コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

「1944年復員兵援護法」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
新しいページ: 「'''GI法'''(GIほう、G.I. Bill)は第二次世界大戦に従事した軍人(通称GI)の社会復帰を支援するアメリカ合衆国の法律。最初のGI法は1956年に効力を失い、現在はフォーエバーGI法として存在している。 Category:アメリカ合衆国の法 Category:第二次世界大戦の政治 Category:アメリカ合衆国の軍事教育と訓練
タグ: 小さな記事の作成 参考文献(出典)に関する節がない記事の作成 ビジュアルエディター: 中途切替
 
m Yamagata Yusuke がページ「GI法」を「1944年復員兵援護法」に移動しました: 正式名称がこちらだから。
(7人の利用者による、間の14版が非表示)
1行目: 1行目:
[[File:GI Bill signing.jpg|thumb|upright=1.5|GI法に署名する[[フランクリン・ルーズベルト]]大統領(1944年6月22日)]]
'''GI法'''(GIほう、G.I. Bill)は[[第二次世界大戦]]に従事した軍人(通称[[GI (軍隊)|GI]])の社会復帰を支援するアメリカ合衆国の法律。最初のGI法は1956年に効力を失い、現在は[[フォーエバーGI法]]として存在している。
'''1944年復員兵援護法'''(Servicemen's Readjustment Act of 1944)、通称'''GI法'''(ジーアイほう、G.I. Bill)とは、[[第二次世界大戦]]から帰還した退役軍人([[GI (軍隊)|G.I.]]と呼ばれる)に様々な手当を提供するために[[1944年]]に制定された[[アメリカ合衆国]]の法律である。当初のGI法は[[1956年]]に失効したが、「GI法」という言葉は、今日でもアメリカ退役軍人を支援するためのプログラムを指す言葉として使われている。


==概要==
[[Category:アメリカ合衆国の法]]
1944年、戦時中の全ての退役軍人に報酬を与えたいと考えた{{仮リンク|アメリカ在郷軍人会|en|American Legion}}を中心として、超党派により法案が提出され、可決・成立した。[[第一次世界大戦]]以来、在郷軍人会は退役軍人への手厚い給付を求めて議会に働きかけてきた<ref>Glenn C. Altschuler and Stuart M. Blumin, ''The GI Bill: A New Deal for Veterans'' (2009), pp. 54-57</ref>。一方、[[フランクリン・ルーズベルト]]大統領は、兵役の有無にかかわらず、貧しい人々に焦点を当てたより小規模なプログラムを望んでいた<ref>Suzanne Mettler, "The creation of the GI Bill of Rights of 1944: Melding social and participatory citizenship ideals." ''Journal of Policy History'' 17#4 (2005): 345-374.</ref>。最終的な法案では、第二次世界大戦の退役軍人のほぼ全員に即時に金銭的報酬が与えられることになった。これにより、1920年代から1930年代にかけて政治的混乱の原因となった、第一次世界大戦の退役軍人に対する生命保険金の支払い延期を回避することができた([[ボーナスアーミー]]も参照)。給付内容は、低価格の住宅ローン、事業や農業を始めるための低金利ローン、1年間の失業補償、高校や大学、職業訓練校に通うための授業料や生活費の専用支払いなどであり、戦時中に90日以上現役で活動し、[[不名誉除隊]]していない全ての退役軍人が給付対象となった<ref>Altschuler and Blumin, ''The GI Bill'' (2009) p. 118</ref>。

1956年までに、780万人の退役軍人がGI法による教育給付を利用し、約220万人が大学に進学し、560万人が何らかの訓練プログラムを受けた<ref>Olson, 1973, and see also Bound and Turner 2002.</ref>。歴史家や経済学者は、GI法は政治的にも経済的にも大きな成功を収め、特に第一次世界大戦の退役軍人の待遇とは対照的に、アメリカの人的資本の蓄積に大きく貢献し、長期的な経済成長を促したと評価している<ref>Stanley, 2003</ref><ref>Frydl, 2009</ref><ref>Suzanne Mettler, ''Soldiers to citizens: The GI Bill and the making of the greatest generation'' (2005)</ref>。一方、一部の資金が営利目的の教育機関に回ったことで批判を受けた。

GI法は、[[ジム・クロウ法]]に対応したものであったため、[[人種差別]]的な要素があった。地方自治体や州政府、住宅や教育における民間業者による差別のため、GI法では[[アフリカ系アメリカ人]]などの[[有色人種]]に対し[[白人]]と同様の恩恵を与えることができなかった。コロンビア大学の歴史学者{{仮リンク|アイラ・カッツネルソン|en|Ira Katznelson}}は、GI法を「白人のための[[アファーマティブ・アクション]]」と表現した<ref>Ira Katznelson, [https://books.google.com/books?id=Lw5xzMyzE5AC&pg=PA140&lpg=PA140&dq=ewer+than+100+of+the+67,000+mortgages+insured+by+the+G.I.+Bill+supported+home+purchases+by+nonwhites&source=bl&ots=Q_Fx7rng41&sig=DH6_Ee3yoXnZEQe3pUYEhBnerQI&hl=en&sa=X&ved=0ahUKEwii_a_E7YPcAhVyCTQIHQGEDOIQ6AEIKTAA#v=onepage&q=ewer%20than%20100%20of%20the%2067%2C000%20mortgages%20insured%20by%20the%20G.I.%20Bill%20supported%20home%20purchases%20by%20nonwhites&f=false ''When Affirmative Action Was White''], W. W. Norton & Co., 2005, p. 140.</ref>。GI法は、人種間の貧富の差を拡大したとして批判されている<ref>{{Cite book|last=Darity, William A., Jr.|url=http://worldcat.org/oclc/1119767347|title=From here to equality : reparations for Black Americans in the twenty-first century|publisher=University of North Carolina Press|year=2020|isbn=978-1-4696-5497-3|oclc=1119767347}}</ref>。

2008年に成立した{{仮リンク|ポスト9/11退役軍人教育支援法|en|Post-9/11 Veterans Educational Assistance Act of 2008}}(Post-9/11 Veterans Educational Assistance Act of 2008)では、BI法よりもさらに特典が拡大され、退役軍人に対し、州の公立大学の学費を国が全額負担することになった。2017年に{{仮リンク|恒久GI法|en|Forever GI Bill}}が成立した。

