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'''インボイス制度'''(インボイスせいど)とは、[[消費税|消費税(付加価値税)]]の仕入税額控除の方式の一つで、課税事業者が発行する[[インボイス#語句|インボイス]]([[請求書]]など売手が買手へ、正確な適用税率や消費税額等を伝える請求書<ref>{{Cite web |title=インボイス制度の概要|国税庁 |url=https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm |website=www.nta.go.jp |access-date=2022-11-18}}</ref>)に記載された税額のみを控除することができる制度のことである。 |
'''インボイス制度'''(インボイスせいど)とは、[[消費税|消費税(付加価値税)]]の仕入税額控除の方式の一つで、課税事業者が発行する[[インボイス#語句|インボイス]]([[請求書]]など売手が買手へ、正確な適用税率や消費税額等を伝える請求書<ref>{{Cite web |title=インボイス制度の概要|国税庁 |url=https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm |website=www.nta.go.jp |access-date=2022-11-18}}</ref>)に記載された税額のみを控除することができる制度のことである。多くの国で義務化採用されており、G20中で義務付けていなかったのは日本だけだったところ<ref name="制度の概要">[https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/itn_comparison/110.pdf 主要国の付加価値税におけるインボイス制度の概要] 財務省</ref><ref name=":0" /><ref name=":1">{{Cite web |title=特集 インボイス制度 |url=https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm#:~:text=%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%95%E5%B9%B410,%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E3%82%8B%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 |website=www.nta.go.jp |access-date=2022-11-18}}</ref>、2010年の[[IMF]]総会において「インボイス制度不採用により貧富の格差が生まれている」と勧告を受け出席していた当時の[[鳩山由紀夫]]首相が「10年以内に実現させる」と公言し<ref>{{Cite web |title=IMF conference report 35th |url=https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/universe/2021/04/202104_06-11.pdf |access-date=2022-11-18}}</ref>、その後政権の交代などで遅れはしたものの2023年10月1日から日本でも随時導入されることになった。 |
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<!--2022年10月末時点でOECD加盟国で日本とアメリカのみが国内取引にインボイス制度を一切義務化しておらず、2023年10月1日から日本でも随時導入されることで[[売上税]]制度のアメリカ以外の全[[OECD]]加盟国が導入することとなっている。ただし、日本もアメリカも国外取引には既に[[電子インボイス]]をしており、国際規格「Peppol(ペポル、汎欧州オンライン公的調達)」のモノを使用している<ref>{{Cite web |title=インボイス制度は2023年10月施行!インボイス制度をもう一度復習してみましょう |url=https://www.idearu.info/article/cloud/invoice |website=www.idearu.info |access-date=2022-10-07 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web |title=2023年は電子インボイス元年?国際規格「Peppol(ペポル)」準拠で請求書のデジタル化を推進 |url=https://jblog.tradeshift.com/peppol_electronic-invoicing/ |website=トレードシフト ブログ |date=2021-08-25 |access-date=2022-10-07 |language=ja |last=トレードシフトジャパン編集部}}</ref><ref>{{Cite web |title=JP PINT|デジタル庁 |url=https://www.digital.go.jp/policies/electronic_invoice/ |website=デジタル庁 |access-date=2022-11-18 |language=ja |last=デジタル庁}}</ref>。--> |
