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'''トライボロジー'''(摩擦学、{{lang-en-short|tribology}})とは、2つの物体が互いに滑り合うような相対運動を行った場合の相互作用を及ぼしあう接触面、およびそれに関連する実用性能を議論する科学技術の一分野である<ref name = "トライボロジー_2"/>。[[ギリシア語]]で「[[摩擦]]する」を意味する{{lang|el|τριβω}}を語源とし<ref name = "トライボロジー_2"/>、初期において重要な研究を提示したのが、流体[[潤滑]]理論の生みの親、[[ゾンマーフェルト]](ドイツの物理学者)であるが、後に[[1966年]]に[[イギリス]]でまとめられた、摩擦や[[摩耗]]による損害を推定した報告書(ジョスト報告)でこの用語が提唱されたことが契機となり、発展を促した<ref name = "機械工学辞典_942-943"/>。トライボロジーに関わる人物を'''トライボロジスト'''(tribologist)と呼ぶ。
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'''トライボロジー'''(摩擦学、{{lang-en-short|tribology}})とは、2つの物体が互いに滑り合うような相対運動を行った場合の相互作用を及ぼしあう接触面、およびそれに関連する実際問題についての科学技術の一分野である<ref name = "トライボロジー_2"/>。[[ギリシア語]]で「[[摩擦]]する」を意味する{{lang|el|τριβω}}を語源とし<ref name = "トライボロジー_2"/>、初期において重要な研究を提示したのが、流体[[潤滑]]理論の生みの親、[[ゾンマーフェルト]](ドイツの物理学者)であるが、後に[[1966年]]に[[イギリス]]でまとめられた、摩擦や[[摩耗]]による損害を推定した報告書(ジョスト報告)でこの用語が提唱されたことが契機となり、発展を促した<ref name = "機械工学辞典_942-943"/>。トライボロジーに関わる人物を'''トライボロジスト'''(tribologist)と呼ぶ。


== 概要 ==
== 概要 ==
技術としてのトライボロジーの基本的な[[無次元量|無次元パメータ]]は、[[ゾンマーフェルト数]]''S'' (=粘度×回転速度/圧力)とPV値(=圧力×速度)であり、速度以外のパラメータが決定されているとき、前者が流体潤滑が維持できる速度の下限を与え、後者が速度を上げていったときに材料が損傷し始める速度の上限を与える。これらのパラメータで与えられた材料で最適な設計を行う立場と、高Sあるいは高PV値材料開発を目的とする立場の協奏設計関係にあり、主に以下の3つの展開が挙げられる<ref name = "機械工学辞典_942-943"/>。
技術としてのトライボロジーの基本的なダイヤグは、[[ゾンマーフェルト数]]''S'' (=粘度×回転速度/圧力)によるストライベック曲線、とPV値(=圧力×速度)で整理されるPV線図であり、速度以外のパラメータが決定されているとき、前者が流体潤滑が維持できる速度の下限を与えそれ以下となると固体接触が起こる境界潤滑状態になり、後者が速度を上げていったときに材料が主に熱的な損傷し始める速度の上限を与える。これらのパラメータで与えられた材料で最適な設計を行う立場と、高Sあるいは高PV値材料開発を目的とする立場の協奏設計関係にあり、主に以下の3つの展開が挙げられる<ref name = "機械工学辞典_942-943"/>。
# 摩擦([[摩擦係数]])の制御
# 摩擦([[摩擦係数]])の制御
# 摩擦面における摩耗や表面損傷の防止
# 摩擦面における摩耗や表面損傷の防止
# 摩擦面に起因する[[騒音]]や[[振動]]などの環境への影響低減
# 摩擦面に起因する[[騒音]]や[[振動]]などの環境への影響低減
 その他様々な問題も扱われ関連する事柄は非常に多く、材料特性、運動状態、接触状態、雰囲気、潤滑状態などを考慮する必要がある<ref name="トライボロジー_7" />。対象材料も流体潤滑における、気体、水溶性液体、[[有機分子]]や[[ガラス]]材料、固体接触における[[グラファイト]]などの自己潤滑材料や金属(その多くは[[鉄鋼]]材料)、[[セラミックス]]、[[樹脂]]材料などが領域となる。特に過酷な条件下にさらされるものに、[[金型]]加工や[[切削加工]]で、主に鉄鋼材料の一種である[[工具鋼]]を加加工材質として、鉄鋼・[[非鉄金属]]などの被加工材を造形する[[塑性加工]]下のトライボロジーが上げられる。[[日本刀]]や[[刃物]]、[[ナイフ]]などの切れ味も左右する学問として脚光を浴びつつある。
 その他様々な問題も扱われ関連する事柄は非常に多く、材料特性、運動状態、接触状態、雰囲気、潤滑状態などを考慮する必要がある<ref name="トライボロジー_7" />。ただし近年では、産業上(ものづくり)のボリュームゾーンとなるマルテンサイトにおいて、マテリアルズ・インフォマティクスにより開発された新合金の油中接触界面に対する摩擦則としてCCSCモデル(炭素結晶の競合モデル)というものも提案されており、極圧性能(主に極圧添加剤が示す潤滑性能)の源泉はグラファイト層間化合物だとしてマルチマテリアル等の応用展開がなされている。対象材料も流体潤滑における、気体、水溶性液体、[[有機分子]]や[[ガラス]]材料、固体接触における[[グラファイト]]などの自己潤滑材料や金属(その多くは[[鉄鋼]]材料)、[[セラミックス]]、[[樹脂]]材料などが領域となる。特に過酷な条件下にさらされるものに、[[金型]]加工や[[切削加工]]で、主に鉄鋼材料の一種である[[工具鋼]]を加加工材質として、鉄鋼・[[非鉄金属]]などの被加工材を造形する鍛造、圧延、プレス技術等の[[塑性加工]]下のトライボロジーが上げられる。工業全般においては、自動車、鉄道、航空機、建設、船舶などのエンジン、ギア、バルブ、ベアリングその他、プラント内の製造装置類に広がっている。[[日本刀]]や[[刃物]]、[[ナイフ]]などの切れ味も左右する学問として脚光を浴びつつある。

