「黄土」の版間の差分
黄土人形について加筆 |
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[[File:Furth bei Göttweig - ND Hohlweg Zellergraben - 4.jpg|thumb|220px|レスの露頭表面(オーストリア)]] |
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[[Image:2006 Dirmstein-Loesswand3.jpg|thumb|ドイツで見られる黄土の層]] |
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[[File:LoessVicksburg.jpg|thumb|220px|垂直な崖をつくるレスの露頭(アメリカ南部)]] |
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[[堆積学]]における'''黄土'''(おうど{{Sfn|長島|2024}}、こうど{{Sfn|長島|2024}})はレスの別名{{Sfn|土の百科事典|2014|p=304|ps=「黄土」(著者:康峪梅)}}。'''レス'''({{lang-de|Löss}} {{audio|De-Löss.ogg|音声|help=no}}{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}、{{lang-en|loess}})は、粒子が主に[[シルト]]径で{{Sfn|土の百科事典|2014|p=304|ps=「黄土」(著者:康峪梅)}}{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}、色味は淡黄色または灰黄色を呈し{{Sfn|土の百科事典|2014|p=304|ps=「黄土」(著者:康峪梅)}}{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}、均質で未固結の風成堆積物{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}のこと。組成は場所により差異があるが[[炭酸カルシウム]]を含むものが多いのも特徴{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}。[[中華人民共和国|中国]]に分布するレスは古くから黄土と呼ばれており、日本語でもレスの別名となっている<ref name="永塚">{{Cite kotobank|word=レス |author=永塚鎮男 |encyclopedia=平凡社『改訂新版[[世界大百科事典]]』 |hash=-412580#w-1217045 |access-date=2024-07-10}}</ref>。 |
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'''黄土'''とは、[[黄色]]みの強い[[土]]のことである。[[専門用語]]としては2つの用法がある。 |
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# 「'''きづち'''」「'''きつち'''」と読んで、和建築、左官、日本美術などで用いる、黄味を帯びた土の一種。 |
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# {{lang-de|Löss}}、{{lang-en|loess}} の訳語。「'''おうど'''」または「'''こうど'''」と読む。 |
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== 研究史 == |
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{{lang|de|Löss}}は「緩んだ」などの意味があり<ref name="岩石学1">{{Cite kotobank|word=黄土 |encyclopedia=朝倉書店『岩石学辞典』 |hash=-38804#w-780076 |access-date=2024-07-10}}</ref>、英語ではlooseに相当するが{{R|brit1}}、もともとドイツ南部の[[ライン地溝帯]]に特徴的に分布するシルト質の細粒土に付けられた名前だった{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}{{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}。カール・シーザー・フォン・レオンハルト([[:de:Karl Cäsar von Leonhard|Karl Cäsar von Leonhard]])が1824年にはじめて学術用語として使用{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}、[[チャールズ・ライエル]]が1834年に英語に移入した{{R|永塚}}。 |
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{{節スタブ}} |
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京都[[伏見]]に産する'''稲荷山黄土'''(いなりやまきづち)がとくに有名である。かがやくような色味が特徴。[[大津壁]]や各種壁の仕上げなどに用いる。 |
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19世紀半ばには、ヨーロッパのほかの地域や北アメリカ、中国にもレスが分布することが報告されるようになった{{Sfn|菅野|1989b}}。しかし、この頃はまだレスは水成、つまり水の作用で形成されたと考えられていた{{Sfn|菅野|1989b}}。氷河の作用はこの頃既に挙がっていたが、まだ水が運搬するものと考えられていた{{Sfn|菅野|1989b}}。またBraunは1847年、ライン川や[[ドナウ川]]のレスから産出する軟体動物の化石に水棲の種がほとんどないことや、採集した多くの種が現世気候では冷涼なアルプスの高山帯などに生息する種であり、寒冷な気候の時代に生息していた可能性を報告している{{Sfn|菅野|1989b}}<!--bでは1874年記載だが、cの参考文献欄では1847年-->{{Sfn|菅野|1989c}}{{Efn|原著は<ref>{{Cite journal|author=Al. Braun |title=Löss bei Kraliau und an Aer Donau: Binnen-Konchy- lien darin |journal=Neues Jahrbuch für Mineralogie, Geognosie, Geologie und Petrefaktenkunde |year=1847 |pages=49-53 }} [[:File:Neues Jahrbuch für Mineralogie, Geognosie, Geologie und Petrefakten-Kunde. Jg. 1847 (IA neuesjahrbuchfrm1847leon).pdf|commons]](当該論文目次(タイトル)p9、本文p73)</ref>}}。 |
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また陶材にもなる。日本画などで顔料として用いることもある。 |
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[[フェルディナント・フォン・リヒトホーフェン]]は中国での調査から、レスが風と水の作用で運ばれて堆積したとの説を1877年に発表する{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}{{Sfn|菅野|1989b}}。風成説を初めて唱えたのはVirlet D'Aoustで1857年のことだったが、リヒトホーフェンの提唱以降本格的に採り上げられる{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}。その後オブルチョフは、中央アジアのレス分布地は層厚が薄く、レスが堆積していく地域ではなくレスが風に吹き上げられる産出地であるとし、砂漠とレス地帯が帯状に分布することを指摘している{{Sfn|菅野|1989b}}。 |
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== おうど、こうど == |
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'''黄土'''(おうど、こうど)は'''レス'''({{lang-de|Löss}} {{audio|De-Löss.ogg|音声|help=no}}、{{lang-en|loess}})とも称され、[[砂漠]]や[[氷河]]に[[堆積]]した岩粉が[[風]]に運ばれ[[堆積]]したものである。淡黄色、灰黄色、または茶褐色で、[[成分]]の組成により色合いが異なる。主成分は水和酸化鉄である<ref name="Pigment Database Yellow">[http://www.artiscreation.com/yellow.html The Color of Art Pigment Database : Pigment Yellow, PY]</ref>。 |
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風成説が定着して以降、層理のない原生的なレスと再堆積したレスを区分する説も提唱されてきた。[[レフ・セミョーノヴィチ・ベルグ]]は1932年、レスに含まれる炭酸カルシウムの生成や多孔質などの土質は風化により生じるとする「黄土化」の作用を提唱した。ベルグは風成ではなく、現地で岩石や堆積物が変質してレスとなると考えたものの、風化は表層数メートルにしか及ばないため厚さ100メートルを超えるレスの生成を説明できず、これは後に否定されている{{Sfn|菅野|1989b}}。ただし、黄土化の考え方自体は、レスの変質による土壌化の研究において肯定されている{{Sfn|菅野|1989b}}。 |
