「出羽守 (俗語)」の版間の差分
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また、[[江戸時代]]を含む武家政権期においては、圧倒的な模範国として君臨した[[中華帝国|中国大陸の王朝]]が間接的な影響を及ぼすものへと後退し、当時現実の王朝としてあった[[清]]ではなく、中華文明の古典古代である[[三代 (中国史)|古三代]]を理想とする潮流が力を持つようになった一方で、そのような潮流を「からごころ」と批判する現在の海外出羽守批判の源流に当たる潮流も見られた<ref>[[#河野(2019)|河野(2019) (Kindle版、位置No.2739~2744/4032)]]</ref>。しかし、理想を日本の古代に求めようとした潮流は総体としてあまり成功せず、目の前の現実を批判することを批判することにとどまり、極端な現状追認論にとどまった<ref>[[#河野(2019)|河野(2019) (Kindle版、位置No.2744/4032)]]</ref>。 |
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[[経営コンサルタント]]の倉本圭造によると、過去10~20年の日本では「過剰に理想化した幻想の欧米社会」に代表される出羽守バイアスが強すぎたため、逆に強力な[[排外主義]]的なものでバランスが取られ、「[[安倍晋三|アベ]]というフタ」で日本という国のオリジナリティがなんとか崩壊せずに守られてきたという<ref name=":0">{{Cite web|title=お肉券=最悪、アーティスト補助=最高、って差別では?|url=http://agora-web.jp/archives/2045507.html|website=[[アゴラ (メディア)|アゴラ]]|accessdate=2020-06-29}}</ref><ref>{{Cite web|title=過去20年「変われない日本」だったからこそ、「アフターコロナ」の希望がある(前編)【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(0)|FINDERS|url=https://finders.me/articles.php?id=1877&p=5|website=finders.me|accessdate=2020-06-29|last=FINDERS}}</ref>。また、倉本は「古い[[意識高い系]]」として「過剰に理想化した幻想の中の欧米」を持ち出してありとあらゆるローカルな存在を上から目線でぶっ叩きまくるという特徴を挙げ、これからの時代では、欧米的な理想は決して諦めないが、ローカルな事情にちゃんと向き合うことからは逃げない「あたらしい[[意識高い系]]」が必要になると述べている<ref name=":0" />。 |
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2022年2月17日 (木) 05:49時点における版
俗語における出羽守(でわのかみ)は、他者の例を引き合いに出して物事を語る人のことである[1][2]。ではの神という表現も存在する[3]。特に、保守層は海外と比較して日本を批判する人を「海外出羽守」と呼ぶ[4]。
語義
出羽守とは本来出羽国の国司を表す役職であるが[4]、国名の「出羽(でわ)」と、「海外では」のような連語の「では」を掛けて、主に揶揄を込めて使われる[2]。また、「守」という字から、「偉そうに上から物を言う」というニュアンスも込められている[4]。
特徴
ネットニュース編集者の中川淳一郎によると、欧米の人権意識の高さや崇高な行動を称賛する人々のことであるとし、称賛の対象とする国は北欧諸国を筆頭に、フランスやドイツなどの西欧諸国や、アメリカ人の中でも特に民主党を支持する人、カナダ、イタリア、オーストラリア、中国、韓国を挙げているが[5]、一方で、東南アジア、中東、中南米、アフリカの国は対象外となりやすい[6]。また、「日本人による差別」しか問題にせず、白人による差別や外国における差別は悪い差別ではないという意識があり、COVID-19による欧米人からのアジア人差別、韓国・済州島に不法滞在していたイエメン難民への差別的言動や、ドイツでのアラブ系の男による集団レイプ事件などを無視し、こうした事態に目を瞑らなければ自身のこれまでの主張がすべて覆されると考えている、という[7]。
東京都立大学の教授である河野有理は、出羽守が比較対象とする「海外」の一例として大学を挙げ、大学がそもそも浮世離れしており、また彼らと付き合う人物はその社会の中で異文化に理解があり、多様性に寛容な人物である可能性が高く、バイアスのかかった限られた社会の中での見聞を理想化し、自分が知っている日本社会と比較してしまっていると述べている[8]。
