「北九州児童養護施設虐待事件」の版間の差分
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{{Infobox 事件・事故 |
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|名称=北九州児童養護施設虐待事件 |
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|場所={{JPN}} [[福岡県]][[北九州市]] [[小倉南区]] |
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|日付=【第1の事件】2019年3月8日発生<br>【第2の事件】2018年12月23日発生<br>【第3の事件】2019年9月10日発生<br>【第4の事件】2016年1月ころ発生<br>【第5の事件】2017年6月発覚<br>【第6の事件】2019年11月発覚<br>【第7の事件】2000年6月24日発生 |
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|概要= [[福岡県]][[北九州市]] [[小倉南区]]にある児童養護施設において、勤務する男性職員4名から、入所する男子児童4名及び女子児童1名が性的虐待を受けたほか、男子児童4名が身体的虐待を受けた事件である。 |
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|原因=【主因】男性職員による不法行為<br>【遠因】施設を運営する法人及び施設長の放漫な施設運営。 |
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|攻撃側人数=4名 |
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|被害者=児童養護施設に入所する男子児童7名と女子児童1名の計8名。 |
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|損害=男子児童Aについては自殺未遂に及んだほか、精神疾患を患い近くの大学病院に約3ヶ月間の入院を余儀なくされた。男子児童Iについては、患部が化のうしたため1週間の入院を余儀なくされた。 |
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|犯人=福岡県北九州市小倉南区にある児童養護施設において児童指導員として勤務していた男性4名。 |
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|対処=①被害児童及び第三者による事件の通告・通報、➁住民監査請求、➂北九州市議会での追及、➃北九州市役所の特別指導監査、➄第三者による福岡県弁護士会への人権救済の申立てなど。 |
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|管轄=福岡地方検察庁小倉支部<br> |
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福岡県警察本部少年課及び福岡県小倉南警察署の生活安全課少年係 |
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|影響=①男性職員Yは事件が発覚した2017年6月に自主退職に追い込まれた。その後の市役所の特別指導監査により、➁施設長V及びWの放漫な施設運営が発覚し、両施設長は2020年1月に解任されたほか、➂30歳代後半の男性職員Uによる男子児童3名に対する身体的虐待も発覚し、Uは2020年2月に事実上退職に追い込まれた。 |
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|画像={{基礎自治体位置図|40|100|image=Kitakyushu in Fukuoka Prefecture Ja.svg|size=300px|村の色分け=yes}} |
