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1980年代後半、[[Apple|Apple Computer]]はエイコーンと共同で新しいARMコアの開発に取り組んだ。この作業は非常に重要視されていたため、エイコーンは[[1990年]]に開発チームをスピンオフしてAdvanced RISC Machinesという新会社を設立した。このため、ARMは本来のAcorn RISC Machineではなく'''Advanced RISC Machine'''の略であるという説明をよく見かけることになる。Advanced RISC Machinesは、[[1998年]]に[[ロンドン証券取引所]]と[[NASDAQ]]に上場した際、ARM Limitedとなった。
1980年代後半、[[Apple|Apple Computer]]はエイコーンと共同で新しいARMコアの開発に取り組んだ。この作業は非常に重要視されていたため、エイコーンは[[1990年]]に開発チームをスピンオフしてAdvanced RISC Machinesという新会社を設立した。このため、ARMは本来のAcorn RISC Machineではなく'''Advanced RISC Machine'''の略であるという説明をよく見かけることになる。Advanced RISC Machinesは、[[1998年]]に[[ロンドン証券取引所]]と[[NASDAQ]]に上場した際、ARM Limitedとなった。


この作業の結果、'''ARM6'''が開発された。[[1991年]]に最初のモデルがリリースされ、アップルはARM6ベースのARM610を[[アップル・ニュートン]]に採用した。
この作業の結果、'''ARM6'''が開発された。[[1991年]]に最初のモデルがリリースされ、アップルはARM6ベースのARM610を[[Apple Newton]]に採用した。


これらの変化を経てもコアは大体同じサイズに収まっている。ARM2は30000個のトランジスタを使用していたが、ARM6は35000個にしか増えていない。そこにあるアイデアは、エンドユーザーがARMコアと多くのオプションのパーツを組み合わせて完全なCPUとし、それによって古い設備でも製造でき、かつ安価に高性能を得られる、というものである。
これらの変化を経てもコアは大体同じサイズに収まっている。ARM2は30000個のトランジスタを使用していたが、ARM6は35000個にしか増えていない。そこにあるアイデアは、エンドユーザーがARMコアと多くのオプションのパーツを組み合わせて完全なCPUとし、それによって古い設備でも製造でき、かつ安価に高性能を得られる、というものである。
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*ARM610 [[Apple]] [[Apple Newton|ニュートン・メッセージパッド]]、メッセージパッド100、メッセージパッド110、メッセージパッド120


=== ARM7/7E ===
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|ARM720T
|ARM720T

2021年5月20日 (木) 22:43時点における版

ARMアーキテクチャ
開発者 ARMホールディングス
ビット数 32ビット64ビット
発表 1983年
バージョン ARMv9[1]
デザイン RISC
タイプ Register-Register
エンコード Fixed
ブランチ Condition code
エンディアン Bi
拡張 NEON, Thumb, Jazelle, VFP
レジスタ
16(32ビット)、31(64ビット)

ARMアーキテクチャ とは、ARMホールディングスの事業部門であるARM Ltdにより設計・ライセンスされているアーキテクチャである。組み込み機器や低電力アプリケーション向けのプロセッサコアに用いられている。

概要

ARMアーキテクチャは消費電力を抑える特徴を持ち、低消費電力を目標に設計されるモバイル機器において支配的となっている。本アーキテクチャの命令セットは「(基本的に)固定長の命令」「簡素な命令セット」というRISC風の特徴を有しつつ、「条件実行、定数シフト/ローテート付きオペランド、比較的豊富なアドレッシングモード」といったCISC風の特徴を併せ持つのが特徴的だが、これは初期のARMがパソコン向けに設計された際、当時の同程度の性能のチップとしてはかなり少ないゲート数(約25,000トランジスタ)で実装されたチップの多くの部分を常に活用する設計として工夫されたもので、回路の複雑さを増さないという方向性だというように見れば、CISC風の特徴というよりむしろRISC風の特徴とも言える。このような設計が、初期の世代の実装において、(性能の割に)低消費電力、小さなコア、(RISCとしては)高いコード密度といった優れた特性に結びつき、広く普及する原動力となった。

2005年の時点で、ARMファミリーは32ビット組込みマイクロプロセッサ(乃至、特にマイクロコントローラ)のおよそ75%を占め[2]、全世界で最も使用されている32ビットCPUアーキテクチャである[要出典]。ARMアーキテクチャに基づくCPUコアは、PDA携帯電話メディアプレーヤー携帯型ゲーム電卓などの携帯機器から、ハードディスクルータなどのPC周辺機器まで、あらゆる電子機器に使用される。2015年現在、携帯電話では9割超のシェアがある[2]

携帯機器や電子機器の高性能化に伴いARMコアの出荷数は加速度的に伸びており、2008年1月の時点で100億個以上[3]、2010年9月の時点で200億個以上[4]が出荷されている。ARMアーキテクチャを使用したプロセッサの例としては、テキサス・インスツルメンツOMAPシリーズやマーベル・テクノロジー・グループXScaleNVIDIATegraクアルコムSnapdragonフリースケールのi.MXシリーズ、ルネサス エレクトロニクスのRZファミリ、Synergyなどがある。

既存のARMプロセッサは組み込みとクライアントシステムに特化していたため全て32ビットであるが、顧客からは電力効率に優れるARMアーキテクチャのサーバへの応用を望む声が高まり[要出典]、ARM社は2011年10月27日、ARMの64ビット拡張であるARMv8アーキテクチャを発表した[5]

歴史

ARMの設計は、1983年エイコーン・コンピュータ(イギリス)によって開始された。当時エイコーンはモステクノロジーMOS 6502を搭載したコンピューターを製造・販売しており、小さなハードウェア規模でシンプルな命令セットを持つ、より高速なプロセッサを開発することによって、6502を置き換えることが目的であった。

ただし、しばしば誤ったことが書かれているが、ARMは6502を参考にしながら設計されたわけでもないし、命令セットアーキテクチャにも内部アーキテクチャにもとりたてて類似している点は無い。命令セットを設計したソフィー・ウィルソンも、6502とARMにはほとんど共通点は無いと述べている[6]