==歴史==
[[File:Veterans Administration letter for Don A. Balfour, July 6, 1944 - GI Bill student at George Washington University.jpg|thumb|1944年GI法に基づく最初の受給者となったドン・A・バルフォアに関する、[[アメリカ合衆国退役軍人省|退役軍人局]]から[[ジョージ・ワシントン大学]]への書簡<ref>{{Cite web|title=The George Washington Uni Profile |work=DCMilitaryEd.com |access-date=January 9, 2014 |url=http://www.dcmilitaryed.com/cms/storyHE.php?county=DCMilitary&school=25 |url-status=dead |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110728100559/http://www.dcmilitaryed.com/cms/storyHE.php?county=DCMilitary&school=25 |archivedate=July 28, 2011 }}</ref>。]]
復員兵援護法(GI法)は[[1944年]][[6月22日]]に成立した。社会学者の{{仮リンク|エドウィン・アメンタ|en|Edwin Amenta}}は、この法律の成立について次のように述べている。
:退役軍人恩給は、増税や[[ニューディール政策]]の国家機関の拡大を恐れる保守派に対する取引材料だった。退役軍人恩給は、少数のグループに与えられるものであり、その他の人々に長期的な影響を与えるものではなく、プログラムはVA([[アメリカ合衆国退役軍人省|退役軍人局]])が管理し、ニューディール政策の官僚組織から権力を奪うものであった。このような恩恵は、ニューディール政策の推進者が戦後、万人のための恒久的な社会政策のシステムを巡って勝利を収めようとする際の妨げになる可能性が高かった<ref>Edwin Amenta. ''Bold Relief: Institutional politics and the origins of modern American social policy'' (Princeton UP, 1998) p247.</ref>。
第一次大戦後の1920年代から1930年代にかけて退役軍人の給付に関する事項が{{仮リンク|政争の具|en|political football}}となった。第二次大戦中、アメリカの政治家たちは、戦後に同様の混乱が起こるのを避けようとしていた<ref>David Ortiz, ''Beyond the Bonus March and GI Bill: how veteran politics shaped the New Deal era'' (2013) p xiii</ref><ref>Kathleen Frydl, ''The G.I. Bill'' (Cambridge University Press, 2009) pp 47-54.</ref>。第一次大戦後に結成された退役軍人団体は、何百万人もの会員を抱えていた。退役軍人団体は、軍務に従事した退役軍人(男女を問わず)に給付金を支給する法案を議会に提出し、支持を集めた。デビッド・オルティーズ<!-- [[デビッド・オルティーズ]](野球選手)とは別人 -->は、「彼らの努力によって、{{仮リンク|ベテランズ・フォー・フォーリン・ウォーズ|label=VFW|en|Veterans of Foreign Wars}}と在郷軍人会は、何十年もの間、アメリカの退役軍人の圧力団体の双璧として定着した」と述べている<ref>Ortiz, ''Beyond the Bonus March and GI Bill: how veteran politics shaped the New Deal era'' (2009) p xiii</ref><ref>Frydl, ''The G.I. Bill'' (2009) pp 102-44, emphasizes the central role of the American Legion.</ref>。

GI法案の最初の草稿を書いたのは、[[共和党 (アメリカ)|共和党]]全国委員会委員長であり、アメリカ在郷軍人会の元全国司令官であった{{仮リンク|ハリー・W・コルメリー|en|Harry W. Colmery}}であると言われている<ref name="gibill.va.gov">{{cite web|url=http://www.gibill.va.gov/benefits/history_timeline/index.html|title=Education and Training Home|last=223D|access-date=June 19, 2016|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131114015716/http://www.gibill.va.gov/Benefits/history_timeline/index.html|archivedate=November 14, 2013|url-status=dead}}</ref><ref name="Findarticles.com">{{cite web|url=http://findarticles.com/p/articles/mi_qn4179/is_/ai_n11807386 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20081231234425/http://findarticles.com/p/articles/mi_qn4179/is_/ai_n11807386 |url-status=dead |archivedate=December 31, 2008 |title=FindArticles.com - CBSi |access-date=June 19, 2016 }}</ref>。コルメリーは、[[ワシントンD.C.]]の{{仮リンク|メイフラワー・ホテル|en|Mayflower Hotel}}で、法案のアイデアを紙ナプキンに書き留めたと言われている<ref name="Findarticles.com"/>。[[イリノイ州]]{{仮リンク|セーレム|en|Salem, Illinois}}の在郷軍人会の8人のグループもまた、退役軍人の福利厚生に関するアイデアをナプキンや紙に記録したとされている。このグループには、後にルーズベルト大統領による法案への署名に立ち会った[[イリノイ州知事]]の{{仮リンク|ジョン・ヘンリー・ステレ|en|John Henry Stelle}}が含まれていた<ref>{{Cite web|date=2019-01-16|title=History|url=https://salemamericanlegionpost128.com/history|access-date=2021-01-06|website=Luther B Easley Salem American Legion Post 128|language=en-US}}</ref>。

法案の成立に積極的に関わった{{仮リンク|アーネスト・マクファーランド|en|Ernest McFarland}}上院議員(アリゾナ州選出、民主党所属)と{{仮リンク|ウォーレン・アサートン|en|Warren Atherton}}上院議員(カリフォルニア州選出、共和党所属)は、「GI法の父」と呼ばれている。この法案の作成に協力し、共同提案した女性上院議員である{{仮リンク|エディス・コース・ロジャース|en|Edith Nourse Rogers}}(マサチューセッツ州選出、共和党所属)の貢献については、コルメリーと同様に、時間の経過とともに忘れ去られてしまい、ロジャースが「GI法の母」と呼ばれることはない<ref>{{cite book|author=James E. McMillan|title=Ernest W. McFarland: Majority Leader of the United States Senate, Governor and Chief Justice of the State of Arizona : a biography|url=https://books.google.com/books?id=_NAmWD6lvfMC|year=2006|publisher=Sharlot Hall Museum Press|isbn=978-0-927579-23-0|page=113}}</ref>。

[[File:GIBill.jpg|thumb|left|GI法について広報する政府のポスター]]
ルーズベルト大統領が当初提案した法案では、貧しい退役軍人については1年間の資金援助、その他の者については筆記試験を課し、成績上位者だけが4年間の学費支援を受けることができるとした。在郷軍人会の提案では、女性や少数民族を含む全ての退役軍人に、財産の有無にかかわらず、完全な給付を行うとしていた。

GI法の重要な条項に、退役軍人に低金利で頭金なしの住宅ローンを提供することがあり、新築の場合は中古住宅よりも有利な条件となっていた<ref>{{citation|title=A CHRONOLOGY OF HOUSING LEGISLATION AND SELECTED EXECUTIVE ACTIONS, 1892-2003|author=THE CONGRESSIONAL RESEARCH SERVICE|year=2004|publisher=U.S. Government Printing Office|url=http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/CPRT-108HPRT92629/html/CPRT-108HPRT92629.htm}}</ref>。これにより、何百万人ものアメリカ人家族が、都市部のアパートから郊外の住宅へと引っ越すことになった<ref>{{cite book|author=Jackson, Kenneth T.|title=Crabgrass Frontier: The Suburbanization of the United States|url-access=registration|year=1985|publisher=New York: Oxford University Press|url=https://archive.org/details/crabgrassfrontie00jackrich/page/206}}</ref>。

もう一つの条項は、失業者に対する「52-20条項」として知られていた。失業した退役軍人は、求職中に週に1回20ドルを最長で52週間(1年間)受け取ることができた。しかし、52-20条項のために用意された資金のうち、分配されたのは20%にも満たなかった。ほとんどの復員兵は、すぐに仕事を見つけることができたか、高等教育を受けていた。GI法に基づく給付金は所得とみなされないため、受給者は所得税を支払う必要はなかった<ref>{{cite book|author=Ellsworth Harvey Plank|title=Public Finance|url=https://books.google.com/books?id=mIPQAAAAMAAJ|year=1953|page=234}}</ref>。

