「タンパク質生合成」の版間の差分
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[[File:Summary of the protein biosynthesis process.png|thumb|upright=1.2|alt=A nucleus within a cell showing DNA, RNA and enzymes at the different stages of protein biosynthesis| タンパク質生合成は、核内での転写と転写後修飾で始まる。そして生成した成熟mRNAは細胞質に運ばれて翻訳されてポリペプチド鎖を形成する。次にポリペプチド鎖は折りたたまれ、翻訳後修飾を受けて機能的なタンパク質を形成する。]] |
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'''タンパク質生合成'''(タンパクしつせいごうせい)とは、[[細胞]]が[[蛋白質|タンパク質]]を作る工程である。 |
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狭義には[[翻訳 (生物学)|翻訳]]のみを指すこともあるが、[[アミノ酸]]生合成から[[転写 (生物学)|転写]]、翻訳までの多段階プロセス全体を指すのが一般的である。 |
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タンパク質生合成は、[[真正細菌]]と[[真核生物]]、[[古細菌]]の間で多くが共通しているが、一部異なっている。 |
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'''タンパク質生合成'''(たんぱくしつせいごうせい、{{Lang-en-short|protein biosynthesis}})は、'''タンパク質合成'''({{Lang-en-short|protein synthesis}})とも呼ばれ、[[細胞]]内で行われる中心的な{{仮リンク|生物学的プロセス|en|Biological process}}であり、新しい[[タンパク質]]の生成を通じて細胞内タンパク質の消失([[タンパク質分解|分解]]や{{仮リンク|タンパク質輸送|en|Protein targeting|label=輸送}})との[[ホメオスタシス|バランス]]を維持する。タンパク質は、[[酵素]]、[[構造タンパク質 (ウイルス学)|構造タンパク質]]、または[[ホルモン]]として、多くの重要な機能を果たしている。[[原核生物]]と[[真核生物]]の両方で、タンパク質生合成は非常によく似たプロセスであるが、いくつかの明確な違いがある<ref name="Alberts 2015">{{cite book | vauthors = Alberts B |title=Molecular biology of the cell |date=2015 |publisher=Garland Science, Taylor and Francis Group |location=Abingdon, UK |isbn=978-0815344643 |edition= Sixth}}</ref>。 |
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== アミノ酸生合成 == |
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{{main|アミノ酸合成}} |
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アミノ酸は、分子量100強程度の低分子であり、[[重合]]することによってタンパク質を形成する。生物はアミノ酸自身を合成するための代謝経路を持ち、一連の生化学的プロセスにおいて、[[グルコース]]や[[アンモニア]]といった単純な化合物からアミノ酸を合成する。 |
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但し、全ての生物が全てのアミノ酸を合成できるわけではなく、例えばヒトでは9種類程度の[[必須アミノ酸]]が知られている。 |
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タンパク質生合成は、[[転写 (生物学)|転写]]と[[翻訳 (生物学)|翻訳]]の2つの段階に大きく分けられる。転写の際、タンパク質をコード(符号化)する[[デオキシリボ核酸|DNA]]([[遺伝子]]として知られる)の一部が、[[メッセンジャーRNA]]('''mRNA''')と呼ばれる鋳型分子に変換される。この変換は、細胞の[[細胞核|核内]]で[[RNAポリメラーゼ]]と呼ばれる酵素によって行われる<ref name="O'Connor 2010">{{cite book | vauthors = O'Connor C |title=Essentials of Cell Biology |date=2010 |publisher=Cambridge, MA |location=NPG Education |url=https://www.nature.com/scitable/ebooks/essentials-of-cell-biology-14749010/ |access-date=3 March 2020}}</ref>。真核生物では、このmRNAは最初は未成熟な形('''[[pre-mRNA]]''')で作られ、[[転写後修飾]]を受けて'''[[成熟メッセンジャーRNA|成熟mRNA]]'''が生成される。成熟mRNAは、細胞核から[[核膜孔]]を通って[[細胞質]]へと運ばれ、翻訳が行われる。翻訳の際、mRNAは'''[[リボソーム]]'''によって読み取られ、リボソームはmRNAの[[ヌクレオチド]]配列を使用して[[アミノ酸]]の配列を決定する。リボソームは、コード化されたアミノ酸間の[[共有結合|共有]][[ペプチド結合]]の形成を触媒して、[[ポリペプチド鎖]]を形成する。 |
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== 転写 == |
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{{main|転写}} |
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[[File:simple transcription elongation1.svg|thumb|400px|Simple diagram of transcription elongation]] |
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転写とは、タンパク質の配列を運ぶ[[伝令RNA|mRNA]]が[[ゲノム]]から作られる過程である。転写には、開始、伸長、終結の3段階が存在し、それぞれのステップにおいて数多くの因子による制御を受けている。そして転写反応の中心である、[[デオキシリボ核酸|DNA]]鎖からそれに相補的な[[リボヌクレオチド|RNA]]鎖を合成する働きは、[[RNAポリメラーゼ]]と呼ばれるタンパク質複合体によって担われている。[[プロモーター]]領域の転写開始点に誘導された[[RNAポリメラーゼ]]は、DNAに結合し、DNAのテンプレート鎖上を移動しながら、それと相補的な[[リボ核酸|RNA]]鎖を合成していく。 |
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翻訳されたポリペプチド鎖は、[[タンパク質#機能|機能性タンパク質]]を形成するために、適切に折りたたまれなければならない。たとえば酵素として機能する場合、ポリペプチド鎖が正しく折りたたまれて機能的な[[活性部位]]を形成する必要がある。そのポリペプチド鎖が機能的な三次元(3D)形状をとるためには、まず[[二次構造]]と呼ばれる一連の小さな基礎構造を形成しなければならない。次に、これらの二次構造のポリペプチド鎖が折り重なって、全体の三次元的な[[三次構造]]が形成される。正しく折りたたまれると、タンパク質はさまざまな翻訳後修飾を受けてさらに成熟する。翻訳後修飾は、タンパク質の機能、細胞内での位置(細胞質や核など)、他のタンパク質と[[タンパク質間相互作用|相互作用]]する能力を変化させる<ref name="Wang 2013">{{cite journal | vauthors = Wang YC, Peterson SE, Loring JF | title = Protein post-translational modifications and regulation of pluripotency in human stem cells | journal = Cell Research | volume = 24 | issue = 2 | pages = 143–160 | date = February 2014 | pmid = 24217768 | pmc = 3915910 | doi = 10.1038/cr.2013.151 | doi-access = free }}</ref>。 |
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原核生物においては転写産物がそのまま翻訳に利用されるが、真核生物においては[[5´キャップ]]や[[ポリAテール]]の付加、[[スプライシング]]といった様々な転写後の修飾、編集が行われ、成熟した[[伝令RNA|mRNA]]と成る。 |
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タンパク質生合成は、疾患において重要な役割を果たしており、DNAの[[変異]]やタンパク質の[[ミスフォールディング]](誤った折りたたみ)など、このプロセスの変化や誤りが疾患の根本的な原因となることが多い。DNA変異は、後続するmRNA配列を変化させ、それからmRNAにコード化されたアミノ酸の配列を変化させる。変異によって翻訳を早期終了させる[[終止コドン|ストップシークエンス]]が生成することで、[[ナンセンス突然変異|ポリペプチド鎖が短くなる]]ことがある。あるいはまた、mRNA配列が変異することにより、ポリペプチド鎖のその位置にコードされている特定のアミノ酸が変化する。このアミノ酸の変化は、タンパク質が機能を果たしたり正しく折りたたまれる能力に影響を及ぼすことがある<ref name="Scheper 2008">{{cite journal | vauthors = Scheper GC, van der Knaap MS, Proud CG | title = Translation matters: protein synthesis defects in inherited disease | journal = Nature Reviews. Genetics | volume = 8 | issue = 9 | pages = 711–723 | date = September 2007 | pmid = 17680008 | doi = 10.1038/nrg2142 | s2cid = 12153982 }}</ref>。誤って折りたたまれたタンパク質は、互いにくっついて高密度の[[タンパク質凝集|タンパク質凝集塊]]を形成する傾向があるため、しばしば疾患に関与している。このような凝集塊は、[[アルツハイマー病]]や[[パーキンソン病]]など、多くの場合は[[神経疾患|神経学的]]な、さまざまな疾患に関連している<ref name="Berg 2015">{{cite book | vauthors = Berg JM, Tymoczko JL, Gatto Jr GJ, Stryer L |title=Biochemistry |date=2015 |publisher=W. H. Freeman and Company |location=US |isbn=9781464126109 |edition=Eighth}}</ref>。 |
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==転写== |