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|容疑=男性職員Xについて、強制性交等、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)、児童ポルノ法違反(製造)、児童買春、強制わいせつ容疑で逮捕された。|動機=①男性職員Yにつき恋愛感情から、わいせつ行為に及んだとした。➁男性職員Xにつき性的欲求の発散の為、わいせつ行為に及んだとした。➂男性職員Uは、いずれの暴行も、入所児童から殴られそうになったことから、やむを得ず先に児童を殴打していまったとした。➃男性職員Tは、注意した入所児童が反抗的な態度だったので1回だけ平手打ちしたとした。|刑事訴訟=「男性職員Xの事件」について<br>福岡地方裁判所小倉支部の鈴嶋晋一裁判長より、2019年12月2日、懲役8年(求刑懲役9年)の判決が下され、同判決は同年12月に確定した。男性職員Xは佐賀県内の刑務所に収監された。|title=北九州児童養護施設虐待事件<br>|賠償=入所児童Dの親権者とのみと2019年に示談が成立している。|手段=①男性職員Yにつき、施設外や施設内の児童の居室において、Eに対する恋愛感情から性的虐待に及んだ。➁男性職員Xについては、Xの自宅に男子児童を宿泊させたうえで、手錠を使用して性的虐待をすることもあったほか、諭旨免職後の2019年2月以降も、中学校近くの私道にXの自家用車を駐車し、男子中学生に1回あたり数千円を提供して児童買春を続けていた。}} |
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'''北九州児童養護施設虐待事件'''(きたきゅうしゅうじどうようごしせつぎゃくたいじけん)とは、[[福岡県]][[北九州市]] [[小倉南区]]にある[[児童養護施設]](2019年2月の入所児童32名<ref name=":2" />)において、勤務していた4人の男性職員によって、小学生4年生から高校生までの9名の入所児童がが[[虐待]]を受けた事件である。 |
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== 事件の構成 == |
== 事件の構成 == |
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この事件は、市の補助金など約6000万円の不正受給していた[[児童養護施設]]において[[児童指導員]]として勤務していた男性職員4人が起こした、次の「第1」から「第7」の事件から構成されている。ちなみに、第6の事件以外は、運営法人や施設側の申告でなく「第三者」の通報・通告で当該[[児童虐待]]が発覚している。 |
この事件は、市の補助金など約6000万円の不正受給していた[[児童養護施設]]において[[児童指導員]]として勤務していた男性職員4人が起こした、次の「第1」から「第7」の事件から構成されている。ちなみに、第6の事件以外は、運営法人や施設側の申告でなく「第三者」の通報・通告で当該[[児童虐待]]が発覚している。 |
2022年12月3日 (土) 16:53時点における版
事件の構成
この事件は、市の補助金など約6000万円の不正受給していた児童養護施設において児童指導員として勤務していた男性職員4人が起こした、次の「第1」から「第7」の事件から構成されている。ちなみに、第6の事件以外は、運営法人や施設側の申告でなく「第三者」の通報・通告で当該児童虐待が発覚している。
職員Xによる事件
福岡県小倉南警察署の捜査で、当該施設に勤務していた男性職員Xが、2016年1月から2019年3月において、入所する小学生から中学生の男子児童4名に対して、性的虐待をしていたことが、2019年6月から8月に発覚した(第1~第4の事件)。
職員Yによる事件
北九州市議会の2019年の9月議会において、当該施設に勤務していた男性職員Yが、入所する女子児童1名に対し性的虐待をしていたことが発覚した(第5の事件)。
職員Uによる事件
北九州市役所が、男性職員Xに係る特別指導監査をするなかで、当該施設に勤務する男性指導員Uが、入所する男子児童3名に対し身体的虐待をしていたことも2019年11月までに発覚した(第6の事件)。
職員Tによる事件
当該施設に勤務していた男性職員Tが、入所する男子児童1名に対し身体的虐待をし、1週間の入院を余儀なくさせていたことが、2000年6月に発覚していた(第7の事件)。
職員Xの事件
概要
大舎制[1]の児童養護施設で進路指導や健康管理などを担当していた男性職員Xは、パパ・兄ちゃんと呼ばれ入所児童から慕われていた。しかし、男性職員Xは深夜に「指導」と称して入所する男子児童と空き部屋で2時間程度を過ごしたり、施設に無断で入所児童を連れ出したりするなどの不適切な行為が度々あった。このため施設側は2018年に「児童への過剰な接触」を理由として男性職員Xに訓戒処分を下していたものの、改善が見られなかったことから、男性職員Xは、2019年2月に、諭旨免職処分となり約7年勤務した施設を退職することとなった。2019年2月以降、被害児童や第三者からの通報を受けた福岡県警本部・福岡県小倉南警察署の捜査によって、入所男子児童(小学生2名、中学生2名、計4名)が性的虐待を受けていたことが判明した[2][3]。