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黄土は、0.004~0.06ミリメートルの土の粒子([[シルト]])からなる。黄土と同様の性質だが黄土より[[粒径]]が大きな土壌を[[黄砂]]ということもある。 |
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他方、20世紀に入るとレスを用いた[[編年]]の研究が始まる。編年分野では、1970年代頃に{{仮リンク|考古磁気年代測定|en|Archaeomagnetic dating}}が導入、その後も[[熱ルミネッセンス線量計|熱ルミネッセンス]]などが加わって測定方法が豊富になり、[[海洋酸素同位体ステージ]]によるレスや古土壌の[[層序学|層序]]の対比が確立されたことで、各地でこれを利用した研究が進展した{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}{{R|永塚}}{{Sfn|成瀬|2014|p=77}}。 |
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[[中華人民共和国|中国]]の[[華北]]地方([[黄土高原]])や[[ヨーロッパ]]中部~東部、[[北米]]中央部などに分布する。 |
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日本では、古砂丘中などにシルト質の古土壌層が含まれることが知られ、火山灰の風化や亜熱帯気候下での風化とする説もあったが、同位体比などからアジア大陸方面由来のレス(風成塵)が母材となっていることが解明されている{{Sfn|成瀬|2014|pp=75,78-79,81-82}}。 |
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=== 黄砂の源 === |
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[[Image:Loess landscape china.jpg|thumb|[[黄土高原]]([[中華人民共和国]][[山西省]][[渾源県]]付近)|250x250ピクセル]] |
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中国北西部や[[モンゴル国|モンゴル]]南部における砂漠地方で、風に巻き上げられて南東方向に[[風塵]]として運搬されて堆積したものを黄土と呼ぶ。黄土は[[シルト]]を主とした細粒性の[[堆積物]]であり、その[[鉱物]]成分は、[[石英]]が多く、[[雲母]]や[[長石]]からなり、細かくは数十種類に分類されるため、多様な母岩から構成されていることが判明している。それらは発生源に近づくほど粒径は粗粒となり、地域毎に成分の差異が認められている。[[黄砂]]は、この[[砕屑物]]の粒子径が小さくなり、風に巻き上げられて自由大気に達し遠くまで運搬されて降下するものである。[[黄河]]流域の黄土の堆積する地域を[[黄土高原]]と呼んでいる。 |
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== 性質 == |
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[[フェルディナント・フォン・リヒトホーフェン]]は、高度に多孔質な黄土には農作物の成長に不可欠な鉱物質諸成分を土壌の毛細管構造によって不断に供給する「自己施肥能力」があるとする説を唱え、黄河文明は肥沃な黄土の上に発達した文明であるとする説が通説となっていた。これに対して近年、粒子が細かく粘り気の無い土壌は植物の成長に必要な栄養分をイオンの形で根から供給しうる程度が低く、かつ水土流出を引き起こしやすい痩せた土地で黄土もまた例外ではなく、黄河文明の中心になったごく一部の地域だけは長年にわたる耕作と湖沼堆積物や水草などを投与した施肥作業の結果によって土壌の性質が変化して肥沃になったとする反論<ref>原宗子『「農本」主義と「黄土」の発生―古代中国の開発と環境 2 (古代中国の開発と環境 (2)) 』研文出版、2005年:第一章「中国土壌研究の世界経済史的意義」</ref>が出されている<ref>古賀登『両税法成立史の研究』雄山閣、2012年、P235</ref>。 |
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[[File:Löss 2.jpg|thumb|220px|レス(黄土)の土塊とその粒子。シルト粒度の細粒分が目立ち、土塊には凝集した石灰分も見える。(ドイツ南西部)]] |
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[[File:Lösskindln sl1.jpg|thumb|220px|レス中に産出する石灰分生成物「黄土人形」(オーストリア)]] |
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[[File:Furth bei Göttweig - ND Hohlweg Zellergraben - 1.jpg|thumb|220px|レス-古土壌層序、オーストリアにて。<small>一番下に約45万年前のドナウ川流域の砂利層(灰褐色)。その上に{{仮リンク|ミンデル氷期|en|Mindel glaciation}}中の相対的温暖期と寒冷期に対応する風化レス層(赤褐色)とレス層(黄褐色)。その上は堆積が中断したことを示す濃色の層で、最上部は現在までの[[後氷期]]の層。</small>]] |
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レスの粒径は、[[淘汰]]がよく揃っていて{{R|永塚}}、典型的には0.02 - 0.05ミリメートル(20 - 50マイクロメートル)の細砂でこのサイズが重量比で約50%を占める<ref name="brit1">[[#brit|"loess", ブリタニカ百科事典]]</ref>{{Efn|0.005 - 0.05ミリメートルの粒子が50%以上とする資料もある<ref>{{Cite kotobank|word=黄土 |encyclopedia=森北出版『化学辞典(第2版)』 |hash=-38804#w-2203201 |access-date=2024-07-10}}</ref>。}}。0.005ミリメートル未満の[[粘土]]粒子は5 - 10%程度とされる{{R|brit1}}。地域別にみると、供給源から離れるに従って粒径は小さくなる分布をとる{{R|brit1|永塚}}。 |
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典型的なレスは、無[[層理]](均質){{Sfn|土壌の事典|1993|p=526 |ps=「レス」}}、多孔質{{R|brit1}}{{Sfn|土壌の事典|1993|p=526 |ps=「レス」}}。淡黄色または灰黄色の色味は、[[炭酸塩]]とともに粒子の表面を覆う[[鉄]]と[[マンガン]]酸化物によるもの{{Sfn|土の百科事典|2014|p=304|ps=「黄土」(著者:康峪梅)}}{{Sfn|菅野|1989b}}。 |
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=== 利用法 === |
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岩石が[[風化]]されてできた[[シルト]]であり各種の[[ミネラル]]に富むことや、また保水特性に優れるため、[[モロコシ|コウリャン]]などの栽培に適している。 |
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粒子を構成する鉱物は主に[[石英]]{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}、[[長石]]{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}、[[雲母]]{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}、[[方解石]]{{R|永塚}}など。石英の比率はふつう60 - 70%、低い場合は40%程度、高い場合は80%程度{{R|brit1}}{{Sfn|土壌の事典|1993|p=526 |ps=「レス」}}。長石や雲母が10 - 20%程度{{R|brit1}}{{Sfn|土壌の事典|1993|p=526 |ps=「レス」}}。方解石を含む炭酸塩鉱物は5 - 35%程度{{R|brit1}}で、[[石灰岩]]地帯が供給源であれば高くなる{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}。また[[角閃石]]、[[燐灰石]]、[[黒雲母]]、[[緑泥石]]などのシルト粒度の重鉱物が2 - 5%含まれるほか{{R|brit1}}、[[モンモリロナイト]]、[[イライト]]、[[カオリナイト]]などの粘土鉱物も含まれる{{R|brit1}}{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}。重鉱物の組成には地域差があり、その比較は供給源の推定法のひとつとなっている{{R|brit1}}。 |