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{{main|翻訳 (生物学)|en:Transcription (genetics)}} |
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転写とは、DNAを鋳型としてmRNAを生成することで、細胞の核内で行われる。真核生物では、このmRNA分子はpre-mRNAと呼ばれ、核内で転写後修飾を受けて成熟mRNA分子となる。ただし、原核生物では転写後修飾は必要ではなく、転写によって直接に成熟mRNA分子が生成される<ref name="Alberts 2015" />。 |
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{{multiple image |
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| align = right |
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| direction = horizontal |
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| width = 200 |
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| image1 = Nucleotide structure within a polynucleotide chain.png |
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| alt1 = 塩基とリン酸基が結合した五角形の五炭糖で、ホスホジエステル結合を介して他のヌクレオチドのリン酸基と結合している。 |
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| caption1 = 共有結合性のホスホジエステル結合を形成するために必要なリン酸基の5'位と水酸基の3'位を示すラベルを付けた5個の炭素を持つヌクレオチドの構造を示す。 |
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| image2 = Directionality of DNA molecule.png |
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| alt2 = DNA分子内の2本のポリヌクレオチド鎖が、相補的な塩基対間の水素結合によって結合している様子を示す。一方の鎖は5'から3'の方向に走り、相補鎖は反平行であるので3'から5'の方向に走っている。 |
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| caption2 = コード鎖が5'から3'に走り、相補的鋳型鎖が3'から5'に走っているDNA分子の固有の方向性を示す。 |
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}} |
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最初に[[ヘリカーゼ]]と呼ばれる酵素がDNA分子に作用する。DNAは、2本の相補的な[[ポリヌクレオチド]]鎖から構成される[[逆平行 (生化学)|逆平行]]の[[二重らせん構造]]を持っており、塩基対間の[[水素結合]]によって結びついている。ヘリカーゼがこの水素結合を切断すると、遺伝子に相当するDNAの領域がほどけて2本のDNA鎖が分離し、一連の塩基が露出する。DNAは二本鎖分子であるにもかかわらず、片方の鎖のみがpre-mRNA合成の鋳型として機能する - この鎖は'''鋳型鎖'''(テンプレート鎖)と呼ばれる。もう一方のDNA鎖(鋳型鎖と[[相補性 (分子生物学)|相補的]]である)は'''コード鎖'''と呼ばれる<ref name="Toole2015">{{cite book | vauthors = Toole G, Toole S |title=AQA biology A level. Student book |date=2015 |publisher=Oxford University Press |location=Great Clarendon Street, Oxford, OX2 6DP, UK |isbn=9780198351771 |edition= Second}}</ref>。 |
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DNAと[[リボ核酸|RNA]]はどちらも固有の{{仮リンク|方向性 (分子生物学)|en|Directionality (molecular biology)|label=方向性}}を持っている。つまり、分子の両端は別個である。この方向性の特性は、基礎となるヌクレオチドサブユニットの非対称性によるもので、五炭糖の片側に[[リン酸基]]が、もう片側に塩基が存在する。五炭糖の5つの炭素には、1'('はプライムを意味する)から5'までの番号が付けられている。したがって、ヌクレオチドをつなぐホスホジエステル結合は、あるヌクレオチドの3'炭素上の[[ヒドロキシ基]]と別のヌクレオチドの5'炭素上のリン酸基が結合することで形成される。ゆえに、コードDNA鎖は5'から3'の方向に走り、相補的な鋳型DNA鎖は3'から5'の逆方向に走ることになる<ref name="Alberts 2015" />。[[File:Process of DNA transcription.png|upright=1.3|thumb|alt=Two strands of DNA separated with an RNA polymerase attached to one of the strands and an RNA molecule coming out of the RNA polymerase| RNAポリメラーゼによって、鋳型DNA鎖がpre-mRNA分子に変換(転写)される様子を示す。]] |
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[[RNAポリメラーゼ]]酵素は、露出した鋳型鎖に結合し、3'から5'の方向に遺伝子を読み取る。同時に、RNAポリメラーゼは、鋳型鎖と相補的な[[塩基対]]を形成することができる活性化ヌクレオチド(核内に遊離している)間で[[ホスホジエステル結合]]の形成を触媒することにより、5'から3'の方向にpre-mRNAの一本鎖を合成する。移動するRNAポリメラーゼの背後では、DNAの2本の鎖が再結合するので、一度に露出するDNAの塩基対は12個のみである<ref name="Toole2015" />。RNAポリメラーゼは、毎秒20ヌクレオチドの速度でpre-mRNA分子を構築するので、同じ遺伝子から1時間あたり数千のpre-mRNA分子を作り出すことができる。このように合成速度が速いにもかかわらず、RNAポリメラーゼ酵素には独自の校正機構が備わっている。RNAポリメラーゼの校正機構は切除反応によるもので、成長中のpre-mRNA分子から誤ったヌクレオチド(鋳型DNA鎖と相補的でないもの)を除去することができる<ref name="Alberts 2015" />。RNAポリメラーゼが転写を[[終止コドン|終了]]する特定のDNA配列に到達すると、RNAポリメラーゼが切り離され、pre-mRNAの合成が完了する<ref name="Toole2015" />。 |
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合成されたpre-mRNA分子は、鋳型DNA鎖と相補的であり、コードDNA鎖と同じヌクレオチド配列を持っている。ただし、DNA分子とmRNA分子のヌクレオチド組成には1つの決定的な違いがある。DNAは、[[グアニン]]、[[シトシン]]、[[アデニン]]、[[チミン]]の4種類の塩基(G、C、A、T)で構成されている。RNAもグアニン、シトシン、アデニン、[[ウラシル]]の4種類の塩基で構成されている。RNA分子では、DNA塩基のチミンの代わりに、アデニンと塩基対を形成することができるウラシル(U)が用いられている。したがって、pre-mRNA分子では、コードDNA鎖のチミンとなる相補的塩基がすべてウラシルに置き換えられる<ref name="Berk2000">{{cite book | vauthors = Berk A, Lodish H, Darnell JE |title=Molecular cell biology |date=2000 |publisher=W.H. Freeman |location=New York |isbn=9780716737063 |edition= 4th}}</ref>。 |
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=== 転写後修飾 === |
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{{Main|転写後修飾}}[[File:Post-transcriptional modification of pre-mRNA.png|upright=1.2|thumb|alt=three strands of RNA at different stages of maturation, the first strand contains introns and exons only, the second strand has gained a 5' cap and 3' tail and contains still introns and exons, the third strand has the cap and tail but the introns have been removed| pre-mRNAが転写後、キャップ付加、ポリアデニル化、スプライシングの修飾を受け、細胞核から輸送可能な成熟mRNA分子が生成されるプロセスを概観する。]] |
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転写が完了すると、pre-mRNA分子は[[転写後修飾]]を受け、成熟mRNA分子になる。 |
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転写後修飾には、次の3つの重要なステップがある。 |
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# pre-mRNA分子の5'末端に[[5'キャップ]]を付加 |
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# pre-mRNA分子の3'末端に3'[[ポリアデニル化|ポリ(A)テール]]を付加 |
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# [[RNAスプライシング]]による[[イントロン]]の除去 |
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5'キャップは、pre-mRNA分子の5'末端に付加され、[[メチル化]]によって修飾されたグアニンヌクレオチドで構成されている。5'キャップの目的は、翻訳前の成熟mRNA分子の分解を防ぐことである。また、キャップは、リボソームがmRNAに結合して翻訳を開始するのを助け<ref name="Khan2020">{{cite web |title=Eukaryotic pre-mRNA processing |url=https://www.khanacademy.org/science/biology/gene-expression-central-dogma/transcription-of-dna-into-rna/a/eukaryotic-pre-mrna-processing |website=Khan Academy |access-date=9 March 2020}}</ref>、mRNAを細胞内の他のRNAと区別できるようにする<ref name="Alberts 2015" />。一方、3'ポリ(A)テールは、mRNA分子の3'末端に付加され、100-200個のアデニン塩基で構成されている<ref name="Khan2020" />。このような異なるmRNA修飾によって、5'キャップと3'テールの両方が存在する場合、細胞は完全なmRNAメッセージが無傷であることを検出できる<ref name="Alberts 2015" />。 |
