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「フレネ・セレの公式」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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[[Image:frenet.svg|thumb|300px|right|空間曲線; ベクトル '''''T''''', '''''N''''' , '''''B'''''; そして '''''T''''''''''N''''' で張られる [[接触平面]]。 ]]
[[Image:frenet.svg|thumb|300px|right|空間曲線; ベクトル <math>\boldsymbol{T}, \boldsymbol{N}, \boldsymbol{B}</math>; そして <math>\boldsymbol{T}</math><math>\boldsymbol{N}</math> で張られる [[接触平面]]。 ]]
'''フレネ・セレの公式''' (ふれねせれのこうしき、{{lang-en-short|Frenet–Serret formulas}}) は、[[3次元]][[ユークリッド空間]] '''R'''<sup>''3''</sup> 内の連続で[[微分可能関数|微分可能]]な[[曲線]]上を動く粒子の[[運動学]]的性質、あるいは、曲線自身の[[幾何学]]的性質を記述する[[ベクトル解析]]の概念の一つである。
[[微分幾何学]]において'''フレネ・セレの公式''' (ふれねせれのこうしき、{{lang-en-short|Frenet–Serret formulas}}) は、空間曲線自身の[[幾何学]]的性質を記述する空間曲線論の基本定理を言う。[[3次元]][[ユークリッド空間]] <math>\mathbb{R}^3</math> 内の連続で[[微分可能関数|微分可能]]な[[曲線]]上を動く粒子の[[運動学]]的性質を[[ベクトル解析]]的に記述するものである。
==公式==
== 概要 ==
実数直線 <math>\mathbb{R}</math> における開区間 <math>I</math> からユークリッド空間 <math>\mathbb{R}^3</math> へのなめらかな写像 <math>\alpha : I \rightarrow \mathbb{R}^3</math> をユークリッド空間 <math>\mathbb{R}^3</math> のなめらかな曲線あるいは単に曲線(curve)という{{Sfn|関沢正躬|2003|pp=11-12}}。任意の曲線は、パラメータをその曲線の弧長に変更することでその速さを1にすることができる。すなわち、任意の曲線 <math>\alpha(t)</math> に対して、パラメータを弧長 s に変更することで、速さが1である曲線 <math>\beta(s) = \alpha(t(s))</math> が存在する{{Sfn|関沢正躬|2003|pp=26-27}}。
この公式は、曲線に対する[[接線]]方向 (tangent)・主[[法線]]方向 (normal)・従法線方向 (binormal)を指す3つの[[単位ベクトル]]の組{'''''T''''', '''''N''''', '''''B''''' }からなる'''フレネ・セレ標構'''とその[[微分]]との間の線形関係について記述したものであり、二人のフランス人数学者{{仮リンク|ジャン・フレデリック・フルネ|en|Jean Frédéric Frenet}} (Jean Frédéric Frenet, 1847) と{{仮リンク|ジョゼフ・アルフレッド・セレ|en|Joseph Alfred Serret}} (Joseph Alfred Serret, 1851) によって独立に発見された。


この速さが 1 の曲線 <math>\beta : I \rightarrow \mathbb{R}^3</math> の速度ベクトル場
フレネ・セレ基底を構成する単位接ベクトル '''''T''''' ・単位主法線ベクトル '''''N''''' ・単位従法線ベクトル '''''B''''' は次のように定義される。
:<math>\boldsymbol{T} = \beta'</math>
を曲線 <math>\beta</math> の'''単位接ベクトル場'''(unit tangent vector field)と呼ぶ。これは常に <math>\beta</math> の接線方向を向く。


また、ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}</math> の導ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}' = \beta''</math> を、<math>\beta</math> の'''曲率ベクトル場'''(curvature vector field)と呼ぶ。これは常に <math>\boldsymbol{T}</math> とは垂直となる。
* '''''T''''' は曲線に接する[[単位ベクトル]]で、運動の方向を向いている。

* '''''N''''' は '''''T''''' を曲線の[[弧長]]で微分し、その大きさで割ったものである。
曲率ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}'</math> の長さ <math>\kappa(s) = \| \boldsymbol{T}' \|</math> は曲線の曲がり具合を表す関数であり <math>\beta</math> の'''[[曲率]]関数'''(curvature function)と言う。ここで、<math>\kappa(s) > 0 \; (s \isin I)</math> であるとするとき、曲率ベクトル場を正規化したもの
* '''''B''''' は '''''T''''' と '''''N''''' の[[ベクトル積]]である。
:<math>\boldsymbol{N} = \frac{1}{\kappa}\boldsymbol{T}'</math>
を <math>\beta</math> の'''単位主[[法線]]ベクトル場'''(unit principal normal vector field)と呼ぶ。これは各点で <math>\beta</math> が曲がる向きを示す。

さらに、単位接ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}</math> と単位主法線 <math>\boldsymbol{N}</math> との[[ベクトル積]]
:<math>\boldsymbol{B} = \boldsymbol{T} \times \boldsymbol{N}</math>
は単位ベクトル場であり、これを <math>\beta</math> の'''単位従法線ベクトル場'''(unit binormal vector field)と呼ぶ。