原因
事件の主な原因は、男性職員Xによる不法行為であるが、北九州市議会、北九州市社会福祉審議会、北九州市役所、福岡県弁護士会の追及により、入所児童に対する「人権侵犯」など児童養護施設を運営する法人の理事会・施設長Wの放漫な施設運営が事件の遠因であったことが判明した[4][5]。
第1の事件
男性職員Xは、退職後の2019年3月8日、入所する男子児童Cを施設に無断で呼び出していた。そして同日午後10時30分ころ、福岡県北九州市内のビジネスホテルの客室内において、わいせつな行為をさせたとして児童福祉法違反などの疑いで、2019年6月17日に逮捕された。男子児童Cが、この日施設に戻らなかったことから、施設側は福岡県小倉南警察署に行方不明届を提出していたものの、男子児童Cは翌日には自ら施設に戻った。男性職員Xは「ホテルに行ったが、わいせつな行為はしていない」などと容疑を否認していたものの、北九州市役所は施設の特別指導監査を開始した[2][3]。
今回の事件について、福岡県福岡市にある西南学院大学人間科学部社会福祉学科の安部計彦は、「小児性愛などの性的指向を持つ人にとって施設が犯行しやすい場となっている可能性があり不用心だ。採用で性的指向を確認する仕組みが必要」と指摘している[3]。
第2の事件
男性職員Xは、2018年12月23日午前2時ころ、自宅において、13歳未満と知りながら入所する男子児童Dにわいせつな行為をしたり、させたりしたなどとして、強制性交等と児童福祉法違反の疑いで2019年7月8日に再逮捕された。男性職員Xは、入所児童に家庭的な環境を経験させることを目的に、週末や長期休みに施設職員の自宅に児童を宿泊させる「一日里親」の仕組みを利用して、当時、勤務していた施設には無断で男子児童DとMの2名を自宅に宿泊させていた。なお、男性職員Xは退職後、男子児童Dに対して「12月のことは言うな」と口止めをしていたほか、「自宅に泊めたが、わいせつな行為はしていない」などと容疑を否認していた[5][6]。
第3の事件
男性職員Xは、2018年9月10日午前1時ころ、当時勤務していた施設2階の宿直室において入所男子児童Bに、わいせつな行為をさせ上で、ビデオカメラで撮影したとして、児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノ法違反などの疑いで、2019年7月29日に再逮捕された。なお、男性職員Xの自宅などの家宅捜索では、金属製の手錠のほかビデオカメラなどが押収されていたが、このビデオカメラ内に、今回のわいせつ画像が残っていた。これを受け男性職員Xは、否認していた1回目と2回目の逮捕容疑を含めて、すべての容疑について認めた[7][8]。
第4の事件
第1から第3の事件で逮捕されていた男性職員Xは、2016年1月ころから当時勤務していた施設2階の宿直室で、入所男子児童Aに対し、わいせつな行為をしたとして、2019年8月、強制わいせつの容疑で追送検された[7]。
他の職員の事件
第5の事件
男性職員Xの事件を追求していた2019年9月の北九州市議会において、この施設に勤務していた男性職員Yが、入所する女子児童Eと施設外で会うなどして、不適切な関係をもっていたことが発覚し、当該職員は、2017年6月の事件発覚直後に自主退職していたことが、自民党市議会議員の質問で明らかになった[4][9]。
第6の事件
この施設に勤務していた30歳代後半の男性指導員Uは、遅くとも2018年9月以降、入所する男子児童3名に対して「手拳で殴る」などの身体的虐待をしていた[10][11]。当該事件の発覚のきっかけはとなったのは、福岡県小倉南警察署が、2019年4月に、男性職員Uを、あくまでも「男性職員X」の事件の捜査のため電話で呼び出した際、突然の呼び出しに動揺した男性職員Uは自身の過去の虐待が警察にばれたと勘違いし、施設長Wに対して、その虐待の事実を告白したことによるものであった。しかし、施設長Wは、当該虐待の事実を警察や所管庁(児童相談所など)に報告をしなかった。その後、2019年6月からの北九州市役所「特別指導監査」により、当該虐待の事実が2019年11月までに発覚した[10]。
第7の事件