開発チームは1985年までにARM1と呼ばれる開発サンプルを完成させ、最初の製品となるARM2は次の年に完成した。ARM2は32ビットのデータバス、26ビットのアドレス空間と16個の32ビットレジスタを備えていた。レジスタの1つは、上位6ビットが状態フラグを保持するプログラムカウンタである。ARM2のトランジスタ数は30000個しかなく、おそらく世界で最もシンプルな実用32ビットマイクロプロセッサであった。これは、マイクロコードを持たないこと(モトローラMC68000の場合は1/4から1/3がマイクロコードであった)と、現在のほとんどのCPUと違ってキャッシュを含まないことによるものである。このシンプルさのために消費電力は極めて低いが、それにもかかわらず80286よりも性能は高かった[要出典]。後継となるARM3は、4KBのキャッシュを含みさらに性能を高めた。

1980年代後半、Apple Computerはエイコーンと共同で新しいARMコアの開発に取り組んだ。この作業は非常に重要視されていたため、エイコーンは1990年に開発チームをスピンオフしてAdvanced RISC Machinesという新会社を設立した。このため、ARMは本来のAcorn RISC MachineではなくAdvanced RISC Machineの略であるという説明をよく見かけることになる。Advanced RISC Machinesは、1998年ロンドン証券取引所NASDAQに上場した際、ARM Limitedとなった。

この作業の結果、ARM6が開発された。1991年に最初のモデルがリリースされ、アップルはARM6ベースのARM610をApple Newtonに採用した。

これらの変化を経てもコアは大体同じサイズに収まっている。ARM2は30000個のトランジスタを使用していたが、ARM6は35000個にしか増えていない。そこにあるアイデアは、エンドユーザーがARMコアと多くのオプションのパーツを組み合わせて完全なCPUとし、それによって古い設備でも製造でき、かつ安価に高性能を得られる、というものである。

このARM6の改良版であるARM7も、ARM6を採用した製品群に引き続き採用されたほか、普及期に入りつつあった携帯電話にも広く採用されたことから、今日のARMの礎ともなった。

さらに、新世代のARMv4アーキテクチャに基いてARM7を再設計したものがARM7TDMIである。ARM7TDMIはThumb命令(後述)を実装し、低消費電力と高いコード効率を両立する利点を備えていたことから、ライセンスを受けた多くの企業によって製品化され、特に携帯電話ゲームボーイアドバンスといった民生機器に採用されたことから、莫大な数の製品に搭載された。なお、TDMIとはThumb命令、デバッグ (Debug) 回路、乗算器 (Multiplier)、ICE機能を搭載していることを意味している。しかし、これより後のコアには全てこれらの機能が標準的に搭載されるようになったため、この名称は省かれている。

DECはARMv4アーキテクチャの設計のライセンスを得てStrongARMを製造した。233MHzでStrongARMはほんの1Wの電力しか消費しない(最近のバージョンはさらに少ない)。この業績は後に訴訟の解決の一環としてインテルに移管され、インテルはこの機会を利用して古くなりつつあったi960をStrongARMで補強することにし、それ以降XScaleという名で知られる高性能の実装を開発した。

以後も、StrongARMの技術のフィードバックを受けたARM9ARM10を経て、NECとの提携などによって携帯電話向けプロセッサとしての地位を確固たるものにしたARM11をリリースする。

2005年には製品ラインナップを一新し、高機能携帯電話などのアプリケーションプロセッサ向けであるCortex-A、リアルタイム制御向けであるCortex-R組み込みシステム向けであるCortex-Mと、ターゲットごとにシリーズを分類した。なお、Cortexの末尾に付く文字は、社名であるARMの一文字ずつをそれぞれ割り当てたものである[7]。また、2012年11月にはARM初となる64ビットアーキテクチャによるプロセッサコアであるCortex-A50シリーズを発表した[8]

ARMからIPコアのライセンス供与を受けている主な企業には、モトローラIBMテキサス・インスツルメンツ任天堂フィリップスAtmelシャープサムスン電子STマイクロエレクトロニクスアナログ・デバイセズパナソニッククアルコムマーベル・テクノロジー・グループなどがある。ARMチップは世界で最もよく使われているCPUデザインの一つとなっており、ハードディスク携帯電話ルータ電卓から玩具に至るまであらゆる製品の中に見ることができる。32ビット組み込みCPUで圧倒的なシェアを占め、2004年の世界シェアは61%であった[9]

主な採用製品

ARM6

ARM7/7E

ARM9/9E

ARM11/11E

  • 2007年頃から採用されるようになる。発表は2002年4月29日[11]
    • 2007年7月17日、東芝がARM1176JZF-S搭載の携帯電話用プロセッサ、TC35711XBGを発表。2008年第2四半期より量産開始予定。
  • NVIDIA Tegra
  • 携帯音楽プレーヤー
  • 携帯電話
    • T-Mobile G1
    • Qualcomm MSM7500(EV-DO Rev.A対応携帯電話用チップセット。ARM9Eとのダブル実装)
      • KDDI沖縄セルラー電話(各auブランド)の「KCP+」対応CDMA 1X WINシリーズの携帯電話(例・W56TW54SAW61SW62T等)。ARM9Eとのダブル実装
      • KDDI/沖縄セルラー電話(各auブランド)のCDMA 1X WINシリーズのスマートフォン(例・E30HT等)
    • Qualcomm MSM7600(EV-DO Rev.A対応携帯電話用チップセット。ARM9Eとのダブル実装)
    • NTTドコモFOMA902iシリーズ以降の携帯電話。905i以降のSymbian採用機はSH-4Aとダブル実装。
    • WS018KE (WILLCOM 9) (WILLCOM(ウィルコム)のPHS端末)
    • Samsung S3C6400(ARM 1176JZ(F)-S v1.0)
      • iPhone 3G(412 MHzで駆動)
  • タブレット・PDA
    • ノキア Internet Tablet N800
    • mylo COM-2
  • ゲーム機
    • Zeebo (新興国向けDL専用3Dゲーム機)
  • シングルボードコンピュータ

Cortex-M3

Cortex-A8

Cortex-A9

Cortex-A15

  • タブレットは2012年から、スマートフォンは2013年から採用された。
  • サムスン電子は1.7GHzのデュアルコア Exynos 5250 を2012年10月[12]から搭載商品を販売開始。メモリ帯域12.8GB/s[13]
  • テキサス・インスルメンツは2GHzのデュアルコアで2012年第3四半期から商品を出荷予定[14]
  • NVIDIA は Tegra 4 を2013年第1四半期から出荷予定。
  • シングルボードコンピュータ

