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「グルーミング (性犯罪)」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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Breaklily氏は冒頭以外は無関係であるというのであるが、子供の同意能力を否定し、大人と子供の性的関係を性被害または性加害として定義した上で、それらを目的として子供とコミュニケーションを取る事をグルーミングと呼んでいる以上、この用語の前提とされている事柄についての議論に立ち入る事は当然のことかと思われる。
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[[性犯罪]]・性的虐待の文脈における'''グルーミング'''{{Efn|一般的な用語としての[[グルーミング]]は「毛繕い」という意味である。}}、'''チャイルド・グルーミング'''(英:child grooming)とは、[[性交]]や[[猥褻]]行為などの[[性的虐待]]をすることを目的に、[[未成年]]の子どもと親しくなり、信頼など感情的なつながりを築き、手なずけ、時にはその家族とも感情的なつながりを築き、子どもの性的虐待への抵抗・妨害を低下させる行為である<ref>{{Cite web |date=2021-05-26 |title=What you can and cannot do as a minor |url=https://www.citizensadvice.je/what-you-can-and-cannot-do-as-a-minor/ |access-date=2022-06-24 |website=Citizens Advice Jersey |language=en-GB }}</ref><ref>{{Cite web |title=Why Permission from a Child or Underage Teen Doesn't Count {{!}} Stop It Now |url=https://www.stopitnow.org/ohc-content/why-permission-from-a-child-or-underage-teen-doesnt-count |access-date=2022-06-24 |website=www.stopitnow.org |language=en}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.pandys.org/articles/sexualabusegrooming.html|title=Child Sexual Abuse and the "Grooming" Process|access-date=2014-01-04|archive-url=https://web.archive.org/web/20151218085038/http://www.pandys.org/articles/sexualabusegrooming.html|archive-date=2015-12-18|url-status=dead}}</ref><ref>{{Cite book|title=Child Pornography and Sexual Grooming : Legal and Societal Responses|url=https://archive.org/details/childpornography00osts|url-access=limited|last=Ost|first=Suzanne|publisher=Cambridge University Press|year=2009|isbn=9780521885829|location=Cambridge, United Kingdom|pages=[https://archive.org/details/childpornography00osts/page/n47 32]}}</ref><ref name="n13563">{{Cite web |title=「時計の針を戻さずに審理を」性犯罪の刑法改正、被害当事者らが訴え|author= 出口絢|url=https://www.bengo4.com/c_1009/n_13563/|website=弁護士ドットコムニュース|date=2021-09-16|access-date=2023-06-18}}</ref><ref name="cnet35180096">{{Cite web |title=子どもがSNSで性的被害にあう理由--「オンライングルーミング」の手口とは?|author= 高橋暁子|url=https://japan.cnet.com/article/35180096/|website=CNET Japan|date=2021-12-04|access-date=2023-06-18}}</ref>。'''性的グルーミング'''、'''性的手なずけ'''とも<ref name="PO20230619"/>。
[[性犯罪]]における'''グルーミング'''とは、[[性交]]等または[[猥褻]]な行為などをする目的で、未成年者を手なずけるする行為である<ref name="n13563">[https://www.bengo4.com/c_1009/n_13563/ 「時計の針を戻さずに審理を」性犯罪の刑法改正、被害当事者らが訴え - 弁護士ドットコム]</ref>。'''「チャイルド・グルーミング」'''とも呼ばれる<ref name="cnet35180096"/><ref name="ryukyu1326791">[https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1326791.html 子どもたちを「チャイルドグルーミング」から守るために -モバプリの知っ得![129] - 琉球新報Style - 沖縄の毎日をちょっと楽しく新しくするウェブマガジン。]</ref>。


== 手段 ==
== 概要 ==
未成年者へのグルーミングは、[[児童虐待]]の一形態である。[[リヴァプール・ジョン・ムーア大学]]のミシェル・マクマナスは、グルーミングに共通する側面は、加害者が信頼と[[ラポール]](感情的な親密さ)を築くことによって、被害者を操作するということであるとしている<ref name="McManus"/>。加害者は「特別なご褒美」や「愛の告白」等の物心両面から被害児童を可愛がり、信頼や愛情を得てから、命令、脅しなどを用いて弱みを巧みに掌握し、支配し、操作し、コントロールし{{sfn|高岡ら|2020|p=68}}、性関係へと持ち込んでいく。目白大学教授(心理学)の齋藤梓は、子どもへの性暴力において最も典型的な手段であると述べている{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。性的虐待は多くの場合、性的接触が長期にわたって進行していくという点で、性暴力と異なる{{sfn|日本フォレンジック看護学会|2020|p=4}}。マクマナスは、性的、恋愛的、経済的、または犯罪やテロ目的で行われる場合があるとしている<ref name="McManus"/>。
未成年者への「性的なグルーミング」は、何らかの事情で孤立した対象を標的にして、標的からの信頼を積み上げて関係性を支配してから、性的な行為に及ぶものである<ref name="huffpost114845">[https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_619f3793e4b044a1cc114845 性的行為を目的に子どもを手なずける「グルーミング」の手口とは。被害者が刑法改正に望むこと | ハフポスト]</ref>。臨床心理士で[[目白大学]]准教授の[[斎藤梓]]は、子供との立ち位置によって、「実際に近い人<ref group="注">親戚、教師、コーチ、団体職員、親の交友者など。</ref>から」「あまり近くない人<ref group="注">公園や町で声をかけてきた人など。</ref>から」「オンラインでの行為」に分類している<ref name="huffpost114845"/><ref name="jprime23046"/><ref name="bengo413646"/>。加害者は「悩みを抱えていて孤立の傾向がみられる子ども」を標的にして、その子の「大人に認められたい、誉められたい」という欲求を利用して近づいてくる<ref name="huffpost114845"/><ref name="sukusuku54559"/>。子供に共感を与え、誉める認めるを繰り返すことで親密感を増し、子どもが『加害者に依存』するようになってから、最終的にはその子に性加害を行うのが目的である<ref name="huffpost114845"/><ref name="sukusuku54559"/>。[[立正大学]]教授の[[西田公昭]]は、グルーミングは[[マインドコントロール]]の一種で、ごく普通のコミュニケーションの中で行われることを強調する<ref name="sukusuku54559"/>。対象を近親者から切り離そうとするのも特徴で、そういう言動があったら警戒を促す<ref name="sukusuku54559"/>。


アメリカで生まれた用語で、アメリカの家族以外による児童性的虐待の捜査の現場では、非暴力的な手法を用いる[[チャイルド・マレスター]](児童性加害者)の行動パターンは、「誘惑(性的誘惑、Seduction)」と呼ばれていたが、現在では代わって、グルーミングという用語が定着している{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。グルーミング(英:grooming)という言葉には、動物の[[グルーミング|毛づくろい]]・外観の手入れ、女性の身支度、特定の目的のための準備といった意味がある<ref name="CALiO"/>。現在は親などによる家庭内の性的虐待で使われることも多い。グルーミングという用語は、国際法においては定義されていない{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=41}}。
だが、標的とされた子どもは「信頼できる大人がそんなことをしてくるわけがない」と思い込まれているため、「性暴力被害を受けた」とは気づきにくい<ref name="huffpost114845"/>。また、標的の子ども単体だけではなく、その周囲の家庭や環境からの信頼を得てから、性加害を行うこともある<ref name="huffpost114845"/>。子どもにとっては「いい人」に感じる行動をとるが、それは「標的の子に性加害を行うための作戦」でしかない<ref name="ryukyu1326791"/>。始めは性的ではなく、日常や気遣いの言葉を使い、まず子供の信頼を獲得してから、性的な要求を出してくるため、子どもでは断り切れない<ref name=nishinippon897269/>。斎藤は「信頼している人が自分を傷付けることはない」と子供に思わせた上で、口止めさせることもあり、グルーミングされている被害に保護者は簡単には気づかないという<ref name="sukusuku54559"/>。


顔見知りの子どもに性的虐待を行う者の多くは、時に暴力的な行為も行うが、発覚を避けるために、主に[[誘惑]]やグルーミングのプロセスを通じて被害者を支配する傾向がある{{sfn|Lanning|2018|pp=5-6}}。顔見知りによる性加害は、暴力を用いると早期に発見され、明るみに出る可能性が高まる{{sfn|Lanning|2018|pp=7-8}}。グルーミングを用いると、被害者の協力と継続的なつながりが持てる可能性が高まり、犯罪者にとって非常に重要なことであるが、犯罪が明るみに出る可能性が低くなるのである{{sfn|Lanning|2018|pp=7-8}}。[[FBI]]捜査官・犯罪コンサルタントのケネス・ラニングは、経験から言って、最も執拗で多くの罪を犯す危険な性犯罪者の多くは、主にグルーミングを行い、被害児童を誘惑し、暴力を用いることはほとんどないと述べている{{sfn|Lanning|2018|p=13}}。にもかかわらず、非暴力的な手法であるグルーミングが関与する事件は、処罰が軽い傾向がある{{sfn|Lanning|2018|p=13}}。ラニングは、グルーミングは長期的な誘惑のテクニックというよりも、短期的な誘惑として使われることが多いとしている{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。被害は女子に限られず、男子も同様にある<ref name="jprime23046">[https://www.jprime.jp/articles/-/23046 子どもを手なずけ性搾取 “グルーミング”の卑劣な実態、被害急増中の「SNSを使った手口」 | 週刊女性PRIME]</ref><ref name="nhk4604">[https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4604/ 追跡・SNS性犯罪~ ネット上で狙われる子どもたち - NHK クローズアップ現代+]</ref>。
学校教諭をはじめ、家庭教師、塾教師、スポーツコーチなど、指導を受けている子供たちの「信頼」を得ている立場を悪用したグルーミングも行われている。話や悩みを聞いてくれたり、承認欲求を満たしてくれることから、子どもが加害者に不用意に近づいていくことも多い<ref>[https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220301/med/00m/100/005000c 学校は、教員から子どもへの性犯罪を無くせるのか | 子どもは3密で育つ!?~コロナ時代の学校から | 岡崎勝 | 毎日新聞「医療プレミア」]</ref>。[[弁護士]]の[[川本瑞紀]]は、グルーミングで多い事例は、部活動の指導者や塾の講師などが加害に及ぶケースである。気に入った子供を「特別扱い」して、「上達のため」などの理由を付けて個人指導で二人きりの状況を作ってから性的行動を行う<ref name="sukusuku54559">[https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/life/54559/ 子どもの性被害につながるグルーミングとは 罪悪感や羞恥心につけ込み支配 SNSで深刻化 | 東京すくすく | 子育て世代がつながる ― 東京新聞]</ref>


オンライン、対面、その他のコミュニケーション手段など、さまざまな場面で行われる可能性がある<ref>{{Cite web |title=Grooming: Know the Warning Signs {{!}} RAINN |url=https://www.rainn.org/news/grooming-know-warning-signs |access-date=2023-03-11 |website=www.rainn.org}}</ref>。近年では、SNSなどのオンラインでのグルーミングも知られるようになっており{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}、児童性的虐待コンテンツ([[児童ポルノ]])を含むオンライン性的虐待でも、対面とほぼ同様の経過を辿ることがわかっている{{sfn|高岡ら|2020|p=68}}。グルーミングされた子どもは心理的な被害を受け、性的活動やその他の形での搾取に従事するよう強要されることがある<ref>{{Cite web |date=2022-07-26 |title=The impact of online grooming |url=https://www.inhope.org/EN/articles/the-impact-of-online-grooming |access-date=2023-03-11 |website=INHOPE}}</ref>。
被害対象は女子児童に限らず、男子児童も同様の手口で被害に遭っている<ref name="jprime23046">[https://www.jprime.jp/articles/-/23046 子どもを手なずけ性搾取 “グルーミング”の卑劣な実態、被害急増中の「SNSを使った手口」 | 週刊女性PRIME]</ref><ref name="nhk4604"/>。


グルーミングは、未成年者を[[児童労働|児童人身売買]]、[[児童売春]]、{{仮リンク|インターネット上の性的人身取引|en|cybersex trafficking}}・インターネット上の性的虐待<ref name="channelnewsasia.com">{{cite web|url=https://www.channelnewsasia.com/news/asia/poverty-pushes-some-kids-towards-paid-sex-abuse-philippines-10839702|title='We didn't have much to eat': Poverty pushes some kids towards paid sex abuse in the Philippines|date=July 9, 2019|access-date=2023-06-18|website=CNA}}</ref>、児童性的虐待コンテンツ(児童ポルノ)制作などの様々な違法ビジネスに誘い込むために利用される<ref name=CrossonTower208>{{Cite book|title=UNDERSTANDING CHILD ABUSE AND NEGLECT |first=Cynthia |last=Crosson-Tower |isbn=0-205-40183-X |publisher=Allyn & Bacon |year=2005|page=208}}</ref><ref name= Levesque64>{{Cite book |title=Sexual Abuse of Children: A Human Rights Perspective |first=Roger J. R. |last=Levesque |year=1998 |page=[https://archive.org/details/sexualabuseofchi0000leve/page/64 64] |publisher=Indiana University |isbn=0-253-33471-3 |url-access=registration |url=https://archive.org/details/sexualabuseofchi0000leve/page/64 }}</ref><ref name=Wortley14>{{Cite journal|title=Child Pornography on the Internet |author=Richard Wortley |author2=Stephen Smallbone |journal=Problem-Oriented Guides for Police |volume=No. 41 |pages=14–16}}</ref>。(国際的な性的人身売買のルートの問題は古く、1921年に[[国際連盟]](現在は消滅)の多国間条約として合意され、女性と子どもの国際的な人身売買の問題に取り組んだ「[[婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約]]」以来、様々な方法で禁止されてきた。)[[ギャング]]が近隣の被害者をグルーミングする「ローカライズド・グルーミング」という概念は、イギリスの児童搾取・オンライン保護センター(The Child Exploitation and Online Protection Centre)によって2010年に定義された<ref name=ceop>{{cite web|url=http://www.ceop.police.uk/Documents/ceopdocs/ceop_thematic_assessment_executive_summary.pdf|website=ceop.police.uk|title=EXECUTIVE SUMMARY CEOP thematic assessment|date=June 2011|access-date=2014-03-23|archive-url=https://web.archive.org/web/20140523010403/http://www.ceop.police.uk/Documents/ceopdocs/ceop_thematic_assessment_executive_summary.pdf|archive-date=2014-05-23|url-status=dead}}</ref>。
== オンライングルーミング ==
SNSやコミュニケーションツールを使って知りあい、オンラインで徐々に子供の信頼を積み上げた上で、現実に会う約束をしたのちに性加害を行う<ref name="cnet35180096">[https://japan.cnet.com/article/35180096/ 子どもがSNSで性的被害にあう理由--「オンライングルーミング」の手口とは? - CNET Japan]</ref>。加害者は[[Twitter]], [[Instagram]], [[TikTok]], [[カカオトーク]]などの若者に人気のSNSを通じて知り合い、中には[[オンラインゲーム]]の[[ボイスチャット]]機能を使って知り合うこともある<ref name="cnet35180096"/><ref name="ryukyu1326791"/>。誰でも動画をライブ配信できる無料アプリを使い、女子児童を巧みに誘導して性的な動画背信を行わせる事例もある<ref>[https://www.chunichi.co.jp/article/438270 <ユースク> ライブ配信の闇 中学生の性的動画、視聴者が巧妙誘導:中日新聞Web]</ref>。2021年11月、無料のライブ配信アプリにて、女子中学生が日常生活のライブ配信をはじめ、配信の人気順位を上げるために視聴者からのポイント(投げ銭)投下目的で、女子中学生が服をずらして[[プライベートゾーン]]を見せたところ、直後にアプリ運営が配信を止めた<ref name=nishinippon897269>[https://www.nishinippon.co.jp/item/o/897269/ ポイント欲しさ…ライブ配信の闇 中学生の性的動画、視聴者が巧妙誘導 |【西日本新聞me】]</ref>。同様の配信は、性犯罪を心配する女性に何度も通報されていて、通報した女性は「視聴者が言葉巧みに、性的な部分を誘導していた。こどもがポイント欲しさに応じたのだろうが、どこまでリスクを分かっているのだろうか」と言った<ref name=nishinippon897269/>。


捜査員が子供のふりをして[[おとり捜査]]が行われることも少なくないが、容疑者たちは、自分たちの行動は空想の表れに過ぎず、実際の計画ではなく、犯罪行為を行う際に必要とされる[[故意]]はないという「{{仮リンク|空想に基づいた抗弁|en|Fantasy defense}}」を利用し、罪を免れようとしてきた{{sfn|Choo|2009|p=xii}}。
SNSで知り合い、悩み相談や趣味の話で盛り上がってから、直接会う約束を取り、『外じゃ話せないから家で』『家で有料コンテンツを見たい』と相手の自宅に誘われたら、突然で性的行為をされてしまうのが「典型的な手法」である<ref name="bengo413646">[https://www.bengo4.com/c_1009/n_13646/ 子ども性被害の背景に「グルーミング」 オンラインで知り合い、妊娠した中学生も - 弁護士ドットコム]</ref>。まさか自分の体に興味を持たれているとは思っていない<ref name="bengo413646"/>。加害者は相手と一晩中」メールやLINEでやり取りを繰り返し、子供の愚痴やつぶやきにも共感することで、寂しさを感じている子供にとっては、「画面の先の相手」がかけがえのない存在に変わっていく<ref name="bengo413646"/>。


== 用語の歴史 ==
具体的には、「自分の体のこの部分に悩んでいる」と「自分の[[プライベートパーツ]]の画像」<ref group="注">実際に本人のものかどうかは確認のしようがない。</ref>を送り、子どもが「おかしい所はない」と答えたところで、その子供の「プライベートパーツの画像」を要求する<ref name="kidsna13609"/>。そして画像を受け取ったところで、加害者は子どもにさらに要求を重ね、「従わなかったらこの画像を拡散する」と脅しにかかる<ref name="kidsna13609"/>。子どもは「話を聞いてくれた相手」との信頼関係を壊したくないため、さらに画像を送ってしまうこともある<ref name="kidsna13609"/>。また、「母親が下着メーカーで働いていて、モデルを募集中」という嘘の情報を送り、下着姿の画像を要求することもある<ref>{{cite book |和書 | author=佐々木成三、ぽぽこ |others = | date=2 May 2022 | title=マンガで分かる!小学生のためのスマホ・SNS 安全ガイド | pages=029-031 | publisher=[[主婦と生活社]]| isbn=978-4-3911-5699-7 }}</ref><ref group="注">かつて発行されていた小学館の学習雑誌「[[小学六年生]]」に、実際に当時の現実の少女モデルを使った下着姿の写真を載せた特集が掲載された事があったが、[[小児性愛者]]がこぞって購入したことで問題となったことがある</ref>。児童ポルノ画像を求める中年男性が、インターネットで拾ってきた「下着姿の少女」の画像を使ってプロフィールを偽装したうえで、現実の女子中学生とSNS上で繋がった上で、相手の「下着姿の画像」を要求する事例もある<ref name="rena">{{Cite book|和書|author=[[高橋怜奈]]、[[ぽぽこ]]|title=「性」のはなしはタブーじゃない! 小学生だから知ってほしいSEX・ジェンダー・避妊・性暴力|publisher=主婦と生活社|date=28 sep 2021|pages=145-146|isbn=978-4-3911-5582-2}}</ref>。
ケネス・ラニングは、性的虐待の文脈におけるグルーミングという用語の歴史的変遷を研究し、この用語は、1970年代後半にアメリカの警察([[法執行機関]])の捜査員グループによって、児童性加害者の行動パターンにある「誘惑」の側面を説明するために使われたのが最初だ、という考えを示した{{sfn|Lanning|2018|pp=5-6}}。当時のほとんどの専門家は、犯罪者が用いる非暴力的な誘惑という手法を理解していなかった{{sfn|Lanning|2018|pp=5-6}}。その後、他の用語と同様に、グルーミングという言葉は発展し、警察や他の専門家、そしてメディアや一般人によって、より一般的に使われるようになった{{sfn|Lanning|2018|pp=5-6}}。「誘惑」に代わり、グルーミングという言葉が、このような性加害者の行動パターンを表す言葉として用いられるようになった{{sfn|Lanning|2018|pp=5-6}}。


ラニングがFBI捜査官として性犯罪の研究を始めた1973年当時は、子どもの性被害といえば、見知らぬ他人による加害事件が中心で、グルーミングという概念は、このようなケースにはほとんど当てはまらなかった{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。
また、[[tiktok]]のハッシュタグや、素顔の写っているダンス画像で「標的」を割り出したり、さらには[[lineスタンプ]]やオンラインゲームの有料アイテムを餌に使ったグルーミングも行われている<ref name="kidsna13609"/>。子どもに多い「パスワードロックをかけていないスマホ」を拾って中身を調べた結果、持ち主が「標的」にされることもある<ref name="kidsna13609"/>。SNSに限らず、「[[荒野行動]]」や「[[フォートナイト (ゲーム)|フォートナイト]]」などの[[オンラインゲーム]]の[[ボイスチャット機能]]を使ったグルーミングも行われている<ref name="hubokinawa7276"/><ref name="kidsna13609">[https://kidsna.com/magazine/entertainment-report-220412-13609 子どもを狙う性犯罪者はスマホやタブレットから忍び寄る?オンライン・グルーミングの手口|子育て情報メディア「KIDSNA STYLE」]</ref>ゲームで協力した相手とボイスチャットで親密な関係を築いたうえで、相手の個人情報を聞き出す<ref name="kidsna13609"/>。「性的な自撮り画像」をSNSで送る人もいるが、1対1のやり取りでも流出する可能性はある<ref name=nishinippon897269/><ref>性的な画像を受け取った側が、送り手の以降の関係なく、画像を拡散させてしまうこともある。</ref>。リアルタイム配信も視聴者が録画していれば、ネット上で誰でも見られる場所に載せられる危険がある<ref name=nishinippon897269/>。そして、性的な画像と個人情報が結び付けば、[[特定]]を経て性犯罪を理由に脅される危険もありうる<ref name=nishinippon897269/>。