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次に、この修飾されたpre-mRNA分子は、RNAスプライシングのプロセスを経る。遺伝子は一連のイントロンと[[エクソン]]から構成され、イントロンはタンパク質をコードしないヌクレオチド配列であり、エクソンはタンパク質を直接コードするヌクレオチド配列である。イントロンとエクソンは、基礎となるDNA配列とpre-mRNA分子の両方に存在するため、タンパク質をコードする成熟mRNA分子を生成するためにはスプライシングが必要となる<ref name="Toole2015" />。スプライシングの際には、[[スプライセオソーム]]と呼ばれる多タンパク質複合体(150以上のタンパク質とRNAで構成される)によって、介在性のイントロンがpre-mRNA分子から除去される<ref name="Jo2015">{{cite journal | vauthors = Jo BS, Choi SS | title = Introns: The Functional Benefits of Introns in Genomes | journal = Genomics & Informatics | volume = 13 | issue = 4 | pages = 112–118 | date = December 2015 | pmid = 26865841 | pmc = 4742320 | doi = 10.5808/GI.2015.13.4.112 }}</ref>。その後、この成熟mRNA分子は、細胞核の外側にある核膜孔を通って細胞質へと輸送される。 |
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== 翻訳 == |
== 翻訳 == |
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{{main|翻訳 (生物学)}} |
{{main|翻訳 (生物学)|en:Translation (biology)}} |
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[[File:Translation - cycle.png|upright=1.4|thumb|alt=Five strands of mRNA with all with a ribosome attached at different stages of translation. The first strand has a ribosome and one tRNA carrying its amino acid base pairing with the mRNA, the second strand has a ribosome and a second tRNA carrying an amino acid base pairing with the mRNA, the third strand has the ribosome catalysing a peptide bond between the two amino acids on the two tRNA's. The fourth strand has the first tRNA leaving the ribosome and a third tRNA with its amino acid arriving. The fifth strand has the ribosome catalysing a peptide bond between the amino acids on the second and third tRNA's with an arrowing indicating the cycle continues| リボソームによるコドン-tRNAアンチコドン塩基対合形成、および成長中のポリペプチド鎖へのアミノ酸の組み込みのサイクルを示す翻訳プロセスの図。]] |
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{{節スタブ}} |
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[[Image:Protein translation.gif|thumb|upright=1.2|right|リボソームがmRNAの鎖に乗り、そこにtRNAが到着してコドン-アンチコドンの塩基対合を形成し、成長中のポリペプチド鎖にアミノ酸を送達して離脱する。リボソームが、ナノスケールで機能して翻訳を行う生物学的機械であることを示す。リボソームは、成熟mRNA分子に沿って移動して、tRNAを組み込み、ポリペプチド鎖を生成する。]] |
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== 翻訳後のイベント == |
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{{main|翻訳後修飾|フォールディング}} |
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翻訳の際、[[リボソーム]]はmRNA鋳型分子からポリペプチド鎖を合成する。真核生物では、翻訳は細胞の細胞質内で起こり、そこではリボソームが自在に遊離しているか[[小胞体]]に付着している。核細胞を持たない原核生物では、転写と翻訳の両プロセスが細胞質内で行われる<ref name="Khan Academy 2020">{{cite web |title=Stages of translation (article) |url=https://www.khanacademy.org/science/biology/gene-expression-central-dogma/translation-polypeptides/a/the-stages-of-translation |website=Khan Academy |access-date=10 March 2020 |language=en}}</ref>。 |
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タンパク質が機能するためには、折りたたまれて適切な立体構造をとることが重要である。その過程のことを[[フォールディング]]と呼ぶ。また、多くのタンパク質は、[[リン酸化]]や[[アセチル化]]など、様々な[[翻訳後修飾]]を受けることが知られており、それらがタンパク質の機能に関して非常に重要な働きを持つと考えられている。 |
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リボソームは、タンパク質と[[リボソームRNA]]の複合体からなる複雑な[[分子機械]]で、mRNA分子を取り囲むように2つのサブユニット(大サブユニットと小サブユニット)に分かれて配置されている。リボソームは、mRNA分子を5'-3'方向に読み進め、それを鋳型として用いて、ポリペプチド鎖のアミノ酸の種類と順番を決定する<ref name="Khan Academy 2020 - 2">{{cite web |title=Nucleus and ribosomes (article) |url=https://www.khanacademy.org/science/biology/structure-of-a-cell/prokaryotic-and-eukaryotic-cells/a/nucleus-and-ribosomes |website=Khan Academy |access-date=10 March 2020 |language=en}}</ref>。mRNA分子を翻訳するために、リボソームは[[転移RNA|トランスファーRNA]](tRNA、転移RNA)と呼ばれる小分子を用いて、正しいアミノ酸をリボソームに送達する。各tRNAは、70-80個のヌクレオチドで構成され、分子内のヌクレオチド間で水素結合が形成されるため、特徴的なクローバー葉構造をとる。tRNAは約60種類あり、それぞれのtRNAはmRNA分子内の3つのヌクレオチドからなる特定の配列([[コドン]]と呼ばれる)に結合し、特定のアミノ酸を送達する<ref name="Cooper 2000">{{cite book | vauthors = Cooper GM |title=The cell : a molecular approach |date=2000 |publisher=Sinauer Associates |location=Sunderland (MA) |isbn=9780878931064 |edition= 2nd}}</ref>。 |
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リボソームは、最初にmRNAの[[開始コドン]](AUG)に結合し、分子の翻訳を開始する。mRNAヌクレオチド配列は[[遺伝コード|トリプレット]](三連符)で読まれる。mRNA分子内にある3つの隣接するヌクレオチドが1つのコドンに対応する。各tRNAには、[[アンチコドン]]と呼ばれる3つのヌクレオチド配列が露出しており、これはmRNA内に存在する特定のコドンと相補的になっている。たとえば、最初に出会うコドンは、ヌクレオチドAUGから構成される開始コドンである。アンチコドン(相補的な3ヌクレオチドの配列UAC)を持つ正しいtRNAが、リボソームを使用してmRNAに結合する。このtRNAは、mRNAコドンに対応する正しいアミノ酸を送達する。開始コドンの場合、これはアミノ酸[[メチオニン]]である。次のコドン(開始コドンに隣接)は、相補的なアンチコドンを持つ正しいtRNAと結合して、次のアミノ酸をリボソームに送達する。さらにリボソームは、その{{仮リンク|ペプチジルトランスフェラーゼ|en|Peptidyl transferase}}酵素活性を利用して、隣接する2つのアミノ酸の間に共有ペプチド結合の形成を触媒する<ref name="Toole2015" />。 |
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次に、リボソームはmRNA分子に沿って3番目のコドンに移動する。リボソームはその後、最初のtRNA分子を放出する。これは、1つのリボソームが一度にまとめるられるtRNA分子は2つに限られるためである。3番目のコドンに相補的な正しいアンチコドンを持った次のtRNAが選択され、次のアミノ酸がリボソームに送達され、成長するポリペプチド鎖に共有結合される。このプロセスは、リボソームがmRNA分子に沿って移動しながら続き、毎秒最大15個のアミノ酸をポリペプチド鎖に付加する。最初のリボソームの背後には、最大50個のリボソームがmRNA分子に結合して[[ポリソーム]]を形成し、これにより複数の同一ポリペプチド鎖を同時に合成することが可能になる<ref name="Toole2015" />。リボソームがmRNA分子内の終止コドン(UAA、UAG、またはUGA)に遭遇すると、成長中のポリペプチド鎖が終結する。このとき、tRNAは終結を認識することができず、{{仮リンク|終結因子|en|Release factor}}によって完全なポリペプチド鎖がリボソームから放出される<ref name="Cooper 2000" />。インド出身の科学者、[[ハー・ゴビンド・コラナ]]博士は、約20アミノ酸のRNA配列を解読した{{Citation needed|date=January 2021|reason=List exact rather than approximate number and provide source.}}。1968年、彼はその業績により、他の2人の科学者とともに[[ノーベル賞]]を受賞した。 |
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== タンパク質フォールディング == |