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古代より[[黄色]]の[[顔料]]として用いられ、顔料として使用される黄土は'''イエロー・オーカー''' ({{en|yellow ochre}}) あるいは単に'''オーカー''' ({{en|ochre}}) と呼ばれる。顔料として使用される黄土には天然に産出される黄土のほかに化学的に合成された水和酸化鉄もあり<ref name="Pigment Database Yellow"/>、Colour Index Generic Nameは天然黄土がPigment Yellow 43で<ref name="Pigment Database Yellow"/>、合成黄土がPigment Yellow 42である<ref name="Pigment Database Yellow"/>。この顔料の色が[[黄土色]]である。 |
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化学組成でみると、炭酸カルシウム({{chem|CaCO|3}})は30%を超えることもあるが、含まれない場合もあって幅がある{{R|永塚}}。<u>炭酸カルシウムを除いた</u>残りの成分は、典型的なもので[[二酸化ケイ素]]({{chem|SiO|2}})が80%前後、[[酸化アルミニウム]]({{chem|Al|2|O|3}})6 - 10%、[[酸化鉄(III)|酸化第二鉄]]({{chem|Fe|2|O|3}})1 - 6%など{{R|永塚}}。 |
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日本の風土に合うことから、家屋の壁に[[しっくい]]と同様に黄土を使用した[[土壁]]が伝統工法として用いられる。 |
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レスの[[ポロシティ#土壌の空隙率|空隙率]]はふつう50 - 55%だが、粒度が小さいほど空隙率が小さくなる傾向にあり、粘土が多い場合には40%前後となることがある{{R|brit1}}。また、地表から深さ10メートルまでの表層では深くなるに従い緩やかに空隙率が低下する{{R|brit1}}。含水率はふつう10 - 15%だが、空隙率が小さいものではこれより高くなる{{R|brit1}}。また多孔質のため透水性が高い{{Sfn|松倉|2021|pp=246-248}}{{Sfn|土壌の事典|1993|p=526 |ps=「レス」}}。 |
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レスは縦に割れやすく、侵食などで崩れていくとき断面は垂直となる{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}{{R|brit1}}。これは、根に沿って毛細管様に集積する石灰分が土塊を支持しているため{{R|brit1}}。この性質がよく現れる黄土高原では、川に面した河谷に垂直の崖がみられる{{R|永塚}}。 |
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乾燥下では、微細粒子からなり凝集力が大きいことなどからレスは安定している。一方、水に濡れると崩壊や沈下が起きやすい{{R|brit1}}。流水の侵食には弱く、降雨による表土の[[土壌流出|流亡]]や[[ガリ (地形)|ガリ侵食]]は激しい{{Sfn|松倉|2021|pp=246-248}}。地下水流による[[シンクホール|陥没]]が起こることもある{{R|brit1}}。 |
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=== 続成 === |
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堆積したシルト質の風成塵は、[[続成作用]]によりレスに変化するものと考えられている{{R|brit1}}。シルトの表層では、炭酸カルシウムや酸化鉄などが含まれる場合、粘土サイズの粒子を凝集したり、石英粒子の表面をコーティングし粒子同士を接合したりして、0.02 - 0.05ミリメートルの典型的サイズのレス粒子を形成する{{R|brit1}}。これは、乾燥気候下でよく進む微粒子の水和セメント化であり、やがては固結の緩い[[シルト岩]]を造る作用である{{R|brit1}}。凝集により粒状、斑状の団粒構造を生じ、比較的大きな孔隙のある多孔質の土層となる{{Sfn|菅野|1989b|p=60}}。 |
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レスに含まれる炭酸塩はもともと、石英粒子や凝集した粘土粒子の表面に付着したり、顆粒状粒子や貝殻の破片などの形で存在する{{R|brit1}}。これらが土中の間隙に溶解、再沈殿し[[コンクリーション|凝集]]、[[酸化カルシウム|石灰分]]が集積して二次的な炭酸塩を生成する{{R|brit1|永塚}}。{{仮リンク|カリシェ|en|Caliche (mineral)}}と呼ばれる堆積層を造ることもある{{R|brit1}}。またしばしば、植物の根を取り巻くように管状に、あるいは亀裂の表面に集積する{{R|brit1|岩石学1}}。ときに特徴的な結節のような形の塊を造ることがあり{{R|brit1|永塚}}、「黄土人形」{{R|brit1|永塚}}<ref name="地96団塊">{{Harvnb|新版地学事典|1996|p=339|ps=「団塊 concretion,nodule」}}</ref>、「黄土小僧」{{R|永塚|地96団塊}}、「生姜石」<ref>{{Cite kotobank|word=黄土 |encyclopedia=『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 |hash=-38804#w-38804 |access-date=2024-07-20}}</ref>の別名がある。黄土人形 (loess doll)は[[団塊|ノジュール]]または[[コンクリーション]]の一種{{Sfn|Glossary of Geology (5th ed.)|2005|p=379|ps="''loess doll''"}}。 |
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=== レス-古土壌層序 === |
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レスの地層は、全体としてレス-古土壌層序{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}(黄土-古土壌層序{{Sfn|長島|2024}})と呼ばれる複合的な層を造り{{Sfn|長島|2024}}{{R|brit1}}、その中にレス、レス質堆積物、古土壌、砂などがそれぞれ厚さ1 - 5メートル程度の層をなし重なっている{{R|brit1}}。レス-古土壌層序における古土壌は、温暖な間氷期にレスが[[風化]]したものである{{Sfn|長島|2024}}{{Sfn|成瀬|2014|p=76-77}}。古土壌の色味はレスに近い褐色・茶褐色もあるが、赤み・黒みを帯びたものがみられる{{Sfn|成瀬|2014|p=78-79}}。 |
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典型的な均質のレスに対して、混合・変質したレス質の堆積物はloess series(レス系列<small>(仮訳)</small>)とも呼ばれ、レス質[[砂]]、砂質レス、レス質[[ローム (土壌)|ローム]]、粘土質レスなどいくつかのタイプがある。この分類は地域により異なっている{{R|brit1}}。 |
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== 分布地と起源 == |
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[[File:Europa vegan3.png|thumb|220px|ヨーロッパにおけるレスの分布(黄色斜線塗りつぶし)および最終氷期の氷河分布]] |
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[[File:Distribution of loess in North America.gif|thumb|220px|北アメリカにおけるレスの分布]] |
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[[File:Loess landscape china.jpg|thumb|220px|[[黄土高原]]の黄土層の台地(中国[[山西省]][[渾源県]]付近)]] |
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[[File:Lößhohlgasse.jpg|thumb|レスの街道切通し(ドイツ南部)]] |
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レスが地表に10メートル以上の厚さで分布する地域は、地球の陸域の約10%に及んでいる{{R|brit1}}{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}。10メートル未満の地域も含めると分布地はもっと広く、[[海底]]にも分布している{{Sfn|成瀬|2014|p=76}}。 |
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陸域の主要な分布地は北半球では北緯55度から24度の間、南半球では南緯30度から40度の間にあり、現世気候では[[温帯]]や[[乾燥帯]]に属する地域が多い{{R|brit1}}。 |