グルーミングという言葉の概念と使用は、1980年代に家族外の顔見知りによる子どもの性被害事件が知られるようになるにつれ、徐々に現れるようになった{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。1982年の児童性的虐待に関する論文では、児童性加害者が子供と接する職業・組織を通じて被害者に近づくという問題が論じられた{{sfn|Lanning|2018|pp=7-8}}。
グルーミングで入手した「[[児童ポルノ]]」コンテンツは、世界的なアンダーグランドマーケットで高値で売買されることも珍しくない<ref name="nhk4604"/>。2020年に摘発されて閉鎖された児童ポルノ販売サイトは、会員数2万人で毎月億単位の売り上げがあり、元[[暴力団]]員を含む運営者3人は逮捕された<ref name="nhk4604"/>他、このサイトに児童ポルノを出品していた人物のうち23人も逮捕された<ref name="nhk4604"/>。


1975年から1985年にかけて、アメリカの警察は、顔見知りの性加害者とそれがもたらす捜査上の課題への認識を深めていき、カリフォルニア州の大規模な警察組織である[[ロサンゼルス市警]]は、1977年に、家族外の顔見知りが子どもに性加害を行うケースを特別に捜査する専門部署「被性的搾取児童課」(Sexually Exploited Child Unit)を設置した{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。ロサンゼルス市警は、今でいうグルーミングを行う顔見知りの児童性加害者のやり口を「誘惑」と呼ぶようになった{{sfn|Lanning|2018|pp=8-9}}。ロサンゼルス市警のこの専門部署の仕事のやり方は、すぐに全米のいくつかの警察組織に普及した{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。
グルーミングは世界的に問題であり、[[ニュージーランド]]では2020年6月から政府主導で子どもの安全なネット利用を啓発するメディア・キャンペーンが行われた<ref name="cnet35180096"/>。[[ニュージーランド]]では、若者の40%が面識がない相手とネット内でやり取りをしたことがあるという<ref name="cnet35180096"/>。また2020年4月から2021年3月の1年間に、[[イングランド]]と[[ウェールズ]]では、5441件の児童のグルーミング犯罪が発生していたことが、両国内42の警察からのデータから判明した。2017年から2018年の1年間から70%増加していた<ref>[https://forbesjapan.com/articles/detail/43060 英国で急増する児童の性的被害「グルーミング」をめぐる議論 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)]</ref>。犯罪の約半分にはコミュニケーションアプリが用いられており、Instagramが約3/1、Snapchatも全体の4/1以上を占めていた<ref name="cnet35180096"/>。[[韓国]]では2021年9月に「改正青少年性保護法」が施行され、被害に遭った女性の証言を基にした「おとり捜査」が可能となり、改正法の施行から1か月のうちに合計35件のおとり捜査が行われ、58人が検挙された<ref>[https://www.yomiuri.co.jp/world/20211227-OYT1T50175/ SNSで少女操る「グルーミング」、性犯罪目的なら検挙…韓国でおとり捜査も : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン]</ref>。


1980年代半ばにラニングは、FBIの行動科学課に配属され、FBIアカデミーで家族外の人間による性的搾取事件を専門に扱う数少ない捜査官を集めてセミナーを開催することになり、セミナーでは「誘惑」と「グルーミング」の概念について議論され、定式化されるようになった{{sfn|Lanning|2018|pp=8-9}}。この新しい分野の警察の専門家たちは、ネットワーク作りや全米各地のセミナー、会議、研修などを通じて、これらの概念を広めていった{{sfn|Lanning|2018|pp=8-9}}。1982年、ロサンゼルス市警の被性的搾取児童課に所属していたロイド・マーティン巡査部長は、児童の性的搾取事件に焦点を当てた本を共著で出版し、その中で顔見知りの性加害者が行う誘惑のプロセスについて、多くの事例を交えて詳細に述べた{{sfn|Lanning|2018|pp=8-9}}。(ただし彼は、そのプロセスに特に名称を付けていない{{sfn|Lanning|2018|pp=8-9}}。)ラニングは1980年代初頭に児童虐待者の類型化を始め、彼が「誘惑型」と呼ぶ重要な行動パターンを提示し、研修で解説した{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。ラニングは1980年代に、プレゼン資料の中でグルーミングという言葉を使い始めた{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。この言葉が初めて出版物で使われたのは、1989年に{{仮リンク|全米失踪・被搾取児童センター|en|National Center for Missing & Exploited Children}}が出版したラニングの書籍「''Child Sex Rings: A Behavioral Analysis''({{仮リンク|チャイルド・セックス・リング|en|Child sex ring}}:行動分析)」だろうということである{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。彼の児童性加害者の類型は、1896年には「''National Center for Missing and Exploited Children''」として書籍化され、何十万部と印刷された彼の様々な出版物や、インターネットを通して広まった{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。
2021年5月、[[チェコ]]で製作された[[ドキュメンタリー映画]]「『[[SNS -少女たちの10日間-]]』」が[[沖縄県]][[那覇市]]の[[映画館]]で公開された際、同様の問題は沖縄県内でも発生していた<ref name="hubokinawa7276">[https://hubokinawa.jp/archives/7276 SNSで性器画像 県内女生徒も「普通に送られてくる」チェコの話題作から考える]</ref>。県内の高校生自身でスマホの使い方を考えるシンポジウムの開催日に、登壇予定の女子生徒4人が
「SNSで一方的に[[外性器]]の画像を送り付けられたことがあり」、「プロフィールに[[高校生]]と書いていると普通に飛んでくる」と口を揃えた<ref name="hubokinawa7276"/>。また、2020年の沖縄県内でのサイバー犯罪の検挙数135件のうち、74件が「[[青少年保護育成条例]]違反」「[[児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律]]違反」となっている<ref name="hubokinawa7276"/>。


グルーミングという用語は、[[刑事事件]]や[[民事事件]]の鑑定において、犯罪者の行動や、被害者の一見不可解な行動について、裁判所に理解を促すため、裁判所を教育するために用いられることが多くなっている{{sfn|Lanning|2018|p=10}}。
=== 調査 ===
[[NHK]]がNPO法人[[ぱっぷす]]と共同で、「架空の14歳の女子」のSNSアカウントを作成して「友達が欲しい」を投稿したところ、わずか2分で12件のメッセージが届き、中には堂々と「エロ垢」を名乗ったり、「男性の下半身の動画」を送ってきたメッセージもあった<ref name="nhk4604">[https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4604/ 追跡・SNS性犯罪~ ネット上で狙われる子どもたち - NHK クローズアップ現代+]</ref>。開始から2か月で200件近いメッセージが寄せられ、そのほとんどは性的な内容だった<ref name="nhk4604"/>。そんな中、性的なメッセージを書かずに「少女」を気遣う内容を毎日送り続けた男性がいたが、NPO側が「愚痴をこぼした」ところ、その男性の態度が豹変し、性行為を求めるメッセージが届くようになったため、調査陣はこの男性と現実に会うことにした<ref name="nhk4604"/>。男性は今までのメッセージの内容に反して、現実に会ったNPOスタッフに嘘をつき、30分以上話しても非を認めなかった<ref name="nhk4604"/>。


== 子どもと加害者の関係性 ==
ぱっぷすへに寄せられたグルーミング関係の相談件数は、2020年度に281件、2021年度に600件を超えている<ref name="sukusuku54559"/>。ぱっぷす理事長の[[金尻カズナ]]は「相談者の大多数は、自分がグルーミングの対象にされるとは思っていなかった」としたうえで、「インターネット上では性的な言葉を投げられ放題で、グルーミングも野放図となっている」と指摘し、相談員も「相談者は被害者のほんの一部で、「性的なコンテンツを送った自分」を責めて、相談まで長期間がかかるケースもある」と言う<ref name="sukusuku54559"/>。
斎藤梓は、子どもと加害者の関係別で、グルーミングを次の3つに分類している<ref name="huffpost114845"/>。
{{Quote|
# '''リアル(現実)で近しい人からのグルーミング'''(教師、コーチ、養護施設やNPOの職員、親戚、親の恋人など)
# '''それほど近しくない人からのグルーミング'''(公園や公共施設で声をかけてきた人など)
# '''オンライン・グルーミング'''(SNSなどネットを通じて知り合った人)<ref name="huffpost114845">{{Cite web |title=性的行為を目的に子どもを手なずける「グルーミング」の手口とは。被害者が刑法改正に望むこと|author= 國﨑万智|url=https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_619f3793e4b044a1cc114845|website=ハフポスト|date=2021-11-28|access-date=2023-06-30}}</ref>}}


子どもたちに対する「見知らぬ人は危険だ」という警告とは裏腹に、児童性加害者が見知らぬ人であることはほとんどない<ref name="CLP/TLP"/>。斎藤梓は、全く知らない人と徐々に親しくなってグルーミングを受けることもあるが、親やきょうだい、教師といった既知の相手、信頼している相手から受けることが多いとしており{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}、アメリカの児童犯罪防止啓蒙団体 CLP/TLP によると、児童性加害者の9割が血縁者や子供や家族の親しい知り合いであり、子どもが幼いほど、家族の一員である可能性が高い<ref name="CLP/TLP">{{Cite web |title=A Profile of the Child Molester|author= |url=https://childluresprevention.com/resources/molester-profile/|website=Child Lures Prevention/Teen Lures Prevention (CLP/TLP)|access-date=2023-07-02}}</ref>。日本フォレンジック看護学会は、子どもの性的虐待の加害者は、周囲にも知られ信頼されている保護者や家族の一員である場合が多いと述べている{{sfn|日本フォレンジック看護学会|2020|p=4}}。性犯罪被害者の支援に携わる弁護士の川本瑞紀は、部活動の指導者や塾の講師からグルーミング被害に遭うケースが多いとしている<ref name="sukusuku54559">{{Cite web |title=子どもの性被害につながるグルーミングとは 罪悪感や羞恥心につけ込み支配 SNSで深刻化(2022年4月18日付 東京新聞朝刊)|author= 三宅千智|url=https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/life/54559/|website=東京すくすく 東京新聞|date=2022-05-03|access-date=2023-06-30}}</ref>。児童性加害者は、知人、家族、友人、介護者、権力のある立場にある人、地域のリーダー等で、被害者の知り合いであることが多く、つまり「私たちが信頼する人々」である<ref name="NSVRC"/>。
== 対策 ==
2021年9月16日、[[法務大臣]][[上川陽子]]は、[[法制審議会]]で性犯罪に関する刑法の改正について諮問し、まとめられた10項目の中に「六 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること」が盛り込まれた<ref name="yahootamaka">[https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20210927-00260281 子どもが懐柔される「グルーミング」を知っていますか(小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース]</ref><ref>[https://www.bengo4.com/c_1009/n_13563/ 「時計の針を戻さずに審理を」性犯罪の刑法改正、被害当事者らが訴え - 弁護士ドットコム]</ref>。これには、性暴力被害者支援を行っている弁護士が、予想外の驚きをTwitterに投稿した<ref>{{twitter status|shouwarame|1438514888981188608}}</ref><ref name="yahootamaka"/>。法務省の検討会に出席した、[[性暴力被害者支援看護師]]の[[山本潤]]は、「グルーミングは、被害者本人が性的に虐待されているという事実さえ認識できない恐ろしい犯罪」「手なずけと洗脳操作という独特の加害者戦略がある」との意見を言った<ref name="yahootamaka"/>。


信頼している相手だからこそ、徐々に体を触られたり、性的な接触を求められた時に、相手が自分に悪いことをすると思いたくない、抵抗や拒否をすることで嫌われたくないという気持ちが湧き、加害者に逆らうことが難しいという{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。
2022年3月、[[東京地方裁判所]]は、オンライングルーミングを用いて、わいせつな動画を自分の[[スマートフォン]]に送らせ、強制わいせつと児童買春・ポルノ禁止法違反の罪に問われた元[[力士]]の男に、実刑有罪判決を言い渡した<ref>[https://www.tokyo-np.co.jp/article/169029 SNSで子どもを手なずけ性犯罪…被害児童数が高止まり 求められる「オンライングルーミング」対策:東京新聞 TOKYO Web]</ref>。


アメリカ国立性暴力リソースセンター(NSVRC)は、子どもと関わる仕事に就いている大人の大部分は、子どもたちを危害から守りたいと考える安全な、善意の人々であることは確かだが、安全そうで評判が良く、信頼できるように見える人が見た目通りであるとは限らない、優れた仕事やコミュニティへの貢献によって尊敬を集める人が、虐待をしないとは限らないと注意を促している<ref name="NSVRC"/>。加害者は意図的に信頼されるように、親しまれるように振る舞い、コミュニティでの立場と信頼を確立し、自分の評判が疑いの芽を摘むことを期待する<ref name="NSVRC"/>。権力を持つ加害者はそれを様々に利用する<ref name="NSVRC"/>。人々が被害者に向ける疑念を頼りにし、被害者に「誰も信じない」「誰も真剣に受け止めない」「誰も何もしない」などと言い聞かせ、信じさせる<ref name="NSVRC"/>。虐待する相手として、立場の弱い人を戦略的に選んでおり、性的虐待を始める前に、ターゲットをグルーミングしながら相手の[[個人の境界線|境界線]]を試し、反応を見る<ref name="NSVRC"/>。また人々には、ニュースやテレビから来る「捕食者」「怪物」といった性犯罪者に対する固定概念、「安全でない」人の見た目や行動に対する思い込みがあり、それが性犯罪者を守ることがある<ref name="NSVRC"/>。加害者は、安定した人間関係、成功したキャリア、前科のない、既婚の、子どものいる人物であることもある<ref name="NSVRC"/>。注意する必要があるのは、見た目でもキャリアでも評判でもなく、その人の行動である<ref name="NSVRC"/>。
だが、現行法上、13歳以上の児童を対象にしたグルーミングは、「[[性交同意年齢]]」に達しているため、「[[強制性交等罪]]」としては扱われることは少なく、暴行・脅迫がなく、相手児童が抵抗できない場合でもないときは、各都道府県の[[青少年保護育成条例]]違反([[淫行条例]]違反)が適用されることが多く、事件を担当した弁護士は「刑罰があまりにも軽すぎる」と嘆く<ref name="bengo413646"/>。


児童性的虐待の要因の一つに「VIP要因」があり、加害者は、学校、スポーツ団体、市民団体、宗教、医療、ビジネス界の著名な地元のリーダーや、教育、法曹、軍事、経済、メディア、高等教育、政治の世界など、地方行政や国家レベルの「非常に重要な人物」(VIP) であるかもしれない。権力と資金を持つVIPにあえて立ち向かおうとする人は非常に少ないため、子どもに被害を訴えることを諦めさせ、時に周囲の協力を得て、虐待を隠し通す可能性が高くなる<ref name="CLP/TLP"/>。
2022年10月24日の法制審議会にて、刑法の性犯罪規定の改正試案が示され、その中に新たな処罰規定として「グルーミング」を処罰する案も盛り込まれた。オンラインで未成年者が性の標的にされやすいことから、実際の性被害の前に受けやすい「手なずけ・懐柔」も処罰対象にすべきという指摘が出た。この試案では、猥褻目的で誘惑や金銭供与などを使って面会を要求する行為、実際に面会した場合、猥褻な映像の送信を要求した場合のそれぞれに刑事罰を科すとした<ref>「「懐柔行為」「撮影」も罪に」毎日新聞2022年10月25日朝刊3面</ref>。


また、親以外の児童性加害者の多くが、物理的または精神的に親が不在の子どもは、グルーミングや虐待を受けやすくなると認めている<ref name="CLP/TLP"/>。


== プロセス・手法 ==
イギリスでは、グルーミングを用いて性的な目的で子どもと会おうとする行為が処罰対象となり、[[ドイツ]]ではグルーミングそのものが処罰対象となっている<ref name="nhk4604"/><ref name="bengo413646"/>。
サマンサ・クラヴァンらは、加害者のグルーミングのプロセスを、次の3段階で説明している。
# '''自己グルーミング(Self-Groomng)''':加害者が自分の行動や認知を正当化していく段階{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。性的虐待を行うのではなく、子どもの方が自分を性的に誘惑したなどと自身に信じ込ませるなど、子どもに性的な行為をしたいという動機から目をそらせる{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。
# '''周囲と重要な関係者のグルーミング(Groomng the environment and significant others)''':被害者に近づくために、被害者の周囲の環境や、親や教師などの重要な関係者に働きかけ、手なずける段階{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。社会に溶け込み、子どもたちと出会いやすい場所に身を置いて、信頼される立場・地位を確立する{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。
# '''子どものグルーミング(Gooming the Child)''':子どもを性的にグルーミングする段階で、一般的にこの段階がグルーミングであると認識されている{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。子供に近づき、親しくなり、信頼を得て、徐々に境界線を侵害する{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。身体的な接触を増やしていき、被害者との関係を徐々に性的なものにしていく「'''身体的性的グルーミング'''」と、被害者を周囲から孤立させ、味方になり、依存させるように仕向け、二人だけの秘密を作っていくという「'''心理的性的グルーミング'''」がある{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}{{sfn|Cravenら|2006}}。


グルーミングの鍵となるのは、年齢、性別、体力、経済的地位、その他の要因など、加害者と被害者の不均衡な力関係である<ref name="McManus"/>。加害者は「悩みを抱えていて孤立させやすい子ども」を標的にして、その子の「大人に認められたい、誉められたい」という欲求を利用して接近する<ref name="huffpost114845"/><ref name="sukusuku54559"/><ref name="mainichi076000c">{{Cite news |和書| author = | title = わいせつ目的「毛繕い」(グルーミング) SNSで親身を装い誘い出し| date =2022年11月6日| newspaper = 毎日新聞| issue = | edition =朝刊27面}}</ref>。加害者は親切を装いつつ、幼いが故の不安や孤独感、[[承認欲求]]に付け込んでいく<ref name="cyzo">「子どもを"支配"する卑劣な性犯罪「グルーミング」の恐ろしき真実」月刊サイゾー2021年12月号46-49ページ</ref>。優しく悩みの相談に乗ったり、好きなものに関心を示したり、世間話をしたりして、距離を縮めていき、子どもに共感を与え、誉める、認めるを繰り返すことで親密感を増し、優しく接し、子どもが加害者に依存するように仕向ける{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}<ref name="huffpost114845"/><ref name="sukusuku54559"/>。加害者は子供との間に上下関係を作り出すが、巧妙に振る舞い、対等であるかのように思わせることもある{{sfn|齋藤|2022|pp=238-239}}。子どもは関心を寄せられたり、悩みをわかってもらうことをうれしく感じ、加害者への信頼や恋愛感情が醸成されていき、相手に嫌われたくないと思うようになる{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。加害者が被害者に、これは恋愛なのだと思わせていることもある{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。加害者は被害者に対し、自分の被害者への性的な欲求を、愛情や普通のことだと教え<ref name="sukusuku54559"/>、徐々に性的な話題を投げかけたり、好意を示したりし、子どもに性的な自撮り写真を送らせたり、自分の性的な写真を送ったりする{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。加害者は子どもに、二人きりで会おうと誘ったり、家出を唆し、実際に会い、性的な行為に及んでいく{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。プライベートゾーン以外への接触などの軽度の親密性の逸脱から、身体を舐める、プラーベートゾーンへの接触や性交などの、明確な性的侵害行為に及んでいく。そして、子どもの罪悪感や恥辱感などの感情を利用して支配的関係に持ち込み、口止めして虐待を隠し、自分も共犯者なのだと思わせる等して、暴力・搾取の構造を強固にし、持続化を図るとされる{{sfn|高岡ら|2020|p=68}}。
=== 家庭でできる対策 ===
グルーミングは男女を問わず被害に遭っているため、男女の区別なく対策が必要である<ref name="kidsna13610">[https://kidsna.com/magazine/entertainment-report-220413-13610 「うちは男の子だから」は危険。デジタル性犯罪、保護者が性別を問わずに取るべき対策|子育て情報メディア「KIDSNA STYLE」]</ref>。


ケネス・ラニングは、顔見知りの性加害者が用いる非暴力的なテクニックは、現場の捜査官たちによって洞察されてきたが、実際に大きな謎はなく、これらの犯罪者は、本質的に、大人が互いに誘惑し合うのと同じように、子供を誘惑する、と述べている{{sfn|Lanning|2018|pp=7-8}}。グルーミングの手法は、大人同士、あるいはティーンエイジャー同士では、恋愛や交際の一部とみなされるかもしれない{{sfn|Lanning|2018|pp=7-8}}。しかし、このような非暴力的な性的行為から暴力的な性的行為へ発展するプロセスは、成人に限られた傾向ではなく、思春期以降の子どもが加害側であった性犯罪事例でも確認されている{{sfn|高岡ら|2020|p=68}}。
* 自分の裸を撮影しない、他人に送らない<ref name="kidsna13610"/>。
* 直接面識のない人に、自分の住所や学校、本名などの個人情報を伝えない<ref name="kidsna13610"/>。
* たとえ呼び出されても、会いに行かない<ref name="kidsna13610"/>。
* スマホやPCの「[[フィルタリング]]機能」を親が設定する<ref name="kidsna13610"/>。
* SNSやオンラインゲームの「対象年齢」をよく確認する<ref group="注">実際には、対象年齢以下の子どもが使っていることも少なくない。</ref><ref name="kidsna13610"/>。