1944年のGI法は[[1956年]]に失効した<ref>{{citation|title=History And Timeline|publisher=U.S. Department of Veterans Affairs|url=https://benefits.va.gov/gibill/history.asp}}</ref>。しかしその後も、退役軍人に様々な特典を付与する法律が成立しており、これらの法律も「GI法」と呼ばれている。

[[ベトナム戦争]]の帰還兵のGI法教育給付金の利用率は72%<ref name=Routledge>{{cite book|title=Student Veterans and Service Members in Higher Education|author1=Jan Arminio|author2=Tomoko Kudo Grabosky|author3=Josh Lang|publisher=Routledge|series=Key Issues on Diverse College Students|year=2015|page=12|location=New York|url=https://books.google.com/books?id=t1mcBQAAQBAJ&pg=PA12|isbn=9781317810568}}</ref>で、第二次世界大戦の帰還兵(49%)<ref>{{cite web|url=https://www.benefits.va.gov/gibill/history.asp|publisher=U.S. Department of Veterans Affairs|title=History and Timeline - Education and Training|access-date=February 3, 2019}}</ref>や[[朝鮮戦争]]の帰還兵(43%)<ref name=Routledge />よりも高かった。

[[カナダ]]でも、第二次世界大戦の退役軍人を対象とした同様のプログラムが実施され、アメリカと同様の経済効果をもたらした<ref>{{cite journal |first1=Thomas |last1=Lemieux |first2=David |last2=Card |title=Education, earnings, and the 'Canadian GI Bill' |journal=Canadian Journal of Economics |year=2001 |volume=34 |issue=2 |pages=313–344 |doi=10.1111/0008-4085.00077 |s2cid=154642103 |url=http://www.nber.org/papers/w6718.pdf }}</ref>。

==問題==
===人種差別===
GI法は、第二次世界大戦の退役軍人が市民生活に適応できるよう、低額の住宅ローンや低金利ローン、経済的支援などの特典を提供することを目的としていた。しかし、[[アフリカ系アメリカ人]]は、白人ほどの恩恵を受けられなかった。歴史学者のアイラ・カッツネルソンは、「この法律は[[ジム・クロウ]]に合わせて意図的に設計された」と主張している<ref>{{cite news|last1=Kotz|first1=Nick|title=Review: 'When Affirmative Action Was White': Uncivil Rights|url=https://www.nytimes.com/2005/08/28/books/review/when-affirmative-action-was-white-uncivil-rights.html?_r=0|access-date=2 August 2015|work=The New York Times|date=28 August 2005}}</ref>。

ニューヨークとニュージャージー北部の郊外では、GI法によって6万7千件の住宅ローンが組まれたが、そのうち白人以外によるものは100件にも満たなかった<ref>{{cite book|last1=Katznelson|first1=Ira|title=When affirmative action was white : an untold history of racial inequality in twentieth-century America|date=2006|publisher=W.W. Norton|location=New York|isbn=978-0393328516|edition=[Norton pbk ed.]}}</ref><ref>{{Cite book | url=https://books.google.com/books?id=Lw5xzMyzE5AC&q=ewer+than+100+of+the+67%2C000+mortgages+insured+by+the+G.I.+Bill+supported+home+purchases+by+nonwhites&pg=PA140 | title=When Affirmative Action Was White: An Untold History of Racial Inequality in Twentieth-Century America| isbn=9780393347142| last1=Katznelson| first1=Ira| date=2006-08-17}}</ref>。さらに、銀行や住宅ローン会社は黒人への融資を拒否したため、黒人がGI法の恩恵を受けることができなかった<ref name="Herbold 1994" />。

[[アメリカ合衆国南部|アメリカ南部]]では、[[公民権運動]]が始まるまで、ほとんどの大学が黒人の入学を拒否していた。この地域では、黒人の隔離が法的に義務付けられていた。当時、南部で黒人を受け入れた大学は100校しかなく、しかもその教育の質は低かった。そのうち28校では学士の資格が取得できなかった。学士取得以降の教育を提供しているのは7州のみで、黒人が利用できる博士課程のある大学は存在しなかった。これらの教育機関はいずれも、白人や人種差別のない大学に比べて規模が小さく、リソース不足に直面していることが多かった<ref name="Turner and Bound">{{cite journal|last1=Turner|first1=Sarah|last2=Bound|first2=John|title=Closing the Gap or Widening the Divide: The Effects of the G.I. Bill and World War II on the Educational Outcomes of Black Americans|journal=The Journal of Economic History|date=March 2003|volume=63|issue=1|pages=151–2|doi=10.3386/w9044|doi-access=free}}</ref>。

1946年までに、教育給付金を申請した10万人の黒人のうち、大学に入学できたのはその5分の1に過ぎなかった<ref name="Herbold 1994"/>。さらに、[[歴史的黒人大学|歴史的に黒人学生の多い大学]](HBCU)は、入学者数の増加とリソースの逼迫により、推定2万人の退役軍人を退学させなければならなくなった。HBCUは既に最も貧しい大学だった。退役軍人側の要求により、伝統的な「説教して教える」授業法を超えたカリキュラムの拡大が必要になると、HBCUのリソースはさらに逼迫した<ref name="Herbold 1994">{{cite journal|last1=Herbold|first1=Hilary|title=Never a Level Playing Field: Blacks and the GI Bill|journal=The Journal of Blacks in Higher Education|date=Winter 1994|issue=6|pages=104–108|doi=10.2307/2962479|jstor=2962479}}</ref>。

黒人がGI法の恩恵を受けるには多くの障害があったものの、この法律によって、大学や大学院に通うアフリカ系アメリカ人の人口は大幅に増加した。黒人の大学への入学者数は、1940年には米国の大学入学者総数の1.08%だったが、1950年には3.6%に増加した。しかし、このような成果はほぼアメリカ北部の州に限られていた。GI法の影響により、白人と黒人の教育的・経済的格差は全国的に拡大していった<ref name="Turner and Bound conclusion">{{cite journal|last1=Turner|first1=Sarah|last2=Bound|first2=John|title=Closing the Gap or Widening the Divide: The Effects of the G.I. Bill and World War II on the Educational Outcomes of Black Americans|journal=The Journal of Economic History|date=March 2003|volume=63|issue=1|pages=170–72|doi=10.3386/w9044|doi-access=free}}</ref>。黒人人口の79パーセントは南部の州に住んでいたことから、教育を受けられたのはアメリカ合衆国の黒人の一部に限られていた<ref name="Herbold 1994" />。

===商船隊===
{{仮リンク|1936年商船法|en|Merchant Marine Act of 1936}}によって、{{仮リンク|商船隊|en|Merchant navy}}の船員は戦時中は軍人とみなされていたにもかかわらず、議会は当初のGI法の対象に商船隊の船員を含めていなかった。1944年6月にGI法案に署名したルーズベルト大統領(民主党所属)は、「戦争中に何度も祖国の福祉のために命を懸けてきた商船隊員に、議会が近いうちに同様の機会を与えてくれることを信じている」と述べた。しかし、その動きが出るのは、第二次世界大戦の最年少の退役軍人が90歳を超えた21世紀になってからだった。

