「オーク (トールキン)」の版間の差分
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* 健部伸明編『幻獣大全』[[2008年]] [[新紀元社]]刊 |
* 健部伸明編『幻獣大全』[[2008年]] [[新紀元社]]刊 ISBN 4775302612 |
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* 山本史郎訳『新版ホビット ゆきてかえりし物語』[[2012年]] [[原書房]]刊 ISBN 4562048662 |
* 山本史郎訳『新版ホビット ゆきてかえりし物語』[[2012年]] [[原書房]]刊 ISBN 4562048662 |
2021年10月11日 (月) 01:09時点における版
オーク(OrcまたはOrk)はJ・R・R・トールキンの作品世界中つ国に住む、人間とは異なる種族。『指輪物語』や『シルマリルの物語』では常に、モルゴス、サウロン、サルマンのような悪に仕える兵士として、ときには副官として登場する。『ホビットの冒険』では「何とも例えようのないオーク鬼(第7章 瀬田貞二訳)」「山のオーク(悪鬼)」(5章 山本史郎訳)という記述がある[注釈 1]ものの、主にゴブリンとして記述されており、かれら自身の王をかつぎ、独立した存在のように振舞っている。オークはキャロル・ローズ『世界の妖精・怪物事典』でも「ゴブリンの一種」として説明されている。
概要
エルフ族がモルゴスによって捕らえられ、拷問や日の当たらない牢に閉じ込められるなどして堕落してしまった姿であると言われている。そのため、苦痛、憎悪が影響し、美しかった白肌は不気味な灰色になり、鉤爪が生え、醜い姿となった。また長い間、苦痛にさらされていたせいか背丈が低くなっていて、日光を嫌う。総じて知能も高く愚かではないが、鈍感で下劣な生物として描写されている。かれらは言語をくずして使い、手先が器用で、歯車や機械に興味を持ち、やっとこやつるはしや斧などの他「大量の人間を一度に抹殺する機械(山本史郎訳)」以外は何も生み出さず、破壊するだけの存在である。ただ繁殖力が非常に高く、『ホビットの冒険』終盤の五軍の戦いで一度絶滅しかけたものの立ち直っている。ちなみに、作中で女性のオーク(ゴブリン)は登場していないが、子供は『ホビットの冒険』のナレーションで、ビルボがゴクリと出会う4~5時間前にゴブリンの子供がゴクリに捕まって食われた説明がされている。
なお、トールキンの書簡によれば、「女オークは存在する」とのことである。知識や進歩に関しても、本来はエルフや人間などと同等だが憎悪や嫉妬、絶望に苛まれるがゆえに建設的な連携を取りにくいだけで、『ホビットの冒険』でのゴブリンは「人を痛める道具」について、「進歩(と呼ばれていますが)」させていると描かれる。
ピーター・ジャクソン監督による実写映画作品でも登場するアゾグとその息子ボルグなど、何人かの大きなオークは『ホビットの冒険』の段階では、「オーク」と呼称されていたがプロポーションの描写などから『指輪物語』で、「ウルク」とされた可能性が高い。また、この種はオーク同士の品種改良によってできた最高種、という説がある[注釈 2]。『ホビット ゆきてかえりし物語』1997年版で「食人鬼」とされる種(第5章)は、「背を屈めて両手を地面につけんばかりにして相当なスピードで走れる」と描写され、このような特徴がウルクであるシャグラトに認められることから、『ホビットの冒険』でオークとされるものと『指輪物語』でのウルクが同じもので、かつウルクは太陽光線に弱いがウルク・ハイはそれを克服している点、またウルクと称される物のみが「頭が大きい」とされる点が根拠に挙げられる。同じ作業により、グリシュナーハなど水泳に長じた「曲がり足の手長オーク」と呼ばれる者が誕生している。
設定上、モルゴスたるメルコールが第1紀、上記の工程(ただ、厳密には「人間を」加工した可能性もある)でオルフと呼ばれる原型を作る。これが戦争で、滅びかけ、復活したのち第2紀に接触した人間の側から「オーク」という呼称で呼ばれる。後、第3紀の中ごろに次代冥王サウロンによって大型種ウルクが作られ、3紀末期にサルマンが人間とのハーフである半オークウルク・ハイを作った事が伺える。