入所する男子児童Iが、2000年6月24日に施設内でゲーム遊びをめぐって別の児童と口論になったことから、男性指導員Tは、これを制止したものの、男子児童Iが口応えするなど反抗的な態度に出たため、男子児童Iの左ほうを1回「平手打ち」にした。同月26日になり患部が化のうしたため、1週間の入院を要する事態となった[12]。また、第7の事件においては、施設の職員が子どもの了解をを得ないで持ち物検査をしていたことも判明したことから、市役所は➀入所児童の権利擁護に配慮すること。➁勝手な持ち物検査はプライバシーの侵害に当たること。➂問題が発生したときは即時報告することなど5項目を指導した[12]。
施設の実態
運営法人の概要
この施設を運営する法人は、福岡県北九州市小倉南区に本部を置き、おおよそ70年の歴史がある社会福祉法人である。主に「児童福祉事業」と「高齢者福祉事業」を行っており、児童養護施設については複数の施設を運営している[4]。
不適切な法人運営
2017年、この施設を運営する法人は、児童養護施設への北九州市役所の補助金など約6000万円を不正受給したほか、約600万円の使途不明金を発生させるなど計25件の不適切な業務運営があったことが明るみになったことから[13]、2019年6月、北九州市役所から「改善勧告」を受けた。ちなみに、この不正受給が発覚したのは、運営法人や施設側からの申告ではなく「第三者」による通報であった[14]。
不適切な親族人事
2018年3月、前年の不祥事を受け、この施設を運営する法人の理事会は、理事長を含む過半数の理事を刷新した。しかし、2019年6月において、不祥事の責任を取って理事を辞めたはずのV及びTが復職した。2019年11月、北九州市役所子ども家庭局は、V及びTが「理事に復職するのは、健全化を目指す組織の対応として考えられない」と指摘。親族関係を重視した理事会体制を改め、理事の資質を確保することなどを求める「改善勧告」を発出した[4][15][10][11][16][17]。
法人理事Zの横領
この施設を運営する法人の理事の一人であった男性Zは、施設屋上にある携帯電話基地局の設置料を、理事在任中の2015年より毎月にわたり個人口座に振り込ませていた。男性Zは13年9ヶ月にわたり振り込ませた法人の事業収入約1700万円を花見・カラオケなどの私的な支出に、ほぼ全額を使い切っていたことから[18][19]、国税庁小倉税務署(福岡県北九州市)は、仮装や隠蔽を伴う悪質な所得隠して2019年3月に無申告加算税を課した。また、法人側は同年5月に男性Zを解任(解任時は非常勤職員)し、同年8月には約1700万円の返還を求める民事訴訟を福岡地方裁判所小倉支部に提起した[20]。
市議会議員でもあった男性Zは、北九州市議会事務局に対して、この法人が2010年に589万円で購入したワンボックスカー(日産エルグランド)で駐車場申請し、登庁などの政務に当該自動車を使用していた。このため北九州市役所は、2018年9月に「改善勧告」を行った経緯がある[21][22]。
施設長Vについて
- 当時、この法人が運営する施設の施設長であったVは、月額44万円であった自身の給料を段階的に74万円まで引き上げたが、北九州市役所は不適切な増額であるとして、平成2018年9月に「改善勧告」を出した経緯がある[22]。
- 施設長Vは、定められた勤務時間に就業せず、勤務先とは別の施設の給食を「検食」と称して自宅に持ち帰っていた[10]。
- 施設長Vによるパワハラについても職員から多くの証言が北九州市に寄せられていたとして、2019年11月に「改善勧告」を出した経緯がある[10][15][23]。
住民監査請求
施設長Wは、当時、米国の高校に進学しているWの長男に、当該法人が契約している携帯電話を貸し出して、本来、当該法人の業務では発生しないはずの海外パケットを発生させていた。このほか、他の一部の幹部職員についても、私的に当該法人が契約する携帯電話を使用している可能性が一定程度認められた。このため、公金である措置費から、これらの費用を賄うのは違法、不法であるとして住民監査請求が2019年9月に申し立てられた(2019年10月8日公表分[24])[25]。このことが契機となり、弁護士でもある法人理事によって、原告を当該法人、被告を施設長Wらとする損害賠償(電話使用料金の返還)請求が、2021年2月に提起されることとなった[26]。
議会の審議
2018年9月20日、北九州市議会「平成30年度決算特別委員会 第2分科会不議事件」(於:北九州市役所議事堂・第一委員会室)における自由民主党の市議会議員の質問で、以下のことが明らかになった[27]。
再発防止策の未履行