2000年代、残された生存者に何らかの恩恵を与えることで、商船隊員の貢献を認めようという動きが出てきた。2007年に3つの法案が連邦議会に提出され、そのうち1つが下院で可決された<ref>{{Cite web|url=http://www.usmm.org/urgent.html|archiveurl=https://web.archive.org/web/20120131131445/http://www.usmm.org/urgent.html|url-status=dead|title=Belated Thank You to the Merchant Mariners of World War II Act of 2007|archivedate=January 31, 2012|accessdate=2021-10-19}}</ref>。"The Belated Thank You to the Merchant Mariners of World War II Act of 2007"は、1941年12月7日から1946年12月31日までの間に、アメリカの商船隊(陸軍輸送サービスおよび海軍輸送サービスを含む)の隊員として記録されていた各個人に対し、退役軍人省が月額1千ドルの給付金を支払う「商船隊員平等補償」を定めるものである。この法案は、2007年に{{仮リンク|ボブ・フィルナー|en|Bob Filner}}議員(カリフォルニア州選出)によって下院に提出され、下院を通過したが、上院は通過しなかったために廃案となった<ref>{{Cite web|url=https://www.congress.gov/bill/110th-congress/house-bill/23|title=H.R.23 - 110th Congress (2007-2008): Belated Thank You to the Merchant Mariners of World War II Act of 2007|first=Bob|last=Filner|date=September 5, 2007|website=www.congress.gov|accessdate=2021-10-19}}</ref>。また、商船隊をGI法に組み込む試みとして、[[ヒラリー・クリントン]]上院議員が提出した"21st Century GI Bill of Rights Act of 2007"がある。これは、2001年9月11日以降、アメリカ国外に派遣された、または、国内で勤務している軍人や予備役が、軍務に関連した障害や困難、特定の病状により除隊した場合、36か月間の教育支援を提供するというものである<ref>{{Cite web|url=https://www.congress.gov/bill/110th-congress/senate-bill/1409|title=S.1409 - 110th Congress (2007-2008): 21st Century GI Bill of Rights Act of 2007|first=Hillary Rodham|last=Clinton|date=May 16, 2007|website=www.congress.gov|accessdate=2021-10-19}}</ref>。{{仮リンク|ジェフ・ミラー (フロリダ州の政治家)|label=ジェフ・ミラー|en|Jeff Miller (Florida politician)}}下院議員(フロリダ州選出)は、1941年12月7日から1946年12月31日までの間に沿岸の商船員として名誉ある勤務をしたことを証明することで、1977年のGI法改善法に基づく退役軍人手当の受給資格を得ることができる法案を提出した。この法案は下院を通過したが、上院を通過せず廃案となった<ref>{{Cite web|url=https://www.congress.gov/bill/113th-congress/house-bill/2189|title=H.R.2189 - 113th Congress (2013-2014): To improve the processing of disability claims by the Department of Veterans Affairs, and for other purposes.|first=Jeff|last=Miller|date=October 29, 2013|website=www.congress.gov|accessdate=2021-10-19}}</ref>。

===退役軍人を目当てにした学校===
1940年代にGI法が成立した後、数多くの営利目的の職業訓練学校が誕生した。これらの中には、連邦政府の資金援助のための{{仮リンク|90-10規則|en|90-10 rule}}から除外されている退役軍人を今でもターゲットにしているところがある。この抜け穴は、営利目的の学校が退役軍人とその家族をカモにして積極的に勧誘することを助長している<ref name="newgibill.org">{{cite web|url=http://www.newgibill.org/blog/the-90-10-rule-why-predatory-schools-target-veterans|title=The 90-10 Rule: Why Predatory Schools Target Veterans|access-date=June 19, 2016}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.theatlantic.com/education/archive/2015/06/for-profit-college-veterans-loophole/396731/|title=Why For-Profit Colleges Target Military Veterans|first=Alia|last=Wong|access-date=June 19, 2016}}</ref><ref>{{cite web|url=http://time.com/money/3573216/veterans-college-for-profit/|archiveurl=https://web.archive.org/web/20141114022327/http://time.com/money/3573216/veterans-college-for-profit/|url-status=dead|archivedate=November 14, 2014|title=Money Military Heroes: How For-Profit Colleges Target Military Veterans (and Your Tax Dollars)|access-date=June 19, 2016}}</ref>。90-10規則の抜け穴を塞ぐための立法措置が講じられたが、失敗している<ref>{{cite web|url=http://www.militarytimes.com/story/veterans/best-for-vets/education/2015/06/23/for-profit-colleges-gibill-problems/29160377/|title=For-profit schools targeted again over GI Bill payouts|access-date=June 19, 2016}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.ibtimes.com/profit-colleges-9010-loophole-latest-target-democrats-military-veterans-education-1982127|title=For-Profit Colleges' 90/10 Loophole Latest Target For Democrats With Military And Veterans Education Protection Act|date=June 24, 2015|access-date=June 19, 2016}}</ref>。

GI Bill Comparison Toolによると、GI法による給付金の最大の受給者は以下の通りである。
*{{仮リンク|フェニックス大学|en|University of Phoenix}} 190,941,289ドル
*{{仮リンク|メリーランド大学グローバルキャンパス|en|University of Maryland Global Campus}} 67,806,473ドル
*{{仮リンク|アメリカ公立大学システム|en|American Public University System}} 58,773,186ドル
*{{仮リンク|フルセイル大学|en|Full Sail University}} 48,678,834ドル
*{{仮リンク|コロラド工科大学|en|Colorado Technical University}} 48,024,079ドル
*[[アリゾナ州立大学]] 42,759,321ドル
*[[リバティ大学]] 33,938,851ドル
*{{仮リンク|ナショナル大学 (カリフォルニア州)|label=ナショナル大学|en|National University (California)}} 32,080,876ドル
*{{仮リンク|サザン・ニュー・ハンプシャー大学|en|Southern New Hampshire University}} 30,986,463ドル

==内容==
全ての退役軍人教育プログラムは、[[合衆国法典]]の第38編(退役軍人給付(Veterans' Benefits))に記載されている。それぞれのプログラムは、第38編の中の各条に記載されている。