歴史
鷹橋信夫『昭和世相流行語辞典』には、1950年に生まれた言葉として「アメション」が挙げられており、この年に続々とアメリカを訪問する芸能人を揶揄して、「アメリカでションベンをしてきただけ」と皮肉って「アメション」と呼んだ、とある[9]。また、「あちらでは…」とアメリカ通をひけらかす彼らを指して、あちら族、でわの守なる語が生まれたとしている[10]。
河野有理によると、かつての用法では、海外経験による見栄やひけらかしに揶揄が向けられていたが、現在においてはそれによる自国への批判やその精神的態度に揶揄が向けられているとしている[11]。また、ネットの登場によって、出羽守がひけらかす海外事情が時には画像一枚で虚偽が暴かれ、批判されるようになったとしている[12]。また河野は、海外出羽守を支えていたものを日本より進んだ、優れた国、すなわち「模範国(準拠国)」の存在であるとし、それらの国を断りなく「海外」と呼び、「国際社会」「世界」という言葉を欧米という意味に修辞させることになったと話している[13]。「模範国」に挙げられる国としてはアメリカ合衆国を筆頭に、旧ソ連や、明治から戦前にかけてのドイツ、文化や芸術面ではフランス、そして大英帝国といった「大国」のほか、それらを模範国とする潮流に対し、スイスやデンマークなど小国を模範国として呼び出す例もあったとしている[14]。
また、江戸時代を含む武家政権期においては、圧倒的な模範国として君臨した中国大陸の王朝が間接的な影響を及ぼすものへと後退し、当時現実の王朝としてあった清ではなく、中華文明の古典古代である古三代を理想とする潮流が力を持つようになった一方で、そのような潮流を「からごころ」と批判する現在の海外出羽守批判の源流に当たる潮流も見られた[15]。しかし、理想を日本の古代に求めようとした潮流は総体としてあまり成功せず、目の前の現実を批判することを批判することにとどまり、極端な現状追認論にとどまった[16]。
経営コンサルタントの倉本圭造によると、過去10~20年の日本では「過剰に理想化した幻想の欧米社会」に代表される出羽守バイアスが強すぎたため、逆に強力な排外主義的なものでバランスが取られ、「アベというフタ」で日本という国のオリジナリティがなんとか崩壊せずに守られてきたという[17][18]。また、倉本は「古い意識高い系」として「過剰に理想化した幻想の中の欧米」を持ち出してありとあらゆるローカルな存在を上から目線でぶっ叩きまくるという特徴を挙げ、これからの時代では、欧米的な理想は決して諦めないが、ローカルな事情にちゃんと向き合うことからは逃げない「あたらしい意識高い系」が必要になると述べている[17]。
使用例
- 日本共産党の元衆議院議員の池内沙織が、『フランスに行った時、女の裸や「媚びた」写真が公共空間に存在しないことに私は驚き、安全さを感じた。』とツイートし[注釈 1]、日本のコンビニエンスストアで成人雑誌コーナーが存在することを批判した[注釈 2][6]。中川によると、出羽守と呼ばれる人たちの中では、欧米諸国ではレディファーストの概念が浸透しており、痴漢やDV、レイプが存在しないと考えており、日本における人口比のレイプ被害が少ない[注釈 3]ことを提示すると、「泣き寝入りをしているから見せかけの数字である」と反論する[5]。
- COVID-19の流行時、日本政府によるダイヤモンド・プリンセス号での集団感染(クルーズ客船における2019年コロナウイルス感染症の流行状況#ダイヤモンド・プリンセス船内における集団感染も参照)における対応を巡り、「欧米のメディアでは日本の対応が批判されている」といった論調が目立った[1]。その後、欧米においても2019新型コロナウイルスの感染が拡大したことに伴いこの論調は収まった[1]。
- COVID-19の流行時に厚生労働省などがツイッターを通じてメディアに向けて反論をすることが起きたが、経営コンサルタントの倉本圭造によると、それはマスメディアやSNSに変な陰謀論や出羽守バイアスが強烈にかかった論調が溢れたためであるという[20]。また、COVID-19の流行時に政府が様々な対策をパッケージとして出していく中で、その対策パッケージの中からお肉券や布マスクといった「ネタとしてバカにできる」話だけを取り上げて、延々とネット大喜利を続けていた人々がいた事を倉本は指摘をし、「過剰に美化した欧米(あるいは最近だと中国や韓国)の事例を持ってきて日本の当局をクサして慨嘆してみせるナルシシズム」的なことよりも、外国の事例を出すにあたって「実はある制限」を隠して美化したりすることを避けて真摯に議論する重要性を強調した[20]。
批判