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レスの起源は主に[[氷河]]の周辺域と[[砂漠]]であり、[[風]]がそこから風下の地域へ[[運搬作用|運搬]]したと考えられている{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}{{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}。 |
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地質時代、とくに[[第四紀]]の[[氷期]]の氷河では、周辺部に向かって流れる融水流が土砂を盛んに運んで{{仮リンク|アウトウォッシュプレーン|en|Outwash plain}}を形成、そこから微粒子が風に運ばれた{{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}。氷河自体の摩耗作用でシルトやそれ以下の微細粒子が多く生産されること、また氷河が拡大する氷期には乾燥化が進み植生が退行することも、レスの発生を促した{{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}。 |
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砂漠では、岩石の風化作用が強く働くことでレスが生産された{{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}。地表が砂・シルトの混合であっても、飛ばされやすいシルト分が風に運搬されることで選り分けられたと考えられる。これは[[砂塵嵐]]によって生じる[[運搬作用#砂塵嵐と風成塵|風成塵]]の堆積で、現に砂漠でよく起こっている{{R|brit1}}{{Sfn|松倉|2021|pp=237-238, 244-246}}。 |
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干上がって底に塩類が堆積する{{仮リンク|乾湖|en|Dry lake}}(プラヤ){{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}{{Sfn|松倉|2021|p=236}}や[[扇状地]]などの堆積物も供給源と考えられる{{Sfn|松倉|2021|pp=244-245}}。 |
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氷河起源のレスは、ヨーロッパ各地、北アメリカの中央部、[[シベリア]]、南アメリカの南部などに分布し、いずれも氷期に氷河が発達した地域である{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}。 |
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ヨーロッパではライン川、ドナウ川や[[パリ盆地]]に地域的に、また[[南ロシア草原]]に広域に分布する{{R|brit1}}。北アメリカでは[[プラット川]]、[[ミズーリ川]]、[[ミシシッピ川]]、[[オハイオ川]]の流域平原と[[コロンビア川台地]]に分布{{R|brit1}}。南アメリカではアルゼンチン・ウルグアイの[[パンパ]]に分布{{R|brit1}}。 |
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砂漠起源のレスは、[[サハラ砂漠]]に隣接する[[地中海]]沿岸と[[サヘル]]、また中東、中央アジア、オーストラリア大陸の各砂漠周辺域に分布する{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}。 |
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中央アジアでは[[カザフスタン]]、[[ウズベキスタン]]、[[カスピ海]]の東部などに分布する{{R|brit1}}。ニュージーランドの[[南島 (ニュージーランド)|南島]]にも分布{{Sfn|土の百科事典|2014|p=304|ps=「黄土」(著者:康峪梅)}}。 |
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[[黄土高原]]を含む中国東部のレスは、砂漠と氷河の両方が起源とされている{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}。 |
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中国の分布地は[[黄河]]の周辺や砂漠の辺縁部、[[天山山脈]]周辺など{{R|brit1}}。同国におけるレスやレス質土壌の分布地は総面積の10%強を占め、また同国の耕地面積と居住人口に占めるレス・レス質土壌地帯の割合は20%に達する(1980年代時点){{Sfn|菅野|1989a|p=219}}。 |
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レスの分布地の代表的な土壌は{{仮リンク|モリソル|en|Mollisol}}などで、主要な農業地帯となっている{{Sfn|土壌の事典|1993|p=526 |ps=「レス」}}。[[穀倉地帯]]である[[東ヨーロッパ平原]]の[[チェルノーゼム]]、北アメリカ・[[グレートプレーンズ]]の{{仮リンク|カスタノーゼム|en|Kastanozem}}、南アメリカ・パンパの{{仮リンク|ファエオーゼム|en|Phaeozem}}も主にレスが母材となって生成した土壌{{Sfn|土の百科事典|2014|p=532|ps=「レス」(著者:浜崎忠雄)}}。 |
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日本では風成塵の堆積量が少なく、層厚の薄いレスが挟在する形で見いだされる。[[北部九州]]、[[山陰]]、[[北陸]]、[[東北地方|東北]]の沿岸の埋没した古砂丘にレスが何層か挟在する例があるほか、[[火山灰]]層中や、[[台地]]上の地層にもみられることがある{{Sfn|成瀬|2014|pp=78-79}}。[[南西諸島]]では[[琉球石灰岩]]の上位にある島尻マージや国頭マージに風成塵が多く含まれ土壌化している{{Sfn|成瀬|2014|pp=78-79}}。 |
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=== 起源に関する議論 === |
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現在みられるレスは、基本的には第四紀、とくに[[更新世]]に堆積したものと考えられている{{Sfn|長島|2024}}。しかしながら、アメリカのオガララ層群(<small>[[:en:Ogallala Formation|英語版]]</small>)のように、乾燥地性のレスはより古い[[新第三紀]]や[[古第三紀]]に遡るものもあるという意見がある{{R|brit1}}。テキサス州やニューメキシコ州には、[[中新世]]末から[[鮮新世]]の地層に、非氷河性のレスと風成の砂層が交互に重なる100メートルを超える層があることが報告されている{{Sfn|成瀬|2014|pp=78-79}}。 |
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形成年代が[[完新世]]の[[沖積層|沖積]]レスも報告されている。沖積レスは形成の過程で河川の作用を受けると考えられていて、水の運搬作用によりシルト分が分級して盆地や扇状地に堆積し、その後風の運搬作用により再び選り分けられるので、ふつうのレスよりも淘汰がよい{{R|brit1}}。 |
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レスの起源について意見の対立がみられることがあるが、これは、シルトがレスやレス質土壌に変化するプロセスがいくつもあって、地域により、年代により異なるためである{{R|brit1}}。 |
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風成塵がレスとなる風化作用は乾燥・寒冷の[[ステップ (植生)|ステップ]]や[[ツンドラ]]などが最適な条件であり、これ以外の条件下で堆積した風成塵は非典型的なレス質の堆積物、例えばレス質ローム、石灰分を欠くレス、褐色土、赤色土、土壌化の強い地質などを形成するものと考えられている{{R|brit1}}。 |
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レスから産出する化石などもその当時の環境を示しており、[[哺乳類]]はツンドラに生息する種が多く、[[花粉分析]]でもステップやツンドラであったことを示すものが多い{{R|brit1}}。また[[カタツムリ]]の種が、レス層序において湿潤気候の種と乾燥気候の種とで周期的に交代したり、狭在する古土壌層でより温暖な気候の種に交代したりする例が見られる{{R|brit1}}。 |
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この作用が{{仮リンク|土壌生成|en|soil formation}}作用に類似することから、レスの起源は風成ではなく現地での土壌生成であるとする説も出されたが、厚いレスの形成を説明できない([[#研究史]]参照)。これに代わるのが多元説、つまり形成プロセスの時間的・空間的違いによって多様なレス質堆積物になるというもの{{R|brit1}}。レス化していない堆積物が後生的にレス化するもの、レス化していない堆積物のレス化と風化(二次鉱物の生成)が同時生的に起きるもの、既に原生的にレス化と風化を経たものが運ばれ再堆積するものに大別される{{R|brit1}}。 |
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== 堆積量の変化・編年 == |