近年では微細孔などを配列させることで潤滑性能を向上させるいわゆるテクスチャー(テクスチャリング)技術なども発達してきている。その魁ともいえるマルテンサイトのマトリックスに微細黒鉛を析出させた高硬度黒鉛鋼の報告などもある。


さらに細かく、トライボロジーが扱う対象によって以下のような分類もされる。
さらに細かく、トライボロジーが扱う対象によって以下のような分類もされる。
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== 参考図書 ==
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* 久保田邦親,藤田悦夫:高硬度黒鉛鋼の組織に及ぼすAl, Cuの影響 : 摩擦特性に及ぼす黒鉛分布の影響材料とプロセス : 日本鉄鋼協会講演論文集 = Current advances in materials and processes : report of the ISIJ meeting 16 (6), 1525-, 2003-09-01(テクスチャ応用)
* 久保田邦親、小松原周吾、扇原孝志、鳴海雅稔、山岡美樹「新冷間ダイス鋼SLD-MAGICの開発」:日立金属技報 = Hitachi metals technical review / 日立金属株式会社(現プロテリアル)技術開発本部グローバル技術革新センターGRIT 編 vol.21(2005)p45
* 久保田邦親、中津英司、小松原周吾:特許第4258772号 2010年度中国地方発明協会発明表彰文部科学大臣奨励賞 高性能新冷間ダイス鋼
* 久保田邦親:-工具鋼開発の最前線-金型用先端材料のマルチスケール合金設計、塑性と加工 第53巻 第623号 2012年12月
* 久保田邦親,上田精心,大石勝彦,田村庸:日本金属学会 秋季講演大会概要集(2013)p.703
* 久保田邦親「新型工具鋼のグラファイト層間化合物による自己潤滑性能」日本鉄鋼協会 創形創質工学部会 第40回トライボロジーフォーラム研究会 「塑性加工用工具材料と表面改質の最近の動向」講演資料 2014 機械振興会館(東京)
* 久保田邦親、上田精心、庄司辰也:CCSCモデルを念頭にした工具鋼の自己潤滑現象の素過程の解析、日本トライボロジー学会トライボロジー会議(姫路)予稿集 春 C21(2015)
* 久保田邦親:境界潤滑現象の本性について(CCSCモデル)内燃機関シンポジウム講演論文集(2018)29th No.84 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター (jst.go.jp)
* Kunichika Kubota:「 Low friction loss can be realized by high strength self-lubricating alloy without coating for sliding parts」Sokeizai vol.57 (2016)No.1
* 久保田邦親 上田精心 庄司辰也「低フリクションを実現する自己潤滑性特殊鋼の境界潤滑機構」日立金属技報(現プロテリアル技報) = Hitachi metals technical review / 日立金属株式会社技術開発本部グローバル技術革新センターGRIT 編 33 20-27, 2017