以上より、ユークリッド空間 <math>\mathbb{R}^3</math> 中の速さが1の曲線 <math>\beta</math> について、その曲率が正であれば、互いに直交する単位ベクトル場の組 <math>\{ \boldsymbol{T}, \boldsymbol{N}, \boldsymbol{B} \}</math> が存在する。このベクトル場の組を曲線 <math>\beta</math> の'''フレネ標構'''(Frenet frame field)と呼ぶ{{sfn|関沢正躬|2003|pp=31-32}}。
----
フレネ標構はユークリッド空間における空間曲線の特性を調べるときに非常に有用な道具である。ユークリッド空間の各点において xyz 直交座標系の正規直交基底を与えるベクトル場の組である自然標構 <math>{E_1, E_2, E_3}</math> は、曲線に関する情報を全く持っていないのに対してフレネ標構は曲線に関する多くの情報を持っている。空間曲線を研究する鍵は可能な限りフレネ標構を用いることであり、しかもそれはたいていの場合可能である{{sfn|関沢正躬|2003|pp=31-32}}。

フレネ標構についてまず知るべきことは、各ベクトル場の変化 <math>\boldsymbol{T}',\boldsymbol{N}',\boldsymbol{B}'</math> をフレネ標構の線型関係としてとらえることであり、この線型関係を'''フレネ・セレの公式'''(Frenet-Serret formula)と呼ぶ。この公式は、二人のフランス人数学者{{仮リンク|ジャン・フレデリック・フレネ|en|Jean Frédéric Frenet}} (Jean Frédéric Frenet, 1847) と{{仮リンク|ジョゼフ・アルフレッド・セレ|en|Joseph Alfred Serret}} (Joseph Alfred Serret, 1851) によって独立に再発見された{{Sfn|近藤基吉|井関清志|1982|pp=278-280}}。


フレネ・セレの公式は
フレネ・セレの公式は
:<math>
:<math>
\begin{matrix}
\begin{matrix}
\displaystyle\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{T}}{\mathrm{d}s}
\displaystyle\boldsymbol{T}'
&=& & \kappa\boldsymbol{N} & \\&&&&\\
&=& & \kappa\boldsymbol{N} & \\&&&&\\
\displaystyle\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{N}}{\mathrm{d}s}
\displaystyle\boldsymbol{N}'
&=& -\kappa\boldsymbol{T} & & +\, \tau\boldsymbol{B}\\&&&&\\
&=& -\kappa\boldsymbol{T} & & +\, \tau\boldsymbol{B}\\&&&&\\
\displaystyle\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{B}}{\mathrm{d}s}
\displaystyle\boldsymbol{B}'
&=& & -\tau\boldsymbol{N} &
&=& & -\tau\boldsymbol{N} &
\end{matrix}
\end{matrix}
33行目: 47行目:
\begin{pmatrix}\boldsymbol{T}\\\boldsymbol{N}\\\boldsymbol{B}\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}\boldsymbol{T}\\\boldsymbol{N}\\\boldsymbol{B}\end{pmatrix}
</math>
</math>
と表される。ここで、d/d''s'' は、弧長についての微分を表し、''κ'', ''τ'' はそれぞれ曲線の[[曲率]]、[[捩率]]である。
と表される。


== 公式の導出 ==
ここで、d/d''s'' は、弧長についての微分を表し、''κ'', ''τ'' はそれぞれ曲線の[[曲率]]、[[捩率]]を表す。
3次元ユークリッド空間を <math>\mathbb{R}^3</math> とする。実数体 <math>\mathbb{R}</math> の区間 <math>I</math> から <math>\mathbb{R}^3</math> へのなめらかな写像 <math>\alpha : I \rightarrow \mathbb{R}^3</math> は、ユークリッド空間 <math>\mathbb{R}^3</math> の空間曲線を表す。ここで、<math>\alpha(t)</math> は[[微分可能]]であり、'''退化しない'''(regular)曲線(<math>\alpha'(t) \neq 0</math>)で、かつ軌跡は曲がっている(<math>\alpha'(t) \times \alpha''(t) \neq 0</math>)ものとする。


=== パラメーターが弧長である曲線 ===
==導出==
曲線 <math>\alpha(t)</math> の[[弧長]]を s とする。すなわち、
===前提===
:<math>s = \int_{a}^{b} \| \alpha'(t)\| \mathrm{d} t = \int_{a}^{b} \frac{ \mathrm{d} s }{ \mathrm{d} t } \mathrm{d} t</math>
[[ユークリッド空間]]内を運動する粒子の時刻 ''t'' における[[位置ベクトル]]を {{nowrap|'''''r''''' (''t'')}} とする。関数 {{nowrap|'''''r''''' (''t'')}} のグラフは粒子の[[軌道 (力学)|軌道]]を表す[[曲線]]である。
とする。<math>\alpha</math> は退化しない曲線であるので、<math>\| \alpha'(t) \| > 0</math> すなわち <math>\frac{ \mathrm{d} s }{ \mathrm{d} t } > 0</math> であるので s は増加関数である。したがって逆関数が存在し、それを <math>t = t(s)</math> とする。
ただし、 '''''r''''' (''t'') は[[滑らかな関数]]であり、
軌道は曲がっている ({{nowrap|'''''r''''' "(''t'')}}×{{nowrap|'''''r''''' '(''t'')}}≠0)
と仮定する。