Cortex-A57

  • 2012年10月に64ビット ARMのCortex-A57, A53(コードネーム「Atlas」と「Apollo」)が発表され[15]、2014年に搭載商品(Samsung Galaxy Note 4 など)が販売開始された。
  • AMD は2015年下半期にサーバー向け Opteron A1100 (Seattle) をリリース予定[16][17]
  • A57やA53では、8コアや全てのコア同時稼働できる4+4コア(A57が4コア、A53が4コア)などが登場した。

Cortex-A72

  • 2015年2月3日に発表され[18]、2015年に搭載商品が販売される予定[19]。Cortex-A57の後継製品。
  • Raspberry Pi 4 Model B に採用された。

Cortex-A73

Cortex-A75

Cortex-A76

Cortex-A77

Cortex-A78

Cortex-X1

  • 2020年 5月26日 にCortex-A78と共に発表された。
  • Cortex-X Custom Programに基づき、Cortex-A78をベースに拡張されている。


コアの性能と採用実績

ARM社製

ファミリー アーキテクチャ コア 特徴 キャッシュ (I/D)/MMU 性能 MIPS @ MHz 採用製品
ARM1 ARMv1 ARM1 なし ARM Evaluation System second processor for BBC Micro
ARM2 ARMv2 ARM2 MUL(乗算)命令を追加 なし
  • 4 MIPS @ 8 MHz
  • 0.33 DMIPS/MHz
Acorn Archimedes, Chessmachine
ARMv2a ARM250 統合メモリコントローラ (MMU), Graphics and IO processor. SWAP命令を追加 なし, MEMC1a 7 MIPS @ 12 MHz Acorn Archimedes
ARM3 ARMv2a ARM2a ARMとしてはじめてのキャッシュの採用 4 KB 統合
  • 12 MIPS @ 25 MHz
  • 0.50 DMIPS/MHz
Acorn Archimedes
ARM6 ARMv3 ARM60 32ビットアドレス空間をサポート(それまでは26ビット) なし 10 MIPS @ 12 MHz 3DO, Zarlink GPS Receiver
ARM600 キャッシュ、コプロセッサバス(FPA10浮動小数点演算ユニット用) 4 KB 統合 28 MIPS @ 33 MHz
ARM610 キャッシュ、コプロセッサバスは無し 4 KB 統合
  • 17 MIPS @ 20 MHz
  • 0.65 DMIPS/MHz
Acorn Risc PC 600, Apple Newton 100シリーズ
ARM7 ARMv3 ARM700 8 KB 統合 40 MHz Acorn Risc PC 試作CPUカード
ARM710 8 KB 統合 40 MHz Acorn Risc PC 700
ARM710a 8 KB 統合
Acorn Risc PC 700, Apple Newton eMate 300
ARM7100 Integrated SoC. 8 KB 統合 18 MHz Psion Series 5
ARM7500 Integrated SoC. 4 KB 統合 40 MHz Acorn A7000
ARM7500FE Integrated SoC. "FE"、FPA・EDOメモリコントローラを追加 4 KB 統合
Acorn A7000+
ARM7TDMI v4T ARM7TDMI(-S) 3ステージ パイプライン 無し 15 MIPS @ 16.8 MHz ゲームボーイアドバンス, ニンテンドーDS, iPod
ARM710T MMU 36 MIPS @ 40 MHz Psion 5 series, Apple Newton
ARM720T 8 KB 統合キャッシュ, MMU 60 MIPS @ 59.8 MHz
ARM740T MPU
v5TEJ ARM7EJ-S Jazelle DBX なし
ARM9TDMI v4T ARM9TDMI 5ステージ パイプライン なし
ARM920T 16 KB/16 KB, MMU 200 MIPS @ 180 MHz Armadillo, GP32,GP2X(マスタ), en:Tapwave Zodiac (Motorola i. MX1)
ARM922T 8 KB/8 KB, MMU 200/250 MHz Cavium CNS2132 (Econa product lines), Cavium STR8132 (Econa evaluation board), Ritmo Torrent Box/Mini Lan Server/BT-Downloader (ZAP-LN-86BT)
ARM940T 4 KB/4 KB, MPU GP2X(スレーブ)
ARM9E v5TE ARM946E-S variable, tightly coupled memories (TCM), MPU
  • 231 MIPS @ 210 MHz
  • 74.47 MIPS @ 67.024 MHz
ニンテンドーDS, ノキア N-Gage, Conexant 802.11 chips
ARM966E-S キャッシュレス, TCMs

ST Micro STR91xF, Ethernet内蔵

ARM968E-S キャッシュレス, TCMs
v5TEJ ARM926EJ-S Jazelle DBX variable, TCMs, MMU 220 MIPS @ 200 MHz Mobile phones: ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(K, W シリーズ), シーメンス and Benq(x65 シリーズ以降), テキサスインスツルメンツ OMAP1710
v5TE ARM996HS Clockless processor キャッシュレス, TCMs, MPU
ARM10E v5TE ARM1020E (VFP) 32 KB/32 KB, MMU
ARM1022E (VFP) 16 KB/16 KB, MMU
v5TEJ ARM1026EJ-S Jazelle DBX variable, MMU or MPU
ARM11 v6 ARM1136J(F)-S SIMD, Jazelle DBX, (VFP) variable, MMU 1.25 DMIPS/MHz TI OMAP 2, Freescale i.MX3
v6T2 ARM1156T2(F)-S SIMD, Thumb-2, (VFP) variable, MPU 1.54 DMIPS/MHz
v6KZ ARM1176JZ(F)-S SIMD, Jazelle DBX, (VFP) variable, MMU+TrustZone 1.25 DMIPS/MHz iPhone, iPhone 3G, Broadcom BCM2835
v6K ARM11 MPCore 1 – 4 core SMP, SIMD, Jazelle DBX, (VFP) variable, MMU 1.25 DMIPS/MHz(最大608 MHz) NVIDIA Tegra
SecurCore v6-M SC000 0.9 DMIPS/MHz
v4T SC100
v7-M SC300 1.25 DMIPS/MHz
Cortex-M v6-M Cortex-M0 マイクロコントローラ向け。M1はFPGA上で動作。命令はM3のサブセット。Thumb-2 (BL, MRS, MSR, ISB, DSB, and DMB)対応。 0.9 DMIPS/MHz NXP LPC11xx, Triad Semiconductor, Melfas, 忠北テクノパーク, Nuvoton, オーストリアマイクロシステムズ, ローム, SwissMicros GmbH (DM15, DM41等)
Cortex-M0+ 0.93 DMIPS/MHz NXP LPC81x, LPC82x