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[摩耗]]
* [[摩耗]]
* [[潤滑]]
* [[潤滑]]
**[[工具鋼]]
**[[マルテンサイト]]
** [[潤滑剤]]
** [[潤滑剤]]
** [[潤滑油]]
** [[潤滑油]]
* [[マテリアルズ・インフォマティクス]]
* [[トライボフィルム]] - 二つの物質摩擦面の潤滑油添加剤によって形成される保護
* [[ニューラルネットワーク]]
* [[ラマン分光法]]
* [[トライボフィルム]] - 二つの物質摩擦面の潤滑油添加剤によって形成される保護


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2023年7月22日 (土) 23:14時点における版

トライボロジー(摩擦学、: tribology)とは、2つの物体が互いに滑り合うような相対運動を行った場合の相互作用を及ぼしあう接触面、およびそれに関連する実用性能を議論する科学技術の一分野である[1]ギリシア語で「摩擦する」を意味するτριβωを語源とし[1]、初期において重要な研究を提示したのが、流体潤滑理論の生みの親、ゾンマーフェルト(ドイツの物理学者)であるが、後に1966年イギリスでまとめられた、摩擦や摩耗による損害を推定した報告書(ジョスト報告)でこの用語が提唱されたことが契機となり、発展を促した[2]。トライボロジーに関わる人物をトライボロジスト(tribologist)と呼ぶ。

概要

技術としてのトライボロジーの基本的なダイヤグラムは、ゾンマーフェルト数S (=粘度×回転速度/圧力)によるストライベック曲線、とPV値(=圧力×速度)で整理されるPV線図であり、速度以外のパラメータが決定されているとき、前者が流体潤滑が維持できる速度の下限を与えそれ以下となると固体接触が起こる境界潤滑状態になり、後者が速度を上げていったときに材料が主に熱的な損傷し始める速度の上限を与える。これらのパラメータで与えられた材料で最適な設計を行う立場と、高Sあるいは高PV値材料開発を目的とする立場の協奏設計関係にあり、主に以下の3つの展開が挙げられる[2]

  1. 摩擦(摩擦係数)の制御
  2. 摩擦面における摩耗や表面損傷の防止
  3. 摩擦面に起因する騒音振動などの環境への影響低減

 その他様々な問題も扱われ関連する事柄は非常に多く、材料特性、運動状態、接触状態、雰囲気、潤滑状態などを考慮する必要がある[3]。ただし近年では、産業上(ものづくり)のボリュームゾーンとなるマルテンサイトにおいて、マテリアルズ・インフォマティクスにより開発された新合金の油中接触界面に対する摩擦則としてCCSCモデル(炭素結晶の競合モデル)というものも提案されており、極圧性能(主に極圧添加剤が示す潤滑性能)の源泉はグラファイト層間化合物だとしてマルチマテリアル等の応用展開がなされている。対象材料も流体潤滑における、気体、水溶性液体、有機分子ガラス材料、固体接触におけるグラファイトなどの自己潤滑材料や金属(その多くは鉄鋼材料)、セラミックス樹脂材料などが領域となる。特に過酷な条件下にさらされるものに、金型加工や切削加工で、主に鉄鋼材料の一種である工具鋼を加加工材質として、鉄鋼・非鉄金属などの被加工材を造形する鍛造、圧延、プレス技術等の塑性加工下のトライボロジーが上げられる。工業全般においては、自動車、鉄道、航空機、建設、船舶などのエンジン、ギア、バルブ、ベアリングその他、プラント内の製造装置類に広がっている。日本刀刃物ナイフなどの切れ味も左右する学問として脚光を浴びつつある。