この施設の男性職員Yが、女子児童Eを性的虐待事件していたことが2017年6月に発覚した[4][9]。2017年10月、施設長Wは虐待防止研修の定期的な開催、防犯カメラの録画内容を翌日に確認することなどを柱とする再発防止策として決めていた。しかし施設長Wは、これらの再発防止策の履行を1年余り放置し、今回の事件の発生を許す結果となっていたことが明らかになった[4][27]。
理事会の機能不全
施設を運営する法人の「理事会」において今回の事件がに報告されても、ほぼ議論はなかったうえ、適正を欠く施設長V・Wを放任していることが明らかになった。このため、北九州市子ども家庭局は今回の事件について「北九州市社会福祉審議会」に調査審議の依頼することにしていた[4][27]。
職員Xの裁判
2019年10月起訴
男性職員Xは勤務していた施設に入所する少年への性的虐待により、福岡地方裁判所小倉支部に起訴された。男性職員Xは、入所する男子児童らにタブレット端末で遊ばせる、旅行に連れて行くなどして親しくなったうえで、わいせつな行為を長年続けていた。また、諭旨免職後の2019年2月以降も、中学校近くの私道にXの自家用車を駐車して、男子中学生に1回あたり数千円を提供して児童買春を続けていたとする、これら起訴事実について「間違いありません」と認めた[28][29]。
2019年12月判決
福岡地方裁判所小倉支部の鈴嶋晋一裁判長は、入所児童を指導・監督する立場にあったうえ、被害男子児童A~D(小学生2名・中学生2名)に慕われていた面もあった。にもかかわらず「児童指導員の立場を悪用して自らの性欲のはけ口として犯行に及んだものであり、酌むべき点はない」と指摘。男性職員Xは「以前から同様の行為を繰り返しており、常習性は明らか」、「社会に与えた不安も無視できない」として、男性職員Xに対して懲役8年(求刑懲役9年)の実刑判決を言い渡した[30][31]。なお、判決は2019年12月に確定した[4]。
提言・勧告
社会福祉審議会の「提言」
2019年11月、北九州市社会福祉審議会は下記により施設長V・Wの退任を法人の理事会に求めるべきと北九州市役所に提言をした[4][23]。
<提言の概要>
- 施設長Wは、男性職員Xによる指導記録の不記載、勤務時間外の不用意な居残り等について労務管理できていなかった。
- 施設長Wは、事件発覚前・後において夜警を強化しなかったことから、入所する男子児童間の性暴力が見過ごされていた。
- 男性職員Xから虐待を受けていた一部の被害児童においては、児童間の性暴力では一転、加害者側に転化をしていた。
- 施設長Wは、事件発覚前・後において心理療法担当職員2名を欠員させ、入所児童に対する心のケアができていなかった。
- 施設長Wは、今回の虐待事件を元男性職員X個人の性的嗜好とし施設側も被害者であるとの誤った認識を持ち続けていた。
- 法人の理事会も、今回の虐待事件は元男性職員X個人の問題とし事件の原因等について、議論がほとんどなされなかった。
- 施設長V・Wは日頃より高圧的な姿勢で施設職員に接していたことから、職員は施設長に何も言えない状態になっていた。
- 法人の理事会は、適格性を欠いている施設長V・Wを放任するなど、内部統制システムが機能不全の状態に陥っていた。
- 法人の理事会は、不祥事により退任した理事を再任させるなど、改革を目指す組織としてあり得ない法人運営をしていた。
北九州市の「改善勧告」
2019年6月より特別指導監査を続けていた北九州市役所子ども家庭局は、前出の社会福祉審議会の提言を受け、社会福祉法などの規定に基づき、施設の管理体制の見直しを求める「改善勧告」を2019年11月27日に行った。なお、その内容は、2019年12月26日までに法人が北九州市役所に提出する報告書の内容次第では新たに「業務停止命令」等の措置を講ずるとした厳しいものであった[10][15][16][17]。
- 理事会体制を改め、児童福祉の専門知識や経験を有するなど、理事の資質が確保できるような人材配置を行いガバナンスの強化を図ること。
- 不祥事等の問題が生じた場合、速やかに原因の究明や再発防止の審議を行い、十分な対策を講じるなど、形骸化しない議事の活発化・透明化を図ること。
- 内部統制システムが機能しているかを客観的にチェック・モニタリングするために、➀外部の有識者を加えた第三者委員会等を設置すること、➁提案書や改善勧告で指摘した問題点や課題を再検証すること、➂適切な施設運営の再構築及び児童の処遇向上に向けた改善策を策定すること。
- 児童養護施設の長の資格として必要とされる適格性の要件を満たす人材を配置し、施設の管理運営体制の再構築を図ること。
- 施設の管理運営や再発防止が適正に実施されるよう、内部統制に係る体制・システムを構築すること。