Renesas RAファミリ,

Renesas Synergy S1シリーズ

Cortex-M1 なし, tightly coupled memory optional.
  • 0.8 DMIPS/MHz[20]
  • 最大 136 DMIPS @ 170 MHz[21](クロックはFPGA依存)
Altera Cyclone III[22], Actel FPGA[23]
v7-M Cortex-M3 マイクロコントローラ向け(ハーバード・アーキテクチャ) キャッシュなし, (MPU) 1.25 DMIPS/MHz Texas Instruments Stellaris MCU, STMicroelectronics STM32, NXP LPC1000, NXP mbed, 東芝 TX03, Luminary Micro, Ember EM3xx, Atmel AT91SAM3, Europe Technologies EasyBCU, Energy Micro EFM32, Actel SmartFusion, Renesas R-IN32
v7E-M Cortex-M4 マイクロコントローラ向け(ハーバード・アーキテクチャ)。M3にDSP追加。モーター制御、FA/電力制御、オーディオ/ビデオ処理など。 Freescale Kinetis, NXP LPC43xx, STMicroelectronics,

Renesas RAファミリ, Renesas Synergy MCU (S3/S5/S7)

v7-M Cortex-M7 マイクロコントローラ向け(ハーバード・アーキテクチャ)。M4までの3段パイプラインから、スーパースカラ(デュアル)6段パイプラインとなり、命令/データ1次キャッシュ、倍精度浮動小数点演算を追加するなど大幅に強化された。クロック周波数は最大800 MHz程度までをターゲットとしており、2017年現在600 MHzで動作する製品がある(NXP i.MX RT1050シリーズ)。

反面、M3,M4にあったBitBand機能が削除されているなどの変更点もある。

L1 命令/データ 各0 – 64 KB, (MPU) 2.14 DMIPS/MHz[24][25] STMicroelectronics STM32 F7, Atmel SAM x7x, NXP i.MX RT1050
v8-M Cortex-M23 マイクロコントローラ向け(ノイマン・アーキテクチャ) 0.98 DMIPS/MHz[26] Renesas Synergy S1JA, Renesas RA2A1, Renesas RA2L1, Microchip SAML10
Cortex-M33 マイクロコントローラ向け(ハーバード・アーキテクチャ) 1.50 DMIPS/MHz[27] Renesas RA6M4, Renesas RA4M3, STM32L5, NXP5500
Cortex-R v7-R Cortex-R4 組み込み向け 可変キャッシュ, MMUはオプション 1.66 DMIPS/MHz Texas Instruments TMS570, Broadcom,

Renesas RZ/T

Cortex-R5 1.66 DMIPS/MHz
Cortex-R7 2.53 DMIPS/MHz
Cortex-A v7-A Cortex-A5 低コスト、低消費電力 L1: 4 KB – 64 KB可変, L2: オプション, メモリ管理ユニット, TrustZone 1.57 DMIPS/MHz (400 MHz – 800 MHz) Atmel SAMA5, PS-T328, Snapdragon S4 Play, Snapdragon 200
Cortex-A7 1 – 4マルチプロセッシング 浮動小数点演算器 L2キャッシュメモリ4 MB(最高) メモリ管理ユニット, TrustZone, ラージ物理アドレス拡張 1.9 DMIPS/MHz ( – 1.5Ghz) Snapdragon S4 Play, Snapdragon 200, 208, 210, 212, 400, Allwinner A20, Allwinner A31, MediaTek MT6589, Broadcom BCM2836
Cortex-A8 アプリケーション向け, NEON, Jazelle RCT, Thumb-2 可変 (L1+L2), メモリ管理ユニット, TrustZone 2.0 DMIPS/MHz (600 MHz – 1 GHz) TI OMAP 3, Freescale i.MX 5, Apple A4, Samsung Exynos 3, Allwinner A1x, Rockchip RK29xx
Cortex-A9 アプリケーション向け, 1 – 4コア対称型マルチプロセッシング, (VFP), (NEON), Jazelle RCT and DBX, Thumb-2, アウト・オブ・オーダー実行, 投機的実行, スーパースケーラ メモリ管理ユニット, TrustZone 2.5 DMIPS/MHz (800 MHz – 2 GHz) TI OMAP 4, Freescale i.MX 6, ST-Ericsson NovaThor U8500, NVIDIA Tegra 2, NVIDIA Tegra 3, NVIDIA Tegra 4i, STMicroelectronics SPEAr1300, ザイリンクス Zynq-7000, Apple A5, Rockchip RK3xxx, Samsung Exynos 4, HiSilicon K3V2, Kirin 910, MediaTek, Renesas RZ/A
Cortex-A15 1 – 4コア対称型マルチプロセッシング メモリ管理ユニット, TrustZone, ラージ物理アドレス拡張 3.5 DMIPS/MHz (1 GHz – 2.5 GHz) TI OMAP 5, Samsung Exynos 5, NVIDIA Tegra 4, NVIDIA Tegra K1, HiSilicon Kirin 920, Renesas APE6, Renesas R-Car H2, Renesas MP6530
Cortex-A17 1 – 4コア対称型マルチプロセッシング メモリ管理ユニット, TrustZone, ラージ物理アドレス拡張 Rockchip RK3288
v8-A Cortex-A32 超小型、低消費電力、電力効率重視。IoT機器向け。32ビット命令セット。
Cortex-A35 低コスト、低消費電力、電力効率重視。64ビット命令セット。 メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス MediaTek Helio X30
Cortex-A53 64ビット命令セット。暗号化命令 メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス 2.3 DMIPS/MHz Snapdragon 410, 412, 415, 425, 610, 615, 617, 625, 808, 810, HiSilicon Kirin 620, 930, 935, Rockchip RK3368, MediaTek MT6732, 6735, 6737, 6737T, 6738, 6750, 6752, 6753, Helio P10, P20, P25, X10, X30
Cortex-A57 メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス 4.1 DMIPS/MHz Snapdragon 808, 810, Nvidia Tegra X1, Samsung Exynos 7
Cortex-A72 メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス Snapdragon 618, 620, 650, 652, HiSilicon Kirin 950, 955
Cortex-A73 メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス HiSilicon Kirin 960, MediaTek Helio X30
v8.2-A Cortex-A55 メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス
Cortex-A75 L1D: 64 KB, メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス
Cortex-A76 4命令decode L1D: 64 KB, メモリ管理ユニット, TrustZone, 64bit仮想アドレス