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レスや風成塵の堆積速度は、温暖な間氷期に小さく、寒冷な氷期に大きくなる{{Sfn|松倉|2021|pp=246-248}}{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}。[[後期更新世]]における世界各地のレスの堆積速度は、平均して千年あたり数十ミリから数千ミリであり、間氷期と氷期の速度の差は2桁から3桁にもなる{{Sfn|松倉|2021|pp=246}}。その原因は、例えば東アジアでは氷期に砂漠が拡大したり[[偏西風]]・[[貿易風]]が強まったりすることが挙げられる{{Sfn|松倉|2021|pp=246}}。 |
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レスや風成塵による[[古気候学|古気候]]の復元は、オーストラリアからの風成塵が堆積する[[南極大陸]]では74万年前{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=769-70 |ps=「風成塵」(著者:成瀬敏郎)}}、黄土高原の黄土の古土壌では約260万年前まで遡っている{{Sfn|地形の辞典|2017|pp=930-931 |ps=「レス」(著者:太田武洋、成瀬敏郎)}}。 |
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{{仮リンク|第四紀氷河時代|en|Quaternary glaciation}}の開始後、約260万年前に黄土高原、[[タジキスタン]]、ウクライナの[[ドニエプル川]]流域で、約170万年前にはオーストリアの[[クレムス・アン・デア・ドナウ|クレムス]]でそれぞれレスの堆積が始まったが、分布は限られていた{{Sfn|成瀬|2014|pp=78-79}}。ただし、更新世(約260万年前開始)以前と考えられるレスもある{{Sfn|成瀬|2014|pp=78-79}}([[#起源に関する議論]]参照)。約90万年前以降、氷期が長く気温低下が大きくなると、各地で分布が拡大する。北アメリカでは約100 - 70万年前にコロンビア川台地やミシシッピ川流域でレスの堆積が始まっている{{Sfn|成瀬|2014|pp=78-79}}。黄土高原の黄土の厚さは50 - 200メートルだが、早期に堆積が始まった中央部や[[蘭州市|蘭州]]では約300メートルに達する{{Sfn|松倉|2021|pp=246-248}}。 |
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== 黄土土壌 == |
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ふつうレスの表層は肥沃な土壌とされ、[[集約農業]]の適地とされる{{R|brit1}}。 |
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{{要出典範囲|黄土は[[ミネラル]]に富み保水特性に優れるため、[[モロコシ|コウリャン]]などの栽培に適している。|date=2024-07}} |
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リヒトホーフェンは、多孔質な黄土の毛細管構造には鉱物質の養分を供給する「自己施肥能力」があるとしていて、古代中国の[[黄河文明]]は肥沃な黄土の上に発達したとする説が通説となっていた。しかし、細粒で粘度の低い土壌は、イオンの形での養分の供給力が低く、流亡しやすく痩せた土地だと考えられるようになってきている。中国の黄土も例外ではなく、黄河文明の中心になったごく一部の地域だけが、長年にわたる耕作、湖沼堆積物や水草などを投与した施肥作業の結果によって、肥沃になったとする反論<ref>原宗子『「農本」主義と「黄土」の発生―古代中国の開発と環境 2 (古代中国の開発と環境 (2)) 』研文出版、2005年:第一章「中国土壌研究の世界経済史的意義」</ref>が出されている<ref>古賀登『両税法成立史の研究』雄山閣、2012年、P235</ref>。 |
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== 材料としての黄土 == |
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[[File:Luvos Heilerde.jpg|thumb|黄土の{{仮リンク|薬用粘土|en|Medicinal clay}}の見本]] |
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堆積学の黄土の定義とは別に、主に建築や美術の分野で材料として用いる土の一種に黄土がある。 |
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=== 顔料 === |
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[[黄色]]の[[顔料]]として使用される黄土は'''イエロー・オーカー''' ({{en|yellow ochre}}) あるいは単に'''オーカー''' ({{en|ochre}}) と呼ばれ、古代より用いられている<ref name="Myers">{{Cite web|url=http://www.artiscreation.com/yellow.html |title=The Color of Art Pigment Database : Pigment Yellow, PY |chapter=PY42, PY43 |work=Color of Art Pigment Database |author=David Myers |access-date=2017-01-12}}</ref>。天然に産出される黄土顔料は、[[針鉄鉱]]や[[褐鉄鉱]]、[[赤鉄鉱]]、[[酸化マンガン]]などを含み、退色しづらい特徴を持つ{{R|岩石学1}}。化学的に合成された合成黄土は、水和酸化鉄などを成分とする{{R|Myers}}。Colour Index Generic Nameは天然黄土がPigment Yellow 43で{{R|Myers}}、合成黄土がPigment Yellow 42である{{R|Myers}}。この顔料の色が[[黄土色]]である。絵画の絵の具{{R|岩石学1}}のほか、陶材などに使用される。 |
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=== 建築 === |
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[[File:Jiayuguan0678.JPG|thumb|220px|黄土の[[版築]]や煉瓦で造られた[[嘉峪関]]の城壁(中国)]] |
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日本建築の伝統工法の[[土壁]](塗り壁)の材料、色土の一種に黄土(きづち、きつち)がある。産地の名で呼ばれるものも多く、黄色の代表例として稲荷山黄土が知られている{{Sfn|佐藤嘉一郎|佐藤ひろゆき|2001|pp=65-66}}。西京壁・江戸漆喰という言葉があるように関西では[[日本壁#京壁|京土壁]]が多く、関東に[[漆喰]]壁が多いのとは対照的だが、関西では粘土質の良質な壁土を豊富に産出することが関係している{{Sfn|佐藤嘉一郎|佐藤ひろゆき|2001|pp=26-27}}。稲荷山黄土(いなりやまきづち)は京都府[[伏見]]産で、輝くような色味がある。 |
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京土壁が広まった経緯として、近世初期に[[千利休]]の影響で[[茶道|茶の湯]]において京土壁の茶室が好まれるようになったことが挙げられる。やがて有力町人の住居にも広がっていき、聚落土、大阪土、錆土、稲荷山黄土といった京都周辺で産出する粘土質の色土が仕上げ用壁材に広く用いられるようになった{{Sfn|佐藤嘉一郎|佐藤ひろゆき|2001|pp=18-19}}。黄土の京壁の茶室としては、例えば[[仁和寺]]の飛濤亭(江戸末期、重要文化財指定)があり、赤みを帯びた黄土が使われ、経年変化による地錆が模様をつくり[[わび・さび|侘び]]の雰囲気を出している{{Sfn|佐藤嘉一郎|佐藤ひろゆき|2001|p=33}}。[[茶道具]]の炉壇にも黄土を使用するのが理想的とされるが、制作が難しく取り扱いも難しいため、大抵は他の材料に代替されている{{Sfn|佐藤嘉一郎|佐藤ひろゆき|2001|pp=26-27}}。 |
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中国の黄土高原では、厚いレス(黄土)層の崖を掘りぬいた住居がみられる{{R|brit1}}([[窰洞]])。北アメリカの先住民[[プエブロ]]は、住居をはじめとした建物に[[アドベ]]と呼ばれる日干しレンガを使用するが、その主原料はレスである{{R|brit1}}。 |
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=== その他 === |
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黄土は古くから天然の泥パックに用いられてきたが、近年は黄土のもつミネラルや遠赤外線放射を利用した[[サウナ]]や、[[岩盤浴]]にも使用されている。 |
黄土は古くから天然の泥パックに用いられてきたが、近年は黄土のもつミネラルや遠赤外線放射を利用した[[サウナ]]や、[[岩盤浴]]にも使用されている。 |
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== 脚注 == |