ここで、曲線 <math>\beta</math> を <math>\beta(s) = \alpha(t(s))</math> と定めれば、s における <math>\beta</math> の速さは
===弧長パラメータ===
:<math>\| \beta'(s) \| = \frac{ \mathrm{d} t }{ \mathrm{d} s }(s) \left\| \alpha'(t(s)) \right\| = \frac{ \mathrm{d} t }{ \mathrm{d} s }(s) \frac{ \mathrm{d} s }{ \mathrm{d} t } (t(s))= 1 </math>
''s'' (''t'') を[[弧長]]、すなわち、粒子が時刻 ''t'' までに曲線上を動いた距離
となる。すなわち、任意の退化しない曲線は速さが1の曲線にすることができる。この速さが1である曲線を'''パラメータが弧長である曲線'''ともいう{{sfn|関沢正躬|2003|pp=26-27}}。
:<math>
s(t) = \int_0^t \| \boldsymbol{r}'(\sigma)\| \mathrm{d}\sigma.
</math>
とする。{{nowrap|'''''r''''' '}}≠0 を仮定しているので、''t'' を ''s'' の関数として表せ、よって、'''''r''''' を''s'' の関数として {{nowrap|'''''r'''''(''s'')}}={{nowrap|'''''r'''''(''t''(''s''))}} と表せる。このように、曲線を弧長で[[媒介変数|パラメータ]]表示できる。なお、微分は
:<math>
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}s} = \frac{1}{\|\boldsymbol{r}'(t)\|}\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
</math>
と変換できる。
<!--
'''''r''''' を''s''で微分して得られる[[接線ベクトル]]は
:<math>
\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{r}(s)}{\mathrm{d}s} = \frac{\boldsymbol{r}'(t(s))}{\|\boldsymbol{r}'(t(s))\|}
</math>
[[単位ベクトル]]である。
-->
===互いに直交する単位ベクトルの微分===
曲線上の各点 {{nowrap|'''''r''''' (''s'')}} で定義された[[正規直交基底]] {
{{nowrap|'''''e'''''<sub>1</sub>(''s'')}},
{{nowrap|'''''e'''''<sub>2</sub>(''s'')}},
{{nowrap|'''''e'''''<sub>3</sub>(''s'')}}
} ({{仮リンク|動標構|en|moving frame}})を考える。それぞれのベクトルは ''s'' について微分可能とする。


=== フレネ標構(Frenet frame field) ===
微分したベクトル
パラメータが弧長である曲線 <math>\beta : I \rightarrow \mathbb{R}^3</math> 上の各点 <math>\beta(s)</math> において、正規直交基底を与えるユークリッド空間 <math>\mathbb{R}^3</math> の接ベクトル場の組(これを'''標構'''(frame field)と呼ぶ) <math>\{ \boldsymbol{T}, \boldsymbol{N}, \boldsymbol{B} \}</math> を以下のように定義する:
{
{{nowrap|d'''''e'''''<sub>1</sub>(''s'')/d''s'' }},
{{nowrap|d'''''e'''''<sub>2</sub>(''s'')/d''s'' }},
{{nowrap|d'''''e'''''<sub>3</sub>(''s'' )/d''s'' }}
}は、
あるスカラー関数
''ω''<sub>1</sub>(''s''), ''ω''<sub>2</sub>(''s''), ''ω''<sub>3</sub>(''s'') を使って
:<math>
:<math>
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}s}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_1(s) \\
\boldsymbol{e}_2(s) \\
\boldsymbol{e}_3(s) \\
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 & \omega_3 & -\omega_2 \\
-\omega_3 & 0 & \omega_1 \\
\omega_2 & -\omega_1 & 0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_1(s) \\
\boldsymbol{e}_2(s) \\
\boldsymbol{e}_3(s) \\
\end{pmatrix}
</math> …(0)
と表せる。

{{Hidden begin|title=行列の反対称性の証明}}
基底の縦表示
:<math>
Q = \begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_1(s) \\
\boldsymbol{e}_2(s) \\
\boldsymbol{e}_3(s)
\end{pmatrix}
</math>
を考える。これらの要素のベクトルは基底をなすから任意のベクトルを線形和で表示できる。
よって自身の微分に対しても
:<math>
\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}s} = {\it\Omega}\, Q
</math> …(p1)
となる行列 ''Ω'' が存在する。
よって、証明すべきことはこの行列が反対称性 (''Ω''<sup>T</sup>=-''Ω'') を持つことである。

さて、
{
{{nowrap|'''''e'''''<sub>1</sub>(''s'')}},
{{nowrap|'''''e'''''<sub>2</sub>(''s'')}},
{{nowrap|'''''e'''''<sub>3</sub>(''s'')}}
} は正規直交基底なので
:<math>
\begin{align}
\begin{align}
\boldsymbol{T} &\equiv \beta'(s) & (1) \\[1.0em]
Q \cdot Q^\mathrm{T}
\boldsymbol{N} &\equiv \frac{ \boldsymbol{T}' }{ \left\| \boldsymbol{T}' \right\| } & (2) \\[1.0em]
&= \begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_1(s) \\
\boldsymbol{B} &\equiv \boldsymbol{T} \times \boldsymbol{N} & (3)
\boldsymbol{e}_2(s) \\
\boldsymbol{e}_3(s)
\end{pmatrix}
\cdot
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_1(s) &
\boldsymbol{e}_2(s) &
\boldsymbol{e}_3(s)
\end{pmatrix} \\
&= \begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix}\\
\therefore Q \cdot Q^\mathrm{T} &= I
\end{align}
\end{align}
</math>
</math>
これらは各点において正規直交基底を与え、この順に右手系をなすことがわかる。<math>\{ \boldsymbol{T}, \boldsymbol{N}, \boldsymbol{B} \}</math> を'''フレネ・セレ標構'''(Frenet-Serret frame field)とよぶ。
となる。