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{{Main|タンパク質フォールディング}}[[File:Protein folding figure.png|300px|thumb|alt=three individual polypeptide chains at different levels of folding and a cluster of chains| ポリペプチド鎖が最初の一次構造から四次構造へと折りたたまれていく過程を示している。]] |
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ポリペプチド鎖の合成が完了すると、ポリペプチド鎖は折りたたまれて、タンパク質が機能を発揮できるような特定の構造をとる。[[タンパク質構造|タンパク質の構造]]の基本的な形は[[一次構造]]と呼ばれ、これは単にポリペプチド鎖、つまり共有結合したアミノ酸の配列である。タンパク質の一次構造は、遺伝子によってコード化されている。したがって、遺伝子の配列を変更すると、タンパク質の一次構造とそれに続くすべてのレベルのタンパク質の構造が変化し、最終的には全体の構造と機能が変化する可能性がある。 |
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次に、タンパク質の一次構造(ポリペプチド鎖)は折りたたまれたり巻きついたりして、タンパク質の二次構造を形成することができる。最も一般的な種類の二次構造は、[[αヘリックス]]や[[βシート]]と呼ばれるもので、これらはポリペプチド鎖の中で形成される水素結合による小さな構造である。次に、この二次構造が折り重なって、タンパク質の三次構造を形成する。三次構造は、タンパク質の全体的な立体構造で、さまざまな二次構造が折り重なってできている。三次構造では、タンパク質の重要な特徴、たとえば活性部位が折りたたまれて形成され、タンパク質の機能が発揮されるようになる。タンパク質によっては、最終的に、より複雑な[[四次構造]]をとる場合もある。ほとんどのタンパク質は単一のポリペプチド鎖からできているが、一部のタンパク質は複数のポリペプチド鎖([[タンパク質サブユニット|サブユニット]]と呼ばれる)から構成され、これらのポリペプチド鎖が折りたたまれて相互作用して四次構造を形成する。したがって、そのタンパク質全体は、複数の折りたたまれたポリペプチド鎖のサブユニットからなるマルチサブユニット複合体<!-- multi-subunit complex -->である(例: [[ヘモグロビン]])<ref name="Khan proteins 2020">{{cite web |title=Protein structure: Primary, secondary, tertiary & quatrenary (article) |url=https://www.khanacademy.org/science/biology/macromolecules/proteins-and-amino-acids/a/orders-of-protein-structure |website=Khan Academy |access-date=11 March 2020 |language=en}}</ref>。 |
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== 翻訳後修飾 == |
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{{Main|翻訳後修飾}} |
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タンパク質が成熟して機能的な3次元状態をもった折りたたみが完了しても、必ずしもそれはタンパク質の成熟経路の終わりではない。折りたたまれたタンパク質は、翻訳後修飾を受けてさらにプロセシングされる可能性がある。200種類以上の翻訳後修飾が知られており、これらの修飾によってタンパク質の活性や、他のタンパク質と相互作用する能力、そしてタンパク質が細胞内のどこに存在するか(例:細胞核または細胞質)が変化する<ref name="Duan 2015">{{cite journal | vauthors = Duan G, Walther D | title = The roles of post-translational modifications in the context of protein interaction networks | journal = PLoS Computational Biology | volume = 11 | issue = 2 | pages = e1004049 | date = February 2015 | pmid = 25692714 | pmc = 4333291 | doi = 10.1371/journal.pcbi.1004049 | doi-access = free | bibcode = 2015PLSCB..11E4049D }}</ref>。翻訳後修飾によって、ゲノムにコードされているタンパク質の多様性は2-3[[数量の比較|桁拡大]]する<ref name="Schubert 2015">{{cite journal | vauthors = Schubert M, Walczak MJ, Aebi M, Wider G | title = Posttranslational modifications of intact proteins detected by NMR spectroscopy: application to glycosylation | journal = Angewandte Chemie | volume = 54 | issue = 24 | pages = 7096–7100 | date = June 2015 | pmid = 25924827 | doi = 10.1002/anie.201502093 }}</ref>。 |
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翻訳後修飾には、4つの主要な種類がある<ref name="Wang 2013" />。 |
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* 切断 |
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* 化学基の付加 |
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* 複合分子の付加<!-- Addition of complex molecules --> |
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* 分子内結合の形成 |
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=== 切断 === |
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[[File:Post-translational modification by cleavage.png|400px|thumb|alt= Two polypeptide chain, one chain is intact with three arrows indicating sites of protease cleavage on the chain and intermolecular disulphide bonds. The second chain is in three pieces connected by disulphide bonds.| プロテアーゼ切断によるタンパク質の翻訳後修飾を示す。ポリペプチド鎖が切断された場合でも、既存の結合は維持することが図示される。]] |
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タンパク質の[[タンパク質分解|切断]]とは、[[プロテアーゼ]]と呼ばれる酵素によって行われる不可逆的な翻訳後修飾である。これらのプロテアーゼは非常に特異的なことが多く、標的タンパク質内の限られた数のペプチド結合を[[加水分解]]する。その結果、短縮されたタンパク質は、ポリペプチド鎖の始点と終点に異なるアミノ酸を持つ変更されたポリペプチド鎖となる。このような翻訳後修飾は、しばしばタンパク質の機能を変化させ、タンパク質は切断によって不活性化または活性化され、新たな[[生物学的活性]]を示すことがある<ref name="Ciechanover 2005">{{cite journal | vauthors = Ciechanover A | title = Proteolysis: from the lysosome to ubiquitin and the proteasome | journal = Nature Reviews. Molecular Cell Biology | volume = 6 | issue = 1 | pages = 79–87 | date = January 2005 | pmid = 15688069 | doi = 10.1038/nrm1552 | s2cid = 8953615 }}</ref>。 |
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=== 化学基の付加 === |
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[[File:Post-translational modification through the addition of small chemical groups.png|400px|thumb|alt= Three polypeptide chains with one amino acid side chain showing, two have a lysine and one has a serine. Three arrows indicating different post-translational modifications with the new chemical group added to each side chain. The first is methylation then acetylation followed by phosphorylation.| メチル化、アセチル化、およびリン酸化によるタンパク質の翻訳後修飾を示す。]] |
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翻訳された後、成熟したタンパク質構造内のアミノ酸に小さな化学基を付加することができる<ref name="Brenner 2001">{{cite book | vauthors = Brenner S, Miller JH |title=Encyclopedia of genetics |date=2001 |publisher=Elsevier Science Inc |isbn=978-0-12-227080-2 |pages=2800}}</ref>。標的タンパク質に化学基を付加するプロセスの例には、メチル化、[[アセチル化]]、および[[リン酸化]]{{Enlink|Protein phosphorylation|英語版|en}}がある。 |
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メチル化とは、[[メチル基]]をアミノ酸に可逆的に付加することで、[[メチルトランスフェラーゼ]](メチル基転移酵素)によって触媒される。メチル化は、20種類の一般的なアミノ酸のうち少なくとも9種類で起こり、主に[[リシン]]と[[アルギニン]]で起こる。一般的にメチル化されるタンパク質の一例として[[ヒストン]]がある。ヒストンは細胞核に存在するタンパク質である。DNAはヒストンの周囲にしっかりと巻きついて、他のタンパク質や、DNAのマイナス電荷とヒストンのプラス電荷の相互作用によって所定の位置に固定される。ヒストンタンパク質上の{{仮リンク|ヒストンのメチル化|en|Histone methylation|label=アミノ酸メチル化}}の高度に特異的なパターンは、DNAのどの領域がきつく巻かれて転写されないか、どの領域がゆるく巻かれて転写されるかを決定するために使用される<ref name="Murn 2017">{{cite journal | vauthors = Murn J, Shi Y | title = The winding path of protein methylation research: milestones and new frontiers | journal = Nature Reviews. Molecular Cell Biology | volume = 18 | issue = 8 | pages = 517–527 | date = August 2017 | pmid = 28512349 | doi = 10.1038/nrm.2017.35 | s2cid = 3917753 }}</ref>。 |