==脚注==
{{reflist|2}}

==参考文献==
{{Div col|colwidth=30em}}
* Abrams, Richard M. "The U.S. Military and Higher Education: A Brief History." ''Annals of the American Academy of Political and Social Science'' (1989) 404 pp.&nbsp;15–28.
* Altschuler, Glenn C. and Stuart M. Blumin. ''The GI Bill: a new deal for veterans'' (2009), brief scholarly overview
* Bennett, Michael J. ''When Dreams Came True: The G.I. Bill and the Making of Modern America'' (New York: Brassey's Inc., 1996)
* Bound, John, and Sarah Turner. "Going to War and Going to College: Did World War II and the G.I. Bill Increase Educational Attainment for Returning Veterans?" ''Journal of Labor Economics'' 20#4 (2002), pp.&nbsp;784–815 [https://www.jstor.org/stable/10.1086/342012 in JSTOR]
* Boulton, Mark. ''Failing our Veterans: The G.I. Bill and the Vietnam Generation'' (NYU Press, 2014).
* Clark, Daniel A. "'The two joes meet—Joe College, Joe Veteran': The GI Bill, college education, and postwar American culture". ''History of Education Quarterly'' (1998), 38#2, pp.&nbsp;165–189.
* Frydl, Kathleen. ''The G.I. Bill'' (Cambridge University Press, 2009)
* {{cite book | title = Over Here: How the G.I. Bill Transformed the American Dream | publisher = Harcourt | isbn = 0-15-100710-1 | year = 2006 | author = Humes, Edward | url-access = registration | url = https://archive.org/details/overhere00edwa }}
* Jennings, Audra. ''Out of the Horrors of War: Disability Politics in World War II America'' (U of Pennsylvania Press, 2016). 288 pp.
* Mettler, Suzanne. ''Soldiers to Citizens: The G.I. Bill and the Making of the Greatest Generation'' (Oxford University Press, 2005). [https://www.questia.com/library/119462872/soldiers-to-citizens-the-g-i-bill-and-the-making online]; [http://www.ssc.wisc.edu/~wright/Soc924-2011/924-2011-book-project/Mettler.pdf excerpt]
* Nagowski, Matthew P. "Inopportunity of Gender: The G.I. Bill and the Higher Education of the American Female, 1939-1954" ''Cornell University ILR Collection" (2005) [http://digitalcommons.ilr.cornell.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1096&context=student online]; statistical approach
* Nam, Charles B. "The Impact of the 'GI Bills' on the Educational Level of the Male Population" ''Social Forces'' 43 (October 1964): 26-32.
* Olson, Keith. "The G. I. Bill and Higher Education: Success and Surprise," ''American Quarterly'' Vol. 25, No. 5 (December 1973) 596-610. [https://www.jstor.org/stable/2711698 in JSTOR][https://www.jstor.org/stable/2711698 in JSTOR]
* Olson, Keith, ''The G.I. Bill, The Veterans, and The Colleges'' (Lexington: [[University Press of Kentucky]], 1974)
* Peeps, J. M. Stephen. "A B.A. for the G.I. . . . Why?" ''History of Education Quarterly'' 24#4 (1984) pp 513-25.
* Ross, David B. ''Preparing for Ulysses: Politics and Veterans During World War II'' (Columbia University Press, 1969).
* {{cite journal |last=Stanley |first=Marcus |year=2003 |title=College Education and the Midcentury GI Bills |journal=The Quarterly Journal of Economics |volume=118 |issue=2 |pages=671–708 |doi=10.1162/003355303321675482 |jstor=25053917 }}
* Van Ells, Mark D. ''To Hear Only Thunder Again: America's World War II Veterans Come Home''. Lanham, MD: Lexington Books, 2001.
*Woods, Louis, “Almost ‘No Negro Veteran…Could Get a Loan:’ African Americans, the GI Bill, and the NAACP Campaign Against Residential Segregation, 1917-1960,” ''The Journal of African American History'', Vol. 98, No. 3 (Summer 2013) pp.&nbsp;392–417.
{{Div col end}}

==外部リンク==
* {{Official website}}
; 一般情報
* [https://web.archive.org/web/20150620024645/http://www.gibillforum.com/ GI Bill Forum]
* [http://www.mygibill.org The American Legion's MyGIBill.org]
* [https://web.archive.org/web/20001110043800/http://gibill.va.gov/ The Department of Veteran Affairs' GI Bill website]
* [https://web.archive.org/web/20190929103752/http://www.objector.org/before-you-enlist/postwar.html Central Committee for Conscientious Objectors analysis of the MGIB]
* [https://web.archive.org/web/20121120130605/http://www.gibill.va.gov/pamphlets/DOD_Flyer.pdf Education Fact Sheet for Guard & Reserve Members]
* [https://web.archive.org/web/20090201152148/http://education.military.com/money-for-school/state-veteran-benefits Education Benefits Available by States]
* [https://www.lib.ncsu.edu/findingaids/mc00019 Guide to the GI Bill Oral Histories 2003-2004]
* [https://web.archive.org/web/20200801020728/https://www.armyreserveeducation.com/Unsecured/Login.aspx?ReturnUrl=%2fMGIBWeb%2fCH_1607_Notification.aspx%3fSessionID%3d34ef341d-60ac-497e-a660-19450135795c&SessionID=34ef341d-60ac-497e-a660-19450135795c Web-Enable Education Benefits System]
* [https://web.archive.org/web/20131029193052/http://www.gibill.va.gov/resources/education_resources/programs/tuition_assistance_top_up.html GI Bill top up program]

{{Authority control}}
{{デフォルトソート:しいあいほう}}
[[Category:1944年の法]]
[[Category:1944年のアメリカ合衆国]]
[[Category:第二次世界大戦の政治]]
[[Category:第二次世界大戦の政治]]
[[Category:アメリカ合衆国の軍事教育と訓練]]
[[Category:アメリカ合衆国の軍事教育と訓練]]

2021年12月6日 (月) 11:10時点における版

GI法に署名するフランクリン・ルーズベルト大統領(1944年6月22日)

1944年復員兵援護法(Servicemen's Readjustment Act of 1944)、通称GI法(ジーアイほう、G.I. Bill)とは、第二次世界大戦から帰還した退役軍人(G.I.と呼ばれる)に様々な手当を提供するために1944年に制定されたアメリカ合衆国の法律である。当初のGI法は1956年に失効したが、「GI法」という言葉は、今日でもアメリカ退役軍人を支援するためのプログラムを指す言葉として使われている。

概要

1944年、戦時中の全ての退役軍人に報酬を与えたいと考えたアメリカ在郷軍人会英語版を中心として、超党派により法案が提出され、可決・成立した。第一次世界大戦以来、在郷軍人会は退役軍人への手厚い給付を求めて議会に働きかけてきた[1]。一方、フランクリン・ルーズベルト大統領は、兵役の有無にかかわらず、貧しい人々に焦点を当てたより小規模なプログラムを望んでいた[2]。最終的な法案では、第二次世界大戦の退役軍人のほぼ全員に即時に金銭的報酬が与えられることになった。これにより、1920年代から1930年代にかけて政治的混乱の原因となった、第一次世界大戦の退役軍人に対する生命保険金の支払い延期を回避することができた(ボーナスアーミーも参照)。給付内容は、低価格の住宅ローン、事業や農業を始めるための低金利ローン、1年間の失業補償、高校や大学、職業訓練校に通うための授業料や生活費の専用支払いなどであり、戦時中に90日以上現役で活動し、不名誉除隊していない全ての退役軍人が給付対象となった[3]