フレネ標構の各成分について次の関係が成り立つ。
これを式(p1)に適用すると
; 曲率ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}'</math>(単位主法線ベクトル場 <math>\boldsymbol{N}</math>) と 単位接ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}</math> は曲線上の各点において垂直
:<math>
曲線 <math>\beta(s)</math> の速さは1であるので
{\it\Omega} = \frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}s} \cdot Q^\mathrm{T}
:<math>\| \beta'(s) \|^2 = \| \boldsymbol{T} \|^2 = \boldsymbol{T} \cdot \boldsymbol{T} = 1</math>
</math>
である。両辺を弧長 s で微分すると、
が得られる。
:<math>\frac{ \mathrm{d} }{ \mathrm{d} s } \left( \boldsymbol{T} \cdot \boldsymbol{T} \right) = \frac{ \mathrm{d} \boldsymbol{T} }{ \mathrm{d} s } \cdot \boldsymbol{T} + \boldsymbol{T} \cdot \frac{ \mathrm{d} \boldsymbol{T} }{ \mathrm{d} s } = 2 \boldsymbol{T}' \cdot \boldsymbol{T} = 0 </math>
したがって、曲率ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}'</math>(またはこれを正規化した単位主法線ベクトル場 <math>\boldsymbol{N}</math>)と単位接ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}</math> は曲線上の各点において常に垂直である。
; 単位従法線ベクトル場 <math>\boldsymbol{B}</math> は 単位接ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}</math> と単位主法線ベクトル場 <math>\boldsymbol{N}</math> と曲線上の各点において垂直
単位従法線ベクトル場は、単位接ベクトル場と単位主法線ベクトル場のベクトル積として定義されているので、曲線上の各点において両ベクトル場と垂直である。
=== フレネ・セレの公式(Frenet-Serret formula) ===
曲線の各点の曲がり具合を'''[[曲率]]'''(curvature function)と呼び、次のように曲率ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}'</math> の大きさとして定義する。なお、定義により曲率 <math>\kappa</math> は常に0以上となる関数となる。
:<math>\kappa(s) = \| \boldsymbol{T}' \|</math>
したがって、曲率ベクトル場 <math>\boldsymbol{T}'</math> と単位主法線ベクトル場 <math>\boldsymbol{N}</math> との間には、単位主法線ベクトル場の定義から、次の関係が成り立つ。
:<math>\boldsymbol{T}' = \kappa \boldsymbol{N}</math>


次に、<math>\boldsymbol{B}'</math> について成り立つ関係を求める。単位従法線ベクトル場 <math>\boldsymbol{B}</math> は単位ベクトル場であるから <math>\boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{B}' = 0</math> が成り立ち、<math>\boldsymbol{B}'</math> は <math>\boldsymbol{B}</math> と垂直である。また、定義より <math>\boldsymbol{B}</math> と <math>\boldsymbol{T}</math> は垂直であることから、<math>\boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{T} = 0</math> この両辺を弧長 s で微分すると、
また、{{nowrap|''I'' }}={{nowrap|''Q'' }}・''Q''<sup>T</sup> の両辺を微分すると、
:<math>\boldsymbol{B}' \cdot \boldsymbol{T} + \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{T}' = 0</math>
:<math>
となる。<math>\boldsymbol{T}' = \kappa \boldsymbol{N}</math> であることから、
\begin{align}
:<math>\boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{T}' = \boldsymbol{B} \cdot (\kappa \boldsymbol{N}) = 0</math>
0
が導かれる。したがって、
&= \displaystyle
:<math>\boldsymbol{B}' \cdot \boldsymbol{T} = 0</math>
\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}s} \cdot Q^\mathrm{T}
となり、<math>\boldsymbol{B}'</math> は <math>\boldsymbol{T}</math> とも垂直であることがわかる。<math>\boldsymbol{B}'</math> は <math>\boldsymbol{B}</math> と <math>\boldsymbol{T}</math> とも垂直であることから、<math>\boldsymbol{N}</math> のスカラー倍であることがわかる。つまり、曲線 <math>\beta</math> 上の関数 <math>\tau(s)</math> で
+ Q\cdot\frac{\mathrm{d}Q^\mathrm{T}}{\mathrm{d}s}\\
:<math>\boldsymbol{B}' = - \tau \boldsymbol{N}</math>
&= \displaystyle
を満たすものが存在する(慣習上マイナス符号をつける{{sfn|関沢正躬|2003|pp=31-32}})。この関数 <math>\tau(s)</math> を曲線の'''[[捩率]]'''(torsion function)と呼ぶ。捩率は曲率と異なり正にも負にも0にもなる。
\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}s} \cdot Q^\mathrm{T}
+ \left( \frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}s} \cdot Q^\mathrm{T} \right)^\mathrm{T}
&= {\it\Omega} + {\it\Omega}^\mathrm{T}
\end{align}
</math>
が導かれる。これより、''Ω'' が反対称性
:<math>
{\it\Omega} = \begin{pmatrix}
0 & \omega_3 & -\omega_2 \\
-\omega_3 & 0 & \omega_1 \\
\omega_2 & -\omega_1 & 0
\end{pmatrix}
</math>
を持つことが示せた。
{{Hidden end}}
反対称行列は3個のパラメータで表せるが、以下に示すように、正規直交基底を適切に選ぶと反対称行列の成分を2個のパラメータで表すことができる。