近年では微細孔などを配列させることで潤滑性能を向上させるいわゆるテクスチャー(テクスチャリング)技術なども発達してきている。その魁ともいえるマルテンサイトのマトリックスに微細黒鉛を析出させた高硬度黒鉛鋼の報告などもある。

さらに細かく、トライボロジーが扱う対象によって以下のような分類もされる。

ナノトライボロジー(nano-tribology)
原子分子結晶レベルでの相互作用から摩擦を研究する分野。
スペーストライボロジー(space-tribology)
宇宙空間での摩擦摩耗現象や、ロケット人工衛星宇宙ステーションなどの潤滑技術を研究する分野。無重力真空の条件を考慮する必要がある。
バイオトライボロジー(bio-tribology)
生体における摩擦・摩耗・潤滑を対象とする分野。人工関節などの開発に必要とされる。
ジオトライボロジー(geo-tribology)
地球物理学土質力学に関連して、地震におけるプレートの滑りや豪雨時の土砂滑りなどを対象とする分野

脚注

参考図書

  • ジェイテクト編集委員会 編『ベアリングの基本と仕組み』(初版)秀和システム、2011年3月1日。ISBN 9784798028897 
  • 日本機械学会 編『機械工学辞典』(2版)丸善、2007年1月20日。ISBN 978-4-88898-083-8 
  • 竹内榮一 編『機械技術者のためのトライボロジー』(初版)大河出版、2008年10月1日。ISBN 978-4-88661-815-3 
  • 山本雄二、兼田楨宏 編『トライボロジー』(初版)理工学社、2004年10月25日。ISBN 4-8445-2146-2 
  • 久保田邦親,藤田悦夫:高硬度黒鉛鋼の組織に及ぼすAl, Cuの影響 : 摩擦特性に及ぼす黒鉛分布の影響材料とプロセス : 日本鉄鋼協会講演論文集 = Current advances in materials and processes : report of the ISIJ meeting 16 (6), 1525-, 2003-09-01(テクスチャ応用)
  • 久保田邦親、小松原周吾、扇原孝志、鳴海雅稔、山岡美樹「新冷間ダイス鋼SLD-MAGICの開発」:日立金属技報 = Hitachi metals technical review / 日立金属株式会社(現プロテリアル)技術開発本部グローバル技術革新センターGRIT 編 vol.21(2005)p45
  • 久保田邦親、中津英司、小松原周吾:特許第4258772号 2010年度中国地方発明協会発明表彰文部科学大臣奨励賞 高性能新冷間ダイス鋼
  • 久保田邦親:-工具鋼開発の最前線-金型用先端材料のマルチスケール合金設計、塑性と加工 第53巻 第623号 2012年12月
  • 久保田邦親,上田精心,大石勝彦,田村庸:日本金属学会 秋季講演大会概要集(2013)p.703
  • 久保田邦親「新型工具鋼のグラファイト層間化合物による自己潤滑性能」日本鉄鋼協会 創形創質工学部会 第40回トライボロジーフォーラム研究会 「塑性加工用工具材料と表面改質の最近の動向」講演資料 2014 機械振興会館(東京)
  • 久保田邦親、上田精心、庄司辰也:CCSCモデルを念頭にした工具鋼の自己潤滑現象の素過程の解析、日本トライボロジー学会トライボロジー会議(姫路)予稿集 春 C21(2015)
  • 久保田邦親:境界潤滑現象の本性について(CCSCモデル)内燃機関シンポジウム講演論文集(2018)29th No.84 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター (jst.go.jp)
  • Kunichika Kubota:「 Low friction loss can be realized by high strength self-lubricating alloy without coating for sliding parts」Sokeizai vol.57 (2016)No.1
  • 久保田邦親 上田精心 庄司辰也「低フリクションを実現する自己潤滑性特殊鋼の境界潤滑機構」日立金属技報(現プロテリアル技報) = Hitachi metals technical review / 日立金属株式会社技術開発本部グローバル技術革新センターGRIT 編 33 20-27, 2017

関連項目

外部リンク