CLP/TLP は、一般的なグルーミング戦略として、次のことを挙げている<ref name="CLP/TLP"/>。
== 関連項目 ==
* 保護者、特にひとり親家庭の保護者と親交を深め、子どもとの接触を図る。
* [[ある子ども]] - 2022年2月19日に放送された、オンライングルーミングを題材とした[[ETV特集]]
* 多忙な保護者のもとでベビーシッターとして働く。
* 子どもに関わる仕事を引き受けたり、地域の行事に参加したりする。
* 保護者や里親になる。
* 子どものスポーツイベントに参加する。
* 子どものスポーツのコーチをする。
* 青少年団体でボランティアをする。
* 宿泊旅行の付き添いをする。
* 遊び場、公園、ショッピングモール、ゲームセンター、運動場など、子どもがよく行く場所でうろつく。
* ソーシャルメディア(TikTok、Ask.fm、YouTube、Kik、Snapchat、Instagramなど)やオンラインゲームプラットフォームで若者と親しくなる。<ref name="CLP/TLP"/>


==被害の発覚・自覚の難しさ==
== 対処法 ==
グルーミングによる性被害は、被害者である子供がそれが性暴力だと気付きにくく、積極的に被害を隠そうとすることもあり、そこに難しさがある{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。被害者にとって加害者は、自分を認め、理解し、悩みを受け止めてくれる、信頼できる大人になっており、被害者は、そんな人が自分に悪いことをするわけがないと思い込んでいるため、性的な接触に恐怖や嫌悪感があっても、それが性暴力だと認識することは難しいという<ref name="huffpost114845"/>。[[東京未来大学]]教授(犯罪心理学)の出口保行は「『話を聞いてほしい』という子供たちの思いを利用しており、最初は犯罪だと気付きにくい」と指摘している<ref name="sankei44tpru">[https://www.sankei.com/article/20221116-5UBXGAV5MRJ6JOGXGM6L44TPRU/ <特報>子ども狙う「グルーミング」の巧妙手口、SNSの悩み投稿が標的に - 産経ニュース]</ref>。また、「好き」「かわいい」などと褒めて、子どもに好意を持たせてから性的な行為に持ち込むため、性被害として認識できない場合もある<ref name="mainichi048000c">[https://mainichi.jp/articles/20230214/k00/00m/040/048000c 「好き」「かわいい」で始まる性暴力 「グルーミング」学ぶ講演会 | 毎日新聞]</ref>。被害を受けた子どもは、性被害の発覚後も「相手と付き合っている」と認識していることがあり、繰り返し接した相手に好感を抱きやすくなる「単純接触効果」の影響も受けているとみられる<ref name="asahiihb005">[https://www.asahi.com/articles/ASR2N6QJKR2BPIHB005.html 「かわいいね」から始まる性犯罪 子どもを懐柔、グルーミングとは?:朝日新聞デジタル]</ref>。
普段から、親と子どもで対策を話し合っておくのが重要である<ref name="nhk081">[https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic081.html SNS性被害から自分や大切な人を守るために からだとこころの話⑤ - NHK みんなでプラス]</ref>。


虐待と愛情・優しさの繰り返しに曝され続けることで、被害者には、加害者に対する、極めて強く不健全な絆、[[外傷的絆]](トラウマティック・ボンディング)が生じることが少なくなく、グルーミングによる性的人身売買の被害者の場合も、外傷的絆が加害者から逃げる大きな妨げになり、また、逃れても、加害者に対する強い愛情が残り、加害者の元に戻りたいという思いに駆られる可能性がある<ref>{{Cite web |title=ON THE GROOMING AND TRAFFICKING OF MINORS|author= |url=https://iwantrest.com/blog/on-the-grooming-and-trafficking-of-minors|website=REST|date=2019-07-15|access-date=2023-10-09}}</ref>
* 相手から裸の画像を要求されたり、直接会いたいと言われたら、相手をブロックして、以降の連絡を断ち切り、安心できる誰かに相談する<ref name="nhk081"/>。
* 相手に自分の画像を送る前や、実際に会う前には、他の誰かに相談する<ref name="nhk081"/>。
* 実際に画像を送ってしまったり、会ってしまった後でも、誰かに相談する<ref name="nhk081"/>。
** 相談を受けた親は、子どもを責める言葉は使わず、「話してくれてありがとう」「あなたは悪くない」などと対応し、安心感を伝える<ref name="nhk081"/>。
** 「親の私が、相手との戦い方を知っている」という、子どもへのメッセージも有効である<ref name=nishinippon897269/>。
** '''悪いのはSNSを使う子どもではなく、子どもを性的な目的に利用しようとする加害者である'''<ref name="nhk081"/>。


被害を受けた子どもは、「自分が会いに行ったのが悪い」と自身を責める<ref name="mynavi23736">[https://woman.mynavi.jp/kosodate/articles/23736 同世代の子になりすまし……親が知っておくべきオンライングルーミングの怖さ #親と子のネットリテラシー入門 Vol.13]</ref>。斎藤梓は、加害者に子供に口止めしている場合もあり、保護者が子どものグルーミング被害に気が付くことも容易ではないと述べている<ref name="sukusuku54559"/>。
== 批判 ==


被害者が幼いと、性や性問題に関する知識がないため「性暴力被害を受けた」ことに気づかないこともある<ref>[https://www.yomiuri.co.jp/national/20221124-OYT1T50038/ わいせつ目的隠し子供に接近、規制する法律なし…「グルーミング罪」新設案 : 読売新聞オンライン]</ref>。グルーミングの被害を受けた子供たちの多くは、その行為を「普通のことだと思った」「何が起きているか理解できなかった」と振り返るという<ref name="asahiihb005"/>。一般社団法人[[Spring_(一般社団法人)|Spring]]が、2020年の8月と9月に性被害者を対象に実施したアンケートで集まった5899件の回答のうち、自分の身の起きたことをすぐに「性被害」であると認識できたのは約半数で、認識までには平均で約7年かかっていた<ref name="nikkei20211207">「こどもに親切装い性犯罪 「グルーミング」国が罰則検討」日本経済新聞2021年12月7日夕刊6面</ref>。
大人が性的な交際関係を持つ事を目的として子供とやり取りする事に、通常は人間同士の交流には用いられないグルーミングと言う用語を用いる事は、子供は性的な行為に自発的、或いは主体的に同意する事が出来ない存在であり、大人と子供の間の性行為は全て暴力または被害である、という事を前提として、子供が悪意のある大人に操られているという印象を与えようとしているものと考えられる。


性的虐待被害者の男性を専門に支援するセラピストの山口修喜は、日本の場合、[[恥]]の文化があり、個人的な問題を口にしてはいけないという風潮があるため、性加害を受けたと語ることが難しく、被害を受けたのが男子である場合、輪をかけてそれが困難になると語っている<ref group="動画">{{YouTube|8X83WIa-IpQ|グルーミングとは……性的被害専門のセラピストに聞く ジャニーズ事務所取材のBBC記者}}([[BBCワールドニュース#BBCグローバルニュースジャパン|BBC News Japan]])、2023年3月24日公開)</ref>。
しかし上記の主張が明確な科学的根拠を伴って語られる事は殆ど無く、単に女性の進学や社会進出の推進と言った特定の政治的な目標を推進することを望む人々にとって好都合な物語に過ぎないのではないかと言う疑いがある。実際、日本のマスコミメディアで紹介される事は殆どないが、以下に示すように、12~14歳以上の子供に性的同意能力がある事を示唆する科学的な研究は多い。


グルーミングや支配的操作を伴う性的虐待では、加害者が外傷を残さないように隠蔽しており、その場合、身体検査では問題が発覚しない{{sfn|高岡ら|2020|p=75}}。
例えば子供の同意能力を扱った研究では、1982年に、Lois A. Weithornらは、選択の証拠、合理的な結果、合理的な推論、理解の四つの基準に基づいて、医療及び心理学的治療に関する子供の同意能力を評価し、14歳以上の子供は大人と同等水準の能力を有していると結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7172783/ Weithorn LA, Campbell SB. The competency of children and adolescents to make informed treatment decisions. Child Dev. 1982 Dec;53(6):1589-98. PMID: 7172783.]</ref>1993年に、M. J. Quadrelらは、中流階級の成人、彼らの10代の子供、療養施設の高リスクの青年期の子供に、自分やその他の人が様々なリスクを経験する確率を判断する様に求めたところ、三つのグループはいずれも自分が対象となる他者よりも多少低いリスクに直面していると考えていたが、この相対的な非脆弱性の認識は大人よりも青年期の子供の方が顕著に高い訳ではなかった事を発見している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8442566/ Quadrel MJ, Fischhoff B, Davis W. Adolescent (in)vulnerability. Am Psychol. 1993 Feb;48(2):102-16. doi: 10.1037//0003-066x.48.2.102. PMID: 8442566.]</ref>2002年に、Susan G. Millsteinらは、青年期の子供と若年成人を対象に、自然災害や行動に関連したリスクに関する判断について調査を行い、リスク判断と非脆弱性の認識の年齢差を評価した。その結果、青年期の子供は若年成人よりも彼ら自身を脆弱であると見なす傾向が強く、脆弱ではないと見なす青年はごく少数である事を発見した。<ref>[https://psycnet.apa.org/record/2002-11491-002 Millstein, S. G., & Halpern-Felsher, B. L. (2002). Judgements about risk and perceived invulnerability in adolescents and young adults. Journal of Research on Adolescence, 12(4), 399–422.]</ref>2017年に、Petronella Grootens-Wiegersらは、医学的意思決定に必要な能力として、選択を伝える能力、理解力、推論能力、評価能力の四つの能力を評価し、12歳の子供は意思決定能力を持つ事が出来る、と結論する一方で、脳の報酬系の早期発達と制御系の後期発達により、特定の状況(感情的になり易い状況)では意思決定能力が低下する、と述べている。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28482854/ Grootens-Wiegers P, Hein IM, van den Broek JM, de Vries MC. Medical decision-making in children and adolescents: developmental and neuroscientific aspects. BMC Pediatr. 2017 May 8;17(1):120. doi: 10.1186/s12887-017-0869-x. PMID: 28482854; PMCID: PMC5422908.]</ref>2018年に、Atika Khuranaらは報酬を得ようとする衝動に対する認知制御系の弱さを特徴とする不適応なリスク行動は、青年のごく一部に限られた現象である事を示唆する研究結果を報告している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29980957/ Khurana A, Romer D, Betancourt LM, Hurt H. Modeling Trajectories of Sensation Seeking and Impulsivity Dimensions from Early to Late Adolescence: Universal Trends or Distinct Sub-groups? J Youth Adolesc. 2018 Sep;47(9):1992-2005. doi: 10.1007/s10964-018-0891-9. Epub 2018 Jul 6. PMID: 29980957; PMCID: PMC6098970.]</ref>2021年に、Aja Louise Murrayは、報酬系の早期発達と制御系の後期発達によりリスクの高い行動を取るという仮説に合致した行動パターンを示す青年期の子供は、ごく一部の子供(特に男性)だけであり、女性には見られない傾向がある事を報告している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33856624/ Murray AL, Zhu X, Mirman JH, Ribeaud D, Eisner M. An Evaluation of Dual Systems Theories of Adolescent Delinquency in a Normative Longitudinal Cohort Study of Youth. J Youth Adolesc. 2021 Jul;50(7):1293-1307. doi: 10.1007/s10964-021-01433-z. Epub 2021 Apr 15. PMID: 33856624; PMCID: PMC8219591.]</ref>


加害者の中には、子どもが被害告白を行う場合に備えて、あらかじめ周囲の人に子どもの言動の信用性を失わせる情報工作を行なっていることもある{{sfn|高岡ら|2020|p=69}}。被害児童の信用を傷つける加害者の代表的行動パターンとして、次のものがある{{sfn|高岡ら|2020|p=69}}。
2014年に、Dafna Tenerは、法定被害関係に対する青年の認識を調べる為に、法定強姦の被害者と認定された青年にインタビュー調査を行った。その結果、一部の青年はその関係を搾取的であったと述べたが、大部分の青年はその関係が終わってから暫くした後でさえ、その関係を互恵的な関係であったと述べていた。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25492668/ Tener D, Walsh WA, Jones LM, Kinnish K. "It all depends on the guy and the girl": a qualitative study of youth experiences with statutory victimization relationships. J Child Sex Abus. 2014;23(8):935-56. doi: 10.1080/10538712.2014.960635. PMID: 25492668.]</ref>
{{Quote|
# 他の人に子どもの落ち度を頻繁に指摘する
# 子どもがいかに嘘をつくのか他の人に強調する
# 家族の前で被害を受ける子どもに厳格なしつけをして、もしその子どもが他の人に性的虐待を訴えたなら、その子どもは加害者に「復讐しようとしてそれを言った」と言えるように準備をしておく
# 被害児童の活動範囲を極端に制限して、孤立させておく(過度な門限、交友関係や連絡の制限)
# 被害児の行動で強い性的関心を持っている行動に皆を注目させ、その子どもが過度に性的関心を持っているという印象を他の人に植えつける(子どもが過度に性的関心を持っていて、子どもの方から自分を誘ったという言い訳につながるようなことを含む){{sfn|高岡ら|2020|p=69}}}}


グルーミングのプロセスには、子どもにゲームをしたり、プレゼントを買ったり、公園に行くといった、「通常の」大人と子どもの交流が含まれ、表面的には、これらの行動は特に問題にはならない<ref name="McManus">{{Cite web |title=Grooming: an expert explains what it is and how to identify it|author= Michelle McManus|url=https://theconversation.com/grooming-an-expert-explains-what-it-is-and-how-to-identify-it-181573|website=The Conversation|date=2022-05-16|access-date=2023-07-02}}</ref>。大人が子どもへに適切な教導、指導を行うこと、[[メンタリング]]は望ましい活動であるが、メンタリングとグルーミングを区別することは難しく、青少年支援団体にとって大きな問題になっている{{sfn|Lanning|2018|p=13}}。プロセスそのものから発見するより、後から見てグルーミングであったと特定する方が容易な場合が多い{{sfn|Lanning|2018|p=13}}。
子供の頃に成人男性と性的関係を持った女性の性交当時の主観的な反応に関しては、2014年に、Bruce Rindらは、キンゼイ・サンプルを用いて、18歳未満の時に成人男性と初体験を迎えた女性と、同年代同士で初体験を迎えた女性の最初の性交に関する感情的な評価を調査した。その結果、18歳未満の時に成人男性と初体験を迎えた女性は、同年代同士で初体験を迎えた女性と同じぐらいその関係を楽しんでいた。この結果は14歳以下の時に成人男性と初体験を迎えた女性に限定した場合でも同様であった。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24233327/ Rind B, Welter M. Enjoyment and emotionally negative reactions in minor–adult versus minor–peer and adult–adult first postpubescent coitus: A secondary analysis of the Kinsey data. Arch Sex Behav. 2014 Feb;43(2):285-97. doi: 10.1007/s10508-013-0186-x. PMID: 24233327.]</ref>


==被害の影響==
2020年に、Jakov Burićらは、セクスティング(青年期の少女がSNSなどで自らの裸を成人男性等に送信する行為)が青年期の少女の心理的な良好度に与える影響を調査した。その結果、セクスティングの動態は、青年期の少女の心理的な良好度の変化とは関連しておらず、家庭環境の劣悪さが、セクスティング行動の頻繁さと心理的良好度の低さに関連している事を発見している。<ref>[https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1461444820931091 Is sexting bad for adolescent girls’ psychological well-being? A longitudinal assessment in middle to late adolescence, Jakov Burić, Justin R Garcia, and Aleksandar Štulhofer]</ref>
そもそも子どもと大人は対等ではなく、信頼していた大人から性的に見られたこと、対等な同意のない性行為によって、子どもたちの心は傷つけられる{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。信頼していた大人に意思を無視され踏みにじられることで、信じた人が自分を搾取するかもしれないと感じるようになり、人を信じること、人に相談すること、人に頼ることを怖いと思ったり、自分に対して親切な人、親しくなろうとする人を警戒するようになることもある{{sfn|齋藤|2022|pp=238-239}}。暴力や搾取を受けることで、子どもたちの心は脆く、壊れやすくなる{{sfn|齋藤|2022|pp=238-239}}。


上下関係を作られ、対等であるかのように巧妙に信じ込まされることで、対等な関係性が分からなくなる場合もあり、継続的な被害にあっていた場合、相手に従順にふるまうことで自分の身を守ることが、生き抜くための方略となり、その関係性がカウンセリングの場でも繰り返されることがあるという{{sfn|齋藤|2022|pp=238-239}}。斎藤梓は、「対等な関係性に関する感覚や[[自尊心]]を失わせる」「[[自傷行為]]や[[摂食障害]]、性問題行動といった深刻な精神的後遺症を示すことも多い」と述べている{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。
未成年の時に成人男性と性的関係を持った女性のその後の社会適応に関しては、2021年に、Bruce Rindは、未成年の時に成人者と初体験を迎えた人と同年代同士で初体験を迎えた人のその後の社会適応について調査し、未成年の時に成人と初体験を迎えた人のその後の社会適応度は、殆どの指標において成人同士で初体験を迎えた人と同じぐらい良好であった、と報告している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32430871/ Rind B. First Sexual Intercourse in the Irish Study of Sexual Health and Relationships: Current Functioning in Relation to Age at Time of Experience and Partner Age. Arch Sex Behav. 2021 Jan;50(1):289-310. doi: 10.1007/s10508-020-01721-y. Epub 2020 May 19. PMID: 32430871.]</ref>


===性的虐待順応症候群===
未成年の頃に性交した女性一般のその後の社会適応に関しては、2013年に、Kelly L Donahueらは、一方が16歳未満で性行為に従事し、もう片方は16歳未満での性行為に従事しなかった双子のペアの心理的、社会的な不適応のリスクを比較する事により、早期性交がその後の心理的、社会的な適応に与える影響を調査し、16歳未満で性行為に従事した双子の片割れと、16歳未満で性行為に従事しなかった双子の片割れはその後の心理的社会的不適応のリスクにおいて有意な差が存在せず、早期に性交した子供のその後の心理社会的不適応は、早期の性行為が原因ではなく、双子が共有する家族的要因に起因するものであった可能性がある、と結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22708520/ Donahue KL, Lichtenstein P, Långström N, D'Onofrio BM. Why does early sexual intercourse predict subsequent maladjustment? Exploring potential familial confounds. Health Psychol. 2013 Feb;32(2):180-9. doi: 10.1037/a0028922. Epub 2012 Jun 18. PMID: 22708520; PMCID: PMC3664184.]</ref>
グルーミングや操作などにより深刻な性暴力被害を受けた子どもには、'''性的虐待順応症候群'''(性的虐待調整症候群、Child Sexual Abuse Accommodation Syndrome: CSAAS)と呼ばれる特徴的な症候群が発生することが指摘されている{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。虐待を受けている場合に、次のような様相を見せるとされる{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。
{{Quote|
# 性的虐待の事実を秘密にしようとする
# 自分は無力で状況を変えられないと思っている
# 加害者を含めた周囲の大人の期待・要請に過度に順応しようとする
# 性暴力被害を認めたがらず、説得力の無い、遅くタイミングのずれた矛盾した証言を行う
# いったん性暴力被害を認めた後で(恐怖感等に由来して)証言を撤回する{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}}}
性的虐待順応症候群は心身症状がなく、「適応的」に見える場合があることや、周囲からの介入の拒否などを含めた「加害者にとって都合の良い」振る舞いをする場合もある{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。性的虐待から逃げることはできないのだから、「自分から加害者を誘って、早く行為を終わらせて早く眠りたい」といった、痛ましい歪んだ生存スキルを身につけることもあるとされる{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。