- 虐待やケアの質を高める研修等を定期的、計画的に行い、職員の処遇スキルと倫理意識の向上を図っていくこと。
- 職員から児童への暴力、児童間の暴力、児童から職員への暴力の3種の暴力に包括的に対応する具体策を検証すること。
弁護士会の「勧告」
第三者から「子どもの人権救済の申立書」を受理していた福岡県弁護士会(人権擁護委員会)は、施設を運営する法人を訪問し「人権救済勧告」を2021年12月2日に執行した[33][34]。このなかで県弁護士会は、施設が児童福祉法などが定める最低限の技術的基準を遵守していなかったために、男性職員Xによる加害を防止できなかったとした。また、被害を拡大させたことは被害児童が有する「人格権」(憲法13条)、「子どもの成長発達権」(児童の権利に関する条約前文、6条、19条)や、「虐待から保護される権利」を侵害することとなると勧告した[35]。
再発防止策
運営法人の防止策
施設を運営する法人は、北九州市役所の改善勧告を受け、次の対応策を実施した[4]。
- 理事長を含む3名の理事が退任し、児童福祉の専門知識や経験を有する新たな理事を就任させた。
- 施設長V及びWを2020年1月に解任し、適格性の要件を満たす人材を同年同月を就任させた。
- 今回の事件の「原因の究明」、「再発防止策の策定及び実施」を行い再発防止策の徹底を図った。
- 「内部管理体制の基本方針」に沿った業務実施を徹底するようにした。
- 職員の育成は法人の責務と位置づけ、研修体系等を明確にし、体系に従った研修を実施するようにした。
- 施設内に職員を主体とした「安全・安心委員会」(仮称)を設置した。
- 理事会とは独立した立場から、法人が定めた「内部管理体制の基本方針」などに基づき、法人経営が行われているか、履行状況に関するモニタリングを行う「第三者によるモニタリング委員会」を設置した。
施設の防止策
施設は、北九州市役所の改善勧告を受け、次の対応策を実施した[4]。
- 入所児童への性教育の実施。
- 「権利ノート」を利用した人権教育の実施。
- 「意見箱」の設置。
- 児童相談所作成の「24時間子ども相談ホットライン」カードの配付。
- 施設職員への性暴力防止研修の実施。
- 施設職員への「報連相」の周知。
- 「性暴力等の対応マニュアル」の作成及び研修の実施。
- 被害児童・加害児童について新たに「自立支援計画」の策定。
- 施設の安全点検の実施。
- 児童自治会活動の活性化。
北九州市役所の防止策
福岡県北九州市内にある児童養護施設の入所児童から本音を引き出し、保護などにつなげる「アドボケイト(代弁者)[脚注 1]」の相談員を配置した。アドボケイトは虐待などを受けても第三者に打ち明けづらい立場にある子どもの意思表明を支援するのが役割である。具体的には心理士などの資格を持つ相談員3名を福岡県北九州市にある「子ども・若者応援センターYELL(エール)」に配置し、2020年度より同市内に7ヶ所ある児童養護施設を毎月1回づつ巡回している[36][37]。
出典・注釈
出典
- ^ ユニットケア・グループホーム、大舎制など児童養護施設の種別は、児童養護施設#分類を参照のこと。
- ^ a b “淫行させた疑い 元施設職員逮捕 福岡県警 入所の中学生に”. 朝日新聞. (2019年6月18日)
- ^ a b c “児童養護施設 相次ぐ性犯罪”. 西日本新聞. (2019年6月18日)
- ^ a b c d e f g h i j k 「勧告書」. 福岡県弁護士会. (2021-12-2). pp. 1,4-6,12-13,18
- ^ a b “入所男児にわいせつ容疑 北九州 元施設職員を再逮捕”. 朝日新聞. (2019年7月9日)
- ^ “「一日里親」男児にわいせつ容疑 福岡 自宅に泊まらせ 元施設職員を逮捕”. 毎日新聞. (2019年7月9日)
- ^ a b “元施設職員を再逮捕 わいせつ行為をさせ生徒を撮影容疑”. 朝日新聞. (2019年7月30日)
- ^ “児童にわいせつ行為させ撮影容疑 養護施設元職員を逮捕”. 朝日新聞デジタル. 2022年8月5日閲覧。
- ^ a b “養護施設 別の職員も不祥事 北九州わいせつ 2年前 生徒と交際”. 西日本新聞. (2019年6月19日)
- ^ a b c d e f g h 令和元年度 児童養護施設に係る社会福祉法人に対する特別監査の結果(改善勧告). 北九州市子ども家庭局. (2019-11-27). pp. 1-6
- ^ a b “養護施設わいせつ 他職員の虐待も確認 北九州市 管理体制の改善勧告”. 西日本新聞. (2019年11月28日)