サードパーティー

ファミリー アーキテクチャ 名称 特徴 キャッシュ (I/D)/MMU 性能 MIPS @ MHz 採用製品
StrongARM v4 SA-1 16 KB/8 – 16 KB, MMU 1.0 DMIPS/MHz (203 – 206 MHz)
XScale v5TE 80200/IOP310/IOP315 I/O Processor
80219
IOP321 en:Iyonix
IOP33x
PXA210/PXA250 Applications processor ザウルス SL-5600, SL-A300
PXA255 32 KB/32 KB, MMU 400 BogoMips @ 400 MHz en:Gumstix
PXA26x
PXA27x 800 MIPS @ 624 MHz HTC Universal, ザウルス SL-C1000,3000,3100,3200,Willcom W-ZERO3シリーズ WS003SH,WS004SH,WS007SH,WS011SH,WS020SH
PXA800(E)F
Monahans 1000 MIPS @ 1.25 GHz
PXA900 Blackberry 8700, Blackberry Pearl (8100)
IXC1100 Control Plane Processor
IXP2400/IXP2800
IXP2850
IXP2325/IXP2350
IXP42x en:NSLU2
IXP460/IXP465
Snapdragon v7-A Scorpion アプリケーション向け, 1 – 2コア対称型マルチプロセッシング, VFPv3, NEON, Thumb-2, Jazelle RCT, アウト・オブ・オーダー実行, 投機的実行 可変(L1+L2), MMU, TrustZone 2.1 DMIPS/MHz (800 MHz – 1.5 GHz) Qualcomm Snapdragon S1, S2, S3 (第1 – 3世代)
Krait アプリケーション向け, 1 – 4コア対称型マルチプロセッシング, VFPv4 MMU, TrustZone 3.3 DMIPS/MHz ( – 2.5 GHz) Qualcomm Snapdragon S4 (第4世代・S4 Playは除く), 400/600/800 (第5世代)
v8-A Kryo 64 KB/512 KB – 1 MB 6.3 DMIPS/MHz ( – 2.6 GHz) Qualcomm Snapdragon 820
Centriq v8-A Folker Centriq 2400
ARMADA v7-A Sheeva PJ4 アプリケーション向け, 1 – 4コア対称型マルチプロセッシング, VFPv3, Wireless MMX2, Thumb-2 可変(L1+L2), MMU, TrustZone 2.42 DMIPS/MHz ( – 1.5 GHz) Marvell ARMADA 500/600シリーズ
Sheeva PJ4B 組み込み向け, 1 – 4コア対称型マルチプロセッシング, VFPv3, NEON, Wireless MMX2, Thumb-2 可変(L1+L2), MMU, TrustZone 2.61 DMIPS/MHz ( – 1.6 GHz) Marvell ARMADA XP/370/1500
Apple Ax v7-A Swift アプリケーション向け, 2コア対称型マルチプロセッシング, VFPv4 32 KB/32 KB 1.1 GHz, 1.4 GHz Apple A6, Apple A6X
v8-A Cyclone アプリケーション向け, 2コア, AArch64 64 KB/64 KB 1.3 GHz Apple A7
Cyclone gen 2 アプリケーション向け, 2コア, AArch64 64 KB/64 KB 1.1 GHz, 1.4 GHz Apple A8
Typhoon アプリケーション向け, 3コア, AArch64 64 KB/64 KB 1.5 GHz Apple A8X
Twister アプリケーション向け, 2コア, AArch64 64 KB/64 KB 1.8 GHz, 2.25 GHz Apple A9, Apple A9X
Hurricane, Zephyr アプリケーション向け, 2+2コア, AArch64 64 KB/64 KB 2.33 GHz Apple A10 Fusion
アプリケーション向け, 3+3コア, AArch64 2.38Ghz Apple A10X Fusion
Monsoon, Mistral アプリケーション向け, 2+4コア, AArch64 L1: 64 KB/64 KB, L2: 8 MB 2.39 GHz Apple A11 Bionic
Vortex, Tempest アプリケーション向け, 2+4コア, AArch64 L1: 128 KB/128 KB, L2: 8 MB 2.49 GHz Apple A12 Bionic
アプリケーション向け, 4+4コア, AArch64 2.5GHZ Apple A12X Bionic, Apple A12Z Bionic
v8.3-A Lightning, Thunder アプリケーション向け, 2+4コア, AArch64 L1: 48 KB/48 KB, L2: 4 MB 2.65 GHz Apple A13 Bionic
v8.6-A Firestorm, Icestorm アプリケーション向け, 2+4コア, AArch64 L1: 192 KB/64 KB, L2: 12 MB/4 MB 2.99 GHz Apple A14 Bionic
Apple M1 アプリケーション向け, 4+4コア, AArch64 L1: 192 KB/64 KB, L2: 12 MB/4 MB 3.2 GHz Apple M1
Tegra K1 v8-A Denver 128 KB/64 KB Google Nexus 9, Xiaomi Mi Pad
Parker Denver 2.0 DRIVE PX2
Xavier Carmel DRIVE Xavier, Jetson AGX Xavier
Exynos v8-A Exynos M1 64 KB/2 MB(4コアシェア) Exynos 8890 (Exynos 8 Octa)
Exynos M2 64 KB/2 MB(4コアシェア) Exynos 8895
Exynos M3 64 KB/2 MB(4コアシェア) Exynos 9810

ARMv7-A, v8-A は以下の SoC で実装されている。

ARMアーキテクチャを採用しているCPU/メーカ

ARMホールディングスの概要にあるように、ARMホールディングスはARMアーキテクチャの設計のみをしており、製造は行ってはいない。ARMはIPコアとして各社にライセンスされ、それぞれの会社において機能を追加するなどしてCPUとして製造される。製造されたCPUはそのまま、あるいはボード上に実装、もしくは製品に組み込まれた形で販売などされる。

以下に『CPUそのもの』『ボード上に実装したもの』などCPUやボードのシリーズ名やブランド名などが明確な主なメーカ名/CPU名/シリーズ名等を記する。

32ビットARM

命令セット

ARM は RISC プロセッサであり、Thumb 命令ではなく ARM 命令の場合、その命令セットは

  • 32ビット固定長命令
  • ロード/ストアアーキテクチャ
  • 3オペランドのレジスタ間演算
  • 多くの命令が1サイクルで実行可能

といった、多くの32ビットRISCプロセッサに共通する特徴が見られる。

ARMプロセッサは、PC相対アドレッシングやプレ-/ポスト-インクリメント・アドレッシングモードなど、RISCとみなされる他のアーキテクチャと比べ、豊富なアドレッシングモードを持っている。