これらを整理すると(<math>\boldsymbol{N}'</math>については後述)、速さが1の曲線(パラメータが弧長である曲線)<math>\beta</math> のフレネ標構について次の関係
===フレネ・セレ標構===
:{{Quotation|<math>
曲線上の各点 {{nowrap|'''''r''''' (''s'')}} において、3組のベクトル {'''''T''''', '''''N''''', '''''B'''''} を以下のように定義する:
\begin{matrix}
::<math>
\displaystyle\boldsymbol{T}'
\begin{align}
&=& & \kappa\boldsymbol{N} & &(4)\\
\boldsymbol{T} &\equiv \frac{\mathrm{d}\boldsymbol{r}}{\mathrm{d}s} \\
\displaystyle\boldsymbol{N}'
&= \frac{\boldsymbol{r}'(t)}{\left\| \boldsymbol{r}'(t) \right\|} & (1) \\[1.0em]
\boldsymbol{N} &\equiv \frac{{\mathrm{d}\boldsymbol{T}}/{\mathrm{d}s}}{\left\| {\mathrm{d}\boldsymbol{T}}/{\mathrm{d}s} \right\|} \\
&=& -\kappa\boldsymbol{T} & & +\, \tau\boldsymbol{B}&(5)\\
\displaystyle\boldsymbol{B}'
&= \frac{\boldsymbol{r}'(t) \times (\boldsymbol{r}''(t) \times \boldsymbol{r}'(t))}{\left\| \boldsymbol{r}'(t) \times (\boldsymbol{r}''(t) \times \boldsymbol{r}'(t)) \right\|} & (2) \\[1.0em]
&=& & -\tau\boldsymbol{N} & &(6)
\boldsymbol{B} &\equiv \boldsymbol{T} \times \boldsymbol{N} \\
\end{matrix}
&= \frac{\boldsymbol{r}'(t) \times \boldsymbol{r}''(t)}{\left\| \boldsymbol{r}'(t) \times \boldsymbol{r}''(t) \right\|} & (3)
</math>}}
\end{align}
が成り立つ。これを'''フレネ・セレの公式'''(Frenet-Serret formula)と呼ぶ。
</math>
; 式 (5) の導出
これらは正規直交基底であり、この順に右手系をなすことがわかる。{'''''T''''', '''''N''''', '''''B'''''} をフレネ・セレ標構とよぶ。
<math>\boldsymbol{N}'</math> の成分を直交分解する。
:<math>\boldsymbol{N}' = (\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{T})\boldsymbol{T} + (\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{N})\boldsymbol{N} + (\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{B})\boldsymbol{B}</math>
(第一成分)<math>\boldsymbol{N}</math> と <math>\boldsymbol{T}</math> は垂直であるので <math>\boldsymbol{N} \cdot \boldsymbol{T} = 0</math>、したがって <math>\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{T} + \boldsymbol{N} \cdot \boldsymbol{T}' = 0</math> より、<math>\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{T} = - \boldsymbol{N} \cdot \boldsymbol{T}' = - \boldsymbol{N} \cdot (\kappa \boldsymbol{N}) = - \kappa</math> となる。


(第二成分)<math>\boldsymbol{N}</math> 単位ベクトル場であるので、<math>\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{N} = 0</math> となる。
===フレネ・セレの公式===
フレネ・セレ標構に対して、動標構の微分の関係式(0)を適用すると、フレネ・セレ標構の定義(2)から''ω''<sub>2</sub>=0となる。
''ω''<sub>3</sub>=''κ'',''ω''<sub>1</sub>=''τ''と置き換えるとフレネ・セレの公式:
:<math>
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}s}
\begin{pmatrix}\boldsymbol{T}\\\boldsymbol{N}\\\boldsymbol{B}\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 & \kappa & 0 \\
-\kappa & 0 & \tau \\
0 & -\tau & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}\boldsymbol{T} \\ \boldsymbol{N} \\ \boldsymbol{B}\end{pmatrix}
</math>
が得られる。


(第三成分)<math>\boldsymbol{N}</math> と <math>\boldsymbol{B}</math> は垂直であるので <math>\boldsymbol{N} \cdot \boldsymbol{B} = 0</math>、したがって <math>\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{B} + \boldsymbol{N} \cdot \boldsymbol{B}' = 0</math> より、<math>\boldsymbol{N}' \cdot \boldsymbol{B} = - \boldsymbol{N} \cdot \boldsymbol{B}' =- \boldsymbol{N} \cdot (- \tau \boldsymbol{N}) = \tau</math> となる。
''κ'',''τ''はそれぞれ曲線の曲率、捩率を表し、公式より、

:<math>
したがって、
\begin{align}
\kappa &= {\mathrm{d}\boldsymbol{T} \over \mathrm{d}s}\cdot \boldsymbol{N} \\
:<math>\boldsymbol{N}' = - \kappa \boldsymbol{T} + \tau \boldsymbol{B}</math>
が成り立つ。
&= {\left\| \boldsymbol{r}'(t) \times \boldsymbol{r}''(t) \right\|
\over \left\| \boldsymbol{r}'(t)\right\|^3}\\
\tau &=-{\mathrm{d}\boldsymbol{B} \over \mathrm{d}s}\cdot \boldsymbol{N} \\
&= {\boldsymbol{r}'(t) \cdot( \boldsymbol{r}''(t) \times \boldsymbol{r}'''(t))
\over \left\| \boldsymbol{r}'(t) \times \boldsymbol{r}''(t) \right\|^2}
\end{align}
</math>
と与えられる。定義により {{nowrap|''κ'' >0}} である。


