 日本主要樹木名方言集. 地球出版, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001050277 (デジタルコレクション有)
- ^ a b 農商務省山林局 編 (1916) 日本樹木名方言集. 大日本山林会, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000000904366 (デジタルコレクション有)
- ^ 内海泰弘, 古賀信也 (2024) 北海道足寄町における伝統的な樹木の名前と利用法およびその知識の消失. 九州大学農学部附属演習林報告 105, p.1-4. doi:10.15017/7172205
関連項目
外部リンク
- 標本・資料統合データベース > 植物研究部 > 維管束植物(標本) 国立科学博物館。押葉・押花標本等を公開。
- ホーム > 広報 > 刊行物・データベース > 道産木材データベース > アカエゾマツ 北海道立総合研究機構林産試験場。アカエゾマツの産地北海道の研究機関で形態・生態等の解説。ここの職員が出す論文は多い。
- 日本森林学会 論文誌「日本森林学会誌」を発行しており、前身の「日本林学会誌」などと共に本項で多数参考にしている。他に一般向けの総説誌として「森林科学」、英文誌の「Journal of Forest Research」がある。和文誌はJ-STAGEで無料公開されている(オープンアクセス)。
- 日本木材学会 論文誌「木材学会誌」を発行している。論文はJ-STAGEで無料公開されている。