1956年までに、780万人の退役軍人がGI法による教育給付を利用し、約220万人が大学に進学し、560万人が何らかの訓練プログラムを受けた[4]。歴史家や経済学者は、GI法は政治的にも経済的にも大きな成功を収め、特に第一次世界大戦の退役軍人の待遇とは対照的に、アメリカの人的資本の蓄積に大きく貢献し、長期的な経済成長を促したと評価している[5][6][7]。一方、一部の資金が営利目的の教育機関に回ったことで批判を受けた。

GI法は、ジム・クロウ法に対応したものであったため、人種差別的な要素があった。地方自治体や州政府、住宅や教育における民間業者による差別のため、GI法ではアフリカ系アメリカ人などの有色人種に対し白人と同様の恩恵を与えることができなかった。コロンビア大学の歴史学者アイラ・カッツネルソン英語版は、GI法を「白人のためのアファーマティブ・アクション」と表現した[8]。GI法は、人種間の貧富の差を拡大したとして批判されている[9]

2008年に成立したポスト9/11退役軍人教育支援法英語版(Post-9/11 Veterans Educational Assistance Act of 2008)では、BI法よりもさらに特典が拡大され、退役軍人に対し、州の公立大学の学費を国が全額負担することになった。2017年に恒久GI法英語版が成立した。

歴史

1944年GI法に基づく最初の受給者となったドン・A・バルフォアに関する、退役軍人局からジョージ・ワシントン大学への書簡[10]

復員兵援護法(GI法)は1944年6月22日に成立した。社会学者のエドウィン・アメンタ英語版は、この法律の成立について次のように述べている。

退役軍人恩給は、増税やニューディール政策の国家機関の拡大を恐れる保守派に対する取引材料だった。退役軍人恩給は、少数のグループに与えられるものであり、その他の人々に長期的な影響を与えるものではなく、プログラムはVA(退役軍人局)が管理し、ニューディール政策の官僚組織から権力を奪うものであった。このような恩恵は、ニューディール政策の推進者が戦後、万人のための恒久的な社会政策のシステムを巡って勝利を収めようとする際の妨げになる可能性が高かった[11]

第一次大戦後の1920年代から1930年代にかけて退役軍人の給付に関する事項が政争の具英語版となった。第二次大戦中、アメリカの政治家たちは、戦後に同様の混乱が起こるのを避けようとしていた[12][13]。第一次大戦後に結成された退役軍人団体は、何百万人もの会員を抱えていた。退役軍人団体は、軍務に従事した退役軍人(男女を問わず)に給付金を支給する法案を議会に提出し、支持を集めた。デビッド・オルティーズは、「彼らの努力によって、VFW英語版と在郷軍人会は、何十年もの間、アメリカの退役軍人の圧力団体の双璧として定着した」と述べている[14][15]

GI法案の最初の草稿を書いたのは、共和党全国委員会委員長であり、アメリカ在郷軍人会の元全国司令官であったハリー・W・コルメリー英語版であると言われている[16][17]。コルメリーは、ワシントンD.C.メイフラワー・ホテル英語版で、法案のアイデアを紙ナプキンに書き留めたと言われている[17]イリノイ州セーレム英語版の在郷軍人会の8人のグループもまた、退役軍人の福利厚生に関するアイデアをナプキンや紙に記録したとされている。このグループには、後にルーズベルト大統領による法案への署名に立ち会ったイリノイ州知事ジョン・ヘンリー・ステレ英語版が含まれていた[18]

法案の成立に積極的に関わったアーネスト・マクファーランド英語版上院議員(アリゾナ州選出、民主党所属)とウォーレン・アサートン英語版上院議員(カリフォルニア州選出、共和党所属)は、「GI法の父」と呼ばれている。この法案の作成に協力し、共同提案した女性上院議員であるエディス・コース・ロジャース英語版(マサチューセッツ州選出、共和党所属)の貢献については、コルメリーと同様に、時間の経過とともに忘れ去られてしまい、ロジャースが「GI法の母」と呼ばれることはない[19]

GI法について広報する政府のポスター

ルーズベルト大統領が当初提案した法案では、貧しい退役軍人については1年間の資金援助、その他の者については筆記試験を課し、成績上位者だけが4年間の学費支援を受けることができるとした。在郷軍人会の提案では、女性や少数民族を含む全ての退役軍人に、財産の有無にかかわらず、完全な給付を行うとしていた。

GI法の重要な条項に、退役軍人に低金利で頭金なしの住宅ローンを提供することがあり、新築の場合は中古住宅よりも有利な条件となっていた[20]。これにより、何百万人ものアメリカ人家族が、都市部のアパートから郊外の住宅へと引っ越すことになった[21]

もう一つの条項は、失業者に対する「52-20条項」として知られていた。失業した退役軍人は、求職中に週に1回20ドルを最長で52週間(1年間)受け取ることができた。しかし、52-20条項のために用意された資金のうち、分配されたのは20%にも満たなかった。ほとんどの復員兵は、すぐに仕事を見つけることができたか、高等教育を受けていた。GI法に基づく給付金は所得とみなされないため、受給者は所得税を支払う必要はなかった[22]

1944年のGI法は1956年に失効した[23]。しかしその後も、退役軍人に様々な特典を付与する法律が成立しており、これらの法律も「GI法」と呼ばれている。

ベトナム戦争の帰還兵のGI法教育給付金の利用率は72%[24]で、第二次世界大戦の帰還兵(49%)[25]朝鮮戦争の帰還兵(43%)[24]よりも高かった。

カナダでも、第二次世界大戦の退役軍人を対象とした同様のプログラムが実施され、アメリカと同様の経済効果をもたらした[26]

問題

人種差別

GI法は、第二次世界大戦の退役軍人が市民生活に適応できるよう、低額の住宅ローンや低金利ローン、経済的支援などの特典を提供することを目的としていた。しかし、アフリカ系アメリカ人は、白人ほどの恩恵を受けられなかった。歴史学者のアイラ・カッツネルソンは、「この法律はジム・クロウに合わせて意図的に設計された」と主張している[27]

ニューヨークとニュージャージー北部の郊外では、GI法によって6万7千件の住宅ローンが組まれたが、そのうち白人以外によるものは100件にも満たなかった[28][29]。さらに、銀行や住宅ローン会社は黒人への融資を拒否したため、黒人がGI法の恩恵を受けることができなかった[30]

アメリカ南部では、公民権運動が始まるまで、ほとんどの大学が黒人の入学を拒否していた。この地域では、黒人の隔離が法的に義務付けられていた。当時、南部で黒人を受け入れた大学は100校しかなく、しかもその教育の質は低かった。そのうち28校では学士の資格が取得できなかった。学士取得以降の教育を提供しているのは7州のみで、黒人が利用できる博士課程のある大学は存在しなかった。これらの教育機関はいずれも、白人や人種差別のない大学に比べて規模が小さく、リソース不足に直面していることが多かった[31]

1946年までに、教育給付金を申請した10万人の黒人のうち、大学に入学できたのはその5分の1に過ぎなかった[30]。さらに、歴史的に黒人学生の多い大学(HBCU)は、入学者数の増加とリソースの逼迫により、推定2万人の退役軍人を退学させなければならなくなった。HBCUは既に最も貧しい大学だった。退役軍人側の要求により、伝統的な「説教して教える」授業法を超えたカリキュラムの拡大が必要になると、HBCUのリソースはさらに逼迫した[30]