==具体例==
== 具体例 ==
[[Image:frenetframehelix.gif|thumb|right|400px|[[螺旋]]上を動くフレネ・セレ標構。青い矢印は '''''T'''''、赤い矢印は '''''N'''''、黒い矢印は '''''B''''' をそれぞれ表す。]]
[[Image:frenetframehelix.gif|thumb|right|400px|[[螺旋]]上を動くフレネ・セレ標構。青い矢印は <math>\boldsymbol{T}</math>、赤い矢印は <math>\boldsymbol{N}</math>、黒い矢印は <math>\boldsymbol{B}</math> をそれぞれ表す。]]
半径 ''r'' (>0)、間隔 2π ''h'' 、角速度''ω''(>0)の[[螺旋]]上の運動
半径 ''r'' (>0)、間隔 2π ''h'' 、角速度''ω''(>0)の[[螺旋]]上の運動
:<math>
:<math>
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[[Image:FrenetTN.svg|thumb|right|350px|ベクトル '''''T''''' および '''''N''''' を平面曲線の異なる2点においてそれぞれ表示している。破線の矢印は2番目の標構を並行移動したものであり、 δ'''''T''''''''''T'''''における変化量、δ''s'' は2点間の距離を表す。極限 <math>\tfrac{\mathrm{d}\boldsymbol{T}}{\mathrm{d}s}</math> の方向は '''''N''''' と同じ向きであり、大きさである曲率は標構の(''s''を時間とみたときの)回転速度を表す。]]
[[Image:FrenetTN.svg|thumb|right|350px|ベクトル <math>\boldsymbol{T}</math> および <math>\boldsymbol{N}</math> を平面曲線の異なる2点においてそれぞれ表示している。破線の矢印は2番目の標構を並行移動したものであり、 δ<math>\boldsymbol{T}</math><math>\boldsymbol{T}</math>における変化量、δ''s'' は2点間の距離を表す。極限 <math>\tfrac{\mathrm{d}\boldsymbol{T}}{\mathrm{d}s}</math> の方向は <math>\boldsymbol{N}</math> と同じ向きであり、大きさである曲率は標構の(''s''を時間とみたときの)回転速度を表す。]]
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''h'' =0 のとき、軌道は ''xy'' 面内の半径 ''r'' の円周になり、曲率は ''κ''=1/''r'' 、 捩率は ''τ'' =0 となる。|''h''| が大きくなるにつれ、曲率は''κ''→0、捩率は ''τ'' →1/''h'' となる。
''h'' =0 のとき、軌道は ''xy'' 面内の半径 ''r'' の円周になり、曲率は ''κ''=1/''r'' 、 捩率は ''τ'' =0 となる。|''h''| が大きくなるにつれ、曲率は''κ''→0、捩率は ''τ'' →1/''h'' となる。