- ^ a b “養護施設指導員が平手打ち、園児が入院 - 北九州市、施設を行政指導”. 毎日新聞. (2000年8月31日)
- ^ “補助金3千万円を不正受給 市議が元理事の社会福祉法人”. 朝日新聞デジタル. 2022年9月6日閲覧。
- ^ 一般指導監査及び特別指導監査(計25件). 北九州市子ども家庭局子育て支援課. (平成29~30年). pp. 1-6
- ^ a b c “北九州市 改善勧告 児童養護施設運営 理事会正常化など”. 毎日新聞. (2019年11月28日)
- ^ a b “北九州市、児童養護施設運営の改善勧告 理事会正常化など /福岡”. 毎日新聞. 2022年8月26日閲覧。
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- ^ “北九州市議が所得隠し 法人収入を「私的流用」 小倉税務署認定 追徴460万円”. 西日本新聞me. 2022年8月9日閲覧。
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- ^ “現況報告書等のダウンロード(令和3年度)”. 独立行政法人 福祉医療機構. 2022年11月26日閲覧。
- ^ a b c 平成30年度決算特別委員会 第2分科会不議事件 9月20日第1委員会室議事録. 北九州市議会事務局. (2019年9月)
- ^ “養護施設元職員 わいせつ認める 地裁小倉支部で初公判”. 朝日新聞. (2019年10月12日)
- ^ “子どもへわいせつ行為などの罪、元養護施設職員が認める”. 朝日新聞デジタル. 2022年9月11日閲覧。
- ^ “養護施設元職員、懲役8年の判決 入所者にわいせつ行為”. 朝日新聞. (2019年12月4日)
- ^ “入所の子4人にわいせつ行為 元養護施設職員に懲役8年”. 朝日新聞デジタル. 2022年8月5日閲覧。
- ^ a b “特別指導監査結果”. 北九州市役所子ども家庭局. 2022年12月1日閲覧。
- ^ “児童施設性犯罪 信頼を悪用 北九州の法人に虐待防止勧告 県弁護士会”. 西日本新聞. (2021年12月3日)
- ^ “北九州の児童施設に虐待防止勧告 相次ぐ性犯罪 背景は? 対策は?”. 西日本新聞me. 2022年8月5日閲覧。
- ^ “弁護士会の人権救済申立制度(2021年12月「児童養護施設虐待事件」)”. 福岡県弁護士会. 2022年8月2日閲覧。
- ^ “虐待NO子どもの声代弁 養護施設に相談員派遣 北九州市「第三者の目配り必要」”. 西日本新聞. (2020年2月12日)
- ^ “北九州市予算 児童養護施設 子どもの声すくい上げる 福岡”. 毎日新聞. 2022年9月11日閲覧。
注釈
- ^ 「代弁」や「養護」を意味する「アドボカシー」の担い手。子ども、障害者や高齢者など、自分の意思を表示するのが難しい人を手助けする。子どもの意思表明権を保障する「マイク」とも例えられ、先進国では英国やカナダで導入されている。
参考文献
刑事裁判
- 福岡地方裁判所小倉支部令和元年12月2日判決文(事件番号:令和元年第1991号)第2刑事部合議係 鈴嶋晋一裁判長
関連項目
施設の虐待事件
- 恩寵園事件
- 和歌山少年暴行事件
- 埼玉児童性的虐待事件
- サレジオ学園事件
- 北九州児童養護施設虐待事件ー福岡県弁護士会(2021年12月2日参照)
- 風の子学園事件
- 不動塾事件
- 下関市知的障害者施設虐待事件
- 戸塚ヨットスクール事件
その他
外部リンク
政府系・国際機関
- 男性の性被害 全国の相談窓口ーNHKの取材内容
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧(♯8891)ー内閣府・男女共同参画局
- 性犯罪・性暴力対策ー内閣府・男女共同参画局
- 性被害のSNS(外国語にも対応)・メール相談ー内閣府
- なくそう、子どもの性被害ー警察庁
- 児童虐待防止対策ー厚生労働省
- 社会的養護ー厚生労働省
- 子どもの権利条約ーUNICEF
その他
- 性暴力救護センター(24時間365日受付)-BBCが伊藤詩織氏に関する放送で紹介した日本の組織
- 子どもの虐待防止センターー日本の社会福祉法人
- 児童虐待防止協会ー日本の認定NPO法人
- 日本子ども虐待防止学会―日本の一般社団法人
- 日本子どもを守る会ー日本の社会運動団体
- 子どもの権利委員会ー日本弁護士連合会
- 施設内虐待を許さない会-前身は日本の市民団体「恩寵園の子どもたちを支える会」
- 性暴力・性犯罪に関するリンク集
- 北九州市役所子ども家庭局子育て支援課ー当該法人及び施設の所管庁