性被害の直後に被害を話すことができる被害児童は、わずか25%と考えられている。子どもは時間をかけて少しずつ話す場合があり、また質問されても虐待内容を極小化したり、否定する場合もある{{sfn|日本フォレンジック看護学会|2020|p=4}}。また捜査中に、前に話した内容を覆す場合もある{{sfn|日本フォレンジック看護学会|2020|p=4}}。性虐待について話さないのには多くの要因があり、「困惑と恥辱の気持ち、自己責任・非難の気持ち、虐待についての理解不足、伝達能力不足、加害者や他の家族からの脅迫・操り・秘密の強要、自分や家族に悪影響が出ることを恐れる気持ち(現実的な悪影響か想像上の悪影響かを問わない)、信じてもらえない・助けてもらえないという思い込み」等が挙げられる{{sfn|日本フォレンジック看護学会|2020|p=4}}。
しばしば、青年期の少女は妊娠出産のリスクが高いと主張されるが、その反対の結論を支持する研究も多い。1997年に、A B Berensonらは、15歳以下で妊娠した青年期の少女と、成人女性や16歳以上の青年期の少女の周産期合併症リスクを比較した。その結果、青年期の少女は、貧血を発症する可能性が高かったが、集中治療室への入院が必要な幼児を出産する可能性は低く、妊娠高血圧症候群、早期陣痛、早期前期破水、絨毛膜羊膜炎、羊水混濁、子宮内膜炎、早産、低出生体重児、低アプガースコア、死産の発生率に差はない事を発見した。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9336751/ Berenson AB, Wiemann CM, McCombs SL. Adverse perinatal outcomes in young adolescents. J Reprod Med. 1997 Sep;42(9):559-64. PMID: 9336751.]</ref>1998年に、G Connollyらは、アイルランドの17歳未満の青年期の少女と17歳以上の女性の産科及び新生児の転帰を比較検討し、青年期の少女の産科及び新生児の転帰は成人の母親よりも悪い訳ではないと結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10069131/ Connolly G, Kennelly S, Conroy R, Byrne P. Teenage pregnancy in the Rotunda Hospital. Ir Med J. 1998 Dec;91(6):209-12. PMID: 10069131.]</ref>2000年に、A N Trivediらは、ニュージーランドの17歳以下の少女と18歳以上の女性の産科的転帰(出生体重、在胎週数、アプガースコア、骨盤位分娩、帝王切開分娩、機械的分娩、先天性欠損症の発生率、双子、妊娠高血圧症候群、子癇前症など)を調査し、17歳以下の少女は、真空支援膣分娩の割合が高かった事を除いて、両群の間に調査された転帰の差は存在しなかった事を発見している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15512586/ Trivedi AN. Early teenage obstetrics at Waikato Hospital. J Obstet Gynaecol. 2000 Jul;20(4):368-70. doi: 10.1080/01443610050111968. PMID: 15512586.]</ref>2005年、S Zeterogluらは、トルコ人の18歳未満の青年期の少女と18歳以上の成人女性の帝王切開分娩率を調査し、帝王切開分娩率は、青年期の少女の妊娠において増加しておらず、むしろ減少しており、青年期の少女の妊娠において生物学的な未熟さは有意な問題ではない、と結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16147817/ Zeteroglu S, Sahin I, Gol K. Cesarean delivery rates in adolescent pregnancy. Eur J Contracept Reprod Health Care. 2005 Jun;10(2):119-22. doi: 10.1080/13625180500131600. PMID: 16147817.]</ref>2010年に、James McCarthyらは、低出生体重児と早産の有病率に関する母親の年齢の影響を調査し、18歳未満の女性は、18歳以上の女性よりも低出生体重児を生む可能性が有意に低く、母親の年齢は早産の有病率に影響を与えていなかった事を報告している。<ref>[https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1207/s15327795jra0304_4 Age at First Birth and Birth Outcomes, James McCarthy &Janet Hardy]</ref>2016年に、Jennifer L Katz Eriksenらは、帝王切開分娩に関する母親の年齢の影響を調査し、青年期の少女は、複数の母体、新生児、分娩の特性で調整した後でさえ全体として一次帝王切開分娩をする可能性が成人女性の約半分であり、陣痛時に一次帝王切開分娩をする可能性は40%低い事を報告している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26836505/ Katz Eriksen JL, Melamed A, Clapp MA, Little SE, Zera C. Cesarean Delivery in Adolescents. J Pediatr Adolesc Gynecol. 2016 Oct;29(5):443-447. doi: 10.1016/j.jpag.2016.01.123. Epub 2016 Feb 1. PMID: 26836505.]</ref>2016年に、Adel Abu-Heijaらは、オマーン人の10代早期の少女と10代後期の少女の妊娠の産科及び周産期転帰を比較した。その結果、10代早期の少女は10代後期の少女と比べて、産科及び周産期合併症のリスクは高くないと結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27046961/ Abu-Heija A, Al Haddabi R, Al Bash M, Al Mabaihsi N, Al-Maqbali NS. Early Teenage Pregnancy: Is it Safe? J Obstet Gynaecol India. 2016 Apr;66(2):88-92. doi: 10.1007/s13224-014-0649-6. Epub 2014 Dec 25. PMID: 27046961; PMCID: PMC4818837.]</ref>2019年、Shunji Suzukiは日本人女性の青年期妊娠の産科転帰を調査し、青年期の妊娠は有害な産科転帰と関連していないと結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29278958/ Suzuki S. Clinical significance of pregnancy in adolescence in Japan. J Matern Fetal Neonatal Med. 2019 Jun;32(11):1864-1868. doi: 10.1080/14767058.2017.1421928. Epub 2018 Jan 7. PMID: 29278958.]</ref>2021年に、Danylo José Palma Honoratoらは、適切な集団出産前ケアを受けた青年期の少女の有害な新生児転帰リスクを調査した。その結果、集団出産前ケアを受けた青年期の少女の有害な新生児転帰の発生率は低く、リスクの差は存在しない事を発見した。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33898367/ Honorato DJP, Fulone I, Silva MT, Lopes LC. Risks of Adverse Neonatal Outcomes in Early Adolescent Pregnancy Using Group Prenatal Care as a Strategy for Public Health Policies: A Retrospective Cohort Study in Brazil. Front Public Health. 2021 Apr 9;9:536342. doi: 10.3389/fpubh.2021.536342. PMID: 33898367; PMCID: PMC8062755.]</ref>


通常、「性暴力被害を認めた上で証言を撤回する」といった行為は、証言の信用性を失わせる{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。そのため、周囲の大人が、なぜ被害児童がそうした行為をするのか理解していなければ、裁判で子供の証言の信頼性がなくなるという深刻な影響が生じる{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。性的虐待順応症候群の文脈からすれば、証言の撤回等は「被害を受けた子どもに認められる、ある種の正常な反応行動」であり、アメリカの司法分野では、被害者の言動を評価する際に参照される重要な概念となっており、性被害事実に関する争点の一つとして取り扱われることがある{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。しかし、日本でこの概念はまだあまり理解されていない{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。
10代で出産する事が母親の人生に与える影響に関しては、1997年に、Mary E. Corcoranらは、10代で出産する事と、成人期における貧困と福祉利用の関連性について、出産時期の異なる姉妹のデータを利用して因果関係を調査し、10代で母親となる事の悪影響とされていたものの大部分は、観察されていない家族特性によるものであると結論している。<ref>[https://www.jstor.org/stable/30013022 Do Unmarried Births among African-American Teens Lead to Adult Poverty?, Mary E. Corcoran and James P. Kunz, Social Service Review, Vol. 71, No. 2 (Jun., 1997), pp. 274-287 (14 pages)
Published By: The University of Chicago Press]</ref>2005年に、V. Joseph Hotzらは、流産による自然実験を利用して10代で出産する事が母親のライフコースに与える影響を調査した。その結果、10代で出産する事の否定的な結果の多くは、以前の研究で見つかったものよりも遥かに小さい事、殆どの結果について、早期出産の影響は短期的なものである事や、10代の母親が出産を20代以降に延期した場合、収入の少ない10代の間に出産及び子育てを済ませた場合に比べて、年間の労働時間と収入がむしろ減少してしまう事を発見している。<ref>[https://www.jstor.org/stable/4129557 Teenage Childbearing and Its Life Cycle Consequences: Exploiting a Natural Experiment, V. Joseph Hotz, Susan Williams McElroy and Seth G. Sanders, The Journal of Human Resources, Vol. 40, No. 3 (Summer, 2005), pp. 683-715 (33 pages), Published By: University of Wisconsin Press]</ref>


性的虐待順応症候群の背景には、次のような子供の心理があるとされる{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。
10代の母親を持つ事が、その子孫に与える影響に関しては、1994年に、Arline T. Geronimusらは、初産時の母親の年齢と子供の初期の社会情緒的認知的発達の関係を調査し、10代の母親の子供は、20代以降で初産を迎えた、10代の母親の姉妹の子供よりも発達の指標において、スコアが悪い訳ではなかった事を発見している。<ref>[https://www.jstor.org/stable/2137602 Does Young Maternal Age Adversely Affect Child Development? Evidence from Cousin Comparisons in the United States,Arline T. Geronimus, Sanders Korenman and Marianne M. Hillemeier,Population and Development Review,Vol. 20, No. 3 (Sep., 1994), pp. 585-609 (25 pages),Published By: Population Council]</ref>2003年に、Ruth N López Turleyは、母親の年齢と子供の発達の関係を調査し、若い母親の子供の問題行動の多さは彼女の年齢ではなく、彼女の家庭背景に起因している事を発見している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12705567/ Turley RN. Are children of young mothers disadvantaged because of their mother's age or family background? Child Dev. 2003 Mar-Apr;74(2):465-74. doi: 10.1111/1467-8624.7402010. PMID: 12705567.]</ref>2021年に、Shubhashrita Basuらは、18歳未満の母親から生まれた子供の出産から若年成人までの健康転帰を調査した。その結果、母親が18歳未満である事はその子供の健康転帰に悪影響を与えていなかったと結論している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34091239/ Basu S, Gorry D. Consequences of teenage childbearing on child health. Econ Hum Biol. 2021 Aug;42:101019. doi: 10.1016/j.ehb.2021.101019. Epub 2021 May 27. PMID: 34091239.]</ref>
{{Quote|
# 自分が悪いと思い込んでいる、罪悪感がある
# 加害者や家族が自分の告白で困った立場に立たされてしまうことへの不安感
# 性的虐待が立証されてしまったら、それから先、自分の身はどうなるのだろうというおそれを抱いている{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}}}
このような子どもの心理は、加害者の加害戦略に利用される{{sfn|高岡ら|2020|pp=70-71}}。


==用語の範囲の曖昧さ・使用の難しさ==
その他、1983年に、M W Roosaは、妊娠中の10代の子供のセクシュアリティや子供の発達に関する知識と態度を調査した。その結果、10代の子供は子供の発達に関する知識において成人の母親よりも僅かにスコアが低いが、セクシュアリティの知識に関しては成人の母親よりもかなりスコアが高かった事を報告している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12312161/ Roosa MW. A comparative study of pregnant teenagers' parenting attitudes and knowledge of sexuality and child development. J Youth Adolesc. 1983 Jun;12(3):213-23. doi: 10.1007/BF02090987. PMID: 12312161.]</ref>1983年に、P L Parksらは、初産の青年期の母親の子育てに関する知識を調査し、青年期の母親の知識水準は同程度の社会経済的な地位を持つ初産の成人の母親と同程度である事を発見している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6685116/ Parks PL, Smeriglio VL. Parenting knowledge among adolescent mothers. J Adolesc Health Care. 1983 Sep;4(3):163-7. doi: 10.1016/s0197-0070(83)80369-6. PMID: 6685116.]</ref>
ケネス・ラニングは、グルーミングという言葉・概念は、家族以外の顔見知りによる子どもの性被害事件の捜査の現場で使われるようになったと説明している{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。一方斎藤梓は、親やきょうだいといった家族からのグルーミング被害が多いと述べおり、家族内の性被害にもグルーミングという言葉を用いている{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。ラニングは、家族内のケースは理論的には支配のメカニズムとしてグルーミングの概念を含むと考えられるが、大部分の親が日常的に、グルーミングの最も一般的に用いられる指標に当たること(例えば、注目、愛情、贈り物、お金、特権)を行っているため、グルーミングをはっきり識別することは難しいとしている{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。ラニングは、グルーミングという言葉・概念ができていった1970年代から1980年代初頭にかけて、家族内ケースにおける支配の力学にグルーミングという用語が使われた記憶はないとしている{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。


グルーミングと誘惑という言葉を区別して使う人もいれば、同じだと考える人もいる。グルーミングと{{仮リンク|操作 (心理学)|label=操作|en|Manipulation}}(Manipulation。洗脳操作、心理操作。[[マインドコントロール]]とも)を同一視する人もいれば、別だと考える人もいる。児童性的虐待の用語だが、立場の弱い成人に対する性的虐待に使う人もいる。ミシェル・マクマナスは、グルーミングは子供と大人の両方が対象となる場合があるとしている<ref name="McManus"/>。
更に周辺的な問題として、大きく年齢差のある年上の男性を好む女性は、父親との関係に問題を抱えている、という主張については、2016年に、Sara G. Skentelberyは年齢差のある異性愛的な恋愛関係にある若い女性の愛着スタイルを同年代同士の恋愛関係にある女性と比較したが、2群の間に愛着スタイルの有意な差は存在せず、年齢差のある恋愛関係にある女性の74%は安定した愛着を持っていた事が分かっている。<ref>[https://psycnet.apa.org/record/2015-55834-001 Skentelbery, S. G., & Fowler, D. M. (2016). Attachment styles of women-younger partners in age-gap relationships. Evolutionary Behavioral Sciences, 10(2), 142–147. https://doi.org/10.1037/ebs0000064]</ref>


全米児童保護センター(National Children’s Advocacy Center)エグゼクティブ・ディレクターのクリス・ニューリンは、児童虐待の分野以外の人々(陪審員、家族、地域社会など)に情報を伝える際に、どの言葉を用いるのかは重要で、グルーミングと'''操作'''の定義を比較すると、操作の方が適切ではないか、明らかに反社会的な行動に、なぜグルーミングという親社会的な言葉、{{仮リンク|向社会的行動|en|Prosocial behavior}}を説明するのに使われる言葉を採用するのかと疑問を呈し、犯罪者の行動をより適切に説明し、非専門家が理解しやすくするために、呼称を「操作」に変えることを提案している<ref name="CALiO"/>。''[[:en:Journal of Interpersonal Violence|Journal of Interpersonal Violence]]'' の2018年のグルーミングに関する特別号では、多くの原稿の中でグルーミング、誘惑(seduction)、強制・支配(coercion)という言葉について議論が行われ、「このプロセスを説明するより適切な用語はあるだろうか?」という重要な質問が提示されている<ref name="CALiO">{{Cite web |title=Manipulation – The New Grooming, or Maybe What It Has Been All Along|author= Chris Newlin|url=https://calio.org/newsroom/manipulation-the-new-grooming-or-maybe-what-it-has-been-all-along/|website=CALiO(The Child Abuse Library Online)|date=2018-08-04|access-date=2023-07-01}}</ref>。
また年の差のある恋愛関係は、パートナーとの話が合わず、破綻する可能性が高い、という主張については、2021年に、David W. Lawsonらは、タンザニアの女性の横断的な調査データを用いて、夫が年上の配偶者の年齢差が女性にとって不利益になるのかどうかを調査した。その結果、潜在的な交絡因子を調整した場合、配偶者の年齢差は出生率や離婚のリスクとは関係していない事、また女性の精神的な健康や家庭内の意思決定における自律性は、同年代同士または妻が年上の結婚という稀な事例に比べて、夫が年上の結婚の方が高い事、さらに、配偶者の年齢差の大きさは、夫が年上の結婚の圧倒的多数において、女性の幸福度のいずれの指標とも関連していなかった事を発見した。<ref>[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090513820301057 Shared interests or sexual conflict? Spousal age gap, women's wellbeing and fertility in rural Tanzania,
David W. Lawson, Susan B. Schaffnit, Anushé Hassan, Mark Urassac.]</ref>2022年に、Riana Minocherらは、コロンビアの4つのコミュニティにおける配偶者の年齢差、パートナーの好み、個人の幸福の関係を調査し、男女共に、年齢差が大きい事は出生率や幸福度の指標と否定的に関連していない事を発見している。<ref>[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090513822000411 Spousal age-gaps, partner preferences, and consequences for well-being in four Colombian communities, Riana Minocher, Cody T. Ross.]</ref>


日本語としては今後、'''性的懐柔'''などの言葉に変わる可能性があると言われる<ref name="PO20230619">{{Cite web |title=「ジャニー喜多川氏性暴力疑惑で問題視」専門家が解説する"性的手なずけ"の巧妙な5つのプロセス 信じたい気持ち、怒り、絶望とのあいだで、揺れ動く|author= 齋藤梓|url=https://president.jp/articles/-/69535|website=PRESIDENT Online|date=2023-05-19|access-date=2023-06-19}}</ref>。
大人と子供の性的関係では、弱い立場の少女が家庭内暴力などの被害を受けやすくなる、と主張される事があるが、多くの研究は、社会一般及び家庭内における女性の社会的、経済的な地位が高くなるほど、男性のバックラッシュ現象により家庭内暴力や致死的な暴力の被害が増加する事を示している。2018年に、Eleonora Guarnieriらは、第一次世界大戦の終わりから1961年までカメルーンの西部領土がフランスとイギリスの間で恣意的に分割されていたことを利用し、女性のエンパワーメントを促進する政策や制度が親密なパートナーの暴力に与える影響を調査した。その結果、普遍的な学校教育システムの恩恵を受け、有償雇用の機会が与えられていたイギリス領の女性は、少数の行政エリートを教育し、男性の雇用が支配的なインフラ部門への投資を中心としていたフランス領の女性よりも家庭内暴力の被害者になる確率が30%も高い事を発見した。<ref>[Guarnieri, Eleonora and Rainer, Helmut, Female Empowerment and Male Backlash (May 7, 2018). CESifo Working Paper Series No. 7009, April 2018, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3198483 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3198483]</ref>2019年に、Enrique Graciaは、測定の同等性を確保する為の予備的な調査を行った上で、ジェンダー平等指数の高いスウェーデンとジェンダー平等指数の低いスペインのデータを比較したところ、スウェーデンの女性はスペインの女性よりも親密なパートナーからの身体的、性的な暴力を受ける確率が高い事を報告している。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31095614/ Gracia E, Martín-Fernández M, Lila M, Merlo J, Ivert AK. Prevalence of intimate partner violence against women in Sweden and Spain: A psychometric study of the 'Nordic paradox'. PLoS One. 2019 May 16;14(5):e0217015. doi: 10.1371/journal.pone.0217015. PMID: 31095614; PMCID: PMC6522122.]</ref>2019年に、Erwin Bulteらは、ベトナムのデータを利用し、女性のエンパワーメントを促進する政策が家庭内暴力に与える影響を調査した。その結果、ジェンダーと起業家精神のトレーニングプログラムに参加した女性は対照群の女性よりも頻繁に家庭内暴力被害に遭う事を発見した。<ref>Bulte, Erwin & Lensink, Robert, 2019. "Women's empowerment and domestic abuse: Experimental evidence from Vietnam," European Economic Review, Elsevier, vol. 115(C), pages 172-191.]</ref>2020年に、Punarjit Roychowdhuryらは、インドのデータを利用し、妻の経済的地位と家庭内暴力の因果関係を調査した。その結果、妻の経済的地位が夫の経済的地位と同等以上である場合に、家庭内暴力が大幅に増加する事を発見し、女性のエンパワーメントとジェンダー平等を促進する政策は、かえって女性の家庭内暴力被害を増加させる可能性があると結論している。<ref>[https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3766994 Roychowdhury, Punarjit and Dhamija, Gaurav, Don't Cross the Line: Bounding the Causal Effect of Hypergamy Violation on Domestic Violence in India (November 6, 2020). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3766994 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3766994]</ref>2020年に、Sonia R. Bhalotraらは、2005年から2016年までの発展途上国のデータを利用し、失業率の変動と親密なパートナーからの暴力との関連を調査した。その結果、男性の失業率が1%増加すると、女性に対する身体的暴力の発生率が2.75%増加し、女性の失業率が1%増加すると、女性に対する身体的暴力の発生率が2.87%減少する事を発見した。<ref>[https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3524104 Bhalotra, Sonia R. and Kambhampati, Uma and Rawlings, Samantha B. and Siddique, Zahra, Intimate Partner Violence: The Influence of Job Opportunities for Men and Women (January 22, 2020). World Bank Policy Research Working Paper No. 9118, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3524104]</ref>2020年に、Colleen E. Millsらは、ジェンダー平等の推進と男性の暴力との関連を調査し、ジェンダー平等の推進が男性による極右的暴力の増加と関連している事を発見している。<ref>[https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/0735648X.2020.1738261 Far-right violence as backlash against gender equality: A county-level analysis of structural and ideological gender inequality and homicides committed by far-right extremists,
Colleen E. Mills,Margaret Schmuhl &Joel A. Capellan.]</ref>2021年に、Joseph A Kilgallenらは、タンザニア北部のコミュニティにおける親密なパートナーからの暴力に関する行動と態度についての横断的な研究を行った。その結果、親密なパートナーからの暴力は、夫よりも高いレベルの教育を受けた女性の間でより頻繁に報告され、一般に女性のエンパワーメントを促進すると考えられている配偶者の年齢差が比較的小さい事は逆に親密なパートナーからの暴力を経験するリスクの増加と関連している事を発見した。<ref>[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34802316/ Kilgallen JA, Schaffnit SB, Kumogola Y, Galura A, Urassa M, Lawson DW. Positive Correlation Between Women's Status and Intimate Partner Violence Suggests Violence Backlash in Mwanza, Tanzania. J Interpers Violence. 2022 Nov;37(21-22):NP20331-NP20360. doi: 10.1177/08862605211050095. Epub 2021 Nov 22. PMID: 34802316.]</ref>2021年に、Bernard Moscosoは、エクアドルにおいて女性のエンパワーメントとフェミニサイドに関する法令の施行が自治体間で均一ではなかった事を利用し、これらの政策が女性に対する致死的な暴力に与える影響を調査した。その結果、新しくフェミニサイドを厳罰化する法令を施行した自治体や女性のエンパワーメントが進んでいる自治体においてジェンダー暴力の発生率が増加している事を発見した。<ref>[https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3959394 Moscoso, Bernard, Femicides: Laws, Women Empowerment, and Retaliation Effects (November 9, 2021). Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3959394 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3959394]</ref>2021年に、Bilge Ertenらは、トルコの各州におけるシリア難民流入の差異を外生的な労働市場へのショックとして利用し、女性の雇用機会の減少が親密なパートナーからの暴力に与える影響を調査した。その結果として、女性の雇用機会の減少は、女性に対する親密なパートナーからの暴力を減少させることを発見した。<ref>[https://ideas.repec.org/a/eee/deveco/v150y2021ics0304387820301826.html Erten, Bilge & Keskin, Pinar, 2021. "Female employment and intimate partner violence: Evidence from Syrian Refugee inflows to Turkey," Journal of Development Economics, Elsevier, vol. 150(C).]</ref>2022年に、Sanna Bergvallは、スウェーデンの高品質な行政記録を利用し、女性側の潜在的な相対的な所得の増加は、彼女が暴行に関連した負傷の為に病院を訪れる可能性を増加させることや、夫がストレス、不安、薬物乱用、暴行に関連する理由で病院に訪れる確率を増加させることを発見した。<ref>[Bergvall, Sanna, Backlash: Female Economic Empowerment and Domestic Violence. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4059800 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4059800]</ref>2022年に、Sowmya Dhanarajらは、インドの都市部における、既婚女性の有給労働参加と親密なパートナーからの暴力の関係を調査し、有給労働に従事している女性は、専業主婦の女性に比べて有意に高いレベルの家庭内暴力に直面している事を発見した。さらに、女性が有給の仕事を行う事で得られる自律性が家庭内暴力を減少させるという証拠は見当たらなかったと報告している。<ref>[https://ideas.repec.org/a/taf/femeco/v28y2022i1p170-198.html Sowmya Dhanaraj & Vidya Mahambare, 2022. "Male Backlash and Female Guilt: Women’s Employment and Intimate Partner Violence in Urban India," Feminist Economics, Taylor & Francis Journals, vol. 28(1), pages 170-198, January.]</ref>