コラムニストの小田嶋隆は、特に21世紀以降、出羽守と呼ばれる人を嫌う風潮が強まったとして、ネット民の共通認識へと成長したとし、女子テニスの大坂なおみやジャーナリストの伊藤詩織がタイムの世界で最も影響力のある100人に選ばれたことについて、必ずしも祝福ではなく賛否両論、むしろ炎上状態となっていることについて、ヤフコメに代表される偏向的な言論スペース内でのリアクションであっても、軽く見て良いことではないと述べている[21]。また、バブル崩壊以降、日本の国際社会における存在感が低下し続ける中で、日本人の自尊感情がむしろ強化されているとし、出羽守を一方的に嫌う方向に変化しつつあるのを(答えは簡単には出ないとしつつも)良くない傾向だとしている[21]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c “【編集局から】「出羽守」って知ってる? ことあるごとに海外や他の業界の状況を引き合いに”. zakzak by 夕刊フジ (2020年4月1日). 2020年6月13日閲覧。
- ^ a b “出羽守(読み)デワノカミ デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2020年6月13日閲覧。
- ^ “ではの神(読み)デハノカミ デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2020年6月13日閲覧。
- ^ a b c “出羽守とは でわのかみ”. IT用語辞典バイナリ. 2020年6月13日閲覧。
- ^ a b 週刊ポスト (2020年3月30日). “「コロナ出羽守」の言い分、白人様による差別は問題ない”. NEWSポストセブン. 小学館. 2020年6月13日閲覧。
- ^ a b c 週刊ポスト (2017年12月4日). “「外国では…」 とにかく気持ちいい“出羽守説法”の万能感”. NEWSポストセブン. 小学館. 2020年6月13日閲覧。
- ^ 週刊ポスト (2020年3月30日). “「コロナ出羽守」の言い分、白人様による差別は問題ない”. NEWSポストセブン. 小学館. p. 2. 2020年6月13日閲覧。
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2628~2632/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2603~2608/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2608~2613/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2613/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2618/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2667~2672/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2676~2686/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2739~2744/4032)
- ^ 河野(2019) (Kindle版、位置No.2744/4032)
- ^ a b “お肉券=最悪、アーティスト補助=最高、って差別では?”. アゴラ. 2020年6月29日閲覧。
- ^ FINDERS. “過去20年「変われない日本」だったからこそ、「アフターコロナ」の希望がある(前編)【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(0)|FINDERS”. finders.me. 2020年6月29日閲覧。
- ^ “Rape rate: Countries Compared”. NationMaster. 2020年6月13日閲覧。
- ^ a b FINDERS. “怒ってもいいし政権批判もいいが、陰謀論はやめよう【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(1)|FINDERS”. finders.me. 2020年6月29日閲覧。
- ^ a b 小田嶋隆 (2020年9月25日). “出羽守に叱られろ!”. 日経ビジネスオンライン. 2021年10月22日閲覧。
参考文献
- 河野有理「「模範国」を消失した日本のリベラル」『Voice』2019年8月、160-168頁。(Kindle版、位置No.2581~2751/4032)