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2022年10月時点で付加価値税(消費税)導入しているOECD諸国の中で、日本のみがインボイス方式ではなく帳簿方式を採用している。インボイス方式は正確な納税が出来る一方で、デジタル化せずにアナログだと事業へ負担が出る。そのため、既にインボイス制度導入している日本以外のOECD諸国では、事業者負担軽減のためにインボイスのデジタル化と義務化範囲拡大をしている。何故なら片方の事業者だけではデジタル化している側が業務負担することとなり、取引の双方がデジタル化することで業務負担軽減の恩恵を受けられるためである<ref name=":0">{{Cite web |title=韓国におけるデジタルインボイス導入のこれまで |url=https://moneyforward.com/mf_blog/20221021/%e9%9f%93%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e3%83%87%e3%82%b8%e3%82%bf%e3%83%ab%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%9c%e3%82%a4%e3%82%b9/ |website=[[マネーフォワード]]Fintech研究所 |access-date=2022-11-18 |language=ja}}</ref>。日本でも2023年10月1日から消費税の仕入税額控除方式に対するインボイス制度が導入される<ref name=":1" />。 |
2022年10月時点で付加価値税(消費税)導入しているOECD諸国の中で、日本のみがインボイス方式ではなく帳簿方式を採用している。インボイス方式は正確な納税が出来る一方で、デジタル化せずにアナログだと事業へ負担が出る。そのため、既にインボイス制度導入している日本以外のOECD諸国では、事業者負担軽減のためにインボイスのデジタル化と義務化範囲拡大をしている。何故なら片方の事業者だけではデジタル化している側が業務負担することとなり、取引の双方がデジタル化することで業務負担軽減の恩恵を受けられるためである<ref name=":0">{{Cite web |title=韓国におけるデジタルインボイス導入のこれまで |url=https://moneyforward.com/mf_blog/20221021/%e9%9f%93%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e3%83%87%e3%82%b8%e3%82%bf%e3%83%ab%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%9c%e3%82%a4%e3%82%b9/ |website=[[マネーフォワード]]Fintech研究所 |access-date=2022-11-18 |language=ja}}</ref>。日本でも2023年10月1日から消費税の仕入税額控除方式に対するインボイス制度が導入される<ref name=":1" />。 |
2022年12月9日 (金) 07:33時点における版
インボイス制度(インボイスせいど)とは、消費税(付加価値税)の仕入税額控除の方式の一つで、課税事業者が発行するインボイス(請求書など売手が買手へ、正確な適用税率や消費税額等を伝える請求書[1])に記載された税額のみを控除することができる制度のことである。多くの国で義務化採用されており、G20中で義務付けていなかったのは日本だけだったところ[2][3][4]、2010年のIMF総会において「インボイス制度不採用により貧富の格差が生まれている」と勧告を受け出席していた当時の鳩山由紀夫首相が「10年以内に実現させる」と公言し[5]、その後政権の交代などで遅れはしたものの2023年10月1日から日本でも随時導入されることになった。
経済協力開発機構(OECD)が取りまとめたレポートによると、各国でインボイス制度の導入前後で脱税の摘発件数が概ね9割以上減少し[6]、導入直前にインボイス義務化反対を訴え活動した実業家・政治家の約7割が導入後5年間のうちに脱税・脱税に関する汚職で有罪判決を受けている[7]。そのため納税の健全化に資する手法の1つとして注目されてきた。
概要