[[立正大学]]教授の[[西田公昭]]は、グルーミングは「マインドコントロール」の一種で、ごく普通のコミュニケーションの中で行われることを強調する<ref name="sukusuku54559"/>。一方、ラニングは、注目や愛情に対する人間の基本的な反応を、ある種の「症候群」や「[[洗脳]]」と呼ぶことは、問題を複雑にし、混乱を招くと注意を促している{{sfn|Lanning|2018|p=11}}。
上記の研究を見る限り、大部分の少女は、成人男性との性的な関係に自発的に同意したと認識しており、その行為自体から否定的な感情を経験しておらず、その後の社会適応度においても、悪影響を受けているという事を示唆する証拠はない。そのような被害や悪影響が主張されている事例においては、性行為や性的関係そのものから直接生じているというよりもむしろ、被害者とされる少女が、その行為の前か後にフェミニズム的なイデオロギーに触れて自分自身が被害を受けているか、受けていたという認識を持つに至った後にのみ深刻な心理的な苦痛や社会生活への悪影響が生じている様に見える。


児童性加害は、見知らぬ他人によるというイメージが強く、このようなステレオタイプな児童虐待者が用いる短期的な支配メカニズムを説明するために、「ルアー(誘い出し)」という用語が使われることが多かった{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。ラニングは、「ルアー」をグルーミングの一形態と考える人も多いが、誤りであると述べている{{sfn|Lanning|2018|pp=6-7}}。カナダなどいくつかの管轄区域では、グルーミングに対し「ルアーリング」という用語が使用されている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=41}}。
同様の所見は、Alfred C. Kinseyにより観察されている。<ref>[https://psycnet.apa.org/record/1954-05526-000 Kinsey, A. C., Pomeroy, W. B., Martin, C. E., & Gebhard, P. H. (1953). Sexual behavior in the human female. Saunders.]</ref>:「性的な経験によって起こる、いわゆる外傷結果は、その当人に能力がないこととか、或いは、その男性もしくは女性が実際にその経験をする時に知った満足を、認めるのを拒むこと、或いは、その経験は満足である筈がないとか、それは何らかの形で、望ましからぬ結果となる筈であるだとかいうことを、彼、又は、彼女が、信じて譲らないことなどによって決まることが多い。しかし、そういうことがまた、その当人たちが育った地域社会の態度を反映しているのである。我々の持つ何千という事例によって、この議論が本当だということは、十分に証拠立てられている。それらは、およそ考えつく限りのあらゆるタイプの性的な行動を含み、しかも、後に心理的な乱れを残さない。これに対して、また別の事例の中では、同じ種類の行動が、恥、自責、絶望、自暴自棄、それから自殺未遂などをもたらしている。些細きわまることを、大々的な事件にでっち上げることもできる。多くの人々は、自分達の態度と社会の掟が、このような攪乱を引き起こしたことを理解できないで、それこそ性的な行為そのものの本来の不正と異常との、直接の証拠に他ならないと決めてしまうのである。」


グルーミングという言葉は、児童買春など性的売買事件において「[[ピンプ]](売春斡旋業者、[[ポン引き]])」が被害児童を集め、管理する手法に使われることがある{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。齋藤梓は、風俗等に勧誘する手段としてグルーミングが利用されることがあるとしている{{sfn|齋藤|2022|pp=30-31}}。ラニングは、人身売買業者による勧誘と支配の主な目的は、自分自身ではなく顧客の性的満足のためであり、このような人身売買業者は、主な手法として脅迫や暴力を使用する傾向がはるかに強いため、ピンプの手法にグルーミングという言葉を使うことが適切であるかは疑問があると述べている{{sfn|Lanning|2018|pp=9-10}}。
また有害な悪影響の存在を報告する研究結果も数多く発表されているが、Bruce Rindらによれば、それらの研究の多くはサンプルの偏り、対照群との比較の欠落、家庭環境や遺伝的な要因などの交絡因子の調整不足等の欠点を抱えており、中には否定的な結果を導き出す為に誘導的な尋問を行っているものや、肯定的な回答を意図的に排除しているものなどもある事が指摘されている。<ref>[https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4613-9682-6_4,Sociopolitical Biases in the Contemporary Scientific Literature on Adult Human Sexual Behavior with Children and Adolescents,Paul Okami]</ref>


== オンライングルーミング ==
また成人男性と未成年の少女の性的関係を被害と見なすべき理由の一つとして、両者の力関係の格差が理由として挙げられる事があるが、力関係に格差があるというだけでは、必ずしもその力関係の影響を受けたという事は出来ず、実際の研究においても、大部分の事例においては、子供は、そのような力関係の影響を受ける事なく、自発的に同意したと認識している事が示されている事から、力関係の格差がある事だけを理由に大人と子供の性的関係における同意の有効性を否定する事は妥当ではないと考えられる。<ref>[https://muse.jhu.edu/article/54580 Angelides, Steven. "Feminism, Child Sexual Abuse, and the Erasure of Child Sexuality." GLQ: A Journal of Lesbian and Gay Studies, vol. 10 no. 2, 2004, p. 141-177. Project MUSE muse.jhu.edu/article/54580.]</ref><ref>[https://www.jstor.org/stable/23171750 SEX AND THE AGE OF CONSENT: The Ethical Issues, Terry Leahy, Social Analysis: The International Journal of Anthropology, No. 39 (April 1996), pp. 27-55 (29 pages), Published By: Berghahn Books]</ref>また、合意は対等な当事者の間で行われるものであるから力関係に格差のある関係では合意は存在しない等と言う主張が行われる事があるが、性的関係以外の様々な合意が行われる場面を見ると、両者の力関係が全く対等である事はむしろ珍しく(例えば雇用契約や消費者契約)、力関係の格差がある事だけを理由に合意を否定する事は妥当ではないと思われる。
オンライングルーミングとは、個人がインターネット上で、性的接触を目的として未成年と親しくなる過程をいう{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。SNSやその他のオンラインのコミュニケーションツールを使って知りあい、徐々に子どもの信頼を積み上げた上で、現実に会う約束をしたのちに性加害を行う<ref name="cnet35180096"/>。オンラインでも、対面のグルーミングとほぼ同様の経過を辿ることがわかっている{{sfn|高岡ら|2020|p=68}}。オーストラリア犯罪研究所のキムグァン・チューは、様々な事例から、児童性加害者は、被害者をグルーミングしやすくするために、様々な種類のテクノロジーを利用し、実際に会う前の数ヶ月にわたり、オンラインでグルーミングを行うことが多いようだと語っている{{sfn|Choo|2009|p=xii}}。しばしばウェブカカメラが使われ、児童性加害者のネットワーク間で性的搾取物の「共有」が行われたり、性的虐待を行うために実際に子どもと会うこともある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。

児童性加害者に関する調査では、彼らの中には、オンライングルーミング過程のさまざまな段階にある子どもたちを、友人のリストに最大で200名登録している者もいる、と示唆されている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。オンライングルーミングは、加害者の目的やニーズ、そして相手の子どもの反応によって、数分で終わるものから数時間、数日、あるいは何か月にも及ぶこともある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。

弁護士の川本瑞紀によると、SNSで知り合い、悩み相談や趣味の話で盛り上がってから、直接会う約束を取り付け、加害者の自宅に誘い、突然性的行為をされてしまうのが、オンライングルーミングの典型的な手法である<ref name="bengo413646">[https://www.bengo4.com/c_1009/n_13646/ 子ども性被害の背景に「グルーミング」 オンラインで知り合い、妊娠した中学生も - 弁護士ドットコム]</ref>。[[成蹊大学]]客員教授の高橋暁子は、「多くのSNSは、13歳以上を対象としているものの、13歳以下の子どもたちも多く利用していて、こうした被害につながっています。また、ネット上だけでしかコミュニケーションを取っていない友だちだとしても(実際に)会うことに抵抗がない傾向にあり、小学生でもネット上で知り合った人と気軽に会ってしまうという事例が非常に増えているのです」と述べている<ref name="abema10034668">[https://times.abema.tv/articles/-/10034668 どうしても会いたい時には相談して、ビデオ通話で本人確認を… SNSでの「グルーミング」による子どもの性被害対策 | 国内 | ABEMA TIMES]</ref>。

ネットリテラシー専門家の小木曽健は、加害者の典型的なやり口の例として、次のものを挙げている<ref name="nhk20211030">{{Cite web |title=SNS性犯罪から子どもを守るために 事例と対策は…|author= 田中ふみ|url=https://www.nhk.or.jp/minplus/0026/topic032.html|website=NHK|date=2021-10-30|access-date=2023-07-01}}</ref>。
{{Quote|
* ターゲットと同世代の美男美女の写真を使い、魅力的な人物や「気の合う同性」になりすます。
* 自分自身の体型の悩みを相談。ネットで拾った裸の写真を「自撮り」だと偽って送り、相手にも写真を求める。
* 相手から写真が届くと態度が豹変。ばらまかれたくなければ会いに来いと脅迫する。<ref name="nhk20211030"/>}}

ライブ配信の無料アプリを使い、女子児童を巧みに誘導して性的な動画配信を行わせることもある<ref>[https://www.chunichi.co.jp/article/438270 <ユースク> ライブ配信の闇 中学生の性的動画、視聴者が巧妙誘導:中日新聞Web]</ref>。性的な写真等と個人情報が結び付けば、個人を特定され、脅され、性行為を強要される危険もある<ref name=nishinippon897269>[https://www.nishinippon.co.jp/item/o/897269/ ポイント欲しさ…ライブ配信の闇 中学生の性的動画、視聴者が巧妙誘導 |【西日本新聞me】]</ref>。グルーミングされて裸の写真を送ってしまった後、「自分の裸の画像を誰かに見られているのか」という苦しみを抱えることになる<ref name="mynavi23736"/>。

インターネット上に情報を掲載することを危険視する人も多く、慎重な議論が交わされているが、若者にとって、インターネット上に個人情報を掲載することは、今や普通の行動となっており、友人との円滑な交流に欠かせない面もある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。アメリカで行われた調査によると、画像を含む個人情報を毎日インターネットに掲載したことで、子どもが犯罪被害にあったと示す調査結果は、一般的にほとんどない{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。子どもの性的虐待やオンライングルーミングは、個人情報を掲載すること自体よりも、インターネットでの交流や、さまざまな形での危険行為を行うことによって引き起こされるといえ、実のところ、若者に個人情報をインターネットの掲載することを禁じる必要性はないということを調査結果は示唆している{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。アメリカ以外の国も同様かは不明である{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。

===インターネット上の児童性的虐待に関する誤解===
ユニセフ・イノチェンティ研究所は、インターネット上の児童性的虐待について誤った通念が多くあると指摘し、次のものを挙げている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。(「なりすまし」を典型的なやり口とする小木曽の主張を、ユニセフ・イノチェンティ研究所は否定していることになる。)

* '''児童ポルノ製造において、子どもを最も脅かすのが見知らぬ人間であるという誤解'''。最初に児童性的虐待コンテンツ(児童ポルノ)を製造し、配布したのが見ず知らずの他人というのは誤りで、家族やその他の養育者といった、子どもに簡単にアクセスできる身近な人間であることが多い。{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}
* '''オンライングルーミングには、一般に年上の男が別人になりすまし、罪のない子どもに嘘をついて騙すという手口が含まれるという誤解'''。ユニセフ・イノチェンティ研究所は、これは多くの場合真実でなく、むしろ加害者は、子どもを「誘惑」あるいはうまくおだてて、インターネット上で自発的に性的な友人関係になったのだと認識させる傾向があると述べている。オンライングルーミングを行う際に年齢や性別を偽る加害者もいるが、そのような行為は明確に犯罪で、法定強姦の典型例に当たる。{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}

===使用されるサイバースペース===
オンライングルーミングに使われるサイバースペースには、[[チャット]]ルームや[[ソーシャルネットワーキングサービス|SNS]]、[[インスタントメッセージ]]がある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。イギリスでは2020年4月からの1年間に、5441件のオンライングルーミングによる児童への性犯罪が発生したが、約半数は[[Instagram]]や[[WhatsApp]]、[[Facebook]]メッセンジャーなどのアプリを使って行われており、[[Instagram]]が全体の約3分の1、[[Snapchat]]も4分の1以上を占めており、若者に人気のSNSアプリがオンライングルーミングに利用されていることがわかる<ref name="cnet35180096"/>。2018年「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」(警察庁)によると、被害の入り口は、[[Twitter]]、中学生・高校生・大学生限定のトークアプリ[[ひま部]](株式会社ナナメウエ。2019年閉鎖)、[[LINE (アプリケーション)|LINE]]の順で多かった<ref>{{Cite web |title=SNSがきっかけの犯罪被害、15歳以下が過半数/データで読み解く、子どもとスマホ【第52回】|author= |url=https://kids.gakken.co.jp/parents/parenting/watanabe_datechildsmartphone52/|website=学研キッズネット|date=22018-05-22|access-date=2023-07-02}}</ref><ref>{{Cite web |title=Z世代が急増するSNS「Yay!」とは “性犯罪の温床”から出直し|author= |url=https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00626/|website=日経クロストレンド|date=2021-06-03|access-date=2023-07-02}}</ref>。2021年時点では、TwitterとInstagramを入り口とする性被害が多く、合わせて半数以上を占めており、[[Yay!]](株式会社ナナメウエ)、[[KoeTomo]](Meetscom株式会社)、[[TikTok]]を入り口とする被害が続いていた<ref>{{Cite web |title=SNSがきっかけの子どもの性被害が増加~身近なサービスから忍び寄る危険|author=後藤弘子 監修 |url=https://3keys.jp/issue/d02/|website=認定NPO法人3keys(スリーキーズ)|date=|access-date=2023-07-02}}</ref>。

また、「[[荒野行動]]」や「[[フォートナイト (ゲーム)|フォートナイト]]」などの[[オンラインゲーム]]の[[ボイスチャット]]機能を使って知り合うこともある<ref name="cnet35180096"/>。

===被害者像===
オンライングルーミングの被害を受ける危険性が最も高い年齢は、自我の発達過程にあり、出会いや友人を作る手段としてインターネットを積極的に使うことが多い思春期の青少年で、ユニセフ・イノチェンティ研究所は、調査結果は特に女子の危険性が高いことを示している、と述べている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。小木曽健は、SNS性犯罪に巻き込まれる子どもたちに特に傾向はなく、そもそも子どもは大人よりも屈しやすく、だましやすいため、子どもというだけで狙われると述べている<ref name="nhk20211030"/>。誰でも被害者になりえるが、加害者から見ると、非行傾向のある子は、警察に補導された際にスマホを確認されることがあり、そこから露見する可能性があるため、できるだけ「普通の子」を狙うという<ref name="nhk20211030"/>。

===加害者像===
オンライングルーミングは、まだ多くの国々で犯罪行為とみなされておらず、記録も残されないため、オンライングルーミングを行う者(ユニセフ・イノチェンティ研究所の調査結果では主に男性)の数については情報がなく、不明である{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。オンライングルーミングが刑事罰の対象となっている国々においても、犯罪者の詳細を提供する組織的なデータベースは存在しない{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。主に先進工業国で行われた調査結果によれば、インターネット上の子どもの性的虐待者を類型的に見ると、主に白人、男性、一般的に仕事に就き、そこそこ良い教育を受けている、年齢層は幅広く、若者も含まれる、などの点が指摘されている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。オフラインで子どもの性的虐待を行っている男性の多くは、オンラインでの虐待にも関わっている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。

===児童ポルノ被害===
NHKによると、SNSに起因した性被害で、わいせつ行為の次に多いのが児童ポルノの被害である<ref name="nhk4604"/>。その多くが、加害者がグルーミングで子どもと関係を作った上で、性的な写真や動画を送らせたものであり、それが流出、拡散している<ref name="nhk4604"/>。グルーミングで入手した性的な画像などが、「[[児童ポルノ]]」コンテンツとして、アンダーグランドマーケットで高値で売買されることも珍しくない<ref name="nhk4604"/>。

インターネット上で児童虐待コンテンツを閲覧している男性の大半は、現実で児童との性的接触を求めているわけではないようであるが、子どもの性的虐待コンテンツの需要を維持し、製造を後押ししている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=2-3}}。

===被害にあいやすい子どもの特徴の調査===
インターネット上で性的虐待や性的搾取の被害にあいやすい子どもの特徴について、調査が行われているが、その結果は必ずしも一致しない{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=9}}。南アフリカとアメリカで行われた調査は、自分に自信のない子ども、絶望や否定的事象、現実で性的虐待・迫害を経験している子どもは、オンライングルーミングの被害に遭う危険性が特に高いことが示唆されている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=9}}。日本の、[[追手門学院大学]]准教授の櫻井鼓による2021年から翌年にかけての調査分析では、グルーミング被害を受けた子どもの背景には「孤独感」があることが示された<ref name="otemon2748"/>。対人関係がうまくいかなかったり、家庭内虐待の経験がある子どもは、猥褻な自撮り画像を送ってしまいやすいという<ref name="otemon2748">[https://newsmedia.otemon.ac.jp/2748/ SNSで深刻化するグルーミング。調査から見えた児童の性被害の実態と背景 | OTEMON VIEW]</ref>。

一方、イギリスで行われた調査では、現実世界において特に明白な脆弱性のパターンは見られなかった{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=9}}。

ブラジルでの調査では、社会的要因と経済状況の重要な関連性が見られ、極めて貧しい地区出身の少女たちは、より早期に性化行動にさらされ、インターネットで性的関連のサイトを訪れて、ステータス向上を可能にしてくれそうな年上の男性と出会おうとする{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=9}}。一方、中流家庭の少女たちは、インターネットの使用も大人の厳しい監視、指導の下で、主に教育目的で行っている{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|p=9}}。

===立証の困難さ・捜査の不十分さ===
児童性的虐待の多くは明らかにならず、インターネット上で起きた場合、発覚する度合いはさらに低くなる{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-20}}。インターネットを用いた性的虐待は、子どもと犯罪者の肉体的接触が必ずしも必要ではなため、多くの場合立証が困難であり、法律がオンライングルーミングを犯罪行為としていない、明確な定義を与えていない場合、警察にとって課題はさらに大きくなる{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-20}}。ある犯罪を立証しようとする場合、肉体的接触が全くなくても、子どもを誘惑する「意志」があったと立証する必要があるが、どんな「意志」の証拠が必要なのかなどの課題がある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-20}}。

児童性的虐待コンテンツの被写体となった子どもは、羞恥心に苛まれ、グルーミングにより加害者に感情的に依存していることもあり、自分から被害を口にすることはほとんどなく、大部分の事件が警察の捜査で明らかになる{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-20}}。オンライングルーミングの被害を受けやすい子どもの中には、社会的に孤立し、支援が少ない子どももおり、こうした場合、通報される可能性がさらに低い{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-20}}。性的虐待コンテンツは被害児童が知らないところで加工・配布されるため、多くの子どもは自分が犯罪の被害者であるということを自覚していない{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-20}}。被害が明らかになった場合、周囲から軽視されたり誤解されたりすることがあり、さらなる心的外傷を負う可能性もある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-22}}。インターネット上にコンテンツが何年にもわたって出回り、映った姿と成長した被害者の容姿が異なっていることもあり、被害者を保護し、適切な心理サポートを受けさせるための確認作業には難しさがある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-22}}。警察はインターネット上の性的搾取を、保護を要する問題として見ておらず、多くの国で[[サイバー犯罪]]に分類されているが、警察のサイバー犯罪部門は、詐欺や組織犯罪に重点を置いており、子どもの保護に関する専門知識・専門的な関心が、ほとんど、あるいは全くないことがある{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-22}}。子どもの商業的性的虐待に関するウェブサイトは、法律上組織犯罪として分類されるか、詐欺やテロの扱いに慣れた警察官によって捜査されることが多いが、性的虐待コンテンツの交換やオンライングルーミングの多くは、捜査対象から外されており、多くの国で、インターネット上の子どもの性的虐待や性的搾取は十分に捜査されておらず、子どもを主体とした対応が行われていない{{sfn|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012|pp=19-22}}。