もう一つ留意すべきことは、ARMの命令セットが時間とともに増加しているということである。例えば、初期のARMプロセッサ(ARM7TDMIより以前のもの)は2バイトの値をロードする命令がなかった。

CPUモード

32ビット ARM アーキテクチャはいくつかのCPUモードを持つ。同時には1つのモードにしかなれない。命令や外部からの割込みなどでモードが切り替わる[28]

ユーザーモード
唯一の非特権モード。
高速割込みモード
FIQ 割込みが発生したときに切り替わる特権モード。
割込みモード
IRQ 割込みが発生したときに切り替わる特権モード。
スーパーバイザーモード
CPU がリセットされたときか SWI 命令が実行されたときに切り替わる特権モード。
アボートモード
プリフェッチアボートかデータアボート例外が発生したときに切り替わる特権モード。
未定義モード
未定義命令が実行されたときに切り替わる特権モード。
システムモード (ARMv4以降)
これが唯一例外が原因で切り替わるモードではない。CPSRレジスタにこのモードを書くことによりこのモードに切り替えることが出来る。
MONモード (要セキュリティ拡張)
TrustZone 拡張をサポートするために作られたモニターモード。
HYP 別名 PL2 モード (ARMv7以降)
仮想化拡張、ハイパーバイザーモード。[29]

レジスタ

レジスタ R0 から R7 は全ての CPU モードで同一。これらは決してバンクされない。

R13 と R14 はシステムモード以外の全ての特権 CPU モードでバンクされる。独自の R13 と R14 を持つことにより例外からそれぞれのモードに切り替えられる。R13 はスタックポインタ、R14 は関数からの戻りアドレスを持つ。

CPU モードごとのレジスタ
usr sys svc abt und irq fiq
R0
R1
R2
R3
R4
R5
R6
R7
R8 R8_fiq
R9 R9_fiq
R10 R10_fiq
R11 R11_fiq
R12 R12_fiq
R13 R13_svc R13_abt R13_und R13_irq R13_fiq
R14 R14_svc R14_abt R14_und R14_irq R14_fiq
R15
CPSR
SPSR_svc SPSR_abt SPSR_und SPSR_irq SPSR_fiq

別名:

  • R13 は SP とも呼ばれ、スタックポインタ
  • R14 は LR とも呼ばれ、リンクレジスタ
  • R15 は PC とも呼ばれ、プログラムカウンタ

CPSR は下記32ビットを持つ[30]

  • M (ビット 0 - 4) はプロセッサモードビット
  • T (ビット 5) は Thumb ステートビット
  • F (ビット 6) は FIQ 無効ビット
  • I (ビット 7) は IRQ 無効ビット
  • A (ビット 8) は不正データアボート無効ビット
  • E (ビット 9) はデータエンディアンビット
  • IT (ビット 10 - 15 と 25 - 26) は if-then ステートビット
  • GE (ビット 16 - 19) は greater-than-or-equal-to ビット
  • DNM (ビット 20 - 23) は書き換え禁止ビット
  • J (ビット 24) は Java ステートビット
  • Q (ビット 27) は sticky overflow ビット
  • V (ビット 28) はオーバーフロービット
  • C (ビット 29) は carry/borrow/extend ビット
  • Z (ビット 30) は零ビット
  • N (ビット 31) は negative/less ビット

VFP/NEON用として、これらとは別に32ビット用はs0〜s31のレジスタがある。これらは、64ビットレジスタとしてd0〜d15として使える。s0〜s31とd0〜d15はオーバーラップしている。大半の ARMv7-A SoC はさらに、d16〜d31も使える。

VFP/NEON用のシステムレジスタとして、以下の3つがある。

  • FPSCR - Floating-point status and control register (浮動小数点状態制御レジスタ)
  • FPEXC - Floating-point exception register (浮動小数点例外レジスタ)
  • FPSID - Floating-point system ID register (浮動小数点システムIDレジスタ)

条件実行

ARMの命令セットにおいてユニークなのは、マシン語の最上位4ビットを占める条件コードを使用した条件実行命令であり、これによってほぼ全ての命令を分岐命令無しに条件付きで実行することができる。

これにより、マシン語中の即値フィールドに割けるビット数が減ってしまう等の欠点もあるものの、小さなif文に対応するコードの生成時に分岐命令を避けることが可能になる。例として、ユークリッドの互除法を挙げる。

(この例はC言語による)

int gcd(int i, int j)
{
    while (i != j) {
        if (i > j)
            i -= j;
        else
            j -= i;
    }
    return i;
}

ARMのアセンブリ言語では、whileループの部分は以下のようになる。

 
 loop
        CMP    Ri, Rj       ; i と j を比較
        SUBGT  Ri, Ri, Rj   ; もし "GT" ならば i = i - j;  
        SUBLT  Rj, Rj, Ri   ; もし "LT" ならば j = j - i; 
        BNE    loop         ; もし "NE" ならば loop に戻る

通常分岐命令を使用しなければならないthenやelse節のところで分岐が省かれていることが分かる。

命令セットのもう一つのユニークな機能が、シフト演算を「データ処理」(算術演算、論理演算、レジスタ間の代入)命令の中に織り込むことができることである。例えば、C言語の

a += (j << 2);

のような文を1つのARM命令

        ADD     Ra, Ra, Rj, LSL #2

として表すことができる。(なお、Intel 80386などでも1個の命令でできる。LEA EAX,[EAX+EBX*4] とすればよい。)

これにより、多くのARMプログラムは通常RISCプロセッサに期待されるようなプログラムよりも密度の高いものになる。このため、命令フェッチに伴うメモリへのアクセス頻度が少なくなり、分岐に伴うストールも回避しやすく、パイプライン処理を効率的に使うことができる。このことが、ARMがARMより複雑なCPUデザインと競合することを可能にした特徴的な一因のひとつである。