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=== 注釈 === |
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=== 出典 === |
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== 参考文献 == |
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* {{Cite book|和書|editor=久馬一剛 ほか |title=土壌の事典 |publisher=朝倉書店 |year=1993 |isbn=4-254-43050-7 |ref={{SfnRef|土壌の事典|1993}} }} |
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* {{Cite book|和書|editor=地学団体研究会 |title=新版 地学事典 |publisher=平凡社 |year=1996 |month=10 |isbn=4-582-11506-3 |ref={{SfnRef|新版地学事典|1996}} }} |
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* {{Cite book|和書|author1=佐藤嘉一郎 |author2=佐藤ひろゆき |title=土壁・左官の仕事と技術 |year=2001 |publisher=学芸出版社 |isbn=4-7615-1172-9 |ref={{SfnRef|佐藤嘉一郎|佐藤ひろゆき|2001}} }} |
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* {{Cite book|和書|editor=土の百科事典編集委員会 |title=土の百科事典 |publisher=丸善出版 |year=2014 |isbn=978-4-621-08584-4 |ref={{SfnRef|土の百科事典|2014}} }} |
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* {{Cite book|和書|editor=[[日本地形学連合]]、鈴木隆介、砂村継夫、[[松倉公憲]] |title=地形の辞典 |publisher=朝倉書店 |year=2017 |isbn=978-4-254-16063-5 |ref={{SfnRef|地形の辞典|2017}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=松倉公憲 |year=2021 |title=地形学 |publisher=朝倉書店 |isbn=978-4-254-16077-2 |ref={{SfnRef|松倉|2021}} }} |
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* {{Cite book|和書|author=長島佳菜 |chapter=黄土 |editor=地学団体研究会 |title=最新 地学事典 |year=2024 |month=03 |page=182 |isbn=978-4-582-11508-6 |ref={{SfnRef|長島|2024}} }} |
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* {{Cite book|editor=Neuendorf, KKE, JP Mehl, Jr., and JA Jackson |title=Glossary of Geology |edition=5 |language=en |location=Alexandria, Virginia |publisher=American Geological Institute |year=2005 |isbn=0-922152-76-4 |ref={{SfnRef|Glossary of Geology (5th ed.)|2005}} }} |
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* {{Cite web|url=https://www.britannica.com/science/loess |title=loess |language=en |work=Encyclopædia Britannica([[ブリタニカ百科事典]]) |date=2010-08-13 |accessdate=2024-07-11 |ref=brit}} |
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* (a){{Cite journal|和書|author=菅野一郎 |title={{lang|zh-Hans|刘东生}} : 黄土の概念と研究略史(II) |journal=ペドロジスト |publisher=日本ペドロジー学会 |volume=32 |year=1988 |issue=2 |pages=219-226 |doi=10.18920/pedologist.32.2_219 |ref={{SfnRef|菅野|1989a}} }} |
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* (b){{Cite journal|和書|author=菅野一郎 |title={{lang|zh-Hans|刘东生}} : 黄土の概念と研究略史(II) |journal=ペドロジスト |publisher=日本ペドロジー学会 |volume=33 |year=1989 |issue=1 |pages=59-66 |doi=10.18920/pedologist.33.1_59 |ref={{SfnRef|菅野|1989b}} }} |
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* (c){{Cite journal|和書|author=菅野一郎 |title={{lang|zh-Hans|刘东生}} : 黄土の概念と研究略史(III) |journal=ペドロジスト |publisher=日本ペドロジー学会 |volume=33 |year=1989 |issue=2 |pages=194-200 |doi=10.18920/pedologist.33.2_194 |ref={{SfnRef|菅野|1989c}} }} |
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** (菅野 (1989a-c)の原著){{Cite book|和書|author={{lang|zh-Hans|刘东生}} |authorlink=劉東生 |chapter={{lang|zh-Hans|黄土的概念和研究简史}} |language=zh-Hans |title={{lang|zh-Hans|黄土与环境}} |pages=481-493 |publisher=科学出版社 |year=1985 }} |
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* {{Cite journal|和書|author=成瀬敏郎 |title=2012年日本第四紀学会学術賞受賞記念論文 第四紀の風成塵・レスについて |journal=第四紀研究 |publisher=[[日本第四紀学会]] |volume=53 |year=2014 |issue=2 |pages=75-93 |doi=10.4116/jaqua.53.75 |ref={{SfnRef|成瀬|2014}} }} |
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== 関連項目 == |
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{{Commonscat|Loess|レス}} |
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* [[赤土]] |
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* [[土壌 |
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* [[黄砂 |
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* [[黄土色]] |
* [[黄土色]] |
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== 外部リンク == |
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* {{Archive.today |url= http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/kosahp/4-6kosa.html#fcst |title= 黄砂情報の利用の仕方 |date=20121219051730}} - 気象庁 |
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* [http://www.tomizawakenzai.com/tsuchi.html 黄土の土壁 富沢建材(株)] |
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* [http://kyoutsuchi.jp/inari.html 稲荷山黄土販売 尾崎色土製造所] |
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2024年12月22日 (日) 17:56時点における最新版