== 法整備 ==
=== ヨーロッパ ===
イギリスではグルーミングで信頼関係を築いた18歳以上の人物が、16歳未満の人物に[[避妊具]]を持って逢うと処罰される可能性があり、[[ドイツ]]では性行動を目的に子どもと連絡を取るグルーミングそのものが処罰対象となっている<ref name="mainichi076000c"/><ref name="nhk4604"/><ref name="bengo413646"/>。

=== 韓国 ===
韓国では2020年に[[n番部屋事件]]が発覚し、社会を揺るがす大問題となり<ref name="huffingtonpost20200330">{{Cite web |title=女性を脅して、残虐な性的動画を…。韓国「n番の部屋事件」「博士の部屋事件」を生んだ魔のチャットルーム|author= 新潮社フォーサイト|url=https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e81b10ec5b6256a7a2db828|website=ハフポスト|date=2020-03-30|access-date=2023-06-19}}</ref>、刑法の[[性的同意年齢]]が13歳から16歳に引き上げられ、2021年9月に青少年性保護法が改正され、オンラインでのグルーミング行為を処罰する法的根拠が設けられた<ref>{{Cite web |title=韓国「n番部屋事件」と日本の性産業の“違い”って?女たちの問いは重い|author= 北原みのり|url=https://dot.asahi.com/articles/-/88105?page=2|website=アエラドット|date=2020-07-07|access-date=2023-06-19}}</ref><ref>{{Cite web |title=「トラウマになるほど衝撃的」…デジタル性搾取物を削除する人たち|author= |url=https://japan.hani.co.kr/arti/politics/39419.html|website=ハンギョレ|date=2021-03-16|access-date=2023-06-19}}</ref>。
改正青少年性保護法の施行で、被害に遭った女性の証言を基にした「おとり捜査」が可能となった<ref>[https://www.yomiuri.co.jp/world/20211227-OYT1T50175/ SNSで少女操る「グルーミング」、性犯罪目的なら検挙…韓国でおとり捜査も : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン]</ref>。

=== 日本 ===
子どもへの猥褻行為の処罰を巡っては、法律の不備が指摘されており、刑法の改正が検討されてきた<ref>{{Cite web |title=性犯罪に関する刑事法検討会|author= |url=https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00020.html|website=法務省|date=|access-date=2023-07-02}}</ref>。法律不備を補う形で、猥褻目的誘拐罪や青少年保護を目的とする各地の条例などが適用されてきた<ref name="asahi20230615"/>。2023年6月に、刑法改正案が可決成立し、性的な行為を目的に子どもを手なずけるグルーミングの処罰規定も盛り込まれた<ref name="asahi20230615"/><ref>{{Cite web |title=刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案 国会提出日 令和5年3月14日|author= |url=https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00020.html|website=法務省|date=|access-date=2023-07-02}}</ref>。実際に会う前に子どもを懐柔する行為に着目し、より早い段階で処罰し、事前に被害を防ぐことを狙いとしている<ref name="asahi20230615">{{Cite web |title=刑法改正案など成立へ 「性的グルーミング」を処罰する規定を新設|author= 久保田一道|url=https://dot.asahi.com/articles/-/88105?page=2|website=朝日新聞デジタル|date=2023-06-15|access-date=2023-07-02}}</ref>。

改正案では、16歳未満に猥褻目的で面会を求めれば1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金、面会すれば2年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金となった<ref name="asahi20230615"/>。性交や性的な部位を露出した映像をSNSなどで送るよう求めた場合も、処罰対象となる<ref name="huffingtonpost20230616">{{Cite web |title=「不同意性交等罪」を創設、性交同意年齢は引き上げ。改正刑法が成立、どう変わる?|author=國﨑万智|url=https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_64772329e4b045ce2485cc28l?page=2|website=ハフポスト|date=2023-06-16|access-date=2023-07-02}}</ref>。善意で面会した人間が処罰されないよう、威迫や誘惑をする、金銭を渡すといった方法で面会を求める行為が対象とされた<ref name="asahi20230615"/>。いずれも被害者が13歳以上の場合、年齢差が上に5歳以上ある相手の行為を対象としており、同年代同士の恋愛による行為の処罰を防ぐためであるとしている<ref name="asahi20230615"/>。

==有名な事件・疑惑==
=== イギリス ===
*[[イギリス]]の国民的司会者[[ジミー・サヴィル]](1926年 - 2011年)による性的虐待事件。判明している最初の被害は1958年だが、彼の生前被害は隠蔽され続け、公になったのは死後であった。450人以上がサヴィルによる性被害の証拠を提出しており、被害者の大部分が少女だったが、40人以上の被害者が少年だった(被害者は実際にはもっと多いと考えられている)。性被害は、突発的な暴行と、グルーミングを用いたものの両方があった。<ref>{{Cite web |title=Jimmy Savile: A report that reveals 54 years of abuse by the man who groomed the nation|author= Jonathan Brown|url=https://japan.cnet.com/article/35180096/|website=INDEPENDENT|date=2013-01-12|access-date=2023-07-02}}</ref>

=== アメリカ ===
*[[アメリカ]]の世界的スター [[マイケル・ジャクソン]](1958年 - 2009年)による未成年男子への性的虐待疑惑。([[マイケル・ジャクソンの1993年の性的虐待疑惑]]、[[マイケル・ジャクソン裁判]])<ref>{{Cite web |title=サンダンス映画祭を揺るがした、マイケル・ジャクソンの衝撃的ドキュメンタリー|author= David Fear|url=https://rollingstonejapan.com/articles/detail/29952/1/1/1|website=ROLLINGSTONE JAPAN|date=2019-02-07|access-date=2023-07-02}}</ref><ref>{{Cite web |title=How Michael Jackson Groomed the World|author= Kitanya Harrison|url=https://kitanyaharrison.medium.com/how-michael-jackson-groomed-the-world-ab88b9b98ea8|website=Medium|date=2019-03-07|access-date=2023-07-02}}</ref>
*2002年にアメリカの13歳の少女{{仮リンク|アリシア・コザキエビッチ|en|Alicia Kozakiewicz}}が、同年代を装った男にオンライングルーミングを受け、誘拐され、救出までの4日間暴行・拷問を受け、その様子がライブ配信された事件。事件は広く報道され、グルーミングを受けたということが理解できず、被害者を非難する人も少なくなかった。当時、インターネットは普及の途上で、その危険性を子どもに教える人はほとんどいなかった。<ref>{{Cite web |title=Kidnapped by a paedophile I met online|author=|url=https://www.bbc.com/news/magazine-35730298|website=BBC News|date=2016-05-07|access-date=2023-07-02}}</ref>
*アメリカの[[ペンシルベニア州立大学]]フットボール部コーチで、恵まれない青少年のための慈善団体を運営していた[[ジェリー・サンダスキー]]による児童性的虐待事件。2009年起訴。警察は[[ジョー・パターノ]]監督が虐待の事実を知りながら阻止するのに十分な努力をしておらず、警察に通報するという道徳的義務を果たさなかったと批判した<ref name="cbssports.com">{{cite news | url=http://www.cbssports.com/collegefootball/story/16017251/two-top-officials-step-down-amid-penn-state-scandal?ttag=gen10_on_all_fb_na_txt_0001 | title=Police official: Paterno didn't do enough to stop abuse | newspaper=CBSSports.com | date=November 7, 2011 | access-date=2023-07-02| url-status=dead | archive-url=https://web.archive.org/web/20120310122631/http://www.cbssports.com/collegefootball/story/16017251/two-top-officials-step-down-amid-penn-state-scandal?ttag=gen10_on_all_fb_na_txt_0001 | archive-date=March 10, 2012 | df=mdy-all }}</ref>。監督、学長、副学長、体育局長が解任され、パターノが「不祥事を知り得た時点」まで遡り、それ以降に記録した111勝を抹消、パターノの「歴代最多勝利監督」の栄誉は剥奪された。制裁金として、大学に約48億円(当時のレート)という巨額の罰金の支払いが命じられ、4年間プレーオフ進出を禁止とした<ref>{{Cite web |title=日大悪質タックル問題 醜聞にまみれた米名門大の「前例」|author= 古内義明|url=https://www.news-postseven.com/archives/20180524_681121.html/2|website=NEWSポスト7|date=2018-05-24|access-date=2023-07-02}}</ref>。またサンダスキーは、慈善団体の活動を通して養子にした少年をグルーミングし、性的虐待を行っていた<ref>{{Cite web |title=Jerry Sandusky's son: How he groomed me to sexually abuse me|author= |url=https://www.syracuse.com/news/2016/04/jerry_sanduskys_son_how_he_groomed_me_to_sexually_abuse_me.html|website=syracuse.com|date=2016-04-01|access-date=2023-07-02}}</ref>。
*長年アメリカの体操代表チームの[[オステオパシー]]療法家として活躍した{{仮リンク|ラリー・ナサール|en|Larry Nassar}}が、未成年・若年の女性アスリートたちをグルーミングし、治療の名目で30年間にわたって少なくとも250人以上に性的虐待を行っていた[[アメリカ体操連盟性的虐待事件]](2015年発覚)。[[ミシガン州立大学]]での事件では、調査の過程で、オリンピック委員会、米国体操協会、大学当局の関係者が虐待の事実を認識し、隠蔽していたことが明らかになっている<ref name="NSVRC">{{Cite web |title=6 Reasons Why Abusers Like Larry Nassar Avoid Detection|author= Susan Sullivan|url=https://www.nsvrc.org/blogs/6-reasons-why-abusers-larry-nassar-avoid-detection|website=The National Sexual Violence Resource Center (NSVRC) |date=2019-05-02|access-date=2023-07-03}}</ref>。

=== 韓国 ===
*[[n番部屋事件]] - [[韓国]]では2020年に、少女・若い女性をグルーミングし、脅迫し、残虐な性的虐待動画・ライブ配信等を数十万人もの規模でSNSで共有していたことが発覚し、社会を揺るがす大問題となった<ref name="huffingtonpost20200330"/>(「部屋」とはチャットルームのこと)。

=== 日本 ===
*[[ジャニー喜多川性加害問題]] - 日本の芸能事務所[[ジャニーズ事務所]]における[[ジャニー喜多川]](1931年 - 2019年)による性的虐待疑惑が[[英国放送協会|BBC]]のドキュメンタリーで再熱した。ドキュメンタリー番組を制作したBBCのスタッフが、被害者が語る喜多川への好意・感謝は喜多川のグルーミングによるものだと評して注目を集めた<ref>{{Cite web |title=ジャニー喜多川氏の性加害疑惑追ったBBC番組制作陣が指摘した「グルーミング」の手口|author= 渡辺志帆|url=https://globe.asahi.com/article/14872032|website=朝日新聞GLOBE+|date=2023-04-11|access-date=2023-07-02}}</ref><ref name="PO20230619"/>。事務所開設時から被害の告発はあったが大きく報道されることはなく、喜多川の死後、BBCのドキュメンタリーと被害者の実名の証言で表沙汰になった。


==グルーミングを扱った映像作品==
大人と子供の性的関係を被害と見なすべき理由として、当事者の保有する情報の非対称が挙げられる事がある。しかしながら、Bruce Rindらの研究を見る限り、子供の頃に成人男性と性的な関係を持った女性は同年代同士で性的な関係を持った女性に比べてより多く否定的な感情を抱いている訳ではない事が示されており、このことは、未成年の少女と性的な関係を持つ成人男性が両者の保有する情報の非対称性を利用して性的な関係に及んでいるという主張を支持していないように見える。
*[[ジェニーの記憶]] - 2018年に製作された、グルーミングされた女性を題材とした映画
*{{仮リンク|SNS -少女たちの10日間-|en|Caught in the Net (2020 film)}}(原題:V síti) - 2020年に[[チェコ]]で製作されたドキュメンタリー映画。童顔の3人の成人女性の俳優が12歳の少女を装って、Skypeでビデオ通話を行い、男性たちが接触してくる様子を追った<ref name="simones">{{cite book|和書|author=シモーヌ編集部|others=|date=15 jun 2022| title=シモーヌ vol.6|pages=054-057|publisher=[[現代書館]]| isbn=978-4-7684-9106-5}}</ref>。
*[[ある子ども]] - 2022年2月19日に放送された、オンライングルーミングを題材とした[[ETV特集]]


==関連==
大人と子供の性的関係を被害と見なすべきであるという見解は、また学校教育を受ける事の必要性に関する信念に支えられているが、10代での出産がその後のライフコースに深刻な悪影響を与えていない事を示す研究により、この信念の妥当性は間接的に否定されている。学校教育の必要性を唱える人々は、大部分において、彼ら自身が学校教育を受けた事で素晴らしい経験を得て、その後の人生に大いに役に立ったと感じており、このような彼ら自身の成功体験が、子供にも同じ経験をさせるべきであり、それを妨げる事は許されないという不合理な信念に繋がっているのではないかと考えられる。しかしながら、既に示されている通り、10代の頃に大人の男性と性的関係を持つ少女は、このような人々とは性格的に異なっている可能性が高く、学校教育を詰まらないと感じ、同年代の子供よりも年上の男性と交際する事を好み、例え妊娠や出産を経験しなくとも、学校教育を途中で脱落してしまうか、例え脱落しなくとも高学歴を必要とする知識労働を伴う職業に就くことを望まない人々である可能性が高い。そしてこのような女性には学校教育は殆どその後の人生に恩恵を与える事が出来ておらず、かえって不必要な苦しみを与えるだけに過ぎない可能性がある事が示されている。
アメリカでは2020年代初頭に、[[LGBT]]に関する子供への性教育は[[小児性愛]]のための手段でグルーミングであると主張する、反LGBTによる[[LGBTグルーミング陰謀論]]が注目を浴びた<ref>{{cite web |last1=Czopek |first1=Madison |title=Why it’s not ‘grooming’: What research says about gender and sexuality in schools |url=https://www.politifact.com/article/2022/may/11/why-its-not-grooming-what-research-says-about-gend/ |website=[[PolitiFact]] |access-date=16 June 2023}}</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
=== 出典 ===
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=== 動画 ===
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==参考文献==
== 外部リンク ==
* {{Cite journal |last=Craven |first=Samantha |last2=Gilchrist |first2= Sarah|last3=Gilchrist |first3= Elizabeth |title=Sexual grooming of children: Review of literature and theoretical considerations(子どもへの性的グルーミング: 文献のレビューと理論的考察)|url=https://calio.org/wp-content/uploads/2019/03/Sexual-grooming-of-children-Review-of-literature-and-theoretical-considerations-Craven-2006.pdf|journal= Journal of Sexual Aggression|publisher=|volume=12 |issue=3 |pages=287–299 |doi= 10.1080/13552600601069414| date =2006|isbn=|accessdate= |ref = {{SfnRef|Cravenら|2006}} }}
*[https://www.soumu.go.jp/main_content/000707803.pdf インターネットトラブル事例集 (2022年版) – 総務省 ]
* {{Cite journal |last=Choo |first=Kim-Kwang ||title=Online child grooming: a literature review on the misuse of social networking sites for grooming children for sexual offences(オンライン児童グルーミング:性犯罪のための児童グルーミングにおけるSNSの悪用に関する文献レビュー)|url=https://www.aic.gov.au/sites/default/files/2020-05/rpp103.pdf |journal= AIC Reports Research and public policy series|publisher=[[:en:Australian Institute of Criminology|Australian Institute of Criminology]] |volume=103 |issue=| date =2009 |pages= |doi= |isbn=9781921532337|accessdate= |ref = {{SfnRef|Choo |2009}} }}
* [https://www.youtube.com/watch?v=BQWppG0uO5A 【解説】子どもの性被害 新たな処罰規定を検討 - YouTube]
* {{Cite book |last=Lanning |first=Kenneth |title=Child Molesters: A Behavioral Analysis for Professional Investigating the Sexual Exploitation of Children ; Fifth Edition (児童虐待者:子どもの性的搾取を調査する専門家のための行動分析 第5版)|url= https://calio.org/wp-content/uploads/2019/03/Child-Molesters-A-behavioral-Analysis.pdf|publisher=National Center for Missing & Exploited Children| date =2010 |ref =}}
* {{Cite journal ja-jp|author = ユニセフ・イノチェンティ研究所|year = 2012|title = インターネット上の子どもの安全―グローバルな挑戦と戦略―|journal = |serial = |publisher = 公益財団法人 日本ユニセフ協会|url =https://www.unicef.or.jp/osirase/back2012/pdf/Child_Safety_online-Jap_final.pdf|ref = {{SfnRef|ユニセフ・イノチェンティ研究所|2012}}}}
* {{Cite journal |last=Lanning |first=Kenneth |last2= |first2= |title=The Evolution of Grooming: Concept and Term(グルーミングの変遷:概念と呼称 ) |url= https://calio.org/wp-content/uploads/2019/03/the-evolution-of-grooming-concept-and-term.pdf|journal= [[:en:Journal of Interpersonal Violence|Journal of Interpersonal Violence]]|publisher=[[:en:SAGE Publishing|SAGE Publishing]] |volume=33 |issue=1| date =2018 |pages= 5–16|doi= 10.1177/0886260517742046|accessdate= |ref = {{SfnRef|Lanning|2018}}}}
* {{Cite journal ja-jp|author = [[産業技術総合研究所|国立研究開発法人産業技術総合研究所]] 研究代表者 髙岡昂太|year = 2020|title = 潜在化していた性的虐待の把握および実態に関する調査|journal = |serial = |publisher = 厚生労働省 令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業|url = https://staff.aist.go.jp/kota.takaoka/Ai%20for%20better%20society_files/pdf/2021project17-report.pdf |ref = {{SfnRef|高岡ら|2020}}}}
* {{Cite journal ja-jp|author = 土方孝将・渡部彩乃|year= 2020|title = 日本版性暴力対応看護師(SANE-J)教育ガイドライン(第1版)|journal = |serial = |publisher = 一般社団法人日本フォレンジック看護学会|url = https://jafn.jp/jafn2019/wp-content/uploads/2020/02/28709fdfa9735a3c8e6e0f08f63fd257.pdf|ref = {{SfnRef|日本フォレンジック看護学会|2020}}}}
* {{Cite book ja-jp |author=齋藤梓 著|others=齋藤梓・岡本かおり 編著 |year=2022|title=性暴力被害の心理支援 |chapter= 第Ⅰ部 性暴力被害者支援に必要な知識 第1章 性暴力被害とは何か」「第Ⅱ章 性暴力被害者支援の実際 事例6 継続的な被害・高校生女子・加害者は顔見知り|publisher= [[金剛出版]] |ref = {{SfnRef|齋藤|2022}}}}
* {{Cite journal ja-jp|author = 土方孝将・渡部彩乃|year= 2022|title = 政策研究レポート オンライングルーミングによる犯罪被害防止に大人ができること|journal = |serial = |publisher = 三菱UFJリサーチ&コンサルティング|url = https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2022/12/seiken_221118_01.pdf|pages = }}

== 外部リンク ==
* {{Cite journal ja-jp|author = |year= |title = 子どもを守ろう!スマホ時代の大人の教科書|journal = |serial = |publisher = 千葉県警察|url= https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2022/12/seiken_221118_01.pdf}}


{{性道徳}}
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2024年12月1日 (日) 13:43時点における最新版

性犯罪・性的虐待の文脈におけるグルーミング[注釈 1]チャイルド・グルーミング(英:child grooming)とは、性交猥褻行為などの性的虐待をすることを目的に、未成年の子どもと親しくなり、信頼など感情的なつながりを築き、手なずけ、時にはその家族とも感情的なつながりを築き、子どもの性的虐待への抵抗・妨害を低下させる行為である[1][2][3][4][5][6]性的グルーミング性的手なずけとも[7]

概要

[編集]

未成年者へのグルーミングは、児童虐待の一形態である。リヴァプール・ジョン・ムーア大学のミシェル・マクマナスは、グルーミングに共通する側面は、加害者が信頼とラポール(感情的な親密さ)を築くことによって、被害者を操作するということであるとしている[8]。加害者は「特別なご褒美」や「愛の告白」等の物心両面から被害児童を可愛がり、信頼や愛情を得てから、命令、脅しなどを用いて弱みを巧みに掌握し、支配し、操作し、コントロールし[9]、性関係へと持ち込んでいく。目白大学教授(心理学)の齋藤梓は、子どもへの性暴力において最も典型的な手段であると述べている[10]。性的虐待は多くの場合、性的接触が長期にわたって進行していくという点で、性暴力と異なる[11]。マクマナスは、性的、恋愛的、経済的、または犯罪やテロ目的で行われる場合があるとしている[8]

アメリカで生まれた用語で、アメリカの家族以外による児童性的虐待の捜査の現場では、非暴力的な手法を用いるチャイルド・マレスター(児童性加害者)の行動パターンは、「誘惑(性的誘惑、Seduction)」と呼ばれていたが、現在では代わって、グルーミングという用語が定着している[12]。グルーミング(英:grooming)という言葉には、動物の毛づくろい・外観の手入れ、女性の身支度、特定の目的のための準備といった意味がある[13]。現在は親などによる家庭内の性的虐待で使われることも多い。グルーミングという用語は、国際法においては定義されていない[14]

顔見知りの子どもに性的虐待を行う者の多くは、時に暴力的な行為も行うが、発覚を避けるために、主に誘惑やグルーミングのプロセスを通じて被害者を支配する傾向がある[15]。顔見知りによる性加害は、暴力を用いると早期に発見され、明るみに出る可能性が高まる[16]。グルーミングを用いると、被害者の協力と継続的なつながりが持てる可能性が高まり、犯罪者にとって非常に重要なことであるが、犯罪が明るみに出る可能性が低くなるのである[16]FBI捜査官・犯罪コンサルタントのケネス・ラニングは、経験から言って、最も執拗で多くの罪を犯す危険な性犯罪者の多くは、主にグルーミングを行い、被害児童を誘惑し、暴力を用いることはほとんどないと述べている[17]。にもかかわらず、非暴力的な手法であるグルーミングが関与する事件は、処罰が軽い傾向がある[17]。ラニングは、グルーミングは長期的な誘惑のテクニックというよりも、短期的な誘惑として使われることが多いとしている[12]。被害は女子に限られず、男子も同様にある[18][19]