Thumb

ARMプロセッサはThumbと呼ばれるコード効率の向上を意図した16ビット長の命令モードを持っている(SuperHの命令16ビット/データ32ビットに倣い追加された)。条件実行のための4ビットプレディケートが削除されている。メモリポートやバスが32ビットよりも狭い状況において32ビットコードよりも性能が向上する。多くの場合、組み込みアプリケーションでは32ビットのデータパスを持っているのは一部のアドレス範囲のみであり(例: ゲームボーイアドバンス)、残りは16ビットかそれよりも狭くなっている。このような状況では、Thumbコードをコンパイルし、CPUに最も負荷のかかる部分だけを32ビット長の命令セットを使用して手作業で最適化するのが、通常は理にかなっている。Thumb命令とARM命令は単一の実行ファイル内で混在が可能であるが、Thumb命令を実行できるモードとARM命令を実行できるモードは独立しており、両者を使うにはその都度プロセッサの状態を切り替える必要がある。状態の切り替えは分岐命令 (BX, BLX) で行うことができるため、通常は関数単位でThumb命令とARM命令を使い分け、関数呼び出しの際に切り替えを行うのが一般的である。

Thumbテクノロジを搭載した最初のプロセッサはARM7TDMIである。ARM9とそれ以降のファミリは、XScaleも含めて全てThumbテクノロジを搭載している。

Thumb-2

Thumb-2テクノロジは2003年に発表されたARM1156コアで登場した。Thumb-2はThumbの制限された16ビット長の命令セットを追加の32ビット長命令で拡張し、命令セットの幅を広げるものである。公称されているThumb-2の目的は、Thumbと同様のコード密度と32ビットメモリ上でのARM命令セットと同様の性能を得ることであり、Thumb-2はビットフィールド操作、テーブル分岐や条件付き実行などを含んでいる。従来はThumbモードにおいて使用可能な汎用レジスタは8本のみであり自由度が低かったが、Thumb-2で導入された32ビット長命令では16本全てのレジスタが使用可能である。16ビット長命令と32ビット長命令はモードの切り替えなしで混在可能であるため、ThumbモードにおいてもARMモードに近い自由度が得られるようになった。

Jazelle

ARMは、Javaバイトコードをハードウェアでネイティブに実行できる技術を実装した。これはARMやThumbモードと並ぶもう一つの実行モードであり、ARM/Thumbの切り替えと同様にしてアクセスすることができる。後述のJazelle RCTに対してJazelle DBX (Direct Bytecode eXecution) とも言う。

Jazelleテクノロジを搭載した最初のプロセッサはARM926EJ-Sである。CPU名の'J'がJazelleを表している。

Thumb Execution Environment (ThumbEE)

ThumbEEJazelle RCT (Runtime Compilation Target)とも呼ばれる第4のモードである。2005年にアナウンスされ、Cortex-A8プロセッサで最初に実装された。Thumb-2命令セットに小規模な変更を加えたもので、JITコンパイラのように実行時にコードを生成する場合に向いている。主な対象はJava.NET MSILC#など)、PythonPerlなどの言語である。

DSP 拡張命令

デジタル信号処理とマルチメディアアプリケーション向けに ARMアーキテクチャを拡張するため、いくつかの命令が追加された[3]ARMv5TEARMv5TEJ というアーキテクチャ名の "E" がこれを表していると思われる。

追加された命令は、デジタルシグナルプロセッサアーキテクチャで一般的なものである。例えば、符号付積和演算、飽和加算と飽和減算、「先行する0のカウント」のバリエーションである。

SIMD

ARMv6で導入された[31]。32ビット幅。

Advanced SIMD (NEON)

Advanced SIMD拡張はNEONとも呼ばれ、メディアおよびデジタル信号の処理に向いた64ビットと128ビットSIMD命令セットである。8/16/32/64ビットの整数演算と、32ビット (単精度) 浮動小数点演算のためのSIMD命令が定義されており、ARMv7から利用可能。32ビットCPUでは倍精度浮動小数点数は利用不可で、倍精度にはVFPを使用。

ほとんどの ARMv7 SoC で NEON に対応しているが、NVIDIA Tegra 2 シリーズ、SPEAr1310、SPEAr1340 などで対応していない。

レジスタはVFPレジスタとして用意されている32本の64ビットレジスタを用いて、32本の64ビットSIMDレジスタ (D0-D31) 、もしくは16本の128ビットSIMDレジスタ (Q0-Q15) としてアクセスできる。例えば128ビットレジスタQ0はD0とD1の2つの64ビットレジスタの領域にマッピングされている。

Cortex-A15 などより、NEONv2 (version 2) が搭載され、Fused Multiply-Add ができる。これにより、単精度浮動小数点数で 8 FLOPS/cycle となった。

Wireless MMX

Wireless MMX (WMMX) はインテルがXScaleプロセッサ向けに開発したSIMD命令セットである。64ビット幅のレジスタが16本用意されており、8/16/32/64ビットのSIMD整数演算が可能。XScaleとその売却先であるマーベル・テクノロジー・グループ製のARM SoCに採用されている。命令セット自体はx86プロセッサのMMXとは全く異なるものの、GCCVisual C++等のコンパイラで利用できる組み込み関数はMMXとの互換性がある程度確保されており、これを利用すればMMX向けに記述されたコードを比較的容易に移植することができる。

VFP

VFP (Vector Floating Point) はARMアーキテクチャのコプロセッサ拡張である。半精度(v3以降)・単精度・倍精度の浮動小数点演算機能を提供する。

  • VFPv1 - 廃止
  • VFPv2 - ARMv5TE、ARMv5TEJ、ARMv6 で利用可能
  • VFPv3 - ARMv7 で利用可能。通常はレジスタ数32個であるが、NVIDIA Tegra 2 シリーズなどはレジスタ数が半分のVFPv3-D16を採用。Cortex-A8の実装はパイプライン化されておらず非常に低速 (VFP Lite)。
  • VFPv4 - Cortex-A5, A7, A15, Apple A6, Snapdragon Krait などで利用可能。IEEE754準拠の(乗算結果の丸めを行わない)Fused multiply add 対応。VFPv4-D16 もあり。

"Vector" の名を冠する通り、いくつかの命令においてはベクタモードと呼ばれる1命令で複数のレジスタに対して演算を行うモードが用意されている。このモードを使えばSIMD演算が可能であるが、プログラミングモデルがやや煩雑[注釈 1]であったことや、当時のARM11プロセッサにおける実装はスカラ命令を要素数分だけシーケンシャルに実行するというSIMD演算のメリットを享受できないものであったため、あまり積極的には使われなかった。VFPv3を実装するARMv7世代以降ではモダンなSIMD命令セットであるAdvanced SIMD拡張命令 (NEON) が導入されたため、現在ではベクタモードの利用は推奨されていない。Cortex-A9やA15ではベクタモードに対応していない[注釈 2]ことから分かるように、現在のARMアーキテクチャにおけるVFPの位置づけはスカラ専用の浮動小数点演算コプロセッサであり、SIMD演算用途についてはNEONに道を譲っている。