堆積学における黄土(おうど[1]、こうど[1])はレスの別名[2]。レス(ドイツ語: Löss 音声[3]、英語: loess)は、粒子が主にシルト径で[2][3][4]、色味は淡黄色または灰黄色を呈し[2][3]、均質で未固結の風成堆積物[3]のこと。組成は場所により差異があるが炭酸カルシウムを含むものが多いのも特徴[4]。中国に分布するレスは古くから黄土と呼ばれており、日本語でもレスの別名となっている[5]。
研究史
[編集]Lössは「緩んだ」などの意味があり[6]、英語ではlooseに相当するが[7]、もともとドイツ南部のライン地溝帯に特徴的に分布するシルト質の細粒土に付けられた名前だった[3][8]。カール・シーザー・フォン・レオンハルト(Karl Cäsar von Leonhard)が1824年にはじめて学術用語として使用[3]、チャールズ・ライエルが1834年に英語に移入した[5]。
19世紀半ばには、ヨーロッパのほかの地域や北アメリカ、中国にもレスが分布することが報告されるようになった[9]。しかし、この頃はまだレスは水成、つまり水の作用で形成されたと考えられていた[9]。氷河の作用はこの頃既に挙がっていたが、まだ水が運搬するものと考えられていた[9]。またBraunは1847年、ライン川やドナウ川のレスから産出する軟体動物の化石に水棲の種がほとんどないことや、採集した多くの種が現世気候では冷涼なアルプスの高山帯などに生息する種であり、寒冷な気候の時代に生息していた可能性を報告している[9][10][注釈 1]。
フェルディナント・フォン・リヒトホーフェンは中国での調査から、レスが風と水の作用で運ばれて堆積したとの説を1877年に発表する[3][9]。風成説を初めて唱えたのはVirlet D'Aoustで1857年のことだったが、リヒトホーフェンの提唱以降本格的に採り上げられる[12]。その後オブルチョフは、中央アジアのレス分布地は層厚が薄く、レスが堆積していく地域ではなくレスが風に吹き上げられる産出地であるとし、砂漠とレス地帯が帯状に分布することを指摘している[9]。
風成説が定着して以降、層理のない原生的なレスと再堆積したレスを区分する説も提唱されてきた。レフ・セミョーノヴィチ・ベルグは1932年、レスに含まれる炭酸カルシウムの生成や多孔質などの土質は風化により生じるとする「黄土化」の作用を提唱した。ベルグは風成ではなく、現地で岩石や堆積物が変質してレスとなると考えたものの、風化は表層数メートルにしか及ばないため厚さ100メートルを超えるレスの生成を説明できず、これは後に否定されている[9]。ただし、黄土化の考え方自体は、レスの変質による土壌化の研究において肯定されている[9]。
他方、20世紀に入るとレスを用いた編年の研究が始まる。編年分野では、1970年代頃に考古磁気年代測定が導入、その後も熱ルミネッセンスなどが加わって測定方法が豊富になり、海洋酸素同位体ステージによるレスや古土壌の層序の対比が確立されたことで、各地でこれを利用した研究が進展した[3][5][13]。
日本では、古砂丘中などにシルト質の古土壌層が含まれることが知られ、火山灰の風化や亜熱帯気候下での風化とする説もあったが、同位体比などからアジア大陸方面由来のレス(風成塵)が母材となっていることが解明されている[14]。
性質
[編集]レスの粒径は、淘汰がよく揃っていて[5]、典型的には0.02 - 0.05ミリメートル(20 - 50マイクロメートル)の細砂でこのサイズが重量比で約50%を占める[7][注釈 2]。0.005ミリメートル未満の粘土粒子は5 - 10%程度とされる[7]。地域別にみると、供給源から離れるに従って粒径は小さくなる分布をとる[7][5]。
典型的なレスは、無層理(均質)[16]、多孔質[7][16]。淡黄色または灰黄色の色味は、炭酸塩とともに粒子の表面を覆う鉄とマンガン酸化物によるもの[2][9]。
粒子を構成する鉱物は主に石英[12]、長石[12]、雲母[12]、方解石[5]など。石英の比率はふつう60 - 70%、低い場合は40%程度、高い場合は80%程度[7][16]。長石や雲母が10 - 20%程度[7][16]。方解石を含む炭酸塩鉱物は5 - 35%程度[7]で、石灰岩地帯が供給源であれば高くなる[12]。また角閃石、燐灰石、黒雲母、緑泥石などのシルト粒度の重鉱物が2 - 5%含まれるほか[7]、モンモリロナイト、イライト、カオリナイトなどの粘土鉱物も含まれる[7][12]。重鉱物の組成には地域差があり、その比較は供給源の推定法のひとつとなっている[7]。
化学組成でみると、炭酸カルシウム(CaCO3)は30%を超えることもあるが、含まれない場合もあって幅がある[5]。炭酸カルシウムを除いた残りの成分は、典型的なもので二酸化ケイ素(SiO2)が80%前後、酸化アルミニウム(Al2O3)6 - 10%、酸化第二鉄(Fe2O3)1 - 6%など[5]。
レスの空隙率はふつう50 - 55%だが、粒度が小さいほど空隙率が小さくなる傾向にあり、粘土が多い場合には40%前後となることがある[7]。また、地表から深さ10メートルまでの表層では深くなるに従い緩やかに空隙率が低下する[7]。含水率はふつう10 - 15%だが、空隙率が小さいものではこれより高くなる[7]。また多孔質のため透水性が高い[17][16]。
レスは縦に割れやすく、侵食などで崩れていくとき断面は垂直となる[3][7]。これは、根に沿って毛細管様に集積する石灰分が土塊を支持しているため[7]。この性質がよく現れる黄土高原では、川に面した河谷に垂直の崖がみられる[5]。
乾燥下では、微細粒子からなり凝集力が大きいことなどからレスは安定している。一方、水に濡れると崩壊や沈下が起きやすい[7]。流水の侵食には弱く、降雨による表土の流亡やガリ侵食は激しい[17]。地下水流による陥没が起こることもある[7]。
続成
[編集]堆積したシルト質の風成塵は、続成作用によりレスに変化するものと考えられている[7]。シルトの表層では、炭酸カルシウムや酸化鉄などが含まれる場合、粘土サイズの粒子を凝集したり、石英粒子の表面をコーティングし粒子同士を接合したりして、0.02 - 0.05ミリメートルの典型的サイズのレス粒子を形成する[7]。これは、乾燥気候下でよく進む微粒子の水和セメント化であり、やがては固結の緩いシルト岩を造る作用である[7]。凝集により粒状、斑状の団粒構造を生じ、比較的大きな孔隙のある多孔質の土層となる[18]。
レスに含まれる炭酸塩はもともと、石英粒子や凝集した粘土粒子の表面に付着したり、顆粒状粒子や貝殻の破片などの形で存在する[7]。これらが土中の間隙に溶解、再沈殿し凝集、石灰分が集積して二次的な炭酸塩を生成する[7][5]。カリシェと呼ばれる堆積層を造ることもある[7]。またしばしば、植物の根を取り巻くように管状に、あるいは亀裂の表面に集積する[7][6]。ときに特徴的な結節のような形の塊を造ることがあり[7][5]、「黄土人形」[7][5][19]、「黄土小僧」[5][19]、「生姜石」[20]の別名がある。黄土人形 (loess doll)はノジュールまたはコンクリーションの一種[21]。
レス-古土壌層序
[編集]レスの地層は、全体としてレス-古土壌層序[3](黄土-古土壌層序[1])と呼ばれる複合的な層を造り[1][7]、その中にレス、レス質堆積物、古土壌、砂などがそれぞれ厚さ1 - 5メートル程度の層をなし重なっている[7]。レス-古土壌層序における古土壌は、温暖な間氷期にレスが風化したものである[1][22]。古土壌の色味はレスに近い褐色・茶褐色もあるが、赤み・黒みを帯びたものがみられる[23]。
典型的な均質のレスに対して、混合・変質したレス質の堆積物はloess series(レス系列(仮訳))とも呼ばれ、レス質砂、砂質レス、レス質ローム、粘土質レスなどいくつかのタイプがある。この分類は地域により異なっている[7]。
分布地と起源
[編集]レスが地表に10メートル以上の厚さで分布する地域は、地球の陸域の約10%に及んでいる[7][12]。10メートル未満の地域も含めると分布地はもっと広く、海底にも分布している[12]。
陸域の主要な分布地は北半球では北緯55度から24度の間、南半球では南緯30度から40度の間にあり、現世気候では温帯や乾燥帯に属する地域が多い[7]。
レスの起源は主に氷河の周辺域と砂漠であり、風がそこから風下の地域へ運搬したと考えられている[4][8]。
地質時代、とくに第四紀の氷期の氷河では、周辺部に向かって流れる融水流が土砂を盛んに運んでアウトウォッシュプレーンを形成、そこから微粒子が風に運ばれた[8]。氷河自体の摩耗作用でシルトやそれ以下の微細粒子が多く生産されること、また氷河が拡大する氷期には乾燥化が進み植生が退行することも、レスの発生を促した[8]。
砂漠では、岩石の風化作用が強く働くことでレスが生産された[8]。地表が砂・シルトの混合であっても、飛ばされやすいシルト分が風に運搬されることで選り分けられたと考えられる。これは砂塵嵐によって生じる風成塵の堆積で、現に砂漠でよく起こっている[7][24]。
干上がって底に塩類が堆積する乾湖(プラヤ)[8][25]や扇状地などの堆積物も供給源と考えられる[8]。
氷河起源のレスは、ヨーロッパ各地、北アメリカの中央部、シベリア、南アメリカの南部などに分布し、いずれも氷期に氷河が発達した地域である[4]。
ヨーロッパではライン川、ドナウ川やパリ盆地に地域的に、また南ロシア草原に広域に分布する[7]。北アメリカではプラット川、ミズーリ川、ミシシッピ川、オハイオ川の流域平原とコロンビア川台地に分布[7]。南アメリカではアルゼンチン・ウルグアイのパンパに分布[7]。
砂漠起源のレスは、サハラ砂漠に隣接する地中海沿岸とサヘル、また中東、中央アジア、オーストラリア大陸の各砂漠周辺域に分布する[4]。
中央アジアではカザフスタン、ウズベキスタン、カスピ海の東部などに分布する[7]。ニュージーランドの南島にも分布[2]。
黄土高原を含む中国東部のレスは、砂漠と氷河の両方が起源とされている[4]。
中国の分布地は黄河の周辺や砂漠の辺縁部、天山山脈周辺など[7]。同国におけるレスやレス質土壌の分布地は総面積の10%強を占め、また同国の耕地面積と居住人口に占めるレス・レス質土壌地帯の割合は20%に達する(1980年代時点)[26]。