オンライン、対面、その他のコミュニケーション手段など、さまざまな場面で行われる可能性がある[20]。近年では、SNSなどのオンラインでのグルーミングも知られるようになっており[10]、児童性的虐待コンテンツ(児童ポルノ)を含むオンライン性的虐待でも、対面とほぼ同様の経過を辿ることがわかっている[9]。グルーミングされた子どもは心理的な被害を受け、性的活動やその他の形での搾取に従事するよう強要されることがある[21]

グルーミングは、未成年者を児童人身売買児童売春インターネット上の性的人身取引英語版・インターネット上の性的虐待[22]、児童性的虐待コンテンツ(児童ポルノ)制作などの様々な違法ビジネスに誘い込むために利用される[23][24][25]。(国際的な性的人身売買のルートの問題は古く、1921年に国際連盟(現在は消滅)の多国間条約として合意され、女性と子どもの国際的な人身売買の問題に取り組んだ「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」以来、様々な方法で禁止されてきた。)ギャングが近隣の被害者をグルーミングする「ローカライズド・グルーミング」という概念は、イギリスの児童搾取・オンライン保護センター(The Child Exploitation and Online Protection Centre)によって2010年に定義された[26]

捜査員が子供のふりをしておとり捜査が行われることも少なくないが、容疑者たちは、自分たちの行動は空想の表れに過ぎず、実際の計画ではなく、犯罪行為を行う際に必要とされる故意はないという「空想に基づいた抗弁英語版」を利用し、罪を免れようとしてきた[27]

用語の歴史

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ケネス・ラニングは、性的虐待の文脈におけるグルーミングという用語の歴史的変遷を研究し、この用語は、1970年代後半にアメリカの警察(法執行機関)の捜査員グループによって、児童性加害者の行動パターンにある「誘惑」の側面を説明するために使われたのが最初だ、という考えを示した[15]。当時のほとんどの専門家は、犯罪者が用いる非暴力的な誘惑という手法を理解していなかった[15]。その後、他の用語と同様に、グルーミングという言葉は発展し、警察や他の専門家、そしてメディアや一般人によって、より一般的に使われるようになった[15]。「誘惑」に代わり、グルーミングという言葉が、このような性加害者の行動パターンを表す言葉として用いられるようになった[15]

ラニングがFBI捜査官として性犯罪の研究を始めた1973年当時は、子どもの性被害といえば、見知らぬ他人による加害事件が中心で、グルーミングという概念は、このようなケースにはほとんど当てはまらなかった[28]

グルーミングという言葉の概念と使用は、1980年代に家族外の顔見知りによる子どもの性被害事件が知られるようになるにつれ、徐々に現れるようになった[28]。1982年の児童性的虐待に関する論文では、児童性加害者が子供と接する職業・組織を通じて被害者に近づくという問題が論じられた[16]

1975年から1985年にかけて、アメリカの警察は、顔見知りの性加害者とそれがもたらす捜査上の課題への認識を深めていき、カリフォルニア州の大規模な警察組織であるロサンゼルス市警は、1977年に、家族外の顔見知りが子どもに性加害を行うケースを特別に捜査する専門部署「被性的搾取児童課」(Sexually Exploited Child Unit)を設置した[28]。ロサンゼルス市警は、今でいうグルーミングを行う顔見知りの児童性加害者のやり口を「誘惑」と呼ぶようになった[29]。ロサンゼルス市警のこの専門部署の仕事のやり方は、すぐに全米のいくつかの警察組織に普及した[28]

1980年代半ばにラニングは、FBIの行動科学課に配属され、FBIアカデミーで家族外の人間による性的搾取事件を専門に扱う数少ない捜査官を集めてセミナーを開催することになり、セミナーでは「誘惑」と「グルーミング」の概念について議論され、定式化されるようになった[29]。この新しい分野の警察の専門家たちは、ネットワーク作りや全米各地のセミナー、会議、研修などを通じて、これらの概念を広めていった[29]。1982年、ロサンゼルス市警の被性的搾取児童課に所属していたロイド・マーティン巡査部長は、児童の性的搾取事件に焦点を当てた本を共著で出版し、その中で顔見知りの性加害者が行う誘惑のプロセスについて、多くの事例を交えて詳細に述べた[29]。(ただし彼は、そのプロセスに特に名称を付けていない[29]。)ラニングは1980年代初頭に児童虐待者の類型化を始め、彼が「誘惑型」と呼ぶ重要な行動パターンを提示し、研修で解説した[12]。ラニングは1980年代に、プレゼン資料の中でグルーミングという言葉を使い始めた[12]。この言葉が初めて出版物で使われたのは、1989年に全米失踪・被搾取児童センター英語版が出版したラニングの書籍「Child Sex Rings: A Behavioral Analysisチャイルド・セックス・リング英語版:行動分析)」だろうということである[12]。彼の児童性加害者の類型は、1896年には「National Center for Missing and Exploited Children」として書籍化され、何十万部と印刷された彼の様々な出版物や、インターネットを通して広まった[12]

グルーミングという用語は、刑事事件民事事件の鑑定において、犯罪者の行動や、被害者の一見不可解な行動について、裁判所に理解を促すため、裁判所を教育するために用いられることが多くなっている[30]

子どもと加害者の関係性

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斎藤梓は、子どもと加害者の関係別で、グルーミングを次の3つに分類している[31]

  1. リアル(現実)で近しい人からのグルーミング(教師、コーチ、養護施設やNPOの職員、親戚、親の恋人など)
  2. それほど近しくない人からのグルーミング(公園や公共施設で声をかけてきた人など)
  3. オンライン・グルーミング(SNSなどネットを通じて知り合った人)[31]

子どもたちに対する「見知らぬ人は危険だ」という警告とは裏腹に、児童性加害者が見知らぬ人であることはほとんどない[32]。斎藤梓は、全く知らない人と徐々に親しくなってグルーミングを受けることもあるが、親やきょうだい、教師といった既知の相手、信頼している相手から受けることが多いとしており[10]、アメリカの児童犯罪防止啓蒙団体 CLP/TLP によると、児童性加害者の9割が血縁者や子供や家族の親しい知り合いであり、子どもが幼いほど、家族の一員である可能性が高い[32]。日本フォレンジック看護学会は、子どもの性的虐待の加害者は、周囲にも知られ信頼されている保護者や家族の一員である場合が多いと述べている[11]。性犯罪被害者の支援に携わる弁護士の川本瑞紀は、部活動の指導者や塾の講師からグルーミング被害に遭うケースが多いとしている[33]。児童性加害者は、知人、家族、友人、介護者、権力のある立場にある人、地域のリーダー等で、被害者の知り合いであることが多く、つまり「私たちが信頼する人々」である[34]

信頼している相手だからこそ、徐々に体を触られたり、性的な接触を求められた時に、相手が自分に悪いことをすると思いたくない、抵抗や拒否をすることで嫌われたくないという気持ちが湧き、加害者に逆らうことが難しいという[10]

アメリカ国立性暴力リソースセンター(NSVRC)は、子どもと関わる仕事に就いている大人の大部分は、子どもたちを危害から守りたいと考える安全な、善意の人々であることは確かだが、安全そうで評判が良く、信頼できるように見える人が見た目通りであるとは限らない、優れた仕事やコミュニティへの貢献によって尊敬を集める人が、虐待をしないとは限らないと注意を促している[34]。加害者は意図的に信頼されるように、親しまれるように振る舞い、コミュニティでの立場と信頼を確立し、自分の評判が疑いの芽を摘むことを期待する[34]。権力を持つ加害者はそれを様々に利用する[34]。人々が被害者に向ける疑念を頼りにし、被害者に「誰も信じない」「誰も真剣に受け止めない」「誰も何もしない」などと言い聞かせ、信じさせる[34]。虐待する相手として、立場の弱い人を戦略的に選んでおり、性的虐待を始める前に、ターゲットをグルーミングしながら相手の境界線を試し、反応を見る[34]。また人々には、ニュースやテレビから来る「捕食者」「怪物」といった性犯罪者に対する固定概念、「安全でない」人の見た目や行動に対する思い込みがあり、それが性犯罪者を守ることがある[34]。加害者は、安定した人間関係、成功したキャリア、前科のない、既婚の、子どものいる人物であることもある[34]。注意する必要があるのは、見た目でもキャリアでも評判でもなく、その人の行動である[34]

児童性的虐待の要因の一つに「VIP要因」があり、加害者は、学校、スポーツ団体、市民団体、宗教、医療、ビジネス界の著名な地元のリーダーや、教育、法曹、軍事、経済、メディア、高等教育、政治の世界など、地方行政や国家レベルの「非常に重要な人物」(VIP) であるかもしれない。権力と資金を持つVIPにあえて立ち向かおうとする人は非常に少ないため、子どもに被害を訴えることを諦めさせ、時に周囲の協力を得て、虐待を隠し通す可能性が高くなる[32]

また、親以外の児童性加害者の多くが、物理的または精神的に親が不在の子どもは、グルーミングや虐待を受けやすくなると認めている[32]

プロセス・手法

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サマンサ・クラヴァンらは、加害者のグルーミングのプロセスを、次の3段階で説明している。

  1. 自己グルーミング(Self-Groomng):加害者が自分の行動や認知を正当化していく段階[10][35]。性的虐待を行うのではなく、子どもの方が自分を性的に誘惑したなどと自身に信じ込ませるなど、子どもに性的な行為をしたいという動機から目をそらせる[10][35]
  2. 周囲と重要な関係者のグルーミング(Groomng the environment and significant others):被害者に近づくために、被害者の周囲の環境や、親や教師などの重要な関係者に働きかけ、手なずける段階[10][35]。社会に溶け込み、子どもたちと出会いやすい場所に身を置いて、信頼される立場・地位を確立する[10][35]
  3. 子どものグルーミング(Gooming the Child):子どもを性的にグルーミングする段階で、一般的にこの段階がグルーミングであると認識されている[10][35]。子供に近づき、親しくなり、信頼を得て、徐々に境界線を侵害する[10][35]。身体的な接触を増やしていき、被害者との関係を徐々に性的なものにしていく「身体的性的グルーミング」と、被害者を周囲から孤立させ、味方になり、依存させるように仕向け、二人だけの秘密を作っていくという「心理的性的グルーミング」がある[10][35]

グルーミングの鍵となるのは、年齢、性別、体力、経済的地位、その他の要因など、加害者と被害者の不均衡な力関係である[8]。加害者は「悩みを抱えていて孤立させやすい子ども」を標的にして、その子の「大人に認められたい、誉められたい」という欲求を利用して接近する[31][33][36]。加害者は親切を装いつつ、幼いが故の不安や孤独感、承認欲求に付け込んでいく[37]。優しく悩みの相談に乗ったり、好きなものに関心を示したり、世間話をしたりして、距離を縮めていき、子どもに共感を与え、誉める、認めるを繰り返すことで親密感を増し、優しく接し、子どもが加害者に依存するように仕向ける[10][31][33]。加害者は子供との間に上下関係を作り出すが、巧妙に振る舞い、対等であるかのように思わせることもある[38]。子どもは関心を寄せられたり、悩みをわかってもらうことをうれしく感じ、加害者への信頼や恋愛感情が醸成されていき、相手に嫌われたくないと思うようになる[10]。加害者が被害者に、これは恋愛なのだと思わせていることもある[10]。加害者は被害者に対し、自分の被害者への性的な欲求を、愛情や普通のことだと教え[33]、徐々に性的な話題を投げかけたり、好意を示したりし、子どもに性的な自撮り写真を送らせたり、自分の性的な写真を送ったりする[10]。加害者は子どもに、二人きりで会おうと誘ったり、家出を唆し、実際に会い、性的な行為に及んでいく[10]。プライベートゾーン以外への接触などの軽度の親密性の逸脱から、身体を舐める、プラーベートゾーンへの接触や性交などの、明確な性的侵害行為に及んでいく。そして、子どもの罪悪感や恥辱感などの感情を利用して支配的関係に持ち込み、口止めして虐待を隠し、自分も共犯者なのだと思わせる等して、暴力・搾取の構造を強固にし、持続化を図るとされる[9]

ケネス・ラニングは、顔見知りの性加害者が用いる非暴力的なテクニックは、現場の捜査官たちによって洞察されてきたが、実際に大きな謎はなく、これらの犯罪者は、本質的に、大人が互いに誘惑し合うのと同じように、子供を誘惑する、と述べている[16]。グルーミングの手法は、大人同士、あるいはティーンエイジャー同士では、恋愛や交際の一部とみなされるかもしれない[16]。しかし、このような非暴力的な性的行為から暴力的な性的行為へ発展するプロセスは、成人に限られた傾向ではなく、思春期以降の子どもが加害側であった性犯罪事例でも確認されている[9]

CLP/TLP は、一般的なグルーミング戦略として、次のことを挙げている[32]

  • 保護者、特にひとり親家庭の保護者と親交を深め、子どもとの接触を図る。
  • 多忙な保護者のもとでベビーシッターとして働く。
  • 子どもに関わる仕事を引き受けたり、地域の行事に参加したりする。
  • 保護者や里親になる。
  • 子どものスポーツイベントに参加する。
  • 子どものスポーツのコーチをする。
  • 青少年団体でボランティアをする。
  • 宿泊旅行の付き添いをする。
  • 遊び場、公園、ショッピングモール、ゲームセンター、運動場など、子どもがよく行く場所でうろつく。
  • ソーシャルメディア(TikTok、Ask.fm、YouTube、Kik、Snapchat、Instagramなど)やオンラインゲームプラットフォームで若者と親しくなる。[32]

被害の発覚・自覚の難しさ

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グルーミングによる性被害は、被害者である子供がそれが性暴力だと気付きにくく、積極的に被害を隠そうとすることもあり、そこに難しさがある[10]。被害者にとって加害者は、自分を認め、理解し、悩みを受け止めてくれる、信頼できる大人になっており、被害者は、そんな人が自分に悪いことをするわけがないと思い込んでいるため、性的な接触に恐怖や嫌悪感があっても、それが性暴力だと認識することは難しいという[31]東京未来大学教授(犯罪心理学)の出口保行は「『話を聞いてほしい』という子供たちの思いを利用しており、最初は犯罪だと気付きにくい」と指摘している[39]。また、「好き」「かわいい」などと褒めて、子どもに好意を持たせてから性的な行為に持ち込むため、性被害として認識できない場合もある[40]。被害を受けた子どもは、性被害の発覚後も「相手と付き合っている」と認識していることがあり、繰り返し接した相手に好感を抱きやすくなる「単純接触効果」の影響も受けているとみられる[41]

虐待と愛情・優しさの繰り返しに曝され続けることで、被害者には、加害者に対する、極めて強く不健全な絆、外傷的絆(トラウマティック・ボンディング)が生じることが少なくなく、グルーミングによる性的人身売買の被害者の場合も、外傷的絆が加害者から逃げる大きな妨げになり、また、逃れても、加害者に対する強い愛情が残り、加害者の元に戻りたいという思いに駆られる可能性がある[42]

被害を受けた子どもは、「自分が会いに行ったのが悪い」と自身を責める[43]。斎藤梓は、加害者に子供に口止めしている場合もあり、保護者が子どものグルーミング被害に気が付くことも容易ではないと述べている[33]

被害者が幼いと、性や性問題に関する知識がないため「性暴力被害を受けた」ことに気づかないこともある[44]。グルーミングの被害を受けた子供たちの多くは、その行為を「普通のことだと思った」「何が起きているか理解できなかった」と振り返るという[41]。一般社団法人Springが、2020年の8月と9月に性被害者を対象に実施したアンケートで集まった5899件の回答のうち、自分の身の起きたことをすぐに「性被害」であると認識できたのは約半数で、認識までには平均で約7年かかっていた[45]

性的虐待被害者の男性を専門に支援するセラピストの山口修喜は、日本の場合、の文化があり、個人的な問題を口にしてはいけないという風潮があるため、性加害を受けたと語ることが難しく、被害を受けたのが男子である場合、輪をかけてそれが困難になると語っている[動画 1]

グルーミングや支配的操作を伴う性的虐待では、加害者が外傷を残さないように隠蔽しており、その場合、身体検査では問題が発覚しない[46]

加害者の中には、子どもが被害告白を行う場合に備えて、あらかじめ周囲の人に子どもの言動の信用性を失わせる情報工作を行なっていることもある[47]。被害児童の信用を傷つける加害者の代表的行動パターンとして、次のものがある[47]

  1. 他の人に子どもの落ち度を頻繁に指摘する
  2. 子どもがいかに嘘をつくのか他の人に強調する
  3. 家族の前で被害を受ける子どもに厳格なしつけをして、もしその子どもが他の人に性的虐待を訴えたなら、その子どもは加害者に「復讐しようとしてそれを言った」と言えるように準備をしておく
  4. 被害児童の活動範囲を極端に制限して、孤立させておく(過度な門限、交友関係や連絡の制限)
  5. 被害児の行動で強い性的関心を持っている行動に皆を注目させ、その子どもが過度に性的関心を持っているという印象を他の人に植えつける(子どもが過度に性的関心を持っていて、子どもの方から自分を誘ったという言い訳につながるようなことを含む)[47]

グルーミングのプロセスには、子どもにゲームをしたり、プレゼントを買ったり、公園に行くといった、「通常の」大人と子どもの交流が含まれ、表面的には、これらの行動は特に問題にはならない[8]。大人が子どもへに適切な教導、指導を行うこと、メンタリングは望ましい活動であるが、メンタリングとグルーミングを区別することは難しく、青少年支援団体にとって大きな問題になっている[17]。プロセスそのものから発見するより、後から見てグルーミングであったと特定する方が容易な場合が多い[17]

被害の影響

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そもそも子どもと大人は対等ではなく、信頼していた大人から性的に見られたこと、対等な同意のない性行為によって、子どもたちの心は傷つけられる[10]。信頼していた大人に意思を無視され踏みにじられることで、信じた人が自分を搾取するかもしれないと感じるようになり、人を信じること、人に相談すること、人に頼ることを怖いと思ったり、自分に対して親切な人、親しくなろうとする人を警戒するようになることもある[38]。暴力や搾取を受けることで、子どもたちの心は脆く、壊れやすくなる[38]

上下関係を作られ、対等であるかのように巧妙に信じ込まされることで、対等な関係性が分からなくなる場合もあり、継続的な被害にあっていた場合、相手に従順にふるまうことで自分の身を守ることが、生き抜くための方略となり、その関係性がカウンセリングの場でも繰り返されることがあるという[38]。斎藤梓は、「対等な関係性に関する感覚や自尊心を失わせる」「自傷行為摂食障害、性問題行動といった深刻な精神的後遺症を示すことも多い」と述べている[10]

性的虐待順応症候群

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グルーミングや操作などにより深刻な性暴力被害を受けた子どもには、性的虐待順応症候群(性的虐待調整症候群、Child Sexual Abuse Accommodation Syndrome: CSAAS)と呼ばれる特徴的な症候群が発生することが指摘されている[48]。虐待を受けている場合に、次のような様相を見せるとされる[48]

  1. 性的虐待の事実を秘密にしようとする
  2. 自分は無力で状況を変えられないと思っている
  3. 加害者を含めた周囲の大人の期待・要請に過度に順応しようとする
  4. 性暴力被害を認めたがらず、説得力の無い、遅くタイミングのずれた矛盾した証言を行う
  5. いったん性暴力被害を認めた後で(恐怖感等に由来して)証言を撤回する[48]

性的虐待順応症候群は心身症状がなく、「適応的」に見える場合があることや、周囲からの介入の拒否などを含めた「加害者にとって都合の良い」振る舞いをする場合もある[48]。性的虐待から逃げることはできないのだから、「自分から加害者を誘って、早く行為を終わらせて早く眠りたい」といった、痛ましい歪んだ生存スキルを身につけることもあるとされる[48]

性被害の直後に被害を話すことができる被害児童は、わずか25%と考えられている。子どもは時間をかけて少しずつ話す場合があり、また質問されても虐待内容を極小化したり、否定する場合もある[11]。また捜査中に、前に話した内容を覆す場合もある[11]。性虐待について話さないのには多くの要因があり、「困惑と恥辱の気持ち、自己責任・非難の気持ち、虐待についての理解不足、伝達能力不足、加害者や他の家族からの脅迫・操り・秘密の強要、自分や家族に悪影響が出ることを恐れる気持ち(現実的な悪影響か想像上の悪影響かを問わない)、信じてもらえない・助けてもらえないという思い込み」等が挙げられる[11]

通常、「性暴力被害を認めた上で証言を撤回する」といった行為は、証言の信用性を失わせる[48]。そのため、周囲の大人が、なぜ被害児童がそうした行為をするのか理解していなければ、裁判で子供の証言の信頼性がなくなるという深刻な影響が生じる[48]。性的虐待順応症候群の文脈からすれば、証言の撤回等は「被害を受けた子どもに認められる、ある種の正常な反応行動」であり、アメリカの司法分野では、被害者の言動を評価する際に参照される重要な概念となっており、性被害事実に関する争点の一つとして取り扱われることがある[48]。しかし、日本でこの概念はまだあまり理解されていない[48]