2022年10月時点で付加価値税(消費税)導入しているOECD諸国の中で、日本のみがインボイス方式ではなく帳簿方式を採用している。インボイス方式は正確な納税が出来る一方で、デジタル化せずにアナログだと事業へ負担が出る。そのため、既にインボイス制度導入している日本以外のOECD諸国では、事業者負担軽減のためにインボイスのデジタル化と義務化範囲拡大をしている。何故なら片方の事業者だけではデジタル化している側が業務負担することとなり、取引の双方がデジタル化することで業務負担軽減の恩恵を受けられるためである[3]。日本でも2023年10月1日から消費税の仕入税額控除方式に対するインボイス制度が導入される[4]。
日本はデジタルトランスフォーメーション(DX)が世界各国より遅れており、混同されやすいが電子化とデジタル化は違う。インボイス制度において、保存義務化とされる「請求に係る電子データ」が電子インボイスと呼ばれる。発行側が「電子化」しかしてない場合は「デジタル」だった電子データを「紙」「単なる画像データとしてのPDF」へ変換(アナログ化)する無駄を行うために、受け手側がデジタルへ請求記録を再変換する負担が発生する[8]。
古くから国境を越える取引が盛んに行われてきたヨーロッパでは、以前からインボイス方式は商取引慣行として定着してきた。商取引の情報を書面及び電子的形式で表現し発行するものである。EU加盟各国の法的整合・欧州経済を活性化する目的で制定される各国共通の指令(ルール)であるEC指令[9]で「付加価値税(消費税)におけるインボイス制度」が定められている[2]。そのため、EU加盟国にはインボイス保存が要件・インボイス記載の税額のみ控除・発行義務者を事業者とすること・免税業者は税額の記載不可とすること・8つの記載事項が決められている。そのため、EU加盟国のフランスやドイツだけでなく、EU離脱したイギリスもEUもEC指令に沿った国内法を制定している[2]。
韓国では2010年にデジタルインボイス制度が導入され、2011年に全法人事業者にデジタルインボイス発行を義務化した。2012年には税抜き年間売上高が10億ウォン(約一億円)以上の個人事業者も義務化し、その後も最終的に全事業者のインボイスをデジタル化させるために、義務化の範囲を年々拡大させている[3]。
日本
日本では、2023年(令和5年)10月1日から適格請求書等保存方式という名でインボイス制度が導入される予定である[10]。適格請求書等保存方式においては、消費税の仕入税額控除の要件の1つとして、適格請求書発行事業者が交付する「適格請求書」の保存が必要となる[10][注釈 1]。この適格請求書発行事業者となるには、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録を受ける必要がある[10][注釈 2]。
沿革
日本では、仕入税額控除の方法として、消費税導入の1989年(平成元年)4月1日から1997年(平成9年)3月31日まで「帳簿方式」が[14]、1997年(平成9年)4月1日から2019年(令和元年)9月30日まで「請求書等保存方式」が採用されていた[15]。2019年(令和元年)10月1日から軽減税率制度が導入されたことに伴い、インボイス制度の導入が必要とされたが、現行制度から切り替えるための準備期間として、2019年(令和元年)10月1日から2023年(令和5年)9月30日まで「区分記載請求書等保存方式」が採用され、2023年(令和5年)10月1日から「適格請求書等保存方式」としてインボイス制度が導入される[16][17]。
適格請求書発行事業者ではない免税事業者からの仕入れの経過措置として以下の特例が設けられた[18]。
- 2023年9月30日まで - 適格請求書でなくても100%を控除可能
- 2023年10月1日から2026年9月30日 - 適格請求書でなくても80%を控除可能
- 2026年10月1日から2029年9月30日 - 適格請求書でなくても50%を控除可能
- 2029年10月1日 - 適格請求書でなければ控除不可能
適格請求書等
適格請求書
「適格請求書」とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段[10]」であり、下記の事項を記載した請求書、納品書などの書類で適格請求書発行事業者が交付したものをいう[19]。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 課税資産の譲渡等に係る税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率
- 消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
適格簡易請求書
適格請求書発行事業者が小売業などの事業者である場合には、「適格簡易請求書」として、適格請求書の代わりに下記の事項を記載した請求書、納品書などの書類を交付することができる[19]。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 課税資産の譲渡等に係る税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額