レスの分布地の代表的な土壌はモリソルなどで、主要な農業地帯となっている[16]。穀倉地帯である東ヨーロッパ平原のチェルノーゼム、北アメリカ・グレートプレーンズのカスタノーゼム、南アメリカ・パンパのファエオーゼムも主にレスが母材となって生成した土壌[4]。
日本では風成塵の堆積量が少なく、層厚の薄いレスが挟在する形で見いだされる。北部九州、山陰、北陸、東北の沿岸の埋没した古砂丘にレスが何層か挟在する例があるほか、火山灰層中や、台地上の地層にもみられることがある[27]。南西諸島では琉球石灰岩の上位にある島尻マージや国頭マージに風成塵が多く含まれ土壌化している[27]。
起源に関する議論
[編集]現在みられるレスは、基本的には第四紀、とくに更新世に堆積したものと考えられている[1]。しかしながら、アメリカのオガララ層群(英語版)のように、乾燥地性のレスはより古い新第三紀や古第三紀に遡るものもあるという意見がある[7]。テキサス州やニューメキシコ州には、中新世末から鮮新世の地層に、非氷河性のレスと風成の砂層が交互に重なる100メートルを超える層があることが報告されている[27]。
形成年代が完新世の沖積レスも報告されている。沖積レスは形成の過程で河川の作用を受けると考えられていて、水の運搬作用によりシルト分が分級して盆地や扇状地に堆積し、その後風の運搬作用により再び選り分けられるので、ふつうのレスよりも淘汰がよい[7]。
レスの起源について意見の対立がみられることがあるが、これは、シルトがレスやレス質土壌に変化するプロセスがいくつもあって、地域により、年代により異なるためである[7]。
風成塵がレスとなる風化作用は乾燥・寒冷のステップやツンドラなどが最適な条件であり、これ以外の条件下で堆積した風成塵は非典型的なレス質の堆積物、例えばレス質ローム、石灰分を欠くレス、褐色土、赤色土、土壌化の強い地質などを形成するものと考えられている[7]。
レスから産出する化石などもその当時の環境を示しており、哺乳類はツンドラに生息する種が多く、花粉分析でもステップやツンドラであったことを示すものが多い[7]。またカタツムリの種が、レス層序において湿潤気候の種と乾燥気候の種とで周期的に交代したり、狭在する古土壌層でより温暖な気候の種に交代したりする例が見られる[7]。
この作用が土壌生成作用に類似することから、レスの起源は風成ではなく現地での土壌生成であるとする説も出されたが、厚いレスの形成を説明できない(#研究史参照)。これに代わるのが多元説、つまり形成プロセスの時間的・空間的違いによって多様なレス質堆積物になるというもの[7]。レス化していない堆積物が後生的にレス化するもの、レス化していない堆積物のレス化と風化(二次鉱物の生成)が同時生的に起きるもの、既に原生的にレス化と風化を経たものが運ばれ再堆積するものに大別される[7]。
堆積量の変化・編年
[編集]レスや風成塵の堆積速度は、温暖な間氷期に小さく、寒冷な氷期に大きくなる[17][3]。後期更新世における世界各地のレスの堆積速度は、平均して千年あたり数十ミリから数千ミリであり、間氷期と氷期の速度の差は2桁から3桁にもなる[28]。その原因は、例えば東アジアでは氷期に砂漠が拡大したり偏西風・貿易風が強まったりすることが挙げられる[28]。
レスや風成塵による古気候の復元は、オーストラリアからの風成塵が堆積する南極大陸では74万年前[29]、黄土高原の黄土の古土壌では約260万年前まで遡っている[3]。
第四紀氷河時代の開始後、約260万年前に黄土高原、タジキスタン、ウクライナのドニエプル川流域で、約170万年前にはオーストリアのクレムスでそれぞれレスの堆積が始まったが、分布は限られていた[27]。ただし、更新世(約260万年前開始)以前と考えられるレスもある[27](#起源に関する議論参照)。約90万年前以降、氷期が長く気温低下が大きくなると、各地で分布が拡大する。北アメリカでは約100 - 70万年前にコロンビア川台地やミシシッピ川流域でレスの堆積が始まっている[27]。黄土高原の黄土の厚さは50 - 200メートルだが、早期に堆積が始まった中央部や蘭州では約300メートルに達する[17]。
黄土土壌
[編集]ふつうレスの表層は肥沃な土壌とされ、集約農業の適地とされる[7]。
黄土はミネラルに富み保水特性に優れるため、コウリャンなどの栽培に適している。[要出典]
リヒトホーフェンは、多孔質な黄土の毛細管構造には鉱物質の養分を供給する「自己施肥能力」があるとしていて、古代中国の黄河文明は肥沃な黄土の上に発達したとする説が通説となっていた。しかし、細粒で粘度の低い土壌は、イオンの形での養分の供給力が低く、流亡しやすく痩せた土地だと考えられるようになってきている。中国の黄土も例外ではなく、黄河文明の中心になったごく一部の地域だけが、長年にわたる耕作、湖沼堆積物や水草などを投与した施肥作業の結果によって、肥沃になったとする反論[30]が出されている[31]。
材料としての黄土
[編集]堆積学の黄土の定義とは別に、主に建築や美術の分野で材料として用いる土の一種に黄土がある。
顔料
[編集]黄色の顔料として使用される黄土はイエロー・オーカー (yellow ochre) あるいは単にオーカー (ochre) と呼ばれ、古代より用いられている[32]。天然に産出される黄土顔料は、針鉄鉱や褐鉄鉱、赤鉄鉱、酸化マンガンなどを含み、退色しづらい特徴を持つ[6]。化学的に合成された合成黄土は、水和酸化鉄などを成分とする[32]。Colour Index Generic Nameは天然黄土がPigment Yellow 43で[32]、合成黄土がPigment Yellow 42である[32]。この顔料の色が黄土色である。絵画の絵の具[6]のほか、陶材などに使用される。
建築
[編集]日本建築の伝統工法の土壁(塗り壁)の材料、色土の一種に黄土(きづち、きつち)がある。産地の名で呼ばれるものも多く、黄色の代表例として稲荷山黄土が知られている[33]。西京壁・江戸漆喰という言葉があるように関西では京土壁が多く、関東に漆喰壁が多いのとは対照的だが、関西では粘土質の良質な壁土を豊富に産出することが関係している[34]。稲荷山黄土(いなりやまきづち)は京都府伏見産で、輝くような色味がある。
京土壁が広まった経緯として、近世初期に千利休の影響で茶の湯において京土壁の茶室が好まれるようになったことが挙げられる。やがて有力町人の住居にも広がっていき、聚落土、大阪土、錆土、稲荷山黄土といった京都周辺で産出する粘土質の色土が仕上げ用壁材に広く用いられるようになった[35]。黄土の京壁の茶室としては、例えば仁和寺の飛濤亭(江戸末期、重要文化財指定)があり、赤みを帯びた黄土が使われ、経年変化による地錆が模様をつくり侘びの雰囲気を出している[36]。茶道具の炉壇にも黄土を使用するのが理想的とされるが、制作が難しく取り扱いも難しいため、大抵は他の材料に代替されている[34]。
中国の黄土高原では、厚いレス(黄土)層の崖を掘りぬいた住居がみられる[7](窰洞)。北アメリカの先住民プエブロは、住居をはじめとした建物にアドベと呼ばれる日干しレンガを使用するが、その主原料はレスである[7]。
その他
[編集]黄土は古くから天然の泥パックに用いられてきたが、近年は黄土のもつミネラルや遠赤外線放射を利用したサウナや、岩盤浴にも使用されている。
紀元前1500年頃に書かれたエーベルス・パピルスでは、消化器疾患や眼病など様々な疾患の共通の治療薬として黄土の処方を推奨している。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f 長島 2024.
- ^ a b c d e 土の百科事典 2014, p. 304「黄土」(著者:康峪梅)
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- ^ a b c d e f g 土の百科事典 2014, p. 532「レス」(著者:浜崎忠雄)
- ^ a b c d e f g h i j k l m 永塚鎮男「レス」『平凡社『改訂新版世界大百科事典』』 。コトバンクより2024年7月10日閲覧。
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- ^ 佐藤嘉一郎 & 佐藤ひろゆき 2001, p. 33.
参考文献
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- 土の百科事典編集委員会 編『土の百科事典』丸善出版、2014年。ISBN 978-4-621-08584-4。
- 日本地形学連合、鈴木隆介、砂村継夫、松倉公憲 編『地形の辞典』朝倉書店、2017年。ISBN 978-4-254-16063-5。
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- Neuendorf, KKE, JP Mehl, Jr., and JA Jackson, ed (2005) (英語). Glossary of Geology (5 ed.). Alexandria, Virginia: American Geological Institute. ISBN 0-922152-76-4
- “loess” (英語). Encyclopædia Britannica(ブリタニカ百科事典) (2010年8月13日). 2024年7月11日閲覧。
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- (c)菅野一郎「刘东生 : 黄土の概念と研究略史(III)」『ペドロジスト』第33巻第2号、日本ペドロジー学会、1989年、194-200頁、doi:10.18920/pedologist.33.2_194。
- (菅野 (1989a-c)の原著)刘东生「黄土的概念和研究简史」(中国語)『黄土与环境』科学出版社、1985年、481-493頁。
- 成瀬敏郎「2012年日本第四紀学会学術賞受賞記念論文 第四紀の風成塵・レスについて」『第四紀研究』第53巻第2号、日本第四紀学会、2014年、75-93頁、doi:10.4116/jaqua.53.75。