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ヒストンによるDNA転写の制御は、アセチル化によっても変化する。アセチル化とは、{{仮リンク|アセチルトランスフェラーゼ|en|Acetyltransferase}}酵素によって、リシン系アミノ酸に[[アセチル基]]が可逆的に共有結合で付加されることである。アセチル基は、[[アセチル補酵素A]](アセチルCoA)と呼ばれる供与体分子から除去され、標的タンパク質に転移する<ref name="Drazic 2016">{{cite journal | vauthors = Drazic A, Myklebust LM, Ree R, Arnesen T | title = The world of protein acetylation | journal = Biochimica et Biophysica Acta | volume = 1864 | issue = 10 | pages = 1372–1401 | date = October 2016 | pmid = 27296530 | doi = 10.1016/j.bbapap.2016.06.007 | doi-access = free }}</ref>。ヒストンは、{{仮リンク|ヒストンアセチルトランスフェラーゼ|en|Histone acetyltransferase}}と呼ばれる酵素によって、リシン残基が{{仮リンク|ヒストンのアセチル化と脱アセチル化|en|Histone acetylation and deacetylation|label=アセチル化}}される。アセチル化の効果は、ヒストンとDNAの間の電荷相互作用を弱めることで、それによってDNA中のより多くの遺伝子が転写できるようになる<ref name="Bannister 2011">{{cite journal | vauthors = Bannister AJ, Kouzarides T | title = Regulation of chromatin by histone modifications | journal = Cell Research | volume = 21 | issue = 3 | pages = 381–395 | date = March 2011 | pmid = 21321607 | pmc = 3193420 | doi = 10.1038/cr.2011.22 | doi-access = free }}</ref>。 |
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一般的な翻訳後の化学基修飾の最後はリン酸化である。リン酸化とは、タンパク質内の特定のアミノ酸([[セリン]]、[[スレオニン]]、[[チロシン]])に、[[リン酸基]]を可逆的に共有結合で付加することである。リン酸基は、[[プロテインキナーゼ]]によって供与体分子の[[アデノシン三リン酸]](ATP)から除去され、標的アミノ酸の[[ヒドロキシ基]]に転移し、副産物として[[アデノシン二リン酸]]が生成される。このプロセスを逆にして、[[プロテインホスファターゼ]]酵素によってリン酸基を除去することができる。リン酸化は、リン酸化タンパク質上に結合部位を作成し、他のタンパク質と相互作用して、巨大な多タンパク質複合体の生成を可能にする。あるいは、リン酸化によってタンパク質の基質結合能力が変化し、タンパク質の活性レベルを変えることができる<ref name="Alberts 2015" />。 |
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=== 複合分子の追加 === |
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[[File:Glycosylation of a polypeptide.png|400px|thumb|alt=Two polypeptide chains, one with an asparagine side chain exposed and a polysaccharide attached to the nitrogen atom within asparagine. The other polypeptide has a serine side chain exposed and the core of a polysaccharide attached to the oxygen atom within serine.| N-結合型グリコシル化とO-結合型グリコシル化によるポリペプチド鎖の構造の違いを示す。]] |
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翻訳後修飾では、より複雑で大きな分子を折りたたまれたタンパク質構造に組み込むことができる。その代表的な一例は、多糖分子を付加する[[グリコシル化]]である。これは、翻訳後修飾の中でも最も一般的なものと広く考えられている<ref name="Schubert 2015" />。 |
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グリコシル化とは、[[多糖]]分子([[糖鎖|糖鎖またはグリカン]]として知られる)が[[グリコシルトランスフェラーゼ]](糖転移酵素)によって標的タンパク質に共有結合的に付加されることを言い、[[小胞体]]内や[[ゴルジ装置]]内の[[グリコシダーゼ]]によって修飾される。グリコシル化は、標的タンパク質の最終的な折りたたまれた立体構造を決定する上で重要な役割を果たすことがある。場合によっては、正しい[[タンパク質フォールディング|フォールディング]](折りたたみ)のためにグリコシル化が必要なこともある。N-結合型グリコシル化は、[[溶解度]]を高めることでタンパク質のフォールディングを促進し、[[タンパク質シャペロン]]との結合を仲介する。シャペロンとは、他のタンパク質の折りたたみや構造維持を担うタンパク質である<ref name="Alberts 2015" />。 |
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グリコシル化には大きく分けて、[[N-結合型グリコシル化]]と[[O-結合型グリコシル化]]の2種類がある。N-結合型グリコシル化は、小胞体内で前駆体糖鎖が付加されることで始まる。前駆体糖鎖はゴルジ装置で修飾され、[[アスパラギン]]アミノ酸の窒素に共有結合した複雑な糖鎖結合を生成する。他方、O-結合型グリコシル化は、成熟したタンパク質構造内のアミノ酸であるセリンとスレオニン上の酸素に対して、いくつかの[[単糖]]が共有結合で付加する<ref name="Alberts 2015" />。 |
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=== 共有結合の形成 === |
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[[File:Formation of disulphide covalent bonds.png|400px|thumb|alt=Formation of a disulfide bond between two cysteine amino acids within a single polypeptide chain and formation of a disulphide bond between two cysteine amino acids on different polypeptide chains, thereby joining the two chains.|翻訳後修飾としてのジスルフィド共有結合の形成を示している。ジスルフィド結合は、(左)単一のポリペプチド鎖内で形成される場合と、(右)複数のサブユニットからなるタンパク質複合体内でポリペプチド鎖間で形成される場合がある。]] |
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細胞内で産生されたタンパク質の多くは細胞外に分泌され、細胞外タンパク質として機能する。細胞外タンパク質は、さまざまな条件にさらされる。タンパク質の立体構造を安定化させるために、タンパク質内で共有結合が形成されたり、あるいは四次構造内の異なるポリペプチド鎖間で共有結合が形成される。最も一般的な種類は、[[ジスルフィド結合]](ジスルフィド架橋と呼ばれる)である。ジスルフィド結合は、硫黄原子を含む側鎖の化学基を用いて2つの[[システイン]]アミノ酸の間に形成される。これらの化学基は[[チオール基|チオール官能基]]として知られている。ジスルフィド結合は、[[タンパク質構造|タンパク質の既存の構造]]を安定させる働きがある。ジスルフィド結合は、2つのチオール基の間の[[酸化還元反応|酸化]]反応で形成されるため、反応するには酸化性環境が必要である。そのため、ジスルフィド結合は通常、小胞体内の酸化性環境下において、[[プロテインジスルフィドイソメラーゼ]]と呼ばれる酵素の触媒作用によって形成される。細胞質内は還元性環境であるためジスルフィド結合はほとんど形成されない<ref name="Alberts 2015" />。 |
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== 疾患におけるタンパク質生合成の作用 == |
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多くの疾患は遺伝子の変異によって引き起こされる。これはDNAヌクレオチド配列とコード化タンパク質のアミノ酸配列とが直接関係しているためである。タンパク質の一次構造に変化が生じると、タンパク質が誤って折りたたまれたり、機能不全を引き起こす可能性がある。[[鎌状赤血球症]]を含む複数の疾患の原因として、単一遺伝子内の変異が特定されており、[[単一遺伝子疾患]]と呼ばれている。 |
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=== 鎌状赤血球症 === |
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[[File:Sickle Cell Anaemia red blood cells in blood vessels.png|450px|thumb|alt=two blood curved vessels are shown, on the left one blood vessel contain normal red blood cells throughout the vessel. On the right, the red blood cells have a dish shape due to being sickled, a blockage composed of these distorted red blood cells is present at the curve in the blood vessel.| 健康な人と鎌状赤血球貧血の患者との間で、赤血球の形や血管内の血流の違いを比較した図。]] |