- 消費税額等又は適用税率
適格簡易請求書は、適格請求書と異なり「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要であり、適格請求書では両方の記載が必要な消費税額等と適用税率についていずれか一方の記載のみで書類の記載事項としての要件を満たす[20]。
なお、適格請求書も適格簡易請求書も、書式については規定がないため、上記の必要事項が記載されている書類であれば、その書類の名称や書き方を問わず、適格請求書・適格簡易請求書に該当することとなる[19]。
適格返還請求書
適格請求書発行事業者が、売上げに係る対価の返還等(返品・値引き・割戻し)を行った場合には、「適格返還請求書」として、下記の事項を記載した請求書、納品書などの書類を交付しなければならない[21]。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 売上げに係る対価の返還等を行う年月日及び当該売上げに係る対価の返還等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日
- 売上げに係る対価の返還等に係る課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 売上げに係る対価の返還等に係る税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額
- 売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率
ただし、適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、売上げに係る対価の返還等に際し適格返還請求書を交付することが困難な課税資産の譲渡等を行う場合は、適格返還請求書の交付義務は免除される[22]。
電磁的記録(電子インボイス)
上記のこれらの書類の交付の代わりに、電磁的記録(これらの書類の記載事項を記録した電子データ)の提供を行うことも可能である[23]。電磁的記録の提供には、光ディスクや磁気テープなどの記録媒体のほか、EDI取引や電子メール、ウェブサイトを通じた電子データの提供も含まれる[23]。
記載事項・記録に誤りがあった場合
これらの書類の記載事項または電磁的記録として提供した事項に誤りがあった場合には、これらの書類を交付した他の事業者に対して、修正した書類の交付、修正した電磁的記録の提供をしなければならない[24]。
適格請求書類似書類等
適格請求書発行事業者でない者は、適格請求書発行事業者が作成した適格請求書などであると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付してはならない[23]。
適格請求書発行事業者
適格請求書を交付することができるのは適格請求書発行事業者だけであり、適格請求書発行事業者とは、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録を受けた課税事業者をいう[10][13]。
適格請求書発行事業者には、適格請求書・適格簡易請求書・適格返還請求書の交付[注釈 3]または電磁的記録の提供、適格請求書・適格簡易請求書・適格返還請求書の写し[注釈 4]または電磁的記録の保存[注釈 5]の義務が課される[23]。
適格請求書発行事業者として登録された事業者は、登録を取り消さない限り、小規模事業者に係る納税義務の免除の規定を受けることができない(いわゆる免税事業者になれない)[12][25]。
影響
適格請求書等保存方式において、免税事業者は適格請求書を発行することができないため、仕入税額控除の適用を受けようとする事業者は取引先として免税事業者より課税事業者(適格請求書発行事業者)を進んで選ぶと考えられる[26][27][注釈 6]。免税事業者を理由として選ばれなくなることを回避するために、適格請求書発行事業者として登録すれば、その事業者は本来であれば免税とされるはずの小規模事業者であっても課税事業者となることを選択せざるを得なくなる[27]。なお、適格請求書等保存方式自体が、益税の発生(本来は納税されるはずの消費税が免税事業者の手元に利益として残ること)を解消するための措置として導入されているという面もある[28]。
また、適格請求書発行事業者・仕入税額控除を行う事業者は、適格請求書の保管をはじめとして、登録番号の確認、課税・非課税・不課税の判断、標準税率適用・軽減税率適用の判断などを行わねばならず、税務当局においても、登録番号の付与・管理を行うという事務負担が新たに生じることとなる[22][27]。
課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度[29]を選択できるが、以下、話を単純にするため、簡易課税制度は適用されていないとする。消費税率は10%とする。以下の例のお金の支払い方向の流れは C → A → B である。