『ホビットの冒険』から『終わらざりし物語』に至るまで、狼に乗る騎狼隊あるいは狼乗り(「Wolfrider」)と呼ばれる矮小な種が登場する。彼らは、狼に乗れるサイズでかつ、身長が90cm~120cmほどのホビットが化けても怪しまれないことからその程度の身長と想像される。また他のオーク全般は、「オーク人間」たるウルク・ハイまで、生物との相性が悪いのか、馬は食用以外に使わない。大きな狼ワーグに関し、同盟を結んで共闘するものの乗せないとする『幻獣大全』説の他、デヴィッド・デイ『指輪物語事典』ではワーグがゴブリンを乗せるとあり、資料に若干の混乱がある。
この矮種は、ほかのオークあるいはほかの種族から蛆(Maggot)、スナガ(Snaga 「奴隷」を指す暗黒語)とよばれ、第2部下巻7章に、地の文で「モルドールの蛆ども」が、と書かれている。『幻獣大全』では、繁殖力の強さと描写の近似性から、トールキンの『サンタ・クロースからの手紙』(英語版の記事)に登場するゴブリンは、これではないかとする[注釈 3]。
スナガあるいはマゴットはまた別に、背が小さく色が黒く、鼻孔が大きい者がおり、嗅覚のみで視覚を用いず探し物をする「追跡者(Tracker)」として使われている。同様の、暗闇でも目と耳が効き闇夜のイタチよりも速く走る「走り手」が、『ホビットの冒険』から登場している。
発音
作中で使われる「上位エルフ語」クウェンヤではオークをウルコ(urko)、複数形ウルクイ(urqui)と呼ぶ。この語は「ボギー(おばけ)」、または、「ブギーマン(悪い子をさらう鬼)」を意味し、オークが怖ろしいものであることを表現している。
エルフの共通語として設定されているシンダール語ではオークをオルフ(orch)、複数形イルフ(yrch)あるいはグラムホス(glamhoth、騒々しいやつらの意)と呼ぶ。 暗黒語でのオークの同義語は、ウルク=ハイの語に見られるウルク(Uruk)である。
生態
オークは「馬や子馬、ロバなど何でも食べる」と説明されるが、食事に関してはそれなりにこだわりがあるらしく、『ホビットの冒険』では首領の大ゴブリンが「わざわざ地底湖に魚を取りに行かせることがあった」という説明がある。 オーク自身の肉の味は人によって評価が違い、『ホビットの冒険』ではゴクリ初登場の所で「ゴクリは(魚だけではなく)ゴブリンの肉もうまいと思っていました」とナレーションに説明があるが、映画『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』によると、キリス・ウンゴル(Cirith Ungol蜘蛛峠)の洞窟を住処とするシェロブが普段はオークを獲物にしていることについてサウロン配下のオークは「オークの肉は不味いが、他に食べる物が無い」と語っている。原作では、サウロンは一応シェロブを「飼い猫」と呼んで手懐けようとし、結局同盟関係にしており、「外敵がおらず」「シェロブが飢えたときに」オークが「シェロブザグレート(太母シェロブ)」の元へ供される。
しかし、後者の方でもあまり美味しい食事にありつけない状況下ではこの限りではないようで、映画『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』ではメリーとピピンを捕まえてアイゼンガルドに向かっていたサルマン配下のオークとウルク=ハイが休息時に「腹が減った。ここ数日腐ったパンしか食ってねえ」と不満を露わにしたのをきっかけに、生け捕りにすべきメリーとピピンを殺さずに「要らない」という理由で2人の足を食おうとの提案がされるが、最後には1人のオークがウルク=ハイに首を刎ねられ、「メニューに肉が戻るぞ!」の掛け声の元その場で貪り食われた。なお原作では、彼らは異なる部族の出身者による混成部隊であるため、当初サウロンによってオークの共通語である「暗黒語」が作られていたが、これは指揮官クラスしか使われず、通常のオーク同士では互いの意思疎通にホビットたちも理解できる「ふつうの言葉」(西方語)を話している[注釈 4]。
スペル
トールキンは『ホビット;ゆきてかえりし物語』(1997年刊)の冒頭で、「ルーン文字について」と題し、ルーン表記について語る際、オークがオルカなどの海獣系を指すとされる説を否定し、『指輪物語』以後の著述では、Orkと綴るのを好んだ。これは明らかに、オーク的なを意味するorcishの「C」が、「S」として発音されてしまうのを避けるためである。オークの綴りがOrkであった場合、オーク的を意味する単語の綴りはorkishとなり、発音に誤解の余地がなくなる。また『指輪物語』でもorKの方を採用しようとしたが、タームが人口に膾炙されため断念した。
起源