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鎌状赤血球症は、[[赤血球]]の中で酸素を輸送する役割を担うタンパク質である[[ヘモグロビン]]のサブユニットに変異が生じることで発症する疾患群である。鎌状赤血球症の中でも最も危険なものは鎌状赤血球貧血として知られている。鎌状赤血球貧血は、最も一般的な[[遺伝子疾患|ホモ接合型劣性単一遺伝子疾患]]であり、この病気に苦しむ患者は、罹患した遺伝子の両方のコピー(両親から受け継いだもの)に変異がなければならない。ヘモグロビンは複雑な四次構造を持ち、αサブユニット2個とβサブユニット2個の、計4個のポリペプチドサブユニットから構成されている<ref name="Steinberg 2016">{{cite journal | vauthors = Habara A, Steinberg MH | title = Minireview: Genetic basis of heterogeneity and severity in sickle cell disease | journal = Experimental Biology and Medicine | volume = 241 | issue = 7 | pages = 689–696 | date = April 2016 | pmid = 26936084 | pmc = 4950383 | doi = 10.1177/1535370216636726 }}</ref>。鎌状赤血球貧血の患者は、ヘモグロビンβサブユニットのポリペプチド鎖をコードする遺伝子に[[ミスセンス変異]]または[[点突然変異|置換変異]]がある。ミスセンス変異とは、ヌクレオチド変異により、全体的なコドントリプレットが変化し、異なるアミノ酸が新しいコドンと対になることを意味する。鎌状赤血球貧血の場合、最も一般的なミスセンス変異は、ヘモグロビンβサブユニット遺伝子のチミンからアデニンへの一塩基変異である<ref name="StatPearls 2020">{{cite journal | vauthors = | title = Sickle Cell Anemia | date = 2020 | pmid = 29489205 | url = https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482164/ | website = StatPearls | publisher = StatPearls Publishing | access-date = 12 March 2020 }}</ref>。これにより、コドン6がアミノ酸の[[グルタミン酸]]のコードから、[[バリン]]のコードへと変化する<ref name="Steinberg 2016" />。 |
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このようなヘモグロビンβサブユニットのポリペプチド鎖内の一次構造の変化は、低酸素状態におけるヘモグロビンマルチサブユニット複合体の機能を変化させる。赤血球が体内の組織に酸素を放出すると、変異したヘモグロビンタンパク質は赤血球内でくっつき初め、半固体構造を形成する。これにより、赤血球の形状が歪み、特徴的な「鎌状」の形になり、細胞の柔軟性が低下する。この硬くて歪んだ赤血球は、血管内に蓄積して閉塞を引き起こすことがある。その閉塞は組織への[[血流]]を妨げ、[[壊死|組織が死滅]]して患者に大きな苦痛をもたらすことがある<ref name="Ilesanmi 2010">{{cite journal | vauthors = Ilesanmi OO | title = Pathological basis of symptoms and crises in sickle cell disorder: implications for counseling and psychotherapy | journal = Hematology Reports | volume = 2 | issue = 1 | pages = e2 | date = January 2010 | pmid = 22184515 | pmc = 3222266 | doi = 10.4081/hr.2010.e2 | doi-access = free }}</ref>。 |
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=== 癌 === |
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[[File:Cancer requires multiple mutations from NIHen.png|thumb|300x300px|[[サプレッサ突然変異|サプレッサー遺伝子の機能不全]]による癌遺伝子の形成。]] |
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[[悪性腫瘍|癌(がん)]]は、遺伝子の変異とタンパク質の不適当な翻訳の結果として形成される。癌細胞は異常に増殖するだけでなく、抗[[アポトーシス]]性あるいはアポトーシス促進性の遺伝子またはタンパク質の[[遺伝子発現|発現]]を抑制する。ほとんどの癌細胞では、細胞内でオン/オフの[[シグナル伝達|シグナル伝達物質]]として機能するシグナル伝達タンパク質[[Rasタンパク質|Ras]]に変異が見られる。癌細胞の中では、Rasタンパク質は持続的に活性化し、何の調節もないために細胞の増殖が促進される<ref name=":0">{{Cite web|title=Cell Division, Cancer {{!}} Learn Science at Scitable|url=https://www.nature.com/scitable/topicpage/cell-division-and-cancer-14046590/|access-date=2021-11-30|website=www.nature.com|language=en}}</ref>。さらに、ほとんどの癌細胞は、損傷した遺伝子のゲートキーパー(守護者)として働き悪性細胞の[[アポトーシス]]を開始する[[P53遺伝子|調節遺伝子p53]]の変異コピーを2つ持っている。正常なp53が存在しない場合、その細胞はアポトーシスを誘導することも、他の細胞に破壊を促すシグナルを送ることもできない<ref>{{Cite web|title=p53, Cancer {{!}} Learn Science at Scitable|url=https://www.nature.com/scitable/topicpage/p53-the-most-frequently-altered-gene-in-14192717/|access-date=2021-11-30|website=www.nature.com|language=en}}</ref>。 |
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腫瘍細胞が増殖すると、1つの部位に留まって[[良性腫瘍|良性]]と呼ばれるか、または[[悪性腫瘍|悪性]]細胞となって体の他の部位に移動する。多くの場合、この悪性細胞は、組織の[[細胞外マトリックス]]を分解するプロテアーゼを分泌する。これにより、癌は「[[転移 (医学)|転移]]」と呼ばれる末期段階に入り、細胞が血流や[[リンパ系]]に入って体内の新たな部位に移動する<ref name=":0" />。 |
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== 参照項目 == |
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*[[セントラルドグマ]] - 遺伝情報がDNAからmRNAを経てタンパク質に伝達されるという分子生物学の概念 |
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*[[コドン]] - DNA上の塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列とを対応付ける3個1組の塩基配列 |
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*[[遺伝子発現]] - 遺伝子の情報をもとにタンパク質やRNAが合成される過程 |
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*[[アミノ酸合成]] - 生物学的経路(代謝経路)におけるアミノ酸合成過程 |
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== 脚注 == |
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{{Reflist}} |
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== 推薦図書 == |
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* {{Cite book|和書|title=細胞の分子生物学 第6版|url=https://www.worldcat.org/oclc/1022211448|publisher=ニュートンプレス|date=2017|isbn=978-4-315-52062-0|oclc=1022211448|others=Bruce Alberts, Alexander D. Johnson, Julian Lewis, David Owen Morgan, Martin C. Raff, K. Roberts}} |
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== 外部リンク == |
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* [https://www.youtube.com/watch?v=gG7uCskUOrA A useful video visualising the process of converting DNA to protein via transcription and translation] |
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* [https://www.youtube.com/watch?v=hok2hyED9go Video visualising the process of protein folding from the non-functional primary structure to a mature, folded 3D protein structure with reference to the role of mutations and protein mis-folding in disease] |
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* [https://www.youtube.com/watch?v=K2bGjTaNsnM A more advanced video detailing the different types of post-translational modifications and their chemical structures] |
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{{Protein primary structure}} |
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{{一次構造}} |
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{{Gene expression}} |
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{{タンパク質代謝}} |
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[[Category:タンパク質生合成|*]] |
[[Category:タンパク質生合成|*]] |
2022年3月11日 (金) 21:01時点における版