== 応用例 ==
== 応用例 ==
ロボットマニピュレータの姿勢とその軌道を記述したり{{Sfn|精密工学会誌|2012|p=605-610}}{{Sfn|Jorge Angeles|2003|p=363-424}}、蛇型ロボットや多関節ロボットを連続曲線で近似して表現{{Sfn|山田浩也|広瀬茂男|2008}}{{Sfn|山田浩也|2008}}する際に用いられる。
ロボットマニピュレータの姿勢とその軌道を記述したり{{Sfn|精密工学会誌|2012|p=605-610}}{{Sfn|Jorge Angeles|2003|p=363-424}}、蛇型ロボットや多関節ロボットを連続曲線で近似して表現{{Sfn|山田浩也|広瀬茂男|2008}}{{Sfn|山田浩也|2008}}する際に用いられる。
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{reflist}}
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== 関連項目 ==
* [[微分幾何学]]
* [[曲率]] - [[捩率]]
* [[接触平面]]
* [[物理学]] - [[力学]]
* [[ロボット工学]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
{{refbegin}}
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*{{cite book |和書| author=小林昭七 | title=曲線と曲面の微分幾何 | year=1977 | publisher=[[裳華房]] | series=基礎数学選書17 | url=http://www.shokabo.co.jp/series/211_kisosuu.html }}
* {{cite book |和書| author=小林昭七 | title=曲線と曲面の微分幾何 | edition=改訂版 | year=1995 | publisher=裳華房 | url=http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1091-2.htm | isbn=978-4-7853-1091-2 | ref=harv }}
*{{cite book |和書| author=小林昭七 | title=曲線と曲面の微分幾何(改訂版) | year=1995 | publisher=裳華房 | url=http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1091-2.htm | isbn=978-4-7853-1091-2 }}
* {{cite book |和書| author=関沢正躬 | title=微分幾何学入門 | publisher=日本評論社 | year=2003 | ref=harv }}
*{{cite journal |和書| author=蘭豊礼 | author2=玉井博文 |author3=三浦憲二郎 | author4=[[牧野洋 (工学者)|牧野洋]]
* {{cite journal |和書| author=蘭豊礼 | author2=玉井博文 |author3=三浦憲二郎 | author4=[[牧野洋 (工学者)|牧野洋]]
| title=リニアな曲率・捩率を持つセグメントによる軌道生成 | journal=精密工学会誌 | volume=78 | number=7 | year=2012 | pages=605-610 | url=https://doi.org/10.2493/jjspe.78.605 | ref={{Sfnref|精密工学会誌|2012}} }}
| title=リニアな曲率・捩率を持つセグメントによる軌道生成 | journal=精密工学会誌 | volume=78 | number=7 | year=2012 | pages=605-610 | url=https://doi.org/10.2493/jjspe.78.605 | ref={{Sfnref|精密工学会誌|2012}} }}
*{{Cite book | author=Jorge Angeles | title=Fundamentals of Robotic Mechanical Systems. Theory, Methods, Algorithms, second Edition | publisher=[[シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア|Springer]], New York | series=Mechanical Engineering Series | year=2003 | isbn=0-387-95368-X | url=http://www.robotee.com/Ebooks/Fundamentals_of_Robotic_Mechanical_Systems.pdf | format=PDF | accessdate=2014-07-09 | ref=harv }} (TLFeBOOK)
* {{Cite book | author=Jorge Angeles | title=Fundamentals of Robotic Mechanical Systems. Theory, Methods, Algorithms, second Edition | publisher=[[シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア|Springer]], New York | series=Mechanical Engineering Series | year=2003 | isbn=0-387-95368-X | url=http://www.robotee.com/Ebooks/Fundamentals_of_Robotic_Mechanical_Systems.pdf | format=PDF | accessdate=2014-07-09 | ref=harv }} (TLFeBOOK)
*{{Cite book | author=Jorge Angeles | title=Fundamentals of Robotic Mechanical Systems. Theory, Methods, Algorithms, Fourth Edition | publisher=Springer, New York | series=Mechanical Engineering Series | year=2014 | url=http://www.springer.com/engineering/mechanical+engineering/book/978-3-319-01850-8 | isbn=978-3-319-01850-8 }}(first edition published in 1997)
* {{Cite book | author=Jorge Angeles | title=Fundamentals of Robotic Mechanical Systems. Theory, Methods, Algorithms, Fourth Edition | publisher=Springer, New York | series=Mechanical Engineering Series | year=2014 | url=http://www.springer.com/engineering/mechanical+engineering/book/978-3-319-01850-8 | isbn=978-3-319-01850-8 }}(first edition published in 1997)
*{{Cite journal |和書| author=山田浩也 | author2=[[広瀬茂男]] | title=索状能動体の研究―多関節体幹による連続曲線近似法― | journal=日本ロボット学会誌 | volume=26 | number=1 | year=2008 | pages=110-120 | url=https://doi.org/10.7210/jrsj.26.110 | ref=harv }}
* {{Cite journal |和書| author1=山田浩也 | author2=[[広瀬茂男]] | title=索状能動体の研究―多関節体幹による連続曲線近似法― | journal=日本ロボット学会誌 | volume=26 | number=1 | year=2008 | pages=110-120 | url=https://doi.org/10.7210/jrsj.26.110 | ref=harv }}
*{{Cite book |和書| author= 山田浩也 | title=索状能動体の3次元運動解析に基づく機構と制御の研究| publisher=[[東京工業大学]] | series=博士論文(甲第7192号) | date=2008-03-26 | url=http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/recordID/dissertation.bib/TT00008875?hit=-1&caller=xc-search | ref=harv }}
* {{Cite book |和書| author=山田浩也 | title=索状能動体の3次元運動解析に基づく機構と制御の研究| publisher=[[東京工業大学]] | series=博士論文(甲第7192号) | date=2008-03-26 | url=http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/recordID/dissertation.bib/TT00008875?hit=-1&caller=xc-search | ref=harv }}
* {{cite book |和書| author1=近藤基吉 | author2=井関清志 | title=近代数学(上) 現代数学の黎明期 | publisher=日本評論社 | year=1982 | ref=harv }}
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== 関連項目 ==
* [[曲率]]
* [[捩率]]
* [[接触平面]]
* [[力学]]
* [[物理学]]
* [[ロボット工学]]


{{Curvature}}
{{Curvature}}

2022年3月22日 (火) 14:14時点における版

空間曲線; ベクトル ; そして で張られる 接触平面

微分幾何学においてフレネ・セレの公式 (ふれねせれのこうしき、: Frenet–Serret formulas) とは、空間曲線自身の幾何学的性質を記述する空間曲線論の基本定理を言う。3次元ユークリッド空間 内の連続で微分可能曲線上を動く粒子の運動学的性質をベクトル解析的に記述するものである。

概要

実数直線 における開区間 からユークリッド空間 へのなめらかな写像 をユークリッド空間 のなめらかな曲線あるいは単に曲線(curve)という[1]。任意の曲線は、パラメータをその曲線の弧長に変更することでその速さを1にすることができる。すなわち、任意の曲線 に対して、パラメータを弧長 s に変更することで、速さが1である曲線 が存在する[2]

この速さが 1 の曲線 の速度ベクトル場

を曲線 単位接ベクトル場(unit tangent vector field)と呼ぶ。これは常に の接線方向を向く。

また、ベクトル場 の導ベクトル場 を、曲率ベクトル場(curvature vector field)と呼ぶ。これは常に とは垂直となる。

曲率ベクトル場 の長さ は曲線の曲がり具合を表す関数であり 曲率関数(curvature function)と言う。ここで、 であるとするとき、曲率ベクトル場を正規化したもの