黒人がGI法の恩恵を受けるには多くの障害があったものの、この法律によって、大学や大学院に通うアフリカ系アメリカ人の人口は大幅に増加した。黒人の大学への入学者数は、1940年には米国の大学入学者総数の1.08%だったが、1950年には3.6%に増加した。しかし、このような成果はほぼアメリカ北部の州に限られていた。GI法の影響により、白人と黒人の教育的・経済的格差は全国的に拡大していった[32]。黒人人口の79パーセントは南部の州に住んでいたことから、教育を受けられたのはアメリカ合衆国の黒人の一部に限られていた[30]

商船隊

1936年商船法英語版によって、商船隊の船員は戦時中は軍人とみなされていたにもかかわらず、議会は当初のGI法の対象に商船隊の船員を含めていなかった。1944年6月にGI法案に署名したルーズベルト大統領(民主党所属)は、「戦争中に何度も祖国の福祉のために命を懸けてきた商船隊員に、議会が近いうちに同様の機会を与えてくれることを信じている」と述べた。しかし、その動きが出るのは、第二次世界大戦の最年少の退役軍人が90歳を超えた21世紀になってからだった。

2000年代、残された生存者に何らかの恩恵を与えることで、商船隊員の貢献を認めようという動きが出てきた。2007年に3つの法案が連邦議会に提出され、そのうち1つが下院で可決された[33]。"The Belated Thank You to the Merchant Mariners of World War II Act of 2007"は、1941年12月7日から1946年12月31日までの間に、アメリカの商船隊(陸軍輸送サービスおよび海軍輸送サービスを含む)の隊員として記録されていた各個人に対し、退役軍人省が月額1千ドルの給付金を支払う「商船隊員平等補償」を定めるものである。この法案は、2007年にボブ・フィルナー英語版議員(カリフォルニア州選出)によって下院に提出され、下院を通過したが、上院は通過しなかったために廃案となった[34]。また、商船隊をGI法に組み込む試みとして、ヒラリー・クリントン上院議員が提出した"21st Century GI Bill of Rights Act of 2007"がある。これは、2001年9月11日以降、アメリカ国外に派遣された、または、国内で勤務している軍人や予備役が、軍務に関連した障害や困難、特定の病状により除隊した場合、36か月間の教育支援を提供するというものである[35]ジェフ・ミラー英語版下院議員(フロリダ州選出)は、1941年12月7日から1946年12月31日までの間に沿岸の商船員として名誉ある勤務をしたことを証明することで、1977年のGI法改善法に基づく退役軍人手当の受給資格を得ることができる法案を提出した。この法案は下院を通過したが、上院を通過せず廃案となった[36]

退役軍人を目当てにした学校

1940年代にGI法が成立した後、数多くの営利目的の職業訓練学校が誕生した。これらの中には、連邦政府の資金援助のための90-10規則英語版から除外されている退役軍人を今でもターゲットにしているところがある。この抜け穴は、営利目的の学校が退役軍人とその家族をカモにして積極的に勧誘することを助長している[37][38][39]。90-10規則の抜け穴を塞ぐための立法措置が講じられたが、失敗している[40][41]

GI Bill Comparison Toolによると、GI法による給付金の最大の受給者は以下の通りである。

内容

全ての退役軍人教育プログラムは、合衆国法典の第38編(退役軍人給付(Veterans' Benefits))に記載されている。それぞれのプログラムは、第38編の中の各条に記載されている。