タンパク質生合成(たんぱくしつせいごうせい、英: protein biosynthesis)は、タンパク質合成(英: protein synthesis)とも呼ばれ、細胞内で行われる中心的な生物学的プロセスであり、新しいタンパク質の生成を通じて細胞内タンパク質の消失(分解や輸送)とのバランスを維持する。タンパク質は、酵素、構造タンパク質、またはホルモンとして、多くの重要な機能を果たしている。原核生物と真核生物の両方で、タンパク質生合成は非常によく似たプロセスであるが、いくつかの明確な違いがある[1]。
タンパク質生合成は、転写と翻訳の2つの段階に大きく分けられる。転写の際、タンパク質をコード(符号化)するDNA(遺伝子として知られる)の一部が、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる鋳型分子に変換される。この変換は、細胞の核内でRNAポリメラーゼと呼ばれる酵素によって行われる[2]。真核生物では、このmRNAは最初は未成熟な形(pre-mRNA)で作られ、転写後修飾を受けて成熟mRNAが生成される。成熟mRNAは、細胞核から核膜孔を通って細胞質へと運ばれ、翻訳が行われる。翻訳の際、mRNAはリボソームによって読み取られ、リボソームはmRNAのヌクレオチド配列を使用してアミノ酸の配列を決定する。リボソームは、コード化されたアミノ酸間の共有ペプチド結合の形成を触媒して、ポリペプチド鎖を形成する。
翻訳されたポリペプチド鎖は、機能性タンパク質を形成するために、適切に折りたたまれなければならない。たとえば酵素として機能する場合、ポリペプチド鎖が正しく折りたたまれて機能的な活性部位を形成する必要がある。そのポリペプチド鎖が機能的な三次元(3D)形状をとるためには、まず二次構造と呼ばれる一連の小さな基礎構造を形成しなければならない。次に、これらの二次構造のポリペプチド鎖が折り重なって、全体の三次元的な三次構造が形成される。正しく折りたたまれると、タンパク質はさまざまな翻訳後修飾を受けてさらに成熟する。翻訳後修飾は、タンパク質の機能、細胞内での位置(細胞質や核など)、他のタンパク質と相互作用する能力を変化させる[3]。
タンパク質生合成は、疾患において重要な役割を果たしており、DNAの変異やタンパク質のミスフォールディング(誤った折りたたみ)など、このプロセスの変化や誤りが疾患の根本的な原因となることが多い。DNA変異は、後続するmRNA配列を変化させ、それからmRNAにコード化されたアミノ酸の配列を変化させる。変異によって翻訳を早期終了させるストップシークエンスが生成することで、ポリペプチド鎖が短くなることがある。あるいはまた、mRNA配列が変異することにより、ポリペプチド鎖のその位置にコードされている特定のアミノ酸が変化する。このアミノ酸の変化は、タンパク質が機能を果たしたり正しく折りたたまれる能力に影響を及ぼすことがある[4]。誤って折りたたまれたタンパク質は、互いにくっついて高密度のタンパク質凝集塊を形成する傾向があるため、しばしば疾患に関与している。このような凝集塊は、アルツハイマー病やパーキンソン病など、多くの場合は神経学的な、さまざまな疾患に関連している[5]。
転写
転写とは、DNAを鋳型としてmRNAを生成することで、細胞の核内で行われる。真核生物では、このmRNA分子はpre-mRNAと呼ばれ、核内で転写後修飾を受けて成熟mRNA分子となる。ただし、原核生物では転写後修飾は必要ではなく、転写によって直接に成熟mRNA分子が生成される[1]。
最初にヘリカーゼと呼ばれる酵素がDNA分子に作用する。DNAは、2本の相補的なポリヌクレオチド鎖から構成される逆平行の二重らせん構造を持っており、塩基対間の水素結合によって結びついている。ヘリカーゼがこの水素結合を切断すると、遺伝子に相当するDNAの領域がほどけて2本のDNA鎖が分離し、一連の塩基が露出する。DNAは二本鎖分子であるにもかかわらず、片方の鎖のみがpre-mRNA合成の鋳型として機能する - この鎖は鋳型鎖(テンプレート鎖)と呼ばれる。もう一方のDNA鎖(鋳型鎖と相補的である)はコード鎖と呼ばれる[6]。
DNAとRNAはどちらも固有の方向性を持っている。つまり、分子の両端は別個である。この方向性の特性は、基礎となるヌクレオチドサブユニットの非対称性によるもので、五炭糖の片側にリン酸基が、もう片側に塩基が存在する。五炭糖の5つの炭素には、1'('はプライムを意味する)から5'までの番号が付けられている。したがって、ヌクレオチドをつなぐホスホジエステル結合は、あるヌクレオチドの3'炭素上のヒドロキシ基と別のヌクレオチドの5'炭素上のリン酸基が結合することで形成される。ゆえに、コードDNA鎖は5'から3'の方向に走り、相補的な鋳型DNA鎖は3'から5'の逆方向に走ることになる[1]。
RNAポリメラーゼ酵素は、露出した鋳型鎖に結合し、3'から5'の方向に遺伝子を読み取る。同時に、RNAポリメラーゼは、鋳型鎖と相補的な塩基対を形成することができる活性化ヌクレオチド(核内に遊離している)間でホスホジエステル結合の形成を触媒することにより、5'から3'の方向にpre-mRNAの一本鎖を合成する。移動するRNAポリメラーゼの背後では、DNAの2本の鎖が再結合するので、一度に露出するDNAの塩基対は12個のみである[6]。RNAポリメラーゼは、毎秒20ヌクレオチドの速度でpre-mRNA分子を構築するので、同じ遺伝子から1時間あたり数千のpre-mRNA分子を作り出すことができる。このように合成速度が速いにもかかわらず、RNAポリメラーゼ酵素には独自の校正機構が備わっている。RNAポリメラーゼの校正機構は切除反応によるもので、成長中のpre-mRNA分子から誤ったヌクレオチド(鋳型DNA鎖と相補的でないもの)を除去することができる[1]。RNAポリメラーゼが転写を終了する特定のDNA配列に到達すると、RNAポリメラーゼが切り離され、pre-mRNAの合成が完了する[6]。
合成されたpre-mRNA分子は、鋳型DNA鎖と相補的であり、コードDNA鎖と同じヌクレオチド配列を持っている。ただし、DNA分子とmRNA分子のヌクレオチド組成には1つの決定的な違いがある。DNAは、グアニン、シトシン、アデニン、チミンの4種類の塩基(G、C、A、T)で構成されている。RNAもグアニン、シトシン、アデニン、ウラシルの4種類の塩基で構成されている。RNA分子では、DNA塩基のチミンの代わりに、アデニンと塩基対を形成することができるウラシル(U)が用いられている。したがって、pre-mRNA分子では、コードDNA鎖のチミンとなる相補的塩基がすべてウラシルに置き換えられる[7]。
転写後修飾
転写が完了すると、pre-mRNA分子は転写後修飾を受け、成熟mRNA分子になる。
転写後修飾には、次の3つの重要なステップがある。
- pre-mRNA分子の5'末端に5'キャップを付加
- pre-mRNA分子の3'末端に3'ポリ(A)テールを付加
- RNAスプライシングによるイントロンの除去
5'キャップは、pre-mRNA分子の5'末端に付加され、メチル化によって修飾されたグアニンヌクレオチドで構成されている。5'キャップの目的は、翻訳前の成熟mRNA分子の分解を防ぐことである。また、キャップは、リボソームがmRNAに結合して翻訳を開始するのを助け[8]、mRNAを細胞内の他のRNAと区別できるようにする[1]。一方、3'ポリ(A)テールは、mRNA分子の3'末端に付加され、100-200個のアデニン塩基で構成されている[8]。このような異なるmRNA修飾によって、5'キャップと3'テールの両方が存在する場合、細胞は完全なmRNAメッセージが無傷であることを検出できる[1]。
次に、この修飾されたpre-mRNA分子は、RNAスプライシングのプロセスを経る。遺伝子は一連のイントロンとエクソンから構成され、イントロンはタンパク質をコードしないヌクレオチド配列であり、エクソンはタンパク質を直接コードするヌクレオチド配列である。イントロンとエクソンは、基礎となるDNA配列とpre-mRNA分子の両方に存在するため、タンパク質をコードする成熟mRNA分子を生成するためにはスプライシングが必要となる[6]。スプライシングの際には、スプライセオソームと呼ばれる多タンパク質複合体(150以上のタンパク質とRNAで構成される)によって、介在性のイントロンがpre-mRNA分子から除去される[9]。その後、この成熟mRNA分子は、細胞核の外側にある核膜孔を通って細胞質へと輸送される。
翻訳
翻訳の際、リボソームはmRNA鋳型分子からポリペプチド鎖を合成する。真核生物では、翻訳は細胞の細胞質内で起こり、そこではリボソームが自在に遊離しているか小胞体に付着している。核細胞を持たない原核生物では、転写と翻訳の両プロセスが細胞質内で行われる[10]。
リボソームは、タンパク質とリボソームRNAの複合体からなる複雑な分子機械で、mRNA分子を取り囲むように2つのサブユニット(大サブユニットと小サブユニット)に分かれて配置されている。リボソームは、mRNA分子を5'-3'方向に読み進め、それを鋳型として用いて、ポリペプチド鎖のアミノ酸の種類と順番を決定する[11]。mRNA分子を翻訳するために、リボソームはトランスファーRNA(tRNA、転移RNA)と呼ばれる小分子を用いて、正しいアミノ酸をリボソームに送達する。各tRNAは、70-80個のヌクレオチドで構成され、分子内のヌクレオチド間で水素結合が形成されるため、特徴的なクローバー葉構造をとる。tRNAは約60種類あり、それぞれのtRNAはmRNA分子内の3つのヌクレオチドからなる特定の配列(コドンと呼ばれる)に結合し、特定のアミノ酸を送達する[12]。
リボソームは、最初にmRNAの開始コドン(AUG)に結合し、分子の翻訳を開始する。mRNAヌクレオチド配列はトリプレット(三連符)で読まれる。mRNA分子内にある3つの隣接するヌクレオチドが1つのコドンに対応する。各tRNAには、アンチコドンと呼ばれる3つのヌクレオチド配列が露出しており、これはmRNA内に存在する特定のコドンと相補的になっている。たとえば、最初に出会うコドンは、ヌクレオチドAUGから構成される開始コドンである。アンチコドン(相補的な3ヌクレオチドの配列UAC)を持つ正しいtRNAが、リボソームを使用してmRNAに結合する。このtRNAは、mRNAコドンに対応する正しいアミノ酸を送達する。開始コドンの場合、これはアミノ酸メチオニンである。次のコドン(開始コドンに隣接)は、相補的なアンチコドンを持つ正しいtRNAと結合して、次のアミノ酸をリボソームに送達する。さらにリボソームは、そのペプチジルトランスフェラーゼ酵素活性を利用して、隣接する2つのアミノ酸の間に共有ペプチド結合の形成を触媒する[6]。
次に、リボソームはmRNA分子に沿って3番目のコドンに移動する。リボソームはその後、最初のtRNA分子を放出する。これは、1つのリボソームが一度にまとめるられるtRNA分子は2つに限られるためである。3番目のコドンに相補的な正しいアンチコドンを持った次のtRNAが選択され、次のアミノ酸がリボソームに送達され、成長するポリペプチド鎖に共有結合される。このプロセスは、リボソームがmRNA分子に沿って移動しながら続き、毎秒最大15個のアミノ酸をポリペプチド鎖に付加する。最初のリボソームの背後には、最大50個のリボソームがmRNA分子に結合してポリソームを形成し、これにより複数の同一ポリペプチド鎖を同時に合成することが可能になる[6]。リボソームがmRNA分子内の終止コドン(UAA、UAG、またはUGA)に遭遇すると、成長中のポリペプチド鎖が終結する。このとき、tRNAは終結を認識することができず、終結因子によって完全なポリペプチド鎖がリボソームから放出される[12]。インド出身の科学者、ハー・ゴビンド・コラナ博士は、約20アミノ酸のRNA配列を解読した[要出典]。1968年、彼はその業績により、他の2人の科学者とともにノーベル賞を受賞した。
タンパク質フォールディング
ポリペプチド鎖の合成が完了すると、ポリペプチド鎖は折りたたまれて、タンパク質が機能を発揮できるような特定の構造をとる。タンパク質の構造の基本的な形は一次構造と呼ばれ、これは単にポリペプチド鎖、つまり共有結合したアミノ酸の配列である。タンパク質の一次構造は、遺伝子によってコード化されている。したがって、遺伝子の配列を変更すると、タンパク質の一次構造とそれに続くすべてのレベルのタンパク質の構造が変化し、最終的には全体の構造と機能が変化する可能性がある。