性的虐待順応症候群の背景には、次のような子供の心理があるとされる[48]

  1. 自分が悪いと思い込んでいる、罪悪感がある
  2. 加害者や家族が自分の告白で困った立場に立たされてしまうことへの不安感
  3. 性的虐待が立証されてしまったら、それから先、自分の身はどうなるのだろうというおそれを抱いている[48]

このような子どもの心理は、加害者の加害戦略に利用される[48]

用語の範囲の曖昧さ・使用の難しさ

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ケネス・ラニングは、グルーミングという言葉・概念は、家族以外の顔見知りによる子どもの性被害事件の捜査の現場で使われるようになったと説明している[28]。一方斎藤梓は、親やきょうだいといった家族からのグルーミング被害が多いと述べおり、家族内の性被害にもグルーミングという言葉を用いている[10]。ラニングは、家族内のケースは理論的には支配のメカニズムとしてグルーミングの概念を含むと考えられるが、大部分の親が日常的に、グルーミングの最も一般的に用いられる指標に当たること(例えば、注目、愛情、贈り物、お金、特権)を行っているため、グルーミングをはっきり識別することは難しいとしている[28]。ラニングは、グルーミングという言葉・概念ができていった1970年代から1980年代初頭にかけて、家族内ケースにおける支配の力学にグルーミングという用語が使われた記憶はないとしている[28]

グルーミングと誘惑という言葉を区別して使う人もいれば、同じだと考える人もいる。グルーミングと操作英語版(Manipulation。洗脳操作、心理操作。マインドコントロールとも)を同一視する人もいれば、別だと考える人もいる。児童性的虐待の用語だが、立場の弱い成人に対する性的虐待に使う人もいる。ミシェル・マクマナスは、グルーミングは子供と大人の両方が対象となる場合があるとしている[8]

全米児童保護センター(National Children’s Advocacy Center)エグゼクティブ・ディレクターのクリス・ニューリンは、児童虐待の分野以外の人々(陪審員、家族、地域社会など)に情報を伝える際に、どの言葉を用いるのかは重要で、グルーミングと操作の定義を比較すると、操作の方が適切ではないか、明らかに反社会的な行動に、なぜグルーミングという親社会的な言葉、向社会的行動英語版を説明するのに使われる言葉を採用するのかと疑問を呈し、犯罪者の行動をより適切に説明し、非専門家が理解しやすくするために、呼称を「操作」に変えることを提案している[13]Journal of Interpersonal Violence の2018年のグルーミングに関する特別号では、多くの原稿の中でグルーミング、誘惑(seduction)、強制・支配(coercion)という言葉について議論が行われ、「このプロセスを説明するより適切な用語はあるだろうか?」という重要な質問が提示されている[13]

日本語としては今後、性的懐柔などの言葉に変わる可能性があると言われる[7]

立正大学教授の西田公昭は、グルーミングは「マインドコントロール」の一種で、ごく普通のコミュニケーションの中で行われることを強調する[33]。一方、ラニングは、注目や愛情に対する人間の基本的な反応を、ある種の「症候群」や「洗脳」と呼ぶことは、問題を複雑にし、混乱を招くと注意を促している[49]

児童性加害は、見知らぬ他人によるというイメージが強く、このようなステレオタイプな児童虐待者が用いる短期的な支配メカニズムを説明するために、「ルアー(誘い出し)」という用語が使われることが多かった[28]。ラニングは、「ルアー」をグルーミングの一形態と考える人も多いが、誤りであると述べている[28]。カナダなどいくつかの管轄区域では、グルーミングに対し「ルアーリング」という用語が使用されている[14]

グルーミングという言葉は、児童買春など性的売買事件において「ピンプ(売春斡旋業者、ポン引き)」が被害児童を集め、管理する手法に使われることがある[12]。齋藤梓は、風俗等に勧誘する手段としてグルーミングが利用されることがあるとしている[10]。ラニングは、人身売買業者による勧誘と支配の主な目的は、自分自身ではなく顧客の性的満足のためであり、このような人身売買業者は、主な手法として脅迫や暴力を使用する傾向がはるかに強いため、ピンプの手法にグルーミングという言葉を使うことが適切であるかは疑問があると述べている[12]

オンライングルーミング

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オンライングルーミングとは、個人がインターネット上で、性的接触を目的として未成年と親しくなる過程をいう[50]。SNSやその他のオンラインのコミュニケーションツールを使って知りあい、徐々に子どもの信頼を積み上げた上で、現実に会う約束をしたのちに性加害を行う[6]。オンラインでも、対面のグルーミングとほぼ同様の経過を辿ることがわかっている[9]。オーストラリア犯罪研究所のキムグァン・チューは、様々な事例から、児童性加害者は、被害者をグルーミングしやすくするために、様々な種類のテクノロジーを利用し、実際に会う前の数ヶ月にわたり、オンラインでグルーミングを行うことが多いようだと語っている[27]。しばしばウェブカカメラが使われ、児童性加害者のネットワーク間で性的搾取物の「共有」が行われたり、性的虐待を行うために実際に子どもと会うこともある[50]

児童性加害者に関する調査では、彼らの中には、オンライングルーミング過程のさまざまな段階にある子どもたちを、友人のリストに最大で200名登録している者もいる、と示唆されている[50]。オンライングルーミングは、加害者の目的やニーズ、そして相手の子どもの反応によって、数分で終わるものから数時間、数日、あるいは何か月にも及ぶこともある[50]

弁護士の川本瑞紀によると、SNSで知り合い、悩み相談や趣味の話で盛り上がってから、直接会う約束を取り付け、加害者の自宅に誘い、突然性的行為をされてしまうのが、オンライングルーミングの典型的な手法である[51]成蹊大学客員教授の高橋暁子は、「多くのSNSは、13歳以上を対象としているものの、13歳以下の子どもたちも多く利用していて、こうした被害につながっています。また、ネット上だけでしかコミュニケーションを取っていない友だちだとしても(実際に)会うことに抵抗がない傾向にあり、小学生でもネット上で知り合った人と気軽に会ってしまうという事例が非常に増えているのです」と述べている[52]

ネットリテラシー専門家の小木曽健は、加害者の典型的なやり口の例として、次のものを挙げている[53]

  • ターゲットと同世代の美男美女の写真を使い、魅力的な人物や「気の合う同性」になりすます。
  • 自分自身の体型の悩みを相談。ネットで拾った裸の写真を「自撮り」だと偽って送り、相手にも写真を求める。
  • 相手から写真が届くと態度が豹変。ばらまかれたくなければ会いに来いと脅迫する。[53]

ライブ配信の無料アプリを使い、女子児童を巧みに誘導して性的な動画配信を行わせることもある[54]。性的な写真等と個人情報が結び付けば、個人を特定され、脅され、性行為を強要される危険もある[55]。グルーミングされて裸の写真を送ってしまった後、「自分の裸の画像を誰かに見られているのか」という苦しみを抱えることになる[43]

インターネット上に情報を掲載することを危険視する人も多く、慎重な議論が交わされているが、若者にとって、インターネット上に個人情報を掲載することは、今や普通の行動となっており、友人との円滑な交流に欠かせない面もある[50]。アメリカで行われた調査によると、画像を含む個人情報を毎日インターネットに掲載したことで、子どもが犯罪被害にあったと示す調査結果は、一般的にほとんどない[50]。子どもの性的虐待やオンライングルーミングは、個人情報を掲載すること自体よりも、インターネットでの交流や、さまざまな形での危険行為を行うことによって引き起こされるといえ、実のところ、若者に個人情報をインターネットの掲載することを禁じる必要性はないということを調査結果は示唆している[50]。アメリカ以外の国も同様かは不明である[50]

インターネット上の児童性的虐待に関する誤解

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ユニセフ・イノチェンティ研究所は、インターネット上の児童性的虐待について誤った通念が多くあると指摘し、次のものを挙げている[50]。(「なりすまし」を典型的なやり口とする小木曽の主張を、ユニセフ・イノチェンティ研究所は否定していることになる。)

  • 児童ポルノ製造において、子どもを最も脅かすのが見知らぬ人間であるという誤解。最初に児童性的虐待コンテンツ(児童ポルノ)を製造し、配布したのが見ず知らずの他人というのは誤りで、家族やその他の養育者といった、子どもに簡単にアクセスできる身近な人間であることが多い。[50]
  • オンライングルーミングには、一般に年上の男が別人になりすまし、罪のない子どもに嘘をついて騙すという手口が含まれるという誤解。ユニセフ・イノチェンティ研究所は、これは多くの場合真実でなく、むしろ加害者は、子どもを「誘惑」あるいはうまくおだてて、インターネット上で自発的に性的な友人関係になったのだと認識させる傾向があると述べている。オンライングルーミングを行う際に年齢や性別を偽る加害者もいるが、そのような行為は明確に犯罪で、法定強姦の典型例に当たる。[50]

使用されるサイバースペース

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オンライングルーミングに使われるサイバースペースには、チャットルームやSNSインスタントメッセージがある[50]。イギリスでは2020年4月からの1年間に、5441件のオンライングルーミングによる児童への性犯罪が発生したが、約半数はInstagramWhatsAppFacebookメッセンジャーなどのアプリを使って行われており、Instagramが全体の約3分の1、Snapchatも4分の1以上を占めており、若者に人気のSNSアプリがオンライングルーミングに利用されていることがわかる[6]。2018年「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」(警察庁)によると、被害の入り口は、Twitter、中学生・高校生・大学生限定のトークアプリひま部(株式会社ナナメウエ。2019年閉鎖)、LINEの順で多かった[56][57]。2021年時点では、TwitterとInstagramを入り口とする性被害が多く、合わせて半数以上を占めており、Yay!(株式会社ナナメウエ)、KoeTomo(Meetscom株式会社)、TikTokを入り口とする被害が続いていた[58]

また、「荒野行動」や「フォートナイト」などのオンラインゲームボイスチャット機能を使って知り合うこともある[6]

被害者像

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オンライングルーミングの被害を受ける危険性が最も高い年齢は、自我の発達過程にあり、出会いや友人を作る手段としてインターネットを積極的に使うことが多い思春期の青少年で、ユニセフ・イノチェンティ研究所は、調査結果は特に女子の危険性が高いことを示している、と述べている[50]。小木曽健は、SNS性犯罪に巻き込まれる子どもたちに特に傾向はなく、そもそも子どもは大人よりも屈しやすく、だましやすいため、子どもというだけで狙われると述べている[53]。誰でも被害者になりえるが、加害者から見ると、非行傾向のある子は、警察に補導された際にスマホを確認されることがあり、そこから露見する可能性があるため、できるだけ「普通の子」を狙うという[53]

加害者像

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オンライングルーミングは、まだ多くの国々で犯罪行為とみなされておらず、記録も残されないため、オンライングルーミングを行う者(ユニセフ・イノチェンティ研究所の調査結果では主に男性)の数については情報がなく、不明である[50]。オンライングルーミングが刑事罰の対象となっている国々においても、犯罪者の詳細を提供する組織的なデータベースは存在しない[50]。主に先進工業国で行われた調査結果によれば、インターネット上の子どもの性的虐待者を類型的に見ると、主に白人、男性、一般的に仕事に就き、そこそこ良い教育を受けている、年齢層は幅広く、若者も含まれる、などの点が指摘されている[50]。オフラインで子どもの性的虐待を行っている男性の多くは、オンラインでの虐待にも関わっている[50]

児童ポルノ被害

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NHKによると、SNSに起因した性被害で、わいせつ行為の次に多いのが児童ポルノの被害である[19]。その多くが、加害者がグルーミングで子どもと関係を作った上で、性的な写真や動画を送らせたものであり、それが流出、拡散している[19]。グルーミングで入手した性的な画像などが、「児童ポルノ」コンテンツとして、アンダーグランドマーケットで高値で売買されることも珍しくない[19]

インターネット上で児童虐待コンテンツを閲覧している男性の大半は、現実で児童との性的接触を求めているわけではないようであるが、子どもの性的虐待コンテンツの需要を維持し、製造を後押ししている[50]

被害にあいやすい子どもの特徴の調査

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インターネット上で性的虐待や性的搾取の被害にあいやすい子どもの特徴について、調査が行われているが、その結果は必ずしも一致しない[59]。南アフリカとアメリカで行われた調査は、自分に自信のない子ども、絶望や否定的事象、現実で性的虐待・迫害を経験している子どもは、オンライングルーミングの被害に遭う危険性が特に高いことが示唆されている[59]。日本の、追手門学院大学准教授の櫻井鼓による2021年から翌年にかけての調査分析では、グルーミング被害を受けた子どもの背景には「孤独感」があることが示された[60]。対人関係がうまくいかなかったり、家庭内虐待の経験がある子どもは、猥褻な自撮り画像を送ってしまいやすいという[60]

一方、イギリスで行われた調査では、現実世界において特に明白な脆弱性のパターンは見られなかった[59]

ブラジルでの調査では、社会的要因と経済状況の重要な関連性が見られ、極めて貧しい地区出身の少女たちは、より早期に性化行動にさらされ、インターネットで性的関連のサイトを訪れて、ステータス向上を可能にしてくれそうな年上の男性と出会おうとする[59]。一方、中流家庭の少女たちは、インターネットの使用も大人の厳しい監視、指導の下で、主に教育目的で行っている[59]

立証の困難さ・捜査の不十分さ

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児童性的虐待の多くは明らかにならず、インターネット上で起きた場合、発覚する度合いはさらに低くなる[61]。インターネットを用いた性的虐待は、子どもと犯罪者の肉体的接触が必ずしも必要ではなため、多くの場合立証が困難であり、法律がオンライングルーミングを犯罪行為としていない、明確な定義を与えていない場合、警察にとって課題はさらに大きくなる[61]。ある犯罪を立証しようとする場合、肉体的接触が全くなくても、子どもを誘惑する「意志」があったと立証する必要があるが、どんな「意志」の証拠が必要なのかなどの課題がある[61]

児童性的虐待コンテンツの被写体となった子どもは、羞恥心に苛まれ、グルーミングにより加害者に感情的に依存していることもあり、自分から被害を口にすることはほとんどなく、大部分の事件が警察の捜査で明らかになる[61]。オンライングルーミングの被害を受けやすい子どもの中には、社会的に孤立し、支援が少ない子どももおり、こうした場合、通報される可能性がさらに低い[61]。性的虐待コンテンツは被害児童が知らないところで加工・配布されるため、多くの子どもは自分が犯罪の被害者であるということを自覚していない[61]。被害が明らかになった場合、周囲から軽視されたり誤解されたりすることがあり、さらなる心的外傷を負う可能性もある[62]。インターネット上にコンテンツが何年にもわたって出回り、映った姿と成長した被害者の容姿が異なっていることもあり、被害者を保護し、適切な心理サポートを受けさせるための確認作業には難しさがある[62]。警察はインターネット上の性的搾取を、保護を要する問題として見ておらず、多くの国でサイバー犯罪に分類されているが、警察のサイバー犯罪部門は、詐欺や組織犯罪に重点を置いており、子どもの保護に関する専門知識・専門的な関心が、ほとんど、あるいは全くないことがある[62]。子どもの商業的性的虐待に関するウェブサイトは、法律上組織犯罪として分類されるか、詐欺やテロの扱いに慣れた警察官によって捜査されることが多いが、性的虐待コンテンツの交換やオンライングルーミングの多くは、捜査対象から外されており、多くの国で、インターネット上の子どもの性的虐待や性的搾取は十分に捜査されておらず、子どもを主体とした対応が行われていない[62]

法整備

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ヨーロッパ

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イギリスではグルーミングで信頼関係を築いた18歳以上の人物が、16歳未満の人物に避妊具を持って逢うと処罰される可能性があり、ドイツでは性行動を目的に子どもと連絡を取るグルーミングそのものが処罰対象となっている[36][19][51]

韓国

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韓国では2020年にn番部屋事件が発覚し、社会を揺るがす大問題となり[63]、刑法の性的同意年齢が13歳から16歳に引き上げられ、2021年9月に青少年性保護法が改正され、オンラインでのグルーミング行為を処罰する法的根拠が設けられた[64][65]。 改正青少年性保護法の施行で、被害に遭った女性の証言を基にした「おとり捜査」が可能となった[66]

日本

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子どもへの猥褻行為の処罰を巡っては、法律の不備が指摘されており、刑法の改正が検討されてきた[67]。法律不備を補う形で、猥褻目的誘拐罪や青少年保護を目的とする各地の条例などが適用されてきた[68]。2023年6月に、刑法改正案が可決成立し、性的な行為を目的に子どもを手なずけるグルーミングの処罰規定も盛り込まれた[68][69]。実際に会う前に子どもを懐柔する行為に着目し、より早い段階で処罰し、事前に被害を防ぐことを狙いとしている[68]

改正案では、16歳未満に猥褻目的で面会を求めれば1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金、面会すれば2年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金となった[68]。性交や性的な部位を露出した映像をSNSなどで送るよう求めた場合も、処罰対象となる[70]。善意で面会した人間が処罰されないよう、威迫や誘惑をする、金銭を渡すといった方法で面会を求める行為が対象とされた[68]。いずれも被害者が13歳以上の場合、年齢差が上に5歳以上ある相手の行為を対象としており、同年代同士の恋愛による行為の処罰を防ぐためであるとしている[68]

有名な事件・疑惑

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イギリス

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  • イギリスの国民的司会者ジミー・サヴィル(1926年 - 2011年)による性的虐待事件。判明している最初の被害は1958年だが、彼の生前被害は隠蔽され続け、公になったのは死後であった。450人以上がサヴィルによる性被害の証拠を提出しており、被害者の大部分が少女だったが、40人以上の被害者が少年だった(被害者は実際にはもっと多いと考えられている)。性被害は、突発的な暴行と、グルーミングを用いたものの両方があった。[71]

アメリカ

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  • アメリカの世界的スター マイケル・ジャクソン(1958年 - 2009年)による未成年男子への性的虐待疑惑。(マイケル・ジャクソンの1993年の性的虐待疑惑マイケル・ジャクソン裁判[72][73]
  • 2002年にアメリカの13歳の少女アリシア・コザキエビッチ英語版が、同年代を装った男にオンライングルーミングを受け、誘拐され、救出までの4日間暴行・拷問を受け、その様子がライブ配信された事件。事件は広く報道され、グルーミングを受けたということが理解できず、被害者を非難する人も少なくなかった。当時、インターネットは普及の途上で、その危険性を子どもに教える人はほとんどいなかった。[74]
  • アメリカのペンシルベニア州立大学フットボール部コーチで、恵まれない青少年のための慈善団体を運営していたジェリー・サンダスキーによる児童性的虐待事件。2009年起訴。警察はジョー・パターノ監督が虐待の事実を知りながら阻止するのに十分な努力をしておらず、警察に通報するという道徳的義務を果たさなかったと批判した[75]。監督、学長、副学長、体育局長が解任され、パターノが「不祥事を知り得た時点」まで遡り、それ以降に記録した111勝を抹消、パターノの「歴代最多勝利監督」の栄誉は剥奪された。制裁金として、大学に約48億円(当時のレート)という巨額の罰金の支払いが命じられ、4年間プレーオフ進出を禁止とした[76]。またサンダスキーは、慈善団体の活動を通して養子にした少年をグルーミングし、性的虐待を行っていた[77]
  • 長年アメリカの体操代表チームのオステオパシー療法家として活躍したラリー・ナサール英語版が、未成年・若年の女性アスリートたちをグルーミングし、治療の名目で30年間にわたって少なくとも250人以上に性的虐待を行っていたアメリカ体操連盟性的虐待事件(2015年発覚)。ミシガン州立大学での事件では、調査の過程で、オリンピック委員会、米国体操協会、大学当局の関係者が虐待の事実を認識し、隠蔽していたことが明らかになっている[34]

韓国

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  • n番部屋事件 - 韓国では2020年に、少女・若い女性をグルーミングし、脅迫し、残虐な性的虐待動画・ライブ配信等を数十万人もの規模でSNSで共有していたことが発覚し、社会を揺るがす大問題となった[63](「部屋」とはチャットルームのこと)。

日本

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  • ジャニー喜多川性加害問題 - 日本の芸能事務所ジャニーズ事務所におけるジャニー喜多川(1931年 - 2019年)による性的虐待疑惑がBBCのドキュメンタリーで再熱した。ドキュメンタリー番組を制作したBBCのスタッフが、被害者が語る喜多川への好意・感謝は喜多川のグルーミングによるものだと評して注目を集めた[78][7]。事務所開設時から被害の告発はあったが大きく報道されることはなく、喜多川の死後、BBCのドキュメンタリーと被害者の実名の証言で表沙汰になった。

グルーミングを扱った映像作品

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  • ジェニーの記憶 - 2018年に製作された、グルーミングされた女性を題材とした映画
  • SNS -少女たちの10日間-英語版(原題:V síti) - 2020年にチェコで製作されたドキュメンタリー映画。童顔の3人の成人女性の俳優が12歳の少女を装って、Skypeでビデオ通話を行い、男性たちが接触してくる様子を追った[79]
  • ある子ども - 2022年2月19日に放送された、オンライングルーミングを題材としたETV特集

関連

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アメリカでは2020年代初頭に、LGBTに関する子供への性教育は小児性愛のための手段でグルーミングであると主張する、反LGBTによるLGBTグルーミング陰謀論が注目を浴びた[80]

脚注

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注釈

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  1. ^ 一般的な用語としてのグルーミングは「毛繕い」という意味である。

出典

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動画

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参考文献

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外部リンク

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