脚注

  1. ^ Glenn C. Altschuler and Stuart M. Blumin, The GI Bill: A New Deal for Veterans (2009), pp. 54-57
  2. ^ Suzanne Mettler, "The creation of the GI Bill of Rights of 1944: Melding social and participatory citizenship ideals." Journal of Policy History 17#4 (2005): 345-374.
  3. ^ Altschuler and Blumin, The GI Bill (2009) p. 118
  4. ^ Olson, 1973, and see also Bound and Turner 2002.
  5. ^ Stanley, 2003
  6. ^ Frydl, 2009
  7. ^ Suzanne Mettler, Soldiers to citizens: The GI Bill and the making of the greatest generation (2005)
  8. ^ Ira Katznelson, When Affirmative Action Was White, W. W. Norton & Co., 2005, p. 140.
  9. ^ Darity, William A., Jr. (2020). From here to equality : reparations for Black Americans in the twenty-first century. University of North Carolina Press. ISBN 978-1-4696-5497-3. OCLC 1119767347. http://worldcat.org/oclc/1119767347 
  10. ^ The George Washington Uni Profile”. DCMilitaryEd.com. July 28, 2011時点のオリジナルよりアーカイブ。January 9, 2014閲覧。
  11. ^ Edwin Amenta. Bold Relief: Institutional politics and the origins of modern American social policy (Princeton UP, 1998) p247.
  12. ^ David Ortiz, Beyond the Bonus March and GI Bill: how veteran politics shaped the New Deal era (2013) p xiii
  13. ^ Kathleen Frydl, The G.I. Bill (Cambridge University Press, 2009) pp 47-54.
  14. ^ Ortiz, Beyond the Bonus March and GI Bill: how veteran politics shaped the New Deal era (2009) p xiii
  15. ^ Frydl, The G.I. Bill (2009) pp 102-44, emphasizes the central role of the American Legion.
  16. ^ 223D. “Education and Training Home”. November 14, 2013時点のオリジナルよりアーカイブ。June 19, 2016閲覧。
  17. ^ a b FindArticles.com - CBSi”. December 31, 2008時点のオリジナルよりアーカイブ。June 19, 2016閲覧。
  18. ^ History” (英語). Luther B Easley Salem American Legion Post 128 (2019年1月16日). 2021年1月6日閲覧。
  19. ^ James E. McMillan (2006). Ernest W. McFarland: Majority Leader of the United States Senate, Governor and Chief Justice of the State of Arizona : a biography. Sharlot Hall Museum Press. p. 113. ISBN 978-0-927579-23-0. https://books.google.com/books?id=_NAmWD6lvfMC 
  20. ^ THE CONGRESSIONAL RESEARCH SERVICE (2004), A CHRONOLOGY OF HOUSING LEGISLATION AND SELECTED EXECUTIVE ACTIONS, 1892-2003, U.S. Government Printing Office, http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/CPRT-108HPRT92629/html/CPRT-108HPRT92629.htm 
  21. ^ Jackson, Kenneth T. (1985). Crabgrass Frontier: The Suburbanization of the United States. New York: Oxford University Press. https://archive.org/details/crabgrassfrontie00jackrich/page/206 
  22. ^ Ellsworth Harvey Plank (1953). Public Finance. p. 234. https://books.google.com/books?id=mIPQAAAAMAAJ 
  23. ^ History And Timeline, U.S. Department of Veterans Affairs, https://benefits.va.gov/gibill/history.asp 
  24. ^ a b Jan Arminio; Tomoko Kudo Grabosky; Josh Lang (2015). Student Veterans and Service Members in Higher Education. Key Issues on Diverse College Students. New York: Routledge. p. 12. ISBN 9781317810568. https://books.google.com/books?id=t1mcBQAAQBAJ&pg=PA12 
  25. ^ History and Timeline - Education and Training”. U.S. Department of Veterans Affairs. February 3, 2019閲覧。
  26. ^ Lemieux, Thomas; Card, David (2001). “Education, earnings, and the 'Canadian GI Bill'”. Canadian Journal of Economics 34 (2): 313–344. doi:10.1111/0008-4085.00077. http://www.nber.org/papers/w6718.pdf. 
  27. ^ Kotz, Nick (28 August 2005). “Review: 'When Affirmative Action Was White': Uncivil Rights”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2005/08/28/books/review/when-affirmative-action-was-white-uncivil-rights.html?_r=0 2 August 2015閲覧。 
  28. ^ Katznelson, Ira (2006). When affirmative action was white : an untold history of racial inequality in twentieth-century America ([Norton pbk ed.] ed.). New York: W.W. Norton. ISBN 978-0393328516 
  29. ^ Katznelson, Ira (2006-08-17). When Affirmative Action Was White: An Untold History of Racial Inequality in Twentieth-Century America. ISBN 9780393347142. https://books.google.com/books?id=Lw5xzMyzE5AC&q=ewer+than+100+of+the+67%2C000+mortgages+insured+by+the+G.I.+Bill+supported+home+purchases+by+nonwhites&pg=PA140 
  30. ^ a b c d Herbold, Hilary (Winter 1994). “Never a Level Playing Field: Blacks and the GI Bill”. The Journal of Blacks in Higher Education (6): 104–108. doi:10.2307/2962479. JSTOR 2962479. 
  31. ^ Turner, Sarah; Bound, John (March 2003). “Closing the Gap or Widening the Divide: The Effects of the G.I. Bill and World War II on the Educational Outcomes of Black Americans”. The Journal of Economic History 63 (1): 151–2. doi:10.3386/w9044. 
  32. ^ Turner, Sarah; Bound, John (March 2003). “Closing the Gap or Widening the Divide: The Effects of the G.I. Bill and World War II on the Educational Outcomes of Black Americans”. The Journal of Economic History 63 (1): 170–72. doi:10.3386/w9044. 
  33. ^ Belated Thank You to the Merchant Mariners of World War II Act of 2007”. January 31, 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月19日閲覧。
  34. ^ Filner, Bob (September 5, 2007). “H.R.23 - 110th Congress (2007-2008): Belated Thank You to the Merchant Mariners of World War II Act of 2007”. www.congress.gov. 2021年10月19日閲覧。
  35. ^ Clinton, Hillary Rodham (May 16, 2007). “S.1409 - 110th Congress (2007-2008): 21st Century GI Bill of Rights Act of 2007”. www.congress.gov. 2021年10月19日閲覧。
  36. ^ Miller, Jeff (October 29, 2013). “H.R.2189 - 113th Congress (2013-2014): To improve the processing of disability claims by the Department of Veterans Affairs, and for other purposes.”. www.congress.gov. 2021年10月19日閲覧。
  37. ^ The 90-10 Rule: Why Predatory Schools Target Veterans”. June 19, 2016閲覧。
  38. ^ Wong, Alia. “Why For-Profit Colleges Target Military Veterans”. June 19, 2016閲覧。
  39. ^ Money Military Heroes: How For-Profit Colleges Target Military Veterans (and Your Tax Dollars)”. November 14, 2014時点のオリジナルよりアーカイブ。June 19, 2016閲覧。
  40. ^ For-profit schools targeted again over GI Bill payouts”. June 19, 2016閲覧。
  41. ^ For-Profit Colleges' 90/10 Loophole Latest Target For Democrats With Military And Veterans Education Protection Act” (June 24, 2015). June 19, 2016閲覧。

参考文献

  • Abrams, Richard M. "The U.S. Military and Higher Education: A Brief History." Annals of the American Academy of Political and Social Science (1989) 404 pp. 15–28.
  • Altschuler, Glenn C. and Stuart M. Blumin. The GI Bill: a new deal for veterans (2009), brief scholarly overview
  • Bennett, Michael J. When Dreams Came True: The G.I. Bill and the Making of Modern America (New York: Brassey's Inc., 1996)
  • Bound, John, and Sarah Turner. "Going to War and Going to College: Did World War II and the G.I. Bill Increase Educational Attainment for Returning Veterans?" Journal of Labor Economics 20#4 (2002), pp. 784–815 in JSTOR
  • Boulton, Mark. Failing our Veterans: The G.I. Bill and the Vietnam Generation (NYU Press, 2014).
  • Clark, Daniel A. "'The two joes meet—Joe College, Joe Veteran': The GI Bill, college education, and postwar American culture". History of Education Quarterly (1998), 38#2, pp. 165–189.
  • Frydl, Kathleen. The G.I. Bill (Cambridge University Press, 2009)
  • Humes, Edward (2006). Over Here: How the G.I. Bill Transformed the American Dream. Harcourt. ISBN 0-15-100710-1. https://archive.org/details/overhere00edwa 
  • Jennings, Audra. Out of the Horrors of War: Disability Politics in World War II America (U of Pennsylvania Press, 2016). 288 pp.
  • Mettler, Suzanne. Soldiers to Citizens: The G.I. Bill and the Making of the Greatest Generation (Oxford University Press, 2005). online; excerpt
  • Nagowski, Matthew P. "Inopportunity of Gender: The G.I. Bill and the Higher Education of the American Female, 1939-1954" Cornell University ILR Collection" (2005) online; statistical approach
  • Nam, Charles B. "The Impact of the 'GI Bills' on the Educational Level of the Male Population" Social Forces 43 (October 1964): 26-32.
  • Olson, Keith. "The G. I. Bill and Higher Education: Success and Surprise," American Quarterly Vol. 25, No. 5 (December 1973) 596-610. in JSTORin JSTOR
  • Olson, Keith, The G.I. Bill, The Veterans, and The Colleges (Lexington: University Press of Kentucky, 1974)
  • Peeps, J. M. Stephen. "A B.A. for the G.I. . . . Why?" History of Education Quarterly 24#4 (1984) pp 513-25.
  • Ross, David B. Preparing for Ulysses: Politics and Veterans During World War II (Columbia University Press, 1969).
  • Stanley, Marcus (2003). “College Education and the Midcentury GI Bills”. The Quarterly Journal of Economics 118 (2): 671–708. doi:10.1162/003355303321675482. JSTOR 25053917. 
  • Van Ells, Mark D. To Hear Only Thunder Again: America's World War II Veterans Come Home. Lanham, MD: Lexington Books, 2001.
  • Woods, Louis, “Almost ‘No Negro Veteran…Could Get a Loan:’ African Americans, the GI Bill, and the NAACP Campaign Against Residential Segregation, 1917-1960,” The Journal of African American History, Vol. 98, No. 3 (Summer 2013) pp. 392–417.

外部リンク

一般情報