- AとBの両者とも適格請求書発行事業者の場合
- A が B から税込770円(税抜700円)で仕入れる。B は70円分の消費税を預かっている。その際、Bは適格請求書をAに発行する。
- A が C に税込1100円(税抜1000円)で販売する。C から100円分の消費税を預かっている。
- その際、100円 - 70円 = 30円の消費税を税務署に納税することになる。A には1100円 - 770円 - 30円 = 300円の利益が残る。
- Aが適格請求書発行事業者だが、Bが適格請求書発行事業者で無い場合
- A が B から税込770円(税抜700円)で仕入れる。適格請求書を発行していないので、B は70円分の消費税を預かった事にはならない。
- A が C に税込1100円(税抜1000円)で販売する。C から100円分の消費税を預かっている。
- その際、100円の消費税を税務署に納税することになる。A には1100円 - 770円 - 100円 = 230円の利益が残る。
- Aが適格請求書発行事業者だが、Bが適格請求書発行事業者で無い場合で、帳尻を合わせる方法
- A が B から税抜700円で仕入れる。適格請求書を発行していないので、B は消費税を預かっていない。
- A が C に税込1100円(税抜1000円)で販売する。C から100円分の消費税を預かっている。
- その際、100円の消費税を税務署に納税することになる。A には1100円 - 700円 - 100円 = 300円の利益が残る。
つまり、相手が適格請求書発行事業者で無い場合は税抜き価格で仕入れ、売った側ではなく買った側が消費税を納めることで帳尻が合う。消費税の納税義務が免除されている事業者は適格請求書発行事業者になれないので、これにより、実質的に、課税売上高が1,000万円以下の消費税の納税義務の免除[30]が益税ではなくなる。ただし、簡易課税制度や両者ともに適格請求書発行事業者で無い場合などが絡むと話はややこしくなる。
適格請求書発行事業者ではない免税事業者からの仕入れの経過措置として特例が設けられているが、それを加味すると以下のようになる[18]。
- 2023年10月1日から2026年9月30日に、Aが適格請求書発行事業者だが、Bが適格請求書発行事業者で無い場合で、帳尻を合わせる方法
- B の税抜き価格に消費税率×80% = 8% を上乗せして仕入れる。上記の例では756円。B にとって56円が益税。
- 2026年10月1日から2029年9月30日に、Aが適格請求書発行事業者だが、Bが適格請求書発行事業者で無い場合で、帳尻を合わせる方法
- B の税抜き価格に消費税率×50% = 5% を上乗せして仕入れる。上記の例では735円。B にとって35円が益税。
メリットおよびデメリット
会計ソフトなどを開発しているfreeeによれば、小規模な事業者にとってはインボイス制度を導入することによるメリットは「基本的にない」としている[31]。デメリットについては、取引停止のおそれ、事務負担の増加、税負担の増加、税務判断の増加、保存する書類の増加、電子化対応への負担、個人情報に関する問題などが指摘されている[31][32]。
森信茂樹は、インボイス制度を導入することで事業者間の価格転嫁を容易にし、複数税率を計算する場合の事務コストを大幅に軽減できるとしている[33]。また、免税事業者を取引から排除し、いわゆる「益税」の防止につながるのが最大のメリットであるとしている[34]。
国税庁では適格請求書発行事業者のデータを自由にダウンロードできるようにしていたが、ペンネームのみを公表する作家など名前を伏せて活動している個人事業主の身バレに繋がるとして赤松健と山田太郎が申し入れを行った結果[35]、2022年9月22日から一時ダウンロードを見合わせることとなった[32][36]。9月26日から個人のデータに限り事務所の所在地や氏名など個人の特定に繋がる項目を削除したうえでダウンロードを再開したが[37]、表計算ソフトの関数を使用して他の情報と紐付けすることで簡単に復元ができるという指摘がある[38]。
制度への反対意見
全国青色申告会総連合は2020年に公表した「令和3年度 税制改正要望意見」においてインボイス制度への移行の取りやめを要望している[39]。
東京商工会議所は2021年に公表した「令和4年度税制改正に関する意見」において、“インボイス制度の導入は当分の間凍結すべき”と意見している[40]。
ライターの小泉なつみは「フリーランス・個人事業主の市民の会」を発足、「STOP!インボイス」のオンライン署名は開始から約1週間で3万人を越えた[41]。
2021年11月1日時点で、日本商工会議所、全国建設労働組合総連合、全国商工団体連合会、日本米穀商連合会、日本税理士会連合会、農民運動全国連合会、全国中小企業団体中央会、全日食チェーン商業協同組合連合会、全国青年税理士連盟、中小企業家同友会全国協議会、税経新人会全国協議会、東京税理士政治連盟といった団体が廃止や凍結、延期や見直しを表明している[42]。