トールキンはオークという語を、『ベーオウルフ』に登場する不死者の怪物にしてThyrs(巨人)グレンデルが眷属として所属するカインの末裔、Ylfe(「ゴブリン」と訳される)、Eoten(「オーガー」と訳される)、神に対抗した巨人(Gigant)に連なる、「オーク=ナス」(Orc-néas)から採用した。「オーク=ナス」とは「オルクスの死体」を意味する。詳しい語源と他作品でのオークについてはオーク (架空の生物)を参照。
『ホビット ゆきてかえりし物語』の注によれば、『ベーオウルフ』にある、「カインの末裔」Orcの注釈「þyrs」(「Ogre」と訳される)、Helldeofol(「Hell Devil」と訳される)から作ったといい、OrcにはOrca(シャチ)のような海獣の意は含まれていないという[注釈 5]。なお『トールキンのベーオウルフ物語』にあるトールキンの説によれば、「Orcnéas」(岡本千晶による和訳は「死にそこないの悪魔の形をした生物」)は、「ラテン語のOrcus(地獄、死)をそれらしくあしらったものと思われる」Orcに「「死体」を意味する古い言葉」Nēの複数形を付けたものと考えられる[注釈 6]。
もし読者がトールキンの著作を、「西境の赤表紙本」の翻訳とみなすならば、この語はクウェンヤやシンダール語からの、西方語への翻訳されたもの、と考えることができるだろう。
トールキンは『ホビットの冒険』に登場するゴブリンについて、かれが愛好した物語、ジョージ・マクドナルドの『お姫さまとゴブリンの物語』の影響を強く受けた、と述べている。ただ、後年マクドナルドの作品『金の鍵』の解説を依頼されたものの、批判しか出ず代案として執筆したものを膨らませ『星をのんだ、かじや』(山本史郎訳では『ウートンメジャーの鍛冶屋』)を著し、結局解説は書かなかった彼は、マクドナルド作品を敬愛していた若いころからマクドナルドの描く「足が柔らかくダンスが踊れず、歌を忌避する」というゴブリン像には否定的で[注釈 7]、『ホビットの冒険』第4章でドワーフとホビットを連行する際「囃し歌を歌い」「手を叩き」「足を踏み鳴らし」浮かれるゴブリンを描いている。また『幻獣大全』によれば、ライマン・フランク・ボームの『サンタクロースの冒険』に登場する、オーグワが影響を与えている可能性がある[注釈 8]。その傍証である、実子のみへ送った『サンタ・クロースからの手紙』では、サンタ・クロースはレッドノームと共に、『ホビットの冒険』と設定を同じくするらしいゴブリンの来襲に対抗している。
『幻獣大全』によれば、手先が器用で、美しいもの以外なら何でも造る、鉱山に洞穴を掘る、性格が邪悪、という特徴から、同様の特徴を持つ北欧神話に登場するスヴァルトアールヴ(ドワーフ)がモデルの可能性がある[注釈 9]。
注釈
- ^ これ以外では、トロルの岩屋で手に入れた剣の「オルクリスト(Orcrist)」(『幻獣大全1』164頁では「オーク殺し」であるが山本史郎は「ゴブリンを裂くもの」と訳している)などにオークの名前が確認できる。なお、トーリンの通り名のオーケンシールドの綴りは「Oakenshield」で種族のオークではなく樹木(樫・楢)の方。
- ^ 健部伸明『幻獣大全』 新紀元社 p374
- ^ 健部伸明『幻獣大全』 新紀元社 p373 なお『サンタ・クロースからの手紙』によれば、ゴブリン共は「原始人の書く絵の中へ象形文字を書いている」とあるが、『指輪物語』第2部7章で、件の蛆どもが「王の像へ彼ら独特の象形文字を」書いていると描かれる
- ^ 健部『幻獣大全』p350
- ^ 『ホビット ゆきてかえりし物語』 400頁
- ^ 『トールキンのベーオウルフ物語』 180頁
- ^ 『ホビット ゆきてかえりし物語』383頁
- ^ 健部『幻獣大全』p388
- ^ 健部篇『幻獣大全』p367。この書では「蛆から生まれた」という北欧神話でのドヴェルグ起源説を根拠とし、ゴブリンが蛆と呼ばれている点からオークへこれを当て込んだ可能性を示唆している。なお、中つ国にはドワーフ(トールキン)自体は『ホビットの冒険』の頃からゴブリン(オーク)と別種族で登場している。
参考資料
- 健部伸明編『幻獣大全』2008年 新紀元社刊 ISBN 4775302612
- 山本史郎訳『新版ホビット ゆきてかえりし物語』2012年 原書房刊 ISBN 4562048662
- J・R・R・トールキン著 クリストファー・トールキン編 岡本千晶訳『トールキンのベーオウルフ物語《注釈版》』2017年 原書房刊 ISBN 4562053879
- デヴィッド・デイ『トールキンの指輪物語事典』1994年 原書房 ISBN 4-562-02639-1
- キャロル・ローズ『世界の妖精・妖怪事典』2003年 原書房 ISBN 4-562-03712-1