単位主法線ベクトル場(unit principal normal vector field)と呼ぶ。これは各点で が曲がる向きを示す。

さらに、単位接ベクトル場 と単位主法線 とのベクトル積

は単位ベクトル場であり、これを 単位従法線ベクトル場(unit binormal vector field)と呼ぶ。

以上より、ユークリッド空間 中の速さが1の曲線 について、その曲率が正であれば、互いに直交する単位ベクトル場の組 が存在する。このベクトル場の組を曲線 フレネ標構(Frenet frame field)と呼ぶ[3]


フレネ標構はユークリッド空間における空間曲線の特性を調べるときに非常に有用な道具である。ユークリッド空間の各点において xyz 直交座標系の正規直交基底を与えるベクトル場の組である自然標構 は、曲線に関する情報を全く持っていないのに対してフレネ標構は曲線に関する多くの情報を持っている。空間曲線を研究する鍵は可能な限りフレネ標構を用いることであり、しかもそれはたいていの場合可能である[3]

フレネ標構についてまず知るべきことは、各ベクトル場の変化 をフレネ標構の線型関係としてとらえることであり、この線型関係をフレネ・セレの公式(Frenet-Serret formula)と呼ぶ。この公式は、二人のフランス人数学者ジャン・フレデリック・フレネ英語版 (Jean Frédéric Frenet, 1847) とジョゼフ・アルフレッド・セレ英語版 (Joseph Alfred Serret, 1851) によって独立に再発見された[4]

フレネ・セレの公式は

あるいは

と表される。ここで、d/ds は、弧長についての微分を表し、κ, τ はそれぞれ曲線の曲率捩率である。

公式の導出

3次元ユークリッド空間を とする。実数体 の区間 から へのなめらかな写像 は、ユークリッド空間 の空間曲線を表す。ここで、微分可能であり、退化しない(regular)曲線()で、かつ軌跡は曲がっている()ものとする。

パラメーターが弧長である曲線

曲線 弧長を s とする。すなわち、

とする。 は退化しない曲線であるので、 すなわち であるので s は増加関数である。したがって逆関数が存在し、それを とする。

ここで、曲線 と定めれば、s における の速さは

となる。すなわち、任意の退化しない曲線は速さが1の曲線にすることができる。この速さが1である曲線をパラメータが弧長である曲線ともいう[2]

フレネ標構(Frenet frame field)

パラメータが弧長である曲線 上の各点 において、正規直交基底を与えるユークリッド空間 の接ベクトル場の組(これを標構(frame field)と呼ぶ) を以下のように定義する:

これらは各点において正規直交基底を与え、この順に右手系をなすことがわかる。フレネ・セレ標構(Frenet-Serret frame field)とよぶ。

フレネ標構の各成分について次の関係が成り立つ。

曲率ベクトル場 (単位主法線ベクトル場 ) と 単位接ベクトル場 は曲線上の各点において垂直

曲線 の速さは1であるので

である。両辺を弧長 s で微分すると、

したがって、曲率ベクトル場 (またはこれを正規化した単位主法線ベクトル場 )と単位接ベクトル場 は曲線上の各点において常に垂直である。

単位従法線ベクトル場 は 単位接ベクトル場 と単位主法線ベクトル場 と曲線上の各点において垂直

単位従法線ベクトル場は、単位接ベクトル場と単位主法線ベクトル場のベクトル積として定義されているので、曲線上の各点において両ベクトル場と垂直である。

フレネ・セレの公式(Frenet-Serret formula)

曲線の各点の曲がり具合を曲率(curvature function)と呼び、次のように曲率ベクトル場 の大きさとして定義する。なお、定義により曲率 は常に0以上となる関数となる。

したがって、曲率ベクトル場 と単位主法線ベクトル場 との間には、単位主法線ベクトル場の定義から、次の関係が成り立つ。

次に、 について成り立つ関係を求める。単位従法線ベクトル場 は単位ベクトル場であるから が成り立ち、 と垂直である。また、定義より は垂直であることから、 この両辺を弧長 s で微分すると、

となる。 であることから、

が導かれる。したがって、

となり、 とも垂直であることがわかる。 とも垂直であることから、 のスカラー倍であることがわかる。つまり、曲線 上の関数

を満たすものが存在する(慣習上マイナス符号をつける[3])。この関数 を曲線の捩率(torsion function)と呼ぶ。捩率は曲率と異なり正にも負にも0にもなる。

これらを整理すると(については後述)、速さが1の曲線(パラメータが弧長である曲線) のフレネ標構について次の関係

が成り立つ。これをフレネ・セレの公式(Frenet-Serret formula)と呼ぶ。

式 (5) の導出

の成分を直交分解する。

(第一成分) は垂直であるので 、したがって より、 となる。

(第二成分) 単位ベクトル場であるので、 となる。

(第三成分) は垂直であるので 、したがって より、 となる。

したがって、

が成り立つ。

具体例

螺旋上を動くフレネ・セレ標構。青い矢印は 、赤い矢印は 、黒い矢印は をそれぞれ表す。

半径 r (>0)、間隔 2π h 、角速度ω(>0)の螺旋上の運動

を考える。弧長は

で与えられる。

フレネ・セレ標構は

であり、曲率・捩率は

となる。

h =0 のとき、軌道は xy 面内の半径 r の円周になり、曲率は κ=1/r 、 捩率は τ =0 となる。|h| が大きくなるにつれ、曲率はκ→0、捩率は τ →1/h となる。

応用例

ロボットマニピュレータの姿勢とその軌道を記述したり[5][6]、蛇型ロボットや多関節ロボットを連続曲線で近似して表現[7][8]する際に用いられる。

脚注

関連項目

参考文献