2022年2月3日、日本出版協議会はインボイス制度の導入に反対する声明を発表した[43]。
2022年3月13日、「インボイスを考える芸人シンポジウム」が開催、水道橋博士らが出席した[44]。
2022年4月19日に自民党本部において開催された「中小企業・小規模事業者政策調査会インボイス対策小委員会」の幹部会に全国中小企業団体中央会、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国商店街振興組合連合会が出席し、全国中小企業団体中央会はインボイス制度の凍結を意見した[45]。
2022年6月2日、全国商工団体連合会は「消費税率を5%に引き下げ、複数税率・インボイスの即時廃止を求める請願」署名12万7140人分を国会に提出した[46]。
税理士有志による「インボイス制度の中止を求める税理士の会」が2022年6月9日、衆院第2議員会館で記者会見を開き、インボイス制度の問題点について報告した[47]。
2022年6月29日、日本税理士連合会は「令和5年度税制改正に関する建議書」を決定、公表した[48]。
2022年7月4日、日本漫画家協会はインボイス制度の導入に反対する声明を発表、インボイス発行事業者になると本名が公表されることになるため、個人情報保護の点からリスクがあることにも言及した[49]。
2022年7月5日、日本アニメーター・演出協会は、“クリエーターや小規模事業者に過度の事務負担を生じること”“税の公平に反すること”“アニメ制作の現場環境を悪化させること”を理由として、インボイス制度の導入に反対する声明を発表した[50]。
2022年7月6日、日本SF作家クラブはインボイス制度の導入に反対する声明を発表した[51]。
2022年8月22日、映画演劇労働組合連合会はインボイス制度の施行中止を求める声明を発表した[52]。
2022年8月、声優の甲斐田裕子が咲野俊介、岡本麻弥と「VOICTION(ボイクション)」を立ち上げ、インボイス制度の実施によってエンタメ業界が大打撃を受けるとして、国会議員に陳情するなどの活動をしている[53][54]。9月に行った声優への実態調査では、回答者の72%が年収300万円以下で、1000万円以上は5%、23%の人がインボイスの影響で廃業するかも知れないと回答している[54]。
脚注
注釈
- ^ 簡易課税制度を選択している場合、適格請求書の保存は仕入税額控除の要件とならない[11]。
- ^ この申請書の提出は2021年(令和3年)10月1日から可能であり、適格請求書等保存方式の導入と同時に登録を受けるためには原則として2023年(令和5年)3月31日までに提出する必要がある[12][13]。
- ^ 適格請求書を交付することが困難な場合を除く[23]。
- ^ 写しには、書類の複写のほか、レジのジャーナルなどの記載事項が確認できる程度の記載がされているもの含む[23]。
- ^ 電磁的記録の保存には、タイムスタンプを付して保存する、訂正・削除を行った場合にその事実及び内容を確認することができる電子計算機処理システム、または訂正・削除することができない電子計算機処理システムを使用して保存することなどの一定の措置が必要となり、電磁的記録を印刷して保存する場合には、整然とした形式および明瞭な状態で出力する必要がある[23]。
- ^ 経過措置として、適格請求書等保存方式導入前の(従来の)免税事業者からの仕入について、2023年(令和5年)10月1日から2026年(令和8年)9月30日まではその仕入税額の80%が、2026年(令和8年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日まではその仕入税額の50%が課税仕入れに係る消費税額とみなされる[28]。
出典
- ^ “インボイス制度の概要|国税庁”. www.nta.go.jp. 2022年11月18日閲覧。
- ^ a b c 主要国の付加価値税におけるインボイス制度の概要 財務省
- ^ a b c “韓国におけるデジタルインボイス導入のこれまで”. マネーフォワードFintech研究所. 2022年11月18日閲覧。
- ^ a b “特集 インボイス制度”. www.nta.go.jp. 2022年11月18日閲覧。
- ^ “IMF conference report 35th”. 2022年11月18日閲覧。
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参考文献
- 山田敏也「適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)の導入後における仕入税額控除方式 ―欧州等のインボイス制度を参考に―」『税務大学校論叢』第98号、税務大学校、2020年6月、1-107頁、NAID 40022165468。
- 『消費税軽減税率制度の手引き』国税庁、2020年8月 。