次に、タンパク質の一次構造(ポリペプチド鎖)は折りたたまれたり巻きついたりして、タンパク質の二次構造を形成することができる。最も一般的な種類の二次構造は、αヘリックスやβシートと呼ばれるもので、これらはポリペプチド鎖の中で形成される水素結合による小さな構造である。次に、この二次構造が折り重なって、タンパク質の三次構造を形成する。三次構造は、タンパク質の全体的な立体構造で、さまざまな二次構造が折り重なってできている。三次構造では、タンパク質の重要な特徴、たとえば活性部位が折りたたまれて形成され、タンパク質の機能が発揮されるようになる。タンパク質によっては、最終的に、より複雑な四次構造をとる場合もある。ほとんどのタンパク質は単一のポリペプチド鎖からできているが、一部のタンパク質は複数のポリペプチド鎖(サブユニットと呼ばれる)から構成され、これらのポリペプチド鎖が折りたたまれて相互作用して四次構造を形成する。したがって、そのタンパク質全体は、複数の折りたたまれたポリペプチド鎖のサブユニットからなるマルチサブユニット複合体である(例: ヘモグロビン)[13]。
翻訳後修飾
タンパク質が成熟して機能的な3次元状態をもった折りたたみが完了しても、必ずしもそれはタンパク質の成熟経路の終わりではない。折りたたまれたタンパク質は、翻訳後修飾を受けてさらにプロセシングされる可能性がある。200種類以上の翻訳後修飾が知られており、これらの修飾によってタンパク質の活性や、他のタンパク質と相互作用する能力、そしてタンパク質が細胞内のどこに存在するか(例:細胞核または細胞質)が変化する[14]。翻訳後修飾によって、ゲノムにコードされているタンパク質の多様性は2-3桁拡大する[15]。
翻訳後修飾には、4つの主要な種類がある[3]。
- 切断
- 化学基の付加
- 複合分子の付加
- 分子内結合の形成
切断
タンパク質の切断とは、プロテアーゼと呼ばれる酵素によって行われる不可逆的な翻訳後修飾である。これらのプロテアーゼは非常に特異的なことが多く、標的タンパク質内の限られた数のペプチド結合を加水分解する。その結果、短縮されたタンパク質は、ポリペプチド鎖の始点と終点に異なるアミノ酸を持つ変更されたポリペプチド鎖となる。このような翻訳後修飾は、しばしばタンパク質の機能を変化させ、タンパク質は切断によって不活性化または活性化され、新たな生物学的活性を示すことがある[16]。
化学基の付加
翻訳された後、成熟したタンパク質構造内のアミノ酸に小さな化学基を付加することができる[17]。標的タンパク質に化学基を付加するプロセスの例には、メチル化、アセチル化、およびリン酸化 (en:英語版) がある。
メチル化とは、メチル基をアミノ酸に可逆的に付加することで、メチルトランスフェラーゼ(メチル基転移酵素)によって触媒される。メチル化は、20種類の一般的なアミノ酸のうち少なくとも9種類で起こり、主にリシンとアルギニンで起こる。一般的にメチル化されるタンパク質の一例としてヒストンがある。ヒストンは細胞核に存在するタンパク質である。DNAはヒストンの周囲にしっかりと巻きついて、他のタンパク質や、DNAのマイナス電荷とヒストンのプラス電荷の相互作用によって所定の位置に固定される。ヒストンタンパク質上のアミノ酸メチル化の高度に特異的なパターンは、DNAのどの領域がきつく巻かれて転写されないか、どの領域がゆるく巻かれて転写されるかを決定するために使用される[18]。
ヒストンによるDNA転写の制御は、アセチル化によっても変化する。アセチル化とは、アセチルトランスフェラーゼ酵素によって、リシン系アミノ酸にアセチル基が可逆的に共有結合で付加されることである。アセチル基は、アセチル補酵素A(アセチルCoA)と呼ばれる供与体分子から除去され、標的タンパク質に転移する[19]。ヒストンは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素によって、リシン残基がアセチル化される。アセチル化の効果は、ヒストンとDNAの間の電荷相互作用を弱めることで、それによってDNA中のより多くの遺伝子が転写できるようになる[20]。
一般的な翻訳後の化学基修飾の最後はリン酸化である。リン酸化とは、タンパク質内の特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)に、リン酸基を可逆的に共有結合で付加することである。リン酸基は、プロテインキナーゼによって供与体分子のアデノシン三リン酸(ATP)から除去され、標的アミノ酸のヒドロキシ基に転移し、副産物としてアデノシン二リン酸が生成される。このプロセスを逆にして、プロテインホスファターゼ酵素によってリン酸基を除去することができる。リン酸化は、リン酸化タンパク質上に結合部位を作成し、他のタンパク質と相互作用して、巨大な多タンパク質複合体の生成を可能にする。あるいは、リン酸化によってタンパク質の基質結合能力が変化し、タンパク質の活性レベルを変えることができる[1]。
複合分子の追加
翻訳後修飾では、より複雑で大きな分子を折りたたまれたタンパク質構造に組み込むことができる。その代表的な一例は、多糖分子を付加するグリコシル化である。これは、翻訳後修飾の中でも最も一般的なものと広く考えられている[15]。
グリコシル化とは、多糖分子(糖鎖またはグリカンとして知られる)がグリコシルトランスフェラーゼ(糖転移酵素)によって標的タンパク質に共有結合的に付加されることを言い、小胞体内やゴルジ装置内のグリコシダーゼによって修飾される。グリコシル化は、標的タンパク質の最終的な折りたたまれた立体構造を決定する上で重要な役割を果たすことがある。場合によっては、正しいフォールディング(折りたたみ)のためにグリコシル化が必要なこともある。N-結合型グリコシル化は、溶解度を高めることでタンパク質のフォールディングを促進し、タンパク質シャペロンとの結合を仲介する。シャペロンとは、他のタンパク質の折りたたみや構造維持を担うタンパク質である[1]。
グリコシル化には大きく分けて、N-結合型グリコシル化とO-結合型グリコシル化の2種類がある。N-結合型グリコシル化は、小胞体内で前駆体糖鎖が付加されることで始まる。前駆体糖鎖はゴルジ装置で修飾され、アスパラギンアミノ酸の窒素に共有結合した複雑な糖鎖結合を生成する。他方、O-結合型グリコシル化は、成熟したタンパク質構造内のアミノ酸であるセリンとスレオニン上の酸素に対して、いくつかの単糖が共有結合で付加する[1]。
共有結合の形成
細胞内で産生されたタンパク質の多くは細胞外に分泌され、細胞外タンパク質として機能する。細胞外タンパク質は、さまざまな条件にさらされる。タンパク質の立体構造を安定化させるために、タンパク質内で共有結合が形成されたり、あるいは四次構造内の異なるポリペプチド鎖間で共有結合が形成される。最も一般的な種類は、ジスルフィド結合(ジスルフィド架橋と呼ばれる)である。ジスルフィド結合は、硫黄原子を含む側鎖の化学基を用いて2つのシステインアミノ酸の間に形成される。これらの化学基はチオール官能基として知られている。ジスルフィド結合は、タンパク質の既存の構造を安定させる働きがある。ジスルフィド結合は、2つのチオール基の間の酸化反応で形成されるため、反応するには酸化性環境が必要である。そのため、ジスルフィド結合は通常、小胞体内の酸化性環境下において、プロテインジスルフィドイソメラーゼと呼ばれる酵素の触媒作用によって形成される。細胞質内は還元性環境であるためジスルフィド結合はほとんど形成されない[1]。
疾患におけるタンパク質生合成の作用
多くの疾患は遺伝子の変異によって引き起こされる。これはDNAヌクレオチド配列とコード化タンパク質のアミノ酸配列とが直接関係しているためである。タンパク質の一次構造に変化が生じると、タンパク質が誤って折りたたまれたり、機能不全を引き起こす可能性がある。鎌状赤血球症を含む複数の疾患の原因として、単一遺伝子内の変異が特定されており、単一遺伝子疾患と呼ばれている。
鎌状赤血球症
鎌状赤血球症は、赤血球の中で酸素を輸送する役割を担うタンパク質であるヘモグロビンのサブユニットに変異が生じることで発症する疾患群である。鎌状赤血球症の中でも最も危険なものは鎌状赤血球貧血として知られている。鎌状赤血球貧血は、最も一般的なホモ接合型劣性単一遺伝子疾患であり、この病気に苦しむ患者は、罹患した遺伝子の両方のコピー(両親から受け継いだもの)に変異がなければならない。ヘモグロビンは複雑な四次構造を持ち、αサブユニット2個とβサブユニット2個の、計4個のポリペプチドサブユニットから構成されている[21]。鎌状赤血球貧血の患者は、ヘモグロビンβサブユニットのポリペプチド鎖をコードする遺伝子にミスセンス変異または置換変異がある。ミスセンス変異とは、ヌクレオチド変異により、全体的なコドントリプレットが変化し、異なるアミノ酸が新しいコドンと対になることを意味する。鎌状赤血球貧血の場合、最も一般的なミスセンス変異は、ヘモグロビンβサブユニット遺伝子のチミンからアデニンへの一塩基変異である[22]。これにより、コドン6がアミノ酸のグルタミン酸のコードから、バリンのコードへと変化する[21]。
このようなヘモグロビンβサブユニットのポリペプチド鎖内の一次構造の変化は、低酸素状態におけるヘモグロビンマルチサブユニット複合体の機能を変化させる。赤血球が体内の組織に酸素を放出すると、変異したヘモグロビンタンパク質は赤血球内でくっつき初め、半固体構造を形成する。これにより、赤血球の形状が歪み、特徴的な「鎌状」の形になり、細胞の柔軟性が低下する。この硬くて歪んだ赤血球は、血管内に蓄積して閉塞を引き起こすことがある。その閉塞は組織への血流を妨げ、組織が死滅して患者に大きな苦痛をもたらすことがある[23]。
癌
癌(がん)は、遺伝子の変異とタンパク質の不適当な翻訳の結果として形成される。癌細胞は異常に増殖するだけでなく、抗アポトーシス性あるいはアポトーシス促進性の遺伝子またはタンパク質の発現を抑制する。ほとんどの癌細胞では、細胞内でオン/オフのシグナル伝達物質として機能するシグナル伝達タンパク質Rasに変異が見られる。癌細胞の中では、Rasタンパク質は持続的に活性化し、何の調節もないために細胞の増殖が促進される[24]。さらに、ほとんどの癌細胞は、損傷した遺伝子のゲートキーパー(守護者)として働き悪性細胞のアポトーシスを開始する調節遺伝子p53の変異コピーを2つ持っている。正常なp53が存在しない場合、その細胞はアポトーシスを誘導することも、他の細胞に破壊を促すシグナルを送ることもできない[25]。
腫瘍細胞が増殖すると、1つの部位に留まって良性と呼ばれるか、または悪性細胞となって体の他の部位に移動する。多くの場合、この悪性細胞は、組織の細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼを分泌する。これにより、癌は「転移」と呼ばれる末期段階に入り、細胞が血流やリンパ系に入って体内の新たな部位に移動する[24]。
参照項目
- セントラルドグマ - 遺伝情報がDNAからmRNAを経てタンパク質に伝達されるという分子生物学の概念
- コドン - DNA上の塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列とを対応付ける3個1組の塩基配列
- 遺伝子発現 - 遺伝子の情報をもとにタンパク質やRNAが合成される過程
- アミノ酸合成 - 生物学的経路(代謝経路)におけるアミノ酸合成過程
脚注
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推薦図書
- 『細胞の分子生物学 第6版』Bruce Alberts, Alexander D. Johnson, Julian Lewis, David Owen Morgan, Martin C. Raff, K. Roberts、ニュートンプレス、2017年。ISBN 978-4-315-52062-0。OCLC 1022211448 。
外部リンク
- A useful video visualising the process of converting DNA to protein via transcription and translation
- Video visualising the process of protein folding from the non-functional primary structure to a mature, folded 3D protein structure with reference to the role of mutations and protein mis-folding in disease
- A more advanced video detailing the different types of post-translational modifications and their chemical structures