単精度の浮動小数点演算はNEONでも実行可能であるが、倍精度の浮動小数点演算やIEEE754準拠の4つの丸めモード、非正規化数のサポート等はNEONには存在しないため、これらを利用したい場合はVFP命令を使う必要がある。

64ビットARM

ARMv8-Aから採用。ARMの64ビットモードアーキテクチャAArch64では、汎用レジスタはすべて64ビットとなり、数も16個から31個に増やされる。サーバ用途も意識して仮想化支援命令および暗号支援命令が追加され、SIMD拡張命令であるNEONも大幅に強化される。

命令セットの特徴

汎用レジスタの増加と64ビット化に伴い、命令セットは完全に再定義されている。コード効率を重視して命令長は32ビットのままで、32ビットARMの特徴であった条件付き実行命令の大半が削除される。これによって一般的なRISC命令セットに近くなったが、依然としてコードサイズを小さくするための工夫が随所に織り込まれている。

AArch64モードにおける命令セットはA64と呼ばれ、以下にA64命令セットの特徴を示す。

即値シフト付きオペランド
これは従来の32ビットARM命令セットにおいてフレキシブル第2オペランド (Flexible second operand) と呼ばれていたものに相当する。多くの基本的な演算命令においては、入力オペランドのうち1つに対する操作を即値左シフト、即値論理右シフト、即値算術右シフト、シフトなし、の4つから選択することができ、演算命令と即値シフト命令を一体化することができる。なお、従来とは異なりローテートは不可能となった。
条件付き実行命令
汎用レジスタ数が倍増したのに伴い、基本命令の多くからは条件付き実行機能が削除されたが、それでも比較的豊富な条件付き実行命令が定義されている。代表的なものを挙げるとCCMP(条件付き比較)、CINC(条件付きインクリメント)、CSEL(条件付き選択; いわゆるCMOV)等が存在する。
Compare-and-Branch命令
PC相対分岐においては、ゼロフラグを参照する場合のみであるが比較と条件分岐を1命令で行うことが可能になっている (CBZ/CBNZ)。これは従来Thumb-2命令セットでのみ定義されていたものであるが、A64モードでは基本命令として定義されている。
符号拡張/ゼロ拡張付き命令
算術演算/比較命令については、入力オペランドのうち1つを8,16,32ビットから32もしくは64ビットに符号/ゼロ拡張するバージョンが用意されている。

汎用レジスタは64ビット幅であるが、多くの演算命令にはレジスタの下位32ビットのみを参照する32ビット命令が用意されている。この場合、レジスタの部分書き換えが発生しないように、演算結果の32ビットの値は暗黙のゼロ拡張が行われた上で64ビットレジスタに格納される。

SIMD and Floating-point (NEON) 命令

A64命令セットにおいては従来のVFPとAdvanced SIMD (NEON) は統合され、一つの命令体系となった。これに伴い、名称については単にSIMD and Floating-point命令と呼ばれるようになった。

主な変更点は倍精度浮動小数点演算への対応、IEEE754への準拠、レジスタ本数の増加の3点である。レジスタについては128ビットのレジスタが32本に増加している。依然として64ビットレジスタとしてアクセスすることも可能であるが、32ビットモードとは異なり、64ビットレジスタは128ビットレジスタの下位64ビットにマッピングされている。

VFPとAdvanced SIMDの統合に伴い、従来はVFPが担っていたスカラの浮動小数点演算命令は、SIMDレジスタのうち下位の32/64ビットにのみ作用する命令として再定義されている。例えば浮動小数点加算命令については

 fadd  s2, s1, s0             ; s2 <= s0 + s1(単精度スカラ)
 fadd  d2, d1, d0             ; d2 <= d0 + d1(倍精度スカラ)
 fadd  v2.4s, v1.4s, v0.4s    ; [v2] <= [v0] + [v1](単精度x4 SIMD)
 fadd  v2.2d, v1.2d, v0.2d    ; [v2] <= [v0] + [v1](倍精度x2 SIMD)

のようなバリエーションが命令のニーモニックを保ちつつ、オペランドのプレフィックス (s, d, v) とサフィックスを変更することによって記述可能になっている(サフィックスについては、一部の環境向けのアセンブラではニーモニック側に付加する省略記法も許されるようである)。これはx86プロセッサのSSE命令セットがスカラ命令とSIMD命令の双方を備えているのとよく似ている。

脚注

注釈

  1. ^ ベクトルレジスタが明示的に用意されておらず、複数のスカラレジスタに対して演算を行う。ベクタ長は固定されておらず、FPSCRという特殊なレジスタで最大8要素までのベクタ長を指定可能。また、レジスタがスカラモードのみで使えるバンクとベクタモードで使えるバンクに分けられており、レジスタの組み合わせに制約がある。
  2. ^ ARMプロセッサのベクタモードへの対応はMVFR0レジスタの24-27ビット目を参照することで確認できる。

出典

  1. ^ [1]
  2. ^ http://www.arm.com/miscPDFs/3823.pdf
  3. ^ http://www.jp.arm.com/pressroom/08/080125.html
  4. ^ https://news.mynavi.jp/articles/2010/09/10/cortex-a15/index.html
  5. ^ http://ascii.jp/elem/000/000/645/645995/
  6. ^ Smotherman, Mark. “Which Machines Do Computer Architects Admire?”. 2011年9月19日閲覧。
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  14. ^ 日本TI、モバイルの概念を一変させる高性能、高機能のOMAP™5プラットフォームを発表
  15. ^ 【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】 ARMが次世代CPU「Atlas」と「Apollo」の計画を発表
  16. ^ AMD’s K12 ARM CPU Now In 2017
  17. ^ 苦難の2013年を越え、輝かしい2014年に賭けるAMD (大きな期待が寄せられているサーバー向け64ビットARMプロセッサ)
  18. ^ ARM Sets New Standard for the Premium Mobile Experience - ARM
  19. ^ Qualcomm Introduces Next Generation Snapdragon 600 and 400 Tier Processors for High Performance, High-Volume Smartphones with Advanced LTE | Qualcomm
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  31. ^ DSP & SIMD - ARM

関連項目

外部リンク